『あーん』 翌朝は、いつもより早く目が覚めた。隣で服を着替えていたルチアーノが、退屈そうに視線を向ける。軽く頬を膨らますと、拗ねたような声で言った。
「なんだ。もう起きたのかよ。からかってやろうと思ったのに」
僕は、ゆっくりと布団から這い出した。顔を洗い、服を着替えると、キッチンへ移動して冷蔵庫の扉を開ける。中には、深皿に移されたマスカットのタルトが、昨日の食べかけのまま収まっている。僕の食べていたものは三分の一ほどが綺麗に残っているが、ルチアーノの食べていたものはほとんどがクリームだ。どうしようかと考えて、コーヒーに入れることにした。
「ルチアーノも食べる?」
尋ねると、ルチアーノはちらりとこちらに視線を向けた。すぐに視線を戻してから、興味の無さそうな声色で返事をする。
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