garuhyu
DONEラー視点。魔族がひく風邪とはなんじゃろかと思いつつ。ワンドロお題「看病」俺は、外見から解るように魔族の血が濃い。
だから病気の類は一切しなかったし、するわけがないと思っていた。
そう、思って「いた」。
高熱の発熱という前代未聞の感覚。
行動は勿論、思考もままならない。さっさと意識を投げ出したい。
それができないのは何故かというと―
「…早くパプニカなりデルムリン島なり行けというのに…」
魔族に取りつく病気なのだ、人間で半死人のヒュンケルなど罹患すればひとたまりもない。そう何度も急かしているというのに。
「馬鹿。そんな状態を放っておけるわけないだろう。」
俺の心配なぞせんでもいいわと言い放ちたいのだが、流石に説得力がないのはわかっている。
熱のおかげで語彙力が低下しているのもあって、この頑固者にかける言葉がなかなか紡げない。
869だから病気の類は一切しなかったし、するわけがないと思っていた。
そう、思って「いた」。
高熱の発熱という前代未聞の感覚。
行動は勿論、思考もままならない。さっさと意識を投げ出したい。
それができないのは何故かというと―
「…早くパプニカなりデルムリン島なり行けというのに…」
魔族に取りつく病気なのだ、人間で半死人のヒュンケルなど罹患すればひとたまりもない。そう何度も急かしているというのに。
「馬鹿。そんな状態を放っておけるわけないだろう。」
俺の心配なぞせんでもいいわと言い放ちたいのだが、流石に説得力がないのはわかっている。
熱のおかげで語彙力が低下しているのもあって、この頑固者にかける言葉がなかなか紡げない。
garuhyu
MEMO短文~ラーヒュンハウス在住単身赴任陸戦騎の設定。
モンスターに捏造設定アリ(笑)
ワンドロお題「手紙」「これを頼む」
そう言われた差し出された封筒をドラキーがニッカリ笑って器用に尻尾を巻き付ける。
傍目には心もとない固定だが、ドラキーがそうやって運ぶものを落とすことは滅多にないとヒュンケルは知っている。
送り先は、定期的にパプニカの王城で陸戦騎の役割を果たしている伴侶ことラーハルト。
ところでドラキーの速度は速くない。というか遅い。山奥から海岸近くまでのほほんとえっちらおっちら飛んでくるのだ。軽く一週間は過ぎる。
「…行き違いになるとは思わんのだろうか…」
手紙を読みながら、何故かその辺が気になるラーハルトである。
手紙の内容は色気のかけらもない、パプニカで調達して欲しいものリストだ。
主に調味料香辛料、油紙や紙や布、インクなど。
517そう言われた差し出された封筒をドラキーがニッカリ笑って器用に尻尾を巻き付ける。
傍目には心もとない固定だが、ドラキーがそうやって運ぶものを落とすことは滅多にないとヒュンケルは知っている。
送り先は、定期的にパプニカの王城で陸戦騎の役割を果たしている伴侶ことラーハルト。
ところでドラキーの速度は速くない。というか遅い。山奥から海岸近くまでのほほんとえっちらおっちら飛んでくるのだ。軽く一週間は過ぎる。
「…行き違いになるとは思わんのだろうか…」
手紙を読みながら、何故かその辺が気になるラーハルトである。
手紙の内容は色気のかけらもない、パプニカで調達して欲しいものリストだ。
主に調味料香辛料、油紙や紙や布、インクなど。
Jeff
DOODLELettre à un otage.お題:「手紙」
#LH1dr1wr
ワンドロワンライよりお題をお借りしました
2023年4月29日
Emergency 空が少し黄色い。
耳鳴りの気配を誤魔化しながら、水を一杯飲み干す。
どさりとカウチに倒れ込んだ時、スマホが鳴った。
「……」
ラーハルトは眉間を摘まんで意識をはっきりさせてから、通話をタップする。
「ヒュンケル? ……おい」
がやがやとした雑音。
何度か呼びかけて、やっと応答があった。
「ラーハルト、いきなり電話してすまない」
はつらつとした恋人の声に、ラーハルトは思わず破顔する。
「今日、航空学校の試験だろ。そろそろ終わっているかと思って」
「ああ」
パイロットの卵ラーハルトは、カウチに溶けそうな態勢のまま投げやりに答える。
「どうだった?」
「まあまあだ」と、寝返りを打つ。
「良かった。合格だな」能天気なヒュンケルの歓声。
1985耳鳴りの気配を誤魔化しながら、水を一杯飲み干す。
どさりとカウチに倒れ込んだ時、スマホが鳴った。
「……」
ラーハルトは眉間を摘まんで意識をはっきりさせてから、通話をタップする。
「ヒュンケル? ……おい」
がやがやとした雑音。
何度か呼びかけて、やっと応答があった。
「ラーハルト、いきなり電話してすまない」
はつらつとした恋人の声に、ラーハルトは思わず破顔する。
「今日、航空学校の試験だろ。そろそろ終わっているかと思って」
「ああ」
パイロットの卵ラーハルトは、カウチに溶けそうな態勢のまま投げやりに答える。
「どうだった?」
「まあまあだ」と、寝返りを打つ。
「良かった。合格だな」能天気なヒュンケルの歓声。
Jeff
DOODLEアッテムトにて。お題:「レクイエム」
#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2023/04/23
Elegy「人間は、すごいな」
のんきに呟く相棒に、ラーハルトはくたびれた視線を投げる。
「……毒ガスで死に絶えた坑夫たちへの感想が、それか」
自分で言って、思わず息を詰める。
だが、どんなに感覚を研ぎ澄ませても、今漂っているのは馥郁たるカビくささだけだ。
「いえ、仰るとおりです。希少な鉱物は当時の街を活気づけ、坑道は恐るべき速度で拡がり続けたと伝えられます」
ガイドを務める初老の紳士が相づちを打つ。
「人間の強欲は、死に至る病が跋扈し始めてからも変わらなかった。彼らは掘って、掘って、掘りまくったのです」
ヒュンケルはよく整備された岩肌をそっと指でなぞってみた。
倒れ行く同業者に目もくれず先を急いだ、一攫千金を狙う若者たち。名誉欲や射幸心に、あるいはそれに類する怪物に支配され、瘴気の恐ろしさを忘れ去った、愚かな人々。
3155のんきに呟く相棒に、ラーハルトはくたびれた視線を投げる。
「……毒ガスで死に絶えた坑夫たちへの感想が、それか」
自分で言って、思わず息を詰める。
だが、どんなに感覚を研ぎ澄ませても、今漂っているのは馥郁たるカビくささだけだ。
「いえ、仰るとおりです。希少な鉱物は当時の街を活気づけ、坑道は恐るべき速度で拡がり続けたと伝えられます」
ガイドを務める初老の紳士が相づちを打つ。
「人間の強欲は、死に至る病が跋扈し始めてからも変わらなかった。彼らは掘って、掘って、掘りまくったのです」
ヒュンケルはよく整備された岩肌をそっと指でなぞってみた。
倒れ行く同業者に目もくれず先を急いだ、一攫千金を狙う若者たち。名誉欲や射幸心に、あるいはそれに類する怪物に支配され、瘴気の恐ろしさを忘れ去った、愚かな人々。
garuhyu
DONE父母の日か勇者の日かで後者またマイ設定を増やしてしまった…
ラーヒュンハウスこさえて二年目くらいのイメージ
ワンドロお題「レクイエム」年に一度、ヒュンケルが絶対にひとに会わない日がある。
「勇者の日」と呼ばれる祝祭の日。
旧魔王軍を打ち滅ぼした栄誉を称える鐘の音が鳴り響く。人里離れた山奥にも、その音がどこからか響く。人間にとっては祝祭の口実は何でもいいのだ。
ヒュンケルの生い立ちは、実はあまり知られていない。
本人も、本人から直接聞いたダイ・ポップ・マァムも、口外していないからだ。深い仲となったラーハルトは知っているが、勿論誰にも話していない。
だからこの日が彼にとってどういう意味を持つのか、レオナですら知らない。
この日になると、ヒュンケルはどこか一人きりになれる所に籠る。旅先であればどこかの穴倉か、樹々の中か。
街中であればどこかの倉庫か。
1073「勇者の日」と呼ばれる祝祭の日。
旧魔王軍を打ち滅ぼした栄誉を称える鐘の音が鳴り響く。人里離れた山奥にも、その音がどこからか響く。人間にとっては祝祭の口実は何でもいいのだ。
ヒュンケルの生い立ちは、実はあまり知られていない。
本人も、本人から直接聞いたダイ・ポップ・マァムも、口外していないからだ。深い仲となったラーハルトは知っているが、勿論誰にも話していない。
だからこの日が彼にとってどういう意味を持つのか、レオナですら知らない。
この日になると、ヒュンケルはどこか一人きりになれる所に籠る。旅先であればどこかの穴倉か、樹々の中か。
街中であればどこかの倉庫か。
garuhyu
DONE色々想像力を鍛えられる感じになってしまった(笑)ワンドロお題「マッサージ」ヒュンケルは、時々寝込むようになった。
体中の古傷由来だと思われるが詳細はわからない。おそらく安心して寝込めるようになったから寝込んでいるのだとラーハルトは思っている。
勇者が帰り平和になった、二人暮らしも馴染んだ日々。
そしてヒュンケルが目を覚ませば恒例行事となっているのが、ラーハルトのマッサージである。
確かに一日単位で寝込んだ身体には大変心地よいのだが…
「もしかして、母御にもやっていたことなのか」
そうヒュンケルが聞くと、ラーハルトは少しだけ目を見開いて、フッと息を吐いた。
「解るか」
「まあ、なんとなく」
まだ村にいても石など投げられなかった比較的平和だったころ、寝たきりの者は時々動かさねばならないのだと、何かの機会に聞き知っていた。
552体中の古傷由来だと思われるが詳細はわからない。おそらく安心して寝込めるようになったから寝込んでいるのだとラーハルトは思っている。
勇者が帰り平和になった、二人暮らしも馴染んだ日々。
そしてヒュンケルが目を覚ませば恒例行事となっているのが、ラーハルトのマッサージである。
確かに一日単位で寝込んだ身体には大変心地よいのだが…
「もしかして、母御にもやっていたことなのか」
そうヒュンケルが聞くと、ラーハルトは少しだけ目を見開いて、フッと息を吐いた。
「解るか」
「まあ、なんとなく」
まだ村にいても石など投げられなかった比較的平和だったころ、寝たきりの者は時々動かさねばならないのだと、何かの機会に聞き知っていた。
garuhyu
DONE最初は現パロにするつもりだったんだけど、ぼけっと書く間に橙ワールドになってました。色々設定捏造。ワンドロお題「花吹雪」その村は、山あいの小さな村だった。
特徴的なのは、村の中央に桜の大樹があることだ。
「これは美しい」
そういう風情には疎いヒュンケルも、感嘆してそう呟いてしまうほど、その桜は咲き誇っていた。
時期的には満開を少し過ぎ、散りはじめていたわけだが。
「そうだな、とても美しい」
花びらの舞う中でそれに見惚れているお前が。
そう続けようとして、ラーハルトはヒュンケルの笑顔の質が何か違うことに気が付いた。
「………もしかして、これはただの木ではなかったりするのか…?」
「よくわかったな、これは桜んじゅだ。人面樹の亜種だな。高齢故かほとんど目覚めないようだが」
「そういう事もあるのか…?」
「昔人面樹の知り合いがいたのでな。仲間の事を教えてもらったことがある。」
787特徴的なのは、村の中央に桜の大樹があることだ。
「これは美しい」
そういう風情には疎いヒュンケルも、感嘆してそう呟いてしまうほど、その桜は咲き誇っていた。
時期的には満開を少し過ぎ、散りはじめていたわけだが。
「そうだな、とても美しい」
花びらの舞う中でそれに見惚れているお前が。
そう続けようとして、ラーハルトはヒュンケルの笑顔の質が何か違うことに気が付いた。
「………もしかして、これはただの木ではなかったりするのか…?」
「よくわかったな、これは桜んじゅだ。人面樹の亜種だな。高齢故かほとんど目覚めないようだが」
「そういう事もあるのか…?」
「昔人面樹の知り合いがいたのでな。仲間の事を教えてもらったことがある。」
garuhyu
DONE以前呟いた、「ヒュンの子供の頃の食生活を想像してみた」を旅の一場面で再生してみた、という形です。ワンドロお題「味覚」味覚とは、食物の可食か否かを判断する、生存に非常に影響する感覚である。筈である。
「貴様の味覚はどうなっているのだ」
共に旅に出て、最初に衝突した価値観がこれであった。
「どう、と言われても」
「焼いただけの肉は味などなかろう!せめて塩をかけろ塩を」
道すがら狩った兎の肉処理を任せたところ、ただ焼いた肉を出されたラーハルトは渋い顔だ。
「すまんな、味を知らないわけではないのだが、子供の頃はこういう肉しか食べてなくてつい…」
申し訳なさげにボソボソ言われると、口が悪いと自覚のあるラーハルトとしては黙るしかない。
「…旧魔王軍は食事のレベルが低かったのか?」
「周りの家族は大体生肉だったぞ」
そのレベルか、と顔を手で覆って天を仰いでしまうラーハルトである。
631「貴様の味覚はどうなっているのだ」
共に旅に出て、最初に衝突した価値観がこれであった。
「どう、と言われても」
「焼いただけの肉は味などなかろう!せめて塩をかけろ塩を」
道すがら狩った兎の肉処理を任せたところ、ただ焼いた肉を出されたラーハルトは渋い顔だ。
「すまんな、味を知らないわけではないのだが、子供の頃はこういう肉しか食べてなくてつい…」
申し訳なさげにボソボソ言われると、口が悪いと自覚のあるラーハルトとしては黙るしかない。
「…旧魔王軍は食事のレベルが低かったのか?」
「周りの家族は大体生肉だったぞ」
そのレベルか、と顔を手で覆って天を仰いでしまうラーハルトである。
garuhyu
CAN’T MAKE15分くらいオーバー。そしてこれ小話じゃなくてただのうちの設定説明ダヨーとか思いつつ、こんなものもあっていいじゃないか人様の設定説明俺は読みたい!とファーストペンギンになってみました!うちのラーさん割と何でも作っちゃう人。ワンドロお題「狩り」とある山奥に、ひっそりと建つ家がある。
そこに勇者の仲間であるアバンの使徒の長兄と、親友の陸戦騎が住んでいる。
「旅をしていたときを思い出すな」
ヒュンケルがフフっと笑いながら言うその先には、毛皮をなめす作業をしているラーハルトがいる。
旅では狩りをしながら進んでいた。基本的には食べるだけをその都度採るのだが、そのうち毛皮をどうにかできないかと考えたのがラーハルトだ。
元々身の回りの物を作る性分だったラーハルトには、基本的な知識と技術があった。
とはいえ旅先でのこと、十分ななめしができるわけもない。
防腐処理のみ施して町の毛皮業者に買い取ってもらうのがせいぜいだ。それでも路銀になるのでヒュンケルとしてはひたすらありがたかったが、ラーハルトは欲求不満がたまったらしい。
793そこに勇者の仲間であるアバンの使徒の長兄と、親友の陸戦騎が住んでいる。
「旅をしていたときを思い出すな」
ヒュンケルがフフっと笑いながら言うその先には、毛皮をなめす作業をしているラーハルトがいる。
旅では狩りをしながら進んでいた。基本的には食べるだけをその都度採るのだが、そのうち毛皮をどうにかできないかと考えたのがラーハルトだ。
元々身の回りの物を作る性分だったラーハルトには、基本的な知識と技術があった。
とはいえ旅先でのこと、十分ななめしができるわけもない。
防腐処理のみ施して町の毛皮業者に買い取ってもらうのがせいぜいだ。それでも路銀になるのでヒュンケルとしてはひたすらありがたかったが、ラーハルトは欲求不満がたまったらしい。
garuhyu
DONEワンドロお題「嫉妬」話題にポップが出てます。三人称を目指したけどラー視点にひきずられてるう~
「いけめん、とはどういう意味だろうか」
真面目にそう尋ねるヒュンケルに、ラーハルトは非常~に嫌な予感を感じつつ応じる。
「普通の意味は『顔のいい男』だ」
「俺は顔がいいのか?」
こいつの弟弟子の魔法使いが聞いたらブチ切れそうだなと思いつつ、「いい方だぞ」とだけ答えるのもなかなか辛い…と考えていたラーハルトだが、そもそもその魔法使いが発端らしい。
「いけめんにはわからんと怒鳴られた」
なるほどそれで落ち込んでいるわけか。
という発見は努めてスルーしつつ
「目鼻立ちが整っているという意味ならポップだっていけめんだろうに、納得がいかん」
そこかよ、というツッコミも努めてスルーしつつ
「あの魔法使いがお前に嫉妬してるのは今に始まったことではないのだろう」
892真面目にそう尋ねるヒュンケルに、ラーハルトは非常~に嫌な予感を感じつつ応じる。
「普通の意味は『顔のいい男』だ」
「俺は顔がいいのか?」
こいつの弟弟子の魔法使いが聞いたらブチ切れそうだなと思いつつ、「いい方だぞ」とだけ答えるのもなかなか辛い…と考えていたラーハルトだが、そもそもその魔法使いが発端らしい。
「いけめんにはわからんと怒鳴られた」
なるほどそれで落ち込んでいるわけか。
という発見は努めてスルーしつつ
「目鼻立ちが整っているという意味ならポップだっていけめんだろうに、納得がいかん」
そこかよ、というツッコミも努めてスルーしつつ
「あの魔法使いがお前に嫉妬してるのは今に始まったことではないのだろう」
Jeff
DOODLEお題:「嫉妬」#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2023/03/04
Abyss 四秒かけて、肺を清涼な夜気で満たす。
静かに、四秒待つ。
四秒かけて、溜めた空気を全て吐く。
そして、四秒待つ。
規則正しい呼吸を数分ほど繰り返していると、精神のノイズがまばらになってきた。
夜の森の更に奥、漆黒に視線を固定したまま、ヒュンケルはゆっくりと数度瞬きした。
テラスに出したロッキングチェアに背中を預け、両手をだらりと垂らしたまま。
自らを鍛え強くなること
それができるものは皆
尊敬に値した
……羨ましかった
脳髄を埋め尽くしていた声なき声が、末梢神経を伝って皮膚を貫く。
肌を這い、無軌道に白い胸をまさぐり、癇癪を起こしたように跳ねる。
もうそこには無い、閉ざされた扉に、今も執着するかのように。
2065静かに、四秒待つ。
四秒かけて、溜めた空気を全て吐く。
そして、四秒待つ。
規則正しい呼吸を数分ほど繰り返していると、精神のノイズがまばらになってきた。
夜の森の更に奥、漆黒に視線を固定したまま、ヒュンケルはゆっくりと数度瞬きした。
テラスに出したロッキングチェアに背中を預け、両手をだらりと垂らしたまま。
自らを鍛え強くなること
それができるものは皆
尊敬に値した
……羨ましかった
脳髄を埋め尽くしていた声なき声が、末梢神経を伝って皮膚を貫く。
肌を這い、無軌道に白い胸をまさぐり、癇癪を起こしたように跳ねる。
もうそこには無い、閉ざされた扉に、今も執着するかのように。
garuhyu
DONE勉強になる、かもしれない(笑)あの世界の漢字の扱いはもうフィーリングなので細かい事は気にしない!でください!(笑)
ワンドロお題「弱肉強食」(ヒュンケル視点)
勇者を探す旅の合間であっても、困っている人の頼みをついつい聞いてしまうことは、多い。
今回は山賊まがいを退治することだった。
「世の中は弱肉強食だ!何もやましい事じゃねえ!」
縄で縛られててもそういい放つのは大した度胸と言えなくもない。が。
「今はお前が弱くて肉になったのだ。肉は肉らしく黙ってろ」
ラーハルトの蹴り付きのツッコミが、棘というより槍か鈍器になっているのは気のせいか。
「弱肉強食、か」
弱い者は強い者に食われる、まあそんな意味である。
「当たり前すぎて四字熟語にする意味がわからんな」
まったく同感ながら、四字熟語という単語にふと閃いたというか。
「ひょっとして、諺の類を使われたから機嫌が悪いのか?」
925勇者を探す旅の合間であっても、困っている人の頼みをついつい聞いてしまうことは、多い。
今回は山賊まがいを退治することだった。
「世の中は弱肉強食だ!何もやましい事じゃねえ!」
縄で縛られててもそういい放つのは大した度胸と言えなくもない。が。
「今はお前が弱くて肉になったのだ。肉は肉らしく黙ってろ」
ラーハルトの蹴り付きのツッコミが、棘というより槍か鈍器になっているのは気のせいか。
「弱肉強食、か」
弱い者は強い者に食われる、まあそんな意味である。
「当たり前すぎて四字熟語にする意味がわからんな」
まったく同感ながら、四字熟語という単語にふと閃いたというか。
「ひょっとして、諺の類を使われたから機嫌が悪いのか?」
garuhyu
DONEお題がとてもロマンチックなのにとても残念なラーヒュンを展開してしまってすまないワンドロお題「くちづけ」ラーハルトの母親は、情の深い女性だった、らしい。
周囲の白い目も何のその、魔族の夫と、夫に瓜二つの息子を熱烈に愛したそうだ。
その影響で、ラーハルトは息をするようにくちづけてくる。
頬に、こめかみに、指に、額に。
ちょっと触れ合ったとか目が合ったとかそんなときに本当に自然に。
対して俺はその習慣がない。
嫌ではない。寧ろくすぐったくて幸せな気分になってとても好きなのだが…
一つの苦悩が生まれてしまったのだ。
どうやっても自分から彼にすることができない…!
タイミングがどうしても掴めないのだ。
何故奴はこんな難事をたやすく行えるのか…!
苦悩した末、なるほどこれは武道の修行に通じるのでは!!!と思い立った。
奴の隙を伺うのだ!!!
530周囲の白い目も何のその、魔族の夫と、夫に瓜二つの息子を熱烈に愛したそうだ。
その影響で、ラーハルトは息をするようにくちづけてくる。
頬に、こめかみに、指に、額に。
ちょっと触れ合ったとか目が合ったとかそんなときに本当に自然に。
対して俺はその習慣がない。
嫌ではない。寧ろくすぐったくて幸せな気分になってとても好きなのだが…
一つの苦悩が生まれてしまったのだ。
どうやっても自分から彼にすることができない…!
タイミングがどうしても掴めないのだ。
何故奴はこんな難事をたやすく行えるのか…!
苦悩した末、なるほどこれは武道の修行に通じるのでは!!!と思い立った。
奴の隙を伺うのだ!!!
Jeff
DOODLEお題:「噂」#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2023/02/12
New Kid in Town ――いつからだろう。
飴色のカウンターに頬杖をつき、ラーハルトは半分になったビールを見つめた。
いつから、こんなに静かに飲むようになったのだろう。
気の利いたマスターは、三杯目をせっつくこともなく、ただ放置してくれている。
古いピンボール台とジュークボックスがまじめに置いてあるような、時代遅れの店だ。書評からもSNSからも原稿からもエゴサーチの誘惑からも逃れて、気持ちよく人間観察のできる、お気に入りの場所だった。
だが今は、この静けさが、憎い。
「あんたのこと知ってる」
突然声をかけられて、びくりと隣に目をやった。
久しぶりだ。
青年はブナハーブン・ウイスキーをダブルで、と注文すると、遠慮もなく腰かけた。
2421飴色のカウンターに頬杖をつき、ラーハルトは半分になったビールを見つめた。
いつから、こんなに静かに飲むようになったのだろう。
気の利いたマスターは、三杯目をせっつくこともなく、ただ放置してくれている。
古いピンボール台とジュークボックスがまじめに置いてあるような、時代遅れの店だ。書評からもSNSからも原稿からもエゴサーチの誘惑からも逃れて、気持ちよく人間観察のできる、お気に入りの場所だった。
だが今は、この静けさが、憎い。
「あんたのこと知ってる」
突然声をかけられて、びくりと隣に目をやった。
久しぶりだ。
青年はブナハーブン・ウイスキーをダブルで、と注文すると、遠慮もなく腰かけた。
Jeff
DOODLEお題:「魂の絆」#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2023/02/05
Interstellar「このあたりだと思うんだけどな」
テラン近郊、名もなき湖のほとり。
絆の勇者は、腰に手を当てて水面を見下ろした。
「ほんとに? あたしは何も感知してないわよ」
時空のカギを司るピンクドラキーは、疑わしそうに周辺を飛び回る。
「『揺れ』には周期があるわ。今はその時じゃない。なにかの間違いかもね」
「ほんとだって。僕は感じた。あ、ほら」
指さす先に、おぼろげな人影。
「ラーハルト?」
その人物はゆっくりと振り返り、絆の勇者と目を合わせた。
「どうしてここに? 断空神殿の偵察に行ったんじゃ――」
言葉を切る。
少し淀んだ陸戦騎の瞳と、彼の奇妙な服装を交互に見やる。
黙り込んでしばらく考える。
……そして、こくこくと頷いた。
1978テラン近郊、名もなき湖のほとり。
絆の勇者は、腰に手を当てて水面を見下ろした。
「ほんとに? あたしは何も感知してないわよ」
時空のカギを司るピンクドラキーは、疑わしそうに周辺を飛び回る。
「『揺れ』には周期があるわ。今はその時じゃない。なにかの間違いかもね」
「ほんとだって。僕は感じた。あ、ほら」
指さす先に、おぼろげな人影。
「ラーハルト?」
その人物はゆっくりと振り返り、絆の勇者と目を合わせた。
「どうしてここに? 断空神殿の偵察に行ったんじゃ――」
言葉を切る。
少し淀んだ陸戦騎の瞳と、彼の奇妙な服装を交互に見やる。
黙り込んでしばらく考える。
……そして、こくこくと頷いた。
garuhyu
DONEラーハルト視点ミラドシアでできちゃったラーヒュン
ミラドシア独自解釈あり
ワンドロお題「魂の絆」ミラドシア。不思議な世界で、死んだ筈の俺は大地に立っていた。
そう、死んだと思っていた。実際、死んでいた。
「元の世界に帰ったら、お前はいないのだな…」
無二の友、ヒュンケルが寂寥感を隠しもせず思い出すように俺に呟くのは、実は珍しいことではない。
元の世界に帰ったらもう会えないのだと、俺も彼も疑いもしなかった。
故に、
一線を超えた。
その行為に経験はあれど、好んだ相手とするのはお互いに初めてであった、というのは初夜の後で判明した事実だ。
俺達はどこまで似た者なのか。
それはともかくとして。
俺は実はとても焦っていた。
実は自分は生きているという記憶が先刻流れ込んできたためだ。
絆の勇者が俺達の世界を追体験すると仲間の俺たちにも記憶が共有されるのだが、絆の勇者の体験はダイ様一行に視点がある。
1149そう、死んだと思っていた。実際、死んでいた。
「元の世界に帰ったら、お前はいないのだな…」
無二の友、ヒュンケルが寂寥感を隠しもせず思い出すように俺に呟くのは、実は珍しいことではない。
元の世界に帰ったらもう会えないのだと、俺も彼も疑いもしなかった。
故に、
一線を超えた。
その行為に経験はあれど、好んだ相手とするのはお互いに初めてであった、というのは初夜の後で判明した事実だ。
俺達はどこまで似た者なのか。
それはともかくとして。
俺は実はとても焦っていた。
実は自分は生きているという記憶が先刻流れ込んできたためだ。
絆の勇者が俺達の世界を追体験すると仲間の俺たちにも記憶が共有されるのだが、絆の勇者の体験はダイ様一行に視点がある。
Jeff
DOODLEお題:「炎」#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2023/02/04
Blaze「まだ戦う気か。とうに勝負は見えたはずだ」
ヒュンケルが静かに友を諭す。
紫水晶の瞳に慈愛すら滲ませて、敗者ラーハルトを見下ろした。
「まだだ……まだ終わってはいない」
地上最強の戦士、誇り高き陸戦騎の辞書に、敗北の二文字はない。
ましてや、廃人同然の元戦士に後れを取るなど。
肩で息をしながら言い募る。
「再戦だ。これは何かの間違いだ、俺が敗けるわけがない」
ヒュンケルは親友のらしくない足掻きを前に、寂しげに目を伏せる。
「いいだろう。だが、現実を思い知るのはお前のほうだ」
厳かに腰を下ろし、じっと地面を見つめる。
ラーハルトも息を整え、どさりとあぐらをかいた。
高まる集中力に、空気の重さが変わる。
小鳥は鳴き止み、風は消え、木漏れ日すら凍りつく。
1968ヒュンケルが静かに友を諭す。
紫水晶の瞳に慈愛すら滲ませて、敗者ラーハルトを見下ろした。
「まだだ……まだ終わってはいない」
地上最強の戦士、誇り高き陸戦騎の辞書に、敗北の二文字はない。
ましてや、廃人同然の元戦士に後れを取るなど。
肩で息をしながら言い募る。
「再戦だ。これは何かの間違いだ、俺が敗けるわけがない」
ヒュンケルは親友のらしくない足掻きを前に、寂しげに目を伏せる。
「いいだろう。だが、現実を思い知るのはお前のほうだ」
厳かに腰を下ろし、じっと地面を見つめる。
ラーハルトも息を整え、どさりとあぐらをかいた。
高まる集中力に、空気の重さが変わる。
小鳥は鳴き止み、風は消え、木漏れ日すら凍りつく。
Jeff
DOODLEお題:「化粧」#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2023/01/29
Noir 研ぎ澄ました刃先が、音もなく紙面に踊る。
見本と寸分たがわぬ、むしろ更に流麗な線が、無垢なページを埋めていく。
――書道はいかがでしょう。
恩師の提案が間違っていたことはほとんどない。
――集中力と空間認識能力。しかも、何かを生み出すことができる。
「俺にそんな器用な真似ができるでしょうか、先生」
「やってみたらどうです。向いていると思いますよ」
師はからりと笑いながら、
「何より、悩みの時間が潰れる」
と言った。
藍色のインク壺にきらめくペン先を差し込んで、慎重に水滴を落とし、深呼吸。
当初だいぶ大味だったヒュンケルの筆跡は、今は魔界の飾り文字で数ページを埋めつくすまでに上達している。
1567見本と寸分たがわぬ、むしろ更に流麗な線が、無垢なページを埋めていく。
――書道はいかがでしょう。
恩師の提案が間違っていたことはほとんどない。
――集中力と空間認識能力。しかも、何かを生み出すことができる。
「俺にそんな器用な真似ができるでしょうか、先生」
「やってみたらどうです。向いていると思いますよ」
師はからりと笑いながら、
「何より、悩みの時間が潰れる」
と言った。
藍色のインク壺にきらめくペン先を差し込んで、慎重に水滴を落とし、深呼吸。
当初だいぶ大味だったヒュンケルの筆跡は、今は魔界の飾り文字で数ページを埋めつくすまでに上達している。
garuhyu
MEMO前回の「荷物」の続きぽいものになったプロット的な何かうちはヒュンケルが旅立つのをラーが便乗で助けている二人旅設定です
この二人はまだくっついてない
ワンドロ「添い寝」ヒュンケルはたまに、古傷由来の熱を出す。
そういうときは、野宿ではなく宿を取る。
「謝るのは禁止だ」
目を覚まして何か言おうとする気配を察して先手を打つ。案の定、図星を突かれたために目を白黒させている。…ちょっと可愛い。
「しかし」
「急ぐ旅なら別だが、当てがない…というより当て自体を探す旅だ。お前で足止めを食う事が必ずしもマイナスだとは限らん。」
それでも納得しかねるようなので、少し趣向を変えてみる。
「…まあ、自分から飛び出した手前恰好がつかんという気持ちはわからんでもない」
意地悪い視線で見やってみればわかりやすくぐうっという顔で呻いている。
「心配しなくてもいつも通りしっかり看護してやる。覚悟するがいい」
633そういうときは、野宿ではなく宿を取る。
「謝るのは禁止だ」
目を覚まして何か言おうとする気配を察して先手を打つ。案の定、図星を突かれたために目を白黒させている。…ちょっと可愛い。
「しかし」
「急ぐ旅なら別だが、当てがない…というより当て自体を探す旅だ。お前で足止めを食う事が必ずしもマイナスだとは限らん。」
それでも納得しかねるようなので、少し趣向を変えてみる。
「…まあ、自分から飛び出した手前恰好がつかんという気持ちはわからんでもない」
意地悪い視線で見やってみればわかりやすくぐうっという顔で呻いている。
「心配しなくてもいつも通りしっかり看護してやる。覚悟するがいい」
garuhyu
MEMO絵にしかったのを文にしたやつです。ワンドロお題「荷物」何が悪かったというわけでもない。
気温の寒暖差、悪路に次ぐ悪路、そんなものは当たり前。問題にする方がどうかしている。
痛んだ身体、それもまたよくわかっている。この身体と付き合って生きて行くと決めた。そういう見極めは得意な方だった。
「だから」「倒れるわけがない」そう思おうとしてー
そこで意識が途切れた、らしい。
気がついたときは、相棒に背負われていた。
状況を理解しても、焦ることすらできなかった。
体中が悲鳴を上げて、おそらく発熱している。力が入らない。
意識が戻った事がわかったのだろう、相棒ーラーハルトが溜息をつくのがわかった。
「すまない、荷物になった…」
それだけ言うのがやっとで、せめて完全に意識を落として負担になることだけは避けたくて、必死にしがみついていた。
465気温の寒暖差、悪路に次ぐ悪路、そんなものは当たり前。問題にする方がどうかしている。
痛んだ身体、それもまたよくわかっている。この身体と付き合って生きて行くと決めた。そういう見極めは得意な方だった。
「だから」「倒れるわけがない」そう思おうとしてー
そこで意識が途切れた、らしい。
気がついたときは、相棒に背負われていた。
状況を理解しても、焦ることすらできなかった。
体中が悲鳴を上げて、おそらく発熱している。力が入らない。
意識が戻った事がわかったのだろう、相棒ーラーハルトが溜息をつくのがわかった。
「すまない、荷物になった…」
それだけ言うのがやっとで、せめて完全に意識を落として負担になることだけは避けたくて、必死にしがみついていた。
Jeff
DOODLEお題:「シャボン玉」#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2022/11/12
Savon 魔槍の柄を固定しなおして、ラーハルトはすぅと息を吐いた。
研ぐ手を止めないまま、少しだけ力を緩める。
しゃりん、という涼やかな金属音と、不規則に響く水音が混じって、ちょっとした和音を奏でている。
小さな宿だ。相棒が湯を使い始めると、温かな蒸気がラーハルトが腰かけるベッドまで忍び寄ってきた。
甘く煙たい、高貴な果物のような香り。
「何をそんなに見ている。珍しくもないだろう」
大都市、というほどの規模ではないが、比較的新しい商人の街だ。あのベンガーナの百貨店をやや縮小したくらいの、大型の店舗がそびえていた。
人々は着飾って足を運び、キラキラ輝く贅沢品を次々に手に取って、満たされた微笑みと共に帰っていく。
2344研ぐ手を止めないまま、少しだけ力を緩める。
しゃりん、という涼やかな金属音と、不規則に響く水音が混じって、ちょっとした和音を奏でている。
小さな宿だ。相棒が湯を使い始めると、温かな蒸気がラーハルトが腰かけるベッドまで忍び寄ってきた。
甘く煙たい、高貴な果物のような香り。
「何をそんなに見ている。珍しくもないだろう」
大都市、というほどの規模ではないが、比較的新しい商人の街だ。あのベンガーナの百貨店をやや縮小したくらいの、大型の店舗がそびえていた。
人々は着飾って足を運び、キラキラ輝く贅沢品を次々に手に取って、満たされた微笑みと共に帰っていく。
Jeff
DOODLEお題:「ガラス細工」少し辛い話です、少年期Hyunとともだち。余裕ある時に読んで頂ければ幸いです、すみません。
#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2022/10/30
Fragile「これが僕のママ。こっちが、猫のルー。この熊さんは、大きいけれど乱暴はしないんだ。こっちの綺麗な塔は、天空のお城につながってるんだよ」
柔らかな浅葱色の草の上に、きらきら光る宝物が並んでいる。
ヒュンケルは鬱陶しそうなふりをしながら、横目でガラス細工の行列を見やった。
「そんなもの。なんの役にも立たない。大事に取っておいてどうするんだ」
「役に立たなくないよ。僕の友達だ。君に似てるよ、銀色の妖精さん」
少年はにっこり笑って、スライムの形のガラス玉を持ち上げた。
擦り切れたズボンから覗く膝に、新しい擦り傷が見える。
「ママの顔は知らないけど。でも、僕の為に取っておいてくれたお人形なんだ。……旦那様には、秘密だけどね」
2699柔らかな浅葱色の草の上に、きらきら光る宝物が並んでいる。
ヒュンケルは鬱陶しそうなふりをしながら、横目でガラス細工の行列を見やった。
「そんなもの。なんの役にも立たない。大事に取っておいてどうするんだ」
「役に立たなくないよ。僕の友達だ。君に似てるよ、銀色の妖精さん」
少年はにっこり笑って、スライムの形のガラス玉を持ち上げた。
擦り切れたズボンから覗く膝に、新しい擦り傷が見える。
「ママの顔は知らないけど。でも、僕の為に取っておいてくれたお人形なんだ。……旦那様には、秘密だけどね」
Jeff
DOODLEお題:「香水」#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2022/10/16
Shenanigans ……ぴちょん。
ひそやかな水音に、ヒュンケルはうっすらと瞼を開く。
岩肌に揺れる蝋燭の光が眩しい。この部屋の、唯一の光源。
清潔な枕からそっと頭を持ち上げて、自分の身体を見下ろしてみる。
闇の中に浮かび上がる白い胸から、力なくシーツに投げ出された腕、裸のままの腰と、足先まで。
つい先日まで鋼鉄の輪がはめられていた足首には、もうなにも戒めるものがない。
そんなものが無くても、もはや逃げることが出来ないと分かっているからだ。
逃げる、という選択肢が思い浮かばないくらい、完全に壊れてしまったのだから。
今までになく伸びた銀色の髪の先に、何か触れるものを感じる。鈍重な視線を向けると、彼の恋人は寝台の脇にかしずいて、熱心に毛束を布で拭っていた。
3230ひそやかな水音に、ヒュンケルはうっすらと瞼を開く。
岩肌に揺れる蝋燭の光が眩しい。この部屋の、唯一の光源。
清潔な枕からそっと頭を持ち上げて、自分の身体を見下ろしてみる。
闇の中に浮かび上がる白い胸から、力なくシーツに投げ出された腕、裸のままの腰と、足先まで。
つい先日まで鋼鉄の輪がはめられていた足首には、もうなにも戒めるものがない。
そんなものが無くても、もはや逃げることが出来ないと分かっているからだ。
逃げる、という選択肢が思い浮かばないくらい、完全に壊れてしまったのだから。
今までになく伸びた銀色の髪の先に、何か触れるものを感じる。鈍重な視線を向けると、彼の恋人は寝台の脇にかしずいて、熱心に毛束を布で拭っていた。
Jeff
DOODLEお題:「髪」事後の憂鬱。
(捏造設定です)
#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2022/10/09
Beast うつ伏せたままの白い背から、ゆっくりと体を引き剥がす。
粘着質な何かが二人の間に糸を引く、淫らな錯覚と共に。
すでに汚れ切ったブランケットを引き寄せ、なるべく清潔な一角を使って、恋人の身体から体液を拭き取っていく。
だらしなく投げ出された四肢をそのままに愛でて、柔らかい尻に散った噛み跡をなぞり、数日は残りそうな腰の圧迫痕を密かに撫でる。
湿った大腿をざっと綺麗にしてやってから、脊椎の凹凸に静かに唇を寄せた。
一つ一つにキスを落とし、甘く苦い皮膚を味わいながら、首筋まで登っていく。
意識の無い恋人が、小さく喃語のような音を出した。軽いハミングで答えて、銀糸のような髪の生え際に指を通す。
顔を離して、大きく息をつき、彼の後ろ髪をかき分ける。
990粘着質な何かが二人の間に糸を引く、淫らな錯覚と共に。
すでに汚れ切ったブランケットを引き寄せ、なるべく清潔な一角を使って、恋人の身体から体液を拭き取っていく。
だらしなく投げ出された四肢をそのままに愛でて、柔らかい尻に散った噛み跡をなぞり、数日は残りそうな腰の圧迫痕を密かに撫でる。
湿った大腿をざっと綺麗にしてやってから、脊椎の凹凸に静かに唇を寄せた。
一つ一つにキスを落とし、甘く苦い皮膚を味わいながら、首筋まで登っていく。
意識の無い恋人が、小さく喃語のような音を出した。軽いハミングで答えて、銀糸のような髪の生え際に指を通す。
顔を離して、大きく息をつき、彼の後ろ髪をかき分ける。
Jeff
DOODLEお題:食べる#LH1dr1wr
1時間少し超えてしまいました、字数が多くすみません。
なぜか毎朝、卵料理を作るラー。
(ラーヒュンワンドロワンライ参加作品)
2022/09/28
Eggs「見ろ、ラーハルト」
ヒュンケルが寝室から声を張る。
ラーハルトはスープを煮立てる火を弱め、ことさら面倒くさそうに、彼が横たわるベッドに向かった。
「なんだ、朝から。いや、そもそも、きちんと起きて手伝わんか、この怠惰なごくつぶしめ」
「俺は休日だ。忘れたのか。それより、この本、古代の魔導書かと思ったのだが」
サイドテーブルには、昨日仕入れてきた古書が山積みになっている。寝転がったままのヒュンケルが、そのうちの一冊を指し示した。
擦り切れた印刷で、黄色っぽい楕円形がうずたかく積まれている、なんとも緊張感のない表紙。
「訳してみたら、全然違った。卵料理のレシピ集だった」
「だろうな」
見ればわかる気がするが。
5216ヒュンケルが寝室から声を張る。
ラーハルトはスープを煮立てる火を弱め、ことさら面倒くさそうに、彼が横たわるベッドに向かった。
「なんだ、朝から。いや、そもそも、きちんと起きて手伝わんか、この怠惰なごくつぶしめ」
「俺は休日だ。忘れたのか。それより、この本、古代の魔導書かと思ったのだが」
サイドテーブルには、昨日仕入れてきた古書が山積みになっている。寝転がったままのヒュンケルが、そのうちの一冊を指し示した。
擦り切れた印刷で、黄色っぽい楕円形がうずたかく積まれている、なんとも緊張感のない表紙。
「訳してみたら、全然違った。卵料理のレシピ集だった」
「だろうな」
見ればわかる気がするが。
Jeff
DOODLEお題:月#LH1dr1wr
再び色づきはじめた世界について。
ラーヒュンワンドロワンライに参加しました。
2022/09/10
Memories「あ」
間延びした声とともに、つい、とラーハルトのマントが引かれた。
「なんだ」
前を歩くラーハルトは振り返り、気まぐれな相棒を睨む。ヒュンケルは目を丸くしたまま、斜め上を指さした。
「見ろ、ラーハルト」
なんだ、敵か。
視線を追うが、雲ひとつない空が広がるのみ。
雪のかけらのような月がひとつ、浮いていた。
「……だから、なんだ」
「あれ、見えるか?」
ラーハルトはもう一度空に目をやる。やはり、白い月くらいしか見えない。
「まさか、昼間の月を見たことが無いのか」と問い返す。
「ある。だが、久しぶりだ。しばらく、見えなくなっていたから」
と、ヒュンケルが興奮気味に言う。
「意味が分からん。誰が見たって月だろう」
1723間延びした声とともに、つい、とラーハルトのマントが引かれた。
「なんだ」
前を歩くラーハルトは振り返り、気まぐれな相棒を睨む。ヒュンケルは目を丸くしたまま、斜め上を指さした。
「見ろ、ラーハルト」
なんだ、敵か。
視線を追うが、雲ひとつない空が広がるのみ。
雪のかけらのような月がひとつ、浮いていた。
「……だから、なんだ」
「あれ、見えるか?」
ラーハルトはもう一度空に目をやる。やはり、白い月くらいしか見えない。
「まさか、昼間の月を見たことが無いのか」と問い返す。
「ある。だが、久しぶりだ。しばらく、見えなくなっていたから」
と、ヒュンケルが興奮気味に言う。
「意味が分からん。誰が見たって月だろう」
kohiruno
TRAINING第五回 #LH1dr1wr の参加。テーマは「結婚」。二人になんらかの儀式をしてほしい欲が出ました。
婚儀の朝 石の寝台に敷いた布が湿っている。ヒュンケルよりも先に目覚めたラーハルトは、起き上がり、白い器の水を飲み干した。老いた神官に案内された古い神殿。その部屋は、床より数段高く作られており、東側の壁には明り取りの大きな窓があった。二人は小さな灯火のもと、どちらが言うでもなく、互いの熱を確かめ合いながら夜を過ごした。
あとは、部屋に点した燭台の焼け焦げた芯を、日が昇る前に二人で湖の祠に備えればよい。婚礼の儀そのものは思っていた以上に簡単だった。半日前、日が暮れかける頃に、湖畔に出向き儀式は始まった。伴侶となることを示す言葉を竜の神に告げる。二人で摘んだ香草を燃やし、供物の酒を湖に注ぎ、残りを一口ずつ飲んだ。
820あとは、部屋に点した燭台の焼け焦げた芯を、日が昇る前に二人で湖の祠に備えればよい。婚礼の儀そのものは思っていた以上に簡単だった。半日前、日が暮れかける頃に、湖畔に出向き儀式は始まった。伴侶となることを示す言葉を竜の神に告げる。二人で摘んだ香草を燃やし、供物の酒を湖に注ぎ、残りを一口ずつ飲んだ。
kohiruno
TRAINING第二回#LH1dr1wr の参加。テーマは「手指」お時間少し過ぎてしまいました。
主催様、いつもありがとうございます!
握り返す手隣のベッドからは、ここ数日の刀匠による鍛錬で、疲れて眠る弟弟子の小さな寝息が聞こえる。
自身の体も、疲労が溜まっているはずだが、気が高ぶり眠れない。ベッドで何度も寝返りを打つ。月のない夜。夜鳥の声がかすかに聞こえる。
「鎧を、もらってはくれないか」
あのとき握り返した硬い掌を思い出す。魔族を思わせる紫の肌に人間のような丸い爪。槍を持っていた血と汗に湿った戦士の手から、力が失われ、命が尽きていくのがわかった。
もしも、許されるならば。
あのまま肩を抱きたかった。「人間を恨んでいたのは、お前だけじゃない」と、自分の思いを伝えられれば。もしも違う形で出会っていれば、戦わずとも済んだのではないか。
しかし、鎧の魔槍は形見となり、我が身に託された。もう、あの手が俺の手を力強く握ることは、ない。
389自身の体も、疲労が溜まっているはずだが、気が高ぶり眠れない。ベッドで何度も寝返りを打つ。月のない夜。夜鳥の声がかすかに聞こえる。
「鎧を、もらってはくれないか」
あのとき握り返した硬い掌を思い出す。魔族を思わせる紫の肌に人間のような丸い爪。槍を持っていた血と汗に湿った戦士の手から、力が失われ、命が尽きていくのがわかった。
もしも、許されるならば。
あのまま肩を抱きたかった。「人間を恨んでいたのは、お前だけじゃない」と、自分の思いを伝えられれば。もしも違う形で出会っていれば、戦わずとも済んだのではないか。
しかし、鎧の魔槍は形見となり、我が身に託された。もう、あの手が俺の手を力強く握ることは、ない。