はるち
DOODLE探偵事務所爆発を気に同棲を始める二人は”いる”と思うんですよねひとつ屋根の下「というわけで、しばらくここに住んでもいいですかね」
「わかった、家賃は給料からの天引きで良い?」
そんな連れないこと言わないでくださいよ!と来客用のソファに座ったままリーは大仰な仕草で天を仰いだ。芝居がかった動作だが、頬に浮かぶ憂いは本物だ。
調理中のちょっとした事故により、彼の探偵事務所は爆発したのだという。現場にはショウも出動し、全焼こそ免れたそうだが、とてもではないが人の住める状況ではないらしい。彼からすれば骨董品が焼けてしまったことの方が余程問題のようだが。
居場所をなくした彼が目をつけたのは、このロドスだった。突如として執務室に押しかけてきた彼は、しばらくここに滞在させて欲しいという。この場所を臨時の事務所として。
1316「わかった、家賃は給料からの天引きで良い?」
そんな連れないこと言わないでくださいよ!と来客用のソファに座ったままリーは大仰な仕草で天を仰いだ。芝居がかった動作だが、頬に浮かぶ憂いは本物だ。
調理中のちょっとした事故により、彼の探偵事務所は爆発したのだという。現場にはショウも出動し、全焼こそ免れたそうだが、とてもではないが人の住める状況ではないらしい。彼からすれば骨董品が焼けてしまったことの方が余程問題のようだが。
居場所をなくした彼が目をつけたのは、このロドスだった。突如として執務室に押しかけてきた彼は、しばらくここに滞在させて欲しいという。この場所を臨時の事務所として。
はるち
DOODLEリー探偵事務所アニメ見ました?私はあれで気が狂って二話書きましたリー探偵事務所へようこそリー探偵事務所で起こった爆発事故については、ロドスにも一時間と立たずして連絡が入った。仮にも業務提携先であり、あの事務所は龍門における緩衝材、国家権力とアンダーグラウンドのバランサーだ。報告を聞いたときには、すわ敵襲による爆破かと緊張が走ったものだが、よくよく話を聞いてみれば調理中に起こった事故なのだという。リーとウンがその手のミスをするとは考えにくいから、おおかたワイフーかアが厨房に立っていたのだろう。
そうして一夜にして職場と家の両方を失ったリー探偵事務所の面々が転がり込んできたのが、ここロドスだった。
「なんとかなりませんか、ドクター」
「そうは言われてもなあ」
私たちはロドスの廊下を歩いていた。無機質な空間で、二人分の足音と話し声が反響する。屋根と壁があって雨風を凌げることがこんなにありがたいとは思いませんでしたよ、と彼は隻腕の狩人のようなことを言った。
2120そうして一夜にして職場と家の両方を失ったリー探偵事務所の面々が転がり込んできたのが、ここロドスだった。
「なんとかなりませんか、ドクター」
「そうは言われてもなあ」
私たちはロドスの廊下を歩いていた。無機質な空間で、二人分の足音と話し声が反響する。屋根と壁があって雨風を凌げることがこんなにありがたいとは思いませんでしたよ、と彼は隻腕の狩人のようなことを言った。
はるち
DOODLEリー先生の酒弱いネタは無限に擦っていきたい花見で一杯、雨流れ酒に弱い、数少ない良いことは少量ですぐに酔えることだ。この世の憂さを忘れて夢を見るために、何杯も盃を傾ける必要がない。一杯あれば事足りる。
「ようやく起きた?」
悪いことはそれ以外の全てだ。翌朝の頭痛、倦怠感、そして曖昧な昨夜の記憶。腕の中にいるドクターは非難がましい目でこちらを睨みつけていた。互いに纏うものは何もなく、覚えていなくても何があったのかは明白だった。肌に残る乾いた体液の感触が気持ち悪い。シーツは乱れて、その癖自分はしっかりとドクターを抱きしめていたようだった。肌の上に散る噛み跡や鬱血痕が誰によるものかなど、考えるまでもない。尾が巻き付いている柔らかいものがその細い腰であることにようやく思い至る。言葉をなくしていると、脛の辺りを蹴られた。
1123「ようやく起きた?」
悪いことはそれ以外の全てだ。翌朝の頭痛、倦怠感、そして曖昧な昨夜の記憶。腕の中にいるドクターは非難がましい目でこちらを睨みつけていた。互いに纏うものは何もなく、覚えていなくても何があったのかは明白だった。肌に残る乾いた体液の感触が気持ち悪い。シーツは乱れて、その癖自分はしっかりとドクターを抱きしめていたようだった。肌の上に散る噛み跡や鬱血痕が誰によるものかなど、考えるまでもない。尾が巻き付いている柔らかいものがその細い腰であることにようやく思い至る。言葉をなくしていると、脛の辺りを蹴られた。
はるち
DOODLEキョンシーリー先生と道士のドクターのパロディ物となります素敵な墓場で暮らしましょ墓はただの石だ。死体は肉塊だ。魂はお伽噺だ。
けれど、心は。まだここにある。あるはずだ。
――引用:回樹 斜線堂有紀
「――嗚呼。
「ようやく、目が覚めたのか。
「自分の名前はわかるか?私のことは?
「――そう、か。……いや、いい。いいんだ。
「手足は動くか?目は?……なら、それで十分だ。
「君はリーだ。君の名前はリー。……そう、わかるね。
「私かい?
「……そうだね。私のことは――
「――博士。いい加減起きてくださいよ」
窓を開けると、朝の大気が花の香りと冬の名残を一緒くたにして部屋の中へと運び込む。羽獣たちは空高くで待っていると言うのに、この部屋の主人ときたら一枚きりの毛布をより深く被り直し、夜の気配を掴んで離さないとでも言うかのように身を丸めていた。リーは深くため息をつき、もうすっかり朝の行事に組み込まれてしまった行動、すなわち博士から毛布を引き剥がすという行為に移った。ぎゃっという悲鳴をあげて、博士は闇の中でのみ生存を許される生き物のように今度は両手でその目を覆った。諦めずに、リーはその体を揺さぶる。
4498けれど、心は。まだここにある。あるはずだ。
――引用:回樹 斜線堂有紀
「――嗚呼。
「ようやく、目が覚めたのか。
「自分の名前はわかるか?私のことは?
「――そう、か。……いや、いい。いいんだ。
「手足は動くか?目は?……なら、それで十分だ。
「君はリーだ。君の名前はリー。……そう、わかるね。
「私かい?
「……そうだね。私のことは――
「――博士。いい加減起きてくださいよ」
窓を開けると、朝の大気が花の香りと冬の名残を一緒くたにして部屋の中へと運び込む。羽獣たちは空高くで待っていると言うのに、この部屋の主人ときたら一枚きりの毛布をより深く被り直し、夜の気配を掴んで離さないとでも言うかのように身を丸めていた。リーは深くため息をつき、もうすっかり朝の行事に組み込まれてしまった行動、すなわち博士から毛布を引き剥がすという行為に移った。ぎゃっという悲鳴をあげて、博士は闇の中でのみ生存を許される生き物のように今度は両手でその目を覆った。諦めずに、リーはその体を揺さぶる。
totorotomoro
DOODLE鯉先生の衣装替えについて素敵な小説があふれてるので、ここなら好き勝手に書いてもバレねえ!ということでまだ見てない設定の鯉博など。散文「あ、これですか? こいつは僵尸っていうんですけど、これは道士……んー、アーツとはまた違う古来の術、まあ炎国で伝わる御伽話なんですけど。そういうので言われてる死者の装束なんですよ」
言いながらリーは笑いながら私の前でくるりと回ってみせた。
「おれとしちゃあこないだのマジシャン姿よりは顔も隠れるしいつもの服と近いんで気楽なんですけど。似合いますかね?」
周りに人がいないこともあって、リーは少し気取って写真用のポーズなどをしてみせる。そうしてフェイスシールド越しにじっと見ているはずのドクターに問いかけたが、彼はただ黙ってこちらを見ているばかりで。
「──あ、あのですね。できればおれとしちゃあ何でもいいから言ってもらえると」
743言いながらリーは笑いながら私の前でくるりと回ってみせた。
「おれとしちゃあこないだのマジシャン姿よりは顔も隠れるしいつもの服と近いんで気楽なんですけど。似合いますかね?」
周りに人がいないこともあって、リーは少し気取って写真用のポーズなどをしてみせる。そうしてフェイスシールド越しにじっと見ているはずのドクターに問いかけたが、彼はただ黙ってこちらを見ているばかりで。
「──あ、あのですね。できればおれとしちゃあ何でもいいから言ってもらえると」
yuiga009
DOODLEリー先生と博の本が出るかもなんですが、途中から顔出し博でチャイナドレスを着るというもうアイデンティティが行方不明なんですが大丈夫ですかね(リー博、鯉博、明日方舟、たぶん♀博 4
はるち
DONEリー先生の告白を断る度に時間が巻き戻るタイムリープ系SFラブコメです。別ジャンルの友人の話に影響を受けて書きました。SFは良いぞ。
Re:the answer is up to_you.「あなたのことが好きなんですよ」
take.1
コーヒーの旨味とは酸味と苦味で決まる。それに加えるミルクは酸味を殺し、砂糖は苦味を殺す。であればそれらを過分に加えたこのマグカップの中に満ちているのは最早コーヒーの概念とでも言うべきものだろう。それでもこの器に満ちたものが十二分に美味しいのは、やはりこれを淹れた人間の腕と言うより他ない。茶を淹れる方が得意なんですけどねえ、と彼は言っていたが、他のものであっても彼はそつなくこなした。こんなものに舌が慣れてしまった今となっては、もうインスタントコーヒーの味には戻れない。以前は書類仕事を頼むだけで嫌そうな顔をしていたものだが、今は執務室に来る度にこうして頼んでいる仕事以外の雑務も自分から行ってくれる。今の時刻は午後四時、書類仕事にも一段落ついて一息入れるには丁度いいタイミングだ。最近の彼はこうして一杯を淹れてくれるだけでなく、それに合わせた茶菓子も――今日はクッキーだった――用意してくれる。その甲斐甲斐しさを、どういう風の吹き回しかと思っていたのだが。
12753take.1
コーヒーの旨味とは酸味と苦味で決まる。それに加えるミルクは酸味を殺し、砂糖は苦味を殺す。であればそれらを過分に加えたこのマグカップの中に満ちているのは最早コーヒーの概念とでも言うべきものだろう。それでもこの器に満ちたものが十二分に美味しいのは、やはりこれを淹れた人間の腕と言うより他ない。茶を淹れる方が得意なんですけどねえ、と彼は言っていたが、他のものであっても彼はそつなくこなした。こんなものに舌が慣れてしまった今となっては、もうインスタントコーヒーの味には戻れない。以前は書類仕事を頼むだけで嫌そうな顔をしていたものだが、今は執務室に来る度にこうして頼んでいる仕事以外の雑務も自分から行ってくれる。今の時刻は午後四時、書類仕事にも一段落ついて一息入れるには丁度いいタイミングだ。最近の彼はこうして一杯を淹れてくれるだけでなく、それに合わせた茶菓子も――今日はクッキーだった――用意してくれる。その甲斐甲斐しさを、どういう風の吹き回しかと思っていたのだが。
はるち
DOODLEノアの休日#3用の展示となります砂糖の甘さを証明せよ「どうして好きか?それは難しい質問だね。好き、という感情は明確でも、それについての理由となると、私たちの脳は混乱しやすいんだ。例えば、君、チョコレートは好き?こう聞くと、よく甘いから好き、という答えが返ってくるんだけどね。私達の体はカロリーの高いものを積極的に選択するように進化していて、甘いものはカロリーが高い傾向にある。だから私達は甘いものを好んで摂取する傾向にあるんだけど、ならば単純に甘いからチョコレートが好きだと言っていいものかな?それは本能の見せる誤謬に過ぎないのでは?」
口に胡麻団子を突っ込むと、ドクターは無言でそれを咀嚼した。香ばしい胡麻の香りと、濃厚な餡の甘さをよく回る舌の上で転がすように味わってから、ドクターはおいしいと呟いた。人が食べ物を選ぶ理由が甘さなのな熱量なのかはわからないが、胡麻団子にはどちらもたっぷり含まれている。ドクターも好んでくれるだろう。二人は今、ドクターの私室にあるソファに並んで座り、茶を飲みながら菓子を摘んでいた。二人で過ごす午後の中で、一二を争うくらい好きな時間の過ごし方だ。
2196口に胡麻団子を突っ込むと、ドクターは無言でそれを咀嚼した。香ばしい胡麻の香りと、濃厚な餡の甘さをよく回る舌の上で転がすように味わってから、ドクターはおいしいと呟いた。人が食べ物を選ぶ理由が甘さなのな熱量なのかはわからないが、胡麻団子にはどちらもたっぷり含まれている。ドクターも好んでくれるだろう。二人は今、ドクターの私室にあるソファに並んで座り、茶を飲みながら菓子を摘んでいた。二人で過ごす午後の中で、一二を争うくらい好きな時間の過ごし方だ。
はるち
DOODLEサボテンを育てるドクターのお話太陽と水、風に土、そして 植物を適切に育てることは、なかなかどうして難しい。
ドクターは自室の窓辺に置かれたサボテンを見て眉をひそめた。数日前にサルカズの傭兵から受け取ったものだ。ある種の気紛れ、戯れの一種だろう。花が咲いては散り、朽ちていくさまを楽しむ彼にとって、この植物はあまり好みではなかったから押し付けられただけという説もあるが。
植物は水をやれば良い、と思っていたのだが、それは大きな思い違いであるということを理解するのにさほど時間はかからなかった。水をやり過ぎれば根腐れを起こす、さりとてやらなければ枯れてしまう。人間にとって適切に管理された温度と湿度がこの植物にとっても同様であるかと言われればそういうわけでもなく、可能な限り日光を浴びられるよう腐心する必要もあった。そもそも水を上げるだけで済むような単純な性質を有しているのであれば、ラナを始めとする療養庭園の面々が日夜苦労をする必要もないのだ。研究室で自分が実験用の細胞を培養していたときも、適切な温度管理と栄養状態の管理は必須だったことを思い出し、ドクターは改めて眼前にある生命の神秘を見つめた。いっそのことフィリオプシスにも相談して植物の管理用プログラムでも作成したほうが良いかもしれない――と思ったところで、あのサルカズの皮肉げな笑みが脳裏をよぎる。果たしてお前に本当にできるのか、と言わんばかりの笑みで、この鉢植えを手渡した彼のことを。
2042ドクターは自室の窓辺に置かれたサボテンを見て眉をひそめた。数日前にサルカズの傭兵から受け取ったものだ。ある種の気紛れ、戯れの一種だろう。花が咲いては散り、朽ちていくさまを楽しむ彼にとって、この植物はあまり好みではなかったから押し付けられただけという説もあるが。
植物は水をやれば良い、と思っていたのだが、それは大きな思い違いであるということを理解するのにさほど時間はかからなかった。水をやり過ぎれば根腐れを起こす、さりとてやらなければ枯れてしまう。人間にとって適切に管理された温度と湿度がこの植物にとっても同様であるかと言われればそういうわけでもなく、可能な限り日光を浴びられるよう腐心する必要もあった。そもそも水を上げるだけで済むような単純な性質を有しているのであれば、ラナを始めとする療養庭園の面々が日夜苦労をする必要もないのだ。研究室で自分が実験用の細胞を培養していたときも、適切な温度管理と栄養状態の管理は必須だったことを思い出し、ドクターは改めて眼前にある生命の神秘を見つめた。いっそのことフィリオプシスにも相談して植物の管理用プログラムでも作成したほうが良いかもしれない――と思ったところで、あのサルカズの皮肉げな笑みが脳裏をよぎる。果たしてお前に本当にできるのか、と言わんばかりの笑みで、この鉢植えを手渡した彼のことを。
はるち
DOODLEドクターが他の人の料理でぷくぷくになってたら先生は浮気だって怒ると思いますか?「浮気じゃないですか」
「浮気にはならないだろ」
「じゃあこの腹はなんですか」
「やめろやめろ触るな揉むな! 気にしているんだよ!」
腕の中でぎゃいぎゃいと騒ぐつがいを、リーは不承不承と言った体で解放した。唇を尖らせる様はくたびれた中年の風貌に似合わずまるで少年のようだった。そんな振る舞いも似合うんだからこの男は狡い、とドクターは内心で溜息を吐いた。それが惚れた欲目と呼ばれるものであることに、本人だけが気づいていない。
手を離せ、という言葉に従ったリーだったが、その視線は尚もドクターの腹部に注がれていた。とはいえそもそもの発端はリー自身であり、だから強くは出られないのだろう。
きっかけはリーが自身の仕事のためにロドス本艦を一ヶ月ほど離れたことだった。出発前に、彼は龍門にいた頃からの馴染みであるジェイにこう言ったのだ。――おれがいない間、ドクターの食事の面倒を見てやってくれませんか、と。そして根が真面目なジェイは、その頼みを忠実に果たした。ドクターが夜遅くまで仕事をしているときは夜食を差し入れ、形態栄養食品やインスタントラーメンで食事を済ませようとしたときには代わりに食事を作っていた。
2034「浮気にはならないだろ」
「じゃあこの腹はなんですか」
「やめろやめろ触るな揉むな! 気にしているんだよ!」
腕の中でぎゃいぎゃいと騒ぐつがいを、リーは不承不承と言った体で解放した。唇を尖らせる様はくたびれた中年の風貌に似合わずまるで少年のようだった。そんな振る舞いも似合うんだからこの男は狡い、とドクターは内心で溜息を吐いた。それが惚れた欲目と呼ばれるものであることに、本人だけが気づいていない。
手を離せ、という言葉に従ったリーだったが、その視線は尚もドクターの腹部に注がれていた。とはいえそもそもの発端はリー自身であり、だから強くは出られないのだろう。
きっかけはリーが自身の仕事のためにロドス本艦を一ヶ月ほど離れたことだった。出発前に、彼は龍門にいた頃からの馴染みであるジェイにこう言ったのだ。――おれがいない間、ドクターの食事の面倒を見てやってくれませんか、と。そして根が真面目なジェイは、その頼みを忠実に果たした。ドクターが夜遅くまで仕事をしているときは夜食を差し入れ、形態栄養食品やインスタントラーメンで食事を済ませようとしたときには代わりに食事を作っていた。
はるち
DOODLE二人で星を見るお話。北極星より遠いひと「ライン生命所属、エレナ・ウビカ研究員です。ドクター、お会いできて光栄です。こちらではコードネームを使用するのですよね。ええ、問題ありません。ではアステジーニとお呼びください、簡単で覚えやすいですから」
「星占いでもしているんですか?」
ロドス本艦のデッキ、そこに置かれたコンテナの上で夜空を仰いでいたドクターは、足元から聞こえてきた声に、視線を下ろした。予想通りの声の主は、普段とは逆に自分のことを見上げている。それがなんだか可笑しくて、ドクターは自分を見つめる鬱金の瞳に小さく笑い声を溢した。あれは頭上に広がる星々よりも、余程色鮮やかだ。
「まあね、たまには悪くないよ」
コンテナの上で寛ぐのは気分が良いと、そう教えてくれたのは彼の末の子どもだった。サボっていてもなかなか気づかれないとも。であれば、執務室を抜け出した彼が自分を見つけたのは、家長としての勘だろうか。それとも探偵としての推理だろうか。
2535「星占いでもしているんですか?」
ロドス本艦のデッキ、そこに置かれたコンテナの上で夜空を仰いでいたドクターは、足元から聞こえてきた声に、視線を下ろした。予想通りの声の主は、普段とは逆に自分のことを見上げている。それがなんだか可笑しくて、ドクターは自分を見つめる鬱金の瞳に小さく笑い声を溢した。あれは頭上に広がる星々よりも、余程色鮮やかだ。
「まあね、たまには悪くないよ」
コンテナの上で寛ぐのは気分が良いと、そう教えてくれたのは彼の末の子どもだった。サボっていてもなかなか気づかれないとも。であれば、執務室を抜け出した彼が自分を見つけたのは、家長としての勘だろうか。それとも探偵としての推理だろうか。
はるち
DOODLE二人で春用のコートを選びに行くお話流れる血だけが龍のもの「いやあ、やっぱりよく似合いますねえ」
おれが見立てたとおりですよとリーは満足そうに頷いた。鏡越しにそれを見ながら、私は腕を上げたり裾を引っ張ったりと、今着ている服、彼の選んだ春用のコートが本当に自分に合っているのかを確かめていた。よくお似合いですと彼の後ろに立つ店員も礼儀正しい笑顔を浮かべているが、それを追従と呼ぶべきかは悩ましい。客観的に見ても、彼が見立てたこの服は悪いものではなかったからだ。少なくとも普段着ている白衣よりは、余程人間的な服装だ。
「これを着たまま帰りましょうよ。ね、いいでしょう?」
「私が着てきたコートは」
「おれが持ちますから」
私が自分で持つからと言うより先に、彼が店員に何事かを申し付ける。服を選んでいたときから彼の手足のように忠実だった店員は、すぐさま私の上着を折りたたんで店のショッパーへとしまった。
1542おれが見立てたとおりですよとリーは満足そうに頷いた。鏡越しにそれを見ながら、私は腕を上げたり裾を引っ張ったりと、今着ている服、彼の選んだ春用のコートが本当に自分に合っているのかを確かめていた。よくお似合いですと彼の後ろに立つ店員も礼儀正しい笑顔を浮かべているが、それを追従と呼ぶべきかは悩ましい。客観的に見ても、彼が見立てたこの服は悪いものではなかったからだ。少なくとも普段着ている白衣よりは、余程人間的な服装だ。
「これを着たまま帰りましょうよ。ね、いいでしょう?」
「私が着てきたコートは」
「おれが持ちますから」
私が自分で持つからと言うより先に、彼が店員に何事かを申し付ける。服を選んでいたときから彼の手足のように忠実だった店員は、すぐさま私の上着を折りたたんで店のショッパーへとしまった。
はるち
DONEドクターとリーが二人暮らしをするお話。申し訳程度の首絞め表現と性表現があります。苦手な方はご注意ください。
また本文中に一部あるゲームの注意書きを引用しております。元ネタがわかる方は握手。 12165
はるち
DONEリー先生の魅力はその父性にありますねÖdipuskomplex「――あなた、おれのことをそんな風に思っていたんですか?」
リーの笑顔は嬰児のおいたを窘めるような慈愛に満ち、けれどもその瞳だけが剃刀の鋭さを有している。私が口にした言葉は、正しく彼の逆鱗だったのだろう。息が詰まるのは、彼が片手で私を壁に押し付けているから、だけではない。ねえ、と彼は指先で頬をなぞる。枯れた花弁を慰撫するような手付きだった。触れたら落ちることを、確かめるような。
ブレイズたちとの飲み会を終え、もつれる足で廊下を歩いていた私を見つけたのは彼だった。そんなにふらついてどうしたんです、真っ直ぐ部屋に帰れるんですかい?と。言葉は揶揄の色をしていたけれど、酔った私の腕を引く手は優しかった。彼に連れられて部屋の前まで戻り、鍵を開ける。部屋の明かりをつけて、上着と白衣をまとめて脱ごうとしていると、彼は呆れて物が言えないと大きくため息をついた。物事には順番ってものがあるでしょうと言いながら、上着を脱がせる。そのまま白衣に彼が手をかけたときに、私は彼を見上げた。
1878リーの笑顔は嬰児のおいたを窘めるような慈愛に満ち、けれどもその瞳だけが剃刀の鋭さを有している。私が口にした言葉は、正しく彼の逆鱗だったのだろう。息が詰まるのは、彼が片手で私を壁に押し付けているから、だけではない。ねえ、と彼は指先で頬をなぞる。枯れた花弁を慰撫するような手付きだった。触れたら落ちることを、確かめるような。
ブレイズたちとの飲み会を終え、もつれる足で廊下を歩いていた私を見つけたのは彼だった。そんなにふらついてどうしたんです、真っ直ぐ部屋に帰れるんですかい?と。言葉は揶揄の色をしていたけれど、酔った私の腕を引く手は優しかった。彼に連れられて部屋の前まで戻り、鍵を開ける。部屋の明かりをつけて、上着と白衣をまとめて脱ごうとしていると、彼は呆れて物が言えないと大きくため息をついた。物事には順番ってものがあるでしょうと言いながら、上着を脱がせる。そのまま白衣に彼が手をかけたときに、私は彼を見上げた。
totorotomoro
DOODLE実は私意味を勘違いしてました…。爛れない舌みたいな意味かと。正しくはよく口の回るとかって意味で、日本だと舌先三寸のことらしい。言われてみたら三寸ってどっちも入っていた。
鯉博です。性別はどちらでもとれるかと。ドクターがややあほの子です。
三寸不爛之舌 数日前からリーは熱いものを前にすると手が止まるようになった。心理戦をもって戦うものの一人として、理由が大体読める。
「リー、最近熱い飲み物を飲めなくなってるのか?」
私がそう声をかけると彼は瞬きをして自分の湯呑みとお昼に選んだ食事を見下ろした。今日はリーが秘書で、二人揃って食堂のデリバリーを頼んで室内で二人向かい合ったところだった。
「おっと……バレちまいました?」
「いつもじゃないけど、食堂でも度々見るからね」
粥、麺類、汁物。湯気を立てる食事を前にして子どもたちと話をして置いておくことが最近多い。
「おおっと、そんな熱視線を送ってたんで? 灼けちまいますよ」
リーははにかむように笑う。まだまだ、きちんと詰めようじゃないか。
1771「リー、最近熱い飲み物を飲めなくなってるのか?」
私がそう声をかけると彼は瞬きをして自分の湯呑みとお昼に選んだ食事を見下ろした。今日はリーが秘書で、二人揃って食堂のデリバリーを頼んで室内で二人向かい合ったところだった。
「おっと……バレちまいました?」
「いつもじゃないけど、食堂でも度々見るからね」
粥、麺類、汁物。湯気を立てる食事を前にして子どもたちと話をして置いておくことが最近多い。
「おおっと、そんな熱視線を送ってたんで? 灼けちまいますよ」
リーははにかむように笑う。まだまだ、きちんと詰めようじゃないか。
はるち
DONE遺書を残すリーのお話testament 遺書と遺言状は区別される。個人が残される家族や友人に向けて意思を伝えるのが遺書、相続などの権利問題について記載するのが遺言状だ。例えば、残された子どもたち三人にこれからも仲良く暮らすよう書いてあるならば遺書、家の相続権は長兄にすると書いてあるならば遺言状、となる。
そういうわけでドクターの手にあるのは遺書ではなく遺言状だった。リーが任務で命を落とした際の探偵事務所の動向について――意外にも、といえば失礼になるだろうか――詳細な記載がある。ロドスとの業務連携は一旦白紙とすること、所長の権限はウンに移譲されること、業務提携の存続については新所長と所員の意思で決定すること、等々。
当然のように自分についての記述はない。
2269そういうわけでドクターの手にあるのは遺書ではなく遺言状だった。リーが任務で命を落とした際の探偵事務所の動向について――意外にも、といえば失礼になるだろうか――詳細な記載がある。ロドスとの業務連携は一旦白紙とすること、所長の権限はウンに移譲されること、業務提携の存続については新所長と所員の意思で決定すること、等々。
当然のように自分についての記述はない。
totorotomoro
DOODLEスクロールバーが仕事してない?…はて? なんのことやら…。
にゃんにゃんにゃん ふわふわとした眠りから覚醒する。夢を見ていたのかも知れないし、ただ眠りから目覚めたのかもしれない。
ソファに横たわり、うたた寝をしていたようだ。
見覚えのあるロドス艦の天井を見て寝起き独特の温みを払うようにくぁ……とあくびをした。あくびの中に酒精の香りがした気がして目を細める。
そういえばこの状態になる前に少し飲んでいた気がするとリーはその時始めてそう思った。と、ふいに抱きかかえていた腕の中の硬いものが身じろぎをするのを感じて思わず上体を起こしそうになった。だが上に乗っている存在に気づいて慌ててこらえた。
「起きたか?」
「……ドクター?」
仰向けになっていた腕の中で抱き枕のようにしっかと抱えている存在をまじまじと二度見する。当人はPRTSを弄っていた手を止めてリーの体を支えに位置をずらすように己の体の位置を微調整するとリーの胸に頭をもたれかけた。そしてずり落ちかけていた膝掛けを手探りで引き寄せるとお互いの体に雑に掛け直してまた再びPRTSに目を落として操作を始める。
1592ソファに横たわり、うたた寝をしていたようだ。
見覚えのあるロドス艦の天井を見て寝起き独特の温みを払うようにくぁ……とあくびをした。あくびの中に酒精の香りがした気がして目を細める。
そういえばこの状態になる前に少し飲んでいた気がするとリーはその時始めてそう思った。と、ふいに抱きかかえていた腕の中の硬いものが身じろぎをするのを感じて思わず上体を起こしそうになった。だが上に乗っている存在に気づいて慌ててこらえた。
「起きたか?」
「……ドクター?」
仰向けになっていた腕の中で抱き枕のようにしっかと抱えている存在をまじまじと二度見する。当人はPRTSを弄っていた手を止めてリーの体を支えに位置をずらすように己の体の位置を微調整するとリーの胸に頭をもたれかけた。そしてずり落ちかけていた膝掛けを手探りで引き寄せるとお互いの体に雑に掛け直してまた再びPRTSに目を落として操作を始める。
はるち
DONE若鯉とその家庭教師をするドクターというif設定です。なんでも許せる人向け。BGM:遭難/東京事変
待宵草心中 たとえ羽がなくとも、無限に落下し続けるなら飛んでいるのと変わらない。永遠に遅延された着地の瞬間、私は世界と心中する。――引用:ザムザの羽/大滝瓶太
「今日から君の家庭教師を務めることになった。私のことは――、そうだね。先生とでも」
父が連れてきた新しい家庭教師は、今までに出会ったどの種族とも違っていた。サンクタのような光輪はない、リーベリのような羽根はない、ヴァルポやフェリーンのような耳と尻尾もなく、フォルテやヴィーヴルのような角もなく、ましてや龍のような鱗もない。頭からつま先まで視線が降りたところで、自分をひたと見据える両の眼に気がついた。月光を凍てつかせたような眼差しは、親しみこそあれど触れた肌が痛む。
7529「今日から君の家庭教師を務めることになった。私のことは――、そうだね。先生とでも」
父が連れてきた新しい家庭教師は、今までに出会ったどの種族とも違っていた。サンクタのような光輪はない、リーベリのような羽根はない、ヴァルポやフェリーンのような耳と尻尾もなく、フォルテやヴィーヴルのような角もなく、ましてや龍のような鱗もない。頭からつま先まで視線が降りたところで、自分をひたと見据える両の眼に気がついた。月光を凍てつかせたような眼差しは、親しみこそあれど触れた肌が痛む。
はるち
DOODLEif鯉先生と政略結婚するお話、その3汝、薊のごとく棘あれば 歩くたびにしゃらしゃらと、水晶をすり合わせるように涼やかな音を立てる髪飾りが落ち着かない。所謂かんざしと呼ばれるもので、普段の自分であればとてもではないがつけていかない。戦場はおろかロドスでだってしないだろう。それをつけているのはひとえに、これを自分に買い与えた人間に会うのであればそれが礼儀だろうと思ったからだ。似合っていますよ、と結い上げた自分の髪にかんざしを刺しながら、眼を細めていた男の顔を思い出す。せっかくだからあなたに似合いの髪留めでも選びに行きましょう、と街に連れ出されたのが数日前のこと。行った店はリーの行きつけのようで、丁重にもてなしてくれる店員と共に髪飾りを探すリーは店中の商品をひっくり返す勢いだった。これでは派手すぎる、いささか品がない、あなたの良さを打ち消してしまう、等々。もういい加減くたびれた、という不平を何度か呑み込んだ末に、彼が見立ててくれたのがこれだった。
3631はるち
DOODLEif鯉先生と政略結婚するお話、その2君、軽やかに欺けよ「サッカーの才能がある人間は全員サッカー選手になるべきだと思う?」
「おれたちの子どもの話ですか?」
「そんなものまだいないだろ」
ベッドに腰掛けて身支度を整えていた男に、横たわったままのドクターが蹴りを入れようとする。完全な死角から入ったはずのそれを、しかしリーは振り返りもせずに受け止めた。まだ、ってことは期待しても良いんですかねぇ、という言葉は砂糖を入れすぎた紅茶のように甘く、骨まで蕩かすようだった。掴まれた足を撫でる吐息は、容易く昨夜の官能の名残を身体に呼び起こす。肌がぞわりと粟立つのは、何に起因するものだろうか。
前向きに検討すると、という交渉事における穏便な辞退の言葉に、リーはくすりと微笑んで足を開放した。冗談だったらしい。とりあえず、今のところは。
2550「おれたちの子どもの話ですか?」
「そんなものまだいないだろ」
ベッドに腰掛けて身支度を整えていた男に、横たわったままのドクターが蹴りを入れようとする。完全な死角から入ったはずのそれを、しかしリーは振り返りもせずに受け止めた。まだ、ってことは期待しても良いんですかねぇ、という言葉は砂糖を入れすぎた紅茶のように甘く、骨まで蕩かすようだった。掴まれた足を撫でる吐息は、容易く昨夜の官能の名残を身体に呼び起こす。肌がぞわりと粟立つのは、何に起因するものだろうか。
前向きに検討すると、という交渉事における穏便な辞退の言葉に、リーはくすりと微笑んで足を開放した。冗談だったらしい。とりあえず、今のところは。
はるち
DOODLE炎国官僚になった鯉先生と政略結婚する博士のお話。フォロワー様のフリー素材というお言葉に甘えて書きました。
君、鮮やかに欺けよ「――君が、私のためにここまでする必要はないんだよ?」
眼下に広がるのは龍門の夜景だ。この光景に値段をつけるとしたらいくらになるのだろうか? ホテルのレストランで共に夕食を取った後――彼には申し訳ないが、テーブルマナーばかり気にしていたせいで味はほとんどわからなかった――、通されたスイートルームはこの世の贅を尽くしたように豪奢な部屋で、普段暮らしている私室とは正しく雲泥の差だった。
可笑しな冗談でも聞いたように、彼の唇が夜空に浮かぶ三日月のような弧を描く。公職に就いている彼は、普段から身なりには気を遣っていると言っていたが、今日は一段と特別だった。縞瑪瑙めいて黒と金に波打つ髪を結い上げて、炎国の伝統衣装に身を包む彼は、正しく瀟洒な良家の貴公子だ。勿論自分も、彼に恥をかかせないよう、ロベルタとスージーとオーキッドの三人がかりで身なりを整えてはもらっているのだが。こうして隣に立つと、あまりの立場と身分の違いに目眩がする。
6375眼下に広がるのは龍門の夜景だ。この光景に値段をつけるとしたらいくらになるのだろうか? ホテルのレストランで共に夕食を取った後――彼には申し訳ないが、テーブルマナーばかり気にしていたせいで味はほとんどわからなかった――、通されたスイートルームはこの世の贅を尽くしたように豪奢な部屋で、普段暮らしている私室とは正しく雲泥の差だった。
可笑しな冗談でも聞いたように、彼の唇が夜空に浮かぶ三日月のような弧を描く。公職に就いている彼は、普段から身なりには気を遣っていると言っていたが、今日は一段と特別だった。縞瑪瑙めいて黒と金に波打つ髪を結い上げて、炎国の伝統衣装に身を包む彼は、正しく瀟洒な良家の貴公子だ。勿論自分も、彼に恥をかかせないよう、ロベルタとスージーとオーキッドの三人がかりで身なりを整えてはもらっているのだが。こうして隣に立つと、あまりの立場と身分の違いに目眩がする。
はるち
DOODLEバレンタインその2Petit chéri ほーお、と彼はテーブルの上に置かれた箱を手に取った。バレンタインだから、と贈られた品だ。送り主はといえば、リーの向かいに座って落ち着かない様子で指を組んでは開いている。ドクターからのバレンタインプレゼントは、黒の包装紙に赤のリボンがかかった、外装からして立派な一品だった。
「開けても?」
「君に贈ったものだ。好きにしてくれ」
発言は投げやりとも、あるいは怯懦の表れとも取れる。では、としゅるりとリボンを解く。箱の中にはチョコレートが十二粒、品よく並んでいた。宝石のような美しさだ。そういればこれに合わせてドクターは珈琲を淹れたのだったな、ということを思い出し、リーはその中から一粒を選んで口に入れる。目の前にすわすその人が、わずかに息を呑む気配が伝わった。
1777「開けても?」
「君に贈ったものだ。好きにしてくれ」
発言は投げやりとも、あるいは怯懦の表れとも取れる。では、としゅるりとリボンを解く。箱の中にはチョコレートが十二粒、品よく並んでいた。宝石のような美しさだ。そういればこれに合わせてドクターは珈琲を淹れたのだったな、ということを思い出し、リーはその中から一粒を選んで口に入れる。目の前にすわすその人が、わずかに息を呑む気配が伝わった。
はるち
DOODLEハッピーバレンタインpetits fours どうもこの大地は既に二月十四日を迎えているらしい。
そのことにドクターが気づいたのは、カーテンを開けた時だった。差し込む朝日は徹夜明けで充血した目を容赦なく焼き、まだ休んじゃだめですよという誰かの声が日差しに混ざって眠気を部屋の片隅へと追いやる。立て込む業務に押し流されて一睡もしていない今、体感としては十三日の三十三時なのだが、しかし暦というものは往々にして人間の意志とは関係なしに進行するものだ。守るように厳命される一方で、締切が人間を待ってはくれないように。
十四日ということは、と疲労で朦朧とした頭に一つのイメージが浮かぶ。それはここ一ヶ月に渡ってクロージャが切り盛りする購買部を始めとしてロドス内の商店街、のみならず訪れる移動都市を甘い香りで包み込んでいた祝祭だ。しかしその華やかな気配とは裏腹に、ドクターは胃の腑から急に身体が冷えていくのを自覚した。この祭りを祝う準備を、自分は何一つとしてしていない。その原因は主として危機契約にあり――、嗚呼、先日サルヴィエントの洞窟で恐魚達の相手を任せたりカジミエーシュの大通りで無冑盟の矢面に立たせたりしていたとき、彼は何と言っていた? 帰ったら奢ってもらうと言っていたのではなかったか? あのときはいつものことだと聞き流していたが、しかし今にして思えばそれは別の意味を含んでいたのではなかったか。例えばそう、バレンタインのチョコレートと言った。
2189そのことにドクターが気づいたのは、カーテンを開けた時だった。差し込む朝日は徹夜明けで充血した目を容赦なく焼き、まだ休んじゃだめですよという誰かの声が日差しに混ざって眠気を部屋の片隅へと追いやる。立て込む業務に押し流されて一睡もしていない今、体感としては十三日の三十三時なのだが、しかし暦というものは往々にして人間の意志とは関係なしに進行するものだ。守るように厳命される一方で、締切が人間を待ってはくれないように。
十四日ということは、と疲労で朦朧とした頭に一つのイメージが浮かぶ。それはここ一ヶ月に渡ってクロージャが切り盛りする購買部を始めとしてロドス内の商店街、のみならず訪れる移動都市を甘い香りで包み込んでいた祝祭だ。しかしその華やかな気配とは裏腹に、ドクターは胃の腑から急に身体が冷えていくのを自覚した。この祭りを祝う準備を、自分は何一つとしてしていない。その原因は主として危機契約にあり――、嗚呼、先日サルヴィエントの洞窟で恐魚達の相手を任せたりカジミエーシュの大通りで無冑盟の矢面に立たせたりしていたとき、彼は何と言っていた? 帰ったら奢ってもらうと言っていたのではなかったか? あのときはいつものことだと聞き流していたが、しかし今にして思えばそれは別の意味を含んでいたのではなかったか。例えばそう、バレンタインのチョコレートと言った。
はるち
DONE「どうも私は、死んだみたいなんだよね」イベリアの海から帰還したドクターは、身体が半分透けていた。幽霊となったドクターからの依頼を受けて、探偵は事態の解決に乗り出すが――
「ご依頼、承りました」
この謎を解く頃に、きっとあなたはもういない。
という感じのなんちゃってSFです。アーミヤの能力及びドクターについての設定を過分に捏造しています。ご了承下さい。
白菊よ、我もし汝を忘れなば 青々たる春の柳 家園に種うることなかれ
交は軽薄の人と結ぶことなかれ
楊柳茂りやすくとも 秋の初風の吹くに耐へめや
軽薄の人は交りやすくして亦速なり
楊柳いくたび春に染むれども 軽薄の人は絶えて訪ふ日なし
――引用 菊花の約 雨月物語
「どうも私は、死んだみたいなんだよね」
龍門の夏は暑いが、湿度が低いためか不快感はさほどない。先日任務で赴いたイベリアの潮と腐臭の混じった、肌に絡みつくような湿気を七月の太陽が焼き清めるようだった。あの人がいたならば、火炎滅菌だとでも言ったのだろうか。未だ彼の地にいるであろう人物に、そう思いを馳せながら事務所の扉を開けると、冷房の効いた暗がりから出たリーを夏の日差しと熱気が過剰な程に出迎える。日光に眩んだ鬱金の瞳は、徐々に真昼の明るさに慣れる中で、有り得ざる人影を見た。
15295交は軽薄の人と結ぶことなかれ
楊柳茂りやすくとも 秋の初風の吹くに耐へめや
軽薄の人は交りやすくして亦速なり
楊柳いくたび春に染むれども 軽薄の人は絶えて訪ふ日なし
――引用 菊花の約 雨月物語
「どうも私は、死んだみたいなんだよね」
龍門の夏は暑いが、湿度が低いためか不快感はさほどない。先日任務で赴いたイベリアの潮と腐臭の混じった、肌に絡みつくような湿気を七月の太陽が焼き清めるようだった。あの人がいたならば、火炎滅菌だとでも言ったのだろうか。未だ彼の地にいるであろう人物に、そう思いを馳せながら事務所の扉を開けると、冷房の効いた暗がりから出たリーを夏の日差しと熱気が過剰な程に出迎える。日光に眩んだ鬱金の瞳は、徐々に真昼の明るさに慣れる中で、有り得ざる人影を見た。
totorotomoro
DOODLE鯉博SSガナッシュ「リーは何でも作れるんだな」
「んな大げさな…。チョコとかして固める程度ですよ。玄人にゃかないませんって。今日だって試作して具合見ようってんですから」
そうは言っても見事な手際でチョコレートの中身に使うというガナッシュとやらを作って、スプーンで硬さやらを確かめてスプーンをくわえて頷いている。
「私にもひとくちくれないか」
甘いものが欲しくなり、言いながら口を少し開けるとリーは私の顔を見てガナッシュを見る。何故か手をきれいに拭いて人差し指に乗せると私に突き出してきた。
「はい、どうぞ?」
にっこりと微笑みかけるパートナーに、私は彼の指をくわえて、隅々までチョコを舐めとって舌先でぺっと押し出した。チョコレートはかなり美味しく、完成が楽しみではあるが。
398「んな大げさな…。チョコとかして固める程度ですよ。玄人にゃかないませんって。今日だって試作して具合見ようってんですから」
そうは言っても見事な手際でチョコレートの中身に使うというガナッシュとやらを作って、スプーンで硬さやらを確かめてスプーンをくわえて頷いている。
「私にもひとくちくれないか」
甘いものが欲しくなり、言いながら口を少し開けるとリーは私の顔を見てガナッシュを見る。何故か手をきれいに拭いて人差し指に乗せると私に突き出してきた。
「はい、どうぞ?」
にっこりと微笑みかけるパートナーに、私は彼の指をくわえて、隅々までチョコを舐めとって舌先でぺっと押し出した。チョコレートはかなり美味しく、完成が楽しみではあるが。
はるち
DOODLEミニマリストの会話1を受けて。すべての役者が去った後で、この大地に残るものとは。
龍の鱗が最後に残る「ロドスの船殻だけど、次に整備する時、もっと高耐食性の素材に替えるのがお勧めだよ。理由? すべてが終わって消え去る時、オレもアンタも影も形もなくなるからだよ。残るのは、この船の骨だけだ。コイツこそが永遠なんだ。そして、オレたちの証明になるんだ」
エンジニア部の弛まぬ努力により、ロドス本艦はいつでもどこかしらで増改築が行われている。しかし外殻に手を入れているところを見るのは初めてではなかろうか、とリーは慌ただしく通り過ぎる作業員達の合間を縫って歩きながら思った。やれペンキはどこだ炭素材はどこだと、喧嘩のような口調でやり取りをする彼らを見ているのは楽しくもあるし、時間さえあれば茶でも飲みながらいつまでも眺めていたかったが、しかし今は行くべきところがある。甲板から艦内へと入り、今ではすっかり馴染んだ廊下を歩く。いくつか階段を登り、三番目の角を右に曲がると、そこには執務室に繋がる扉がある。
1631エンジニア部の弛まぬ努力により、ロドス本艦はいつでもどこかしらで増改築が行われている。しかし外殻に手を入れているところを見るのは初めてではなかろうか、とリーは慌ただしく通り過ぎる作業員達の合間を縫って歩きながら思った。やれペンキはどこだ炭素材はどこだと、喧嘩のような口調でやり取りをする彼らを見ているのは楽しくもあるし、時間さえあれば茶でも飲みながらいつまでも眺めていたかったが、しかし今は行くべきところがある。甲板から艦内へと入り、今ではすっかり馴染んだ廊下を歩く。いくつか階段を登り、三番目の角を右に曲がると、そこには執務室に繋がる扉がある。
はるち
DOODLEリー先生が言うところのお上品な嗜みに嫉妬するドクターのお話。Private eye/secret eye三日前はファントム。一昨日はシルバーアッシュ。昨日はエンカク。
「……ドクター」
「何かな?」
この聡明な人は、自分が何を言わんとしているのか、十全に理解しているだろうに。何も知らない振りをして首を傾げると、冬の日差しに似た色の髪がさらりと流れた。しかし笑みを灯した唇は、十二月の真夜中にこちらを見下ろす月光めいて冷ややかだ。
「秘書のローテーションを決めているのはドクターなんですよね」
「それが?」
「おれがロドスに戻ってきてからのローテにはどういう意味が?」
ようやくドクターの自室で二人きり、ソファに並んで座り、ここ数日胸の奥にわだかまっていた疑問を言葉にしてこの人にぶつけることができた。吐き出してしまえば少しは胸のつかえがとれるかと思ったが、しかし今度は軽くなった胸の裡が空寒いばかりである。
1590「……ドクター」
「何かな?」
この聡明な人は、自分が何を言わんとしているのか、十全に理解しているだろうに。何も知らない振りをして首を傾げると、冬の日差しに似た色の髪がさらりと流れた。しかし笑みを灯した唇は、十二月の真夜中にこちらを見下ろす月光めいて冷ややかだ。
「秘書のローテーションを決めているのはドクターなんですよね」
「それが?」
「おれがロドスに戻ってきてからのローテにはどういう意味が?」
ようやくドクターの自室で二人きり、ソファに並んで座り、ここ数日胸の奥にわだかまっていた疑問を言葉にしてこの人にぶつけることができた。吐き出してしまえば少しは胸のつかえがとれるかと思ったが、しかし今度は軽くなった胸の裡が空寒いばかりである。
はるち
DOODLE悪天候で一泊を余儀なくされる二人のお話です夜のしじまにひとりはさみしい ベッドのスプリングが軋む音と、甘くて高い女の嬌声。
が、薄い壁を挟んだ向こうから聞こえてくる場合、人はどうするべきなのだろうか。
それはもう狸寝入りしか無い、とリーはデスクに突っ伏したまま努めて冷静に呼吸を繰り返した。本来であればもうこの移動都市を出てロドス本艦へと向かう予定だった。突然の悪天候により、交通手段が使えなくなるまでは。もう一泊を余儀なくされたドクター達だったが、しかしそれは他の人間も同じであり、この都市内の宿泊施設はどこも満室だった。勿論野営という手段もあるが、この悪天候ではさすがに屋根と壁のある空間が恋しい。リーを始めとするオペレーターが必死に手分けして空きのあるホテルを探し、なんとか見つけ出したはいいが、しかし人員に対して空室が少なかった。
1559が、薄い壁を挟んだ向こうから聞こえてくる場合、人はどうするべきなのだろうか。
それはもう狸寝入りしか無い、とリーはデスクに突っ伏したまま努めて冷静に呼吸を繰り返した。本来であればもうこの移動都市を出てロドス本艦へと向かう予定だった。突然の悪天候により、交通手段が使えなくなるまでは。もう一泊を余儀なくされたドクター達だったが、しかしそれは他の人間も同じであり、この都市内の宿泊施設はどこも満室だった。勿論野営という手段もあるが、この悪天候ではさすがに屋根と壁のある空間が恋しい。リーを始めとするオペレーターが必死に手分けして空きのあるホテルを探し、なんとか見つけ出したはいいが、しかし人員に対して空室が少なかった。
はるち
DONEリー先生の尾ひれを見るたびにドキドキするドクターのお話。その鮮やかさを覚えている 覚えているのは、黒と金。
石棺で眠りについていた二年。あの漂白の期間に、自分はかつての記憶のほとんどを失った。それを取り戻すために、主治医であるケルシーとは幾度となくカウンセリングを行ったが、その殆どは徒労に終わった。医学的には、記憶喪失になってから一年が経過すると、記憶が戻るのはほぼ絶望的とされる。だからこれで一区切りをする、と。ケルシーは診察の前にそう前置きをし、そうして大した進展もなく、最後の診察も終わった。言ってみればこれは届かないものがあることを確認するための手続きだ。現実を諦めて受け入れるための。失われたものはもう二度と戻って来ないのだ、ということを確認するための。
ドクターは書棚からファイルを取り出した。ケルシーとの診察の中で、自分に渡された資料の一部だ。何でもいいから思いつくものを、思い出せるものを書いてみろと言われて、白紙の上に書いた内面の投影。他者からすれば意味不明の落書きにしか見えないだろう。しかしケルシーにとっては現在の精神状態を推量するための材料であり、ドクターにとっては現在の自分を構成する断片だ。
8593石棺で眠りについていた二年。あの漂白の期間に、自分はかつての記憶のほとんどを失った。それを取り戻すために、主治医であるケルシーとは幾度となくカウンセリングを行ったが、その殆どは徒労に終わった。医学的には、記憶喪失になってから一年が経過すると、記憶が戻るのはほぼ絶望的とされる。だからこれで一区切りをする、と。ケルシーは診察の前にそう前置きをし、そうして大した進展もなく、最後の診察も終わった。言ってみればこれは届かないものがあることを確認するための手続きだ。現実を諦めて受け入れるための。失われたものはもう二度と戻って来ないのだ、ということを確認するための。
ドクターは書棚からファイルを取り出した。ケルシーとの診察の中で、自分に渡された資料の一部だ。何でもいいから思いつくものを、思い出せるものを書いてみろと言われて、白紙の上に書いた内面の投影。他者からすれば意味不明の落書きにしか見えないだろう。しかしケルシーにとっては現在の精神状態を推量するための材料であり、ドクターにとっては現在の自分を構成する断片だ。
はるち
DONE探偵事務所アニメ四話と三周年お祝いボイスに脳を焼かれて書きました。リー先生に”個人的な依頼”をするドクターのお話です。
夜辺であなたを待っていた 空を飛ぶ羽獣を初めて見た時に、人が覚えるのは憧憬だろうか、羨望だろうか。或いは、水中を泳ぐ鱗獣を見た時は? 自分も彼らのように飛びたい、泳ぎたいと。願ったところでこの両腕は、翼となるには不器用が過ぎ、両足は、鰭と為すには不格好が過ぎた。けれどもそれで構わなかった。この両足で立って、戦場を見渡す目と戦闘を指揮する頭があれば、自分はそれで事足りたのだ。
大空を悠然と舞う羽獣のようになれずとも。
湖面を優雅に泳ぐ鱗獣のようになれずとも。
それで良かった、はずなのに。
届かないな、と思った。彼と、その前に立つ美しい人を見た時に。
無邪気に空を、水を、望むには、自分は年を取りすぎた。地を這いながら生きるしか無いと、骨身に染みて知っている。
4897大空を悠然と舞う羽獣のようになれずとも。
湖面を優雅に泳ぐ鱗獣のようになれずとも。
それで良かった、はずなのに。
届かないな、と思った。彼と、その前に立つ美しい人を見た時に。
無邪気に空を、水を、望むには、自分は年を取りすぎた。地を這いながら生きるしか無いと、骨身に染みて知っている。
はるち
DONEuntil you have the courage to kiss.酔って帰る二人のお話。
リー先生の三周年記念ボイスに脳を焼かれました。
You can never cross the night, ドクタァ、と彼が自分を呼ぶ声には、酒に漬け込んだ果実の甘さがあった。これは不味いと身を引こうとしたところで、その足を尾鰭が掬い取る。バランスを崩した身体は重力に従うまま、彼に押し倒されるままだ。事務所のソファは想像よりも柔らかく、折り重なって倒れる二人を受け止め、彼は夜のように自分の上へと覆い被さる。照明もついていない事務所の中で、彼の瞳が双月めいて夜闇の中に灯っていた。それが何を燃やした光であるのか、瞳の裡にあるものに気づいてしまわぬように、と。目を逸らしたドクターは、しかし晒した喉元を長い舌で舐められて声を上げた。
「リー、やめてくれ」
はて、と言わんばかりに首を傾げて見せる男の、取り繕った無邪気さに腹が立つ。酔い醒ましに頬でも叩いてやろうかと思ったけれど、両手首はもうとっくに彼に絡め取られていた。喉笛に寄せられた唇の、微かな隙間から漏れ出す酒気に目眩がする。
1025「リー、やめてくれ」
はて、と言わんばかりに首を傾げて見せる男の、取り繕った無邪気さに腹が立つ。酔い醒ましに頬でも叩いてやろうかと思ったけれど、両手首はもうとっくに彼に絡め取られていた。喉笛に寄せられた唇の、微かな隙間から漏れ出す酒気に目眩がする。
はるち
DONEリー先生の尻尾には無限の浪漫がありますねその肌に残るものは 腕を上げた拍子に、白衣の裾が捲れてドクターの肌が露わになった。透ける肌は無機物めいて白いけれど、チェンが目を留めたのは別の理由だ。その視線に気づいたドクターが苦笑する。棚に刺さっていたバインダーを抜き取って裾を直す。
「見苦しいところを見せてすまないね」
「いや、そういうわけでは」
チェンの視線が泳ぐが、その注意関心が今でもその腕にあることは明らかだった。正確には、実際に生えているのではないかと錯覚するほど鮮明に焼き付いた、鱗の痕に。緩やかな螺旋を描くそれは、さながら刺青のようだった。
ドクターの肌にこの痕跡を残せる存在については言うまでもなく、二人の脳裏には同じ面影が浮かんでいる。ドクターは努めて何もなかったかのようにバインダーをチェンへと差し出したが、しかしチェンが腕を伸ばして掴んだのはドクターの腕だった。服の上からその痕を隠そうとするようで、力の強さも相まって、ドクターの肩が跳ねる。
1523「見苦しいところを見せてすまないね」
「いや、そういうわけでは」
チェンの視線が泳ぐが、その注意関心が今でもその腕にあることは明らかだった。正確には、実際に生えているのではないかと錯覚するほど鮮明に焼き付いた、鱗の痕に。緩やかな螺旋を描くそれは、さながら刺青のようだった。
ドクターの肌にこの痕跡を残せる存在については言うまでもなく、二人の脳裏には同じ面影が浮かんでいる。ドクターは努めて何もなかったかのようにバインダーをチェンへと差し出したが、しかしチェンが腕を伸ばして掴んだのはドクターの腕だった。服の上からその痕を隠そうとするようで、力の強さも相まって、ドクターの肩が跳ねる。
はるち
DONE若いオペを侍らせるリー先生(語弊)とドクターのお話。Young ,younger ,youngest 若さとは資源だ。いずれ失うことを宿命付けられている、有限の。
あんな配置を許したのは誰だ、眼の前の光景にドクターは歯噛みした。手にしているカップの中に入っていたアイスコーヒーはとっくに底が尽きており、苛立ちをぶつけられているストローは噛み跡でべこべこに歪んでいる。勿論その許可を出したのが自分であるということをドクター自身も理解しており、だからこそ行き場のない苛立ちばかりが募る。
今日はロドス・アイランドの企業説明会だった。
ロドスは未だに知名度の低さに喘ぐ人材不足の企業だ。どういう企業で、どんな活動をしているかを知ってもらうというのが、本会の目的である。そしてその一環として、ロドスで働いているオペレーターと直接話せるブースを設けた、というところまではドクターも把握していた。連日広報部から滝のように送られてくる書類に対して右から左にサインをしつづけ、内容には簡単にしか目を通していなかった。それは彼らなら上手くやってくれるだろうという信頼でもあり、現に彼らはその信頼に応えているのだが。
1952あんな配置を許したのは誰だ、眼の前の光景にドクターは歯噛みした。手にしているカップの中に入っていたアイスコーヒーはとっくに底が尽きており、苛立ちをぶつけられているストローは噛み跡でべこべこに歪んでいる。勿論その許可を出したのが自分であるということをドクター自身も理解しており、だからこそ行き場のない苛立ちばかりが募る。
今日はロドス・アイランドの企業説明会だった。
ロドスは未だに知名度の低さに喘ぐ人材不足の企業だ。どういう企業で、どんな活動をしているかを知ってもらうというのが、本会の目的である。そしてその一環として、ロドスで働いているオペレーターと直接話せるブースを設けた、というところまではドクターも把握していた。連日広報部から滝のように送られてくる書類に対して右から左にサインをしつづけ、内容には簡単にしか目を通していなかった。それは彼らなら上手くやってくれるだろうという信頼でもあり、現に彼らはその信頼に応えているのだが。
totorotomoro
TRAININGフォロワーの嘫さんからアイディアをいただきました。食べてるものはアイディアから派生した自分の趣味を入れてます。プロポーズは食卓 パッパーというクラクションの音と光が二人の隣を通り過ぎていく。リーが片手を上げていたが華麗にスルーされた。
なぜなら二人の衣服は……いや、細かくは言うまい。とりあえずライトを照らした程度の見た目でタクシーがスルーレベルも仕方あるまいという汚れた風体をしていたことが伝わればいい。
二人は他の小隊とは別行動で、とある富豪の屋敷に潜っていた。それはもちろん作戦任務で潜っていたのだが、その途中運悪くドクターはワインをぶちまけられ、リーは頭からパスタをぶちまけられた。
結果的に騒ぎを起こすことがなく済ませられたのだから、この汚れは名誉の汚れである。いや嘘だ。汚れに名誉とかはいらない。
富豪の屋敷では今頃大騒ぎで、服や見た目を整える余裕がなくそそくさと逃げるようにここまではたどり着いたのだが、見た目が怪しい二人にタクシーは冷たかった。
4490なぜなら二人の衣服は……いや、細かくは言うまい。とりあえずライトを照らした程度の見た目でタクシーがスルーレベルも仕方あるまいという汚れた風体をしていたことが伝わればいい。
二人は他の小隊とは別行動で、とある富豪の屋敷に潜っていた。それはもちろん作戦任務で潜っていたのだが、その途中運悪くドクターはワインをぶちまけられ、リーは頭からパスタをぶちまけられた。
結果的に騒ぎを起こすことがなく済ませられたのだから、この汚れは名誉の汚れである。いや嘘だ。汚れに名誉とかはいらない。
富豪の屋敷では今頃大騒ぎで、服や見た目を整える余裕がなくそそくさと逃げるようにここまではたどり着いたのだが、見た目が怪しい二人にタクシーは冷たかった。
はるち
DONE絶対にリーの料理を食べたくないドクターと食べさせたいリーによる攻防戦のお話Super size you 大事な話があるから執務室に来てくれ、と言われたのが今朝のことだった。自分の仕事が片付いてから来てほしいから夜遅くになると思うが大丈夫か、とドクターは言ったけれど、しかしそれを無碍に出来るような空気ではなかった。一体何を申し付けられるのか。過酷な任務の命令であればまだマシだろう。契約の破棄か、あるいはもっと悪い何かか。悪い想像を追い払うように、執務室の扉の前で一度頭を振ったリーは、努めて高らかにドアをノックした。
「ドクター?いいですかい?」
どうぞ、という声で中に入ると、そこにはもうドクターの姿しかない。もう夜も遅い。今日の秘書は帰った後なのだろう。ひとりきりで仕事をさせるくらいなら自分が手伝ったのに、と言いかけて、一体いつから自分はこの人にこんなに甘くなったのかと苦笑する。
2980「ドクター?いいですかい?」
どうぞ、という声で中に入ると、そこにはもうドクターの姿しかない。もう夜も遅い。今日の秘書は帰った後なのだろう。ひとりきりで仕事をさせるくらいなら自分が手伝ったのに、と言いかけて、一体いつから自分はこの人にこんなに甘くなったのかと苦笑する。
はるち
DONE新春を龍門の温泉宿で過ごす二人のお話朝にあなたと凍えたい 龍門の郊外にある温泉宿が妥協点だった。それ以上離れるとすぐにロドスへ戻ることが出来ないし、何より通信が不安定になる。リーとしては龍門からもロドス本艦からも離れた場所、日々の業務や仕事から遠く離れた場所に連れていきたかったようだが。尚蜀なんてどうですかい、と言われたが、そこへ二人で行けるとすれば、それはもう少し先の話になるだろう。
ドクターは窓の外を見上げた。外がやけに静かだと思えば、雪が降っていたようだ。降り注ぐ天からの祝福は、まさしく舞い落ちるという言葉が相応しく、質量も重力もないかのようだった。白銀へと染まりゆく外の景色を眺めながら、こんなに暖かい場所から雪を眺めていられるのはいつぶりだろうかと思案する。野営のときは、この優雅な白はただひたすらに寒くて冷たくて憎らしいもので、いっそのこと感覚ごと凍りついてしまった方が楽だと、半ば呪うような気持ちで見上げていたから。こんな風に穏やかな気持で、はらはらと舞い散る様を眺めていられるようなものではなかった。
2066ドクターは窓の外を見上げた。外がやけに静かだと思えば、雪が降っていたようだ。降り注ぐ天からの祝福は、まさしく舞い落ちるという言葉が相応しく、質量も重力もないかのようだった。白銀へと染まりゆく外の景色を眺めながら、こんなに暖かい場所から雪を眺めていられるのはいつぶりだろうかと思案する。野営のときは、この優雅な白はただひたすらに寒くて冷たくて憎らしいもので、いっそのこと感覚ごと凍りついてしまった方が楽だと、半ば呪うような気持ちで見上げていたから。こんな風に穏やかな気持で、はらはらと舞い散る様を眺めていられるようなものではなかった。
はるち
DONE怪我をしたリーのためにドクターが料理を作るお話砂糖大匙二香辛料少々、そして愛を適量「手慣れて見えますね」
「そう?君にそう言ってもらえるなら鼻が高いよ」
キッチンには砂糖とミルクの甘やかな香りが満ち、ドクターの溢した笑い声がスパイスのように彩りを添える。平時であればこうして夜食を作るのは自分の役回りだが、今回ばかりはそうもいかなかった。
リーはちらりと三角巾に吊るされた自分の右腕、骨折が治るまでは動かさないようにと医療オペレーター――末の子どもであればやりようはあったが、相手はよりにもよってあのガヴィルである――に厳命されている自分の腕を見た。危機契約は、普段とは異なる状況下での戦闘を強いられる。それは理解していたつもりだった。だからこの腕は慢心の代償だ。溶岩洞でオリジムシ達を捌きながら、あのポンペイとかいう巨大な害虫を相手取ろうとしたらこのザマだ。結果として危機契約の途中でリーは本艦へと戻ることになり、全てを終えてロドスへと帰還したドクターをくたびれた表情で出迎える羽目になった。
2082「そう?君にそう言ってもらえるなら鼻が高いよ」
キッチンには砂糖とミルクの甘やかな香りが満ち、ドクターの溢した笑い声がスパイスのように彩りを添える。平時であればこうして夜食を作るのは自分の役回りだが、今回ばかりはそうもいかなかった。
リーはちらりと三角巾に吊るされた自分の右腕、骨折が治るまでは動かさないようにと医療オペレーター――末の子どもであればやりようはあったが、相手はよりにもよってあのガヴィルである――に厳命されている自分の腕を見た。危機契約は、普段とは異なる状況下での戦闘を強いられる。それは理解していたつもりだった。だからこの腕は慢心の代償だ。溶岩洞でオリジムシ達を捌きながら、あのポンペイとかいう巨大な害虫を相手取ろうとしたらこのザマだ。結果として危機契約の途中でリーは本艦へと戻ることになり、全てを終えてロドスへと帰還したドクターをくたびれた表情で出迎える羽目になった。
totorotomoro
PROGRESS続きを2パターン考えていて、どっちも載せる予定でいますが、そんなに長くはならない予定です。というより、王道といいますか、テンプレをなぞるところまでは頑張ったのでそこで力つき…。
このままだとお蔵入りになるのでとりあえず前半のみ提出。
記憶(仮タイトル) ふと足を止めた。
私は何をしていたのだったか。
違和感を覚えた途端に、背筋から恐ろしい不安が這い上がってくる。そこここにいる人の波はそれなりにいるが、私はその中の誰をも知らない。そして。
『私』は誰だ? ここは何処だ?
私は立ち止まり、吹き出る汗を拭こうとして腕が顔につけたなにかに阻まれたのを感じた。腕を強く振り上げたせいで、額部分の接触している部分を打ってひどく痛んで涙が滲む。
瞬きをして前を見れば、突然止まって腕を顔に打ち付けた変な奴のことをちらりちらりとこちらを見ながら通り過ぎていく人の群れと一方的に目があった。
一方的だと感じたのは、おそらく相手はこちらの視線に気づかないのだろう。目があいながらそらさずに横目で見ていくのをみて、『私』にはひどい違和感と感じられたのだ。
5792私は何をしていたのだったか。
違和感を覚えた途端に、背筋から恐ろしい不安が這い上がってくる。そこここにいる人の波はそれなりにいるが、私はその中の誰をも知らない。そして。
『私』は誰だ? ここは何処だ?
私は立ち止まり、吹き出る汗を拭こうとして腕が顔につけたなにかに阻まれたのを感じた。腕を強く振り上げたせいで、額部分の接触している部分を打ってひどく痛んで涙が滲む。
瞬きをして前を見れば、突然止まって腕を顔に打ち付けた変な奴のことをちらりちらりとこちらを見ながら通り過ぎていく人の群れと一方的に目があった。
一方的だと感じたのは、おそらく相手はこちらの視線に気づかないのだろう。目があいながらそらさずに横目で見ていくのをみて、『私』にはひどい違和感と感じられたのだ。
はるち
DOODLE香水にまつわる小話The musk シャワールームで恋人の香水を使うと、抱かれているような感覚になる。
そう話していたのは、執務室をカフェ代わりにガールズトークを繰り広げていたアンブリエルとアンジェリーナとウタゲの三人の中の誰かだった。いや、アンジェリーナは私の前ではこの手の話題を避ける傾向があるから、残る二人のどちらかであろう。この場合の抱かれているというのがどのようなニュアンスであるかは議論の余地があるが、極東の言い回しの通りに女三人集まって姦しいを体現しているような彼女達のやりとりに口を挟むほど私も野暮ではなく、また話題が秋の空よりもころころと移ろいゆくものだから、私が仕事の手を止める余裕が出る頃には彼女達の会話の中心は最近入職したオペレーターで誰が一番かっこいいかということに変わっていた。僭越ながら私も意見を求められたので、やはりインドラだろうと回答した。
1861そう話していたのは、執務室をカフェ代わりにガールズトークを繰り広げていたアンブリエルとアンジェリーナとウタゲの三人の中の誰かだった。いや、アンジェリーナは私の前ではこの手の話題を避ける傾向があるから、残る二人のどちらかであろう。この場合の抱かれているというのがどのようなニュアンスであるかは議論の余地があるが、極東の言い回しの通りに女三人集まって姦しいを体現しているような彼女達のやりとりに口を挟むほど私も野暮ではなく、また話題が秋の空よりもころころと移ろいゆくものだから、私が仕事の手を止める余裕が出る頃には彼女達の会話の中心は最近入職したオペレーターで誰が一番かっこいいかということに変わっていた。僭越ながら私も意見を求められたので、やはりインドラだろうと回答した。
はるち
DOODLE上手に泣けない博と鯉のお話天使を撃ち落とすものは もし天使がこの大地に存在するのだとしたら、それはこの人の似姿をしているのだろう。
「リー」
名前を呼ばれる。振り向くとそこには想像した通りの人がいて、しかし手にしているものが想像と違う。
「どうしたんです、それ」
ドクターの手にあるのは白詰草で編まれた花冠だった。摘み取られたばかりの花からは青い生き物の香りが立ち上っている。かがんで、という指示の通りに首を下げ、ついでに帽子も外す。満足そうに息を吐いたドクターは、自分の頭にそれを乗せる。いつぞやの昇進式を思い出した。あの時はサッシュだったが。
「子どもたちと一緒に作ったんだよ」
「あなたが?」
「そう。みんなが教えてくれたんだ。私は花の編み方の一つも知らないからね」
3624「リー」
名前を呼ばれる。振り向くとそこには想像した通りの人がいて、しかし手にしているものが想像と違う。
「どうしたんです、それ」
ドクターの手にあるのは白詰草で編まれた花冠だった。摘み取られたばかりの花からは青い生き物の香りが立ち上っている。かがんで、という指示の通りに首を下げ、ついでに帽子も外す。満足そうに息を吐いたドクターは、自分の頭にそれを乗せる。いつぞやの昇進式を思い出した。あの時はサッシュだったが。
「子どもたちと一緒に作ったんだよ」
「あなたが?」
「そう。みんなが教えてくれたんだ。私は花の編み方の一つも知らないからね」
はるち
DONE出会いと別れを繰り返す二人のお話。この前書いたもののリー先生視点からです。
慕えど追いつかぬ魂――時の流れは一条でなく、交叉と分岐を繰り返す、無量に連なる辻の如きものであり―― 引用:終景累ヶ辻 空木 春宵
おや?
こんなところで奇遇ですねぇ。
……そんなに警戒しないでくださいよ。怪しいものじゃありませんってば。
不審者を自称する不審者はいない?はは、そりゃそうだ。
おれはリーってもんです。事務所の名刺、いります?
いらない?残念です。
おれはあっちの方に用があるんですが、良かったら途中まで一緒に行きませんか?こんなところを一人歩きなんて、危ないでしょう。
はは、そんなに警戒しないでくださいよ。こう見えても探偵なんです。警護も仕事の範囲内ですよ。
依頼なんてしてない?まあそう仰らずに。あの十字路まで。どうです?
2618おや?
こんなところで奇遇ですねぇ。
……そんなに警戒しないでくださいよ。怪しいものじゃありませんってば。
不審者を自称する不審者はいない?はは、そりゃそうだ。
おれはリーってもんです。事務所の名刺、いります?
いらない?残念です。
おれはあっちの方に用があるんですが、良かったら途中まで一緒に行きませんか?こんなところを一人歩きなんて、危ないでしょう。
はは、そんなに警戒しないでくださいよ。こう見えても探偵なんです。警護も仕事の範囲内ですよ。
依頼なんてしてない?まあそう仰らずに。あの十字路まで。どうです?
はるち
DONE不眠症のドクターとリーのお話です。リクエストありがとうございました!Does the sheep count the sheep クラリス、子羊は悲鳴をあげなくなったかな? ――引用:羊たちの沈黙
夜は嫌いだ。静寂が耳に煩いから。
「――みにくい羽獣の子が水の上に眼を落とすと、そこに映っていたのは、もうあの灰色の羽獣ではありません。真っ白に光り輝く羽獣でした。そうしてその羽獣は、あたらしい仲間と一緒に幸せに暮らしました。……、はあ。あなた、まだ起きていたんですか?」
ベッドサイドの椅子に腰掛けていた彼が、ベッドに横たわる私にちらと視線を向ける。全く眠る気配が見えないことに、その表情が渋いものへと変わった。コーヒーでも飲みすぎたようだった。雰囲気としては一リットルくらいだろうか。
「いや、いつ聞いてもいい話だなと思っていてね。生まれた時からその羽獣の勝ちは決まっていた、ということだろう?」
6154夜は嫌いだ。静寂が耳に煩いから。
「――みにくい羽獣の子が水の上に眼を落とすと、そこに映っていたのは、もうあの灰色の羽獣ではありません。真っ白に光り輝く羽獣でした。そうしてその羽獣は、あたらしい仲間と一緒に幸せに暮らしました。……、はあ。あなた、まだ起きていたんですか?」
ベッドサイドの椅子に腰掛けていた彼が、ベッドに横たわる私にちらと視線を向ける。全く眠る気配が見えないことに、その表情が渋いものへと変わった。コーヒーでも飲みすぎたようだった。雰囲気としては一リットルくらいだろうか。
「いや、いつ聞いてもいい話だなと思っていてね。生まれた時からその羽獣の勝ちは決まっていた、ということだろう?」
はるち
DOODLE出会いと別れを繰り返す二人が性癖です黒鳥はかなしからずや夕の赤夜の黒にも染まずただよふ
左様ならば、また逢いましょうあれ。
こんなところで珍しいね。
もちろん、君のことなら知っている。商人で有名なリー家の、ええと――
……そう言われるのは好きじゃない?
ふふ。
そうだろうね。
私?私はただの通りすがりだよ。
君はどこまで?……そう、あの十字路まで。せっかくだから一緒に行こうか。
しかし、十字路、ねえ。
ああいや、大した意味はないよ。十字路は何故、国が変わっても縁起が良くないのかと思ってね。
過去と未来が交わるとか、この世とあの世が交わるとか。そんな謂れが多くてね。ほら、罰として罪人の死体を埋めたりするだろう?しない?ふうん。
そうだ、こんな話を聞いたことはあるかな。
未練のある魂は、死後に十字路に行くんだ。自分が来た道を除くと、目の前には三本に分かれた道がある。そのそれぞれが過去に、未来に、現世にと続いている。そうして選んだ道の先で、幽霊になって化けて出るのさ。いや全く、輪廻転生を是とする炎国らしい話だと思わないか?死後の審判、天国か地獄に行き先が分かれるラテラーノ教とは異なる死生観だよね。まあ、だからこそ死後どこにも行けない魂が永遠に彷徨い続けるという罰が成立するわけだけど――
2650こんなところで珍しいね。
もちろん、君のことなら知っている。商人で有名なリー家の、ええと――
……そう言われるのは好きじゃない?
ふふ。
そうだろうね。
私?私はただの通りすがりだよ。
君はどこまで?……そう、あの十字路まで。せっかくだから一緒に行こうか。
しかし、十字路、ねえ。
ああいや、大した意味はないよ。十字路は何故、国が変わっても縁起が良くないのかと思ってね。
過去と未来が交わるとか、この世とあの世が交わるとか。そんな謂れが多くてね。ほら、罰として罪人の死体を埋めたりするだろう?しない?ふうん。
そうだ、こんな話を聞いたことはあるかな。
未練のある魂は、死後に十字路に行くんだ。自分が来た道を除くと、目の前には三本に分かれた道がある。そのそれぞれが過去に、未来に、現世にと続いている。そうして選んだ道の先で、幽霊になって化けて出るのさ。いや全く、輪廻転生を是とする炎国らしい話だと思わないか?死後の審判、天国か地獄に行き先が分かれるラテラーノ教とは異なる死生観だよね。まあ、だからこそ死後どこにも行けない魂が永遠に彷徨い続けるという罰が成立するわけだけど――
totorotomoro
DOODLEふわっとしたデート話(?)白玉のメニューに既視感をもったあなた。
はい、正解です。某三月の獅子こと将棋漫画の大事なシーンに出てくる白玉です👍
日常という平静 リーと一緒に龍門の露店をひやかすのは中々に楽しい。ドクターは戦場で感じる高揚感とは別の感情を体験して実地調査についてレポートを頭の中で組み立てながらニコニコと微笑んでいた。
実地調査と言うなら他のオペレーターに、それこそこの土地をよく知る隣に立っている男に任せればいい。
(大人しく期限までに出すかは別として。)
さらに言えばわざわざ来なくてもいい某製薬会社のトップの一人であるドクターがやる仕事ではない。それでもここへ来ているのはあまり会う機会がない恋人への、職権濫用を使ったドクターからのささやかな誠意だった。
「あれはなんだ?」
「乾燥させた果物に飴をつけたお菓子ですね。食べながら歩けるってんで人気ですよ」
5676実地調査と言うなら他のオペレーターに、それこそこの土地をよく知る隣に立っている男に任せればいい。
(大人しく期限までに出すかは別として。)
さらに言えばわざわざ来なくてもいい某製薬会社のトップの一人であるドクターがやる仕事ではない。それでもここへ来ているのはあまり会う機会がない恋人への、職権濫用を使ったドクターからのささやかな誠意だった。
「あれはなんだ?」
「乾燥させた果物に飴をつけたお菓子ですね。食べながら歩けるってんで人気ですよ」
はるち
DOODLEリクエストいただきました転生ネタです!ドクター(記憶あり)と色気と諦念を併せ持ったリー(記憶なし)のひと夏のアバンチュールです。憂鬱と官能を教えた夏 密室荘、というのがその屋敷の号だった。避暑地に建てられた、バカンスを過ごすにはうってつけの別荘だ。その割には物騒な名前でもあるが。同業者の友人――確か、推理小説家だったか――から買い取ったものだ。この屋敷の元の持ち主、自分の同業者は、風の噂に聞くところによれば、とある事件に巻き込まれて亡くなったらしい。お悔やみ申し上げる。その友人は、思い出の多い別荘で夏を過ごすことに耐えられなかったのだろう。だからこそ自分は二束三文でその屋敷を買い取ることが出来たのだから、天国にいる同業者の冥福を祈ることにしよう。彼の普段の行いを考えると、いるのは地獄かもしれないが。
二階の窓を開けると、太陽の熱気で織り上げた風が室内に吹き込む。まだ日は高いが、ビールを飲むには良い気候だ。冷蔵庫から持ってきて、昼間から一杯やるのがバカンス初日の過ごし方としては相応しいだろう。しかしその前に。
10512二階の窓を開けると、太陽の熱気で織り上げた風が室内に吹き込む。まだ日は高いが、ビールを飲むには良い気候だ。冷蔵庫から持ってきて、昼間から一杯やるのがバカンス初日の過ごし方としては相応しいだろう。しかしその前に。