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    800

    gmksk

    TRAINING800字朝菊 2日目
     食器の擦れる音、ピッチャーからビールがジョッキに注がれる音、話し声、笑い声そのほかいろんなものが混ぜこぜになり、さらにアルコールもほどよく回って、明るい雰囲気が渦を巻くような空間で、大勢で飲んでいた。誰かがこぼしたのか、それとも元々の匂いなのか、ビールの匂いが部屋にはしみこんでいる。畳貼りの空間で、普段はパーテーションを使って区切る空間なのだろうが、一帯を貸し切りにしているため仕切りはなく、遠くの方までテーブルが続いていた。食べ物や飲み物が雑多に置かれ、時折グラスを持った学生が移動しながら、各所でわいわいとやっている。
     隣のゼミ室との合同飲み会は、全員で五十人近くに膨れていた。中には全く関係がなく、「目当ての学生が出席するから」という理由で意気揚々と酒を傾けている者もおり、節操のない会になっている。簡単な自己紹介のあと、僕はトイレに立ったタイミングで三年生の集団の近くに座らざるを得ず「おい、飲みなさい」と軽い圧力を駆けられながらも、上級生と談笑していた。目の前にはカークランドさんがいて、留学生だというのに流暢な日本語を操る彼を、狙っているのだろう女の先輩が隣にいた。その反対側には、静かに酒を進めていく本田さんだ。彼は院生で、こんな場に来るタイプではないのに今回はきちんと出席している。同級生の女子が色めき立ち「本田先輩が来るなら行かなきゃ」と出席名簿に我先にと丸印を付けていたことを思い出す。
    1796

    オルト

    TRAINING800文字
    成人済み22世紀蕎麦屋タイカケ
    付き合ってる
    「カケル、なぁ、いいだろ……?」
    「だ、ダメだって……」
    「なんで……? 俺のこと、好きじゃなくなった?」
     泣きそうな顔で迫ってくるタイガくん。俺は首を横に振る。好きじゃなくなるなんてこと、絶対ないよ。好きすぎて困ってるくらいなんだから。
    「じゃあ、なんでダメなんだよ」
     タイガくんは、俺のシャツのボタンに手を掛けながら言う。俺は慌ててタイガくんの手首を掴んで、動きを止めようとするが、力が強くて叶わない。あの頃のタイガくんとは違う事を、改めて感じさせられる。
    「ねぇお願い、待ってタイガくん」
    「待てねぇ」
    「いい子だから、ね?」
    「子供扱いすんな。おめぇが、エロいのが悪いんだからな!」
     そんな無茶苦茶な……。タイガは顔を真っ赤にして、今にも泣き出しそうだ。幼いころに、おねしょが俺にバレた時の事を思い出す。泣きながら干された布団の前に立って、違うんだと必死に訴えていた姿は可愛かった。
     そんなタイガくんが、大人になって、俺の事を……。
    「ねぇ、わかった、場所を変えよう? ほら、家の中にシンちゅわんもお父さんもお母さんもいるし……ね?」
    「声、我慢すればいいじゃん」
    「ん、う~ん!」
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    TRAINING時間がない中で愛し合おうとする狡噛さんの話。
    800文字チャレンジ100日目。
    お付き合いありがとうございました!
    タイムリミット(あなたを愛する時間) 時間がない。だからといって手抜きはしたくない。たっぷりいつものように時間がかけられないとはいえ、彼を愛するのに手を抜きたくはない。そんなことを思いながら俺はギノに口付けを落とす。キスだけで終わっておく? あとは夜にとっておく? それとも短い時間を共にしてから出勤する? 俺は悩みながら、静かに身を寄せるギノを抱きしめた。彼は俺にされるがままにされている。少しくらい出勤が遅れてもかまわないとでも思っているのだろうか? 俺はそんなことを思って、そんなことあるはずがないとも思った。彼は仕事に関してはストイックで真面目だ。こんなことが許されるはずがない。以前だってこんな時に始めようとしたら、左で殴られたことがあった。彼は少し性欲が淡白で、キスだけで満足できるところがあるのだ。ただ触れられたらそれでいい、そう考えるところが。だからこうやってキスをしているのも、大した意味はないんだろう。セックスに繋げようなんて、そんなこと絶対に考えていない。セックスなんて夜にする深い営みくらいにしか思っていない。俺はそれを悔しく思う。急げば出勤までに間に合うのに、彼はそれをしてくれないと。
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    TRAININGお墓参りをする宜野座さんのお話。何かが変わってゆく様子。
    800文字チャレンジ99日目。
    ただ、君を待つ(二度と離さない) 狡噛がいなくなって数年が経った。だというのに俺はまだ彼を待っていて、自分から別れを告げたくせにまだ待っていて、海外に派遣されることはないかとか、共同捜査にあたることはないかとか、そんなことばかりを考えていた。そんな俺を常守は見ていられないようだった。考えてみれば、彼女が別れの時間を俺に渡したのだから、そう思うのも仕方がないのかもしれない。彼女は俺が撃てないことを、狡噛を殺せないことを知っていた。そしてその代わりに別れを告げることも。だから俺は彼女についてゆこうと決めたのだが、それでも彼女にはひどい役目を課していると思う。俺が知らない何かを知っている彼女は、今日だって局長室に呼ばれて行った。何かが動いているのは分かっていた。先日は外務省から花城フレデリカがやって来たし、口の堅い須郷を口説き音して聞けば、外務省に新しい部署を作るにあたって求められた、とのことだった。何かが動き出していた。俺が何も知らない何かが。俺が何も知らないのは、いつだって同じことだった。いつだって俺はただ転がる球で、跳ねては物事の本質を知る人々に笑われていた。出世が見込めるときはそれでも満足していたが、それがなくなった今ではどうしていいのか分からない。執行官が下手に動けば上司である監視官が処罰される。だから俺は、ゴム毬のように、ずっと跳ねているしかないのだろう。
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    TRAININGくだらない喧嘩をしちゃった二人の仲直りのお話です。
    800文字チャレンジ88日目。
    他愛のない喧嘩(仲直りの方法) 別に大した理由があったわけじゃない。そんな大した理由があっての喧嘩じゃない。かといって、他愛のない喧嘩と言われればそうじゃない。それなりに真剣に喧嘩をしたと思う。狡噛は哲学書を引用して俺を責め、俺は過去の彼の不出来を持ち出して責めた。どちらも本気の喧嘩だった。喧嘩の原因はそうだ、多分食事後の皿をそのままにしていた狡噛を俺が注意したのが始まりだったのだけれども。あぁ、これじゃあ他愛のない喧嘩か。
     
    「あなたたち、喧嘩をするのはいいけど、オフィスにまで持ち込まないでよね」
     喧嘩の当日、花城はそう言った。そんなに剣呑さが顔に出ていただろうかと思うが、ここで素直に謝るのも少し違う気がして黙っていると、「そういうのをやめなさいって言ってるのよ」とたたみかけられた。狡噛はこうなるのが分かっていたのか煙草休憩で、さっきからずっと姿が見えない。すると花城は言った。「追いかけて謝りなさいよ」でも、皿を出しっぱなしにしたのは狡噛が悪いんじゃないか? そう言いかけると、「先に謝るとこれから立場が上になるわよ」との花城の提案が追いかけてくる。それならいい。上の立場に立てるなら、謝ってやってもいい。でも、どうやって謝る。すまなかったって、どんなふうに?
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    TRAINING青っぽい学生時代狡宜。
    800文字チャレンジ83日目。
    鼓動が限界(ある夏の日に) 初めてギノと口づけをした時、心臓が痛すぎて病気になったと思った。不恰好にも手の汗がびしょびしょだったし、それで嫌われやしないかまた心臓の鼓動が早くなった。何回も歯磨きした、歯磨きしすぎて血が出るくらい歯磨きした。ガムも噛んだしミント味のラムネも食べた。そうして俺はやっとギノと先送りにしていたキスをして、恥ずかしそうに笑う彼にもう一度キスがしたくなった。でももう鼓動が限界だ! これ以上キスしたら死んでしまうかもしれない。死因、キスをしたこと、愛する人とキスをしたこと、少しロマンチックだけれど、もっとしたいことがたくさんある。海に行きたい、山に行きたい、俺が好きなところ全てにギノを連れて行きたい。廃棄区画にある古本屋とか、やっぱり廃棄区画にあるジャンキーなハンバーガーショップとか、そんなところにギノを連れて行きたい。ギノは嫌がるだろうな。でも俺を知って欲しいんだ。俺はまだ童貞でデートの仕方も知らなくて、だから自分の好きなものを教えるくらいしか思いつかない。でもそれだって充分だろう? 俺の好きなものは、俺を構成するものなんだから。それを差し出すってことは、俺を差し出すってことなんだから。
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