最初にそれを見た時、あら、随分と懐かしい見た目にしたのね、と若水は疑いもなく思った。
会館の外廊下を駆けてくる幼い身体。もう捨てろって言ったのに、なんでだか取って置きたがるんだ、とかなり前にぼやいていた幼い頃の服を着て、まるで記憶の中からするりと抜け出たようなその姿は、懐かしい可愛らしさも相まって、微笑ましく若水の目を引いた。
「小黑!」
口の横に手をあてて呼びかける。
「どうしたの、今日は随分と可愛いじゃない」
若水の声に一瞬ハッとした小黑は、だがニコリともせず、その脇を猛スピードで駆け抜ける。いつもとは違った様子に、何かあったのかしら、と首を傾げつつ小さな背を見送る若水の耳に、今度は聞き慣れた声が切羽詰まった調子で届いた。
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