盆 その2「明日は、午前中に出かけるからね」
布団の中に潜り込むと、彼は僕に向かってそう言った。部屋を包み込む静寂を切り裂くような、はっきりとした声である。僕が沈黙を保っていると、彼は気にせずに言葉を続けた。
「明後日の夜には帰ってくるよ。この家は、好きに使っていいからね」
「分かってるよ」
小さな声で答えて、僕はベッドの反対側へと寝返りを打つ。今日、この夜だけは、彼とくっついて眠る気などなかったのである。彼が家を開けることに対して、気持ちの整理がついていないのだ。自分勝手だと言われたらそれまでだが、僕には、彼の里帰りというものが許せなかった。
彼が外泊をすることになるなら、僕も一緒だと思っていた。実際、昨年の夏には彼の実家に挨拶に向かったし、正月も帰省についていったのだ。彼は僕のことを家族同然に扱っているから、当然のように誘われると思っていた。
5977