85_yako_p カプ入り乱れの雑多です。昔の話は解釈違いも記念にあげてます。作品全部に捏造があると思ってください。 ☆quiet follow Yell with Emoji Tap the Emoji to send POIPOI 434
ALL タケ漣 鋭百 カプなし 天峰秀 大河タケル 100本チャレンジ モブ 牙崎漣 花園百々人 想雨 カイレ クロファン C.FIRST 眉見鋭心 天道輝 ミハレナ ダニレナ 既刊 伊瀬谷四季 蒼井享介 蒼井悠介 W 若里春名 華村翔真 Altessimo 神楽麗 都築圭 古論クリス 葛之葉雨彦 レジェンダーズ 北村想楽 百鋭 秀百 薫輝 THE虎牙道 タケ漣ワンドロ web再録 誕生日 くろそら 途中 秀鋭 卒業 ケタザザ 短歌 プロデューサー 円城寺道流 叶納望海 御田真練 超常事変 渡辺みのり 癒残 堅真 ウォリアサ R18 街角探偵 わからん 九十九一希 四季漣 親友 輝薫 書きかけ 黒紅 道漣 DoS幻覚 ドラスタ 桜庭薫 BoH 春隼 サイバネ 山下次郎 寸劇 左右わからん しのかみしの 東雲壮一郎 ハイジョ レナート ミハイル S.E.M じろてる 旬四季 北冬 東雲荘一郎 秋山隼人 悠信 神谷幸広 アスラン そらつくそら 四季隼 140SS 黒野玄武 冬美旬 冬春 ゲーム部 ジュピター 卯月巻緒 四季秋四季 85_yako_pDONEタケルが変な動物園に迷い込む話です。Pが喋ります。タケルから漣への感情があるけどカプじゃないです。いつものSF(少し不思議)です。(2024/6/17)人間みたいね 動物園には馴染みがない。 だからこうして動物園の入口にいるだけでもなんだか不思議な気分になる。月面着陸ってほどじゃないけど、俺ってこんなところにいるんだな、みたいな。 存在を知っていて、イメージは掴んでいて、現実感はない。記憶にないだけかもしれないが、行ったことがないんだから仕方がない。正直、自分が動物園に行くって発想が全くなかったんだから、どうしようもない。 だから知り合いが動物園にいるのを見て、たったそれだけの当たり前の光景に驚いてしまった。夕方のバラエティに出演したHigh×Jokerはいろんな動物を見て、その動物にちなんだクイズに答えていく。ずっと楽しそうにしていた隼人さんは檻の中のライオンを見たときだけ、「檻がなかったらすごく怖いんだろうな」って言っていた。「かわいい」とも、「かわいそう」とも言わなかった。 8324 85_yako_pDONE鋭心先輩とケーキの話です。SF(少し不思議)です。クラファがめちゃくちゃ仲良し。なんかもう鋭心先輩好きすぎて何書いても胡乱なんですけど与太話だと思って読んでください。(2024/5/23)祝福 味覚がなくなった。ポップコーンの味がしない。 大事件といえば大事件だが、シアタールームのスクリーンにはずっと観たかった映画が流れ始めてしまっている。口の中でモサモサとした食感だけを主張しているポップコーンのことはしばらく忘れて映画を観て、この異常事態については後で考えようだなんて悠長なことを思っていた。 観終わった頃にはポップコーンのことは頭の片隅にポツンとある程度で、カラカラの喉を潤すために飲み干したコーラが甘いことに安心してその日は眠りについた。 そこで、変な夢を見た。 どこまでも広くどこまでも白い空間で、向こう側に手が届かないほど細長いテーブルに腰掛けている。クロスは潔癖なまでに白く、生活を否定しているようだ。 13056 85_yako_pDONE牙崎漣と厄介モブです。人が死んでいる可能性がありますが、死んでいないかもしれません。100本チャレンジその55(2024/5/17)起因 ある日のことだ。天道輝には人の頭上に数字が見えるようになった。 ほとんどの人間に貼り付いた数字はゼロだが、ごく稀に数字の進んだ人間がいる。何故そのような違いが出るのかはわからなかったが、そのうちに輝はあることに気がついた。 ニュースで見かけた殺人犯の数字は、決まってゼロ以外の数なのだ。 もしやこの数字は殺した人間の数なのではないか。 と、ふと考えたがそんなはずはないと自身で結論付ける。彼にはそれは間違いだと言える根拠があった。 なぜなら、牙崎漣の頭上にある数字が『3』だからだ。 漣は態度こそ悪いが根は善良であると言い切れる。そんな彼に『3』という数字がついている以上、この数が殺人の回数であるわけがない。 843 85_yako_pPAST四季とタケルと漣が旅行する話です。かなり前の既刊です。SF(少し不思議)です。牙崎くんは冬眠する一 失敗した。重くなる体を引き摺りながら思う。想定外だった。まだ、猶予はあったはずなのに。 まるで逃げだすみたいだ。屈辱にも近い感情が冷え切った胃の底を焦がしていく。だが、これが逃走だとしても足を止めるわけにはいかない。逃げ込める場所の心当たりは苛立つほどに少なくて、そのなかの一つである寮へと体を引き摺っていく。 アイドルになるまでは、どこか誰にも見つからない冷たいところに身を隠せばよかったのに。大勢に見られるのは困る。だけど、今は誰にも見つからないところには行けない。 ようやく寮に辿り着けば灯りはとうに落ちていて、誰もいないラウンジはひんやりとしていた。時間が時間だ。当然だ。体温が奪われていく感覚は少しだけマシになったが、このままではきっと眠ってしまう。 35426 85_yako_pDOODLE双子のSFです。100本チャレンジその54(2014/4/22)双子に関するショートショート 朝起きたら三つ子になっていた。一人増えただけって言っちゃえばそれまでなんだけど、18年間双子をやってきた身としては非常に困る。 増えた一人は落ち着いているけれど非常に居心地が悪そうだ。とりあえずは俺たちの家にいてもらっているけれど、食器も机もベッドも二つしかない。ならばせめて名前くらいはと『介』で終わる名前をいくつか考えてみたけれど、彼は『まぁ、一過性のものだから』と言い受け取ろうとしない。 彼について聞けば、双子の片割れを失ってからというもの……というよりは彼は失われた側、つまりは死者らしく、ふいに姿形が変わり双子のもとに現れてしまうようだ。 「悪霊みたいなものなんだ。紛れ込んで双子の片っ方に成り代わっちゃう、みたいな」 524 85_yako_pDOODLEドーナツを巡るショートショートです。100本チャレンジその53(2024/4/21)ドーナツを巡るショートショート 映画を見たが内容をさっぱり覚えていない。オレの120分と学割パワーの1000円がムダになったのを嘆きつつ、映画の前に買っておいたドーナツを食べるために事務所に寄った。 「おはようございまーす。お、鋭心じゃん」 「若里か。仕事の用事か?」 「いや、映画見た帰りに寄っただけ」 鋭心も食べるか? とドーナツの箱を開けたら一つだけ妙なドーナツがある。なんだかファンタジーな光景が穴の部分にハマっていて、それはゆっくりと変化していた。 「なんだこれ」 「……っ! 若里! それをしまってくれ!」 鋭心が悲鳴みたいな声を出すからオレはビックリしつつドーナツを箱にしまう。なんだったんだと言う前に鋭心が言った。 「……あれは今公開されている映画のシーンだ。CMで見た」 583 85_yako_pDOODLE華村翔真さんのショートショートです。血糊。100本チャレンジその52(2024/4/19)華村翔真のショートショート キリオちゃんには「ちょうちょさん」だなんて呼ばれてるけど、こんなに蝶々に縁があるとは思わなんだ。アタシが蝶になるわけじゃないが、触れたものが蝶々になっちまう。 まぁ服が蝶々になって飛んでかなかったのは救いだけど、血糊が端から蝶々になっちまうから撮影がロクに進みやしない。 ワガハイがちょうちょさんと呼ぶのが原因でにゃんすか? とボーヤが真剣に悩んじまったからそんなことないよと宥めつつ、とりあえず興奮気味のカメラマンに全然関係ない写真を撮られていたらキリオちゃんが意を決したように呼びかけてきた。 「しょーまクン……」 「……あら、案外照れちまうねぇ」 なんだか照れくさくてもどかしいったらありゃしない。それに、この理論でいったら血糊が全部アタシになりやしないかい? 九郎ちゃんも一緒に三人で笑いあっていたらスタッフが謝りに来た。どうやら問題は血糊の方にあったらしく、新しい血糊に変えたら蝶々現象はぴたりと止んだ。ボーヤ、目に見えてホッとしてたよ。 524 85_yako_pDOODLEAltessimoのショートショートです。夢の話。100本チャレンジその51(2024/4/19)都築さんと麗さんのショートショート麗さんが驚くほど小さくなっていたからうっかり食べてしまったんだ。悪いことをしたなぁ、と言うよりはもう会えなくなってしまうことを悲しんだけれど、麗さんを食べるとこんな音がするのかと、嬉しいような、恐ろしいような、なんだか不思議な気分になった。 っていう夢を見たんだよ、と麗さんに伝えたら麗さんは神妙な顔をしながら少しだけ笑う。 「それはおかしいですね」 「そうだね、おかしな夢を見てしまったよ」 「いえ、そうではなくて」 都築さんらしい、と麗さんは言った。 「せっかく私を食べたのに、覚えているのが音だけだなんて」 言われてみれば味を覚えていないなぁ。でも、せっかくってどういう意味だろう。 でもなんだか麗さんは楽しそうだし、麗さんが楽しいならそれでいいかな。 330 85_yako_pDONEタケルと秀が話す話。三題噺(郵便、歌、カレンダー)100本チャレンジその49(2024/3/31)落とし物、拾ってあげましょ「そういえば秀さんは前に配達員の仕事をしてたよな」 「そうですね。だから届けるってコンセプトの仕事なら経験あります」 タケルと秀はプロデューサーから渡された書類を見ながら他愛のない話をしていた。THE虎牙道とC.FIRSTは次の仕事で郵便局をPRをするので、他のメンバーよりも早めについた二人は書類を先に受け取って目を通していたところだった。 「えっと、ここに土日があるから……この日に郵便ポストに入れれば、この日には届くな」 秀の指がカレンダーをなぞる。タケルが一言「遠いな」と呟いた。 「手紙って思ったよりゆっくり届くんだな」 「そうですね。今はわざわざ手紙を書かなくてもLINKがありますから、LINKと比べちゃうとなおさら」 1133 85_yako_pDONE神話生物の花園くんとクラスメイトです。クラスメイト目線。100本チャレンジその48(2024/3/17)神話生物花園くん。神話生物花園くん その1。 花園は神話生物だ。神話生物って俺はよくわかってなんだけど、なんか触手やらを出し入れできるらしい。 らしいっていうのは花園が自主的にそういうことをしないから予想でしかないということだ。神話生物なのは隠してないのに、そういう仕草は表に出さない。人付き合いが上手いっていうのはこういうことだろうか。 じゃあなんで自主的にしない人外行動を俺やクラスメイトが知っているかといえば、居眠りしてる花園が無意識に出しているからだ。触手を。 俺の席は花園の真後ろなんだけど、しょっちゅう居眠りしている花園の首元から、目がびっしりとついた触手と目があったりする。でも花園はプリントとかは手で持つし、高いところにあるものを取る時には脚立を使うし床に落ちたものは手で拾う。横着をしない神話生物だった。 1427 85_yako_pDONE北村のSF(少し不思議)です。ノリで読んでください。(2024/3/17)雨なのに喫茶店とか入れない 今日はなんだか良くない日だ。厄日とまではいかないけど、きっと寝る前にため息を吐いてしまうような、そういう日。具体的に言うと今日はどんよりと曇っていたし、何度も人にぶつかる日だった。ぶつかるっていうのは物理的に。 そりゃ人にぶつかるってことは僕だって相手を避けられなかったってことなんだけど、僕はぶつかった相手には頭を少し下げる程度のことはする。それなのにぶつかった相手は例外なく僕を無視して歩いていくから今日はあんまり良くない日だ。アイドルとして顔が売れているはずだなんて驕るつもりはないが、あんな透明人間を相手にするように無視することもないだろうに。 「おはようございますー。あれー? 雨彦さんしかいないんですかー?」 1871 85_yako_pDONEミメイさんのこちら(https://twitter.com/mimei_m_m/status/1751960314382569666?t=OBws6ozuoK7iAiCCW_dRog&s=19)にオチを進呈した責任をとりました(?)タイトルはミメイさんに決めてもらいました。わちゃわちゃクラファです。映画に詳しい鋭心先輩。(2024/1/29)君は『殺しの番号』を知ってるか 眉見鋭心は困っていた。今にきっとガッカリするであろう後輩が如何にダメージを受けないで済むか、その方法を模索していた。 事の発端はC.FIRSTに舞い込んできた仕事にあった。SFを元にした海外産RPGゲームの日本語版発売を記念して、その実況の仕事をすることになったのだ。 秀の提案で、最初の操作は鋭心がすることになった。ゲームが得意なのは秀だが、バラエティ的に操作が覚束無いであろう鋭心のほうが撮れ高が高いと踏んだのだ。 予想に反して鋭心のプレイはスムーズで、彼らは所々でグラフィックの美しさや内容に感心しながらゲームを進めていく。そろそろ操作を百々人に代わろうか、というタイミングで鋭心がぽつりと呟いた。 1617 85_yako_pDONEC.FIRSTのSF(少し不思議)です。三題噺『黄色、ブラシ、道路標識』100本チャレンジその47(2024/1/22)飛び出し注意。 黄色い看板に鹿のシルエットが描かれていた。鹿に注意ってことかなぁ、って呟いたら、ぴぃちゃんがそういう道路標識だと教えてくれる。それが一昨日の、仕事帰りの話。 で、今持っているのは魔法のブラシだ。事務所で暇を持て余している僕はそれをぼやっと見つめる。ブラシには黄色のペンキがべったりとついているけれど、ぽたぽたと垂れる気配はない。 このブラシは、曰く、何か一つの標識を描くことができるらしい。そして、その標識は不思議な力で描かれたことを強制的に実現させると、さっき道端で筆を押し付けてきた金色の髪をした少年が言っていた。 彼は「赤色だったら通行止めとか、強力なものが描けたんだけど……ごめんね」と言っていた。確かに赤色のペンキの方が使い勝手が良さそうだ。一人きりに、一人ぼっちになってしまいたい時、とか。 1000 85_yako_pDONE三題噺。お題「毒、美術室、フォロー」モブ女子高生と百々人的なやつです。恋愛感情とかはないです。(2023/1/15)パープルムカデ 美術室には毒がある。 これは昔から伝わる七不思議とかじゃなくて、ここ数年で発生した物騒な噂話だ。毒っていうのは喩えてもなんでもなくて、口にしたら死んでしまう毒が美術室にあるらしい。 誰かを殺したいという願望から生まれたのか、死んでしまいたいという願望から生まれたのかはわからないが、いま私がふらりと美術室に忍び込んで毒を探している理由は後者だ。私はなんとなく、意味もなく、漠然と死にたかった。 もっとも死に対しての感情が強いわけではない。痛いのも辛いのも嫌だし、自殺のための計画を練る気もなければ遺書すら書くのもめんどくさくて、ただ扉が開いていて誰もいない美術室を見て、あの噂通りに毒があったら死んでみようか、くらいの気持ちだ。そこになければないですね、くらいの感じ。 1707 85_yako_pDONE三題噺お題。『猫、御守り、また明日』タケルと漣とチャ王の話です。(2024/1/14)観測、約束、ねがいごと。 チャンプのお気に入りの寝床は路地裏のドラム缶の上にある。円城寺さんがくれた座布団の上、チャンプがさっきまで寝ていた場所に見覚えのある御守りがあった。 これは俺がアイツにやった御守りだ。御守りなんてどこにでもあるものだけど、わかる。そもそもアイツが置いたんじゃなきゃこんなところに御守りがあるわけがない。 この前の仕事で買ってきた汚れが目立ちそうな白いお守りにはチャンプの毛がくっついていた。御守りをあげたのは円城寺さんとプロデューサーとアイツの3人だけだ。隼人さん達にも買おうと思ったけれど、そうなると四季さんにあげないのはなんだか違うし、四季さんにあげたならHigh×Jokerの全員に必要な気がしてくるし、High×Jokerのみんなに買うなら同年代の人みんなにもあげたい。俺の大切な人は増えたけれど、だからこそどこかで優劣にも似た線引きは必要で、俺には持ちきれないほどの御守りを買う気はなかった。それなのにアイツの分の御守りは買ってるのが自分のことなのによくわからない。あんな、御守りなんていらなそうなやつなのに。 2567 85_yako_pDONE百々人と牙崎の話です。百々人視点。『ハンカチ』『地球儀』『ランドセル』という3つのお題をもらって書きました。(2024/1/5)ラムネに溺れるアンノウン 今日は高校生の子がたくさん集まって勉強会をしていたから賑やかだった。最初はみんながそれぞれ宿題や問題集を解いていたんだけど、気がついたら自然と教える人と教えられる人に分かれて和気藹々と勉強をしてる。こういう雰囲気が僕はすごく好きだった。 しゅーくんも、えーしんくんも、僕も、教える側だ。C.FIRSTはすごいね、って。前だったら素直に受け取れなかった言葉も今は嬉しい。そりゃ黒野くんがそばに居ると何も思わないわけじゃない。それでも感情を全部トータルしたら僕は楽しく笑っていた。 えーしんくんは伊瀬谷くんにスパルタでいくと宣言してたんだけど、貴重な三年生だということで蒼井さんたちに引っ張られていった。黒野くんも高校二年生の範囲は完璧じゃないから、しゅーくんと一緒に伊瀬谷くんと紅井くんを見てた。あとはわからなくなった人が挙手したら誰かが見てあげる、みたいな。 10824 85_yako_pDONEゲームの世界に迷い込んだ秀くんがハッピーエンドを目指すお話です。流血描写、殺人描写あり。唐突に始まって終わりますしバッドエンドです。(2023/2/19)エンディング:6 生ぬるい感覚が引き戻す現実感を冷めた脳が消し去っていく。手から滴り落ちる真っ赤なペンキは妙に血生臭くて、ぽたぽたと落ちて床に水玉みたいな模様を作る。鋭心先輩の絶え絶えと言った呼吸に合わせるように、彼から流れる血液がそれを俺の足ごと飲み込もうと灯火のように血溜まりを広げていった。 鋭心先輩はまだ現状が理解できていないように呆然と俺の名前を呟いているが、それ自体はもう見たことのあるものだから特に感慨はない。この場所、このタイミングで、俺は鋭心先輩を殺したことがある。鋭心先輩の言葉よりも俺が気にしていたのは今までとは違う行動を──百々人先輩に気が付かれずに鋭心先輩を殺したときに何が起きるか、それだけだ。 4184 85_yako_pDONE二年後のタケルと漣が映画を観に行く話です。(2023/12/14)憧憬 半月の夜だった。夜道で一度だけ空を見たから知っている。普段通りの日常に半月がくっついて、今から俺はコイツとレイトショーを観に行く。そういう、少しだけ特別な夜だった。日付がもうじきに変わるころだった。 ビルの正面入り口は閉まってるから裏口のようなところを通ってエレベーターに乗る。現在地を示す階数を増やしていくエレベーターの中で、もしも途中で降りたらどうなるのかって考えた。そりゃ真っ暗なフロアが広がってるだけなんだろうけど、非日常へと繋がっていそうでなんだか少しだけ惹かれる。そんなことを考えていたらあっという間に映画館がある階までついた。 夜道では誰にも会わなかったのに映画館には人がいる。他人っていうのはどこから来るんだろう。顔も名前も知らない人が、期待がもたらす静かな活気の中にいた。 4368 85_yako_pDONEお題『電球、流れ星、隣』で書きました。SF(少し不思議)な百々人くんです。仲良くなりたいという感情はある三人。(2023/11/10)ガラスの欠片が落ちる夜「僕が電球を壊すと夜に流れ星がひとつ降る」 唐突に百々人が言った。俺と百々人と秀は事務所が契約している貸し倉庫で今度撮影するオフショットのネタになりそうなものを探している最中だった。 「試してみる?」 百々人は『こんなものを見つけたので思い出しました』とでも言うように、倉庫に眠っていたであろう金属製のバットを片手に首を傾げてみせる。 「流れ星。願いが叶うかもよ」 甘くざらついた、いつも通りの百々人の声だ。俺はその言葉に、自分の願いなど叶える必要はないのだと告げるかを少しだけ迷う。きっと言うべきではない。そう結論づけて、ではなんと返そうかと考える俺を横目に秀が口を開く。 「倉庫の電球を壊したら怒られますよ」 1837 85_yako_pDONE百々人くんと鋭心先輩。マユミくんと仲良くなりたい百々人くんです。カプではないと思うけど、そう見えたらごめん。(2023/11/7)ジョーカーはいらない マユミくんがたったひとりで事務所のテーブルにトランプを並べて難しい顔をしていた。どう見ても新品のカードは作りが安っぽくて、丁寧に置かれた箱には100円ショップのピンク色をしたシールがべったりと貼られている。 卓上のトランプを動かさずに手元のトランプとスマホを交互に見るマユミくん。占いでもしてるのかなって思って、そのうなじに声をかけた。 「おはよ。マユミくん、何してるの?」 「え、ああ。百々人か。おはよう」 はぐらかすつもりなのか、そんな気はないのか。返ってきたのは答えではなく挨拶ひとつだ。 聞かれたくないことならさっさとトランプを片付けて明日のレッスンの話でもしたらいい。それなのに動く気配のないマユミくんに、あと一度と決めて問いかける。 2962 85_yako_pDONE鋭心先輩が本を出す話。仲良しクラファ。100本チャレンジその43(2023/9/18)例えば笑うと幼く見えたり マユミくんが本を出すことになった。なんでも、雑誌で連載していたコラムをまとめて出版するらしい。 そのコラムは僕も読んだことがある。マユミくんの好きな映画を中心として、マユミくんの好きなものが理路整然としたマユミくんらしい言葉で語られるとても好ましいものだった。アマミネくんと一緒に読んで、マユミくんってこういうのが好きなんだね、って話をしたりもしたっけ。 さぞかし素敵なものができるに違いないと他人事として楽しみにしていた僕は、マユミくんのお願いで一瞬にして当事者となってしまった。マユミくんは僕に著者近影を描いてくれるないかと頼んできたのだ。 なんで、僕に? その問いを受けたマユミくんは毅然とした男らしいカッコ良さでずいぶんと可愛らしい答えを返してきた。曰く、 1001 85_yako_pDONESideMで初めて出した同人誌のweb再録です。2018年の6月ですって……そして拙いね……流血表現があります。恋愛要素はないです。名無しモブがでます。牙崎の父親捏造。牙崎くん死なない! オレ様は死なない。何を唐突にと思うだろうが、本当に死なない。例え話なんかじゃない。そのまんま、言葉通りの意味だ。 『死ぬかと思った瞬間』と書かれた台本をテーブルに放り投げソファに身を沈める。事務所は空調が効いていて、ソファはそれなりの固さがあり横になるにはぴったりだ。うるさいチビもらーめん屋もいない。そういえば、最近は別々の仕事が増えた。オレ様は次の仕事まで時間がある。だけど、それまでは正真正銘の一人っきりだ。あっちには眼鏡かけてんだか乗せてんだかわかんねぇやつがいた気もするけど。 死ぬかと思った瞬間。先ほどまで、チビとらーめん屋としていた会話が脳裏を掠める。チビは一番キツかった減量中の話をしていた。らーめん屋がそれを笑って聞いていて、オレ様にもそんな瞬間はあったか聞いてきたから、あるわけないだろ、と答えた。だってオレ様は最強大天才だから。 24855 85_yako_pDONE漣とモブ少女がラブホテルに行く話です。二人にはなにも起きませんが同じ布団で眠ります。少女の援助交際を匂わせる描写があります。(2023/6/22)顔のない案内人 ひどく寒かったことと、自分がまだ子供だったことだけを覚えている。オレ様が破門されて一年か二年くらいだったとは思うが細かいことは覚えていないしあまり関係がない。 あの頃は自分を子供だと思ったことはなかったが、きっと誰がどう見てもオレ様は子供だったんだろう。昼間は関わりもしないやつが夜になると邪魔をしてくる。『ケイサツ』という存在が邪魔だった。どこにも帰る場所がないってのは、オレ様がどこにいたっていいってことなのに。 とにかく寒い夜だった。雪が降らないのが不思議だった。昔に立ち寄った、池の水は凍るのに雪も雨も降らない村を思い出していた。 このまま外で寝たら死ぬんだって死んだこともないのに理解して、オレ様は公園から離れて街に出た。眠らずに一晩中歩いていれば凍死はしないだろうけど、それは手間だし腹も減ってた。だからまだ明かりのついているファミレスに入ったが、どうにも様子がおかしいようだ。 4765 85_yako_pDONEタケルと漣の感情がデカいSF(少し不思議)私はカプ認定してませんが、感情がデカいです。(2023/04/29)さよなら、ロマンスブルー 満月の夜、夢を見た。 ガラス、あるいは氷一枚を隔てて海の上に立っている。海には桜が散っていて、世の中の常識全部を無視してゆらゆらと舞い踊っていた。仰ぎ見た空はチューリップの畑を逆さまにしたように、一面の花で先が見えない。 少し離れたところに猫がいる。大きさはチャンプくらいで毛並みもチャンプそっくりなのに、瞳の深さが夜の闇よりも深い。色は紺碧に金色が混ざっていて、宇宙に蜂蜜を垂らしたような目をしていた。 猫が口を開く。幼い子供の声がする。 「世界が消えるか、牙崎漣が消えるか」 選んで、と猫は言った。俺はアイツを思い出す前に、妹弟のことを思い出していた。 アイツのことは嫌いじゃないけれど、世界かアイツかなら絶対に世界を選ぶ。大切な人がどこかにいる世界だ。その目的に届くために努力ができて、それが認められる世界。そうして認めあえる仲間がたくさんいる世界。そんなの、何よりも大切に決まってる。 2850 85_yako_pDONEわちゃわちゃクラファちゃん。コンプ欲のある秀くんです。(2023/03/16)おモチウォーズ「あまみねくん……おなかすいたよぉ……たすけてよぉ……」 「……ダメです」 「おなかすいたよぉ……しんじゃうよぉ……」 「……あの、そのアテレコやめてもらっていいですか?」 秀はため息と共に吐き出した。その口元には罪悪感が滲んでいる。 秀と百々人と鋭心が先程まで勉強していたスペースをHigh×Jokerに譲り、誰も座っていなかった事務所のソファに腰掛けたのが数分前の話だ。同じソファに座っていた秀に向けて百々人が声を出したのを見て、対面に座る鋭心が声をかける。 「百々人、腹が減っているのか? それなら確か給湯室にクッキーが……」 「ああ、違うんだマユミくん。ごめんね、ありがとう」 百々人がやんわりと否定する。ハテナを浮かべたような顔をする鋭心に言葉を返したのは、百々人ではなく秀だった。 3331 85_yako_pDONE眉見鋭心の勘違いです。物悲しい。100本チャレンジその41(2023-02-26)おいてかないで 勘違いをしていた。 どうしようもないほどロマンチックで、笑えるほどに愚かな間違いを。 「それじゃあ鋭心、お留守番お願いね」 お手伝いさんにも俺を頼むと言ってどこかに出かける母とそのあとを歩く父。そうやって物心ついたときから両親が揃って出かける日があった。それが毎年同じ日だということに気がついたのは、小学校で画数の多い漢字を習い始めたあたりからだ。 いったい何の日なんだろう。カレンダーを見ても何も書いていない。平日か、休日か、祝日か、雨か、晴れか。そのどれにも規則性はなく、ただ同じ日に両親は揃って出かける。あんなに忙しい、めったに休みが揃わない両親が、だ。 ふたりしてどこに行くのかと、珍しく食い下がって問い詰めた時があった。それは興味と呼ぶにはあまりにも幼い、たんなる子供の癇癪だ。両親が一緒に休む日など、俺の誕生日を含めて年に数日しかない。俺はただ、両親と一緒にいたかった。 1365 85_yako_pDONE眉見鋭心とモブの過去話。全部が酷い捏造です。暗いし、書いてて悲しかったです。(2023-02-19)ただこのモブは殴った相手にくっついてた下っ端で、実際は殴ってない(その場にいた素行の悪い人間だったので当事者になった)といいなぁと思ってます。繭の中 夢を見た。悪夢と言って差し支えないだろう。もう幾度となく見ている夢なので、いつもの夢と言っていい。 内容はシンプルで、意味の聞き取れない罵詈雑言を浴びせられるというものだった。「眉見」も「鋭心」も「会長」も、一言も自分を表す言葉など読み取れないくせに悪意は俺に向けられているとわかる。日本語なのかも怪しい怒声はひどいノイズに覆われているが、おそらくは同世代の男のものだ。ただ目の前で俺に敵意を剥き出しにしている男の顔は黒のマジックで塗りつぶしたような影がこびりついていて表情がわからない。いや、誰のものかもわからなかった。 夢というのは眠りが浅いときに見ると聞いている。大抵は真夜中に、酷いときには真夜中と明け方に目が覚めた。台所に行って水を一杯飲むまで生きた心地がせず、再度眠るのには労力がいる。俺はあっという間に寝不足になった。 3046 85_yako_pDONEクラファ。すれ違いギャグ。(22/9/7)月より団子 もうすぐ月見の季節だと、秀が嬉しそうに言っていた。たしかに紅葉には遠いが夜には暑さも和らぐ頃合いだ。月も見頃になるだろう。 意外と言っては失礼だが、秀くらいの年頃で月見を楽しみにしているのは珍しいほうではないだろうか。感心しつつ話を聞いていたら、どうやら百々人も月見を楽しみにしているようだ。最近の秀と百々人はしきりに「そろそろ月見の時期だ」と楽しそうに笑い、嬉しそうに声を弾ませている。 秀に聞けば月見は毎年の楽しみだと言うから驚いた。それと同時に、美しいものを愛でる感性と余裕は見習うべきだと身を引き締める。美しさと歴史には礼儀を払いたい。 俺も参加してよいだろうか。そう問いかける前に秀がこちらを見て、パッと顔をほころばせて言った。 2096 85_yako_pDONE眉見鋭心が誰かの人生をトレースしているという妄言の元に書きました。(22/8/3)もしもの話。眉見鋭心が他人の人生を生きてるという妄言前提 ぴぃちゃんが持ってきた雑誌には僕が載っていた。僕が出演した舞台の特集記事が乗っている雑誌だ。僕が演じたのは主役じゃないけど結構見せ場のある役で──それでも分不相応なほどに長い文章で取り上げられているのは少し緊張する。なんとなしに雑誌を読んでいたら『鬼気迫る演技』だなんて紹介されていて、花園百々人の面影もなかったと評されていた。 「舞台って、こわいね」 一言、口にしたらようやく落ち着いた。それを聞いていたのはマユミくんだけだった。アマミネくんとぴぃちゃんはお仕事に行っていなかったけど、マユミくんは僕の隣に座って一緒に雑誌を読んでいた。マユミくんはこうやって、理由もなく僕のそばにいることがある。 2241 85_yako_pDONE百々人と天道とP。冷蔵庫のものを勝手に食べる牙崎に手を焼く三人です。(22/6/28)ももは魔除けになるらしい「百々人、名前借りていいか?」 右手にサインペンを、左手にコーヒーゼリーを持った天道さんが僕に問いかけてきた。僕が疑問を返す前に天道さんはおまじない、と口にして「百々人の名前を書くと漣に食べられないんだ」と笑う。 そこでようやく合点がいく。事務所の冷蔵庫に何かを入れるときには名前を書くルールがあるから、牙崎くんが食べないように僕の名前を借りたいということだろう。そう、牙崎くんは冷蔵庫にあるものを勝手に食べる。 「いいですけど……僕、一度食べられたことありますよ?」 僕も一度やられた。正直かなり怒ってるし根に持ってる。そんなこと、言い出せなかったけど。 「そうなのか。でもその一回だけだろ? 享介と四季が実験してたみたいけど、百々人の名前を書いとくと漣は手を出さないんだと」 2544 85_yako_pDONE遊園地行くクラファ。ムカつくモブがでる。鋭心先輩がらしくない。(22/6/26)あの日のあなたへ「おはようございます……あれ? 鋭心先輩、めずらしいもの見てますね」 事務所のドアを開ければ鋭心先輩がいた。俺の言葉を聞いて、さっき下でバッタリとあった百々人先輩が俺の後ろから顔を覗かせる。 「めずらしい? マユミくん何を見て……」 ああ、と百々人先輩は小さく吐息を漏らした。そうしてあっさりと、自然に鋭心先輩の横に座る。鋭心先輩は持っていた雑誌をテーブルに置いた。 「遊園地特集ですか。確か、彩のみんながこのまえ仕事してましたよね」 鋭心先輩が読んでいたのはレジャースポットの雑誌だった。彩のみんなが遊園地を一日中遊び尽くした特集が乗っている。 「ここにあったからな。他ユニットの仕事は参考になる」 俺はふたりの向かいに座って雑誌を開いた。百々人先輩はそれを覗き込んだけれど、鋭心先輩は目線だけを雑誌に向ける。 7796 85_yako_pDONEクラファのわちゃわちゃギャグ。100本チャレンジその30(22/6/18)足5mあるわけないじゃん! SNSで自分たちのことは検索しないようにプロデューサーからは言われている。個人的にはSNSに疎そうな鋭心先輩はインターネットから遠ざけるのが正解だと思うし、百々人先輩みたいな繊細な人が極端で軽率な悪意に晒されるのも耐え難い。だからそれには賛成しつつ俺だけがSNSを見ていたんだけど、普通にバレた。そしてシンプルに怒られてしまった。身内以外の大人に怒られるのって結構効く。 それでも俺にだって言い分はある。反応は見たくて当然。そう言えばプロデューサーは翌日には自らが精査したコメントだけを印刷した紙の束を俺たちに渡してきた。プロデューサー、過保護っていうか俺たちのこと好きすぎでしょ。 「これが俺たちに対する意見か」 1541 85_yako_pDONE眉見がかわいそうです。(22/6/14)彼の好きなもの、りんご。 マユミくんの脳天にカラスのくちばしが突き刺さってしまった。どうやら、カラスの自殺に巻き込まれたらしい。 世を儚み地面へと真っ逆さまに墜落したカラスの真下にマユミくんがいた。冗談のような、漫画のような巻き込まれかたをしたマユミくんは病院で精密検査を受けたが大事には至らなかった。事実、数日間の休養の後、マユミくんは元気に学校に通っている。 では何も起こらなかったかというとそんなことはない。マユミくんの脳に何が起きたのかは定かではないが、マユミくんの味覚は壊れてしまった。かと言って全ての味覚があべこべになったわけではない。マユミくんが理解できなくなったのは、リンゴの味だけだ。 マユミくんはもうリンゴの味がわからない。マユミくんがリンゴを口にするたびに彼が知覚する味は変わる。今日食べたリンゴは麻婆豆腐の味がしたらしい。昨日食べたリンゴは生ハムの味。もう少し前に食べたリンゴは生クリームで、病院のお見舞いで食べたリンゴはカレーの味がしたとマユミくんは言っていた。 2081 85_yako_pDONE漣。SF。100本チャレンジその27(22/6/3)と或る白蛇の伝承 世界が氷に覆われてしまった。数日前から地球は絶賛氷河期真っ只中だ。 人類もこれまでかと誰もが思ったのだが、我々はどうしようもなく神に愛されていたらしい。敬虔な信者と都合のいい無神論者の祈りを受けて、神様は私たちに不思議なストーブをくださった。 この不思議なストーブは人の思い出を燃やし尽くして熱にする。思い出が大きく美しいほど、目に見えない炎は燃え上がって地球をわずかに暖める。 そこかしこに設置されたストーブには定期的に人が思い出を焼べなければならないが、誰だってそんなことはやりたくない。大きすぎる思い出を燃やした人間がどうなるのかはストーブの前でうなだれている死刑囚の様子から見て取れた。だから、人々はささやかな思い出を焼べて暖をとる。私は財布にいつの間にか入っていたミサンガの思い出を失って、今日も元気に働いている。仕方のないことだ。暖めなければ洗濯物は乾かないし、万物は死に絶える。 1367 85_yako_pDONE秀と漣。カプなし。漣の過去捏造。(22/5/20)靴がなければ歩けない 撮影があった。 選ばれた人間の共通点は所属事務所だけだったから同じ現場に集められた秀と漣の間にも共通点はない。お互いに天才を自称しているが、本人達はその言葉の本質が違っていることを理解していた。 撮影現場は廃校だが、まるで明日にでも授業が始まりそうな雰囲気だった。机、椅子、たくさんの本。ただここには通う生徒がいないだけで、本来の学校とはなにも変わらない。そうやって、本来の学校をからっぽにした空間が、この撮影施設だった。 撮影のための場所だから、本来の学校にはない部屋もある。例えば今アイドルたちが収められている衣装部屋なんかがそれだ。撮影のため、アイドルは各々自分勝手に制服やら、学帽やら、スニーカーやら、ヘッドフォンやら──目的がわからないメイド服まで、学校に関係があるものもないものも一緒くたに陳列された棚から思い思いの道具を手にとっては身につけ、壁に立てかけられた鏡を見ている。 3741 85_yako_pDONE秀と鋭。カプなしですが秀鋭に見えます。100本チャレンジその26(22/5/18)艶めく指先 よろしくないと思った。もちろんそれは目の前にいる男ではなく、俺のこの感情が、だ。 ユニットメンバー最年長。頼れる先輩。最強の生徒会長。尊敬というラベリングをされて棚に納められた感情という名の瓶が、突然の嵐で割られてしまったような感覚だ。そこにはたまに感じる親しみやすさとか、ちょっとかわいいと思う気持ちなんかが入り込む余地はなくて、代わりに俺の不埒な感情が棚の一番取り出しやすいところに収まっている。こんなのは鋭心先輩に抱いていい感情ではない。誰に抱いたとしても、それはたとえば恋人というカテゴリに入り込めない限り、隠し通さねばならない薄暗い熱だった。 ふ、と見ただけだ。プロデューサーも百々人先輩もいて、俺と鋭心先輩もいる。そういう、当たり前の風景にそれはそっと紛れ込んでいた。 1269 85_yako_pDONE百々人とTHE虎牙道。百々人くんが再チャレンジする話。願望です。(22/5/11)最初の一歩、次の二歩目。 ポン菓子が砕けてしまった。お米がどういうわけか形を変えた、軽くて甘くて脆いお菓子。 せっかくアマミネくんにもらったんだけどな。袋を逆さまにして粉々になった欠片を口に流し込みながら、僕はひとつの記憶を無意識に辿っていた。 すごく小さい頃、だと思う。僕が炊いたご飯がぐちゃぐちゃのおかゆになっちゃった日のこと。 形なんて覚えてないけれど、結果から考えればそのお米もこのポン菓子みたいに砕けていたんだろう。理由だってわからないけれど、小さかった僕がお米をとぐときに力を入れすぎたって考えるのが自然だ。そうやって一生懸命になりすぎた結果、ご飯はぐちゃぐちゃのべちゃべちゃになった。きっと僕の表情もべちゃっとしてたと思う。お母さんは僕を見ず、こう言った。 6927 85_yako_pDONE秀と親友。BAD ENDなSFです。なんでもあり。100本チャレンジその23(22/5/2)クラゲとスピカ 俺は世界を変えた。 だがそれは想像した手段ではない。俺が先輩たちと鋭心先輩の家で映画を見ていたとき、スクリーンから出てきた未確認生命体が俺を名指しして渡してきたパズルを解いたからだ。かちりと最後のピースを解いた刹那、世界が変わった。 カチカチカチ、と組変わっていく世界を俺たちは呆然と見守っていた。空には惑星が飛び交い、感情は溢れて金平糖になってこぼれ落ち、猫が爆発的に増え、木々は喋りだし、人々は少しだけ優しくなった。他にも謎の生命体が跋扈したり、血液が甘く香ったり、とにかく枚挙に暇がない。たぶん気がついていない変化もあるだろう。とにかく、世界は変わった。変わってしまった。 その日の晩、親友のことを考えた。世界は俺の想像通りには変わらなかったけど、この世界を見たらあいつはどう思うんだろう。変化した世界をネタにもう一度メッセージを送ってみようか。そう思ってしばらく開いていなかったあいつとのトークを開く。数ヶ月も無視されていたメッセージに既読がついていた。 1351 85_yako_pDONE百々人と九十九先生がアップルパイを食べる話です。(22/3/3)丸、三角、秘密 嫌だなって思った。この問いかけも、それを嫌だと思う自分も、全部。 僕と九十九さんは向かい合ってアップルパイを食べている。お仕事がアップルパイのイベントだから休憩にアップルパイが出て、仕事で一緒だったから目の前に九十九さんがいる。そういう当たり前の流れの中で、九十九さんが僕に教えてくれた。 とある海外では、アップルパイは代表的な家庭料理なのだ、と。 日本で言う肉じゃがとか、そういうものなんだろう。家庭によって味が違って、みんなが当たり前みたいに大切にしているもの。そういう日常の延長線上が、僕にいとも容易く投げかけられる。 「百々人さんにもそういう料理はあるか?」 取り留めもない話題だった。取り留めのない話題のはずだけど、僕にとってはそうじゃない問いかけだった。聞きたくもなかったけど曖昧に微笑んで、答えたくなかったから質問に質問で返す。 2740 85_yako_pDONE創作Pと漣。100本チャレンジその22(22/2/28)あとでちゃんと返した スクラッチくじが削りたかった。だけど手元に硬貨がない。 全然期待なんてしていない、駅前で気まぐれに買った安いくじだ。外回りの時にふと買って、デスクに座るまで忘れていたような紙切れが名刺入れを取り出すついでに出てきたものだから、それを机に置いて俺はもう一度ポケットを探る。ダメだ、財布はあっちの鞄の中だ。 山村くんはいまいない。事務所にいるのは漣くらいだった。漣は珍しく起きていて窓辺でぼんやりと空を見ている。窓辺の誰の席でもない物置代わりのデスクにどっかりと座って、真昼と夕暮れを彷徨う空をただ見ていた。 「漣」 名前を呼ぶと、漣は少しだけ首を動かしてこちらを見る。 「小銭があったら貸してくれ」 スクラッチくじが削りたかった。漣は財布も鞄も持ち歩かないけれど、少ない荷物のなにもかもをポケットに入れて持ち歩くことを知っている。それは万札だったり、商店街のたい焼き屋のポイントカードだったり、誰かからもらったキーホルダーだったりして、その中に小銭があることも珍しくない。 1195 85_yako_pDONE百々人。保護者あるあるネタ。100本チャレンジその21(22/2/22)ケチャップで絵を描く 僕はオムライスが嫌い。 赤いマニキュアを見た。なんだか、ケチャップによく似ていた。 撮影の余り物らしいそのマニキュアをもらっていったのはワカザトくんだった。別の人がもらっていくかと思ったけど、そういうのは言わなかった。言う前に、彼はぴぃちゃんに笑いながら口にしていた。お母さんに塗ってあげるんだ、って。 ワカザトくんのお母さんは最近、赤い髪飾りを買ったらしい。だからきっと赤いマニキュアが似合うって、ワカザトくんはそう言っていた。ふと思う。僕のお母さんの爪は何色をしていたんだろう。 爪の色が思い出せない。もっと言うと、髪に何を飾っていたかも思い出せない。最近はもう顔を合わせることもないし、そう言えば一年くらい前から僕はまともに彼女の顔が見られなかったんだから当たり前だ。察知していたのは顔色だけで、それくらいがわかればあとは気にする余裕なんてなかったからどうしようもない。 1473 85_yako_pDONE死体を埋めるクラファの概念です。ファンタジーなのでこわくないよ。(22/2/13)夢のあと『助けて』 日付の変わる少しだけ前、百々人先輩がグループトークにたった三文字を投げかけた。それ以上の言葉はなく、いつものように可愛らしいひよこのスタンプが押されることもない。 『どうかしましたか? 大丈夫ですか?』 慌ててメッセージを打てば既読が一件だけついた。先ほどの百々人先輩の発言にも既読はひとつしかついていないから、きっとまだ鋭心先輩は気づいていないんだろう。百々人先輩は俺のメッセージを見たはずなのに返事はない。ただ返事がないだけのたかだか数分間が、薄く引き延ばされて濁った膜を張る。 助けて、だなんて不穏な言葉だ。それに百々人先輩はこういうことを、あんまり言い出せない人だと俺は思う。そんな言葉を、こんな遅い時間に、たった一言だけ送ってきたんだ。きっと百々人先輩はとても困っているに違いない。 17104 85_yako_pDONEクラファの三人が花火を見る話。(2022/02/02)秘め事花火 去年見た花火はきれいだった。 僕の力ではその美しさをキャンバス上に表現することはできず、結果は佳作。今年は見る理由もないから花火大会があること自体を忘れていた。 「花火大会?」 アマミネくんのお誘いはそれなりに急だった。週末に花火大会があるから時間を取れないかと問い掛ける彼の言葉に僕が真っ先に引きずり出された記憶は、どっかにやっちゃった佳作を証明する賞状のことだ。あのつるつるとした紙の質感、あるいはざらざらと喉を削るイメージに僕の気分は少しだけ下がったが、それでも素敵なものを一緒に見るというのはとてもよいコミュニケーション手段だということはわかる。 「花火かぁ」 それに、花火はきれい。去年は掴めもしない光に手を伸ばした僕が悪いのであって、あの美しさを手の内に収めようとさえしなければ、僕は充分にあの輝きとうまくつきあえるのではないか。それなりに前向きになった気持ちに、マユミくんの硬質な声がひんやりと寄り添った。 6323 85_yako_pDONEタケルと漣(カプ未満)100本チャレンジその17(2022/01/31)太陽を掴んでしまった「太陽みたいだな、オマエ」 みたいもなにも、結果は陽性だったのだからコイツは紛う事なき『太陽』だ。『太陽』というのは俗称で、本当はカタカナのたくさん並んだ名前がついていたけれど、俺は正式名称を覚えていない。ただ、そういう現象──いや、病気があるというのはずいぶんと周知されていた。 太陽。なんというか、神秘的でやかましい病気だった。きらきら、というよりはぎらぎらと、煌々と髪が光るのだ。目を焼くほどの圧倒的な光量で、自然発火しない程度の熱を発する。太陽なんて大層な名前に怯んでいると、拍子抜けするような、そういう病気。日本人の発症は少ないが、それは髪が黒いケースが多いからなのだろう。コイツみたいな銀の髪が煌々と燃えるのは、なんだかちょっとかっこよかった。 1467 85_yako_pDONEP+百々人。アルコール中毒のP。『あさましきもの』のパロディです。(2022/01/25)あさましきもののパロディ「ぴぃちゃん、昨日お酒飲んだ?」 百々人さんにそう言われて自分が酒臭かったことを知る。百々人さんが言うとおり昨日は酒を飲んだし、なんなら一昨日も酒を飲んでいる。いや、飲んでいない日がない。自分自身で自覚しているほど、私はどうしようもないアルコール中毒者だった。 アルコールがやめられないと冗談混じりに伝えれば、百々人さんは少し笑みを潜めて口にする。 「そっか。……ちょっと、心配だな」 そう言った百々人さんがひどく悲しそうだったので、ああ、もしかしたらこの子のためならアルコールがやめられるのではないかと、そう思ってしまった。まっすぐに私を想ってくれる子に余計な心配をかけないためなら、私はこの悪習から手を引けるのではないかと考えたのだ。 1352 85_yako_pDONE秀と百々人。秀にトラウマスイッチを踏み抜かれる百々人です。(2022/01/22)傷名 僕にはきっと、脆いところがある。 自分が弱いとか傷だらけだとかは思っていない。でも、なんか、ちょっとした欠けた部分があるような気がしているんだ。ぽっかり空いた、虫歯みたいな、そういう部分が。 小さな穴の奥がちょっと空洞になっている。あ、って大きく口を開けないと見えないような、見えてもどれくらい深い穴が空いているかはちょっとよくわからない、そういう虫歯によく似た痛いところ。もちろん歯医者さんじゃない僕にだって深さのよくわからない、そういう傷。 たまにどうでもいいものが当たって痛む。甘いジュースだったり、冷たいアイスだったり、そういうものが傷にしみる。僕を傷つけるものは当たり前の顔をして世界中に転がっているものだから、ぶつかってしまうとちょっと息がしにくくなって、困る。 6117 85_yako_pDONEクラファ VS THE虎牙道です。理想願望をたっぷり含みます。(2022/01/16)追記、呼称を訂正(2023/03/13)愛しき戦場 ぼんやり、事務所のソファーに沈みながら指先でつまみ上げた紙を見ている。僕が書いた『花園百々人』って文字と回答と赤い丸、そしてたったひとつのバツ。どこにでもあるような、平々凡々なテスト用紙だ。 「……あと2点かぁ」 もう一番になる必要は無い。だからどうでもいいはずなのに、やっぱり少し気になってしまう。どうしても順位が気になる悪癖から目を背けるために、僕はこの焦燥感の理由を探す。 「やっぱり、頭がいいほうがクイズ番組の仕事とかもらえるよね……」 僕はもう一部では有名人だから、いまさらバカのフリはできない。そもそも、生徒会長が揃っていることが売りでもあるユニットなのだから、それはぴぃちゃんのプロデュースからは外れてしまうだろう。 4800 85_yako_pDONE牙崎と呪われた舞台の、あっさりとした話。(2022/01/13)春に殉ずるわけもなく アイツの名前を呼ぶ、悲鳴のような声が聞こえた。 プロデューサーの声だ。こんなヒステリックな声、らしくない。まぁ、アイツが問題を起こしたんだろう。少しの不安を拭うように、一緒にゲームをしていた隼人さんと一緒に、俺たちは声がした応接室へと向かう。 応接室ではアイツがソファに寝ころびながら本を読んでいた。プロデューサーは俺たちに気づかずに、その本をアイツの手から奪い取る。そしてその本を──思い切り、破り捨てた。 「なにしやがる」 アイツの声は平坦だ。ただ、聞いているだけ、みたいな。それに比べて、プロデューサーの声色は悲痛なほどだ。 「台本が届いても読むなと言ったはずです。この仕事は断りました。もう漣さんは関係がない」 6105 1234