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TRAININGむざこく30本ノック③6日目
吸血鬼パロディ
大好きなインタビュー・ウィズ・ヴァンパイアから、設定をいっぱいパクってきたよw
吸血鬼パロディ 幼き日より自分の隣には常に「死」が纏わりついていた。
それは姿も匂いも音もなく近付いてきて、身近な人を次々と奪っていく。
祖父母を、両親を、兄弟を、立て続けに流行り病で亡くし、天涯孤独の身でありながら、家族の遺した財産で、住まいを移し、牧場の経営を始めた。経営が安定し始め、妻を迎え、穏やかで裕福な生活を送って、やっと「死」から逃げられたと思ったが、今回は身重の妻を「死」に奪われた。それは自分が仕事の為に首都に向かった、たった数日、家を空けた時のことであった。
こんな田舎町では珍しい猟奇的な殺人事件であった。当時、家にいた使用人も皆殺しにされた上、妻は腹を切られ、胎盤ごと子供が抉り出されていた。
3012それは姿も匂いも音もなく近付いてきて、身近な人を次々と奪っていく。
祖父母を、両親を、兄弟を、立て続けに流行り病で亡くし、天涯孤独の身でありながら、家族の遺した財産で、住まいを移し、牧場の経営を始めた。経営が安定し始め、妻を迎え、穏やかで裕福な生活を送って、やっと「死」から逃げられたと思ったが、今回は身重の妻を「死」に奪われた。それは自分が仕事の為に首都に向かった、たった数日、家を空けた時のことであった。
こんな田舎町では珍しい猟奇的な殺人事件であった。当時、家にいた使用人も皆殺しにされた上、妻は腹を切られ、胎盤ごと子供が抉り出されていた。
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TRAININGむざこく30本ノック③5日目
アイドル無惨様×リーマン巌勝
アイドル無惨様×リーマン巌勝「頭を垂れて蹲え、平伏せよ」
「無惨様ぁー!!!!!!」
今日も無惨の前には「鬼」と呼ばれるファンがひれ伏している。類い稀なる美しい容姿は男女問わず大人気の為、皆が大きなうちわに「罵って」「踏みつけて」「餌にして」と書いて無惨に向けて振っている。どうやら、それらがファンサービスらしく、「上弦会議」と呼ばれる握手会では無惨にクリスチャン・ルブタンの靴で踏まれることを望むファンが後を絶たず、無惨も容赦なく踏みつけにする為、ファンは「最後に何も言い残すことはない、私を鬼にしてくれてありがとう」と魂を抜かれた状態で、スタッフに引きずられながら帰っていくのだ。
この継国巌勝も、そのファンのひとりだ。
高校時代に偶然、友人に誘われて武道館ライブに行ったのだが、そこから無惨の大ファンになり、大学、そして社会人になっても「無惨最推し」と書いた法被を着てライブに行っているのだ。
3181「無惨様ぁー!!!!!!」
今日も無惨の前には「鬼」と呼ばれるファンがひれ伏している。類い稀なる美しい容姿は男女問わず大人気の為、皆が大きなうちわに「罵って」「踏みつけて」「餌にして」と書いて無惨に向けて振っている。どうやら、それらがファンサービスらしく、「上弦会議」と呼ばれる握手会では無惨にクリスチャン・ルブタンの靴で踏まれることを望むファンが後を絶たず、無惨も容赦なく踏みつけにする為、ファンは「最後に何も言い残すことはない、私を鬼にしてくれてありがとう」と魂を抜かれた状態で、スタッフに引きずられながら帰っていくのだ。
この継国巌勝も、そのファンのひとりだ。
高校時代に偶然、友人に誘われて武道館ライブに行ったのだが、そこから無惨の大ファンになり、大学、そして社会人になっても「無惨最推し」と書いた法被を着てライブに行っているのだ。
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TRAININGむざこくアドベントカレンダー24日目
Merry Christmas
Merry Christmas クリスマスだと言って何も変わったことはない。街中の浮かれた雰囲気を恨めしげに見る二人にとって、12月24日はクリスマスイブではなく、年末の忙しい1日である。
訪れる先では笑顔で「メリークリスマス!」と挨拶をするが、他人の目が無ければ二人揃って大きな溜息を吐き、疲労困憊の表情に戻る。
「一応聞くけど、プレゼント何が欲しい」
「休みが欲しいです……」
「却下」
二人は再び大きな溜息を吐き、次のスケジュールへと向かう。
サンタの格好をした無惨と、トナカイの角をつけた黒死牟が児童館で子供たちにお菓子を配るイベントを終えると、やっと午前の予定が終わる。時計を見ると午後2時である。
「腹が減った」
「同じく」
二人は近くのカフェに入り、パスタセットを頼み、無惨はジェノベーゼ、黒死牟はナポリタンをチョイスする。
2143訪れる先では笑顔で「メリークリスマス!」と挨拶をするが、他人の目が無ければ二人揃って大きな溜息を吐き、疲労困憊の表情に戻る。
「一応聞くけど、プレゼント何が欲しい」
「休みが欲しいです……」
「却下」
二人は再び大きな溜息を吐き、次のスケジュールへと向かう。
サンタの格好をした無惨と、トナカイの角をつけた黒死牟が児童館で子供たちにお菓子を配るイベントを終えると、やっと午前の予定が終わる。時計を見ると午後2時である。
「腹が減った」
「同じく」
二人は近くのカフェに入り、パスタセットを頼み、無惨はジェノベーゼ、黒死牟はナポリタンをチョイスする。
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TRAININGむざこくアドベントカレンダー23日目
全て夢
全て夢 鬼は眠らない。それは無惨も含めて。
日の高い時間に暗闇で潜伏している時間であっても決して眠ることはない。
そもそも人間の三大欲求がすべて欠落しているのだ。誰が好き好んで人間など食いたいものか、生き残る為、強くなる為に食うだけであり、食ったところで旨いだなんて思わない。性欲もそうだ。永遠の命と若さを持つ鬼にとって繁殖は必要ない。睡眠もそうだ。無尽蔵の力を持つ鬼にとって回復という言葉は無縁、傷だって、その場で癒えてしまう。
生物が生命を維持する為に必要な欲求がごっそり抜けてしまっているが、酔生夢死の生活を送ることはないのは、偏に無惨が強引に尻を叩き続けているおかげもあるだろう。
「寝る間も惜しんで働け」
2342日の高い時間に暗闇で潜伏している時間であっても決して眠ることはない。
そもそも人間の三大欲求がすべて欠落しているのだ。誰が好き好んで人間など食いたいものか、生き残る為、強くなる為に食うだけであり、食ったところで旨いだなんて思わない。性欲もそうだ。永遠の命と若さを持つ鬼にとって繁殖は必要ない。睡眠もそうだ。無尽蔵の力を持つ鬼にとって回復という言葉は無縁、傷だって、その場で癒えてしまう。
生物が生命を維持する為に必要な欲求がごっそり抜けてしまっているが、酔生夢死の生活を送ることはないのは、偏に無惨が強引に尻を叩き続けているおかげもあるだろう。
「寝る間も惜しんで働け」
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TRAININGむざこくアドベントカレンダー22日目
待ちぼうけ
待ちぼうけ この鬼舞辻無惨を待たせることが出来る男は、この世でひとりしかいない。
気の短い無惨が既に15分も待っているのだが、いかんせん電話も繋がらず、LINEの既読もつかないとなると「帰る」と一言伝えることが困難に思え、向こうから何らかの連絡があるまで待ってみようと思った。
開放的なホテルのカフェラウンジ。一面ガラス張りになった外の景色を見ると、美しく整えられた庭園があり、高い天井から吊り下げられた豪奢なシャンデリアも含め、景色がとても良かった。その上、椅子の座り心地も悪くない。
ウェイターを呼び止め、ぬるくなったコーヒーを改めて注文しなおした。スマホばかり見ているのも何と無くみっともない気がして、鞄の中から読みかけの文庫本を取り出した。
2039気の短い無惨が既に15分も待っているのだが、いかんせん電話も繋がらず、LINEの既読もつかないとなると「帰る」と一言伝えることが困難に思え、向こうから何らかの連絡があるまで待ってみようと思った。
開放的なホテルのカフェラウンジ。一面ガラス張りになった外の景色を見ると、美しく整えられた庭園があり、高い天井から吊り下げられた豪奢なシャンデリアも含め、景色がとても良かった。その上、椅子の座り心地も悪くない。
ウェイターを呼び止め、ぬるくなったコーヒーを改めて注文しなおした。スマホばかり見ているのも何と無くみっともない気がして、鞄の中から読みかけの文庫本を取り出した。
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TRAININGむざこくアドベントカレンダー21日目
サングラスを取ったら
サングラスを取ったら「お疲れ様でーす……」
気だるげに事務所のドアを開けると、室内には誰もいなかった。年度末で忙しい時期だと皆がバタバタしており、獪岳は期末考査が終わり、明日から休みに入る為、久し振りに事務所に顔を出したのだ。
いつもなら誰かしらがいて、お菓子を食べるか、ジュースでも飲んで帰れば? と声をかけてくれるが、静かな室内は何と無く寂しくて寒くて、獪岳はそのまま帰ろうとしたが、来客用のソファから静かな寝息が聞こえた。
ゆっくりと足音を立てずに近付くと、あの黒死牟がソファで横になって眠っている。
普段なら獪岳が入ってきた時点で気付く筈だが、全く気付かず熟睡しているようだ。忙しい時期は2徹、3徹当たり前で、自宅に帰る時間すらなく風呂だけ入りに行くと言っていたので、仮眠のつもりが寝入ってしまったのだろう。
1764気だるげに事務所のドアを開けると、室内には誰もいなかった。年度末で忙しい時期だと皆がバタバタしており、獪岳は期末考査が終わり、明日から休みに入る為、久し振りに事務所に顔を出したのだ。
いつもなら誰かしらがいて、お菓子を食べるか、ジュースでも飲んで帰れば? と声をかけてくれるが、静かな室内は何と無く寂しくて寒くて、獪岳はそのまま帰ろうとしたが、来客用のソファから静かな寝息が聞こえた。
ゆっくりと足音を立てずに近付くと、あの黒死牟がソファで横になって眠っている。
普段なら獪岳が入ってきた時点で気付く筈だが、全く気付かず熟睡しているようだ。忙しい時期は2徹、3徹当たり前で、自宅に帰る時間すらなく風呂だけ入りに行くと言っていたので、仮眠のつもりが寝入ってしまったのだろう。
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TRAININGむざこくアドベントカレンダー20日目
巌勝少年と無惨様
無惨様の年齢設定は大人でも子どもでも良いですが、是非ハピエンで…
巌勝少年と無惨様 無惨様の年齢設定は大人でも子どもでも良いですが、是非ハピエンで… 春休みに父に連れられ、東京に遊びに来ていた時だった。
仕事が忙しく全く構ってくれない父の代わりに、父の秘書が気を遣って遊園地に連れてきてくれた。だが、中学2年にもなって、オッサンと二人で遊園地に来ても楽しくとも何ともない。こんなことなら東京になど来るのではなかったと思うが、父はパーティーで自分を見せびらかしたかったようで、どうしても来るしかなかったのだ。
「飲み物でも買ってきますね。何が良いですか?」
「アイスコーヒー」
「畏まりました!」
秘書が売店に向かった隙に、その場を離れて、ひとりで園内をぶらつくことにした。
同じだったら、浦安のあのテーマパークに連れてきてくれたら良いのに、どうしてこんな山間部の田舎の遊園地に連れてくるのか、どこまでもセンスの悪い男だと思っていた。
2145仕事が忙しく全く構ってくれない父の代わりに、父の秘書が気を遣って遊園地に連れてきてくれた。だが、中学2年にもなって、オッサンと二人で遊園地に来ても楽しくとも何ともない。こんなことなら東京になど来るのではなかったと思うが、父はパーティーで自分を見せびらかしたかったようで、どうしても来るしかなかったのだ。
「飲み物でも買ってきますね。何が良いですか?」
「アイスコーヒー」
「畏まりました!」
秘書が売店に向かった隙に、その場を離れて、ひとりで園内をぶらつくことにした。
同じだったら、浦安のあのテーマパークに連れてきてくれたら良いのに、どうしてこんな山間部の田舎の遊園地に連れてくるのか、どこまでもセンスの悪い男だと思っていた。
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TRAININGむざこくアドベントカレンダー19日目
弟
弟 彼は私を抱く時、必ず私を褒めた。
「お前は私の月だ」
そう言いながら、まるで宝物を愛でるように、私の手首にキスをする。
美しい、お前は完璧だ、お前より優秀な存在はいない、こちらが恥ずかしくなるくらい、浮かれて色々と褒めそやす。短い夜を盛り上げる為のテクニックなのかもしれないが、彼が自分を褒め、求めてくると不安で堪らなくなるのだ。
自分は最高の人間などではない。
自分より優れた人間が間近にいたことを彼に黙っている嘘吐きなのだと。
あれは寒い冬の日だった。
詰襟姿の自分は白い息を吐きながら、合格番号の掲示を見守っている。
自分の近い番号を見つけ、そこからひとつずつ進めていく。
周囲の歓声や泣き声が全く聞こえないほど、白い紙に記された番号をじっくりと見入っていた。
2094「お前は私の月だ」
そう言いながら、まるで宝物を愛でるように、私の手首にキスをする。
美しい、お前は完璧だ、お前より優秀な存在はいない、こちらが恥ずかしくなるくらい、浮かれて色々と褒めそやす。短い夜を盛り上げる為のテクニックなのかもしれないが、彼が自分を褒め、求めてくると不安で堪らなくなるのだ。
自分は最高の人間などではない。
自分より優れた人間が間近にいたことを彼に黙っている嘘吐きなのだと。
あれは寒い冬の日だった。
詰襟姿の自分は白い息を吐きながら、合格番号の掲示を見守っている。
自分の近い番号を見つけ、そこからひとつずつ進めていく。
周囲の歓声や泣き声が全く聞こえないほど、白い紙に記された番号をじっくりと見入っていた。
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TRAININGむざこくアドベントカレンダー18日目
動物園でデートする二人
動物園でデートする二人 パンダが見たい。
無惨が突然、そんなことを言い出した。
実際付き合うようになり、無惨がそういうことを言い出す時は王道を絶対に外す。なので、「上野動物園」ではないことは解ってきた。
あぁ、だとすれば、和歌山のアドベンチャーワールドだな、白浜温泉に寄って帰るのか、と黒死牟も無惨の狙いが読めるようになってきたと勝ち誇った表情をするが、三択の答えは、まさかの「王子動物園」だった。
「王子動物園ですか…?」
確かに王子動物園にもパンダはいる。何だか裏をかかれた気がして、黒死牟はムッとした表情をする。そんな黒死牟の表情を嬉しそうに見ながら、二人は次の休日、新神戸駅まで新幹線で向かい、タクシーで王子動物園へと向かった。
2001無惨が突然、そんなことを言い出した。
実際付き合うようになり、無惨がそういうことを言い出す時は王道を絶対に外す。なので、「上野動物園」ではないことは解ってきた。
あぁ、だとすれば、和歌山のアドベンチャーワールドだな、白浜温泉に寄って帰るのか、と黒死牟も無惨の狙いが読めるようになってきたと勝ち誇った表情をするが、三択の答えは、まさかの「王子動物園」だった。
「王子動物園ですか…?」
確かに王子動物園にもパンダはいる。何だか裏をかかれた気がして、黒死牟はムッとした表情をする。そんな黒死牟の表情を嬉しそうに見ながら、二人は次の休日、新神戸駅まで新幹線で向かい、タクシーで王子動物園へと向かった。
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TRAININGむざこくアドベントカレンダー17日目
ドキッ!男だらけの◯◯
※注意※
無惨様と珠世さんが元夫婦で、童磨君はしのぶちゃんのことが好きな世界。
ドキッ!男だらけの◯◯ まさかの出来事に、童磨はキラキラした笑顔を浮かべつつ、背中に冷たい汗を流している。それもそうだろう。隣にいる彼の先輩、鬼舞辻が物凄い形相で童磨を睨んでいるのだから。これは「激おこぷんぷん丸」なんて可愛いレベルではないだろう。本気で殺される、童磨は死を覚悟した。
「童磨、ちょっと……」
「はい……」
鬼舞辻は童磨の首根っこを掴んで部屋を出る。
「ごめんねー! すぐ戻るからねー!」
と笑顔で手を振るが、本当にこの部屋に戻れるだろうか……と童磨は、幼い頃の記憶を走馬灯のように脳裏に流していた。
今日は受付嬢や秘書など、所謂「きれいどころ」が来る、と童磨が幹事となり、この合コンをセッティングしたのだ。「美人が来ますよー」と具体的なことは何も言わず、まぁ、童磨がそう言うし……と、こちらも選りすぐりのイケメンを集めた。そのひとりが鬼舞辻である。
2720「童磨、ちょっと……」
「はい……」
鬼舞辻は童磨の首根っこを掴んで部屋を出る。
「ごめんねー! すぐ戻るからねー!」
と笑顔で手を振るが、本当にこの部屋に戻れるだろうか……と童磨は、幼い頃の記憶を走馬灯のように脳裏に流していた。
今日は受付嬢や秘書など、所謂「きれいどころ」が来る、と童磨が幹事となり、この合コンをセッティングしたのだ。「美人が来ますよー」と具体的なことは何も言わず、まぁ、童磨がそう言うし……と、こちらも選りすぐりのイケメンを集めた。そのひとりが鬼舞辻である。
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TRAININGむざこくアドベントカレンダー16日目
御伽噺
御伽噺「鏡よ、鏡」
無惨がそう呼びかけると、壁掛けの古い鏡が不気味に光る。
「この世で一番美しく、強いのは誰だ」
「それは無惨様でございます」
「その通りだ」
誇らしげな無惨の顔が鏡に映る。この世で最も美しい容姿で人々を魅了し、そして誰よりも強い力で人々の命を踏み躙り、村を燃やし、女も子供も容赦なく殺してきた。
美しく傍若無人な王に人々は従うしかなかったのだ。
「ですが、無惨様。それは『今』の話であり、これから先は解りません」
「何を言っている」
宝石を散りばめた剣を鏡に向ける。しかし、鏡はそんな脅しに怯むことなく話を続けた。
「無惨様の美しさも強さも永遠ではありません。あと数年もすれば容色は衰え、若く優れた剣士が現れ、あっという間に無惨様の力を上回るのです」
1854無惨がそう呼びかけると、壁掛けの古い鏡が不気味に光る。
「この世で一番美しく、強いのは誰だ」
「それは無惨様でございます」
「その通りだ」
誇らしげな無惨の顔が鏡に映る。この世で最も美しい容姿で人々を魅了し、そして誰よりも強い力で人々の命を踏み躙り、村を燃やし、女も子供も容赦なく殺してきた。
美しく傍若無人な王に人々は従うしかなかったのだ。
「ですが、無惨様。それは『今』の話であり、これから先は解りません」
「何を言っている」
宝石を散りばめた剣を鏡に向ける。しかし、鏡はそんな脅しに怯むことなく話を続けた。
「無惨様の美しさも強さも永遠ではありません。あと数年もすれば容色は衰え、若く優れた剣士が現れ、あっという間に無惨様の力を上回るのです」
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TRAININGむざこくアドベントカレンダー15日目
ファンタジー
※注意※
縁壱とうたが付き合っています。二人とも出ています。
ファンタジー「もー! めちゃくちゃ大変だったんだよー!!」
へとへとになりながら、彼女は一枚の写真を巌勝に手渡す。
「悪い! 助かった!」
その写真を受け取り、巌勝は何度も頭を下げた。大きな溜息を吐き、彼女は困ったように眉を下げる。
「私が先輩のこと好きなんじゃないかって、皆に勘違いされたんだからね!」
「本当にごめん……だって、俺が買いに行くのも変かなって思って……」
「だからって……」
「うた、その辺にしてあげて」
縁壱に言われ、うたは苦笑いする。
「まさか、お兄さんが、こんな『おまじない』を信じるなんてねぇ……」
うたに言われ、巌勝は顔を真っ赤にする。そう、この学園には「生徒手帳に好きな人の写真を入れると一年後に両想いになれる」というジンクスがある。
2194へとへとになりながら、彼女は一枚の写真を巌勝に手渡す。
「悪い! 助かった!」
その写真を受け取り、巌勝は何度も頭を下げた。大きな溜息を吐き、彼女は困ったように眉を下げる。
「私が先輩のこと好きなんじゃないかって、皆に勘違いされたんだからね!」
「本当にごめん……だって、俺が買いに行くのも変かなって思って……」
「だからって……」
「うた、その辺にしてあげて」
縁壱に言われ、うたは苦笑いする。
「まさか、お兄さんが、こんな『おまじない』を信じるなんてねぇ……」
うたに言われ、巌勝は顔を真っ赤にする。そう、この学園には「生徒手帳に好きな人の写真を入れると一年後に両想いになれる」というジンクスがある。
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TRAININGむざこくアドベントカレンダー14日目
SF
※注意※
あまりに専門外過ぎて、それっぽいことを、それっぽく書いていますが、あまり深く読まないで下さい。
SF 目覚めると、まず、サイドテーブルに置かれた手紙に手を伸ばす。
それは年月の経過を感じさせる古く茶色くなった封筒と便箋。年月と共に色褪せてきた万年筆で書かれた文字を読むことが少年の楽しみであった。
自分の名前が「俊國」であること、病気がちに生んでしまって申し訳ないという謝罪、「黒死牟」の言うことを聞くこと、そして幸せになれ、と書かれていた。
「おはよう、お父様」
窓から差し込む朝日の中で、少年は古い手紙を胸に当てて呟く。
それが父からの手紙であると一言も書かれていない。しかし、少年は、その手紙の主を父親だと信じていた。
自分の幸せを願ってくれる存在は父に違いない、と。
実際、俊國には莫大な財産と、黒死牟という有能な執事を遺してくれていた。そろそろ部屋にやってくる時間だと思い、俊國はサイドテーブルに手紙を置いて、黒死牟がやってくるのを待った。
4374それは年月の経過を感じさせる古く茶色くなった封筒と便箋。年月と共に色褪せてきた万年筆で書かれた文字を読むことが少年の楽しみであった。
自分の名前が「俊國」であること、病気がちに生んでしまって申し訳ないという謝罪、「黒死牟」の言うことを聞くこと、そして幸せになれ、と書かれていた。
「おはよう、お父様」
窓から差し込む朝日の中で、少年は古い手紙を胸に当てて呟く。
それが父からの手紙であると一言も書かれていない。しかし、少年は、その手紙の主を父親だと信じていた。
自分の幸せを願ってくれる存在は父に違いない、と。
実際、俊國には莫大な財産と、黒死牟という有能な執事を遺してくれていた。そろそろ部屋にやってくる時間だと思い、俊國はサイドテーブルに手紙を置いて、黒死牟がやってくるのを待った。
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TRAININGむざこくアドベントカレンダー10日目
鉄人シボさんとトシクニくん(or小さいム様)
鉄人シボさんとトシクニくん(or小さいム様)「起きろ、黒死牟」
少年の声が頭上から聞こえる。うっすらと目を開けると、深い群青色の瞳が視界を支配する。その瞳の持ち主である少年が珍しそうに自分を覗き込んでいるのだ。
「黒死牟、早く起きろ。今日からお前は僕のボディーガードだぞ」
黒死牟、少年は自分をそう呼んだ。実際に目を開けた自分を見て、やや興奮気味のようだ。
「お父様の手紙通りだ! 黒死牟、お前は僕を守る為に生まれたアンドロイドらしいな!」
少々不可解な言葉を使う少年という印象だったが、黒死牟の中に、その少年を否定する言葉は存在しない。
「いかにも……初めまして、俊國様」
「僕を知っているのか!?」
「はい……」
黒死牟の胸の上に乗り、お父様はどうした、どうしてお前は生まれたのか等、矢継ぎ早に聞いてくる。
3074少年の声が頭上から聞こえる。うっすらと目を開けると、深い群青色の瞳が視界を支配する。その瞳の持ち主である少年が珍しそうに自分を覗き込んでいるのだ。
「黒死牟、早く起きろ。今日からお前は僕のボディーガードだぞ」
黒死牟、少年は自分をそう呼んだ。実際に目を開けた自分を見て、やや興奮気味のようだ。
「お父様の手紙通りだ! 黒死牟、お前は僕を守る為に生まれたアンドロイドらしいな!」
少々不可解な言葉を使う少年という印象だったが、黒死牟の中に、その少年を否定する言葉は存在しない。
「いかにも……初めまして、俊國様」
「僕を知っているのか!?」
「はい……」
黒死牟の胸の上に乗り、お父様はどうした、どうしてお前は生まれたのか等、矢継ぎ早に聞いてくる。
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TRAININGむざこくアドベントカレンダー6日目
初夜でプライドがなんか折れちゃう黒死牟
4、5日目からの続きです。
初夜でプライドがなんか折れちゃう黒死牟 運転席に戻ると、無惨も助手席に移動した。
「うちでいいか?」
「はい……」
照れながら返事し、シフトレバーをパーキングからドライブへと動かした。シフトレバーを握る自分の手にそっと無惨の指が添えられる。やや冷たい指先が火照った肌を冷やしてくれるので、とても気持ち良い。それに、無惨がいつになく嬉しそうにニコニコしているので、なんだか、こちらも落ち着かない。
何より、横に座られるとキラキラした輝きが直にやってくるので運転に集中出来ない。いつも嗅いでいるはずの香水の匂いですら興奮してしまい、必死に運転に意識を向けた。
無惨が議員宿舎とは別にこっそり借りているマンションに行き、二人はソファに並んで座った。
「では、改めて……」
2692「うちでいいか?」
「はい……」
照れながら返事し、シフトレバーをパーキングからドライブへと動かした。シフトレバーを握る自分の手にそっと無惨の指が添えられる。やや冷たい指先が火照った肌を冷やしてくれるので、とても気持ち良い。それに、無惨がいつになく嬉しそうにニコニコしているので、なんだか、こちらも落ち着かない。
何より、横に座られるとキラキラした輝きが直にやってくるので運転に集中出来ない。いつも嗅いでいるはずの香水の匂いですら興奮してしまい、必死に運転に意識を向けた。
無惨が議員宿舎とは別にこっそり借りているマンションに行き、二人はソファに並んで座った。
「では、改めて……」
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TRAININGむざこくアドベントカレンダー5日目
行き違いや誤解で黒死牟(巌勝)に翻弄されちゃう無惨様
4日目からの続きです。
行き違いや誤解で黒死牟(巌勝)に翻弄されちゃう無惨様 さて、あの遊園地事件をきっかけに正式に付き合うようになったわけだが、あの事件の完璧すぎる立ち回りを見ても解るように黒死牟はなかなかの策士である。
自分の思い出の遊園地を守る為に主である自分まで謀って大博打に出る度胸があり、その上、話題の発端になったテレビの取材も黒死牟の持ち込み企画だった。
そりゃそうだろう。あんな寂れた遊園地に都合良く在京キー局のニュース番組が取材に来るはずなどない。
ロマンティックなムードになった観覧車も、黒死牟が熱心に写真を撮っていたのは周辺環境を写真に残す為だったそうだ。ちょっと気分が盛り上がった自分が馬鹿みたいである。
そんな黒死牟の努力の甲斐があり、産廃処理施設計画は無事白紙となり、その上「あの鬼舞辻議員が秘書とデートしていた遊園地」として、ちょっとした観光スポットになって繁盛しているようだ。
3457自分の思い出の遊園地を守る為に主である自分まで謀って大博打に出る度胸があり、その上、話題の発端になったテレビの取材も黒死牟の持ち込み企画だった。
そりゃそうだろう。あんな寂れた遊園地に都合良く在京キー局のニュース番組が取材に来るはずなどない。
ロマンティックなムードになった観覧車も、黒死牟が熱心に写真を撮っていたのは周辺環境を写真に残す為だったそうだ。ちょっと気分が盛り上がった自分が馬鹿みたいである。
そんな黒死牟の努力の甲斐があり、産廃処理施設計画は無事白紙となり、その上「あの鬼舞辻議員が秘書とデートしていた遊園地」として、ちょっとした観光スポットになって繁盛しているようだ。
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TRAININGむざこくアドベントカレンダー4日目
遊園地にお忍びで遊びに行ったら、事件に巻き込まれ、デートしているところをTVで報道されてしまい、進退極まるが、実は仕事関係で行っただけで、二人は付き合ってるとかじゃないんだけど、無惨様が腹括ってシボと付き合ってることをカミングアウトしてしまい、それが世間じゃ真実と捉えられ、すったもんだから、付き合うことになってしまう二人
遊園地デート 国会での汚いヤジはある種の名物である。美学に反する為、自分は絶対にヤジを飛ばす側をしないし、どんなヤジを投げつけられても、弱い犬の遠吠えだと気に留めたことすらなかった。だが、今回ばかりは完全に無視できない。その上、言い返したい、寧ろ言った人間の胸倉を掴んで、数発殴って歯の一本でも折ってやりたいとさえ思った。
その理由は、自分だけでなく、矛先が秘書の黒死牟にも向かっているからだ。
「うちの秘書は関係ないでしょう」
「関係ないことないだろう!」
「庇うのはお前らがデキてるからだろう!」
マイクでは拾えない程度の音量で、お前がケツを出したのか? 等、聞くに堪えない下品なヤジが国会内に飛び交っている。
おい、女性議員よ。こんな時に「セクハラだ」って怒れよ……と無惨は呆れながら、ヤジにマジレスするのは大人気ないと必死に堪えている。
5140その理由は、自分だけでなく、矛先が秘書の黒死牟にも向かっているからだ。
「うちの秘書は関係ないでしょう」
「関係ないことないだろう!」
「庇うのはお前らがデキてるからだろう!」
マイクでは拾えない程度の音量で、お前がケツを出したのか? 等、聞くに堪えない下品なヤジが国会内に飛び交っている。
おい、女性議員よ。こんな時に「セクハラだ」って怒れよ……と無惨は呆れながら、ヤジにマジレスするのは大人気ないと必死に堪えている。
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TRAININGむざこくアドベントカレンダー3日目
鬼ごっこ
アクツさん@a92_katakana
のツイートに書かれていたネタを拝借しています。
鬼ごっこ 10月のとある日曜日。
鬼舞辻議員の事務所では、無惨からアルバイトまで全員集まって、毎年恒例の「体育の日」イベントが行われる。
「じゃーんけーんぽーん!」
童磨の掛け声と共に、全員が無惨とジャンケンする。
無惨に勝った者はその場に座り、負けた者は最後の1人になるまで、無惨とじゃんけんを繰り返す。そして最後まで負け続けた者が「鬼」となる。
そこから想像を絶するような盛大な鬼ごっこが始まるのだ。
「さーて、一回戦の鬼は、なんと!!」
「私だ……」
初戦から黒死牟。その場にいた全員が膝から崩れ落ちた。
ハンデをつける為、黒死牟は毎年、スーツと革靴でこの鬼ごっこに参加しているが、某ハンターのようにサングラスを掛け、無表情で走って追い掛けてくる姿が怖すぎて、獪岳は初めの年は「殺さないで下さい!」と泣きながら土下座したという伝説がある。
2976鬼舞辻議員の事務所では、無惨からアルバイトまで全員集まって、毎年恒例の「体育の日」イベントが行われる。
「じゃーんけーんぽーん!」
童磨の掛け声と共に、全員が無惨とジャンケンする。
無惨に勝った者はその場に座り、負けた者は最後の1人になるまで、無惨とじゃんけんを繰り返す。そして最後まで負け続けた者が「鬼」となる。
そこから想像を絶するような盛大な鬼ごっこが始まるのだ。
「さーて、一回戦の鬼は、なんと!!」
「私だ……」
初戦から黒死牟。その場にいた全員が膝から崩れ落ちた。
ハンデをつける為、黒死牟は毎年、スーツと革靴でこの鬼ごっこに参加しているが、某ハンターのようにサングラスを掛け、無表情で走って追い掛けてくる姿が怖すぎて、獪岳は初めの年は「殺さないで下さい!」と泣きながら土下座したという伝説がある。
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TRAININGむざこくアドベントカレンダー2日目
いっぱい食べる君が好き
童磨君の出番が多めですが、無童ではないです。
いっぱい食べる君が好き 退屈だと言わんばかりに大きな欠伸をした。
アンティークのリフェクトリーテーブルには自分ひとりしかおらず、キャンドルや花で豪華に飾られているのに、食前酒すら出てこない。
ピカピカに磨かれた銀製のカトラリーだが、使おうにも料理が全く運ばれてこないのだ。
ギャルソンを呼ぼうかと思ったが、広いダイニングに誰もいない。
いつも自分の傍らに控えている黒死牟の姿すらないのだ。
「黒死牟?」
無惨が名前を呼んでも返事はない。
一体、どこに行ったのか。しかし、どうして自分はこの店にいるのか、どうしてここに来たのか、何も思い出せない。
薄暗い店内には本当に誰もいない。音楽もなく静まり返り、豪華な装飾が不気味に思えてくる。
3147アンティークのリフェクトリーテーブルには自分ひとりしかおらず、キャンドルや花で豪華に飾られているのに、食前酒すら出てこない。
ピカピカに磨かれた銀製のカトラリーだが、使おうにも料理が全く運ばれてこないのだ。
ギャルソンを呼ぼうかと思ったが、広いダイニングに誰もいない。
いつも自分の傍らに控えている黒死牟の姿すらないのだ。
「黒死牟?」
無惨が名前を呼んでも返事はない。
一体、どこに行ったのか。しかし、どうして自分はこの店にいるのか、どうしてここに来たのか、何も思い出せない。
薄暗い店内には本当に誰もいない。音楽もなく静まり返り、豪華な装飾が不気味に思えてくる。
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TRAININGむざこく30本ノック②30日目
※注意※
モブ女と浮気する無惨様です。
議員に秋波を送るホステスに向かって止せば良いのにマウントを取るような事を言ってしまう秘書 馬鹿いってんじゃないよ お前と俺は
ケンカもしたけどひとつ屋根の下暮らして来たんだぜ
馬鹿いってんじゃないよ お前の事だけは
一日たりとも 忘れた事など無かった俺だぜ
本当に「馬鹿いってんじゃないよ」である。
付き合い始めて3年目。これまでも、ちょこちょこ怪しい動きはあったが、恐らく今、正に「浮気に発展する瞬間」を自分は見届けている状態なのだ。
付き合いで来た銀座の高級クラブ。「付き合いで」と言っているが大嘘である。常連だ。何度もクレジットカードの明細で名前を見ているし、交際費で落とせと領収証を渡されている。
たまたま「付き合いで」連れてこられたのは黒死牟の方である。普段、黒死牟の目を搔い潜って来ているのに、今日に限って「お供致します」と黒死牟は着いてきたのだ。
2664ケンカもしたけどひとつ屋根の下暮らして来たんだぜ
馬鹿いってんじゃないよ お前の事だけは
一日たりとも 忘れた事など無かった俺だぜ
本当に「馬鹿いってんじゃないよ」である。
付き合い始めて3年目。これまでも、ちょこちょこ怪しい動きはあったが、恐らく今、正に「浮気に発展する瞬間」を自分は見届けている状態なのだ。
付き合いで来た銀座の高級クラブ。「付き合いで」と言っているが大嘘である。常連だ。何度もクレジットカードの明細で名前を見ているし、交際費で落とせと領収証を渡されている。
たまたま「付き合いで」連れてこられたのは黒死牟の方である。普段、黒死牟の目を搔い潜って来ているのに、今日に限って「お供致します」と黒死牟は着いてきたのだ。
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TRAININGむざこく30本ノック②29日目
大阪を舞台の食べ歩きになりました。
現パログルメ系 それは二人が交際し始めて一年も経っていない頃だった。
京都の県議に応援を依頼され、黒死牟は初めて無惨と共に京都入りすることになる。東京から京都に戻る時、無惨は大抵新幹線を使うが、無惨は気紛れに「飛行機で帰りたい」と言い出した。
「畏まりました」
黒死牟は羽田空港から関西空港行きの航空券を手配しようとするが、マウスを握る手に触れ、ニッコリと笑う。
「違う、伊丹空港だ」
「伊丹ですか?」
確かに京都に向かうなら伊丹空港からの方が近い。どちらにしても新幹線の方が楽なのになぁ……と黒死牟はやや不満げにしている。
その上、ついでにブラブラするから予定を一切入れるな、と言う。
「1日オフですか!?」
「たまには良いだろう。調整しろ」
4921京都の県議に応援を依頼され、黒死牟は初めて無惨と共に京都入りすることになる。東京から京都に戻る時、無惨は大抵新幹線を使うが、無惨は気紛れに「飛行機で帰りたい」と言い出した。
「畏まりました」
黒死牟は羽田空港から関西空港行きの航空券を手配しようとするが、マウスを握る手に触れ、ニッコリと笑う。
「違う、伊丹空港だ」
「伊丹ですか?」
確かに京都に向かうなら伊丹空港からの方が近い。どちらにしても新幹線の方が楽なのになぁ……と黒死牟はやや不満げにしている。
その上、ついでにブラブラするから予定を一切入れるな、と言う。
「1日オフですか!?」
「たまには良いだろう。調整しろ」
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TRAININGむざこく30本ノック②23日目
黒死牟に芸妓の擬態(現代軸で女装でもオッケーです!)を要求する無惨様 己のスケジュールを完璧に管理する無惨だが、たまにダブルブッキングしてしまうこともあるのだ。次から次へと予定を詰め込んでしまう性急な性格に加え、現代のように電話ひとつで変更が出来るような便利な時代ではない。
人との付き合いが主である仕事柄、突然頼まれて断れないという場面も多いのだ。
そのダブルブッキングは突然訪れた。
「商談で自分のいる座敷に行くことになった」
顳顬を押さえながら無惨は苛立った様子で言う。
貿易商の集まりで見覚えのある社長がいるなと思ったら、芸妓をしている時の御贔屓さんだと思い出した。海外なら青い彼岸花があるのではないか、と宮内庁や政府に出入りしている貿易商とは必ず繋がりを持っている。時々、それが月彦としての付き合いか、芸妓として座敷で会ったのか解らなくなるくらい、多くの人間と馴染みになっているのだ。
3333人との付き合いが主である仕事柄、突然頼まれて断れないという場面も多いのだ。
そのダブルブッキングは突然訪れた。
「商談で自分のいる座敷に行くことになった」
顳顬を押さえながら無惨は苛立った様子で言う。
貿易商の集まりで見覚えのある社長がいるなと思ったら、芸妓をしている時の御贔屓さんだと思い出した。海外なら青い彼岸花があるのではないか、と宮内庁や政府に出入りしている貿易商とは必ず繋がりを持っている。時々、それが月彦としての付き合いか、芸妓として座敷で会ったのか解らなくなるくらい、多くの人間と馴染みになっているのだ。
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TRAININGむざこく30本ノック②21日目
心臓を掴む どうか、これ以上、私の心に入ってこないでくれ。
そう思うようになったのは、いつの頃からだっただろうか。
人との距離の取り方が解らない。それは自分の生い立ちに問題があった。しかし、それは社会に出てから気付いたことで、その環境で育っている時に、それが問題であるとは思いもしなかった。
その歪な家庭環境で育ったが故に、他人と接すると、その不可解な言動に心を乱された。
どうして、この人は自分にこんな親切にしてくれるのだろうか?
幼い自分にとって、それは最大の謎だった。
誰の利益になることもしていない、誰の役にも立っていない幼い自分に対し、誰もが我が事のように喜怒哀楽を表現してくれる。
その心の機微に触れる度に吐き気がした。
5023そう思うようになったのは、いつの頃からだっただろうか。
人との距離の取り方が解らない。それは自分の生い立ちに問題があった。しかし、それは社会に出てから気付いたことで、その環境で育っている時に、それが問題であるとは思いもしなかった。
その歪な家庭環境で育ったが故に、他人と接すると、その不可解な言動に心を乱された。
どうして、この人は自分にこんな親切にしてくれるのだろうか?
幼い自分にとって、それは最大の謎だった。
誰の利益になることもしていない、誰の役にも立っていない幼い自分に対し、誰もが我が事のように喜怒哀楽を表現してくれる。
その心の機微に触れる度に吐き気がした。
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TRAININGむざこく30本ノック②17日目
特殊部隊在籍中の、冷徹な巌勝と無惨の出会い それは衆議院の安全保障委員会の委員に初めて専任された時だった。
「私が、ですか?」
議員になったばかりだというのに、とある紛争地域への視察を命じられた。
そもそも、安全保障委員会の業務にそんなものはあったか、それも委員長や理事、所属している派閥の長から言われるなら未だしも、専任したとされる議長から直々に言われるとは何事かと不審に思った。
「鬼舞辻君なら語学も堪能だし、武術もなかなかの腕前らしいね」
思い出した。大学時代に友人に頼まれ剣道の試合に出た。先鋒だったのだが、その時、一本勝ちした相手が議長の息子だった。そう言えば父も現役時代、議長と仲が悪かったので、「鬼舞辻の倅を泣かせてこい」とでも言われたのだろう。オリンピック有力候補とも言われていたようで、周囲はかなり微妙な空気に包まれていた。
3781「私が、ですか?」
議員になったばかりだというのに、とある紛争地域への視察を命じられた。
そもそも、安全保障委員会の業務にそんなものはあったか、それも委員長や理事、所属している派閥の長から言われるなら未だしも、専任したとされる議長から直々に言われるとは何事かと不審に思った。
「鬼舞辻君なら語学も堪能だし、武術もなかなかの腕前らしいね」
思い出した。大学時代に友人に頼まれ剣道の試合に出た。先鋒だったのだが、その時、一本勝ちした相手が議長の息子だった。そう言えば父も現役時代、議長と仲が悪かったので、「鬼舞辻の倅を泣かせてこい」とでも言われたのだろう。オリンピック有力候補とも言われていたようで、周囲はかなり微妙な空気に包まれていた。
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TRAININGむざこく30本ノック②10日目
>紗呼さんの好きな選曲で、サザンの歌をモチーフにしたお話しとかどうでしょうか?
メロディ 地平線に沈む夕日があまりにも綺麗で、ふたりとも言葉が見つからず、無言で見つめていた。
いや、違う。
横で巌勝のすすり泣く声が聞こえる。
だが、自分たちの答えはこれしかなかったのだ。
それは一年前の夏だった。
子供が通う幼稚園の保護者で集まり、河川敷の公園でバーベキューをすることになった。
「るなちゃんの一番の仲良しの子と一緒のグループでバーベキューなんです」
妻の麗が嬉しそうに語る。その母親と麗も仲が良いらしく、予定を空けるように言ってきた。
「仲良しって、そいつは男だろう? るな、あまり仲良くしてはいけないよ」
「まぁ、月彦さんったら、もうそんな心配をしているの?」
「だって、るなは可愛いから……」
4466いや、違う。
横で巌勝のすすり泣く声が聞こえる。
だが、自分たちの答えはこれしかなかったのだ。
それは一年前の夏だった。
子供が通う幼稚園の保護者で集まり、河川敷の公園でバーベキューをすることになった。
「るなちゃんの一番の仲良しの子と一緒のグループでバーベキューなんです」
妻の麗が嬉しそうに語る。その母親と麗も仲が良いらしく、予定を空けるように言ってきた。
「仲良しって、そいつは男だろう? るな、あまり仲良くしてはいけないよ」
「まぁ、月彦さんったら、もうそんな心配をしているの?」
「だって、るなは可愛いから……」
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TRAININGむざこく30本ノック②3日目
※注意※
無惨様は京都市中京区出身、黒死牟は東京都世田谷区出身。
無惨様的には「東京は田舎」「関西の食文化が最高」
うちの無惨様は素が出ると関西弁になる。
出身地東西食対決(カレーの肉が牛か豚かとか…) それは無惨の何気無い一言から始まった。
「どうして肉じゃがが豚肉なのだ」
質問の意味が解らず、黒死牟は首を傾げる。
「お口に合いませんでしたか?」
「そういう意味ではなく……」
普段、多忙な二人は外食が多い。あとは無惨が料理上手なので、手料理と言えば無惨が喜んでキッチンに立つのだが、たまには大好きな彼氏に手料理を食べさせたいという気持ちが働いた黒死牟は、手料理の定番「肉じゃが」を作って出したのだが、完成したものを見て、無惨は無言で、一向に箸をつけようとしない。
なるべく無惨好みの薄味になるように気を付けた。醤油で濃いめの味付けをしたいところを、出汁をきかせた薄味で、みりんや三温糖を多めに入れて少々甘めに作ったが、食べる前から質問を食らい、黒死牟は落ち込んでいる。
3256「どうして肉じゃがが豚肉なのだ」
質問の意味が解らず、黒死牟は首を傾げる。
「お口に合いませんでしたか?」
「そういう意味ではなく……」
普段、多忙な二人は外食が多い。あとは無惨が料理上手なので、手料理と言えば無惨が喜んでキッチンに立つのだが、たまには大好きな彼氏に手料理を食べさせたいという気持ちが働いた黒死牟は、手料理の定番「肉じゃが」を作って出したのだが、完成したものを見て、無惨は無言で、一向に箸をつけようとしない。
なるべく無惨好みの薄味になるように気を付けた。醤油で濃いめの味付けをしたいところを、出汁をきかせた薄味で、みりんや三温糖を多めに入れて少々甘めに作ったが、食べる前から質問を食らい、黒死牟は落ち込んでいる。
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TRAININGむざこく30本ノック29日目
長期休暇 きっかけは鳴女たち女性スタッフからのストライキだった。
「休みをください!!!!」
悲痛な叫びだ。仕事で趣味、休養、勉強、彼氏と遊ぶ時間、様々なものを犠牲にしているという訴えだった。
「勝手に休めば良いだろう」
「貴方がたが休まないと、他の者が休めませんから!」
ブチ切れた鳴女に言われ、鬼舞辻と黒死牟は国会閉会中の暇そうな1週間に、まとめて休暇を取ることにした。以降、他のスタッフも交代で長期休暇を取るそうだ。
いつも「休みが欲しい」と騒ぐ鬼舞辻だったので、さぞかし喜ぶかと思いきや、初日は泥のように眠ると、それからは何をしたら良いのか解らず、テラスでぼんやりと読みかけだった小説を読んでいた。
黒死牟も同じように鬼舞辻と初日は寝ていたが、翌日はこっそり持ち帰った仕事をして過ごすなど、二人揃って何をすれば良いのか解らない状態だった。
1381「休みをください!!!!」
悲痛な叫びだ。仕事で趣味、休養、勉強、彼氏と遊ぶ時間、様々なものを犠牲にしているという訴えだった。
「勝手に休めば良いだろう」
「貴方がたが休まないと、他の者が休めませんから!」
ブチ切れた鳴女に言われ、鬼舞辻と黒死牟は国会閉会中の暇そうな1週間に、まとめて休暇を取ることにした。以降、他のスタッフも交代で長期休暇を取るそうだ。
いつも「休みが欲しい」と騒ぐ鬼舞辻だったので、さぞかし喜ぶかと思いきや、初日は泥のように眠ると、それからは何をしたら良いのか解らず、テラスでぼんやりと読みかけだった小説を読んでいた。
黒死牟も同じように鬼舞辻と初日は寝ていたが、翌日はこっそり持ち帰った仕事をして過ごすなど、二人揃って何をすれば良いのか解らない状態だった。
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TRAININGむざこく30本ノック28日目
※ダンスのマナーは適当なので、ふわっと雰囲気で読んでください。
ボールルーム「Shall we dance?」
シャンパンを飲みながら談笑している鬼舞辻にダンスを申し込んだのは、秘書の黒死牟だった。
「どうした、いきなり」
「いえ……」
鬼舞辻が真顔で聞き返すと、耳まで真っ赤になっているのが解る。鬼舞辻から面白がって誘うならまだしも、あの堅物の秘書がこんな気障な真似をするのは珍しい。ボーイにグラスを渡し、黒死牟の差し出した手を取って、ダンスフロアの中央へ行く。二人の登場に会場の視線が一気に集まる。周囲に手を振りながら、鬼舞辻は黒死牟と向かい合い姿勢を正す。
「お前、フォローは出来るのか?」
「いえ……ダンスは不得手で……リード役の基本的なステップくらいしか……」
「だよな……よくそれで、私にダンスを申し込んだな」
1601シャンパンを飲みながら談笑している鬼舞辻にダンスを申し込んだのは、秘書の黒死牟だった。
「どうした、いきなり」
「いえ……」
鬼舞辻が真顔で聞き返すと、耳まで真っ赤になっているのが解る。鬼舞辻から面白がって誘うならまだしも、あの堅物の秘書がこんな気障な真似をするのは珍しい。ボーイにグラスを渡し、黒死牟の差し出した手を取って、ダンスフロアの中央へ行く。二人の登場に会場の視線が一気に集まる。周囲に手を振りながら、鬼舞辻は黒死牟と向かい合い姿勢を正す。
「お前、フォローは出来るのか?」
「いえ……ダンスは不得手で……リード役の基本的なステップくらいしか……」
「だよな……よくそれで、私にダンスを申し込んだな」
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TRAININGむざこく30本ノック27日目
夏場に、前世では絶対に見られなかった「ちょっと日に焼けたむざんさま」を目の当たりにして… 夏特有の集中豪雨で、南方の一部地域が被災し、当時、環境省の副大臣をしていた鬼舞辻は視察に行くことになった。
「はぁ? こんな時に政治家が背広組を引き連れて行っても、邪魔なだけだろう」
「恒例ですので……」
毎度毎度あんなの迷惑なのに、と言っていたが、副大臣という立場上、仕方が無いと黒死牟に説得され出向くこととなった。
が。
「先生、流石にその格好は……」
「お前も動きやすい格好で行け。あと、現地の役人に出迎えは無用だと言っておけ」
確かに彼の言い分は正しい。同行させる人間も黒死牟ひとりで良いと、背広組は霞ヶ関に待機するよう命じている。そして、自分自身はジーンズにスニーカー、Tシャツ姿で、長い前髪を高い位置でマンバンにしている。
1425「はぁ? こんな時に政治家が背広組を引き連れて行っても、邪魔なだけだろう」
「恒例ですので……」
毎度毎度あんなの迷惑なのに、と言っていたが、副大臣という立場上、仕方が無いと黒死牟に説得され出向くこととなった。
が。
「先生、流石にその格好は……」
「お前も動きやすい格好で行け。あと、現地の役人に出迎えは無用だと言っておけ」
確かに彼の言い分は正しい。同行させる人間も黒死牟ひとりで良いと、背広組は霞ヶ関に待機するよう命じている。そして、自分自身はジーンズにスニーカー、Tシャツ姿で、長い前髪を高い位置でマンバンにしている。
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TRAININGむざこく30本ノック26日目
秘書のサングラスからチラッと覗く切れ長の目にイライラムラムラする無惨様 人前で絶対にサングラスを外すな。
それは鬼舞辻からの一番初めに出された命令だった。勿論、理由など尋ねるわけもなく「御意」の一言で終わり、黒死牟は何の疑問も抱かず実行している。
黒死牟という名前も鬼舞辻が名付けた偽名で、彼の素性の解るものは全て隠されている。
秘密主義の鬼舞辻らしいと思い、黙って従っているのだが、夜間のサングラスだけは実に鬱陶しいこと、この上ない。
しかし、鬼舞辻の許可なく外せず、目上の人間相手でもサングラス姿なので無礼だと叱られることもあるが、鬼舞辻が睥睨することで黙らせることが出来てしまうので、サングラスを外す理由がどんどん減ってしまい、四六時中サングラスをするはめになってしまった。
1082それは鬼舞辻からの一番初めに出された命令だった。勿論、理由など尋ねるわけもなく「御意」の一言で終わり、黒死牟は何の疑問も抱かず実行している。
黒死牟という名前も鬼舞辻が名付けた偽名で、彼の素性の解るものは全て隠されている。
秘密主義の鬼舞辻らしいと思い、黙って従っているのだが、夜間のサングラスだけは実に鬱陶しいこと、この上ない。
しかし、鬼舞辻の許可なく外せず、目上の人間相手でもサングラス姿なので無礼だと叱られることもあるが、鬼舞辻が睥睨することで黙らせることが出来てしまうので、サングラスを外す理由がどんどん減ってしまい、四六時中サングラスをするはめになってしまった。
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TRAININGむざこく30本ノック24日目
始祖が秘書上を肩に担いで安産型の尻を叩く 誰だ、先生の椅子でふんぞり返っている感じの悪い男は。
そう思うものの、その男は鬼舞辻に瓜二つで、寧ろ、鬼舞辻よりも妙な大物感がある。親戚など血縁者はすべて把握しているが、あんな男は存在していなかった。
警戒する黒死牟を見て、退屈そうに欠伸をする。
「おい、お前」
「お前と呼ばれる筋合いはない」
声音まで似ていることに驚いたが、毅然とした態度で黒死牟が返事をすると、不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。机に右肘をついて首を傾けたまま、下から睨めつけるように黒死牟を見る。
「口の利き方に気を付けろ、継国巌勝」
本名を呼ばれ、黒死牟の指先が僅かに震えるが、ぐっと拳を握り締め耐えた。その名を知る者は鬼舞辻しかいない。久方振りにその名で呼ばれ、反応する自分にも驚いた。
3030そう思うものの、その男は鬼舞辻に瓜二つで、寧ろ、鬼舞辻よりも妙な大物感がある。親戚など血縁者はすべて把握しているが、あんな男は存在していなかった。
警戒する黒死牟を見て、退屈そうに欠伸をする。
「おい、お前」
「お前と呼ばれる筋合いはない」
声音まで似ていることに驚いたが、毅然とした態度で黒死牟が返事をすると、不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。机に右肘をついて首を傾けたまま、下から睨めつけるように黒死牟を見る。
「口の利き方に気を付けろ、継国巌勝」
本名を呼ばれ、黒死牟の指先が僅かに震えるが、ぐっと拳を握り締め耐えた。その名を知る者は鬼舞辻しかいない。久方振りにその名で呼ばれ、反応する自分にも驚いた。
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TRAININGむざこく30本ノック23日目
お互い浮気相手として遊びで始まった二人が本気になっていくむざこく「黒死牟、お前は付き合っている相手がいるのか?」
「え?」
突然の質問に持っていたスマホを落とした。
それを今、聞くか? と黒死牟は思った。それは三度目のセックスが終わった、ベッドの中で聞かれた。
「あの……」
「いや、いい。お前は好い男だからな、付き合っている女のひとりやふたり、いてもおかしくはないな」
煙草を吸いながら自己完結する鬼舞辻だが、どうして今更、そんなことを聞いてきたのか解らない。
「おりますが……」
数ヶ月前、付き合いで行った合コンで知り合った女性と交際していたが、結婚したいという向こうの熱量が酷すぎて、黒死牟の感情がついていかず疎遠になっていた。
「そういう先生もいらっしゃいますよね?」
2042「え?」
突然の質問に持っていたスマホを落とした。
それを今、聞くか? と黒死牟は思った。それは三度目のセックスが終わった、ベッドの中で聞かれた。
「あの……」
「いや、いい。お前は好い男だからな、付き合っている女のひとりやふたり、いてもおかしくはないな」
煙草を吸いながら自己完結する鬼舞辻だが、どうして今更、そんなことを聞いてきたのか解らない。
「おりますが……」
数ヶ月前、付き合いで行った合コンで知り合った女性と交際していたが、結婚したいという向こうの熱量が酷すぎて、黒死牟の感情がついていかず疎遠になっていた。
「そういう先生もいらっしゃいますよね?」
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TRAININGむざこく30本ノック22日目
銀座 銀座四丁目の交差点に立ち、時計台を眺めていた。
「あの時計塔が出来て90年になるのだな」
ライトアップされた建物を見上げ、無惨が呟いた。
「早いものですね……当時の元号は……」
「明治だな。まぁ、今の時計塔は昭和になって出来た二代目だ」
無惨はボルサリーノのフェルトハットを被り直し、黒死牟と共に夜の銀座を歩いた。
「大正くらいになると、夜も随分過ごしやすくなったと思ったが、近代化が進むにつれ、昼に拘る理由がなくなるほどに、夜は明るく、賑やかになったな」
「そうですね……この銀座に関しては……夜の方が華やかな場所もございますね……」
無惨はこの銀座という街を甚く気に入っていた。流行りのものが何でも手に入り、高級感があり、成熟した街だとよく話していた。
1198「あの時計塔が出来て90年になるのだな」
ライトアップされた建物を見上げ、無惨が呟いた。
「早いものですね……当時の元号は……」
「明治だな。まぁ、今の時計塔は昭和になって出来た二代目だ」
無惨はボルサリーノのフェルトハットを被り直し、黒死牟と共に夜の銀座を歩いた。
「大正くらいになると、夜も随分過ごしやすくなったと思ったが、近代化が進むにつれ、昼に拘る理由がなくなるほどに、夜は明るく、賑やかになったな」
「そうですね……この銀座に関しては……夜の方が華やかな場所もございますね……」
無惨はこの銀座という街を甚く気に入っていた。流行りのものが何でも手に入り、高級感があり、成熟した街だとよく話していた。
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TRAININGむざこく30本ノック20日目
同衾 夕暮れ時に降り出した雨は一向に止む気配はなく、小雨になるのを待っているうちに深夜になった。
「雨が降るからと早めに皆を帰らせて良かったですね」
観測史上最多の雨量になると言われていたので、雨が降る前に他のスタッフは帰らせていた。事務所内には鬼舞辻と黒死牟だけだった。
「この雨だと、車で帰るのも危ないな」
「えぇ、冠水している箇所もあるようで、基本的に職場での待機を推奨しているようです」
鬼舞辻は明日までに目を通したい資料があるから、と事務所に残るつもりだったようで、一人では何かあっては困るからと黒死牟も残っていたのだ。
「近くのホテルを探しましょうか?」
黒死牟が提案するが、ここで自分がホテルに泊まると、「議員様の特権だ」と騒ぐ連中がいるからやめておくと事務所に泊まることにしたようだ。
3419「雨が降るからと早めに皆を帰らせて良かったですね」
観測史上最多の雨量になると言われていたので、雨が降る前に他のスタッフは帰らせていた。事務所内には鬼舞辻と黒死牟だけだった。
「この雨だと、車で帰るのも危ないな」
「えぇ、冠水している箇所もあるようで、基本的に職場での待機を推奨しているようです」
鬼舞辻は明日までに目を通したい資料があるから、と事務所に残るつもりだったようで、一人では何かあっては困るからと黒死牟も残っていたのだ。
「近くのホテルを探しましょうか?」
黒死牟が提案するが、ここで自分がホテルに泊まると、「議員様の特権だ」と騒ぐ連中がいるからやめておくと事務所に泊まることにしたようだ。
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TRAININGむざこく30本ノック19日目
ピンヒール「無惨様……」
「なんだ」
「それは……婦人物の履物では……」
「そうだが」
女装……もとい、女性の姿に擬態はしていない。男の姿、それもスーツ姿のまま、12センチのハイヒールを履いている。
艶々の真っ黒なパテントレザーにピンヒールの内側と靴底は真っ赤で、強烈な双方の色が無惨の足の甲を更に白く見せている。その上、カットが浅く、プラットフォームが無いので、爪先立ち状態の足の指の隙間が見えて、妙に艶めかしい。
しかし、上記の説明はあくまでも無惨、もしくは第三者目線の感想であり、黒死牟からすれば、竹馬のように歩きにくそうな靴を、何故にあのように嬉しそうに履くのか理解に苦しんでいた。無惨と好い仲になり数百年という長い月日が流れた為、近代的な女性の服装の性的な魅力がさっぱり解らなくなってしまった黒死牟は、無惨のハイヒールに何の魅力も感じないのだ。
1045「なんだ」
「それは……婦人物の履物では……」
「そうだが」
女装……もとい、女性の姿に擬態はしていない。男の姿、それもスーツ姿のまま、12センチのハイヒールを履いている。
艶々の真っ黒なパテントレザーにピンヒールの内側と靴底は真っ赤で、強烈な双方の色が無惨の足の甲を更に白く見せている。その上、カットが浅く、プラットフォームが無いので、爪先立ち状態の足の指の隙間が見えて、妙に艶めかしい。
しかし、上記の説明はあくまでも無惨、もしくは第三者目線の感想であり、黒死牟からすれば、竹馬のように歩きにくそうな靴を、何故にあのように嬉しそうに履くのか理解に苦しんでいた。無惨と好い仲になり数百年という長い月日が流れた為、近代的な女性の服装の性的な魅力がさっぱり解らなくなってしまった黒死牟は、無惨のハイヒールに何の魅力も感じないのだ。
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TRAININGむざこく30本ノック18日目
下手な嘘 鬼にした者たちの思考を読み取れることは、便利だが不愉快なことも多い。
目の前で媚び諂っている慇懃無礼な雑魚の内心は恐怖、憎悪、野心、どす黒いものに満ち溢れ、同じ空気を吸うのも不愉快なので、気に入らない鬼は即刻処分した。
そんな配下の中で、唯一、自分に必要以上の恐れを持たず、敬意を持って接してくれる男がいた。
元鬼狩りの黒死牟だ。
主の首を持って、こちらに寝返った男だ。いつ寝首を掻かれるか解らない、信用ならない男だと警戒していたが、この男の胸の内は口に出して言う言葉とほぼ同じであった。
「私が恐ろしくはないのか?」
「その強さには……畏敬の念を抱いております……」
それは世辞などではなく、本心のようだ。
1504目の前で媚び諂っている慇懃無礼な雑魚の内心は恐怖、憎悪、野心、どす黒いものに満ち溢れ、同じ空気を吸うのも不愉快なので、気に入らない鬼は即刻処分した。
そんな配下の中で、唯一、自分に必要以上の恐れを持たず、敬意を持って接してくれる男がいた。
元鬼狩りの黒死牟だ。
主の首を持って、こちらに寝返った男だ。いつ寝首を掻かれるか解らない、信用ならない男だと警戒していたが、この男の胸の内は口に出して言う言葉とほぼ同じであった。
「私が恐ろしくはないのか?」
「その強さには……畏敬の念を抱いております……」
それは世辞などではなく、本心のようだ。
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TRAININGむざこく30本ノック11日目
行かないで 無惨が生まれ育った時代を考えると、彼は一緒に住むより通う方が馴染みあるのだろう。
愛しい相手と初めて夜を共にして「逢ひ見てののちの心にくらぶれば 昔はものを思はざりけり」などと後朝の歌を詠むような時代を生きていたので、通い婚に慣れ親しみすぎているのだろう。だからこそ、潜伏先を多数作って上手く立ち回れるのだろう。
中でも一番足を運ぶのは、黒死牟のところであった。
日が暮れた頃に黒死牟の住まいに向かうが、無惨としては「通い婚」という意識はない。あくまでも聞き取り調査である。なので、業務報告を受けたら、さっさと帰って自分の時間を過ごしたいのだ。
しかも、報告といっても、せいぜい柱を倒したくらいで、青い彼岸花は見つからないし、産屋敷の居所も掴めない。無惨の望む報告は何ひとつ返ってこないのだ。
1732愛しい相手と初めて夜を共にして「逢ひ見てののちの心にくらぶれば 昔はものを思はざりけり」などと後朝の歌を詠むような時代を生きていたので、通い婚に慣れ親しみすぎているのだろう。だからこそ、潜伏先を多数作って上手く立ち回れるのだろう。
中でも一番足を運ぶのは、黒死牟のところであった。
日が暮れた頃に黒死牟の住まいに向かうが、無惨としては「通い婚」という意識はない。あくまでも聞き取り調査である。なので、業務報告を受けたら、さっさと帰って自分の時間を過ごしたいのだ。
しかも、報告といっても、せいぜい柱を倒したくらいで、青い彼岸花は見つからないし、産屋敷の居所も掴めない。無惨の望む報告は何ひとつ返ってこないのだ。
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TRAININGむざこく30本ノック8日目
口紅 あぁ、まただ。
彼がプライベートで車を使用すると、必ずシートの下から口紅が出てくるのだ。
毎度毎度、黒いケースにココマークが入った口紅だ。ただ、今回は白いケースで金色のココマークが入っている。
このブランドを使うような女性とばかり付き合っているのか、それとも、ずっと同じ人と交際が続いているのか。
小さな口紅が己の存在を主張するかのようで不愉快なので、見つけた時は問い詰めもせず速やかに捨てていた。
しかし、こうして度々出てくると気が滅入る。それに一本五千円もすると知り、捨てるのがちょっと勿体無いな……と思っていた。
ネットで調べた時、値段にも驚いたが、その深い赤の妖艶さに胸が痛んだ。
女はたかが口紅一本に五千円も払う。彼に美しいと言われたいがためだけに。そして、その赤い唇で彼に愛の言葉を囁くのだ。
1782彼がプライベートで車を使用すると、必ずシートの下から口紅が出てくるのだ。
毎度毎度、黒いケースにココマークが入った口紅だ。ただ、今回は白いケースで金色のココマークが入っている。
このブランドを使うような女性とばかり付き合っているのか、それとも、ずっと同じ人と交際が続いているのか。
小さな口紅が己の存在を主張するかのようで不愉快なので、見つけた時は問い詰めもせず速やかに捨てていた。
しかし、こうして度々出てくると気が滅入る。それに一本五千円もすると知り、捨てるのがちょっと勿体無いな……と思っていた。
ネットで調べた時、値段にも驚いたが、その深い赤の妖艶さに胸が痛んだ。
女はたかが口紅一本に五千円も払う。彼に美しいと言われたいがためだけに。そして、その赤い唇で彼に愛の言葉を囁くのだ。
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TRAININGむざこく30本ノック7日目
黒革 初めて人を殺した時の感触は、今でもはっきり覚えている。
彼に貰った黒革の手袋を着けたまま、相手の首を思い切り絞めた。
首に指がめり込む感触は覚えているのに、どうして、この男を殺そうと思ったのか、理由はよく覚えていない。多分、彼に「殺してくれ」と頼まれたからだったと思う。
軍隊にいたが、実戦でも素手で人を殺すことなど一度もない。訓練では急所など、人の殺し方は大体学んでいるが、使う日などないと思っていた。だが、その日は案外早くやってきた。それも惚れた男に「殺せ」と命じられただけで実行してしまったのだ。
黒革に包まれた指先が相手の首にめり込み、徐々に男の顔色が変わっていく。
首の骨が折れるのではないかと思うほど絞めているのに、赤黒く膨れた顔は命の火を消そうとはしない。思ったより人間はしぶといと知った。
1464彼に貰った黒革の手袋を着けたまま、相手の首を思い切り絞めた。
首に指がめり込む感触は覚えているのに、どうして、この男を殺そうと思ったのか、理由はよく覚えていない。多分、彼に「殺してくれ」と頼まれたからだったと思う。
軍隊にいたが、実戦でも素手で人を殺すことなど一度もない。訓練では急所など、人の殺し方は大体学んでいるが、使う日などないと思っていた。だが、その日は案外早くやってきた。それも惚れた男に「殺せ」と命じられただけで実行してしまったのだ。
黒革に包まれた指先が相手の首にめり込み、徐々に男の顔色が変わっていく。
首の骨が折れるのではないかと思うほど絞めているのに、赤黒く膨れた顔は命の火を消そうとはしない。思ったより人間はしぶといと知った。
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TRAININGむざこく30本ノック4日目
モーニングコール 何度呼び出そうと、電話で起きたためしがない。
朝弱いくせに夜遊びが好きで、帰ってそのまま寝てくれたら良いのに、何故か翌日の答弁の資料に目を通す。根拠となる資料まで頭に叩き込んでくれるので、隙の無い答弁をしてくれるから助かるが、寝坊して遅刻したら何にもならない。
「さっさと起きてくれよ」
ステアリングリモコンの終話ボタンを押す。GPSで居場所を確認すると、プライベートのマンションにいるようだ。
議員宿舎で寝起きしていることになっているが、夜中にべろんべろんに酔い潰れて、廊下で他の議員と顔を合わせるのが気まずいだの、女を連れ込みにくいだの、それよりも他の議員の妻にちょっかいを出した前科が何犯もあり、なかなか議員宿舎で生活しづらい理由が多く、夜遊びしては、そちらに戻ることが多い。議員宿舎ならこんなお出迎え作業は不要なのに、どこまでも迷惑な話である。
1882朝弱いくせに夜遊びが好きで、帰ってそのまま寝てくれたら良いのに、何故か翌日の答弁の資料に目を通す。根拠となる資料まで頭に叩き込んでくれるので、隙の無い答弁をしてくれるから助かるが、寝坊して遅刻したら何にもならない。
「さっさと起きてくれよ」
ステアリングリモコンの終話ボタンを押す。GPSで居場所を確認すると、プライベートのマンションにいるようだ。
議員宿舎で寝起きしていることになっているが、夜中にべろんべろんに酔い潰れて、廊下で他の議員と顔を合わせるのが気まずいだの、女を連れ込みにくいだの、それよりも他の議員の妻にちょっかいを出した前科が何犯もあり、なかなか議員宿舎で生活しづらい理由が多く、夜遊びしては、そちらに戻ることが多い。議員宿舎ならこんなお出迎え作業は不要なのに、どこまでも迷惑な話である。