黒野玄武は嘘を吐く 黒野玄武は嘘を吐く。
極稀に、意味のない嘘を。
朱雀はと言えば玄武の言動、その一つ一つを全面的に信用しているため、騙される。それはもう簡単に。
玄武は吐いた嘘をその場で撤回するため害はないが、もしも玄武がその嘘を黙っていたら、きっと困る。だが、朱雀は玄武を疑わない。
まだ、冬ではない。でも、冬のように寒い。朱雀はこの季節の名前を知らない。秋と呼ぶには冷たすぎる。でも、暦の上では冬でもない。名も知らぬ季節の風に晒されながら、玄武ならこの季節の名前を知っているのだろう、と思う。名前も知らない存在が、朱雀にはたくさんある。
「布団、まくるなよ」
「ああ」
朱雀の忠告を玄武はそのままに受け入れる。だから朱雀はいつも理由を言い逃がす。こたつの中ににゃこがいるから。理由が宙ぶらりんのまま、二人はコタツで暖をとる。
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