嘘吐きは恋泥棒の始まり 山下次郎は油断していた。
さらに踏み込んで言えば、うかれていたのだ。
三十路にもなって、うかれていた。
それはひさしぶりになる、同僚であり恋人関係でもある天道輝と一緒の仕事だった。
もちろん二人の関係は周囲に言いふらしているわけではないので、他の人間と仕事をするときと姿勢が変わったわけではなかったはずだが、気が緩んでなかったかと言われると自信がない。
言い訳をさせてもらうなら、ありがたいことにお互いが多くの仕事を抱える身なので、会えるのが本当に久しぶりだった。だから例え仕事でも顔が見れるのは嬉しかった。本当に、本当にひさしぶりに顔を見た気がした。ひさしぶり、だなんて言えばそうでもないぜ、と返されてしまったが。年を取ると時間の経過が遅くなると言ったのはどこのどいつだ。天道と付き合いだしてからというもの、月日が経つのは本当にあっという間だ。
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