街角探偵の幻覚 収束した事件の現場。もう自分の役目はないだろうと手持ち無沙汰にしていた男に声がかかる。
「イチくん」
灰咲の言葉に振り向いた緋色の顔はこれ以上ないほどに歪んでいた。嫌悪というよりは怒りが強い瞳を見ても怯むことなく、灰咲は感心したように呟く。
「ほんとにこっち見た」
「なんでテメェがその呼び方で俺を呼ぶんだよ……おい、そう呼んでいいのはセンセーだけだ」
上背のある緋色が凄むと迫力があるのだが、仕事柄強面の人間は嫌というほど見ているのだろう。灰咲は「知ってるよ」と事も無げに呟いて、くるりと後ろを向いた。話を終えたのだろう。涼月を連れて渦中の人が戻ってきた。
「おい……ん? なんだこの空気は。灰咲、お前うちのにまたなにかしただろ」
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