ユートピアはもうすぐそこ ずいぶん寂しいところまで来た。停滞しながらゆるやかに朽ちていくけれど人の熱が溶けている、僕が過ごしたことのない景色が目の前に広がっていた。
こういう建物より木々が多くて人の呼吸が遠くにあるようなぽつりとした場所が電車を使えば一日もかからずにつけるっていうのは知ってはいたが実感がなくて、隣に望海さんがいることも相まってちょっとした旅行みたいだと思ってしまった。僕はお父さんやお母さんと一緒に旅行をしたことがなかったから、嬉しくて、切なかった。望海さんと一緒にいれて嬉しい。望海さんが本当のお父さんだったらいいのに。いや、違う。僕は望海さんと本当の家族になるためにここまできたんだ。
僕の持ってるお金は全部おろして持ってきたけれど、少しでも節約したかったから一番安い切符を買って電車に乗った。改札は移気揚々で越えてしまおうかと思っていたけれど、駅には誰もいなくて改札すら存在しなかった。それでもやましいことがある僕らは一煌極致で姿を消して何も遮るもののない改札口を通る。望海さんがぼんやりしてるから、そのあたたかい手を取って、なるべくゆっくりと誰もいない道を歩いた。
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