味に例えば 溶けたアイスが手首を伝う。
なんてことない、たんなる比喩だ。夏空に溶けた青春の思い出なんてものが、べたべたとこの手を汚していく。
ぺろり、舐めてみようか。甘い味なんてしない。わかってるよ。甘い味どころか、必死に汗をかくことすら忘れたこの体からは塩気すらしない。漂うのは、諦めたような肉の味だけだ。
そんな自分も指導者とやらになって、少しは味のある人間になったつもりだった。
だってね、出会うなんて思ってなかったんだ。この身を焼き尽くす情熱というやつに。
「できれば君たちにも手伝ってもらいたい」
隣からはやるやる、と気軽な声。おじさんを射止める二つの視線。ああ、夢見る一攫千金よ。
こくり、頷いて見せる。こうなりゃやってやろうじゃない。その情熱に焼かれてみるのも悪くない。
384