1/29長く暗く夜のような ある日の夜、俺の秘書が洗面所の鏡の前で首をひねっていた。
「どうしたの」
「髪を切ろうか悩んでまして」
「え、やだ、もったいない」
「もったいないですか?」
彼女は髪を一房、雑に掴む。
「錬金術の素材になりますし、魔法薬の素材にもなりますし、切って保管するなり売るなりすれば良いのでは」
「……俺、そんなに甲斐性ないつもり、ないんだけど」
思わず低い声を出すと彼女は目を丸くした。
「メフィスト様に甲斐性がないとは流石に思わないですよ。13冠ですし。すみません。実家だとそうしてたので、そういうものだと思っていたんです」
「……」
どうしよう、この娘の実家滅ぼしてきていいかな……。
肩に手を置いて、出来るだけ冷静に話しかける。
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