victory 盤面を埋め尽くしていた大小のグラスは、もう数えるほどしか残っていない。
数が足りなかったから陶製の指ぬきやエッグスタンドまで動員したが、残るは数機のみ。
「……チェック」
呂律の回らない、ヒュンケルの勝利宣言。
「俺の勝ちだ、ラーハルト」
元陸戦騎は、ふむ、と顎を撫でる。
相棒ヒュンケルは、ひとたびのめり込むと玄人並みの技を短期に会得する男だ。今彼が夢中になっているチェスにおいて、ラーハルトが勝てなくても不思議はない。
ただし、今回は特別だ。
ショットグラス・チェス。酒杯を駒として、ひとつ取るたびに酒を飲み干すルール。
キッチンをひっくり返して強い酒を探した甲斐があった。
銀色のテキーラと琥珀色のブランデーを景気よく倒していったヒュンケルは、いかに酒に強くとも限界のはずだ。
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