X『主演:花園百々人』
もらってきたポスターには白抜きの文字でそう書かれている。舞台に立っている百々人を後ろから映したポスターの彩度は低く、たったひとつのスポットライトを当てられた百々人の周りだけが異質なもののように浮かび上がっていた。
自分が大きく映っているポスターは無理のない範囲でもらってくる。ポスターがもらえたら、ふたりで暮らすこの家のリビングに飾る。それが鋭心と百々人の共同生活で自然と生まれた、いくつかの取り決めのうちのひとつだった。飾ったポスターの代わりに剥がしたポスターはくるくるとまるめて、ふたりの台本やトロフィーが置いてある共有部屋に収めていく。その習慣に従って貼られたポスターを眺めながら、百々人が困ったように苦笑した。
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