逃避行、或いはランデブー「ずさんだなぁ」
アマミネくんの言葉は独り言だとすぐにわかった。恋人が出演するドラマを恋人の横で見ておきながら、独り言とはいい度胸じゃないか。
「ヘタクソ。ですよね?」
今度は僕の瞳を見て心臓が止まりそうになる言葉を吐く。うっすらとした笑いを見ながら、目が合うってことは僕もアマミネくんを見ていたんだな、って他人事みたいに考えた。
普段だったらナイフみたいに僕を傷つけるだろう言葉も意味を理解していたらさほど怖くはない。僕はなにも返さず、悠長にテレビに視線を移す。箱の中には捨てられた子犬と呼ぶにはあまりにも生々しい、みすぼらしい女の子と僕がいた。
女の子と僕が手を繋いで夜の街を彷徨っている。二人は冷え切って、お腹を空かせて、今にも泣き出しそうな顔をして歩く。あの時は寒かったなぁ。そんなことを考えている僕の生ぬるい手にアマミネくんの手が重なった。
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