文集 人間は、アルバムというものを作るらしい。自身や周囲の人間の写真を撮影し、本に貼り付けて保存するのだ。中には、ポストカードや映画の半券、子供の絵を入れる人間もいるらしい。それは思い出と呼ばれ、大切にしまわれているのだ。
僕には、その目的が分からなかった。自分の体験した記録なのに、どうしてものにして保存する必要があるのだろうか。記憶として思い出すだけではだめなのだろうか。
そう尋ねると、彼は優しく微笑んで答えた。
「人間の記憶は永遠じゃないんだよ。いずれ風化して、忘れてしまう。赤ちゃんの時のことなんて、ほとんどの人は覚えていないんだ。だから、記録として保存するんだよ」
なるほどと思った。僕たちは、記憶の風化というものを知らない。一度刻まれた記憶はメモリーに保存され、何年経とうと薄れることが無いのだ。風化するという感覚は新鮮だった。
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