銃声は一度きり。 ぼんやりとしていた意識が突然覚醒する。身体中が痛い。顔が冷たくて寒くて、髪から滴る水と目の前に転がる空のバケツを視界に捉えて、顔に水を掛けられたのだと理解した。上手く動かない身体で冷静に状況を整理する。どうやら椅子に座らされた状態で、後ろ手に縛られているらしい。がっちりと背凭れに固定されている。
「起きたか。気絶には早いもんな?」
頭上から聞こえてきた声の主を見上げる。男のようだが、電灯の逆光で顔はよく見えない。暗い部屋で窓は無い。どうやら地下室のようだ。
そうだ、“仕事”の途中で敵勢力にかち合って口論になったんだ。いつもだったら安い挑発なんかには乗らないし、余計な争いも避けるのに。その時は一緒に居たはぐみにちょっかいを出してきたものだから、あたしもムキになってつい少しだけやり返してしまった。結果仲間を呼ばれて、この有様だ。はぐみは逃げられたかな。いや、人の心配をできるような状況じゃないんだけどさ。
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