時緒🍴自家通販実施中 短い話を放り込んでおくところ。SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。無断転載禁止。 ☆quiet follow Yell with Emoji Tap the Emoji to send POIPOI 192
ALL 狡宜版深夜の創作60分勝負 文体の舵をとれ ワードパレット 夏五版ワンライ 800文字チャレンジ 時緒🍴自家通販実施中TRAINING捜査中に女の子を拾う二人。800文字チャレンジ51日目。悩みの種(出島小話) 狡噛はとても魅力的な恋人だったが、ある種根源的な悩みの種でもあった。それは友人としてでもあり、仕事仲間としてでもあり、恋人としてでもある。友人としては話を聞かないところ、仕事仲間としては独断専行しがちなところ、恋人としてはあまりにもロマンチストすぎるところがそうだろうか。とにかく経歴だけ見れば最高にすばらしい俺の恋人は、俺にとっては一番の悩みの種でもあったのだった。 捜査中出島を歩いている時、迷子を見つけた。上等な服を着た少女で、マーケットには似合わなかった。すぐにドローンに引き渡すべきだったのは分かっている。けれど捜査中だった俺たちは彼らに接触することは出来ず、少女の親を探すふりをして任務につくことになった。少女は最初のうちは静かだった。けれど段々と飽きて来たのか、次々に疑問を俺たちにぶつけ出す。 877 時緒🍴自家通販実施中TRAINING21回目の記念日の話。800文字チャレンジ50日目。Draw(ゲームの達人) 勝ち負けなんて考えたことはなかった。というより、彼を好きになった時点で負けだと思っていた。全国考査一位の天才、色相は限りなくクリア、周囲の人は皆彼を称賛する。そんな男が自分のことを愛してくれるなんて、そんなの想像出来るだろうか? 俺は何もしなかったというのに? 俺はただ愛されているだけで、特に愛されるために努力もしていない。魅力的であろうとしたこともない。彼に告白をする少女たちがするような努力、リップクリームを塗ったり、髪の毛を巻いたり、まつ毛をびっしりと生やしたり、手に入れられる限りの愛される方法を試したこともない。だから俺は負けなのだろう。彼が愛したい時にだけ俺は愛されるから、きっと最初から負けだったのだろう。 916 時緒🍴自家通販実施中TRAINING宜野座さんが香水をつける理由と付けない理由。800文字チャレンジ49日目。薔薇の香水(煙草の代わりに) セクシーで魅力的な花城は、いつだって誰かに求められている。けれど本人にその気はないのか、誰かと飲みに行ったなんて噂はとんと聞かない。プレゼントを受け取ってくれと押し付けられているのは見たことがあるが、俺が知りうる限りアプローチを受けているのを見たのはそれだけだ。花城は仕事一筋な女で、東京の公安の霜月美佳をからかうのを趣味にしている以外は地味な女だった。勿論仕事は出来るし装いは美しい。艶やかな金髪、赤いひし形の石をはめたイヤリング、金色のラメが入ったピンク色のルージュ、やはりピンク色のマニキュアに、赤いセットバックヒール、大きく胸元が空いたスーツは高級ブランドのもの。唯一つけないのが香水で、それは潜入捜査に邪魔だからという理由だったからなのだが、今日はどうしてか彼女は薔薇の匂いをさせていた。ディプティックの甘い香り、よく似合ってはいるが、今日は重要な会談か何かが入っているのだろうか? 俺は変に突きたくなくて黙っていたが、ギノはそんなこと気にしていなかったのか、直接「課長、新しい香水か?」なんて聞いていた。花城はその言葉に綺麗な眉を吊り上げ、不機嫌そうに腕を組む。そして自分のデスクチェアに身体を預けると、「断れない案件があってね」とだけ言った。俺はそれで全てを察してしまって心の中で十字を切る。おおよそ上層部の誰かがおせっかいを焼いて誰かと引き合わせたか何かなのだろう。香水はその相手からのプレゼントだ、きっと。 836 時緒🍴自家通販実施中TRAINING二人の恋敵は?800文字チャレンジ47日目。恋敵 行動課の仕事が激務だということは分かっていた。大型機の操縦訓練の日まで設けられているくらいだから、仕事が入っていない日は鍛錬の日とされている。ボクシング、プール、ランニング、ありとあらゆるトレーニングのための機械が行動課にはあり、俺たちはそれを少ない人数で回していた。そして今日の俺のメニューはティルトローターの操縦訓練だった。もちろんあの空を飛ぶ船を動かすわけではない。操縦桿を握りこそすれ空は飛ばない。全てドローンパイロットのように小さなコックピットに入って行われる。今日それをするのは俺の番で、昨日は須郷だった。須郷は元ドローンパイロットということもあり操縦が上手く、今は俺の倍先を行っている。そのためには距離を少しでも縮めねばならない。今日でそれが上手くいくかは謎だが、するしかないのは確かだった。 946 時緒🍴自家通販実施中TRAINING出島で買い物をしながら賭け事をする狡宜。800文字チャレンジ46日目。小さな賭け事(熱いのは君のせい) 次に曲がる道で、最初に会うのが男だったら俺の勝ち、女だったらギノの勝ち。勝ったらなんでも言うことを聞くこと。そんなくだらない約束事をして、俺たちは出島の街を歩いた。街は混雑していた。祭りが近いのもあって、買い物に出る家族が多いのだ。俺たちははぐれそうになりながらも手を繋がず歩く。俺が勝ったらまずは手を繋いでもらおうか、そう思った時、俺たちは角を曲がった。そしてまず目に入って来たのは、これこれはかわいらしく頭にリボンをつけた幼い少女だった。つまり、俺は賭けに負けたのである。 「あー、負けた。なんでも言ってくれ、ギノ」 「何にしようか。とりあえず今日の夕飯の買い出しを済ませよう。それから考えることにするよ」 930 時緒🍴自家通販実施中TRAINING執監狡宜。800文字チャレンジ45日目。ただ、呟いただけ(言えるはずがない) 佐々山を亡くして以来、狡噛は人が変わってしまった。潜在犯堕ちして執行官になったのもそうだが、彼はあのお人好しな男を、猟犬として有用だった男をトレースするようになってしまった。煙草も酒も、もしかしたら女も。それでも俺が落ち着いていられるのは、彼とまだ寝ているからだった。もし寝ていなかったら、全てを共有していなかったら、それこそ発狂していたかもしれない。そんなものにすがるなんて、馬鹿げているのかもしれないけれど。 セックスを終えて狡噛の部屋を持する時、俺は何も言わない。狡噛は俺に何も言わないし、これまでのように甘い言葉もくれない。それどころか俺を突き放そうとする。なのに俺を抱く。執行官は不自由な身柄だからかもしれない。理由などないのかもしれない。これまでの地続きで抱いてくれているだけなのかもしれない。それでも、俺は狡噛が寝てくれていることに救われていた。 831 時緒🍴自家通販実施中TRAINING祭り終わりの話。800文字チャレンジ44日目。祭りのあと(花火) 出島では入国者によって数多くの祭りが催される。俺たちはそれが大々的であればあるほど警備に駆り出される羽目になる。行動課は実働部隊だって? それは名目上のことでしかない。そもそも人員を割き辛い公安局の人数とドローンの数では祭りの警護には足りず、海外調整局で余っているのは俺たちくらいのものだった。それに祭りの日は事件がよく起こる。俺たちが想像もしないものが。 今日はチャイニーズマフィアと繋がった公安局員を逮捕する羽目になった。詳細は省くが、スキャンダルが世に出る前に裁けて良かった。恩も売れたというものだ。そんな俺たちは日本風の縁日を歩きながら、水っぽいビールを飲んでいた。花城の奢りだ。彼女はその逮捕した公安局員を須郷と護送してしまって、俺たちは二人きりだった。ギノは汗をかいた首筋を拭いながら水のようなビールを飲んでいる。俺はもう少し濃いものが欲しくて、チップを握らせて瓶ビールを頼んだ。 874 時緒🍴自家通販実施中TRAINING日本に帰って来た狡噛さんと、父親と和解した宜野座さん。800文字チャレンジ43日目。長い旅(終わりに) 長い旅の末にお前がいた。日本に帰って来たらお前がいた。その時運命だと思った。こんなに巡り巡ってお前に会うなんて、それこそ運命だと思った。同じ仕事につき、同じものを追いかけて、また以前のように寝るようになったら、それこそ運命じゃないか。なぁギノ。お前はそうじゃないのか。お前は違うのか。お前は俺とは違った旅をしたのか。 長い旅と言っても、俺の旅は血生臭いものだ。手足がちぎれた子供、息の代わりに血を吐き出す男、自爆テロの身代わりにされる女。そんな中を歩いて来た。でも俺はギノの旅を知らない。彼は自分の旅について語らなかった。どうやって父親との確執にケリをつけたのかなんて、俺の一番知りたいことを話してくれなかった。彼は俺とは違って旅を大切な秘密にしていた。俺のように軽い口をしていなかった。どれだけ酔っても喋らず、セックスの最中にねだっても許してくれなかった。けれど今日はどういうわけか、彼は自分の旅について語り始めていた。そして俺は知った。今日は彼の父親の命日なのだと。 880 時緒🍴自家通販実施中TRAINING二人の母親のこと。潜在犯堕ちした狡噛さんのお話。800文字チャレンジ42日目。優しい嘘(なんてつけない) 狡噛があえて俺につく嘘に気づいたのは、彼と関係を持ってしばらく経ってのことだった。それはほとんどが家族のことだった。母親との関係を彼は口にせず、俺に黙っていた。授業参観って年でもないから俺は彼の母親とすぐには会わなかったが、時折行く狡噛の家で二人並んで撮られた写真を見ることはあった。狡噛と同じ色の目をした、さっぱりとした女の人に見えた。けれど彼は俺がそれを見ていると知ると写真たてを隠そうとしてしまうのだ。多分、母親の話題になることを避けて、なぜなら俺の母はユーストレス欠乏症で寝たきりだから、だから俺は母と喋ることも出来ない可哀想な子どもだから。最初のうちは狡噛にそんなこと気にするなと言った。俺の父は潜在犯だったし、それは皆が知っていたし、今さら気遣われてもどうにもならないと。でも、狡噛は何度も俺に嘘をついた。母さんとは最近話してないな、なんて、手ずからの料理を食べさせてもらいながら、そんなふうに俺を優しく拒絶した。 889 時緒🍴自家通販実施中TRAININGうなされる狡噛さんのお話。800文字チャレンジ41日目。ナーサリーライム(子守唄をあなたに) 狡噛は時折うなされることがある。何を夢見ているのか知らないが、眉間に深い皺を寄せて、苦しそうにうめいている。最初のうちは起こしていてやったが、そうすると彼は俺から離れてシャワールームに消えるか、リビングで水を飲んで顰めつらしい顔をするかだった。だから最近はじっと寄り添うことに決めている。狡噛が苦しんでいるのなら、俺も一緒に苦しもうと手を繋ぎ、朝まで一睡もせず夜を過ごす。それを狡噛に言ったことはない。目の下にクマを作った狡噛に、酷い顔だなと言われることはあっても、彼が自分の酷い顔に気づくまでは、俺は知らないふりをするのだ。 「あなたたち、揃いも揃ってひどい顔。出勤してすぐだけど、ちょっと仮眠でもしてきたら? 幸い仕事はないし」 955 時緒🍴自家通販実施中TRAINING初めてしたキスの話題で盛り上がる36歳。800文字チャレンジ40日目。間接キス(ストロベリーシェイク) 初めてしたキスはいつだったか。そんなことを真面目に考える年でもないが、母によれば俺の初めてのキスは隣の犬なんだという。人間だけじゃなく動物もカウントするなんて良い母親だとともに酒を飲んでいたギノは言ったが、正直なところ、俺は彼の初めてのキスがさっきから気になってしょうがなかった。 始まりはこうだ。花城が読んでいた雑誌のカルチャー欄に、初キスの話題があった。初めてのキスを取り戻すことは自分の人生を取り戻すこと、が謳い文句の映画だ。あの場は花城の質問だけで軽く終わってしまったのだが、どうも俺たちは後を引いてしまって、官舎に戻ってまだその話をしている。酒を飲んで、簡単に作ったつまみを口にして、それからたまにくすぐり合って手のひらを合わせて。 906 時緒🍴自家通販実施中TRAINING児童養護施設で子どもたちに本を読んであげる宜野座さんのお話。800文字チャレンジ39日目。童話の王子様とお姫様(スノーホワイト) 仕事で児童養護施設を訪れた時、ギノがスーツの裾を引っ張る子どもたちに、童話を読んでやっているのを見たことがある。彼は長い髪を少し垂らして、ぼろぼろになった、今では珍しい紙の絵本を読んでやっていた。絵柄はディズニーの白雪姫。美しい白雪姫と、幼い頃に彼女と出会い、王妃に捨てられてしまった思い人をずっと探し求めていた王子様のストーリー。毒林檎を食べて仮死状態になってしまった白雪姫が、王子様のキスで目覚めるストーリー。いつの日にか王子様が来てくれるその日を私は夢に見る。 ギノの落ち着いた語り口に、子どもたちはもっと、もっとと絵本を持ち込んで、その様は花城が呆れるくらいだった。私はあなたを子守役として雇ったんじゃないんだけど? とは彼女の弁だ。俺もそう思ったが、普段ドローン任せにされている子どもたちは、人間の大人に興味津々だった。結局この日は残りの俺たちが職員に聞き込みをして、ギノは子どもたちにかかりきりだった気がする。それでも優しい、慈しむような彼の表情は、俺にとって素晴らしいものだった。もしこんな仕事をしていなかったのなら、彼はあんな表情を多くの人々に向けただろう。そう思うと、胸が少し痛んだけれど。 1024 時緒🍴自家通販実施中TRAINING美佳ちゃんの独白。FI後の朱ちゃんとのお話。800文字チャレンジ38日目。灰色の時間(あなたがいるということ) 恋をすれば世界がばら色になるなんて嘘だ。だって私は長いこと恋をしているというのに、今も灰色の時間の中にいるし、それがいつか花が開くように美しいものになるという保証はない。きっと私の世界は灰色のままだ。もし色がついたとして、王陵璃華子が描いた極彩色の絵がいいところだ。 私はまだあの犯罪者に囚われていて、もういい大人なのに怖くて泣きながら目覚める時がある。そんな時誰かがそばにいてくれたらと思うのだけれど、恋をした人は近くにいてくれない。想いを伝えてもいないのだから当たり前なのだけれど、それでも私はあの人に、常守朱に側にいて欲しかった。言葉にしないでも、心細い時はそばにいて欲しかった。私は幼馴染すら見捨てた女だから、あの人は相手をしてくれないかもしれない。でも犯罪者を対等な人間として扱うあの人なら、私のこの灰色の世界を、ばら色にしてくれるかもしれないと思った。 824 時緒🍴自家通販実施中TRAINING何気ない日々のやりとり。ちょっと遠慮気味に生きるのがやめられない宜野座さんのお話。800文字チャレンジ37日目。わかっていると君は言う(大丈夫、じゃない) ギノは物分かりがいい。俺が何も告げずに数日消えても、全て任務だと思って一言も聞こうとしない。ギノは物分かりがいい。俺が口元を赤い口紅で汚しても、ため息をついて飛行機の備品のクレンジングで洗ってくれる。ギノは物分かりがいい。俺が誰かの香水の匂いを移しても、そのまま抱かれてくれる。けれど俺は寂しくなる時がある。そんなに何もかもを誰かに捧げてしまって、お前は本当に幸せなのかと。 「ん……狡噛、まだ朝早いぞ」 「急に任務が入ってな。そろそろ出なきゃならないんだ」 母との面会を詮索されたくなくて、俺はそんな嘘をついた。母は先日から出島にやって来ていて、俺が取ったホテルで暮らしている。仕事を始める前に会っておきたかった。ただそれだけのことなのに、俺は彼に言えないでいる。 954 時緒🍴自家通販実施中TRAINING夏の終わりの出島のお話。800文字チャレンジ36日目。夏が終わる声(ひぐらしの鳴き声) 雑賀先生が隠居していた森の中には、様々な生物がいた。夏の終わりには夕涼みに誘われて、狡噛と訪ねることもあった。そんな日はいつもひぐらしが鳴いていて、俺は幼い頃に祖母に手を引かれて、見知らぬ人の中を通ったことを思い出す。あれは祭りか何かだったのだろうか? 記憶はあやふやで果たしてそれに行ったことすら曖昧だ。だが、あの鳴き声はいつも思い出すのだ、夏が終わる頃、もう楽しい日々も終わると、俺に教えるように。 出島でもひぐらしは鳴いた。俺はそれに懐かしい思い出を引き出されそうになって、改めてそんなんではいけないと思い直した。優しい思い出で自分を慰めてもしょうがない、今は狡噛がいる、そう思うのだ。しかし今日は何故か狡噛が俺を誘って出島のマーケットに任務帰りに寄った。なんの記念日でもないというのに花城の許可まで取って。 922 時緒🍴自家通販実施中TRAINING任務から無事に帰ってきて欲しい宜野座さんとそれに誓う狡噛さん。800文字チャレンジ35日目。名前を呼ぶ日(言霊) 名前には言霊が宿っているのよと祖母に言われたことがある。だからみだりに名前を呼ばせてはならないし、伸元も呼んではいけない。沖縄の風習を受け継ぐそんな祖母の言葉に、幼かった俺は少し恐ろしさを感じて、しばらくの間友だちの名前を呼べなかった。俺が死んじゃえって言ったら目の前の友だちは死ぬと思っていたし、そんなふうに恐れていたから、初めてのガールフレンドにつまらないから嫌いって言われた時はどうしていいかわからなくなった。でもまぁ、それでもどうにか来ている。 言霊信仰は廃れてしまったが、かつてこの国は言霊の幸ふ国だった。シビュラシステムが歴史を閉じ込めてしまってからは、そんなことを知る者も少ないが。けれど俺は時折祖母の言葉を思い出しては、狡噛が一人任務に赴く日、「無事に帰って来いよ」と言葉を送ることにしていた。そうしたらきっと、彼が無事に俺の元にも取って来てくれるような気がして。 835 時緒🍴自家通販実施中TRAININGもしも公安局に入ってなかったらと空想する話。出島のマーケットに行きます。800文字チャレンジ34日目。カゴの鳥(唄を忘れたカナリヤ) もし何にも知ろうとしないで生きていたら、きっと狡噛には出会わなかった。もし公安局を目指していなかったら、きっと狡噛には出会わなかった。もし父を憎んでいなかったら、きっと狡噛には出会わなかった。そんなもしもやきっとを繰り返して出会った狡噛は、今も俺の隣にいる。 公安局に入っていなかったら、と考えることがある。だとすればいくつか資格は取っていたから、そっちに行ったのだろうか? 動物に携わる仕事や、植物に関係する仕事。そうしたらきっと事件に巻き込まれない限り、俺は公安局の狡噛慎也とは出会わないだろう。いや、狡噛自体、俺と出会わなかったら、公安局なんて目指さず、きっと学問の道を進んで教員にでもなってたのじゃないか。 976 時緒🍴自家通販実施中TRAININGみんなのファーストキスの話。狡噛さんがちょっと後悔しているお話。800文字チャレンジ33日目。ファースト(キス) 初めてしたキスを覚えてる? 私はね、覚えてるわ、最悪だったのよ。パーティーで酔っ払って、クラスの一番かっこいい男の子とキスをした。性格は最低だったけど。 フィッシュ&チップスを食べながら花城は、酔っ払ったのかそんなことを言った。彼女が自分のプライベートな話をするのは珍しかった。大体いつもはぐらかされてしまうか、俺たちの話題に取り替えられてしまうから。でも今日は違った。花城は油できらきらと輝く唇をぽってりとさせて、かつてあった青春について語った。 ソーダのしゅわしゅわってする感覚があったの、それでキスをしてるって分かった。私が飲んでたカクテルは、炭酸を使ってなかったから。あぁ、駄目ね、私何を言ってるのかしら。 907 時緒🍴自家通販実施中TRAINING美佳ちゃんのネックレスの話。800文字チャレンジ32日目。イミテーション(コスチュームジュエリー) 二十歳の誕生日プレゼントは、正真正銘のダイヤモンドのネックレスだった。母はそれくらい持っていないさいと言い、父もそれに頷いた。でも私はどうしてか喜ぶ気にはなれず、ずっと仕舞い込んだまま今日まで来ている。私が付けるのはイミテーションのダイヤと決まっている。なぜならばそれをくれたのが先輩だから。美佳ちゃんには本物が似合うと思うんだけど、こんな仕事でしょう? 失くしたら大変だもの、コスチュームジュエリーとして使ってね。そうあの人が言ったのだ。だから私はどんな場所にも先輩がくれた本物と見まごうダイヤモンドの大ぶりのダイヤとパールを模したネックレスをつけていくことにした。母がくれた押し付けがましいものじゃなく、父が私に相応しいと言った本物のネックレスじゃなく。 855 時緒🍴自家通販実施中TRAINING狡噛さんの傷を撫でる宜野座さんのお話。800文字チャレンジ31日目。おやすみ(明日も明後日も明明後日も) 狡噛のこめかみには弾丸がかすった傷跡がある。あと数ミリずれていたら、脳を傷つけて紛争地では助からなかった傷跡がある。俺は彼と寝る度にそれに触って、あぁ、狡噛は生きているのだと思わされた。狡噛は生きている。俺を置いて行ったりはしない。何度も確かめたのに、俺はその傷を触る度に、もし弾丸がここじゃなく違う場所を撃っていたらと思わずにはいられないのだ。自分も任務では大概無茶をしたくせに、俺は恋人が馬鹿をやったことを今でもいくらか恨んでいる。 「ギノ、くすぐったい……」 眠そうな声が聞こえる。それは恋人の声で、低くて、腰に響いて、誰のものより美しい声だった。俺が好きな声だった。それは俺を抱きしめるように響き、俺は彼の背中に腕を回す。 846 時緒🍴自家通販実施中TRAINING昼休憩で宜野座さんの部屋にやって来た狡噛さんのお話。800文字チャレンジ30日目。ティータイム(欲求不満な昼休み) 紅茶のペットボトルを投げつけると、狡噛は曲線を描いたそれをきれいに受け止めた。アールグレイのホット、茶葉に文句をつけなきゃ結構美味い安価なもの。 「それで、捜査は進展したのか?」 昼食休憩で官舎の俺の部屋に戻って来た狡噛に尋ねると(俺は今日は休日だった)、首を振ってペットボトルの蓋を開けた。そんなに簡単に仕事は進まないということだろう。だったら慰めてやるか、そう思って俺は彼のそばに行き、ソファに座り、わざとらしくしなだれかかかった。狡噛はそれに眉をあげて、そして紅茶のペットボトルに口をつける。このままキスをしてもいいかもなとは思うけれど、彼は休憩中とはいえ仕事中で、休日なのは俺だけで、つまり彼を邪魔してはいけなかった。 873 時緒🍴自家通販実施中TRAINING夏の思い出で征陸さんを思い出す宜野座さんと朱ちゃんのお話です。800文字チャレンジ29日目。ひまわりの笑顔(迷路) ひまわりの迷路に行った時、母の手は汗ばんでいた。母は笑っていた。彼女の背丈以上に大きなひまわりを背景に、お父さんはどこかしらねぇとにこにこと。俺はこのまま迷路から出られないような気がして泣いてしまって母を困らせた。ねぇ、お母さん、大丈夫なの、僕たちちゃんとここから出られるの、お父さんと会えるの。俺は泣いて泣いて泣きながら母にしがみついた。母は困った顔もせず、大丈夫よ、絶対にお父さんに会えるからね、のぶちかは心配性ね、と笑った。結局俺たちは仕事場から遅れてやって来た父と迷路の近所のラムネ売りの店で再会して、でも俺は迷路の中に助けて来てくれなかった父を恨んだ。父さんのこと、ヒーローだと思ってたのに違ったんだ。それは初めての彼が全能でないと知った時のことだった。 994 時緒🍴自家通販実施中TRAINING飴玉を舐めながら色々考える宜野座さんです。800文字チャレンジ28日目。キャンディ(これからのこと) 飴玉を舐めながらキスをする遊びを覚えたのは学生時代、飴玉を舐めながらフェラチオをするのを覚えたのも学生時代、けれどセックスをしながら飴玉を初めて舐めたのは、どうしてか三十を過ぎてからのことだった。 基本的に飲み食いをしながらセックスをするのは好きじゃなかったからこれは全部妥協で、個人的に好んだのは全てが終わって水を勧められたのを飲むくらいだった。中国じゃ飲み食いをしながら一日中セックスをしたんだぜと豆知識を披露されても、だからなんだという話だ。どうやら狡噛はそれがしたいらしかったが、俺はそういうのはいい。あまり風流なのは得意じゃないし、古代に想いを馳せてするセックスなんて御免被りたい。 話は戻って飴玉についてだが、なぜ今そんなことを考えているのかというと、今日、仕事中に警護対象から俺たちは飴玉をもらったからだ。それは小さな少女で、あなたたちにお駄賃ね、と彼女はスカートを揺らしながら笑っていた。彼女は事件の関係者の娘で、襲撃対象になっていたので俺たちが警護することになったのだが、考えすぎだったのか無事に家に着いた。それからしばらく公安局がやって来るまで守ったものの、公安局から事件が発生したとは聞かない。今はまだ、こう着状態にあるのだろう。 925 時緒🍴自家通販実施中TRAINING出島での張り込みをする狡噛さんとそれを出迎える宜野座さん。800文字チャレンジ27日目。冷たい頰(浴室へ) 痩せた頬に触れると、そこは思ったよりもずっと冷たかった。俺はそれを迎え入れるように包み込み、そうしてしばらくの間さすって、鼻をこすりつけてキスをする。すると彼はそれを喜んで何度も俺にひげの生えかけたそこを押し付けて、優しいキスをねだる。俺たちは玄関で、もしかしたら誰かが見ているかもしれないそこでそんな馬鹿なことをする。愛情を確かめるようなことをする。人前に出て、確かめるようなことをする。けれど確かめたところで、愛情は去ってはいかないのだろうか? 俺には分からない。ずっと逃げられた人々しか見ていなかったから、幸せなそれが想像出来ないのだ。でも、彼は丁寧に頬をこすりつける。そして俺はキスをする。その繰り返しが、俺たちのおかえりの挨拶だった。 833 時緒🍴自家通販実施中TRAINING事件終わりに出島に行って買い物をする話。800文字チャレンジ26日目。花盗人(愛情) 花泥棒がその風流さで罪を許された狂言があるように、愛してはいけない人を愛してもその切実さで許されることがある。俺たちが担当したのは、そんな事件だった。マフィアの妻を愛した海外調整局の男がキーとなったこの事件は、男の誠実さによって解決した。詳細は省くが、生真面目な愛情が誰かを救うこともあるということだ。 俺たちはそんな仕事を終えて出島のマーケットを歩いていた。さまざまな肌の色をした人間が歩くそこは、俺がここで一番好きな場所の一つだった。ギノはどうかは知らないが、そうであってくれたら良いのにと思う。 「敵を愛するなんて、そんなこともあるんだな。それで全てうまくいくってことも」 ギノはそう言って、マーケットに並ぶリンゴを一つ取った。明日の朝食にするらしい。 870 時緒🍴自家通販実施中TRAINING狡噛さんが行動課にいる理由みたいなもの。800文字チャレンジ25日目ためらわない、迷わない(君が愛する世界) 彼を守るためにはためらってはならない。彼を愛するためには迷ってはならない。俺がここ数年で得た教訓とはその程度のものだったが、それは彼とともに過ごすにあたって、大きな意味を持った。 例えば彼と潜入捜査をする時、例えば彼と危険な銃撃戦にあたる時、俺は絶対にためらわない、彼が無茶をする性格なのを知っているから、その先を行く無茶をする。小言はあとで聞けばいい。彼が生きているということが大事なのだから。 戦場では多くの人死にを見てきた。笑ってボール遊びをしていた少年が突然バットでめったうちにされるのも見たし、ビー玉を転がしていた少女が腕をくくられて拐われるのも見た。彼らは俺の元には二度と戻らなかった。彼らはある程度戦闘技術を持っていたのにそんなだった。人を殺すなんて本当に簡単なのだ。殺されるのも簡単なのだ。生み出すのはこんなにも難しいというのに。 899 時緒🍴自家通販実施中TRAINING雨が降った日の狡宜。宜野座さんが傘を壊してしまって……?800文字チャレンジ24日目。雨のち晴れ(相合い傘) 出島は雨が多い。朝晴れていても、昼過ぎにはもう雨が降っていることも多い。そんなだったから、俺は仕事用の鞄に折り畳み傘を入れる癖がついた。元々何かに備えるのが好きだったからか、それとも同僚が、いや恋人がそう言う備えをしないタイプだったからか、俺は雨傘を余分に仕事場に用意していた。あいつに言わせれば、少しくらいの雨なら走ったら終わりなのだという。でも、それでもスーツが雨でよれてしまったら修復させるのが大変だし、かつてとは違ってスーツに金をかけなくなった今でも、別の意味で(主に鍛えた体型のせいで)オーダーメイドに頼らずにいられない俺からすると、やはり雨傘は必要なのだった。 けれど突然の雨はあるし、雨傘が悪くなっていることもある。今回はその両方が重なって、昼から突然雨が降り出し、手持ちの折り畳み傘はいつの間にかボロボロになってしまっていて、職場の雨傘も穴が空いてしまっていた。花城はピンクに薔薇模様の派手な傘を提案してくれたが、流石にそれをさすのは恥ずかしくて、俺はかつて友人が言った通りに官舎まで走ることにした。こういう日に限ってあの男がいないのがムカつくのだが、あれはもう帰ってしまったのだろうか? だとしたら要領がいい。俺は少しあの男にムカつきながら、雨の中走ることにした。 944 時緒🍴自家通販実施中TRAINING征陸さんのセーフハウスを出る狡噛さんが、あかねちゃんに書いた手紙のこととか、宜野座さんのこととかを思い出すお話。800文字チャレンジ23日目。最後の言い訳(愛してる) ギノに手紙は書かなかった。彼に迷惑はかけられないと思った。これ以上、彼を俺の人生に巻き込んではならないと思った。常守に手紙を書いたのは、彼女が俺に夢を見ているところがあったからだ。俺は刑事ごっこが最後までしたかった。佐々山のようになりたかった。その遊びをするにはギノじゃなく、常守が適任だった。それだけだ。彼女は俺を恨むだろう。秘密を握らされて、それを皆に告白する時俺を恨むに違いない。俺とギノの仲を彼女は察しているから、ギノに伝える時も苦しいだろう。けれど彼女なら耐えられる。俺はそう思って、あのセンチメンタルな手紙を書いた。 バイクに乗りセーフハウスを出ると、妙に凪いだ気分だった。風は頬を撫でてゆくし、それは冷たいのだけれど、槙島との決着が迫っていることに、俺は終わりを感じていた。この事件が終わったら、きっと俺は処分されてしまうだろう。自分の色相が濁っていることも分かっている。人を殺そうと決めてしまったら、もう元には戻れないことくらい、一般市民でも知っている。でも、俺は槙島を、自分の双子のようなあの男を殺さねばならなかった。 852 時緒🍴自家通販実施中TRAINING風邪をひいた宜野座さんを気遣う人々と狡噛さんの話。800文字チャレンジ22日目。お薬(君がもらったもの) ギノが風邪をひいた。熱はそれほどないが、身体がだるく頭もぼうっとするという。彼がそんな理由で仕事を休むのは珍しいことだったので、上司である花城は「あなた、早く行ってやりなさいよ」と勝手に俺の休暇を申請して、行動課のオフィスから送り出した。そして「風邪が移ることも考慮して三日ほど休みにしとくわ」と扉越しに笑った。俺は自分の時との差に愕然としながらも、ぼんやりと官舎に続く廊下を歩いた。するとどこで何を聞きつけたのか、俺の知らない顔をした男女が「宜野座さんにゆっくりなさるようお伝えください」だの何だの、りんごやオレンジ、ミネラルウォーターやレトルト食品などを俺に押し付けて去っていった。というわけで、俺が官舎のギノの部屋に入る頃には両手がものでいっぱいだったのだが、これは一体、どういうことなんだろう。財宝でも手に入れたみたいだ。もっとも、それは俺のものではないのだが。 918 時緒🍴自家通販実施中TRAINING日本に帰ってきて二度目の告白をする狡噛さんのお話。800文字チャレンジ21日目。告白(君に誓うこと) 彼に思いを告げた時、いったいどんな言葉を使ったのかは覚えてはいない。ただ冷たいエアコンの風や、窓越しに差し込む夏の日差しや、誰もいない理科室に響く水滴や、握った手の熱さだけは今でもきちんと覚えている。 俺がギノに恋をしたのは、多分運命なんだと思う。今まで誰も好きになったことなんてなかったから。誰かに告白されても、全然心は動かなかったから。美しいもの、可愛らしいもの、信頼や、友情のようなもの、それらは全て俺を動かさなかった。そんな尊大な俺を動かしたのは、ギノの涙だった。俺たちが友達だろうと言った時に頬を流れた一筋の涙が、彼を加なしませたのか喜ばせたのか分からないが、あの涙が、俺を変えてしまったのだった。 799 時緒🍴自家通販実施中TRAINING仕事で傷だらけになった二人の話。800文字チャレンジ20日目。おそろい(同じ傷) 身体中にある傷だけが俺たちが共に持つものだった。俺たちは生き方すら違っていて、愛情の持ち方すら違っていて、同じところを探すのなら、仕事で負った傷ぐらいしかお揃いのものがなかった。銃弾をくり抜いた傷、ナイフで切り付けられた傷、爆弾の破片が減り込んだ傷。俺はそれが自分の身体にあることを、それほど気に病んではいなかったが、同じものが恋人の体にあることは気になった。あの美しい身体が、俺と同じもので汚されてしまった、そう思うと辛かった。 だから一度だけ、傷をとってみないかと、任務にかこつけて言ったことがある。あの時は潜入捜査をすることになっていて、身体に目立つ傷があるとよくなかったのだ。一流の諜報員は傷一つから過去を探るから、少ない方がいいと俺は言った。しかし彼はすぐにはそれに同意しなかった。これは自分の勲章だと、かつていた、頑固な軍人のように譲らなかったのだ。それに自分と俺とを繋ぐものだとも言った。俺は信じられなかったが、彼のそのロマンチストな部分を見てしまうと、もう何も言えなかった。 821 時緒🍴自家通販実施中TRAINING狡噛さんが宜野座さんを見つけて色々考える話。800文字チャレンジ19日目。ただ一つだけの真実(君がそこにいること) たった一人の誰かを愛しているってこと、それが俺にとってのただ一つだけの真実だ。ずっと孤独だった、と言っては彼を侮辱することになるが、俺は一人で孤独だと感じていた。確かに本が俺の孤独を救ってくれた。多くの知識を与えてくれ、多くの人々の生き死にを教えてくれ、歴史とはいかなるものかを教えてくれた。だが、俺はやはり一人だったのだ。彼に出会うまでは。彼は嫌がるかもしれないが、彼が、ギノが大勢に囲まれて殴られて、それでも立ち向かってゆく美しさを見た時、本で読んだ美しい人々の生き死にを、ようやく現実でも見たと、そう思ったのだった。 ギノにはこんなことは言ってない。ただ愛していると言っている。でも俺はギノのためなら強盗だって出来るし(金を稼ぐ方が簡単だからしないが)、知らない誰かの別荘を渡り歩いて寝泊まりをするカップルみたいな生き方もできる(これも別荘を買う方が簡単だからしないが)。ギノは俺にとっての神様みたいなものだった。本の中にしかいなかった、みんなに信仰されていたのに捨てられた神様みたいだった。ギノはとても美しくて、だからやっぱり神様なんだ。嫌がるから絶対に言わないけれど、俺はそれくらい参ってしまっているのだ。 954 時緒🍴自家通販実施中TRAINING美佳ちゃんが煙草の香りに思うこと。宜野座さんと狡噛さんはちょろっと出演で気持ち常霜です。800文字チャレンジ18日目。見かえしてやるんだわ(煙草の香り) 私が公安局に勤め出した時、歳は二十にもならなかった。桜霜学園の教育方針に半ばか逆らうようにして公安局入りした私を守ってくれる人などは誰もいなかった。伝説の事件を解決した先輩とはソリが合わず、かといって移動するわけにもいかず、私は自分が埋もれてゆく気がした。でもそれよりも私を揺さぶったのは、一人の男の存在だった。 彼の名前は宜野座伸元という。以前は私と同じ監視官をして、先輩が解決した事件で執行官堕ちした人間。ずいぶん優秀だったのよ、とは二係の青柳監視官の言だが、彼女は宜野座さんと同期というから信用はならない。ただ、多くの猟犬を一人でコントロールして、一人も死なせなかったというのは、私の興味を引いた。私はその頃の宜野座伸元の日誌を読むことにした。別に先輩に言う話でもないし、宜野座さんに許可を取るものでもないから、無断で読んだ。そこにはいつもより厳しい、私の前でいつも笑っている彼とは違う、苛烈な男の人生が描かれていた。 977 時緒🍴自家通販実施中TRAINING出島のマーケットを夜歩く話。800文字チャレンジ17日目。月のない夜(あなたのいる夜) 出島は景観整備がほとんどされていないから、夜にマーケットを歩くとほとんど空に月はない。星もないし、店から登る湯気や、煙草の煙なんかで薄くけぶっている。けれど俺はその風景が好きだった。それこそが彼が日本に戻ってきた理由のような気がして。 狡噛が日本に戻って再び寝るようになった時、彼はここでは月は見えないのだなと、少し寂しそうに言った。そりゃあそうだろう、彼が道を作るように進んでいた発展途上国には夜には明かりはない。みな早くに寝て、早くに起きて仕事をする。こんなふうに夜を楽しむのは、電気が通っているところだけだ。 「飲んで帰るか?」 「今日はそうするか」 花城と離れたら本当はすぐにでも官舎に戻らねばならないのに、俺たちは彼女の監視がルーズなのをいいことに聞きなれない言葉を話す店主に勧められて、読めもしない文字が書かれたビールを二本頼んだ。狡噛はそれを温かい夜にぐいぐい飲んで身体を暖かくして、俺の指先に、ベンチに手を置くふりをして触った。俺もそれに同じように触った。あたりにはまだ人がいて、月はなくて、通りに掲げられたぼんやりとした明かりだけが夜市を照らしていた。美しい夜だった。 867 時緒🍴自家通販実施中TRAINING征陸さんとお母さんのオルゴールと狡噛さんと宜野座さんのオルゴール。学生時代から外務省時代まで続いた二人のお話です。800文字チャレンジ15日目。オルゴール(あなたを思うということ) 父が母に贈ったプレゼントの中に、木箱を薔薇模様を彫ったオルゴールがある。母はもう意識を失ってしまったが、まだ薬を打ちつつ俺の世話をしてくれていた頃に、夜中そのオルゴールを鳴らしていたことがあった。エリーゼのために。ベートベンが愛した女のために書いた曲。父は音楽知識も豊富だったから、それを贈ることに何か意味があったのかもしれない。母と示し合わせた何かがあったのかもしれない。けれど俺はそれが分からないで、悲しい曲を夜中、空を見ながら聴く母を、家に帰って来ない父を、そしてそんな両親と暮らしていかねばならない自分を不安に思ったのだった。 だから狡噛がオルゴールをくれた時、それがエリーゼのためにだった時、俺は少し驚いた。何となく父を思わせるところのある彼は(会ったこともないというのに、狡噛は父に似たことをよく言った)、五年目の記念に、と進級したばかりの俺にそう言った。俺はいつものようにあたふたしてしまって、ちゃんと答えられなかったと思う。でもそれをもらった時、俺はもしかしたら、二人に別れが来るかもしれない、と思わずにはいられなかった。狡噛を思って、空を見上げながらオルゴールを鳴らす時が来ると思わずにはいられなかった。そして数年後に、それは現実となったのだった。 936 時緒🍴自家通販実施中TRAINING狡噛さんちに初めて泊まる日は案外くだらなことがきっかけだった、というお話。800文字チャレンジ14日目。友人以上恋人未満(恋人以上友人未満) 友達だ、と意識するのにはそれほど時間はかからなかったし、恋人だ、と意識するのにもそれほど時間はかからなかった。狡噛は同級生で友人で恋人で、いつかパートナーになる男だって俺は真剣に思っていて、だから恋人になるまでの焦ったいラブコメディ映画の感覚なんて、俺は彼と一緒にいても分からなかった。 苦しく思うようになったのは、むしろ彼と恋人になってからだった。彼が他の誰かと喋っているだけで苦しい、彼が他の誰かから告白されているだけで苦しい、狡噛は夜寝る前に必ず俺におやすみの挨拶と愛してるの挨拶をしてくれるが、俺はその贅沢なメッセージをもっても、学校が始まるまで悶々とした。学校が始まってもデバイスを見ては悶々とした。恋人ならずっとデバイスを繋げて寝て、起きて挨拶をするのに、狡噛はなぜかそれをしてくれなかったからだ。これはまぁ、同じクラスの女子たちで流行していることなので、狡噛は知らないのかもしれないけれど。 826 時緒🍴自家通販実施中TRAINING思ったより父親の思い出がない宜野座さんが自分たちのことも忘れてしまうのかもなと悩むお話。800文字チャレンジ12日目。たぶん、僕は忘れてしまうだろう 父との思い出はほとんどない。元々あの人は家に帰らない人だったからかもしれないが、例えばセーフハウスで過ごした日々が俺の一生の思い出になったように、俺がずっと覚えていられるのは、ほんのわずかなものなのだろう。今日狡噛が俺の髪の毛を褒めてくれたこととか、筋肉の付け方を教えてくれたこととか、夜は旅先で覚えた料理をしようと約束してくれたこととかは、俺は多分すぐに忘れてしまうのだろう。大切にしているセックスの最中に言われた言葉も最近じゃルーティーンになってあやふやだし、俺が本当に覚えているものは、彼に捨てられた時のことだとか、彼と再会して初めてキスをした時のことなどだった。印象的なことしか、俺の頭は覚えていてくれない。それが苦しみを含むものであっても、覚えていてくれない。ただ幸せな思い出だけを、この頭は覚えていてはくれない。 930 時緒🍴自家通販実施中TRAINING最終考査が終わって旅行に行く学生時代の狡宜です。東北に行きます。800文字チャレンジ11日目。冬の星座(モラトリアムのキス) 学生時代、最終考査を終えて二人で旅行に行ったことがある。本当は大人の許可が必要で、IDだって就業証明があるものじゃなきゃいけなかったのだが、狡噛はどこかに手を回して(多分廃棄区画だろう)本物と見紛うばかりのIDを俺に用意した。旅行先に選んだのは、東北に近い、人が住むぎりぎりの地区だった。もう少し行けばハイパーオーツ畑といったところだ。そこはひなびた温泉宿で、女将も不思議がっていた。もうここらには何もありませんよ。名物の祭りもあったんですけどねぇ、シビュラシステムの命令で、みぃんな宿を仕舞ってしまって。私ももうそろそろ終わりにする予定です。 美味しい料理をたくさん食べて、掛け流しの湯に浸かって、そのまま寝るのかと思ったら、狡噛は俺を散歩に誘った。女将は懐中電灯を持たせてくれたのだが、それはとても狡噛の散歩には役に立った。何せ彼は林の中の一本道を歩き、光などなかったから。 807 時緒🍴自家通販実施中TRAINING監視官時代から外務省時代まで。変わったことと変わらないことがある二人の話。800文字チャレンジ10日目。抱きしめたい(雑踏) 俺たちを知らない人しかいない雑踏の中で、不意に抱き締められることがあった。信号が赤に変わって、立ち尽くすしかない時に、彼は後ろから俺を抱き締め、甘えるように鼻をこするのだった。周りの人間は何も言わない。だって俺たちはただの通りすがりで、狡噛慎也と宜野座伸元が抱き合っているなんて、誰も知るところにないから。あの時、狡噛が何を考えていたのかは分からない。ただ見知らぬ誰かに俺を自分のものだと主張するのが、彼の幼い独占欲であることは分かった。でも、俺なら自分を知る人の前でも抱き合えるのに、彼はそうではないらしい。 「あなたたちって、本当によくくっつくわね。そんなに寒いの? 部屋の温度を上げましょうか?」 935 時緒🍴自家通販実施中TRAINING学生時代の狡噛さんと宜野座さんのラブレターにまつわるお話。800文字チャレンジ9日目。手紙(ラブレター) 狡噛は変にアナクロなところがある男だった。授業はほとんど重ならなかったが、教師の講釈をタブレットにまとめるでなくノートに書き写したり、そして今ではほとんど見ない小説を読んでいたり。だからからなのか、狡噛にかぶれた少女たちは、彼と同じ本を読みたがった。そしてその本に感化された少女たちは、狡噛に手紙を書くのだった。愛しています、好きです、そんな簡単な、けれど想いを込めたラブレターを書くのだった。狡噛の靴箱には、いつだってラブレターが詰まっていた。俺はそれに胸を痛めながら、彼が学生鞄にそれを入れるのをじっと見た。そしてその手紙はどこに行くのだろうかと、俺は思うのだった。 彼の同級生がいたずらを思いついたのは、狡噛があまりにもラブレターをもらっていたからだろう。ラブレターで狡噛を呼び出して、待ちぼうけさせてやろう、という馬鹿ないじめだった。全国一位の男には敵わないから、せめてそんな男でも手に入れられないものがあることを教えてやる、ということなのだろう。俺は話を聞いても、それを狡噛には伝えなかった。ただ俺は狡噛が傷つくとどうなるのか少し気になった。そんなこと、どうでも良いことなのに。 1008 時緒🍴自家通販実施中TRAINING宜野座さんが好きと気づいた時の狡噛さんは混乱したのか、たくさん読んだ本の言葉をようやく理解したのかというお話。800文字チャレンジ8日目。一目惚れ(あなたに気づいた日) 狡噛は俺の名前すら知らなかった。顔も何も知らなかった。ずっと学力考査で彼の二番手についていたというのに、この男は俺が殴られているところを見るまで宜野座伸元を認識しなかった。最初のうちはムカついたし、彼の他人への無関心さには驚いたが、付き合うちに狡噛の欠けた部分に気づいた。そしてそれを補おうとして、興味を持った他人に傾倒していく様とか。 佐々山を追いかけて、今のようになってしまった友人は、誰に習ったのかも分からない言葉で俺に愛をささやく。 「ギノ、お前が欲しがってた食パン」 ある日狡噛は紙袋に入ったそれを一斤俺に渡した。聞けば情報屋を使い走りに使ったのだという。駄賃を持たせたから大丈夫だと彼は言うが、そんな問題ではない。 909 時緒🍴自家通販実施中TRAINING狡噛さんが熱を出して仕事を休む話。令和なので感染するようなことは(ほとんど)しません。鬼の霍乱です。800文字チャレンジ7日目。熱(高熱) 狡噛が高熱を出した。 それは普段から不摂生をしている彼にとっては当然のことのようにも思えたし、彼のあまりにも強い生命力を知っている身からすると、鬼の霍乱ではないかとも思った。今彼は俺とは離れて自室のベッドで養生している。すぐにでも訪ねたい気分だったが、二人も倒れられては困るから、見舞いには行くなとの花城に命令された。だったら俺はじっとしているしかない。彼の分のデスクワークが回って来たから、そんなに日まではなかったのだけれども。 狡噛の熱は三日ほど続いた。その間も連絡は取らなかった。デバイスを使えば接触せずとも語り合えるというのに、彼の体力が削られることを恐れて見舞いの言葉は送らなかった。なんて不誠実な恋人なのだろうか。そうは思ったものの、見舞いの言葉なんて限られている。いくらか身体を気遣って、最後はお大事に、だ。花城が面会を止めるくらいの高熱なのだから苦しいに決まっている。そんな中で定型文を読ませたくない。 1275 時緒🍴自家通販実施中TRAINING怪我をした狡噛さんとそれ以来悪夢を見るようになった宜野座さんの話。一人で乗り越えられるけど一緒にいたいな〜という感じのお話です。800文字チャレンジ6日目。昨日見た夢(花の銃弾) 夢見が悪くなったのは、狡噛が俺を庇って怪我をした日からだった。怪我自体は大したものではなかった。ただの銃弾のかすり傷だ。だがその場所が問題だった。こめかみ、もう数ミリずれていたら、失明どころか命さえ危うかったところ。狡噛はこんなのは紛争地帯じゃ日常茶飯事だと笑っていた。しかしそんな場所を知らない俺にとっては、やはり恐怖でしかなかった。 夢の内容は色々だ。狡噛が死んでしまうものが多いが、彼がそもそも俺の人生に存在しなかったものもあった。その世界では俺は無事に監視官を務め上げて厚生省の官僚となっていた。ただ父と和解することは最後までなく、彼は現場で死んでいたが。夢の話は狡噛には話さなかった。ただでさえ縁起が悪いし、それほどまでに弱っていると見られたくなかった。もちろん花城にも話していなかったのだが、彼女はどうしてか目の下にクマを作った俺を呼び出すと、よく眠れるサプリメントよと、私も使っているのと錠剤を渡してくれた。俺は眠るのが怖いんだ、と言った。花城はそれを聞いてこれは重症だといった顔をしたが、それ以上追及しなかった。狡噛と話し合え、ということなのだろう。 1165 時緒🍴自家通販実施中TRAINING二人は人前で仕事のこと以外喋っているのか問題。二人きりの時にしか喋らないのか案外そうでもないのか…。ちょっとすけべです。800文字チャレンジ5日目。ありがとう(おしゃべりはベッドの中で)「あなたたちって、本当に何も喋らないのね。あ、私とじゃなくて、あなたたち二人きりの時の話」 花城はそう言うと、出島のカフェテリアの中でレモンティーを傾けた。もう底に甘ったるい砂糖が残っているだけで、後はほとんどが水だ。俺はそんな上司の言葉を受けて、彼女の買い物に付き合ったことにやや後悔した。狡噛も同じだっただろう。仕事があるからと来なかった須郷だけが、このややこしい状況から逃れられたのだから羨ましい。 「女の買い物に言葉は必要か?」 「違うわよ、あなたたちが二人きりで何も喋らないのが問題ってこと! 良いカップルカウンセラーを紹介しましょうか? 解決するかも」 狡噛はそんなやりとりを花城として、苦い顔になってコーヒーを飲み干した。ここでは大分時間を潰した。そろそろ官舎に戻る時間だ。まぁ、そんなわけで、俺たちは部屋に戻った、のだが。 1037 時緒🍴自家通販実施中TRAININGバラで宜野座さんと仲直りしようとする狡噛さんのお話。800文字チャレンジ4日目。狡噛さんはかっこ良すぎるからかっこ悪いくらいがちょうどいいなぁと思いました。花束(花束を君に) バラの花束を抱えて帰って来た恋人に、俺は声が止まりそうになった。というか実際止まった。俺の目は一瞬で品種を見分け(オクラホマだった)、その赤い色から花言葉を探った。あなたを愛します。つぼみがあるから純粋な愛に染まるって意味もある? 狡噛は言葉をなくして突っ立っている俺に、「花売りに押し付けられて」と言った。顔色は変わらない。ならばそうなのだろう。基本的に俺に言い訳はしないし嘘もつかない男だし、だったら哀れな花売りに頼まれて買ったのだろう。時刻はそろそろ十二時過ぎで客も途切れる頃合いだ。 俺はバラを受け取って、とりあえず花をまとめるリボンを解いて包んであった紙を畳んで捨てて、棘がそげ落とされて縛られた茎をハサミで切るべくキッチンに向かった。狡噛は俺についてきて冷蔵庫でビールをあさっている。今日は青島ビール、軽いものがお好みらしい。 943 時緒🍴自家通販実施中TRAININGお母さんが亡くなった時、海に行った宜野座さんの話。思い出の全ては狡噛に支配されていて消えられない苦しさ。執監時代。800文字チャレンジ3日目。波打ち際(サマータイム) 恋人と行きたいデートスポットは? もちろん海です、夏の海はロマンチックだもの。俺はそんな若い女の感想を耳にしながら、やがて海を模したプールの宣伝に変わってゆくコマーシャルを一つ無人タクシーの中で見た。途中でナイアガラの滝が出てきた時は笑ってしまったが(あれは川だ)高濃度汚染水で満たされていると分かっていても、彼女らにとっては海は憧れの場所なのだろう。 狡噛が読んでいた本にも海を賛美するものは多かった。詮索はしなかったけれど、事実彼は泳げもしない海を眺めに行っているようだった。誰かに影響されやすい、可愛らしい恋人。 俺は今、母の遺体を引き取りに沖縄に来ていた。そして何かに導かれるように、全てを終わらせると海に行った。多分、学生時代に俺の母の出身が沖縄と聞いた狡噛が、きっと色なんて全然違うんだろうなななんて、そんな馬鹿げたことを言ったからだった。その頃は俺は監視官で狡噛は執行官だったから、俺は意固地になって言わなかったが、彼の言葉はいつだって俺の中にあった。 866 時緒🍴自家通販実施中TRAINING喧嘩した二人の話。仲直りしようとする狡噛さんだったが…?!編。狡宜800文字チャレンジ2日目。いじわる(意地の悪い恋人について) ギノは意地が悪い。たとえばどちらも悪いような喧嘩をした後、彼は数日に渡って視線をそらし、あからさまに俺を避け、そしてデバイスのメッセージすら無視する。そしてその数日間俺は彼に触れることすら出来なくて、ようやく拝み倒してベッドに沈む頃には、もう一週間が過ぎていたりする。俺はこれでも彼を尊ぶようにしているつもりなのだが、どうやら、小さな一言が彼を傷つけてしまったりするようだ。二十年付き合ってそれが分からないというのだから笑ってしまうが、法律家にでも相談すればこれは内縁の夫に対する離婚事案らしいのだから恐ろしくて聞けはしないし詮索もしないのだが。 そして今日も喧嘩をしてしまった俺は途方に暮れてギノの部屋のドアを叩く。通常市民は犯罪者を恐れず鍵を開けっぱなしにするが、移民の多い出島ではかつて東南アジアで見たような、何十にも錠前をつけるのが主流だった。ギノは移民ではないけれど、どうも俺は敵対勢力と見られている気がする。彼を傷つけるもの、彼の辛い記憶を呼び覚ますもの、なぁ、それでも愛していてくれよ。俺はそう願って、「ギノ」とインターフォンに呼びかける。音声は返ってこない。しかし鍵は開いて、俺はあぁ良かったと思い、そして何も手土産のない自分を思い出しこれは説得に時間がかかるぞ、と頭を抱えた。せめて酒くらい持ってくればよかった。 978 時緒🍴自家通販実施中TRAINING甘々狡宜。800文字チャレンジをやろうかなと思って…どうなるかは謎です!出会いを語りたがらない宜野座さんと無口なちょっと可愛い狡噛さんとフレ様。須郷さんもいる設定ですが出て来ません…。Boy Meets Girl(天使の話) 狡噛に初めて会った時の話は誰にもしたことがない。そもそも喧嘩でボコボコにされたところを助けられたというのが監視官時代には不恰好に思えたし、同じ上司のもとで対等に働く今となっては笑い話 ともいかないのが俺の駄目なところだった。役噛は多分、出会いを秘密にしたがる俺をからかわないだろう。それに俺がみじめに殴られていた話なんて彼からすることはないだろうし、たとえ俺がしたって乗ってはこないだろうけれど。 でも、俺は今彼とともに上官と仰ぐ花城に「二人の出会いは?」と真正面から尋ねられていたのだった。それもしたたかに酔っ払って、手がつけられないくらいになった彼女に。また上層部から厄介ごとを押し付けられてしまってやけ酒に走る彼女に。 850 12