あまがっぱ それは、非常に小さな音だった。今日は雨が降っていて、少し風が吹いている。ただの凡人ならば、小石がドアに当たっただけだと気にする事はないだろう。
しかし、鍾離にはその先に、とある人物がいるのがはっきりとわかる。その気配を鍾離がわからない訳はない。あまりにも控えめにドアを叩くコツコツ、という音に、鍾離は来訪者を迎えるべくドアを開けた。
「魈。いつでも入って来て良いといつも言っ…………魈?」
「わっ」
ドアを開ける風圧に耐えられなかったのか、コロコロ……という音がしそうな程軽快に魈は転がっていってしまった。そんな馬鹿な。夢でも見ているのだろうか。と思うのだが、眠った覚えはない。
「しょうりさま……」
立ち上がった魈は合羽を着ていたが、髪の毛はぐっしょり濡れている。今転んだ事で、少し泥もついている。拭いてやらねばと、慌てて本能的に魈を手のひらに乗せた。
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