可愛い子には旅をさせよ 1
「行かぬと言っておるじゃろう!」
芽吹きかけた桜が吹き飛ばんばかりの怒鳴り声が、一番隊舎に響き渡った。無論、護廷十三隊の総隊長である元柳斎のものである。大抵の人間ならばこの大声を浴びせられれば裸足で逃げ出すものだが、そうでない者がここにいる。元柳斎の右腕を志す長次郎だ。
「元柳斎殿、そこをなんとか」
必死の形相で足元に縋りつこうとする長次郎の手には、一枚の紙が握られていた。
それは西流魂街に西洋菓子を提供する茶屋が開店したことを知らせる広告紙で、先日町へ遣いに行った際に貰って来たものだった。『ビスカウト』や『ウェーファース』といった見慣れない文字が並ぶ中、長次郎の目を引いたのは『あいすくりん』という名前の菓子だった。
22686