影踏み鬼その腕はぼふ、と枕を叩いた後、枕元のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。
呼応するように、俺も枕元のぬいぐるみに腕を伸ばし、抱き寄せる。
揃いのぬいぐるみだ。ただ、ネクタイの色が違う。同一のものではないんだ。俺たちと一緒で。
悠介の心は確かにざわめいていて、でもその理由と正しい感情を理解できる人間はこの場にはいなかった。たった二人の寝室で、悠介本人も感情の形を理解していなかった。悠介は持て余した感情を枕にぶつけるほかなかったし、俺は俺で考えることも、感じるものもあった。
「せーじさんと、別れるの?」
「まさか」
短いやりとりだった。俺はぼんやりと、始まりを思い出していた。
***
俺が、いや、俺たちがせーじさんと出会ったのは事務所の顔合わせが初めてだったと思う。
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