Jeff
DOODLEお題:「シャボン玉」#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2022/11/12
Savon 魔槍の柄を固定しなおして、ラーハルトはすぅと息を吐いた。
研ぐ手を止めないまま、少しだけ力を緩める。
しゃりん、という涼やかな金属音と、不規則に響く水音が混じって、ちょっとした和音を奏でている。
小さな宿だ。相棒が湯を使い始めると、温かな蒸気がラーハルトが腰かけるベッドまで忍び寄ってきた。
甘く煙たい、高貴な果物のような香り。
「何をそんなに見ている。珍しくもないだろう」
大都市、というほどの規模ではないが、比較的新しい商人の街だ。あのベンガーナの百貨店をやや縮小したくらいの、大型の店舗がそびえていた。
人々は着飾って足を運び、キラキラ輝く贅沢品を次々に手に取って、満たされた微笑みと共に帰っていく。
2344研ぐ手を止めないまま、少しだけ力を緩める。
しゃりん、という涼やかな金属音と、不規則に響く水音が混じって、ちょっとした和音を奏でている。
小さな宿だ。相棒が湯を使い始めると、温かな蒸気がラーハルトが腰かけるベッドまで忍び寄ってきた。
甘く煙たい、高貴な果物のような香り。
「何をそんなに見ている。珍しくもないだろう」
大都市、というほどの規模ではないが、比較的新しい商人の街だ。あのベンガーナの百貨店をやや縮小したくらいの、大型の店舗がそびえていた。
人々は着飾って足を運び、キラキラ輝く贅沢品を次々に手に取って、満たされた微笑みと共に帰っていく。
Jeff
DOODLEお題:「ガラス細工」少し辛い話です、少年期Hyunとともだち。余裕ある時に読んで頂ければ幸いです、すみません。
#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2022/10/30
Fragile「これが僕のママ。こっちが、猫のルー。この熊さんは、大きいけれど乱暴はしないんだ。こっちの綺麗な塔は、天空のお城につながってるんだよ」
柔らかな浅葱色の草の上に、きらきら光る宝物が並んでいる。
ヒュンケルは鬱陶しそうなふりをしながら、横目でガラス細工の行列を見やった。
「そんなもの。なんの役にも立たない。大事に取っておいてどうするんだ」
「役に立たなくないよ。僕の友達だ。君に似てるよ、銀色の妖精さん」
少年はにっこり笑って、スライムの形のガラス玉を持ち上げた。
擦り切れたズボンから覗く膝に、新しい擦り傷が見える。
「ママの顔は知らないけど。でも、僕の為に取っておいてくれたお人形なんだ。……旦那様には、秘密だけどね」
2699柔らかな浅葱色の草の上に、きらきら光る宝物が並んでいる。
ヒュンケルは鬱陶しそうなふりをしながら、横目でガラス細工の行列を見やった。
「そんなもの。なんの役にも立たない。大事に取っておいてどうするんだ」
「役に立たなくないよ。僕の友達だ。君に似てるよ、銀色の妖精さん」
少年はにっこり笑って、スライムの形のガラス玉を持ち上げた。
擦り切れたズボンから覗く膝に、新しい擦り傷が見える。
「ママの顔は知らないけど。でも、僕の為に取っておいてくれたお人形なんだ。……旦那様には、秘密だけどね」
Jeff
DOODLEお題:「香水」#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2022/10/16
Shenanigans ……ぴちょん。
ひそやかな水音に、ヒュンケルはうっすらと瞼を開く。
岩肌に揺れる蝋燭の光が眩しい。この部屋の、唯一の光源。
清潔な枕からそっと頭を持ち上げて、自分の身体を見下ろしてみる。
闇の中に浮かび上がる白い胸から、力なくシーツに投げ出された腕、裸のままの腰と、足先まで。
つい先日まで鋼鉄の輪がはめられていた足首には、もうなにも戒めるものがない。
そんなものが無くても、もはや逃げることが出来ないと分かっているからだ。
逃げる、という選択肢が思い浮かばないくらい、完全に壊れてしまったのだから。
今までになく伸びた銀色の髪の先に、何か触れるものを感じる。鈍重な視線を向けると、彼の恋人は寝台の脇にかしずいて、熱心に毛束を布で拭っていた。
3230ひそやかな水音に、ヒュンケルはうっすらと瞼を開く。
岩肌に揺れる蝋燭の光が眩しい。この部屋の、唯一の光源。
清潔な枕からそっと頭を持ち上げて、自分の身体を見下ろしてみる。
闇の中に浮かび上がる白い胸から、力なくシーツに投げ出された腕、裸のままの腰と、足先まで。
つい先日まで鋼鉄の輪がはめられていた足首には、もうなにも戒めるものがない。
そんなものが無くても、もはや逃げることが出来ないと分かっているからだ。
逃げる、という選択肢が思い浮かばないくらい、完全に壊れてしまったのだから。
今までになく伸びた銀色の髪の先に、何か触れるものを感じる。鈍重な視線を向けると、彼の恋人は寝台の脇にかしずいて、熱心に毛束を布で拭っていた。
Jeff
DOODLEお題:「髪」事後の憂鬱。
(捏造設定です)
#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2022/10/09
Beast うつ伏せたままの白い背から、ゆっくりと体を引き剥がす。
粘着質な何かが二人の間に糸を引く、淫らな錯覚と共に。
すでに汚れ切ったブランケットを引き寄せ、なるべく清潔な一角を使って、恋人の身体から体液を拭き取っていく。
だらしなく投げ出された四肢をそのままに愛でて、柔らかい尻に散った噛み跡をなぞり、数日は残りそうな腰の圧迫痕を密かに撫でる。
湿った大腿をざっと綺麗にしてやってから、脊椎の凹凸に静かに唇を寄せた。
一つ一つにキスを落とし、甘く苦い皮膚を味わいながら、首筋まで登っていく。
意識の無い恋人が、小さく喃語のような音を出した。軽いハミングで答えて、銀糸のような髪の生え際に指を通す。
顔を離して、大きく息をつき、彼の後ろ髪をかき分ける。
990粘着質な何かが二人の間に糸を引く、淫らな錯覚と共に。
すでに汚れ切ったブランケットを引き寄せ、なるべく清潔な一角を使って、恋人の身体から体液を拭き取っていく。
だらしなく投げ出された四肢をそのままに愛でて、柔らかい尻に散った噛み跡をなぞり、数日は残りそうな腰の圧迫痕を密かに撫でる。
湿った大腿をざっと綺麗にしてやってから、脊椎の凹凸に静かに唇を寄せた。
一つ一つにキスを落とし、甘く苦い皮膚を味わいながら、首筋まで登っていく。
意識の無い恋人が、小さく喃語のような音を出した。軽いハミングで答えて、銀糸のような髪の生え際に指を通す。
顔を離して、大きく息をつき、彼の後ろ髪をかき分ける。
Jeff
DOODLEお題:食べる#LH1dr1wr
1時間少し超えてしまいました、字数が多くすみません。
なぜか毎朝、卵料理を作るラー。
(ラーヒュンワンドロワンライ参加作品)
2022/09/28
Eggs「見ろ、ラーハルト」
ヒュンケルが寝室から声を張る。
ラーハルトはスープを煮立てる火を弱め、ことさら面倒くさそうに、彼が横たわるベッドに向かった。
「なんだ、朝から。いや、そもそも、きちんと起きて手伝わんか、この怠惰なごくつぶしめ」
「俺は休日だ。忘れたのか。それより、この本、古代の魔導書かと思ったのだが」
サイドテーブルには、昨日仕入れてきた古書が山積みになっている。寝転がったままのヒュンケルが、そのうちの一冊を指し示した。
擦り切れた印刷で、黄色っぽい楕円形がうずたかく積まれている、なんとも緊張感のない表紙。
「訳してみたら、全然違った。卵料理のレシピ集だった」
「だろうな」
見ればわかる気がするが。
5216ヒュンケルが寝室から声を張る。
ラーハルトはスープを煮立てる火を弱め、ことさら面倒くさそうに、彼が横たわるベッドに向かった。
「なんだ、朝から。いや、そもそも、きちんと起きて手伝わんか、この怠惰なごくつぶしめ」
「俺は休日だ。忘れたのか。それより、この本、古代の魔導書かと思ったのだが」
サイドテーブルには、昨日仕入れてきた古書が山積みになっている。寝転がったままのヒュンケルが、そのうちの一冊を指し示した。
擦り切れた印刷で、黄色っぽい楕円形がうずたかく積まれている、なんとも緊張感のない表紙。
「訳してみたら、全然違った。卵料理のレシピ集だった」
「だろうな」
見ればわかる気がするが。
Jeff
DOODLEお題:月#LH1dr1wr
再び色づきはじめた世界について。
ラーヒュンワンドロワンライに参加しました。
2022/09/10
Memories「あ」
間延びした声とともに、つい、とラーハルトのマントが引かれた。
「なんだ」
前を歩くラーハルトは振り返り、気まぐれな相棒を睨む。ヒュンケルは目を丸くしたまま、斜め上を指さした。
「見ろ、ラーハルト」
なんだ、敵か。
視線を追うが、雲ひとつない空が広がるのみ。
雪のかけらのような月がひとつ、浮いていた。
「……だから、なんだ」
「あれ、見えるか?」
ラーハルトはもう一度空に目をやる。やはり、白い月くらいしか見えない。
「まさか、昼間の月を見たことが無いのか」と問い返す。
「ある。だが、久しぶりだ。しばらく、見えなくなっていたから」
と、ヒュンケルが興奮気味に言う。
「意味が分からん。誰が見たって月だろう」
1723間延びした声とともに、つい、とラーハルトのマントが引かれた。
「なんだ」
前を歩くラーハルトは振り返り、気まぐれな相棒を睨む。ヒュンケルは目を丸くしたまま、斜め上を指さした。
「見ろ、ラーハルト」
なんだ、敵か。
視線を追うが、雲ひとつない空が広がるのみ。
雪のかけらのような月がひとつ、浮いていた。
「……だから、なんだ」
「あれ、見えるか?」
ラーハルトはもう一度空に目をやる。やはり、白い月くらいしか見えない。
「まさか、昼間の月を見たことが無いのか」と問い返す。
「ある。だが、久しぶりだ。しばらく、見えなくなっていたから」
と、ヒュンケルが興奮気味に言う。
「意味が分からん。誰が見たって月だろう」
kohiruno
TRAINING第五回 #LH1dr1wr の参加。テーマは「結婚」。二人になんらかの儀式をしてほしい欲が出ました。
婚儀の朝 石の寝台に敷いた布が湿っている。ヒュンケルよりも先に目覚めたラーハルトは、起き上がり、白い器の水を飲み干した。老いた神官に案内された古い神殿。その部屋は、床より数段高く作られており、東側の壁には明り取りの大きな窓があった。二人は小さな灯火のもと、どちらが言うでもなく、互いの熱を確かめ合いながら夜を過ごした。
あとは、部屋に点した燭台の焼け焦げた芯を、日が昇る前に二人で湖の祠に備えればよい。婚礼の儀そのものは思っていた以上に簡単だった。半日前、日が暮れかける頃に、湖畔に出向き儀式は始まった。伴侶となることを示す言葉を竜の神に告げる。二人で摘んだ香草を燃やし、供物の酒を湖に注ぎ、残りを一口ずつ飲んだ。
820あとは、部屋に点した燭台の焼け焦げた芯を、日が昇る前に二人で湖の祠に備えればよい。婚礼の儀そのものは思っていた以上に簡単だった。半日前、日が暮れかける頃に、湖畔に出向き儀式は始まった。伴侶となることを示す言葉を竜の神に告げる。二人で摘んだ香草を燃やし、供物の酒を湖に注ぎ、残りを一口ずつ飲んだ。
kohiruno
TRAINING第二回#LH1dr1wr の参加。テーマは「手指」お時間少し過ぎてしまいました。
主催様、いつもありがとうございます!
握り返す手隣のベッドからは、ここ数日の刀匠による鍛錬で、疲れて眠る弟弟子の小さな寝息が聞こえる。
自身の体も、疲労が溜まっているはずだが、気が高ぶり眠れない。ベッドで何度も寝返りを打つ。月のない夜。夜鳥の声がかすかに聞こえる。
「鎧を、もらってはくれないか」
あのとき握り返した硬い掌を思い出す。魔族を思わせる紫の肌に人間のような丸い爪。槍を持っていた血と汗に湿った戦士の手から、力が失われ、命が尽きていくのがわかった。
もしも、許されるならば。
あのまま肩を抱きたかった。「人間を恨んでいたのは、お前だけじゃない」と、自分の思いを伝えられれば。もしも違う形で出会っていれば、戦わずとも済んだのではないか。
しかし、鎧の魔槍は形見となり、我が身に託された。もう、あの手が俺の手を力強く握ることは、ない。
389自身の体も、疲労が溜まっているはずだが、気が高ぶり眠れない。ベッドで何度も寝返りを打つ。月のない夜。夜鳥の声がかすかに聞こえる。
「鎧を、もらってはくれないか」
あのとき握り返した硬い掌を思い出す。魔族を思わせる紫の肌に人間のような丸い爪。槍を持っていた血と汗に湿った戦士の手から、力が失われ、命が尽きていくのがわかった。
もしも、許されるならば。
あのまま肩を抱きたかった。「人間を恨んでいたのは、お前だけじゃない」と、自分の思いを伝えられれば。もしも違う形で出会っていれば、戦わずとも済んだのではないか。
しかし、鎧の魔槍は形見となり、我が身に託された。もう、あの手が俺の手を力強く握ることは、ない。