コーヒーは声をかける口実 二人きりの時間が、一人と一人の時間になって数十分は経っただろう。俺たちはソファーに腰掛けて、それぞれ好きなことをしていた。
桜庭は台本のチェックをしていて、俺は雨彦が出ている雑誌を読んでいた。最近は俺にも大人の魅力を押し出していくような仕事が増えてきたが、やはり雨彦や山下サンのような色気が出せるかと言えば難しい。事務所のみんなからは学ぶことが多いので、こうやってみんなの仕事を確かめるのは癖になっていた。
特集ページを読み終えて一段落したら、ふと視線に気がつく。ちらりと横に目をやれば、桜庭が台本を放って俺のことをじっと見ていた。
「……桜庭?」
短く、名前を呼ぶ。俺の意識が向いたことに気がついたんだろう。桜庭が口にする。
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