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    岩藤美流

    @vialif13

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    POIPOI 100

    岩藤美流

    DONEお題「赤/ヴァルプルギスの夜」です。

    捏造と不穏だらけの話ですが、付き合ってるアズイデ。でも確信には触れてません。
    いでぴの設定がわからないことにはなあ、と考えていたんですが、確定してない今だからこそ書けることもあるかなと思って。
    いでぴが夜食を食べたがるのは、向こうの世界の食べ物を食べたら……みたいなアレがアレしてるイメージです
     赤。
     ポツリ、ポツリと赤い炎が揺れている。風に揺れるそれを見ながら、夜の闇に身を寄せていると、声がする。名を呼ぶ声が。
     それに耳を貸さずにいれば、やがて目の前にぴょこりと青い炎が飛び出したから、イデアはハッとして目の前の弟に視線を戻した。
    「兄さんってば! 聞いてるの?」
    「ああ、ご、ごめん、考え事してた……」
    「もう、こんな暗いところで考え事してたら、転んじゃうよ? どうかな、炎はこれぐらい置けば十分かな?」
     イグニハイド寮の片隅、建物の灯りも届かない真っ暗な闇の中に、ポツリポツリと目印のように置かれている炎。本来は赤く灯るように成分が調整されたランプを置くのだが、学園内で無用の炎を使うのは流石のイデアでも気が引ける。だからそれは、炎に良く似せたホログラムの浮かび上がる、手のひらほどの端末だ。オルトの整備用部品の余りなどを使って作り出した、疑似ランプ。それが、道を作るかのように点々と並び、イグニハイド寮の入口から続いて闇に向かって伸びている。二人がいるのは、そんな闇とランプの境目だった。
    「こんばんは、お二人共」
     そこへ、声がかかる。見れば寮の方から、銀の髪を揺らし、本来そ 3586

    岩藤美流

    DONE6回告白しているのにその恋心を消されているあずにゃんの話です。 イデアさんの部屋に招かれたのは、もう何度目かわからない。夜にはスリープモードになるというオルトさんは、充電カプセルの中でじっとしている。こういう時は、何をやっても目を覚まさない、緊急コードを入力しない限りは。イデアさんは以前、そう僕に笑って教えてくれた。
     いつだって少し散らかった部屋は薄暗い。眩いのはイデアさんが今やっているゲームの画面ばかり。部屋には機械の稼働している小さくて重い音、それにイデアさんが操作するコントローラーと、ゲームの効果音だけが響いている。僕はイデアさんのベッドに腰掛けて、その画面を見ていたし、イデアさんはあぐらをかいてプレイを続けていた。
    「……ごめん、何って? よく聞こえなかった」
     忙しなくボタンを押し、ゲームを操作しながらイデアさんが問う。僕はイデアさんを見ないまま、もう一度先程の言葉を繰り返した。
    「僕はあなたに好意を抱いているようです。……友人、またそれ以上の。できることなら、僕はあなたと、お付き合いを……恋愛関係になりたいと、考えています」
     淡々と、静かにそう告げる。断られる可能性は何百もシミュレーション済みだ。今更気持ち悪いと拒絶されようが、単 8147

    岩藤美流

    MOURNINGオクタ3人が風邪をひいたときに何かがあったらしい話。

    続きが書けるかわからないので。たぶん↓と同じ時空です
    https://poipiku.com/IllustViewPcV.jsp?ID=871428&TD=3772640
    目を覚まして思ったことは、今が何時かだ。常に起床時間には気を付けて、念のためにアラームもいくつかセットしているはずだが、この耳に届くアラーム音は一体何回目のものだろう。ひどくおもだるい体は言うことを聞かなくて、瞼さえ開けるのが辛い。うう、とうめき声を上げながらなんとか妙に思い布団を押しのけ、ベッドサイドに置いていたスマートフォンを手に取り、そのけたたましい鳴き声を止めようと画面を見たところで、アズールは悲鳴を上げた。
     もうとっくに授業の始まっている時間だ。無断遅刻、内申、モストロ・ラウンジの経営権……逃げまどうイワシの群れの如く、様々な考えがよぎった。それからその混乱が、今日が休みであるという事実を思い出すことでようやく終息する。
     安心して溜息を吐きながら、アラームを止め。それからベッドを出ようとしたところで、ぐたりと倒れ込んだ。おや、おかしい。こんな風に体に力が入らないのは、初めて陸に上がった時以来ではないだろうか。あの、とてつもない虚脱感、おまけに濡れた肌が外気に晒されて何故だかブルブル震えるものだから、人間の服を着てもしばらく人魚が三匹仲良く固まっていたのを思い出す。そういえ 5984

    岩藤美流

    DONEワンライお題「金」

    思いついた時はありがとうも入ってたはずなんですが、なんか書いたら無くなってました。あまーーーーーいってやつです
    そこにあるはずの温もりを求めて、布団の中で腕を動かす。ぽふぽふ、とシーツの上を探っても、他の存在を見つけることできなかった。不満げに小さく呻いて目を開けると、そこは薄暗いアズールの部屋だ。少し離れたところに机と、それに向かう恋人の姿を見つけた。
     間接照明が照らし出す中で、寝間着に身を包んだアズールが何か書類を見つめている。イデアはもぞりと布団から出ようとして、自分は裸のままであることに気付き、きょろきょろと寝間着を探す。そういえばアズールの部屋で情事に及んで、そのまま眠ってしまったのだった。彼と夜を共にできる機会は少ない。熱く濃い夜を過ごした後は、幸福感に満たされながら一緒に朝まで眠るはずだった。ところが、肝心の恋人はどうやら仕事に勤しんでいるようである。
    「……ああ、すいません。起こしてしまいましたか」
     アズールはイデアに気付いて、苦笑いを浮かべた。近くに有った寝間着を身に着けながら、「仕事?」と尋ねると、アズールは小さく頷く。
    「会計の計算が上手くいっていないみたいで。こういう細かなことは自分でやったほうが安心できるんですよ。ただ今回は少し量が多くて……時は金なりと言うでしょう 1853

    岩藤美流

    DONE散歩

    散歩というお題だったので、いつもの散歩の雰囲気でオルトくんに散歩してもらいました。ぼんやり考え事をしている時間も長いので、お兄さんについて考えています。早く友達できるといいね。
    「兄さん、僕、散歩に行ってくるね!」
     その声に「うん、行ってらっしゃい」という優しい返事が有る。いつもどおりの声だ、と感じるそのメモリーが”どちら”のものなのか、もう既にわからないけれど。オルトはするりと機械の身体を翻して、建物の外へと泳ぎ出た。
     足を持たない彼にとって、移動は泳ぐのとそう大差は無いと思う。泳いだことは今のところ無いが。明るい陽射しの下に出てすぐにすることは、外部情報処理のシャットダウンだ。
     校舎内でもそうではあるが、視覚情報はそれだけで膨大なものである。人間のように「ただの背景」と「見たい物」を分けるシステムが備わっていればよいのだが、生憎オルトにはまだその機能が正常に搭載されていない。絶賛イデアが改良を重ねているところだ。
     目に入った情報を全て認識し処理をすると高い負荷がかかる。例えば教室一つにしても、教卓、机、椅子、カーテン、窓と物質の見た目とその名前、その概念と構成物質……処理する範囲を抑えなければ、無限に情報は溢れてくる。そこに生徒が混ざれば猶更の事だ。それでも校舎内はまだマシである。通常の記録とその相違点だけをピックアップするようにすれば、情報処理す 3758

    岩藤美流

    DONEフロイデ試作品1

    お題で頂いたフロイデのすけbになるやつですが、前置きがすごく長くなっていってます! 愛は無いけど有ります!(?)
    「な、なんで、何でこんなことになってんの……!」
     自室のベッドの上。壁際に追い詰められて、イデアは涙目で零した。彼を追い詰めている大きな影は、ゆるりと首を傾げて、にたりと笑う。
    「オレにもよくわかんねぇけど、ホタルイカ先輩のせいじゃね?」
    「どう考えてもフロイド氏のせいです、本当にありがとうございました! アーーーッ! 助けて、助けてアズール氏、お宅の子が拙者に乱暴しようとして……」
     ぴゃあーっ、と叫んでいると、ドン、と壁に手が置かれてイデアは飛び上がって黙った。青褪めるイデアの顔を覗き込んで、フロイドは低い声で問う。
    「なんで今、アズールの名前呼ぶの?」
     何でって言われてもそりゃ救援要請ってやつでしょいやオルトでも良かったかなでもオルトは今自動更新中だから再起動しないし……。イデアの頭の中で言葉がグルグルと駆け回るけれど、口にできたのは「スイマセン……」という小さな謝罪のみだった。それを聞いて、フロイドがまたゆっくりと微笑む。
    「じゃあじゃあ~、ヤろっかあ~」
     だから! どうして! そうなるの! イデアは心の中だけで叫んだ。



     そもそもの始まりまで遡ると、それは2カ月ほ 4201

    岩藤美流

    DONEアズイデワンライお題「薬」
    付き合ってない二人、とんでもないことがバレてしまってることに気付いてないあずにゃんを添えて
    ついに、ついにその時がきた!
     イデアは勝利の喜びに思わず椅子から立ち上がり、「っしゃあ!」と彼らしくもない声を出した。急に健康そうになったイデアをよそに、机に向かったままのアズールは苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
    「まさかこの僕が、このゲームで負けるなんて……!」
     そう、今まで二人が戦っていたボードゲームは、アズールが得意とするマネー系のボードゲームだ。アズールがイデアに負けたのはやり方を覚えるまでの数回で、後はやる度にアズールが勝利していたものだから、しまいにイデアはそのゲームを提案しなくなるほどだった。
     しかし先日、イデアが言った。
    『罰ゲーム有りでボドゲ勝負しない? お互い指定したゲームを順番にプレイして、先に2勝したほうの言うことをなんでも聞くってルールで』
     それに対してアズールは『なんでも、は少し範囲が広すぎますね。その時その場で完結することを条件とするなら乗ります』と言った。そして勝負の約束はなされ、今日に至る。一戦目はイデアの得意とするすごろく系ゲームで勝ち、二戦目、予想通りアズールは大の得意であるそのボードゲームを指定してきた。
     そしてイデアの大勝利、つ 2256

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    DONEアズイデワンライお題「バースデー」

    徒然なるままに、付き合うどころか自覚する前のアズを見守る双子のお話。小説というよりアウトプットになりました。
    元々、出会った頃から色々な意味で『面白い』と思っていたけれど、近頃のアズールの変化は彼らウツボの兄弟にとって大変興味深いものだった。
     まずもって、アズール・アーシェングロットという人魚は他人に興味を持っていない。いや、興味はあったのだろうけれど、それは個人の技術や才能、そしてそれをどう絡め捕ってどう利用するか、という類のものだと思う。少なくとも相手に好意を抱くといったことは無かったのだ。それは異性でも同性でも同じことで、双子と呼ばれるウツボ達であっても変わらない。もっとも、アズールにその自覚が無いだけで、双子達は彼にとって自分達が特殊な存在であろうとは思っている。
     話がそれた。
     それはそれとして、アズールは契約と対価を重んじる。己が対価として何を要求されるかわからないから、彼が人に助けを求めることは無い。同じように、相手へ一方的に貸しを作って対価を巻き上げるということもしないのだ。そうしたほうが早いこともあるのだけれど、彼は頑なに契約関係を結ぶことに拘った。あくまで、相手が助けを求めるから契約を結び、何かを与え対価を得るのだ。例外であるのは家族と、恐らくだが双子ぐらいだろう。
      2600

    岩藤美流

    MAIKINGタイトル未定 続きが欠けるかわからないので もしかしたら供養になるかもしれないアズイデちゃん

    内容的には恋に無自覚なあずにゃんが自主規制する話 そんなにえっちなものではないです
    そこは恐らく、行ったこともないイデアさんの部屋だ。よくタブレットで撮影したものを見せてくれていた。新しいグッズが手に入ったとか、オルトさんが綺麗に片付けてくれたとか、そういう、僕にとってはどうでもいい報告を重ねていたから、本物は知らなくても密やかな香りまでわかるような気がする。
     イデアさんからはいつも独特の香りがした。香り、というほどのものではないかもしれない、それほど微かなものだ。それは不快なものではなくて、むしろ僕にとっては落ち着くものだ。何の香りなのか、彼自身は香水など使わないだろうし、しかし石鹸の類でも無い。例えるなら、薄暗い蛸壺の中に一人眠る時のような、穏やかで静かな、優しい夜を思い出す、そんな香りだった。
     イデアさんはあのいつだって散らかっているベッドを何故だか整えていて、その上に乗って僕を待っている。僕は、吸い寄せられるように彼に触れた。温かい髪、熱い程に上気した頬。金色の瞳は僅かに濡れ、揺れている。表情は不安げだから、安心させるように彼を抱きしめて、その額にキスをした。
     それは子供にするようなものだったのだけれど。僕はもっと彼に触れたくなった。唇を瞼に、頬に重ね、 4929

    岩藤美流

    DONE14ちゃんイマジナリー ネギおじさんの話

    ただのさんからもらった1枚絵を元にお話を書く企画。ただのさんの持ちキャラの一人、ネギおじさんの話です。せっかくなのでうちのラリエレゼンのベリルと絡めてみました。
    「あれ?」
     ポワロ・アリウムは目を覚まして、首を傾げた。目を開けたものの、視界に映るのは淡いクリーム色の世界だけだ。ゆらゆらと黒い影が揺れているのぐらいは見えなくもないが、一般に「見えている」と呼ばれる状態とは程遠いだろう。
     ポワロはぼんやりと辺りを見回したけれど、どちらを向いても明るいと感じる。ということは、今は日中。ポワロは、はて、と腕を組んで考え込み、自分がどういう状況に置かれているのか思い出した。
    「ああ、寝落ちしちゃったんですね」
     確か自分は、未知の採取場を探して東部森林にやって来た。採取場の噂を頼りに探したけれど、それらしいものは見つからない。夜に見つかると言われる植物を、素直にその時間まで待とうと、大木の下に座り込んで、さてそれからの記憶が無い。きっと待ちくたびれて眠ってしまったのだろう。疲れていたのか、深夜などとうに過ぎて、朝になっているようだ。
    「さて、まあそれは残念ですけど、しかし、うーん、これは困りましたねえ」
     ポワロは顎に手を当てて、眉を寄せた。
    「眼鏡、何処に行ったんでしょう?」
     ポワロは生来、目が見えない。裸眼で認識できるのは明るさだけで、淡いクリ 2393

    岩藤美流

    DONEアズイデワンライお題「福袋、ウィンターホリデー」

    2人でゴロゴロしているだけの話。たっっっっぷりが本題のような気もしないでもないです。
    「はぁ~~~~ッ、アズール氏、何も言わずに拙者のタブレットをタッチするだけの簡単なお仕事しない?」
     薄暗いイデアの部屋。ベッドの上では、イデアのタブレットが煌々と彼の顔を照らし出している。何を見ているのかは大体わかっているので、隣に寝転んでスマホを眺めていたアズールは、生返事で「対価は?」と返した。
    「はい、また対価~。そんな対価対価要求しないでくださる? 我々一応、恋人同士なんですぞ?」
    「そうですね。僕がオフの貴重な部屋デートの機会を、ソーシャルゲームに費やすような恋人のいる関係です」
    「あっ、なに、もしかして怒ってらっしゃる!? ちがくて! これはその、ほら、ログボっていうか? 日課のガチャっていうか?」
     言い訳をすればするほど相手は腹が立つということを、イデアはまだ気付いていないようだ。アズールは彼を見もせずに、「好きにしてたらいいですよ」と素っ気なく返して、自分もスマホを眺めている。アズールはカレンダーアプリと睨めっこをしていた。オフ日の確認と調整である。
     ウィンターホリデー期間も間近に迫ったとある日だった。先日オーバーブロット事件を起こしたアズールは、まだ本調子ではな 2795

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    DONE蒼の誓約 8

    最終話です! ここまでお付き合いありがとうございました!
    魔法使いにいつもの日々が戻ってきました。不安げな顔をした双子のウツボが顔を出したので、彼は小言を少し漏らしましたが、彼らを罰することはありませんでした。契約で縛らなくても、彼らが自分を裏切ったり、ましてやかじったりしないことはとうにわかっていたのです。わかっていて、魔法使いはそれでも彼らを信じきることができていませんでした。けれど、こうして顔を出すことが、答えのようなものではありませんか。魔法使いは何故だか晴れた気分がしていました。まるで、解放されたのは魔法使いのほうだったような心地でした。
     魔法使いは、罪人が自分にかけ、自分が罪人にかけた心の癒しを、深く理解するところから始めました。その為に双子の心を覗きました。それで許されるならとしおらしい彼らの心は、自分や罪人に比べればとても明るく絡み合うものも少なくて、中で彼らは片割れと共に魔法使いを大切に抱いているのです。ああ、これが本来の人魚なのだと魔法使いは思いました。感情も執着も無い泡が肉を得たモノ、それが人魚なのですから。
     その魔法を手掛かりに、魔法使いは研究を続けました。ある程度の考えがまとまってきた頃、魔法使いは双子に言います 3876

    岩藤美流

    MAIKING蒼の誓約 7魔法使いは長い時間、罪人の胸に縋りついて泣きました。溢れ出た涙は海へと還り、泣き声は洞窟に反響して、自分の中に還って来るようです。まるで子供の泣き声だと魔法使いは思いました。
     子供の頃、魔法使いは珍しいタコの人魚であることを、それはそれはからかわれ、いじめられたのでした。人魚は純粋だと罪人は言いました。まったくその通り、純粋であるがために残酷でした。言葉でなじられるならまだよいほうで、追いかけ回されたり、閉じ込められたり、時には傷付けられました。タコは再生能力が高いから、と、足をちぎられそうになったことも有りますし、一口ぐらいとウツボの人魚にかじられかけたことも。無力で小さな稚魚にとって、どれほど恐ろしい経験だった事でしょう。深海に見つけた、誰かの住んでいただろう洞窟に閉じこもってやっと、魔法使いは安心して暮らせるようになったのでした。
     強くなれば、いじめられることもないのだ。最初は、身を守るためでした。それは次第に、彼らを見返し、同じ目に合わせてやるために変化しました。やがて全てを手に入れるほどに強くなると、今度はそれを守ることに執着しました。この海の全てが、自分の掌の中に納まっ 3050

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    MOURNINGこれは大事故を起こしたシリーズのルクヴィル編ですた何も大事故を起こしたのは、オクタヴィネルの人魚達だけではなかったという話である。



     ヴィル・シェーンハイトはバスローブ一枚を身につけてベッドに腰掛けたまま、ぼんやりと「どうしてこんなことになったのかしら……」と今更ながら途方に暮れていた。
     事の始まりは、あのオクタヴィネル印の化粧水である。アズール・アーシェングロット始めとした3人の肌の艶は、ヴィルも感心するものだ。あの肌は並大抵の努力では手に入るまい。何としてもその秘密を突き止めたい。ヴィルはそうして狩人を放った。
     ヴィルの美しさのためなら、と快諾した彼は、1週間の調査の後、ヴィルに意気揚々と報告したのである。
    「ヴィル! 彼らの肌の艶やかさの秘密らしきものを掴んだよ」
    「あら、流石ねルーク。それで? 一体彼らの秘密はなんなのかしら」
     自室にやって来たルークに紅茶の一つも出して労ってやりながら、ヴィルが尋ねると、彼は笑顔で言った。
    「セックスさ!」
    「せ、……は?」
     ヴィルは思わず眉を寄せたけれど、ルークは気にした様子もなく、いつもの調子だ。
    「セックスだよ、ヴィル」
    「ルーク……アンタ、本気で言ってるの?」
    「ウィ。い 1780

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    MAIKING蒼の誓約 6魔法使いは一心不乱に研究を重ねました。三日三晩、眠りもせずにうちこみました。双子たちが心配する声も、魔法使いには届きません。人魚を痛めつけるように言われた彼らは、逆らったりはしませんでした。魔法使いは、恐怖に震える人魚達に魔法をかけ、実験を繰り返しました。
     ところがなかなかうまくいきません。僅かに宿った感情が消えてしまったり、不安定になったりするばかりです。そもそも、感情とは何なのでしょう。人魚である魔法使いには、わからないのです。この背中から湧き上がってくるような落ち着かない感覚や、罪人のことを考えると痛む胸のことが。
     洞窟はしんと静まり返っているはずなのに、いつもザワザワと頭の中で何かが鳴っているような気がします。ひどく不愉快な感じがして、魔法使いは研究に集中しようと思うのに、それもうまくいきません。
     罪人が、食事を口にしない。だから弱ってきている。
     双子たちがそう言ってきた時、魔法使いは腹の奥から熱がこみあげてくるのを感じました。それは人間の世界で言うところの、怒りでした。ぶわぶわと8本の足が揺れ、髪まで逆立ちそうなほどです。魔法使いは双子たちには目もくれず、罪人を閉じ込 3625

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    MAIKING蒼の誓約 5罪人は助けを求めました。どんなに声を上げても、喉からは音が出ません。檻を叩いても、深くて暗い洞窟に音が反響するだけで、もう魔法使いに届いているかさえもわかりませんでした。
     一方の魔法使いは、無心で釜を混ぜておりました。罪人の言っていた、感情の濁り、ブロットを取り除いたり予防したりする薬や魔法ができれば、彼を死なせずに済むのです。魔法使いは海のあらゆる知識をもって、その研究を重ねることとしました。
     しかし、感情とはなんなのか。元々呑気で純粋な人魚達には、あまり感情というものがありません。海に漂う海藻やクラゲのように、日々の流れを感じながら過ごすばかりの生き物ですから、オーバーブロットした人魚など、聞いたことも有りませんでした。
     けれど魔法使いは被験者を集めることにそう苦労はしませんでした。いかに感情の薄い人魚と言えども、痛めつけ苦しめれば辛いとぐらいは思います。そうして溢れ出る恐怖心や、悲しみを消す魔法を作ればいいのです。魔法使いは双子のウツボに命じました。人魚のうち、この海から消えても構わない者を捕まえ、痛めつけるのだと。
     ブロットを防ぐ魔法を手に入れれば、罪人は罪を重ねなくて 2558

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    MAIKING蒼の誓約 4
    恐らく全8話です
    魔法使いは罪人に、魔法をかけてあげました。水中でも呼吸ができる魔法です。二人は手を繋いで、ゆっくりと夜の海に入っていきました。
     罪人の炎の髪は、水に濡れてもその姿を不思議と保っていました。何処へ行っても罪は消せない、と罪人は呟きましたが、魔法使いは、自分が必ず何とかします、と微笑みました。
     二人は夜の海へと沈んでいきました。罪人にかけた魔法は人魚のように夜目が利くようにもしてくれたので、暗闇にあってきらきらと海中がまたたいて見えるのは、まるで夜空のようでした。
     罪人は泳ぐのも初めてだと、最初はたどたどしい動きをしていました。それを笑うでもなく、魔法使いは手を繋いで、優しく泳ぎ方を教えてあげました。しばらくすると、罪人も二枚貝程度には泳げるようになって、それから少しずつ慣れていきました。
     ゆっくりと泳ぐ二人の上を、大きな大きな影が通り過ぎます。あれはなに? と尋ねる罪人に、魔法使いは答えます。
     あれはサメというのです。襲われたりしない? この海で僕を襲えるようなものはいませんよ。
     無数の小さな魚が玉のように蠢く姿を、島のように大きなクジラを、宝石のように輝く深海の生物を、二人 2694

    岩藤美流

    MAIKING蒼の誓約 3魔法使いと青年は長い時間、砂浜で話しました。青年が陸のことを教えてくれると、魔法使いは代わりに海のことを教えました。
     火を使って料理をするということ。夜の海は暗いけれど、殆どの魚や人魚は目が利くこと。陸には馬という足の速い生き物がいて、人間はそれで移動するということ。海の生き物はみんな海流を知っていて、それでとても遠い場所にも行けるということ。弟がいること。双子の腹心がいるということ――。
     二人は様々なことを話しました。しばらくすると、青年には迎えが来るので、魔法使いは海に戻って隠れます。青年は魔法使いのことを秘密にしました。
     そうして、二人は夜な夜な会うようになりました。満月の日が近づくにつれ、月の光に照らされて、魔法使いの姿が青年に見えるようになってきましたが、青年は決して魔法使いを恐れはしませんでした。二人の距離は徐々に近づいて、いつしか浜辺に二人で座るようになりました。
     月を見ながら、星を見ながら、陸の、海の他愛のない話を、いつまでもいつまでも続けていました。魔法使いは青年と話すのを楽しみにしていました。知らない事が減っていくのは楽しいですし、彼と話していると知らない事 3089

    岩藤美流

    MAIKING蒼の誓約 2ウツボたちの見せたものに、魔法使いは驚きました。
     夜空は深く遠く、洞窟の闇とは違い、星々に満たされ輝いています。冷たい空気が頬に触れ、波も無いのに彼らの髪を揺らしました。陸地には数えきれないほどの灯りが並び、またたいていました。
     そんな中で、彼はウツボ達の目にしているものを、言葉も無く見つめます。
     それは、青い火でした。熱帯魚を思わせる深い青が、火となって揺れています。長く長く伸びたそれは、波に揺れる海藻のような、いえ、海中の中にあっては見た事のない動きをして、揺らいでいます。なによりそれはただの火では有りませんでした。人間の、髪なのです。
     そんな人間、ウツボも魔法使いも見たことが有りません。人間の髪が燃えているなんて、そんなことは聞いたこともないのです。それは細い身体をした、随分と頼りなげなか弱い生き物でした。その白い肌は月の色に似ていました。その金の瞳は闇の中でも煌めいて見えました。
     とある島の浜辺に、その人間はじっと座っているのです。それが雄なのか雌なのか、子どもなのか大人なのか、彼らにはわかりません。ただその青い火と金の瞳が、夜の砂浜で浮き上がるように見えて、目が離せ 2715

    岩藤美流

    MAIKING蒼の誓約 1
    特殊設定パラレルです。
    学園の概念は無くあずにゃんはただの深海の魔法使い。いでぴはわけありの非オタ。
    まだ書いてる途中なんであれですが、あずにゃんがヤンヤンになっていでぴを監禁したり命を奪おうとしたりします。かわいそうな話です。でもハッピーエンドです。たぶん。いでぴや人魚達は色んな理由で人の命を奪ったりもしています。
    昔々、深海の暗い洞窟の中に、一人の魔法使いが住んでおりました。
     陽が沈み夜の帳が降りた空のような濃い紫の肌に、8本もの自在にうねるタコの足を持った人魚でした。空の色の瞳は、しかし長い間、闇ばかりを映しています。彼は洞窟の奥に引きこもり、日々魔法の薬を作っておりました。
     彼は偉大な魔法使いでした。悩める人魚達は、こぞって彼の元に相談をしに来ました。彼は慈悲深い男でしたから、彼らから正当な対価を受け取って願いを叶えておりました。
     しかし魔法使いは強欲でもありました。対価としてこの海の全てを求めておりました。彼の両目は、腹心である二匹のウツボの人魚と繋がっていて、海の何処でも困っている人を見つけられました。彼らは言葉巧みに、悩める人魚達を魔法使いの元へと誘いました。
     魔法使いは彼らの悲痛な願いを聞き届ける代わりに、あらゆる対価を受け取りました。美しい容姿も、透き通る声も、身体を飾り付ける装飾品も、喉を潤す美酒も、舌を楽しませる食事も、何もかもをです。彼は海の全てを手に入れていました。そして彼は、それにある一定の満足をしていていました。
     ある日やって来た人魚の悩みを聞くまでは。
    『あ 2692

    岩藤美流

    MOURNING死んだ「兄」がいて、輝かしくて眩しくて人の心がわからない彼とは違う「理想の兄」になる為に「弟」を作り出したいでぴと、炎に憧れるあまりにシュラウドの「誰か」を海に引き摺り込んでしまったあずにゃんの話になる予定だった話だと思います人魚の命は泡から生まれて泡へと帰るのだと、昔の者は言ったらしい。深く碧い海の底から、ぽこりと溢れ出た泡、それこそが人魚の真の姿。ゆらりゆらりと海面へと浮き上がり、やがて地上に辿り着いた時、無に還るもの。それが、人魚の命だと。
     無論、そのような精神論は情緒的ではあれど、現実的ではない。雄と雌が卵に遺伝子を分け与えて生まれるのが命であることは、今や稚魚でも知っている。それでも詩的な表現が消えていかないのは、今日でも「魂」あるいは「知性」または「記憶」など、目に見えぬものがどこからきているのかがわからないからだろう。
     海底から溢れ出た泡のような、虚しい生。ただし人魚達にとってそれは少々長いものだ。平均寿命を300年とする彼らにとって、生は時に退屈で緩慢なものだったろう。海藻が波で揺れるように、ゆらゆらと毎日をぼんやり過ごす大半の人魚達の人生は、まさしく泡のようなものかもしれない。
     しかし。
     地上には数多の人間と呼ばれる、弱い生き物が住んでいる。彼らは自分達の命を、火に喩えるらしい。
     火。
     海中にあって縁遠いものだ。火とは、燃えるとは何か。時に命を、あるいは恋を指すそれが何か、年若 1816

    岩藤美流

    DONEアズイデワンライ「カップ」
    前回の「誕生日」の前、アズール視点の話。バグったアズールが双子に相談しているだけの話です。
    「おまえたち。イデアさんへの誕生日プレゼントに何を贈ればいいと思いますか」
     アズール・アーシェングロットがソファに腕組みをしたまま腰かけ、そう尋ねて来たのは11月18日の夜であった。テーブルの上には会計書や誓約書が束になっており、それを整理していたジェイドと、ソファに靴を履いたまま転がっていたフロイドがアズールを見る。
    「おまえたちの考えを聞かせてもらいましょう」
    「えー、なんでオレたちがアズールのプレゼントを考えなきゃいけねえの」
    「僕たちより、あなたのほうがイデアさんのことは詳しいでしょう?」
     リーチ兄弟の言葉に、アズールは「ふぅ」と溜息を吐いた。
    「いいですか? 僕とイデアさんの関係については、二人共理解していますよね」
    「恋人同士、ということですね」
    「そんな身内のプライベートなこと、オレ、首つっこみたくねぇんだけど」
     フロイドが嫌そうな表情を浮かべている。ジェイドも「できれば先に会計書を処理したいのですが」と顔に書いてあったけれど、アズールは無視して続けた。
    「そんな僕が、イデアさんへのプレゼントに失敗したとしましょう。どうなると思います? ああ、僕はショックのあまり会 2934

    岩藤美流

    MOURNING3年後から始まる予定だったらしいアズイデちゃんを発掘したので供養です魔が刺す、とはそういう事だったんだろうと思う。あの時、あんな事をしなければと、今でも後悔をしているし、夢にまで見る。それはある種の悪夢だったのに、僕は何故だかその時のことを思い出すと、妙に胸が痛んだ。




     ちゅ、と。
     微かなリップ音を立てて、二人の唇が離れた。
     それは本当に魔が刺したとしか言いようのない事件だった。同じ部活の先輩後輩の仲を超えて、二人は友人かそれに近い関係になっていた。深夜までゲームに明け暮れた末に、イデアのベッドで寝落ちをしたアズールが、あんまり美人だったのだ。
     すう、と寝息をたてる顔は、イデアのそれと違って健康的な色白で。透き通るような肌は柔らかそうだったし、いつものコロンのいい香りがした。閉じられた両目の睫毛は長くて、唇の下にひっそりと存在するほくろも色っぽくて。
     常々思っていたのだ。美人だと。そのふっくらとした、艶のある唇にキスができたら、どれほど幸せだろうと。
     気が付いたら、唇にキスをしていたのだ。深夜は人の背後に魔物が立つ。イデアは、いつの間にやらファーストキスを、眠っているアズール相手に落としていた。
    「……あ……」
     そして、青褪めた。自 2863

    岩藤美流

    DONEアズイデワンライ「誕生日」
    いつものハードプレイしている時空のあまあま誕生日。ノーマルなえっちをしたことがない二人にとっては特別なのは普通のことでしたとさ。
    『18日、金曜日ですよね。生憎モストロ・ラウンジの仕事も年の瀬を控えて忙しいので。当日はお伺いはできませんが、祝福しますよ、イデアさん』
     大切な後輩兼友人かつ恋人であるアズールが、いつも通りの営業スマイルでそう言ったのは先週のことだ。イデアは自室で一人、高級そうで繊細なティーカップを眺めている。青を基調とした優雅なそれは、確かにイグニハイドや、イデアの髪に近い色をしていたし、美しいとは思う。けれど、この汚部屋にリーチのかかったオタク部屋には不似合いだ。
     今日は日付変更からゲーム仲間にお祝いされテンションが上がったものの、この学園でバースデーボーイが晒し者になるのだということに気付いて憂鬱になりながら部屋を出た。顔も知らない寮生達にお祝いの言葉をかけられるのは、通りすがりに雪玉でもぶつけられているような気分で、イデアはとても気分が落ち着かなかった。
     購買に行く道、できるだけ人のいないところを……と、裏道を通っていると、ばったりとアズールに出会った。いやもうそれは、教科書に載せたいほど偶然に、ばったりと。
    『ああ、イデアさん。こんなところで会うなんて偶然ですね。そういえば今日、あなた 2794

    岩藤美流

    MAIKINGひみつ の2です

    まだこの先なんも書いてないので未知数です!!!
    含有されてるのは てーもーです
    ひみつ 2

    「あうう、う……っあ、アズール氏ぃ……っ!」
     パーカーをたくし上げた状態で、イデアは容赦なく絆創膏を剥がされてしまった。皮膚を引っ張る少しは痛みもあったけれど、それよりなによりアズールの手で暴かれたことに涙目になった。
     イデアからはパーカーがじゃまで見えないが、あの悩みの種であるお乳首様が「こんにちは!」とアズールに挨拶したのは疑いようもない。それに対してアズールが「ごきげんよう」と返事をしないのが不幸中の幸いだ。恐らく気のせいだが。
     アズールはイデアの胸元をしげしげと見つめている。恥ずかしくて思わず「見ないでぇ……見ちゃだめぇ……」とエロ同人にようなセリフを口にして身を捩った。
    「なるほど、事情はわかりました。この状態では、こうでもしなければ隠せないかもしれませんね」
    「ひっ、う……」
     つん、と指先で触れられて、体が震える。たったそれだけでもそんな反応をしてしまう自分の浅ましさに、アズールは引いてないだろうか。恐る恐る彼の顔を見上げても、いつもの澄ました表情しか見えない。
    「でも、本当に自分でしたんですか?」
    「へ……?」
    「僕の他に誰か……あなたを可愛がってい 3778

    岩藤美流

    MAIKINGテーマは別時空の特殊性癖あずいでちゃんひみつ1

     ちゅ、と。小さなはずのリップ音が、妙に大きく聞こえて、二人は顔を赤らめる。触れた手と手が汗ばんで、互いに指を絡めたり、離したり。そうして距離をはかって、お互いが拒まないことを確認すると、もう一度キスをする。
     それだけの、極めて清らかな恋人関係。それが、今の二人の姿だ。
     学生達の恋。二人は実に順当に、若く甘酸っぱい日々を過ごしていた。
     ……はずだった。



     イデア・シュラウドは大きく溜息を吐いて、鏡を見ている。
     それはオルトが意気揚々と部屋を出て、一人きりになった自室でのことだ。イデアは一人、恐る恐る寝間着にしているパーカーを脱いで、そしてまた溜息を吐いた。
     イデアが直面している問題。それは言ってしまえば簡単な話で、要するにこの健康的な男らしからぬ乳首のことだ。そこは触ってもいないのにぷっくりと勃ち上がって、ピンク色に存在を主張している。このままTシャツなど着ようものなら、はっきりと勃っていることがわかって恥ずかしいことになるだろう。
     ああーーー、1年前の拙者に言ってあげたい……乳首いじるのはせめて2週間に1回ぐらいにしとけって……。イデアは試みに乳首をそっ 4840

    岩藤美流

    DONEアズイデワンライ第21回お題「お菓子」お借りしました!
    なんかキャンディキスの話を書こうかなと思って、詳細を調べようとしたらマシュマロをちゅっちゅするとそれっぽい感じがするという記事が出てきたので、これアズイデちゃんでやってたらかわいいなあ、と思って書いてみました。
    なお全く描写してませんが、アズールもめえっちゃ練習はしてます。努力の君だもんね。
    イデアはオルトがスリープモードに入ったことを確認すると、いそいそと机の引き出しに隠していた紙袋を取り出した。中に入っているのは、マシュマロとチョコレート、それにキャンディだ。なんのやましいところもないお菓子……なのだが。イデアはそれをこそこそとベッドの上に並べて、溜息を吐き出した。
     そう、これらはイデアにとっては、恥ずかしい品物……つまり、彼はキスの練習をしようとしているのだった。


     経緯を簡単に説明すると、イデアは部活の後輩アズールとお付き合いをする関係になった。アズールが了承してくれたのは奇跡だと思っているし、未だに彼が自分のことを本当に恋愛対象として見ているかどうかは怪しいのだけれど、とにかく、関係は築けたのだ。これまで、部屋デートのようなことや、スキンシップは繰り返してきた。次は、キスだ。年上であるからして、こういうことはイデアがリードするべきだろう、と思っている。しかし、やり方を全然知らない。
     そこで頼ったのがネットの知恵だ。キスをするにはまず清潔感、そしてムード、ダメ押しにテクニック。イデアは熱心に記事を読み漁って、念入りに歯磨きをするようになり、練習に踏み出そうと 2823

    岩藤美流

    DONEフロジェイその1

    あずいでと同じ時空で大事故を起こしている双子ちゃんのおはなしです
    何も思春期として正常な道筋を辿れなかったのは、アズール・アーシェングロットだけではなかった、という話である。



    「ねーねー、ジェイド。オレ、アズールの部屋でいいもん見つけた〜」
     フロイドがニマニマと笑いながらそのディスクを見せて来たのは、モストロ・ラウンジの営業も終わり、二人で就寝前の時間を仲良く過ごしている時の事だった。
     ウツボは元々狭い場所を好み、同種の個体同士で密着して過ごすことも多い。陸に上がった彼らも、ベッドは二つあっても同じ方に固まってじゃれ合っていることが多かった。特に、いつも片付いているジェイドのほうで。
    「おや、なんでしょう?」
     フロイドが差し出したディスクを受け取って、ジェイドは興味深そうに見つめる。タイトルなどは書かれていない。几帳面なアズールにしては珍しいことだ。
    「なんか〜、ベッドの隙間に隠してあったんだぁ〜。怪しくね?」
    「おやおや。アズールが僕達に隠し事だなんて。悲しくて涙が出てしまいますね。しくしく」
     いつものように嘘泣きをしていると、フロイドがディスクをひょいと摘んで、自分のベッドへと向かう。ベッドの下からは乱雑に放り込んでいた端末と、ディ 1388

    岩藤美流

    DONEワンライお題「かわいい」です。
    何がかわいいって二人の関係ってことにしようと思ったんですけど、あずにゃんが「かわいい」って言いすぎていでぴが慣れて信じてくれない、みたいな設定でいこうかな、だけ考えて書きました。どっちかっていうと「火」とか「恋」のほうが主題に見える気もします。相思相愛です。


     あれは随分前のことだ。といっても、数か月程度のことだけれども。
    「イデアさんって、かわいいところがありますよね」
     何がきっかけだったか、部活の最中にひとしきり笑った後で、アズールはそうポツリと漏らしてしまった。気が緩んでいたのだ。口から零れ落ちた本音は、もう取り消せない。見れば、ポカンとした顔のイデアがこちらを見つめている。
     まずい。
     一瞬でアズールは、それまでの本気で笑っていた表情をいつもの営業スマイルへと切り替えた。
    「本当に、かわいい人だ」
     繰り返すことで、言葉に含まれた真実を、嘘で上塗りする。我ながら咄嗟の判断でよくできたと思う。思惑通り、イデアは顔をしかめて、「そーいう煽り、キツいっすわ」と溜息を吐いた。よかった。本音だとは思われなかったようだ。アズールはイデアに気付かれないように、そっと胸をなでおろした。



     陸の事はよく勉強したから知っている。人間は、一般に同性同士や親族間で番にはならない。今でこそ理解の必要性が問われ、寛容な社会の形成が始まっているとは言うけれど、それでも一般的なことではないのだ。多種多様な生態を持ち、性的タブーの形が全く異なる人魚の 3062

    岩藤美流

    DONE歌詞から着想を得て書くシリーズ③です。頂いた歌は「甘さひかえめ」でした。自分なりにウンウン考えてみたのですが、あまりにも歌詞の世界観が完成していて、おおんどうしたらよいのだ!! このエモをどうしたら!!!! ってなりました! よい歌をありがとうございます!
    あとタイトルが色んなことにかかってることに後で気付きました。
    モノクローム


     とんでもなく気まずいタイミングで、チェスというポピュラーなゲームをしようと言い出したのは、アズールのほうだ。計算を得意とする彼がそのゲームでの対戦を望むのは道理である。イデアは少し悩んだけれど、その誘いを受けることにした。
     イデアも論理を主体とするゲームが不得手というわけではない。当然、お互いがお互いの手の内を読み、裏を探り、そのまた裏に思考を巡らせ――その戦いは随分と長いものになっていた。
     戦いも佳境に入った頃には、部室には二人の姿しかなくなり、日が暮れ始めた教室は暗くなっている。見回りの教師が来るまでには退散しなくては、と思うものの、アズールが深い熟考から帰って来ない。
     彼は腕を組み、顎に手をやってじっとじっとチェス盤の上を見ている。次はアズールの番で、長い長い待ち時間が続いている。しかし、流石に教室が暗い。自分の青々とした炎ばかりが眩しいのは、あまり愉快なことではなかった。
     ごそり、と席を立って、部屋の明かりを灯しに行く。ぽう、と部屋が照らし出されると、カーテンの閉められていない窓には、二人の姿が映った。
     その美しい猫のような横顔を晒して、アズールは 3719

    岩藤美流

    DONE歌詞から着想を得て書くシリーズ②です。頂いた歌は「売春」でした。
    すっごい考えたんですけど、このなんというか共犯性の有る関係ってほんとあずいでちゃんぽいなあ、って思いつつ、体を売ったほうがあずにゃんだったらどうなるかな~、と考えたらこうなった感じです。しかし私の中でやっぱり二人で破滅するイメージというより二人でこれからの未来につながるレールをぶっ壊すタイプではないかなあと思っています……!
    あやまち



    「ごめん、ごめんね、ごめん……」
     青い炎のような美しい髪ごと、顔を覆って。イデアさんは酷く泣いていた。かすれた声は壊れたように謝罪を繰り返していて、それを僕は、ただぼうっと見ている。
     この人は先程、僕の体を性欲の捌け口にした。こう言うと、誤解を招くかもしれない。正確には、嘘をついて僕の体を愛撫したのだ。
     彼の部屋に招かれて。長い時間、一緒にゲームをした。イデアさんはいつものように、僕には軽口を叩いて、それに応じる間にすっかり夜が更けて。眠気がやんわりと全身を包み始めた頃、彼が言った。
     陸では、親愛の印にキスをするんだよ。
     なるほど、それ自体は間違っていない。彼は親愛の証として僕を部屋に招き、長い時間を共に過ごして、ついに僕を抱きしめ、キスをしたのだ。けれど、親愛のキスは、唇同士を合わせるものではないし、ましてや舌を絡めるものでもない。この賢くて愚かで愛らしい人は、僕がそんなことも知らない、無知な人魚とでも思っていたのだろうか。
     純潔に夢見すぎでしょう。彼だって、他人にならそう言いそうなものなのに、自分の事になると少しもわからなくなるようで。そして僕はその過ち 1399

    岩藤美流

    DONE歌詞から着想を得て書くシリーズ①であり、ワンライの「さようなら、出会い」お題作品の続きです。参考にした歌は「A Love Suicide」です。和訳歌詞から色々考えてたんですけど、どうも予想通りタイトルは和訳すると心中だったようですが、あずいでちゃんはきっと心中とかする関係性じゃないし、どっちもヤンヤンだからなんとかなりそうだよな、と思ったらハッピーエンドの神様がゴリ押しました。イグニハイド寮は彼そのものの内面のように、薄暗く深い。青い炎の照らしだす世界は静かで、深海や、その片隅の岩陰に置かれた蛸壺の中にも少し似ている気がした。冥府をモチーフとしたなら、太陽の明かりも遠く海流も淀んだあの海底に近いのも当然かもしれない。どちらも時が止まり、死が寄り添っていることに変わりはないのだから。
     さて、ここに来るのは初めてだからどうしたものか。寮まで来たものの、人通りが無い。以前イデアが、うちの寮生は皆拙者みたいなもんでござるよ、と呟いていた。特別な用でもなければ出歩くこともないのかもしれない。さて、寮長の部屋といえばもっとも奥まっている場所か、高い場所か、あるいは入口かもしれないが、捜し歩くには広い。どうしたものかと考えていると、「あれっ」と甲高い声がかけられた。
     見れば、イデアの『弟』である、オルトの姿が有る。
    「アズール・アーシェングロットさん! こんばんは! こんな時間にどうしたの?」
     その言葉にアズールは、はたと現在の時刻について考えた。ここまで来るのに頭がいっぱいだったし、この建物が酷く暗いから失念していたけれど、夜も更けているのではないだろうか。
    「こ 5991