いつか夏の空に、同じ雪を見せて 花を吐く人間は大勢いるが、涙が雪に変わる人間はあまりいない。人前で泣く機会というものがこの年になると失われてくるものだから、僕が知らないだけで身の回りに当たり前に存在しているのかもしれない。だが、少なくとも僕が認識している範囲では僕の周りにそのような人間はいない。
この現象は涙雪症を呼ばれている。そう、たんなる現象だ。病の類ですらないのだから、本来は花吐き病──嘔吐中枢花被性疾患と同列に語るのがそもそも間違っている。犬が好きか、猫が好きかの論争と同じくらいくだらない。それでもこの現象が嘔吐中枢花被性疾患と同列に語られる理由は、たんに美しいだとか、ロマンチックだとか、そういうくだらない感傷からきているんだろう。元医者として病気と現象が同列に扱われるのは少しばかり思うところがないわけではないが、かといってその感情は言語化するには実態がなさすぎた。つまり、どうでもよかっただけだ。
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