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    sushiwoyokose

    @sushiwoyokose

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    sushiwoyokose

    DOODLEボリパにも怪我してほしかったからしてもらいました ボクロク/グラカイ風味(グ没後)/カが比較的保護者をしている
    駒の安寧海沿いに聳え立つカインの屋敷は、言わずもがな豪華絢爛である。分かりやすい豪勢さは家主曰く釣り餌代わりとのことだったが、俺から見ればむしろ逆。足を竦ませる抑止力だ。見渡す限りの巨大な彫刻、手入れの行き届いた庭の植生、そして玄関前を塞ぐ大仰な門。もしも俺がカインとまったく面識がなく、サウスタウンのいち住民としてこの屋敷を眺めたのなら、間違っても立ち寄ろうなどとは思わないだろう。
    (俺の身の丈には絶対に合わない場所、だと思ってたんだけど。慣れるもんだな)
    貴族然とした空間にどこか肩身の狭さを覚えていたのも今は昔。この屋敷で寝起きをするようになって幾月もの時間が流れ、今やどの部屋を覗くにもさしたる抵抗はなくなってきている。日付が変わろうかというこの時間になって、手持無沙汰にベースを鳴らしているのが羽を伸ばせるようになったいい証拠だった。どんな時間になろうと好きに楽器をかき鳴らせるのは、あたりに他の居住区のないこの場所故の特権である。無論、屋敷内の人間には気を遣わねばならないがこの規模の家だ。部屋同士の距離とて十二分に離れているのでさして心配はいらない。アンプを繋がない生音であれば、せいぜい憚るべきは目の前にある一部屋くらいのもの。そしてありがたいことに、その部屋の主はそれなりに音楽が好きときている。
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    sushiwoyokose

    DOODLEグラカイと喪失に向かう彼らを掬う救済者のロ グの吐血描写あり
    明星死期が近い。見積もられた余命を淡々と闇医者に告げられた時より、今のほうがよほど実感と納得がある。起き上がるのも億劫な気怠さが常に付きまとい、眠気はいつまでも遠のいていかない。気を抜けば視界も判然とせず、最も厄介なのは予兆なく喉を遡ってくる多量の血液だった。どこから漏れているのか知らないが、軽咳が一つ零れたと思うと次から次へ赤が流れ出てくるからタチが悪い。辛うじて若者二人の前では失態を見せずに済んでいるが、最も見せたくなかった男は何度か驚かせてしまっている。
    弱らずいきなり逝ければよいのに、なんて無駄なことを考えてしまうのは死への恐怖からではなかった。終わることに恐れはない。むしろ、安堵すらある。もしも怖いことがあるとすれば、この手で守り続けてきた友のこと。隠し事の何もかもを見透かす聡明な親友。彼に、夢も希望もなかった子供の頃のような、昏い顔をさせてしまうのだけが後悔だった。彼のために捨てた命である。しかし、この命が消えればカインは深く傷を負うだろう。それこそ消えない傷だ。凶弾などより深く、重く、それはカインを傷つける。それが、それだけが、俺の後悔だ。
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    DOODLEめたふぁ~の読書感想文です 主とルイ エンディングまでの全てのネタバレを含みます 
    主人公の名前は「リンドウ」です。
    彼方へ送る追憶の一束※主人公の名前は「リンドウ」です

    幼少の砌、閉ざされたかの故里で過ごした記憶はひどく曖昧に混濁している。穏やかな風を浴びればほのかな懐かしさが過ぎり、ひとけのない静けさにこれ以上ない安寧を覚えるのは確か。しかし人里離れた森の奥、閉ざされた静かな村を見て胸に滲む感想はといえば御伽噺のようだなんて少し他人行儀なものだ。あるはずの思い出が霞んでいるのは、魂と体の分離があまりに長く続いたせいだろうと説いてくれたのはグルデアだった。どこへでも駆けていく願望を形どった己の記憶に、幼子のまま眠っていた己の記憶が、まだうまく結合し切っていないらしい。
    「よいしょ……っ、と、あいてっ」
    朝露に濡れた草花をかき分け、新緑の空気を胸いっぱいに吸い込んだのも束の間。額に衝撃を感じ、ややあって頭を打ったのだと理解した。呪いから解放され、時を戻した体は遅れた成長期を迎えている。その速度は目覚ましく、昨日はぴったりだったローブが朝起きると丈が足りないなんてザラなことだった。お忍びに出向く際に使っている抜け道も、いくつか通れなくなってしまったものがある。記憶に誘われるようにして潜った木のうろに頭をぶつけたのも、きっと覚えより背丈が伸びてしまっているからに違いなかった。くすくすと微笑むように緑が揺れている。妖精にでも見られたのだろうか、後でガリカに揶揄われなければいいのだが。
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    sushiwoyokose

    DOODLE欲しいものは書けってばっちゃが言ってたので麻痺の後遺症が残ってるユのアルユリ
    かがり火足先を擽る冷気を感じてふと目を覚ます。寝ぼけ眼をどうにか開けば、窓からうっすらとした曇天の日差しが漏れているのが見えた。次いで壁掛けの振り子時計を見やれば時刻はすっかり朝である。もう少し微睡んだって罰は当たらないような時間だが、隣で寝息を立てる男と食いしん坊の異形に朝食を拵えてやらなくてはならない。大して呆けることなく身体を起こそうとしたが、腹に力を入れた途端俄かな痺れが鋭い痛みをもってして全身を駆け巡っていく。
    「っ」
    思わず漏れそうになる悲鳴を、辛うじて嚙み殺した。情夜が齎す甘い痺れとは違う、純粋な不調の痛みである。結局身を起こすことは叶わず、ふわふわと軽い布団を幾度か揺らすにとどまった。
    吐いた息が真っ白く色づく季節。冷え込みが厳しくなると、上手く身体が動かなくなることがある。骨が軋むようにして強張り、筋肉が震え、脳の指令に四肢が従ってくれないのだ。医者曰く、これは死に瀕した傷の後遺症なのだという。特段の治療法はないとあっさり匙を投げられてしまったが、あれだけの怪我から助かってこの程度で済んだなら幸運と思うべきだと言われればそれもそうかと頷くことしかできなかった。
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    sushiwoyokose

    DOODLE何度でも擦りたいギュステのバカンスアルユリ いずれスケベシーンを足したい気持ち
    西日の祝福常夏のアウギュステは夕暮れ時になっても暑く、しかし祖国の夏と比べれば空気が乾いていてさっぱりとしている。汗ばむ肌を海風に晒すと、ちょうどよく冷えて心地が良い。長髪を靡かせる友が「中へ戻ろう」と言い出さないのは、きっと彼もこの空気を心地いいと考えてくれているからだろうなんて、勝手な推測を押し付ける。コテージのベランダに二人。何を言うでもなく夕日を眺め続けているが、小波の音以外特に会話もなにもない。沈黙の共有は、何より友愛の証だった。美しい光景を隣に立って一緒に見つめる。それがどれだけ幸福なことか、俺たちはよく知っていた。
    (長閑だ)
    執務室で睨む時計と、アウギュステで見つめる時計とでは針の進みが異なる気がしてならない。楽しい時間というのは往々にしてすぐさま過ぎ去ってしまうものだが、常夏の時間はありがたいことにゆったりと遅く流れている。以前より気を遣うようになったといえ、祖国に戻れば執務に追われる毎日が待っていることだろう。酒も煽らず、言葉もなく、ただひたすらにぼうっと呆ける贅沢なひとときは休暇と銘打った今しか味わえない贅沢だ。深呼吸を一つ、二つ。塩辛い空気で肺を満たし、少しずつ色を変えていく空を眺める。
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