光たれ騎士団に放られるまで、いわば「子ども」の頃の暮らしは、それなりに恵まれたものだったと思っている。公爵夫妻は私という子に柔く微笑むことはしなかったが、だからと言って冷酷だったわけでもなかった。貴族としての振る舞いについては手を抜かず養父が教え込んでくれたし、母は家庭教師を見繕って知恵を伸ばしてくれもした。容赦のない質問攻めで教師を困らせる度に叱責はされたが、学びを取り上げられたことは終ぞない。常に小奇麗な恰好をさせてもらい、子どもには似合わない学術書をそっと贈られたことさえあった。どういう経緯があったのかは知らないが、国の汚点と言わんばかりの忌み子を引き取るだけでも大層な苦悶があったことだろう。無償の愛で結ばれているとは言い難い、どこか他人行儀な家族だ。だが彼らが私を育ててくれたと言う事実は、愛の断片くらいにはなると思う。
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