85_yako_p カプ入り乱れの雑多です。昔の話は解釈違いも記念にあげてます。作品全部に捏造があると思ってください。 ☆quiet follow Yell with Emoji Tap the Emoji to send POIPOI 434
ALL タケ漣 鋭百 カプなし 天峰秀 大河タケル 100本チャレンジ モブ 牙崎漣 花園百々人 想雨 カイレ クロファン C.FIRST 眉見鋭心 天道輝 ミハレナ ダニレナ 既刊 伊瀬谷四季 蒼井享介 蒼井悠介 W 若里春名 華村翔真 Altessimo 神楽麗 都築圭 古論クリス 葛之葉雨彦 レジェンダーズ 北村想楽 百鋭 秀百 薫輝 THE虎牙道 タケ漣ワンドロ web再録 誕生日 くろそら 途中 秀鋭 卒業 ケタザザ 短歌 プロデューサー 円城寺道流 叶納望海 御田真練 超常事変 渡辺みのり 癒残 堅真 ウォリアサ R18 街角探偵 わからん 九十九一希 四季漣 親友 輝薫 書きかけ 黒紅 道漣 DoS幻覚 ドラスタ 桜庭薫 BoH 春隼 サイバネ 山下次郎 寸劇 左右わからん しのかみしの 東雲壮一郎 ハイジョ レナート ミハイル S.E.M じろてる 旬四季 北冬 東雲荘一郎 秋山隼人 悠信 神谷幸広 アスラン そらつくそら 四季隼 140SS 黒野玄武 冬美旬 冬春 ゲーム部 ジュピター 卯月巻緒 四季秋四季 85_yako_pDONE牙崎漣と厄介モブです。人が死んでいる可能性がありますが、死んでいないかもしれません。100本チャレンジその55(2024/5/17)起因 ある日のことだ。天道輝には人の頭上に数字が見えるようになった。 ほとんどの人間に貼り付いた数字はゼロだが、ごく稀に数字の進んだ人間がいる。何故そのような違いが出るのかはわからなかったが、そのうちに輝はあることに気がついた。 ニュースで見かけた殺人犯の数字は、決まってゼロ以外の数なのだ。 もしやこの数字は殺した人間の数なのではないか。 と、ふと考えたがそんなはずはないと自身で結論付ける。彼にはそれは間違いだと言える根拠があった。 なぜなら、牙崎漣の頭上にある数字が『3』だからだ。 漣は態度こそ悪いが根は善良であると言い切れる。そんな彼に『3』という数字がついている以上、この数が殺人の回数であるわけがない。 843 85_yako_pDOODLE双子のSFです。100本チャレンジその54(2014/4/22)双子に関するショートショート 朝起きたら三つ子になっていた。一人増えただけって言っちゃえばそれまでなんだけど、18年間双子をやってきた身としては非常に困る。 増えた一人は落ち着いているけれど非常に居心地が悪そうだ。とりあえずは俺たちの家にいてもらっているけれど、食器も机もベッドも二つしかない。ならばせめて名前くらいはと『介』で終わる名前をいくつか考えてみたけれど、彼は『まぁ、一過性のものだから』と言い受け取ろうとしない。 彼について聞けば、双子の片割れを失ってからというもの……というよりは彼は失われた側、つまりは死者らしく、ふいに姿形が変わり双子のもとに現れてしまうようだ。 「悪霊みたいなものなんだ。紛れ込んで双子の片っ方に成り代わっちゃう、みたいな」 524 85_yako_pDOODLEドーナツを巡るショートショートです。100本チャレンジその53(2024/4/21)ドーナツを巡るショートショート 映画を見たが内容をさっぱり覚えていない。オレの120分と学割パワーの1000円がムダになったのを嘆きつつ、映画の前に買っておいたドーナツを食べるために事務所に寄った。 「おはようございまーす。お、鋭心じゃん」 「若里か。仕事の用事か?」 「いや、映画見た帰りに寄っただけ」 鋭心も食べるか? とドーナツの箱を開けたら一つだけ妙なドーナツがある。なんだかファンタジーな光景が穴の部分にハマっていて、それはゆっくりと変化していた。 「なんだこれ」 「……っ! 若里! それをしまってくれ!」 鋭心が悲鳴みたいな声を出すからオレはビックリしつつドーナツを箱にしまう。なんだったんだと言う前に鋭心が言った。 「……あれは今公開されている映画のシーンだ。CMで見た」 583 85_yako_pDOODLE華村翔真さんのショートショートです。血糊。100本チャレンジその52(2024/4/19)華村翔真のショートショート キリオちゃんには「ちょうちょさん」だなんて呼ばれてるけど、こんなに蝶々に縁があるとは思わなんだ。アタシが蝶になるわけじゃないが、触れたものが蝶々になっちまう。 まぁ服が蝶々になって飛んでかなかったのは救いだけど、血糊が端から蝶々になっちまうから撮影がロクに進みやしない。 ワガハイがちょうちょさんと呼ぶのが原因でにゃんすか? とボーヤが真剣に悩んじまったからそんなことないよと宥めつつ、とりあえず興奮気味のカメラマンに全然関係ない写真を撮られていたらキリオちゃんが意を決したように呼びかけてきた。 「しょーまクン……」 「……あら、案外照れちまうねぇ」 なんだか照れくさくてもどかしいったらありゃしない。それに、この理論でいったら血糊が全部アタシになりやしないかい? 九郎ちゃんも一緒に三人で笑いあっていたらスタッフが謝りに来た。どうやら問題は血糊の方にあったらしく、新しい血糊に変えたら蝶々現象はぴたりと止んだ。ボーヤ、目に見えてホッとしてたよ。 524 85_yako_pDOODLEAltessimoのショートショートです。夢の話。100本チャレンジその51(2024/4/19)都築さんと麗さんのショートショート麗さんが驚くほど小さくなっていたからうっかり食べてしまったんだ。悪いことをしたなぁ、と言うよりはもう会えなくなってしまうことを悲しんだけれど、麗さんを食べるとこんな音がするのかと、嬉しいような、恐ろしいような、なんだか不思議な気分になった。 っていう夢を見たんだよ、と麗さんに伝えたら麗さんは神妙な顔をしながら少しだけ笑う。 「それはおかしいですね」 「そうだね、おかしな夢を見てしまったよ」 「いえ、そうではなくて」 都築さんらしい、と麗さんは言った。 「せっかく私を食べたのに、覚えているのが音だけだなんて」 言われてみれば味を覚えていないなぁ。でも、せっかくってどういう意味だろう。 でもなんだか麗さんは楽しそうだし、麗さんが楽しいならそれでいいかな。 330 85_yako_pDONE数年後同棲鋭百。三題噺『小説・クラフト・冷蔵庫』 100本チャレンジその50(2024/4/4)クラフトコーラの香る夜 クラフトコーラを作ってみたい。 熱心にねだったのは僕だけど、初めにクラフトコーラに興味を持ったのはえーしんくんだ。 きっかけはえーしんくんが読んでいた小説にクラフトコーラが出てきたからで、僕はえーしんくんが映画がきっかけじゃなくて小説から興味を持つこともあるんだなぁってなんだか感心したことを覚えてる。ちなみにえーしんくんが映画をきっかけにいろんなものが気になってしまうことはたくさんあって、それはきっとしゅーくんが言っていた『聖地巡礼』みたいなものだろう。 僕たちは通販でクラフトコーラのキットを買った。スパイスを追加してもおいしいらしいから、少しオシャレな店に買い物に行って唯一知っているスパイスであるシナモンを買い足した。一緒にずっしりと重たい砂糖を買って、これを半分近くも使うのかと驚いたりしたっけ。 1231 85_yako_pDONEタケルと秀が話す話。三題噺(郵便、歌、カレンダー)100本チャレンジその49(2024/3/31)落とし物、拾ってあげましょ「そういえば秀さんは前に配達員の仕事をしてたよな」 「そうですね。だから届けるってコンセプトの仕事なら経験あります」 タケルと秀はプロデューサーから渡された書類を見ながら他愛のない話をしていた。THE虎牙道とC.FIRSTは次の仕事で郵便局をPRをするので、他のメンバーよりも早めについた二人は書類を先に受け取って目を通していたところだった。 「えっと、ここに土日があるから……この日に郵便ポストに入れれば、この日には届くな」 秀の指がカレンダーをなぞる。タケルが一言「遠いな」と呟いた。 「手紙って思ったよりゆっくり届くんだな」 「そうですね。今はわざわざ手紙を書かなくてもLINKがありますから、LINKと比べちゃうとなおさら」 1133 85_yako_pDONE神話生物の花園くんとクラスメイトです。クラスメイト目線。100本チャレンジその48(2024/3/17)神話生物花園くん。神話生物花園くん その1。 花園は神話生物だ。神話生物って俺はよくわかってなんだけど、なんか触手やらを出し入れできるらしい。 らしいっていうのは花園が自主的にそういうことをしないから予想でしかないということだ。神話生物なのは隠してないのに、そういう仕草は表に出さない。人付き合いが上手いっていうのはこういうことだろうか。 じゃあなんで自主的にしない人外行動を俺やクラスメイトが知っているかといえば、居眠りしてる花園が無意識に出しているからだ。触手を。 俺の席は花園の真後ろなんだけど、しょっちゅう居眠りしている花園の首元から、目がびっしりとついた触手と目があったりする。でも花園はプリントとかは手で持つし、高いところにあるものを取る時には脚立を使うし床に落ちたものは手で拾う。横着をしない神話生物だった。 1427 85_yako_pDONEC.FIRSTのSF(少し不思議)です。三題噺『黄色、ブラシ、道路標識』100本チャレンジその47(2024/1/22)飛び出し注意。 黄色い看板に鹿のシルエットが描かれていた。鹿に注意ってことかなぁ、って呟いたら、ぴぃちゃんがそういう道路標識だと教えてくれる。それが一昨日の、仕事帰りの話。 で、今持っているのは魔法のブラシだ。事務所で暇を持て余している僕はそれをぼやっと見つめる。ブラシには黄色のペンキがべったりとついているけれど、ぽたぽたと垂れる気配はない。 このブラシは、曰く、何か一つの標識を描くことができるらしい。そして、その標識は不思議な力で描かれたことを強制的に実現させると、さっき道端で筆を押し付けてきた金色の髪をした少年が言っていた。 彼は「赤色だったら通行止めとか、強力なものが描けたんだけど……ごめんね」と言っていた。確かに赤色のペンキの方が使い勝手が良さそうだ。一人きりに、一人ぼっちになってしまいたい時、とか。 1000 85_yako_pDONEつきあってる想雨がじゃれてます。『タイムマシン・コーヒー・寒さ』というお題で書きました。100本チャレンジその46(2023/12/31)コタツで寝るな コーヒーが冷めてしまった。 僕としてはそれくらい長い時間を雨彦さんと一緒にゆっくり過ごせたことが嬉しいけれど、真冬の夜がもたらす寒さは僕らの体温を容赦なく奪う。いや、部屋もコタツもあったかいからポカポカしているんだけど、きっとこの冷たくなったコーヒーを飲んだらからだの芯が冷えてしまうだろう。 コーヒーを温めましょうかー? と言いたかったがあいにく電子レンジが故障している。それを雨彦さんに伝えて謝れば、雨彦さんは「お前さんは悪く無いさ」と言って、少し悩む素振りを見せたあとにポケットから銀色の懐中時計を取り出した。 「それはー?」 「このあいだ手に入れたんだ」 「きれいだねー。でも、これがどうかしたんですかー?」 1626 85_yako_pDONE事後のタケ漣です。100本チャレンジその45(2023/12/9)水の音、手繰る心音 だだだだだ、っていう水の音を聞いている。 水音をなにかに喩えようとしてすぐにやめた。俺は言葉も物事も知らなければ洒落た言い回しも知らないし、これは何に喩えるでもない、たんなる水の音だから。 横に座ったコイツは俺の肩に頭を預けて目を閉じるでもなくぼんやりとしている。俺たちの接触っていうのはさっきまで散々お互いを引っ掻きまわしていた性的なやりとり以外には存在しないと思っていたのに、コイツは当たり前に俺の体温を奪って、俺に体温を移して、熱を行ったり来たりさせていた。 ずーっと水の音がしてる。風呂に湯を張る音がしてる。べたべたになったコイツが珍しく「シャワーはヤダ」って言ったから、何に喩えるでもない水の音を聞いている。 1354 85_yako_pDONE鋭百のラブコメ。ロマンチック片思い百々人くんだけど、このあとすぐカップルになります。100本チャレンジその44(2023/09/18)取扱注意 芸術は爆発だ! 美しいものは須く爆発なんだろう。 ならばこの世でもっとも美しいとされる『愛』とはなんだ? その答えも同じく『爆発』だったものだから、僕は途方に暮れている。 小説家が夢想した果実のように、僕が齧ったリンゴは30分以上放置すると爆弾に変わる。いや、リンゴである必要はないのかもしれない。ようは僕が愛しい人のことを考えながら口にした果実は放置すると爆弾になってしまうのだ。 発見したのは終わりかけた春の夜だった。マユミくんにもらったリンゴを面倒だからとそのまま齧っていたら、マユミくんが電話をくれたんだ。浮かれた僕はリンゴをテーブルに置きっぱなしにしてベランダに移動して、楽しくおしゃべりなんかして。そんなこんなをしていたら、爆発音が突如僕の耳を裂く。びっくりして急いでリビングに向かったら、そこには半壊したテーブルがあったというわけ。 1498 85_yako_pDONE鋭心先輩が本を出す話。仲良しクラファ。100本チャレンジその43(2023/9/18)例えば笑うと幼く見えたり マユミくんが本を出すことになった。なんでも、雑誌で連載していたコラムをまとめて出版するらしい。 そのコラムは僕も読んだことがある。マユミくんの好きな映画を中心として、マユミくんの好きなものが理路整然としたマユミくんらしい言葉で語られるとても好ましいものだった。アマミネくんと一緒に読んで、マユミくんってこういうのが好きなんだね、って話をしたりもしたっけ。 さぞかし素敵なものができるに違いないと他人事として楽しみにしていた僕は、マユミくんのお願いで一瞬にして当事者となってしまった。マユミくんは僕に著者近影を描いてくれるないかと頼んできたのだ。 なんで、僕に? その問いを受けたマユミくんは毅然とした男らしいカッコ良さでずいぶんと可愛らしい答えを返してきた。曰く、 1001 85_yako_pDONE想雨とジンクスと怪異です。100本チャレンジその42(2023/6/30)夜のまじない『夜に爪を切ると親の死に目に会えない』と聞いたことがある。聞かされた、というのが正しいか。 もっともこの言い伝えは『灯りの乏しい時代は夜が暗かったから爪を切ると怪我をしやすいかった』から、それをしないようにと言い聞かせるための作られた俗信だろう。昔の人は『してはいけないこと』をジンクスに絡めて禁じていた。夜に口笛を吹かないように、だとか、そういう類だ。 だからその言葉がなんのために生まれたのかの意味さえ理解していれば、こんなジンクスはくだらないとさえ思っている。もともと怪異や幽霊なんかは──軽んじているわけではないが、さほど自分には縁のない話だ。目の前で、今まさに爪を切ろうとしている僕を見つめている狐のような男は時折あやかしのように見えるが、彼だってしょせんは、人だ。 1571 85_yako_pDONE眉見鋭心の勘違いです。物悲しい。100本チャレンジその41(2023-02-26)おいてかないで 勘違いをしていた。 どうしようもないほどロマンチックで、笑えるほどに愚かな間違いを。 「それじゃあ鋭心、お留守番お願いね」 お手伝いさんにも俺を頼むと言ってどこかに出かける母とそのあとを歩く父。そうやって物心ついたときから両親が揃って出かける日があった。それが毎年同じ日だということに気がついたのは、小学校で画数の多い漢字を習い始めたあたりからだ。 いったい何の日なんだろう。カレンダーを見ても何も書いていない。平日か、休日か、祝日か、雨か、晴れか。そのどれにも規則性はなく、ただ同じ日に両親は揃って出かける。あんなに忙しい、めったに休みが揃わない両親が、だ。 ふたりしてどこに行くのかと、珍しく食い下がって問い詰めた時があった。それは興味と呼ぶにはあまりにも幼い、たんなる子供の癇癪だ。両親が一緒に休む日など、俺の誕生日を含めて年に数日しかない。俺はただ、両親と一緒にいたかった。 1365 85_yako_pDONE想雨。100本チャレンジその40(2023/2/15)桜と取り決め まんまるい頭と見やすい位置にあるつむじを見つめる。半歩先を歩く北村を視線で追うと、背中よりはつむじのほうが何倍も見やすくて愛らしい。北村が先に階段でも上れば視線は反転するか同じくらいになるのだろうが、北村の家にお邪魔するために使うのはエレベーターだ。結局、玄関の扉をくぐるまで俺は北村のつむじを見ながら歩いていた。 玄関の扉が閉まる。くる、と北村が振り向いたときも俺が意識して視線を下げなくては目線はあわない。そんな身長も年齢も離れた恋人を、俺は酷く好いていた。 「雨彦さんー」 名前を呼ばれるだけではわからない。声色はどうにもらしくない。 「……屈んでくださいー」 俺が言われたとおりに屈めば北村は近づいた唇に自らのそれを重ね合わせた。俺は北村のことを対等な存在だと思っているが、この瞬間だけは、俺にねだってみせないとキスのひとつもできない男が無性に愛おしい。それに俺は口づけを交わすためだけにあるような、この言葉が好きだった。 1203 85_yako_pDONE異星人VS牙崎。100本チャレンジその39(2023-02-10)流れ星はたまに見かける。「チビ!」 アイツの声がする。 チビ、としか言わなくなったコイツの言葉は鳴き声みたいだ。こんな動物みたいなやつが世界の救世主だと言うのだから恐れ入る。 先日、地球に異星人が舞い降りた。何をバカな話をと思うのだが、そんなバカな話を世界中の人が経験しているんだ。あの日、地球の人間すべてが異星人を見た。 異星人は手始めに世界遺産をみっつ、破壊した。そうして言った。 『牙崎漣の言葉が欲しい』 なんでアイツだったんだろう。こればっかりは本気で意味がわからないんだけど、あっという間に主要国家の派遣したなんか強そうで偉そうな人間ががアイツを確保しようとやってきた。ついでに、異星人も。アイツはそんな緊急事態でも我関せずといった様子で眠っていたっけ。 1064 85_yako_pDONE超常の薫輝(癒残)いちゃついてます。 100本チャレンジその38(2023-02-02)魔法の手のひら「癒宇」 「なんだ」 「手、握ってくれよ」 テーブルに突っ伏したまま残が癒宇に投げかける。コーヒーで満たされたマグカップからはとうに湯気が失せており、癒宇がそこに視線をやっても残は意識を向けようとすらしない。 「疲れた、から」 いつものように──いや、いつもよりも相当多くの思念を読み取った残はそのまま癒宇のいる保健室にやってきた。とうに下校時間は過ぎており、きっと、誰も来やしない。 何もかも投げ出すようにだらりとテーブルに横たわった残の腕は伸ばされることはない。ただ、少し広げるように手のひらを癒宇に向けて、残は彼の反応を待っている。 「……残」 「ん?」 癒宇の言葉には諦めにも似た重い吐息が滲んでいた。癒宇は一度だけ自分の手のひらを見つめたあと、残の指先ではなく彼のラズベリー色の瞳をはっきりと見て、言った。 1006 85_yako_pDONE想雨。愛してるゲームをするふたりです。100本チャレンジその37(2023-01-18)殺し文句は明るい部屋で 愛してるゲームを考えた人って賢いか賢くないかで言ったら相当賢いんだと思うけど、そのヒラメキをもう少し他のことに使えなかったのかと思わなくもない。いつもは意識に浮かぶことすらない思考は、愛してるゲームの当事者となった僕の脳内にぷかりと浮かんですぐ消えた。 僕の目の前には雨彦さん。周りにいたギャラリーは半分くらいに減っていて、もちろんカメラが回っているでもなし。パーティの余興で始まった愛してるゲームは決着がつかず、言い出しっぺのプロデューサーは社長に引っ張られて向こうでビールを飲んでいる。文句はあとで言うとして、いまは目の前の男に意識を向ける。僕は雨彦さんと対決中なのだ。 勝負内容は驚くほど簡単で、愛してると交互に言い合って照れた方の負け。この男はやたらといい声で「愛してるぜ」だのとほざいているが、僕はそんなことで照れやしない。驚くほどときめかない自分は薄情者だろうか。僕はこの男と恋仲だというのに。 1575 85_yako_pDONEカイレ(タケ漣)指が吹っ飛んでるがラブコメ。100本チャレンジその36 (2022-12-26)ないと困るだろ「レッカさん、とうとう体に機械いれるんですってね」 「……は?」 聞いてない。そう言えば組んだこともない後輩が意外そうに声をあげた。その声を聞いて、別にレッカが俺に了解を取る必要はないのだと想い至るがわざわざ言い出すことでもないだろう。 「……レッカはどこも機械化しない……だろ。アイツのこだわりっつーか、そもそもやる必要がない」 感覚がない機械の足で蹴り倒せば確かに威力はあがるだろうが、精度は落ちるだろうし扱いに慣れるまで時間がかかる。たかだか数週間でも戦線から離れるのを嫌がるイカレ野郎がそんなまどろっこしい真似をするとは思えない。 「それにレッカが最近した大きな怪我って指だろ? アイツは銃を使わないから機械化してまで保つ意味もないっていうか……」 1403 85_yako_pDONE秀百。いじわるしあう二人。甘い。100本チャレンジその35(22/9/7)はちみつどろぼう「甘い……」 そのリップクリームを唇に塗った瞬間、はちみつの甘い香りがした。きれいで、純粋で、粘度のある、何かを絡め取るような香りだった。 ぺろ、と舌を這わせれば味も甘い。制汗剤のCMに出たときに新発売だからともらったリップクリームは僕の趣味ではないけれど、かといって使わないほど嫌いなわけじゃない。買わない、けど、あったら使う。そういう存在がこのリップクリームだった。 使ったのはたまたまカバンにこれが入っていて、ちょっと唇が乾燥していたからだ。アイドルとしての僕は立派な商品なわけだから、ちゃんときれいに保たないと。 そんなことを考えていたら事務所についた。ぴぃちゃん、休憩中かなぁ。そうだったらいいなと思いながら扉を開く。おはようございます。僕の挨拶に帰ってきた声はひとつだけだった。 1435 85_yako_pDONE四季→漣を見てもやるタケル(恋愛感情なし)100本チャレンジその34(22/9/6)水玉病 コイツが水玉病にかかってしまった。こんこんと、しんしんと、眠り続けて目覚めない。左の指先から肩にかけてまで、皮膚を真っ赤な水玉模様が這いずっている。 水玉病は奇病だ。色素の薄い人間がかかりやすいとは言うが、それでもかかった人間はコイツを含めて世界中で百人もいない。 水玉の広がり方でわかるのだが、コイツの病状はかなりひどい。水玉病はその人を想う人間の涙に触れないと目覚めない。水玉が肩まで広がっているということは、コイツを一番に想っている人間じゃないと、この眠りは覚ませないだろう。 コイツの眉間にしわが寄っている。水玉病は悪夢をつれてくる。「かわいそうに」と泣いた円城寺さんの涙も、「あんまりだ」と嘆くプロデュースの涙も、コイツを目覚めさせることはない。みんな、薄々察していた。この二人には大切な人が多すぎるんだ。 1300 85_yako_pDONE誰かに恋する牙崎と、それを見守るタケルです。100本チャレンジその33(22/8/23)恋バナしようぜ アイツが花吐き病になった。最近流行の病気らしい。恋をすると花を吐くっていうアレだ。 俺は心底驚いた。アイツが恋とか、あり得ない。事務所全体の困惑をよそに、世間はどうでもいい『あり得ない』で盛り上がっていた。 なんでもアイツの吐く花は、地球上どこでも確認されていない未知の花らしい。円城寺さんも、プロデューサーも、みのりさんすら知らない花だ。 数回見たことがあるけれど、とてもきれいな花だった。宝石みたいにきらきらしてて、光の加減で色が変わって、夢みたいないい匂いがする、不思議な花。 最初はその見た目の美しさから少し話題になっただけだった。ところが興味を持った研究者が面白半分に調べたところ、これがとんでもない花だった。 923 85_yako_pDONEタケ漣。100本チャレンジその32(22/8/4)なかなかおちない四季さんが卒業と同時に一人暮らしをするらしい。卒業ってのはいい区切りだと思う。なにかと、新しいことを始めるのに向いている。 でも俺は学校に行ってなかったから卒業とは無縁だった。成人式は今年だけれど、酒が飲めるのか、くらいにしか思わない。酒が飲めるのは嬉しいんだけど、本当にそれだけだ。 一足先に成人したくせに、何にも変わらないコイツを見てるからだろうか。俺が成人したって、きっと何も変わらないって思ってる。コイツは成人してもふらふらしてるし、俺の家にくるくせに居着いたりはしない。なんというか、決定打があれば、二人で住むのに不自由しない広さの家に引っ越したっていいんだけど。 きっかけって大切だ。シーツをゴミ箱に突っ込みながら思う。だらだらと、端が破れても使ってたシーツは今日ようやくゴミとして俺の手を離れる。どんなにどろどろに汚れても洗っては使ってたくせに、ルージュの色がひとつ付いただけで俺はこれを捨てる気になった。 839 85_yako_pDONEウォリアサ(鋭百)100本チャレンジその31(22/8/4)シナモン・アップル・生クリーム 殺人。と一言。疑問を挟む間もなく、モモヒトは「殺人鬼とデートしたいの?」と聞いてきた。 そうだ、とも言えず、ただモモヒトと出かけたいことだけを告げる。モモヒトは考える素振りも見せず、いいよ、と笑いもせずに言う。 そのかわり、と提示された条件は三回の模擬戦を行うことだった。なんでデートに誘いたいほど好意を持った相手を戦闘不能に追い込まなければならないのかと頭痛がする。 殺人鬼、というのはもっともで、モモヒトは人殺しだ。しかしそれを言うのであれば俺だって人を殺したことがある。望む望まないに関わらず、ここはそういった人間で溢れている。 モモヒトは戦いを楽しむ節はあるが相手の生き死にに興味はないので、殺人に執着しているわけではない。それなのに組織の中の評価は悪く、モモヒトは悪辣と人を嬲る快楽殺人者だと思われることが少なくない。 1285 85_yako_pDONEクラファのわちゃわちゃギャグ。100本チャレンジその30(22/6/18)足5mあるわけないじゃん! SNSで自分たちのことは検索しないようにプロデューサーからは言われている。個人的にはSNSに疎そうな鋭心先輩はインターネットから遠ざけるのが正解だと思うし、百々人先輩みたいな繊細な人が極端で軽率な悪意に晒されるのも耐え難い。だからそれには賛成しつつ俺だけがSNSを見ていたんだけど、普通にバレた。そしてシンプルに怒られてしまった。身内以外の大人に怒られるのって結構効く。 それでも俺にだって言い分はある。反応は見たくて当然。そう言えばプロデューサーは翌日には自らが精査したコメントだけを印刷した紙の束を俺たちに渡してきた。プロデューサー、過保護っていうか俺たちのこと好きすぎでしょ。 「これが俺たちに対する意見か」 1541 85_yako_pDONE秀鋭。暗い。100本チャレンジその29(22/6/7)おしまいにうたううた。 音楽には種類がある。喜びの歌、解放の歌、憧憬の歌、勇気の歌、喝采の歌、怒りの歌、嘆きの歌。感情の数だけ、営みの数だけ、歌がある。 そして祝彩の歌があるように弔いの歌がある。終わりのための歌がある。 いま手の届くところには鋭心先輩の体温があって、夜の帳に覆われたゆりかごには生きるための鼓動がある。相反するように、テレビに映った鋭心先輩は鼓動を失っていて、棺桶に敷き詰められた花々に埋もれながら同じように瞳を閉じていた。 隣で眠る鋭心先輩の血が通った赤い頬と画面のなかの青白い頬。そのどちらも自分のものにしたいだなんて、そんな欲深いことを考えてしまう。 人生を分け合おうと誓った日、俺が結婚式で流す曲を書きたいと言ったら鋭心先輩は喜んでくれた。そうやって、人生の節目に俺の存在を許してくれることが誇らしかった。 530 85_yako_pDONE鋭百。塩対応。100本チャレンジその28(22/6/7)水曜日よりの使者「マユミくんのラジオ、毎週聴いてるよ」 俺の大学進学と同時に、俺にラジオの仕事がきた。百々人はそれを受験勉強中の息抜きに聴いてると言っていた。 「マユミくんのラジオ、毎週の楽しみなんだ。マユミくんの声、すっごく落ち着くから好きだなぁ」 百々人は大学に入学してもラジオを聴き続けてくれた。その頃には俺たちは恋仲になっていて、百々人は俺のどこが好きかをよく教えてくれるようになった。 「マユミくんのラジオ聴かなくちゃ。マユミくんも紅茶、飲む?」 百々人の習慣は俺たちが同棲するようになっても続いていた。毎週金曜日の深夜二十五時になると百々人はいそいそとラジオをつける。インテリアにもなるだろうとプレゼントしたラジオを百々人は気に入ってくれたようで、慣れた手付きでレトロなダイヤルをくるくると回してチャンネルを合わせていた。 1528 85_yako_pDONE漣。SF。100本チャレンジその27(22/6/3)と或る白蛇の伝承 世界が氷に覆われてしまった。数日前から地球は絶賛氷河期真っ只中だ。 人類もこれまでかと誰もが思ったのだが、我々はどうしようもなく神に愛されていたらしい。敬虔な信者と都合のいい無神論者の祈りを受けて、神様は私たちに不思議なストーブをくださった。 この不思議なストーブは人の思い出を燃やし尽くして熱にする。思い出が大きく美しいほど、目に見えない炎は燃え上がって地球をわずかに暖める。 そこかしこに設置されたストーブには定期的に人が思い出を焼べなければならないが、誰だってそんなことはやりたくない。大きすぎる思い出を燃やした人間がどうなるのかはストーブの前でうなだれている死刑囚の様子から見て取れた。だから、人々はささやかな思い出を焼べて暖をとる。私は財布にいつの間にか入っていたミサンガの思い出を失って、今日も元気に働いている。仕方のないことだ。暖めなければ洗濯物は乾かないし、万物は死に絶える。 1367 85_yako_pDONE秀と鋭。カプなしですが秀鋭に見えます。100本チャレンジその26(22/5/18)艶めく指先 よろしくないと思った。もちろんそれは目の前にいる男ではなく、俺のこの感情が、だ。 ユニットメンバー最年長。頼れる先輩。最強の生徒会長。尊敬というラベリングをされて棚に納められた感情という名の瓶が、突然の嵐で割られてしまったような感覚だ。そこにはたまに感じる親しみやすさとか、ちょっとかわいいと思う気持ちなんかが入り込む余地はなくて、代わりに俺の不埒な感情が棚の一番取り出しやすいところに収まっている。こんなのは鋭心先輩に抱いていい感情ではない。誰に抱いたとしても、それはたとえば恋人というカテゴリに入り込めない限り、隠し通さねばならない薄暗い熱だった。 ふ、と見ただけだ。プロデューサーも百々人先輩もいて、俺と鋭心先輩もいる。そういう、当たり前の風景にそれはそっと紛れ込んでいた。 1269 85_yako_pDONE秀百。ゲーム脳未満。100本チャレンジその25(22/5/12)ライフイズファンタジー「僕はアマミネくんが嫌い」 この人ともだいぶ仲良くなれたと思えてきた矢先、百々人先輩が歌うよう囁いた。なんだか楽しそうだから、そこだけは好ましい。 「……理由を、聞いても?」 思い出したように、ひさしぶりにこの人が少しだけ怖くなる。表情には出なかったんだろう、俺を気にせず百々人先輩は笑う。 「キミが世界の主人公だから」 「は……?」 「それでね、僕はラスボスなの」 そうして百々人先輩は人差し指をくるくると動かした。その動きに合わせてレッスン室の鏡にひびが入る──なんてことはない。起こるわけがない。 「主人公とラスボスが仲良くなっちゃったら、ハッピーエンドになっちゃうでしょ?」 ぴた、と止めた指を百々人先輩はそのまま俺に向けて告げた。 797 85_yako_pDONE雰囲気概念の想雨。100本チャレンジ、その24(22/5/7)雨男「なにこれー?」 記憶の中にある小学校。その教室にそっくりな空間に僕はいた。教室には椅子と、机と、僕。後ろの壁や目の前の黒板には、僕の詠んだ川柳が所狭しと飾られている。黒板の真ん中に、誇らしげに賞状が飾られていた。 窓からは草原が見える。そして、頭上には飲み込まれそうなほど鮮やかな青空が広がっていた。そう、空が見える。 教室に天井はなかった。蓋のない箱のなかに僕はいた。扉の先の気配は華やかに萌えていて、きっとこの箱は草原の中にぽつりと置かれているんだろう。 どこに行くつもりもないのに僕は扉に手をかける。が、開かない。振り向いて開け放たれた窓を見ると、そこには雨が吹き込んでいた。僕の頭上は快晴なのに、外はひどい雨だ。引き寄せられるように窓から乗り出して外を見れば、覗いた窓の下には見知った人影が座り込んでいた。 950 85_yako_pDONE秀と親友。BAD ENDなSFです。なんでもあり。100本チャレンジその23(22/5/2)クラゲとスピカ 俺は世界を変えた。 だがそれは想像した手段ではない。俺が先輩たちと鋭心先輩の家で映画を見ていたとき、スクリーンから出てきた未確認生命体が俺を名指しして渡してきたパズルを解いたからだ。かちりと最後のピースを解いた刹那、世界が変わった。 カチカチカチ、と組変わっていく世界を俺たちは呆然と見守っていた。空には惑星が飛び交い、感情は溢れて金平糖になってこぼれ落ち、猫が爆発的に増え、木々は喋りだし、人々は少しだけ優しくなった。他にも謎の生命体が跋扈したり、血液が甘く香ったり、とにかく枚挙に暇がない。たぶん気がついていない変化もあるだろう。とにかく、世界は変わった。変わってしまった。 その日の晩、親友のことを考えた。世界は俺の想像通りには変わらなかったけど、この世界を見たらあいつはどう思うんだろう。変化した世界をネタにもう一度メッセージを送ってみようか。そう思ってしばらく開いていなかったあいつとのトークを開く。数ヶ月も無視されていたメッセージに既読がついていた。 1351 85_yako_pDONE創作Pと漣。100本チャレンジその22(22/2/28)あとでちゃんと返した スクラッチくじが削りたかった。だけど手元に硬貨がない。 全然期待なんてしていない、駅前で気まぐれに買った安いくじだ。外回りの時にふと買って、デスクに座るまで忘れていたような紙切れが名刺入れを取り出すついでに出てきたものだから、それを机に置いて俺はもう一度ポケットを探る。ダメだ、財布はあっちの鞄の中だ。 山村くんはいまいない。事務所にいるのは漣くらいだった。漣は珍しく起きていて窓辺でぼんやりと空を見ている。窓辺の誰の席でもない物置代わりのデスクにどっかりと座って、真昼と夕暮れを彷徨う空をただ見ていた。 「漣」 名前を呼ぶと、漣は少しだけ首を動かしてこちらを見る。 「小銭があったら貸してくれ」 スクラッチくじが削りたかった。漣は財布も鞄も持ち歩かないけれど、少ない荷物のなにもかもをポケットに入れて持ち歩くことを知っている。それは万札だったり、商店街のたい焼き屋のポイントカードだったり、誰かからもらったキーホルダーだったりして、その中に小銭があることも珍しくない。 1195 85_yako_pDONE百々人。保護者あるあるネタ。100本チャレンジその21(22/2/22)ケチャップで絵を描く 僕はオムライスが嫌い。 赤いマニキュアを見た。なんだか、ケチャップによく似ていた。 撮影の余り物らしいそのマニキュアをもらっていったのはワカザトくんだった。別の人がもらっていくかと思ったけど、そういうのは言わなかった。言う前に、彼はぴぃちゃんに笑いながら口にしていた。お母さんに塗ってあげるんだ、って。 ワカザトくんのお母さんは最近、赤い髪飾りを買ったらしい。だからきっと赤いマニキュアが似合うって、ワカザトくんはそう言っていた。ふと思う。僕のお母さんの爪は何色をしていたんだろう。 爪の色が思い出せない。もっと言うと、髪に何を飾っていたかも思い出せない。最近はもう顔を合わせることもないし、そう言えば一年くらい前から僕はまともに彼女の顔が見られなかったんだから当たり前だ。察知していたのは顔色だけで、それくらいがわかればあとは気にする余裕なんてなかったからどうしようもない。 1473 85_yako_pDONEタケ漣。思い通りにならない牙崎漣の話。100本チャレンジその20(22/2/19)恋よりはありえる。 最近、アイツの夢を見る。 真っ暗な部屋に、切り取った額縁のようにモニターの明かりが光っている。それは暗闇に溶け込むような机に乗っていて、ぼんやりと浮かんでいるようだ。 机の前には椅子がある。モニターの光で半分くらいは見えるけれど、足下が底無し沼のように真っ暗だ。そういう、落下を伴うような不安定さの上に、体育座りをしたアイツが乗っている。 俺はそれをぼんやりと見ている。手は思い通りに動くし、きっと声を出そうとしたら好きな言葉を投げかけられたはずだ。それなのに、俺はそれすら怠って、ただモニターの無機質な光に照らされるアイツの髪がちかちかと輝くのを眺めていた。 歩けば近寄れる。近寄れば、真綿から羽化した虫が羽を動かしたような音が絶え間なく聞こえてきて、耳鳴りみたいだ。そういうどうしようもない音はコイツを見つめているうちに意識の外に追い出されて、俺は完璧な沈黙の中でコイツを見つめる。コイツは俺の存在なんて知ることをせず、モニターをじっと見つめていた。 1047 85_yako_pDONE百鋭。おなかのすいた百々人くん。100本チャレンジその18(2022/2/6)最初で最後 目が覚めて悲しくなった。どうしようもなく、僕はおなかがすいていた。 視界にはマユミくんの部屋がぼんやりと映っている。僕は寝返りを打つ。そうすると、目を閉じて規則的な寝息をこぼすマユミくんが当たり前にそこにいた。 片手の指では足りないほど、こうやってマユミくんのベッドで眠ったことがある。こんなに大きな家に客用の布団がないわけなんてなくて、つまりはそういうことだ。ただ伝えたい気持ちと性欲がどうしてもうまく噛み合わなくて、ちぐはぐなまま指を絡めたり、抱きしめあったりして夜を過ごした。 ここは僕の家じゃないから勝手に食べていいものはない。マユミくんは寝ているから空腹を訴えることもできない。もっともマユミくんが起きていたとしても、何かをうまくねだるというのは僕にとってはとても難しいことだった。冗談混じりに笑うか、表情を崩さずに我慢するか。それが僕に取れる『最善』だった。 1835 85_yako_pDONE鋭百。増える眉見と選ばなければならない百々人くん。100本チャレンジその19(2022/2/7)スイーツパニック マユミくんが二人になってしまった!曰く、二人のマユミくんのうちの片方はパラレルワールドからきたマユミくんだそうだ。 彼らが言うにパラレルワールドに至る分岐点を作ってしまったのは他ならぬ僕で、なんでも僕が何の気なしにチョコレートとビスケットを取り出して「どっちのお菓子、食べる?」とマユミくんに問いかけたのが原因らしい。そこでマユミくんがどちらのお菓子を選ぶかで世界は分岐するのだと、彼らは言う。それってマユミくんのせいな気がするけど、分岐点の発生が悪いんだって。 とりあえず便宜上二人は『チョコのマユミくん』と『ビスケットのマユミくん』と呼ばれるようになった。アマミネくんが頭を抱えている。 二人に明確な違いはないように見えるが、彼らには大きすぎる違いがあった。なんと、あろうことかチョコのマユミくんは僕に恋をしていると言うのだ。恋するマユミくんがいる世界とそうではないマユミくんがいる世界のどちらがパラレルワールドなのだろう。僕は自分がどちらの世界の花園百々人なのかがわからなくて途方に暮れる。 1138 85_yako_pDONEタケルと漣(カプ未満)100本チャレンジその17(2022/01/31)太陽を掴んでしまった「太陽みたいだな、オマエ」 みたいもなにも、結果は陽性だったのだからコイツは紛う事なき『太陽』だ。『太陽』というのは俗称で、本当はカタカナのたくさん並んだ名前がついていたけれど、俺は正式名称を覚えていない。ただ、そういう現象──いや、病気があるというのはずいぶんと周知されていた。 太陽。なんというか、神秘的でやかましい病気だった。きらきら、というよりはぎらぎらと、煌々と髪が光るのだ。目を焼くほどの圧倒的な光量で、自然発火しない程度の熱を発する。太陽なんて大層な名前に怯んでいると、拍子抜けするような、そういう病気。日本人の発症は少ないが、それは髪が黒いケースが多いからなのだろう。コイツみたいな銀の髪が煌々と燃えるのは、なんだかちょっとかっこよかった。 1467 85_yako_pDONE輝薫。すれ違う二人。100本チャレンジその16(2022/01/18)コーヒーは声をかける口実 二人きりの時間が、一人と一人の時間になって数十分は経っただろう。俺たちはソファーに腰掛けて、それぞれ好きなことをしていた。 桜庭は台本のチェックをしていて、俺は雨彦が出ている雑誌を読んでいた。最近は俺にも大人の魅力を押し出していくような仕事が増えてきたが、やはり雨彦や山下サンのような色気が出せるかと言えば難しい。事務所のみんなからは学ぶことが多いので、こうやってみんなの仕事を確かめるのは癖になっていた。 特集ページを読み終えて一段落したら、ふと視線に気がつく。ちらりと横に目をやれば、桜庭が台本を放って俺のことをじっと見ていた。 「……桜庭?」 短く、名前を呼ぶ。俺の意識が向いたことに気がついたんだろう。桜庭が口にする。 992 85_yako_pDONE鋭百に巻き込まれる秀くん100本チャレンジその15(2022/01/14)【急募】犬。 嫌な予感は大抵当たる。これは予感でもなんでもないけど。 「秀……その、百々人は?」 別に鋭心先輩は百々人先輩の現在地点や体調が知りたいわけではない。それでも、ささやかな抵抗として彼が求める返答はしなかった。 「グループトークがきてたでしょ? 打ち合わせですよ。さっきまでいたんですけどね」 ぐ、と鋭心先輩が言葉に詰まる。そうして少しだけ考えるように息を吐いた後、意を決したように声を正して口を開いた。 「その……百々人は、何か変わりなかったか?」 「なにかって、なんですか?」 「その……たとえば……いつもと違うところはなかったか?」 この期に及んで明言を避けるもんだから、ため息ひとつをつけて返してやった。 「百々人先輩は鋭心先輩と喧嘩してたって、俺への態度は変えませんよ」 1247 85_yako_pDONE秀→百々。秀くんの片思いです。100本チャレンジその14(2022/01/13)素知らぬ視線 自分の歌声がテレビから流れているのにも慣れてきた。俺の声と、柔らかで少し掠れた百々人先輩の声と、真っ直ぐで力強い鋭心先輩の声が重なるのを聞きながら、やはり二人を選んだ俺は天才なのだと再認識する。 「変な感じだね。僕がふたりいるみたい」 柔らかな声は歌声とは少し響きが違う。俺はそのどちらも好きだし、そう伝えたこともある。百々人先輩は誰にだって向ける笑顔で、ありがとうと返しただけだったけれど。 「俺は慣れましたけどね。それに、これからどこにだって俺たちがいるようになりますよ」 返す声はひとつしかない。鋭心先輩は事務所にみかんを差し入れたあと、打ち合わせへと向かってしまった。テレビを見ているのは──ここにいるのは、山村さんに留守を頼まれた俺と百々人先輩だけだ。 1139 85_yako_pDONE後輩をからかう先輩二人です。100本チャレンジその13(2021/12/28)放課後アフタートーク 悪戯心にも満たない出来心だった。のんびりとただ三人で同じ空間にいるだけ時間に、僕は言葉を落とす。 「アマミネくんって天才なんだよね?」 改めて口にすると、なんだかすごい問いかけだと思う。そんな質問にアマミネくんは平然と答えた。 「ですね」 アマミネくんのこういうところ、すごいよなぁっていつも思う。アマミネくんが自信満々に返した言葉は、僕の望んだものだった。 「じゃあ、聞いたら何でも教えてくれる?」 「そうですね。俺が今わからないことでも調べればわかりますし、大抵のことは教えられますよ」 情報収集は得意なんです。そう誇らしげに胸を張るアマミネくんに笑いかける。 「じゃあ、教えてほしいことがあるんだ」 「はい、なんですか?」 870 85_yako_pDONE秀+百々人。恋になりそうにない話。100本チャレンジその12(2021/12/28)キミに恋してない たまにアマミネくんがきらきらしてるのって、なんでなんだろう。 例えば今みたいに三人でぼんやりとどうでもいい話をしているときなんかは、きらきらしてるって思わない。してるのかもしれないけど、ちょっとわからない。それでも、たまにアマミネくんはきらきらに見える。それは僕がアマミネくんに抱くぐちゃぐちゃした感情のせいなのかもしれないけど、それできらきら見えるってどういうことなんだろう。そんなことを思っていたら、アマミネくんはエスパーみたいに口にした。 「そういえば、好きな人がきらきら輝いて見えるって言うじゃないですか」 「え?」 「聞いたことがあるな」 マユミくんは賛同したけど、僕はとっさに「知らない」って言ってしまった。でも、「違う」と言わなかっただけ褒めてほしい。だって輝いて見えるのは好きでもなんでもないアマミネくんだったから困ってしまったんだ。いや、嫌いじゃないけど、こういうときに言う『好き』とは絶対に違うってわかってる。 1564 85_yako_pDONE鋭←百。恋と遺影の話。100本チャレンジその11(2021/12/23)キミを看取るカメラ「マユミくん」 視線をあげれば、ぱしゃり、とシャッターが切られる音がした。レンズの向こう、百々人が俺を撮っている。昔に流行った機械だ。そのまま百々人の手の中に、映し出された俺の写真が収まった。 「なんだ。俺を撮っているのか?」 百々人は紙を振っている。なぜ、だろう。きっとなにか理由があるはずだが、それを取り立てて聞く気にはならなかった。 「うん。……遺影、撮ってる」 物騒なことを言う。だが、なぜか否定する気にはならなかった。それはきっと、百々人にとって必要なことなのだろう。ただ、はいそうですかと言うわけにもいかない。 「……死ぬ予定はない」 百々人は特に驚きもせずに言った。白状した、と言えるだろう。 「僕が殺すの。……いまのマユミくんは死んじゃうから、記念」 916 85_yako_pDONEアイツの概念が欲しいタケル。カプなし。100本チャレンジその10(2021/12/19)結局天井した アイツがいない。アイツがほしい。いや、語弊があるな。俺はアイツの演じたキャラクターが欲しかった。 俺たちがハマってるゲームに新規実相されたキャラクターの声を当てたのは、よりによってアイツだった。そのキャラクターのカードを入手すると読めるエピソードには既存のキャラクターもたくさん出てくるらしく、俺の好きなキャラクターもでるらしい。おまけにそのキャラクター自体も見た目がかっこよくて、しかも強いときた。紹介エピソードを見る限り、かなりの好青年であることも知っている。声がアイツなのにいいやつだとか、バグみたいだ。 最高レアリティで実装されたアイツ──便宜上アイツと呼ぼう──を手に入れようとして、手持ちのアイテムをすべて使ったけどダメだった。まぁ、とにかくこない。あと二万円使えば確実に手にはいるのだが、なんとなしにそれは癪だった。いわゆる『天井』と呼ばれる行為の初めてを、よりによってアイツに捧げるというのは、なんかムカつくから。 1233 85_yako_pDONE鋭←百。はじめましてが気楽な百々人。100本チャレンジその9(2021/12/19)いいこでいたいの 鋭心先輩に穴が空いた。それも、ふたつ。 ひとつは俺の記憶に、ひとつは百々人先輩の記憶に繋がっていたものだから、鋭心先輩からは俺たちの記憶がさらさらと流れ出してしまう。カップケーキに乗った銀色の玉のようなそれは必死に集めようとしても触れた瞬間に溶けてしまうから、拾い集めて戻すことも叶わない。 さて、どうしたものか。数日の後、プロデューサーがちょうど穴を塞げそうなパーツを持ってきた。珍しいものだからひとつしかないと、申し訳なさそうに告げて手のひらを広げてみせる。 探せばまだどこかにあるかもしれません。プロデューサーは希望的観測を口にしたあと、俺と百々人先輩を交互に見て黙ってしまった。気持ちはわかる。当事者は俺と百々人先輩だから。 1635 85_yako_pDONE仲良くなったクラファ三人の仁義無きクソ土産バトルです。100本チャレンジその8(2021/12/14)仁義無きクソ土産バトル 突然だが、話は半年前へと遡る。 半年前と言えば、俺たちの仕事も軌道に乗って個別の仕事や地方ロケも増えてきた頃だ。仕事に慣れるのと同時に俺と先輩たちの距離も近づいて、俺たちはそれなりに気の置けない仲になっていた。そう、俺たちは出会った頃に比べてかなり仲良しなのだ。これは俺が今からする話において重要な点なので念頭に置いてほしい。 そう、俺たちは冗談を言い合える仲になっていた。けしかけて、じゃれあって、みたいな。そうしたいわゆる悪ふざけの延長で、俺と百々人先輩の抗争は勃発したのであった。 「はい、アマミネくんのぶん」 そう言って手渡された地方ロケのお土産は鋭心先輩に渡されたお土産とはサイズ感がだいぶ違っていた。鋭心先輩へのお土産はおいしそうなフルーツゼリーで、なんでも百々人先輩が試食したなかで一番おいしかったのだとか。 1614 12