85_yako_p カプ入り乱れの雑多です。昔の話は解釈違いも記念にあげてます。作品全部に捏造があると思ってください。 ☆quiet follow Yell with Emoji Tap the Emoji to send POIPOI 434
ALL タケ漣 鋭百 カプなし 天峰秀 大河タケル 100本チャレンジ モブ 牙崎漣 花園百々人 想雨 カイレ クロファン C.FIRST 眉見鋭心 天道輝 ミハレナ ダニレナ 既刊 伊瀬谷四季 蒼井享介 蒼井悠介 W 若里春名 華村翔真 Altessimo 神楽麗 都築圭 古論クリス 葛之葉雨彦 レジェンダーズ 北村想楽 百鋭 秀百 薫輝 THE虎牙道 タケ漣ワンドロ web再録 誕生日 くろそら 途中 秀鋭 卒業 ケタザザ 短歌 プロデューサー 円城寺道流 叶納望海 御田真練 超常事変 渡辺みのり 癒残 堅真 ウォリアサ R18 街角探偵 わからん 九十九一希 四季漣 親友 輝薫 書きかけ 黒紅 道漣 DoS幻覚 ドラスタ 桜庭薫 BoH 春隼 サイバネ 山下次郎 寸劇 左右わからん しのかみしの 東雲壮一郎 ハイジョ レナート ミハイル S.E.M じろてる 旬四季 北冬 東雲荘一郎 秋山隼人 悠信 神谷幸広 アスラン そらつくそら 四季隼 140SS 黒野玄武 冬美旬 冬春 ゲーム部 ジュピター 卯月巻緒 四季秋四季 85_yako_pDONEタケルが変な動物園に迷い込む話です。Pが喋ります。タケルから漣への感情があるけどカプじゃないです。いつものSF(少し不思議)です。(2024/6/17)人間みたいね 動物園には馴染みがない。 だからこうして動物園の入口にいるだけでもなんだか不思議な気分になる。月面着陸ってほどじゃないけど、俺ってこんなところにいるんだな、みたいな。 存在を知っていて、イメージは掴んでいて、現実感はない。記憶にないだけかもしれないが、行ったことがないんだから仕方がない。正直、自分が動物園に行くって発想が全くなかったんだから、どうしようもない。 だから知り合いが動物園にいるのを見て、たったそれだけの当たり前の光景に驚いてしまった。夕方のバラエティに出演したHigh×Jokerはいろんな動物を見て、その動物にちなんだクイズに答えていく。ずっと楽しそうにしていた隼人さんは檻の中のライオンを見たときだけ、「檻がなかったらすごく怖いんだろうな」って言っていた。「かわいい」とも、「かわいそう」とも言わなかった。 8324 85_yako_pDONE牙崎漣と厄介モブです。人が死んでいる可能性がありますが、死んでいないかもしれません。100本チャレンジその55(2024/5/17)起因 ある日のことだ。天道輝には人の頭上に数字が見えるようになった。 ほとんどの人間に貼り付いた数字はゼロだが、ごく稀に数字の進んだ人間がいる。何故そのような違いが出るのかはわからなかったが、そのうちに輝はあることに気がついた。 ニュースで見かけた殺人犯の数字は、決まってゼロ以外の数なのだ。 もしやこの数字は殺した人間の数なのではないか。 と、ふと考えたがそんなはずはないと自身で結論付ける。彼にはそれは間違いだと言える根拠があった。 なぜなら、牙崎漣の頭上にある数字が『3』だからだ。 漣は態度こそ悪いが根は善良であると言い切れる。そんな彼に『3』という数字がついている以上、この数が殺人の回数であるわけがない。 843 85_yako_pPAST四季とタケルと漣が旅行する話です。かなり前の既刊です。SF(少し不思議)です。牙崎くんは冬眠する一 失敗した。重くなる体を引き摺りながら思う。想定外だった。まだ、猶予はあったはずなのに。 まるで逃げだすみたいだ。屈辱にも近い感情が冷え切った胃の底を焦がしていく。だが、これが逃走だとしても足を止めるわけにはいかない。逃げ込める場所の心当たりは苛立つほどに少なくて、そのなかの一つである寮へと体を引き摺っていく。 アイドルになるまでは、どこか誰にも見つからない冷たいところに身を隠せばよかったのに。大勢に見られるのは困る。だけど、今は誰にも見つからないところには行けない。 ようやく寮に辿り着けば灯りはとうに落ちていて、誰もいないラウンジはひんやりとしていた。時間が時間だ。当然だ。体温が奪われていく感覚は少しだけマシになったが、このままではきっと眠ってしまう。 35426 85_yako_pDONE三題噺お題。『猫、御守り、また明日』タケルと漣とチャ王の話です。(2024/1/14)観測、約束、ねがいごと。 チャンプのお気に入りの寝床は路地裏のドラム缶の上にある。円城寺さんがくれた座布団の上、チャンプがさっきまで寝ていた場所に見覚えのある御守りがあった。 これは俺がアイツにやった御守りだ。御守りなんてどこにでもあるものだけど、わかる。そもそもアイツが置いたんじゃなきゃこんなところに御守りがあるわけがない。 この前の仕事で買ってきた汚れが目立ちそうな白いお守りにはチャンプの毛がくっついていた。御守りをあげたのは円城寺さんとプロデューサーとアイツの3人だけだ。隼人さん達にも買おうと思ったけれど、そうなると四季さんにあげないのはなんだか違うし、四季さんにあげたならHigh×Jokerの全員に必要な気がしてくるし、High×Jokerのみんなに買うなら同年代の人みんなにもあげたい。俺の大切な人は増えたけれど、だからこそどこかで優劣にも似た線引きは必要で、俺には持ちきれないほどの御守りを買う気はなかった。それなのにアイツの分の御守りは買ってるのが自分のことなのによくわからない。あんな、御守りなんていらなそうなやつなのに。 2567 85_yako_pDONE百々人と牙崎の話です。百々人視点。『ハンカチ』『地球儀』『ランドセル』という3つのお題をもらって書きました。(2024/1/5)ラムネに溺れるアンノウン 今日は高校生の子がたくさん集まって勉強会をしていたから賑やかだった。最初はみんながそれぞれ宿題や問題集を解いていたんだけど、気がついたら自然と教える人と教えられる人に分かれて和気藹々と勉強をしてる。こういう雰囲気が僕はすごく好きだった。 しゅーくんも、えーしんくんも、僕も、教える側だ。C.FIRSTはすごいね、って。前だったら素直に受け取れなかった言葉も今は嬉しい。そりゃ黒野くんがそばに居ると何も思わないわけじゃない。それでも感情を全部トータルしたら僕は楽しく笑っていた。 えーしんくんは伊瀬谷くんにスパルタでいくと宣言してたんだけど、貴重な三年生だということで蒼井さんたちに引っ張られていった。黒野くんも高校二年生の範囲は完璧じゃないから、しゅーくんと一緒に伊瀬谷くんと紅井くんを見てた。あとはわからなくなった人が挙手したら誰かが見てあげる、みたいな。 10824 85_yako_pDONE二年後のタケルと漣が映画を観に行く話です。(2023/12/14)憧憬 半月の夜だった。夜道で一度だけ空を見たから知っている。普段通りの日常に半月がくっついて、今から俺はコイツとレイトショーを観に行く。そういう、少しだけ特別な夜だった。日付がもうじきに変わるころだった。 ビルの正面入り口は閉まってるから裏口のようなところを通ってエレベーターに乗る。現在地を示す階数を増やしていくエレベーターの中で、もしも途中で降りたらどうなるのかって考えた。そりゃ真っ暗なフロアが広がってるだけなんだろうけど、非日常へと繋がっていそうでなんだか少しだけ惹かれる。そんなことを考えていたらあっという間に映画館がある階までついた。 夜道では誰にも会わなかったのに映画館には人がいる。他人っていうのはどこから来るんだろう。顔も名前も知らない人が、期待がもたらす静かな活気の中にいた。 4368 85_yako_pDONESideMで初めて出した同人誌のweb再録です。2018年の6月ですって……そして拙いね……流血表現があります。恋愛要素はないです。名無しモブがでます。牙崎の父親捏造。牙崎くん死なない! オレ様は死なない。何を唐突にと思うだろうが、本当に死なない。例え話なんかじゃない。そのまんま、言葉通りの意味だ。 『死ぬかと思った瞬間』と書かれた台本をテーブルに放り投げソファに身を沈める。事務所は空調が効いていて、ソファはそれなりの固さがあり横になるにはぴったりだ。うるさいチビもらーめん屋もいない。そういえば、最近は別々の仕事が増えた。オレ様は次の仕事まで時間がある。だけど、それまでは正真正銘の一人っきりだ。あっちには眼鏡かけてんだか乗せてんだかわかんねぇやつがいた気もするけど。 死ぬかと思った瞬間。先ほどまで、チビとらーめん屋としていた会話が脳裏を掠める。チビは一番キツかった減量中の話をしていた。らーめん屋がそれを笑って聞いていて、オレ様にもそんな瞬間はあったか聞いてきたから、あるわけないだろ、と答えた。だってオレ様は最強大天才だから。 24855 85_yako_pDONE漣とモブ少女がラブホテルに行く話です。二人にはなにも起きませんが同じ布団で眠ります。少女の援助交際を匂わせる描写があります。(2023/6/22)顔のない案内人 ひどく寒かったことと、自分がまだ子供だったことだけを覚えている。オレ様が破門されて一年か二年くらいだったとは思うが細かいことは覚えていないしあまり関係がない。 あの頃は自分を子供だと思ったことはなかったが、きっと誰がどう見てもオレ様は子供だったんだろう。昼間は関わりもしないやつが夜になると邪魔をしてくる。『ケイサツ』という存在が邪魔だった。どこにも帰る場所がないってのは、オレ様がどこにいたっていいってことなのに。 とにかく寒い夜だった。雪が降らないのが不思議だった。昔に立ち寄った、池の水は凍るのに雪も雨も降らない村を思い出していた。 このまま外で寝たら死ぬんだって死んだこともないのに理解して、オレ様は公園から離れて街に出た。眠らずに一晩中歩いていれば凍死はしないだろうけど、それは手間だし腹も減ってた。だからまだ明かりのついているファミレスに入ったが、どうにも様子がおかしいようだ。 4765 85_yako_pDONEタケルと漣の感情がデカいSF(少し不思議)私はカプ認定してませんが、感情がデカいです。(2023/04/29)さよなら、ロマンスブルー 満月の夜、夢を見た。 ガラス、あるいは氷一枚を隔てて海の上に立っている。海には桜が散っていて、世の中の常識全部を無視してゆらゆらと舞い踊っていた。仰ぎ見た空はチューリップの畑を逆さまにしたように、一面の花で先が見えない。 少し離れたところに猫がいる。大きさはチャンプくらいで毛並みもチャンプそっくりなのに、瞳の深さが夜の闇よりも深い。色は紺碧に金色が混ざっていて、宇宙に蜂蜜を垂らしたような目をしていた。 猫が口を開く。幼い子供の声がする。 「世界が消えるか、牙崎漣が消えるか」 選んで、と猫は言った。俺はアイツを思い出す前に、妹弟のことを思い出していた。 アイツのことは嫌いじゃないけれど、世界かアイツかなら絶対に世界を選ぶ。大切な人がどこかにいる世界だ。その目的に届くために努力ができて、それが認められる世界。そうして認めあえる仲間がたくさんいる世界。そんなの、何よりも大切に決まってる。 2850 85_yako_pDONETHE虎牙道の意味怖です。なにを見ても楽しめる方向け。たいしたことないですけど。(2023/4/2)二度目はない。まだ、 THE虎牙道がロケで訪れたのは、廃村と呼んでも差し支えのない寂れた村だった。土地の豊かさと住民の穏和さに関係があるという通説などはないが、この村の広大な自然が人柄に影響を与えているのだと言われたら誰もが納得するだろう。それほどに村の住民は優しくて、献身的で、おおらかだった。 村の住民は三人がからだを張った企画を挑んでいるときもそれを応援し、休憩の合間には差し入れまでくれた。 焚き火で焼いたというさつまいもを食べながら、三人は笑う。タケルも、道流も、漣も、この村を──この村の住民をいたく気に入った。そんな三人に、村人は収録が終わった後に集会所にくるように誘う。 「村の名物のね、鍋を振る舞いますから」 1920 85_yako_pDONE牙崎を殺して埋めても死なない話です。自我の強いPが出ます。(2023-02-10)助かりたいだけ 牙崎漣を殺した。だって、永遠になってほしかったから。 生きてる人間は熱狂を生むけれど、私はよりにもよって担当しているアイドルに熱狂ではなく信仰を求めてしまった。だから殺して、永遠にしたかった。 私は生きている作家よりも死んでいる作家が好きだ。彼らは更新されることがないかわりに私を失望させることがない。生きている人間は信仰できないというのが私の持論で、未熟な人生で得た生きる拠り所だ。不変は信仰の拠り所になる。問題なのは私がそれを漣さんに求めたことだけだ。 事務所で殺した。止めてほしかったのかはわからないけれど、私が応接室で漣さんを殺している時、デスクには山村くんがいて給湯室では百々人さんがお茶をいれていた。 1745 85_yako_pDONE異星人VS牙崎。100本チャレンジその39(2023-02-10)流れ星はたまに見かける。「チビ!」 アイツの声がする。 チビ、としか言わなくなったコイツの言葉は鳴き声みたいだ。こんな動物みたいなやつが世界の救世主だと言うのだから恐れ入る。 先日、地球に異星人が舞い降りた。何をバカな話をと思うのだが、そんなバカな話を世界中の人が経験しているんだ。あの日、地球の人間すべてが異星人を見た。 異星人は手始めに世界遺産をみっつ、破壊した。そうして言った。 『牙崎漣の言葉が欲しい』 なんでアイツだったんだろう。こればっかりは本気で意味がわからないんだけど、あっという間に主要国家の派遣したなんか強そうで偉そうな人間ががアイツを確保しようとやってきた。ついでに、異星人も。アイツはそんな緊急事態でも我関せずといった様子で眠っていたっけ。 1064 85_yako_pDONEモブ→漣。漣を誘拐するも、格の違いを思い知って震えるモブの話です。(2022-12-19)不在を得てしまった。 罪を犯した。正確には罪を犯そうとして、俺は公園まで車を走らせている。公園についたらそこには誰もいなくって、俺は感情も犯罪に使う道具も持て余してひとり自宅に帰ることになればいいって思ってる。それでも、あの公園に彼がいるかもしれないと思うと、病気みたいに心臓が追い立てられた。 牙崎漣のことは知っている。会社に二人ファンがいて、テレビで何回も見たことがあって、そういう些細な知識がある。 一度、街角にある大きなモニターに映った牙崎を見たことがある。色素の薄い皮膚の上に品のない口紅を滑らせて、気だるげな視線でこちらを見ていた。憂鬱そうなはちみつ色の目が金曜日にやたらよく映えて、それは人ではなく『生き物』に見えた。人を傷つけるのも、狂わせるのも、こういう生き物だと直感的に理解した。 3948 85_yako_pDONE誰かに恋する牙崎と、それを見守るタケルです。100本チャレンジその33(22/8/23)恋バナしようぜ アイツが花吐き病になった。最近流行の病気らしい。恋をすると花を吐くっていうアレだ。 俺は心底驚いた。アイツが恋とか、あり得ない。事務所全体の困惑をよそに、世間はどうでもいい『あり得ない』で盛り上がっていた。 なんでもアイツの吐く花は、地球上どこでも確認されていない未知の花らしい。円城寺さんも、プロデューサーも、みのりさんすら知らない花だ。 数回見たことがあるけれど、とてもきれいな花だった。宝石みたいにきらきらしてて、光の加減で色が変わって、夢みたいないい匂いがする、不思議な花。 最初はその見た目の美しさから少し話題になっただけだった。ところが興味を持った研究者が面白半分に調べたところ、これがとんでもない花だった。 923 85_yako_pDONE百々人と天道とP。冷蔵庫のものを勝手に食べる牙崎に手を焼く三人です。(22/6/28)ももは魔除けになるらしい「百々人、名前借りていいか?」 右手にサインペンを、左手にコーヒーゼリーを持った天道さんが僕に問いかけてきた。僕が疑問を返す前に天道さんはおまじない、と口にして「百々人の名前を書くと漣に食べられないんだ」と笑う。 そこでようやく合点がいく。事務所の冷蔵庫に何かを入れるときには名前を書くルールがあるから、牙崎くんが食べないように僕の名前を借りたいということだろう。そう、牙崎くんは冷蔵庫にあるものを勝手に食べる。 「いいですけど……僕、一度食べられたことありますよ?」 僕も一度やられた。正直かなり怒ってるし根に持ってる。そんなこと、言い出せなかったけど。 「そうなのか。でもその一回だけだろ? 享介と四季が実験してたみたいけど、百々人の名前を書いとくと漣は手を出さないんだと」 2544 85_yako_pDONE漣。SF。100本チャレンジその27(22/6/3)と或る白蛇の伝承 世界が氷に覆われてしまった。数日前から地球は絶賛氷河期真っ只中だ。 人類もこれまでかと誰もが思ったのだが、我々はどうしようもなく神に愛されていたらしい。敬虔な信者と都合のいい無神論者の祈りを受けて、神様は私たちに不思議なストーブをくださった。 この不思議なストーブは人の思い出を燃やし尽くして熱にする。思い出が大きく美しいほど、目に見えない炎は燃え上がって地球をわずかに暖める。 そこかしこに設置されたストーブには定期的に人が思い出を焼べなければならないが、誰だってそんなことはやりたくない。大きすぎる思い出を燃やした人間がどうなるのかはストーブの前でうなだれている死刑囚の様子から見て取れた。だから、人々はささやかな思い出を焼べて暖をとる。私は財布にいつの間にか入っていたミサンガの思い出を失って、今日も元気に働いている。仕方のないことだ。暖めなければ洗濯物は乾かないし、万物は死に絶える。 1367 85_yako_pDONE秀と漣。カプなし。漣の過去捏造。(22/5/20)靴がなければ歩けない 撮影があった。 選ばれた人間の共通点は所属事務所だけだったから同じ現場に集められた秀と漣の間にも共通点はない。お互いに天才を自称しているが、本人達はその言葉の本質が違っていることを理解していた。 撮影現場は廃校だが、まるで明日にでも授業が始まりそうな雰囲気だった。机、椅子、たくさんの本。ただここには通う生徒がいないだけで、本来の学校とはなにも変わらない。そうやって、本来の学校をからっぽにした空間が、この撮影施設だった。 撮影のための場所だから、本来の学校にはない部屋もある。例えば今アイドルたちが収められている衣装部屋なんかがそれだ。撮影のため、アイドルは各々自分勝手に制服やら、学帽やら、スニーカーやら、ヘッドフォンやら──目的がわからないメイド服まで、学校に関係があるものもないものも一緒くたに陳列された棚から思い思いの道具を手にとっては身につけ、壁に立てかけられた鏡を見ている。 3741 85_yako_pDONE創作Pと漣。100本チャレンジその22(22/2/28)あとでちゃんと返した スクラッチくじが削りたかった。だけど手元に硬貨がない。 全然期待なんてしていない、駅前で気まぐれに買った安いくじだ。外回りの時にふと買って、デスクに座るまで忘れていたような紙切れが名刺入れを取り出すついでに出てきたものだから、それを机に置いて俺はもう一度ポケットを探る。ダメだ、財布はあっちの鞄の中だ。 山村くんはいまいない。事務所にいるのは漣くらいだった。漣は珍しく起きていて窓辺でぼんやりと空を見ている。窓辺の誰の席でもない物置代わりのデスクにどっかりと座って、真昼と夕暮れを彷徨う空をただ見ていた。 「漣」 名前を呼ぶと、漣は少しだけ首を動かしてこちらを見る。 「小銭があったら貸してくれ」 スクラッチくじが削りたかった。漣は財布も鞄も持ち歩かないけれど、少ない荷物のなにもかもをポケットに入れて持ち歩くことを知っている。それは万札だったり、商店街のたい焼き屋のポイントカードだったり、誰かからもらったキーホルダーだったりして、その中に小銭があることも珍しくない。 1195 85_yako_pDONEタケルと漣(カプ未満)100本チャレンジその17(2022/01/31)太陽を掴んでしまった「太陽みたいだな、オマエ」 みたいもなにも、結果は陽性だったのだからコイツは紛う事なき『太陽』だ。『太陽』というのは俗称で、本当はカタカナのたくさん並んだ名前がついていたけれど、俺は正式名称を覚えていない。ただ、そういう現象──いや、病気があるというのはずいぶんと周知されていた。 太陽。なんというか、神秘的でやかましい病気だった。きらきら、というよりはぎらぎらと、煌々と髪が光るのだ。目を焼くほどの圧倒的な光量で、自然発火しない程度の熱を発する。太陽なんて大層な名前に怯んでいると、拍子抜けするような、そういう病気。日本人の発症は少ないが、それは髪が黒いケースが多いからなのだろう。コイツみたいな銀の髪が煌々と燃えるのは、なんだかちょっとかっこよかった。 1467 85_yako_pDONEクラファ VS THE虎牙道です。理想願望をたっぷり含みます。(2022/01/16)追記、呼称を訂正(2023/03/13)愛しき戦場 ぼんやり、事務所のソファーに沈みながら指先でつまみ上げた紙を見ている。僕が書いた『花園百々人』って文字と回答と赤い丸、そしてたったひとつのバツ。どこにでもあるような、平々凡々なテスト用紙だ。 「……あと2点かぁ」 もう一番になる必要は無い。だからどうでもいいはずなのに、やっぱり少し気になってしまう。どうしても順位が気になる悪癖から目を背けるために、僕はこの焦燥感の理由を探す。 「やっぱり、頭がいいほうがクイズ番組の仕事とかもらえるよね……」 僕はもう一部では有名人だから、いまさらバカのフリはできない。そもそも、生徒会長が揃っていることが売りでもあるユニットなのだから、それはぴぃちゃんのプロデュースからは外れてしまうだろう。 4800 85_yako_pDONE牙崎と呪われた舞台の、あっさりとした話。(2022/01/13)春に殉ずるわけもなく アイツの名前を呼ぶ、悲鳴のような声が聞こえた。 プロデューサーの声だ。こんなヒステリックな声、らしくない。まぁ、アイツが問題を起こしたんだろう。少しの不安を拭うように、一緒にゲームをしていた隼人さんと一緒に、俺たちは声がした応接室へと向かう。 応接室ではアイツがソファに寝ころびながら本を読んでいた。プロデューサーは俺たちに気づかずに、その本をアイツの手から奪い取る。そしてその本を──思い切り、破り捨てた。 「なにしやがる」 アイツの声は平坦だ。ただ、聞いているだけ、みたいな。それに比べて、プロデューサーの声色は悲痛なほどだ。 「台本が届いても読むなと言ったはずです。この仕事は断りました。もう漣さんは関係がない」 6105 85_yako_pDONEアイツの概念が欲しいタケル。カプなし。100本チャレンジその10(2021/12/19)結局天井した アイツがいない。アイツがほしい。いや、語弊があるな。俺はアイツの演じたキャラクターが欲しかった。 俺たちがハマってるゲームに新規実相されたキャラクターの声を当てたのは、よりによってアイツだった。そのキャラクターのカードを入手すると読めるエピソードには既存のキャラクターもたくさん出てくるらしく、俺の好きなキャラクターもでるらしい。おまけにそのキャラクター自体も見た目がかっこよくて、しかも強いときた。紹介エピソードを見る限り、かなりの好青年であることも知っている。声がアイツなのにいいやつだとか、バグみたいだ。 最高レアリティで実装されたアイツ──便宜上アイツと呼ぼう──を手に入れようとして、手持ちのアイテムをすべて使ったけどダメだった。まぁ、とにかくこない。あと二万円使えば確実に手にはいるのだが、なんとなしにそれは癪だった。いわゆる『天井』と呼ばれる行為の初めてを、よりによってアイツに捧げるというのは、なんかムカつくから。 1233 85_yako_pDONE牙崎の死が受け入れられないPです。100本チャレンジその6(2021/12/11)空洞です。牙崎さんが死んでしまいました。 私が見つけたときにはもう絶命していて、どうにもこうにもならなかった。悲しすぎて涙すらでない。 困る、というよりは単純に悲しかったので、蘇生することに決めてからは早かった。私は悪魔と契約して、牙崎さんを見事に復活させたのだ。 ところがこの悪魔が適当な仕事をしてくれた。この牙崎さん、なんと、笑うのだ。恩を魂に刷り込まれたのか、私にだけ、ひどく柔らかく笑う。 無意識なんだろう。一度だけ肩を強く掴み「笑わないでください」と懇願したのだが、彼はいつもの不機嫌な声で「アァ? 笑ってねぇよ」と言うのだ。だからその言葉を信じようとして、あの笑顔を全部忘れようと努めて──また裏切られる。彼はふわりと、にこりとする。綻ぶ花のようなくすんだ黄色は、仏花の水仙を想起させた。 420 85_yako_pDONEタケルと漣。名前が奪われた! 85_yako_pDONE牙崎のための言語が生まれる話です。オリP注意。100本チャレンジその5(2021/11/26)最小の宇宙 先日、世界に新たな言語が誕生した。その名も『牙崎言語』である。名の通り、アイツのためだけに作られた言葉だ。 『牙崎くんが日本語を喋ってるの、違和感あるよねー』 そう言ったのは自他共に認める変人だった。この変人は世界的に有名なクリエイターで、アイツを指名して曲を作りたいとオファーをくれたのだ。 『だから……牙崎くんのための言語、作っちゃいました!』 彼のこだわり、あるいは思いつきにより、世界には新たな言語が誕生した。牙崎言語。それはA4の紙に束ねられて俺の手元にもやってきた。どうやら数日間、アイツはこの言語しか話せないらしい。 「すごいよね。一から言葉を作っちゃうなんて」 プロデューサーは感心したように呟く。すべての言葉が網羅されているわけではないが、これで日常会話は賄えるらしいから驚きだ。発音はわからないが、とりあえず一通り目を通す。ふと、気がついたことがある。 839 85_yako_pDONE虎牙道。桜に攫われる漣。100本チャレンジその1。(2021/11/25)グラム98円 アイツが桜に攫われた。バカな話だが、真実だ。 今日の昼間の話だからハッキリと覚えてる。アイツを挟んで俺と円城寺さんは歩いていた。アイツは俺たちに挟まれてなお、一人でたいやきを食べながら歩幅をかったるそうに併せて同じく空間にいた。いつもどおり、有り体な光景だ。 仕事帰りだ。今日は円城寺さんに晩飯を食わせてもらうから俺は円城寺さんと一緒に円城寺さんの家に帰る。コイツはあがりこむために、同じ方角へと歩を進める。 なにげなく円城寺さんを見た。視界に見慣れた銀髪がチラつく。普段はやいのやいのとうるさいくせに、こうも静かにされるといよいよ俺はコイツに話しかけることがなくなるのだ。 俺は円城寺さんに今日の晩飯を聞いたんだ。円城寺さんが口を開く直前、唐突な春一番が吹き抜ける。春一番ってなんなのかわからずに使っている言葉だけれど、俺は桜を散らす乱暴な風を春一番と呼ぶのだと思っている。それが、一番春っぽいって思うから。 1826 85_yako_pDONE野宿する百々人を保護する牙崎。カプなし。昔書いたから牙崎くんへの呼び方間違ってます。(2021/11/06)星屑ダイアローグ 今日、夏が終わったことを知った。僕が着てるのは半袖だし、ぴぃちゃんがくれた差し入れはアイスだったし、晩ご飯はそうめんが食べたかったけど、それでも今日という日は夏の死骸みたいなものだったようだ。 空が、少しだけ高い、気がする。遠くまで塗りつぶされたような夜空だから、気がするだけ。見上げた星空には夏の大三角が見当たらず、僕は暇潰しの道具をひとつ失った。たったみっつしか数えるものがなくたって、それで数時間はのんびりとするつもりだったから。 星は脆い光を放っている。弱々しくて、砕けたクッキーみたいだ。数え切れないほど遠くに光った星を見ながら、僕はこのまえ食べた新発売のクッキーを思い出す。思えばそういうところに秋の足跡があったのかもしれない。そろそろきっと、さつまいものお菓子がでるだろう。 10350 85_yako_pDONE漣が万能薬になる話です。少し血が出たりします。不穏ですが多分しれっと治るししれっと生きます。(2021/09/18)毒にも薬にもならないアイツが万能薬になった。なってしまったとも言える。万能薬なんてゲームの中の存在だと思ってた。アイツがあれば、どんな病気だって治るってことに、なってる。 なぜアイツの髪や爪が万能薬になるとわかったのかを俺は知らないが、その事実を知られたアイツの髪はあっという間に出会ったときよりも短くなった。最近はそれなりに整えられていた爪は深爪気味になって、そこからささくれが絶えなくなったあたりでアイツは数日姿を消した。姿を消したと言っても行き先はみんな知っていたし、アイツもそこに行くことを拒否していなかったから俺はなにも言えない。もっとも、そこに行くことを喜んでいるようには見えなかったんだけど、それだけじゃ俺はなんにも言うことができない。 2621 85_yako_pDONE飲酒すると夢見心地で宙に浮くタイプの牙崎漣(成人の姿) 85_yako_pDONE真実が正しいとは限らない 85_yako_pDONE聖職者モブが漣に狂う話。情欲はない。(2020/01/28)と或る聖職者の独白と或る聖職者の話 朝がきた。平穏な、代わり映えのない、満ち足りた朝が。 私は小さな協会を任されている聖職者だ。昼は小さな教会に、夜はもっと小さな家に住んでいる。 不足無く、過剰無く。家はこのくらいの大きさが一番いい。妻と住んでいたときは多少手狭に感じていたが、いまとなってはこの家が私にしっくりときている。手の届く範囲のものがいい。 少しの上り坂を歩いたところにある小さな教会が私の仕事場だ。居場所と言った方がより正確か。シンプルな、建物が教会を名乗るために必要な最低限の設備だけがある。壁が白いところと、毎年ツバメが巣を作る祈りの場が、私は特別に好きだった。 ひとりのとき──あるいはここに訪れた人が言葉を必要としていないときに聞こえるのは町内放送の音、鳥の鳴き声、子供の声、そして、遠くに町の息遣いだけだ。差し込む木漏れ日にも音がある。私は人々には音を聞くように伝えている。 4227 85_yako_pDONE××の独白。捏造。(2018/05/11)とある男の独り言 日本にはひさびさに来た気がする。ここは食べ物こそうまいが、利便性のある街は決まってくだびれたスーツの群れがゾンビのように徘徊しているか、日本という閉鎖空間で独自の文明を築いた若者が自分のようなオジサンには理解不能な行動を取っているかのどちらか、あるいはその両方だ。 今日も例に漏れず、女学生達が群れている。相変わらずよくわからない。だが、華やかでいいことだと嫌みなく思う。子供は好きだ。若者は宝だ。見ていたい、関わっていたいと掛け値なしに思う。そんな彼女達は操られたように首を上に傾け、頭上のモニターを見つめている。何かが始まるらしい。 突然、爆音とともにモニターに流れる映像と音楽。ひきつけを起こしたように一斉に黄色い歓声をあげる彼女達。何事かとモニターを見るより早く、耳に馴染んだ懐かしい声が大音量で鼓膜を揺らす。 1524 85_yako_pDONE牙崎漣生誕祭2019 その2。ポケットにはひとつだけ 普段は入らない雑貨屋に寄った。無意識だったけれど、もしかしたら近づいてきたアイツの誕生日が関係しているのかもしれない。 店内のめまぐるしさは、慣れない。圧、とでも言うのだろうか。俺の背より高くに詰まれた商品はそれぞれが主張しあっていて、譲らないぞとでも言うように色彩を撒き散らしている。BGMは騒がしくて、なんだか不思議な、正体のわからない匂いがする。 忙しい場所だな、と思う。雑貨屋で働いてたという、年上の後輩を思い出す。この喧噪の中で働いていたということか。純粋に、すごいと思った。 賑やかさの渦の中、ここにアイツが欲しがるものはないのかもしれないと、そう思った矢先にそれを見つけた。 灰色の手触りのよいまんまる。ボタンが二つと三角の皮。口と鼻こそないが、それは猫の形を模したがま口だった。 2883 85_yako_pDONE同棲10年目の虎牙。牡蠣を食べてるだけ。(2020/04/28)醤油、レモン、ポン酢 コイツと暮らし始めて十年。俺たちがこの家に住み始めて今年で八年目。 愛とか恋とかじゃなくて、ただ隣りにいるのが自然だった。妹を見つけて、弟を見つけた。俺たちが納得できる高みにだって到達した。その気になればマンションだって買えるんだ。現に円城寺さんはビルをまるっと買い上げたわけだし。 それでも俺はコイツとのんびり暮らしている。下町にはなりきれない、でも田舎と言うのは失礼な穏やかな場所。小さな駅には改札が一つしか無くて、八百屋があって魚屋があって、馴染みの洋食屋が一点。スーパーは二つ。老人が多い町だ。接骨院と銭湯が多め。そんなところ。駅から十五分近く歩いたところに立ってる築五十年の木造一軒家。二階建て庭付きで驚きの6LDK。毎年家中の畳を取り替えて暮らす、そういう生活。 3202 85_yako_pDONE牙崎漣生誕祭2020。大人数でわちゃわちゃ。One-off letter アイツに手紙を書くのが流行っている。 大河タケルはそれをただ眺めていたが、傍観者ではいられなくなった。 * きっかけはタケルと共にゲームをよく遊ぶ友人間の遊びだった。 今五人が夢中になっているゲームでは、友人に手紙を出せる。大吾が手紙関係の仕事をしたことも相まって、メモ程度の小さなものだがお互いに現実世界でも手紙を送り合うのがちょっとしたブームになっていたのだ。 こういったことは伝染していく。恭ニはみのりやピエールに。隼人はバンドメンバーに、大吾は大好きな二人へ、志狼は大切な友人に手紙を出した。素直な二人は思いのまま、何気ない話なんかを。素直になれない二人は普段言わない気持ちなんかを。それが人を笑顔にしていく様子を、タケルは少しの思い出とともに見つめていた。 6509 85_yako_pDONE牙崎漣生誕祭2019。これ(https://poipiku.com/IllustViewPcV.jsp?ID=722200&TD=4695085)の続き。選ぶならこっち 何か、選ばせてやりたかった。きっと、アイツも何かを選んだことがないと思ったから。 選ぶということが幸せなのかはわからなかったけど、それはきっと寂しいことではないから。 「いろんな種類のある食べ物?」 「ああ……俺はカップラーメンくらいしか思いつかなくて……」 事務所には年の近い人間が集まっていた。食べ物なら巻緒さんや咲さんが詳しいだろうと思って声をかけると、そばにいたHigh×Jokerのみんなが集まってきた。 「カップラーメンでは駄目なんですか?」 旬さんが不思議そうに訪ねてくる。「ラーメン、好きなイメージがありますけど」 「いや、好きなんだが……なるべくならラーメンは避けたい」 ラーメンは円城寺さんがアイツに振る舞う。俺もその場所にいる予定なのだ。カップラーメンはかぶってしまうし、円城寺さんのラーメンと比べたら見劣りするだろう。 5597 85_yako_pDONE大河タケル生誕祭。たぶん2018年。イチゴの乗ってないケーキ 言い方は悪くなるが、不器用とバカってきっと紙一重だ。もう夜も遅い時間に現れた来訪者にそんなことを思う。 ちゃぶ台の上に乗せられた、バカでかい箱が四つ。その箱を開ければ色とりどりのケーキが、数えるのもバカバカしいほどに入っている。そのケーキはどれもこれもが傾いたり崩れたりしていて、この箱を運んできた人間がコイツであることを証明するみたいに佇んでいた。 部屋には俺とコイツしかいない。事務所のみんなとだって分け合えそうな量のケーキは、俺と、コイツ、二人で分け合うにはあまりにも多い。 「なんだよ」 不機嫌そうに、コイツが言う。早く選べ、とケーキを指差す。一つとして同じ種類のないケーキは、何件も何件もケーキ屋をハシゴして、全部の店で、そこにあるケーキを全部買い占めたんだろうな、っていうのがわかる。 2125 85_yako_pDONEタケルと漣のすれ違い。(いつ書いたのかわからない)ずれていくアイツの声が出なくなった。 昨日の夜は大雨で、泊めたアイツが目覚めたのがさっきの話。金魚のようにパクパクと動く口からはなんの音も出てこない。昨日の夜は、雨音が意識の外に向かうほど快活に踊っていた声が、失われている。 表情と、現状。大方朝飯のことを言っているんだろうとあたりをつけて、トースターで温めたパンを差し出せば、不機嫌そうな顔で何やら言っている。きっと、量が足りないんだろう。 「これしかないんだ。オマエが突然くるのが悪い」 不満げな顔。動く口元。パクパク。 「事務所に行く途中に何か買ってけばいいだろ」 きっと、仕方ねぇとかそんなことを言ってるんだろう、パクパクと動きながら、薄っぺらいトーストを飲み込んでいく口。 742 85_yako_pDONEワードパレット14「マタル」キーワード「曇天・滴る・水溜まり」四季と漣。(2019/07/25)マタル 曇天。普段は憂鬱なそれをオレは受け入れた。まるで、この空がオレの気持ちを代弁してるみたいって思ったから。 泣いちゃいたかったけど、代わりに泣いたのは空だった。一過性の通り雨が、悲しみのように勢いを増す。きっと雨は通り過ぎるけれど、このぐちゃぐちゃな気持ちにゴールなんて見えない。 ぽた、ぽた。髪から滴る雫はそのまま水溜まりの一部になる。オレのもやもやみたいなものが、地面に広がっていく。上も前も向きたくなんてなかったから、その憂鬱な池を見ていた。 こんなの、すぐに止む。それが癪だった。雨が終わっても雲が切れても、意地でも顔をあげたくなかった。オレはずっと、この悲しみをネコっちを抱くように温めていたかった。自分の持ち物なんて、たったこれだけだと本気で信じていた。手放したら、心のどっかもくっついてって、なくなっちゃう気がしてた。水溜まりにはぐちゃぐちゃの自分。映し出された悲しみが水滴で揺れる。 942 85_yako_pDONEタケルと漣とブランケット(2019年あたり?)ふわふわとごわごわ アイツの持ち物を俺は一つしか知らない。 それを知ったのは秋の頃だったと思う。寮にアイツの居場所があるのを知ったのも、その日が初めてだったはずだ。 部屋番号を聞いて、歩いて、ノックをして。ノックをしても返答はなくて。 そのまま帰ってしまえばよかったんだ。それでも、苦し紛れみたいにドアノブをひねったのは意地以外の何物でもない。ただ、俺は円城寺さんの焼いたマフィンを持ち帰る先を知らなかったんだ。円城寺さんの家に置いておけば、きっとアイツは食べたはずなのに。 ドアノブをひねればいとも簡単に扉は開いた。歓迎なんてされているわけもないのに踏み入れる。無造作に転がった靴は、主の存在を示している。声は聞こえない。歩みは止まらない。 1661 85_yako_pDONE大河タケルの見た夢。極彩色と銀夢を見た。現実ではありえない光景だったのに、見ている間は夢だと認識できない。そんな夢。 極彩色に埋もれている。最初は部屋の一角にぽつんとあったオモチャやカラフルなお菓子は、夢特有の突拍子のなさで爆発的にその量を増していく。 やがて部屋一杯になったそれは津波か雪崩かのように俺を押し流して外へと溢れていった。外にでてもそれらの増殖は止まらない。 カラフルな雪崩にせき止められてクラクションを鳴らす車もまた原色で色とりどりの列をなしている。目がちかちかする。 ああ、こんなんじゃ。見つけられない。 泣き出すか、叫び出すかしたかった。すると目に一瞬だけ銀の光が目に入った。光を反射した、アイツの髪だった。 目を覚ますと、まるで縋るようにタオルケットを抱きしめていた。 3015 85_yako_pDONE道流の見た夢の話。(2018/06/17)月と海と銀の猫「円城寺さん、コイツ死んでる」 突拍子もない言葉が背中から投げかけられる。それでも俺はそれを明日の天気予報を聞くような感覚で受け入れた。 一通り夕飯で使った皿を洗い終えてから振り向けば、ちゃぶ台の横で丸くなっている漣の髪をタケルが手で梳いていた。 「死んでるのか?寝てるんじゃなくて?」 「うん。死んでる」 近寄って漣の顔を見る。普段から真っ白な顔は作り物めいていて、生きているだとか死んでいるだとかはちょっとよくわからない。少し離れて見るぶんにはそれは普段の漣のような気がした。 「埋めなくちゃ」 挨拶をされたら挨拶を返しましょう。それくらいの義務感でもってタケルは言う。俺はと言えば動かなくなった漣の頬に触れてみたところで、その陶器のような温度と手触りに、ようやく漣が死んでいることを実感した。 1936 85_yako_pDONEタケルと漣の夜会話(2018/09/15)夜は子供たちのためにきっと漣がタケルの家に来たのは、星の見えない夜だったから。 ここのところ、涼しくなってきて雨が多い。その雫をよけるようにすいすいと、いろいろな屋根の下をうろつく猫のようなこの生き物を、タケルは少しのため息と共に受け入れた。 漣は相変わらず文句が多い。先日言った温泉がどうもお気に召したらしく、タケルの家の風呂を狭いと言っていた。 着替えを貸せば小さいと文句を言われる。だったらオマエが着替えを持ってこい。タケルはそう思う。 電気を消してしばらく、タケルが思いついたように口を開いた。 「オマエでも、約束とかするんだな」 「は?」 心当たりがないと言った様子の漣に、タケルはリンゴの赤さを教えるように口を開く。 「温泉で。ほら、来年の話、してただろ」 1058 85_yako_pDONE牙崎漣生誕祭2018。2017年の母の日に書いた母の日の話です。蜂蜜色の夢拝啓 お母様へ 街に華やかな広告が増えたように思う。鮮やかな赤。呼応するように花屋の店先には真っ赤なカーネーションが並んでいる。広告塔がせっつくようにまくし立ててくる。『母の日の準備はお済みですか?』 「母の日ぃ?」 アイツのどうでもよさそうな疑問符。その疑問は俺に向けられたものではない。アイツは俺に何も聞かない。 質問を向けられた円城寺さんは少し困ったように答える。いつも通りのやりとりだ。 「ああ、漣は知らないのか。えっと……母の日って言ってな。まぁ、母親に日頃の感謝を伝える日だな」 一番よくあるのは赤いカーネーションをあげることかな。あとは晩ご飯を作ってあげたり、家事を手伝ってあげたり。カーネーション以外の贈り物をする人もいるだろうな。過去にそうしたことがあるのだろう、記憶を辿るように円城寺さんが口にする。アイツはそれをつまらなそうに聞いている。自分で聞いたくせに。 7011 85_yako_pDONE東雲さんと漣。(2019/06/29)甘い香りに騙されて 牙崎漣が様々な屋根の下を渡り歩いて覚えたこと。その中のほんの一部。 彼が「カフェなんとかのケーキ作るやつ」と呼ぶ男──名を東雲という──の家に行けば甘いものが食べられるということ。甘く満ちる香りの温度を自分は案外好きだと言うこと。パンケーキの生地を生のまま舐めるとやんわりと窘められるということ。 そして、その男は気まぐれに来訪しても自分を無碍にしないこと。 今日、牙崎は甘いものが食べたかった。ラーメンではなく、甘いものが食べたかった。だから、足は彼がらーめん屋と呼ぶ人間の家には向かず、普段は曲がらない角を右に。 当然のように目当ての家の扉を叩けば、いつものように東雲が出迎えた。彼は漣を見て柔らかく笑ったあと、まだ何もできていないこと、これから気まぐれな来訪者の為に何かを作るということを告げた。 995 85_yako_pDONEラーメン食べたい夜に書いた。タケルと漣。(2019/06/24)なんてことない夜になんてことのない夜に うまくいかない日ってのはある。きっと、誰にでも。 今日は行きがけにベッドの足に小指をぶつけた。変装用の帽子が木枯らしに吹き飛ばされて川に落ちた。仕事では納得の行く演技ができなくて撮影を長引かせてしまったし、気に入っている靴の紐は切れた。男道ラーメンは味玉が売り切れていたし、帰り道は猫にも会えない。 今日だけだ、わかってる。だけど、こんな日は何もかもうまくいかない気がしてしまう。そんなもんだから、寒いというそれだけの理由でうちにきた銀色の猫に、なんだか安心してしまった。なんか、それだけはいつもと変わらないことのようなことの気がしたから。 「ラーメン食いてぇ」 その言葉に振り向くと、コイツは一切の遠慮もなく、俺の服を着て我が家の安いベッドの上に転がっていた。風呂上がりの髪がぺしゃりとしている。せめて、今夜みたいに冷える冬の夜くらい、乾かせばいいのに。 4860 85_yako_pDONE穴を掘る漣。遭遇するタケル。(2018年頃?)穴 ザク、ザク、ザク。 定期的に音が聞こえてくる。その音を合図に意識が浮上する感覚。どうやら眠っていたようだ。ザク、ザク、ザク。さして大きくもない音が響いている。その音以外は見当たらない。やたらと静かな空間。 そもそも、俺は眠っていたのだろうか。ぼや、と靄のかかったような思考は寝起きのそれだ。だが、何か違和感がある。でも、その正体が掴めない。まぁ、眠っていたんだろう。 ぱち、と。目を開いても視界は暗いままだった。夜なんだろうか。明かりをつけようとリモコンに手を伸ばすが、手が掴んだのはざら、という感触の何か。 いつも枕元に置いているリモコンがない。いや、そもそも枕がない。あろうことか、布団すらない。 2702 85_yako_pDONE牙崎メイン。全員死ぬ。(2020/01/25)河岸の白魚 全員死んだ。 最初はらーめん屋が血を吐いた。ケホ、と一度咳をしたと思ったら、次の瞬間には両膝をついてアスファルトを血まみれにした。円城寺さん、って言いたかったんだろう。チビが口を開いて「え、」と言ったが、次いで口から出たのは言葉ではなく血で、ぐらりと倒れたチビは派手に倒れて鈍い音を立てた。 意味がわからなかったが、異変は止まらない。あらゆる人間が血を吐いて地面に突っ伏していく。あっという間に人間の絨毯が出来上がった。 らーめん屋の電話を取り出して片っ端から電話を掛ける。下僕、四季、それからもう事務所の人間全員。誰も出やしない。電話の鳴る音をかき消すように派手な衝突音が聞こえていた。 振り向けば、車がそこかしこに突っ込んでぶっ壊れていくのが見える。コンビニだとか、知らないビルだとか、定食屋だとか。割れたガラスが太陽をきらきらと反射していて、今日は日差しが暖かいってことに気がついた。 2051 12