「ワイン一杯で記憶を失うんだ。ミストバーンからも、体が傷むので飲むなと禁じられていた。いまも一滴も口にしないようにしている」
生真面目な友を酒に誘ったらば、そんな理由で断られたのだ。酔ったら一体どうなるのか俄然見たくなるというものだ。
ラーハルトはヒュンケルを自室に招き、どれほど面倒な酔い潰れかたをしようと必ず手厚く介抱をするから、と固く約束をして、飲酒をさせてみた。
するとヒュンケルは、ワイン一杯を飲み干した途端に人が変わった。
「おまえ、イイ男だな」
と自らの椅子を立ち、ラーハルトの膝へと座ってきた。
振り返るように腰掛けて頬に触れようとしてくる、その手を捕まえて止めた。
「そういう酔い方なのかおまえ……」
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