原作雑土で連載してみる11 雑渡昆奈門が妻を娶る。
そのような噂を流す羽目になったのは、黄昏甚兵衛の命令が原因だった。
雑渡は頻繁に甚兵衛の元を訪れる。報告、命を受ける、もしくは甚兵衛の暇潰しのために。
訪れる時間は様々だが、その日は夜に呼ばれた。夜更けの呼び出しは、人の目と耳を遠ざけたい場合が多い。
主人の前に現れた雑渡は、まずいつも通りの報告から始めるよう言われた。雑渡はそれに応え、領内で起こった大小の出来事をすべて伝えた。甚兵衛は耳を傾け、追加の調査や対応を命じる。
「報告は以上です」
何事もなければ、雑渡のこの言葉に甚兵衛が承知の返答を寄越して終わりになる。
だが今、甚兵衛は黙ったままだ。別件があるのだろう。
薄暗い闇の中で、雑渡は次の言葉を待った。手元の扇子をいじりながら、少し間を置く主君の様子に、ぼんやりと嫌な予感がする。それは、長年仕えているがゆえの勘だった。
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