今ならわかる。母さんは、父さんからもらった文をいつも大事そうに胸元に抱いてた。
菓子をもらった日には、「これはあの人からの恋文なの」って目に涙を浮かべながら口にして大事に食べようねって俺にも菓子を分けてくれたんだ。
「平助にもいつか一緒にお菓子を食べたいと思える人が現れるといいね。」
そう言って俺とは対照的に大切に大切に菓子を食べる母さんの言葉の意味がその頃の俺にはあまりよくわからなかった。
菓子は菓子だ。そんなにも思うのならどうして母さんに会いに来てやらないんだという怒りさえ覚えた。
菓子も金も、自分の罪悪感を掻き消すための自己満足でしかないだろうと口からこぼれそうな言葉を俺はいつもぐっとこらえていた。
「お茶をお持ちしました。」
968