Emblem 数十秒熟考の末、おもむろに指を伸ばす。
からころと散る、虹色の封蝋たち。
目の覚めるような薔薇色を取ると、慎重に、先端を火であぶる。
溶けた赤を雪のようなカール王国産上質紙に垂らして、金の輪で形を整える。
蜜蝋の淡い香り。
革袋に投げ込んである金属をランダムに取り出して、ゆっくりと押し付ける。
満月草が三つ並んだ、可愛らしい家紋だった。
ヒュンケルはため息をついて、出来栄えを確かめる。
「良く飽きないな」
じっと見ていたラーハルトが、ハッカを齧りながら呟く。
「ん」
ヒュンケルは封蝋印を丁寧に拭いて、また袋に投げ込んだ。
かれこれ半日。ダイニングテーブルにはカラフルな蝋印が整然と並んでいる。
知り合いの古物商に押し付けられたものだ。もう使われることのない、絶えた家系やレプリカ品の封蝋コレクション。
1588