85_yako_p カプ入り乱れの雑多です。昔の話は解釈違いも記念にあげてます。作品全部に捏造があると思ってください。 ☆quiet follow Yell with Emoji Tap the Emoji to send POIPOI 434
ALL タケ漣 鋭百 カプなし 天峰秀 大河タケル 100本チャレンジ モブ 牙崎漣 花園百々人 想雨 カイレ クロファン C.FIRST 眉見鋭心 天道輝 ミハレナ ダニレナ 既刊 伊瀬谷四季 蒼井享介 蒼井悠介 W 若里春名 華村翔真 Altessimo 神楽麗 都築圭 古論クリス 葛之葉雨彦 レジェンダーズ 北村想楽 百鋭 秀百 薫輝 THE虎牙道 タケ漣ワンドロ web再録 誕生日 くろそら 途中 秀鋭 卒業 ケタザザ 短歌 プロデューサー 円城寺道流 叶納望海 御田真練 超常事変 渡辺みのり 癒残 堅真 ウォリアサ R18 街角探偵 わからん 九十九一希 四季漣 親友 輝薫 書きかけ 黒紅 道漣 DoS幻覚 ドラスタ 桜庭薫 BoH 春隼 サイバネ 山下次郎 寸劇 左右わからん しのかみしの 東雲壮一郎 ハイジョ レナート ミハイル S.E.M じろてる 旬四季 北冬 東雲荘一郎 秋山隼人 悠信 神谷幸広 アスラン そらつくそら 四季隼 140SS 黒野玄武 冬美旬 冬春 ゲーム部 ジュピター 卯月巻緒 四季秋四季 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ46「スタート」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。タケ漣。開演ブザー「チビ! 勝負だ! 事務所まで先についたほうが勝ちだからな!」 言うが早いか、アイツはあっという間に駆け出した。いや、オマエはさっきまでたいやきを食べていたはずだろう。少し円城寺さんと話してただけで、すぐこれだ。円城寺さんに視線をやれば、その目は『いってこい』と告げている。別に行く義理なんてないのだが、例え無茶苦茶なオレ様ルールに基づいた判定でも、得意分野で負けるのは癪だ。 距離は空いてしまったが、足なら俺のほうが早い。なびく銀の髪を捉えるべく、俺は思い切り駆け出した。 「チビ! 勝負だ! 先に食い終わったほうが勝ちだからな!」 宣言するときには、もうコイツはチャーシューを頬張っている。俺はと言えば、ラーメンを受け取ったばかりで割り箸すら割ってない。 2261 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ44「!」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。ワンダーランド 大変だ。どうやら俺は漫画の世界に迷い込んだ。 とんでもなくバカげていて、突拍子もないことだとわかっている。夢みたいな世界。でも夢にしてはちょっと長すぎなんだ。 ここは現実に限りなく近い。ただ一点だけがおかしくて、他におかしなところはない。妙にリアルで、でも夢としか思えない世界に俺はいる。流石に一週間もこの世界にいると現実がおかしくなってきたような気分になったので、俺は異世界に迷い込んだことにした。 今日も日が昇る。俺はロードワークに出かける。悩みの種が俺を追いかけてくる。 「おいチビ! 無視すんじゃねえ!」 振り向かなくても誰だかなんて一発でわかる。それでも俺は振り向く。すると、自分で呼んだくせにコイツは少し驚いてみせる。そのちょっとだけキョトンとした表情の横に、小さな『!』マークが浮かんだ。 1707 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ42「挑戦」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。卒業軸の同学年タケ漣。モブくんがたくさんでます。魔法を解いて! 何事も挑戦とは言うが、挑まなくてもいい壁はある。 「じゃ、次の時間に牙崎と大河の一騎打ちだな」 黒板に書かれた『牙崎』と『大河』の文字。正の字が示す票の数は同数。 このままでは、俺は比喩でもなんでもなく、シンデレラになってしまうのだ。 * 「牙崎ってまつげ長いよな」 「はぁ?」 弁当を食いながら俺は言う。ここで同意を得られればいいのだが、学友の反応はイマイチだ。 「髪も長い。色も白い」 「でも大河は顔が可愛い」 「かわいくない」 牙崎は髪が長くて色が白いから。不本意だが、俺は童顔だから。そんな理由で俺たち二人のどちらかは、文化祭でお披露目する『男女逆転シンデレラ』のシンデレラになりそうなのだ。 「いいじゃねーか。白雪姫みたいにキスシーンがあるわけじゃないし」 4950 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ40「外」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。ダニレナ。期待の話。月に願いを 全てを知っているわけではない。でも、うつくしい人だと思う。 スラムでは見たことのない銀の髪も、あとからハチミツというものを知ったときにそっくりだと思った瞳の色も、その生地だけで一週間は食っていけそうなスーツを着こなす佇まいも、切れ長の瞳を細めて笑うさまも。好ましいものはいくつもあった。 そして、なにより優しさと生き方が好きだった。本気ですべての人の幸せを願っている、その危うげな精神が。 * 「外面に騙されてんだろ」 エディはレナートのことが嫌いだった。嫌いだと明言こそしなかったが、二人きりになるとエディはとたんにレナートを悪く言う。エディの言う『妥当な評価』はおれの気持ちとはどんどんかけ離れていって、だんだん温度差が生まれるのがわかる。 4802 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ39「愛」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。タケ漣。愛について。シンプルストーリー なんだかアイツが変わった気がする。 なんというか、世話を焼かれている。前から水なんかはくれていたけど、最近は水以外も色々くれる。 最初はたいやきのしっぽ。差し入れのおまんじゅう。ぽっけから出てきた飴玉。一番ビックリしたのが、ラーメンのチャーシュー。俺が凹んでたり、ちょっと迷ってたり、なんだか困っている日にコイツは必ずと言っていいほど何かをくれた。 そういう、ちょっとした積み重ねに俺が返せたものはそんなに多くない。大抵はその時持っていたものを適当に。手持ちがないのは困るけど、アイツのため何かを買うってのが照れくさくて、いつも同じクッキーを持ち歩いていた。俺はコレが好きなんだ、って。それで何かをもらったときとか、なんでもないときとか、そういうときに個包装の一個をかばんから取り出して、これでチャラだというように差し出した。アイツはいったい何枚のチョコチップクッキーを食べたんだろう。たまに粉々に砕けてしまったクッキーを渡されて、何を思ったんだろう。 2016 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ38「例」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。クロファン。大人になりたいクローくん。例えばの最適解【命題】 愛について 【前提】 僕はファングが好き。 僕はファングが大好き。 僕はファングを愛してる。 ファングは僕が好き。多分。 わかんないけど、きっとそれだけ。 だから、全然足りないんだ。 【例題】 僕たちは生き残った腹いせみたく、任務の翌日は一昔前に流行った曲が流れるダイナーで食事をとると決めている。 僕はアメリカンクラブハウスサンド、ファングはワッフルとフライドチキン。そんないつもの光景を見ていると、ファングと結婚したら食事は僕が作ろうという気持ちが強くなる。鶏肉にメイプルシロップをたっぷりとかけてワッフルと一緒に頬張るところも大好きだけど、樹液まみれになった揚げ鶏を愛せるかっていうのはちょっと別の話だ。 4223 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ37「大」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。クロファン。すけべ。そうして僕らは途方に暮れる 子猫に噛み癖があったと知ったのは、転職してしばらくしてからのことだった。 * オレたち三人がおそろいでまとっていた血と硝煙の匂いは、殺しよりも数倍は難しい就職活動を機に各々形を変えた。 オレは配達する新聞から移ったインクの匂い。クローは花家の店先に並んだ色とりどりの匂い。セブンは評判の店が毎朝せっせと焼き上げるパンの匂い。 確か、あの子供は甘い匂いがした。孤児院に預ける時にセブンはもう会えないと自嘲気味に呟いていたが、オレたちの健全な働きっぷりを思えば会いに行くのも悪いことではないだろう。まぁ、あの年だ。オレたちのことなんて覚えていないと思うけれど。 オレはクローがわざわざ買ってきた花を見ながら、インクの黒が滲む手でセブンがもらってきたパンを食べる。オレとクローは人殺しをしていたときと変わらない様子で喋るけど、セブンはなんだか憑き物が落ちたような顔で笑う。 4305 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ35「スマホ」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。ダニレナ。ダニーくんを無垢にしすぎた自覚はあります。雨音と心音 レナートの部屋はいつも雨音がする。 * 最初、雨が降り出したのかと思った。 その日は晴れていて、真昼の空に浮かぶ月が冴えていた。さっきまで物音一つなかったのに、レナートの部屋のドアを開けたら雨が降り出した。きっと星が見える夜だと思っていたから、なんとはなしに残念な気分になってしまう。表情に出てたんだろう。レナートがふわりと笑っていった。 「書類か、ありがとう。……たいしたものはないが、ビスケットがある。ミルクも」 残念な気分と言っても、何に対して残念なのかもわからない薄靄のような感覚だ。それをレナートはどうとったのだろう。おれをあやすように、もう少しだけ扉を開く。強すぎない灯りが揺れる部屋。ざぁざぁ、雨音が強くなる。 2543 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ33「近い」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。暗めのタケ漣。あながち悪くない「バカらし」 甘酒を飲みながら漣は呟く。その声のトーンは呆れを通り越して、侮蔑の色が滲んでいる。 タケルはその言葉を諌めようとした。少しばかり感情が喧嘩腰になっていたから、否定したかったと言っていい。ざわめきの中でその言葉を聞いていたのはタケルと道流だけだったけど、きっとその言葉で傷つく人間がいるとタケルは感じていたからだ。 初詣は人ばかりで駆け出しのアイドルが三人揃って歩いていても誰も気がつくことはない。三人は配られていた甘酒を飲みながら歩いていた。そこかしこで甘酒の匂いと冬の匂いがする、雪のない、星のきれいな夜だった。 がらごろと、鈴が鳴る。道流の手によって、それに倣うタケルの手によって、神様を振り向かせるように鈴が鳴る。おい、という声に急かされてなお、漣の手は鈴を揺すろうとしない。漣はこの場から離れたかったが、すっかりお見通しの二人に両側をガッチリと固められていた。道流が言う。「なあ、何がそんなに嫌なんだ?」 3405 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ32「ひる」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。クロファン。昼夜逆転。大迷惑 最近、昼と夜がひっくり返ってる。おはようと笑うのは三日月で、眠るつもりかと太陽が責め立てる、そんな日々だ。 何も不摂生というわけじゃなく、これはれっきとした任務なのだ。僕とファングは夜に起きて朝に眠る。仕事場が不夜城なので致し方ない。 僕はデキる男なので文句は言わない。ファングも行きつけのハンバーガーが食べれないこと以外は気にしていないようだ。どこかで聞いた通り、配られたカードで勝負するしかないのさ。だから当然、逆転した生活にも楽しみを見いださなければならない。退屈はファングの瞳を殺していくので、定期的に刺激を与えないとならないんだ──死んだ目のファングも、それはそれで色っぽいんだけど。 まず僕たちは起きてすぐに星を見た。僕はそれなりに予習をして星座の名前やロマンチックな逸話とかを仕入れてきたのに、ファングはものの五分で飽きた。ファングが僕の話を聞かないなら僕だって飽きる。あんな遠くの光に価値なんてない。ファングと一緒に笑えないものは総じてガラクタだ。結局星は朝のニュースの代打にもならないと知った。星を見ながら食べるシリアルはちょっとロマンチックだと思っていたのに。 2423 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ31「期待」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。ケタザザ。発情期ネタです。春景色 こんなことになるんだったら、大人になんてなりたくなかった。 子供のうちに好きだって伝えておけばよかった。 * 狩りの群れに混ざるようになってから、三回目の春が来た。春になるといろんな生き物が元気になる。俺は赤い果実と青い羽の鳥がおいしくて好きだ。春はおやつがたくさんあって、秋と同じくらい好きだった。 ザザキだって昔は春がくるとはしゃいでいた。素振りは見せなかったけど、わかる。目を細める回数が増えて、少し明るい声で話す。それを知っているのが俺だけならいいって、よく思ってた。二人で一緒になって、黄色くて小さい花が咲く野原で追いかけあった。負けない、って笑いながら。 ザザキのことが好きだった。でも、どこが好きかと言われると困ってしまう。小さい頃から一緒だから、いなくなったときのことが考えられないって言ったほうが正しいのかもしれない。俺に兄弟はいないけど、ザザキのことは家族だって思ってる。悪友って言葉を聞いたって、親友って言葉を聞いたって、真っ先に浮かぶのはザザキのことだ。好きって単語を口に出す時に考える相手だってザザキだった。 4131 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ30「駆け引き」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。カイレ。嘘と煤けたワンダーランド 目の前の男が腕に抱える粘土のような携帯食料と貴重な水が入ったボトルの数を見てわかったことは、「ああ、このバカはまた騙されやがったな」ということだった。 遠征任務ではバカみたいな量の水を持ち歩くわけにはいかない。その点、人類の英知である現金というものは持ち運びがしやすいことこのうえない。水にも酒にもなるしな。つまり現地調達は理にかなっているのだが、このカイという男は、とにかくそれがヘタクソなのである。 任せなければよかった。という判断ミスを悔いる気持ちと、散々買い物の仕方は教えてやっただろう。という恨み節。うまく両立ができない感情ごとオレ様なりの正論をぶつければ、普段から仏頂面を崩さない整った目元がムスッと歪んだ。 4367 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ29「すぎる」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。クロファン。パブロフの犬的な。りんごとはちみつ「最悪」 ふさいでいた唇が自由になって、まっさきにクローが吐き出した言葉がこれだった。オレはといえば舌にこびりついたどっちのもんだかわからない血の味が心地よい。 「なんだよ。いつもは赤ちゃんみたく口寂しくしてんのに。キスは大好きだろ?」 「……僕は血の味が嫌いなんだよ。そもそも、血って好きじゃない」 血液の詰まったズタ袋がなんか言ってる。さっきまで舐めあっていた箇所は錆びついた味がして、クローが思い切り唇を切ったことがわかる。血の味なら、オレがちょっかいをかけなくても口には鉄の味が広がっていたはずだ。オレのせいじゃないと告げれば、ファングだって口を切っていると返される。お互い様だった。 「そもそも、そんなに血まみれの服で近寄らないで。血の匂いで鼻が曲がりそうだ」 2256 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ26「視線」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。ちょいホラー。あの子がほしい 最近、妙な視線を感じる。 確か小学校でのロケを終えたあたりからだ。あの仕事は楽しかった。子どもたちと追いかけっこをして、肝試しをして、一緒にカレーを食べた。そんな楽しい時間の直後からこの憂鬱だ。少し残念な気持ちになってしまう。 例えば仕事の帰り道。例えばレッスンに向かう途中。ロードワーク中にだって視線は感じていた。ヤバいなって思ったのは、最近は家でも視線を感じること。俺がいるところ全部に見ず知らずの視線があるのだ。 それでも俺は呑気に構えていた。というか、家まで視線がついてきたらお手上げだ。どうしようもない。ある種の諦めと、そのへんのやつになら勝てるという慢心があった。むしろこの視線が熱狂的なファンだった時のほうが問題だって思ってた。だって、殴るわけにもいかないし。いや、強盗とかだって殴っちゃダメなんだけど。 4002 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ25「星」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。カイレの星の話。星の見えない夜に この空には星がないと言うのは大嘘だ。屋上に登れば誰も寄せ付けないとでも言うように冬空が鋭利な視線でこちらを睨みつけてくる。その眼差しは確かに光を内包していない。目を凝らしても、足元に広がった文明という光が邪魔をする。 でも、確かに星はあるのだ。光のないスラムの、最下層の最下層。スクラップで作り上げたアジトから見上げた空の、かすかな光を覚えている。あの時あったんだ。今になって消えちまったって道理はないだろう。オレ様は空にはまだ星があると、むずかゆい言葉で言えば信じている。 冷たい空に星は見えない。否、オレ様が見つけていない。それだけだ。 わかってはいたが寒い。オレ様はこのヤニ臭くてワンサイズ小さいジャケットしか羽織っていないから当たり前だ。さっきまで繋がっていた相手のジャケットはどんどん冷えてオレ様をせっつく。とっとと要件を済ましちまおう。 4037 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ23「かぜ」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。風邪の話。恋と病 隼人さんはモテたいってよく言うけど、モテてどうしたいかって聞くと返答はふわふわしてる。別に俺はイジワルがしたいわけじゃないけれど、彼女という存在にイメージが沸かない以上、やっぱり数回に一回かは疑問を返してしまうわけで。 「例えば、彼女にされたいこととかがあるのか?」 俺の質問に隼人さんは赤くなる。隼人さんはわかりやすくて助かる。俺みたいなやつは、言葉にしてもらうか行動で示してもらわないと何かを取りこぼしてしまうから。 「んんー……例えば、お弁当作ってもらったり……あと風邪ひいたらお粥をふーふーしてもらったり……?」 「お粥……彼女とは一緒に暮らしてるのか」 同棲か。そう呟けば大慌ていた隼人さんが即座に否定してくる。隼人さんのビジョンだと、一人暮らしで風邪を引いてしまった自分のもとにスポーツドリンクを持って現れた彼女が冷蔵庫にあった卵でお粥を作ってくれるのがいいらしい。具体的だ。 3203 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ22「器用」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。ダニレナ。消失トリック エディが死んでからとにかく忙しい。欠員がでたことによる忙しさはもちろんあるだろう。ただ、それ以上に、みんなが誰にも見せないように寂しさだとか悲しさだとかを抱えているように思えた。 願望、なのだろうか。おれはエディが死んで悲しかった。エディは仲間だった。だから、仲間だったはずのみんなにも悲しんでほしかったのかもしれない。数日しか時間を共にしていないユーリーにだって、俺は怒りではなく悲しみを抱いていてほしかった。 「あー……つかれた……」 ユーリーはそう言って机に突っ伏す。ばらばらと落ちた書類はレナートが抱える紙束の半分以下だが、それはユーリーが新人だから能力が劣るというわけではない。単純に、レナートの仕事量が異常なのだ。もともといつも仕事しているようなやつだけど、最近は輪をかけてそれが顕著だ。 3379 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ21「あき」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。アキネーターの話。ないしょのキスはバニラ味 あーイライラする。それもこれも、全部あのくだらねえ企画のせいだ。 この前のバラエティ。えっと、『あき……なんとか』とか言うやつの話だ。ターバンを巻いたおっさんの質問に答えていくと、考えてた人間がバレるってやつ。 質問に答えていって事務所の人間を出したり──四季のことを考えていたら本当に四季のことを当てられた──いろんな話をしたけど、そっからユニットの絆みたいになったのがホントに意味わかんねぇ。なにが『らーめん屋とオレ様、どっちがチビのことを知ってるか』、だ。 まず、チビの身長。そんなの『オレ様よりチビ』で十分だ。それなのにこれじゃハズレなんだと。事務所のコウシキプロフィールとか、知らねえし。らーめん屋は知ってたけど、答えはどうでもよすぎてソッコーで忘れた。 1921 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ15「音」既刊『タケ漣ワンドロアソート』で全文公開してたサンプルをこっちにも持ってきました。タケ漣です。オリP注意です。(2020/8/16)月の裏側「ねえ、面白いもの見たくない?」 プロデューサーの笑顔には数種類あるってのが、それなりに長い付き合いでわかってきた。これは一番良く見るたぐいの笑顔。誰かを驚かせたくて仕方がない笑顔だ。 隠しもしない悪巧みに俺は近づく。その指先では企画書がひらひらと泳いでいる。 「……ウォーキングアクト?」 見覚えのない単語だ。更に言えばその企画書に書かれていた名前は『大河タケル』ではなく『牙崎漣』。てっきり俺に面白い仕事を持ってきて、俺を驚かせるんだと思っていた。 「わかりにくいよね。これね、大道芸」 大道芸っていうと道端にいるピエロ、だろうか。アイツがド派手なメイクをしている姿を想像すると、驚きより面白さが勝る。それでもあの銀の髪に派手な装飾は似合うのかもしれないだなんて思ってしまった。 5629 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ129「薔薇」(2021/12/10)満月に、薔薇一輪 見慣れた光景に溶け込んだ、見慣れた人間だ。来客用ではない、柔らかいソファに沈む銀色の髪と、寝息。 いつも通り事務所のソファで眠っていたコイツは、珍しく誰の干渉も受けずに目を覚ました。俺は台本から視線をあげてコイツを見る。春名さんが差し入れてくれたドーナツを渡さなければならないからだ。 ドーナツがある。そう言えば、寝ぼけながらぼんやりとこちらを見るはちみつ色の瞳。その瞳の奥に、なにか、違和感を抱く。 見慣れた瞳が見慣れないものを抱えている。満月のような瞳の奥に閉じ込められたように咲く、黄色い薔薇が見えた。 何重にも重なった花びらは瞳と色が似ていて、境界が曖昧だ。琥珀に埋まった虫のようなそれは何かを映しているだとか、そういうものではないだろう。どうにも現実感のないその花をじっと見ていたら、コイツは不思議そうに、不服そうに口をひらく。 3992 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ114「遊」(2021/08/06)不公平ゲーム「シユー?」 「試遊、な」 「ふーん」 俺の手元を覗きこんでいたコイツは頬に触れそうなほどの距離をあっけなく離す。シユーの意味を聞かなかったのは興味がなかったわけではなく、単純に面白くないという気持ちが勝ったのだろう。 さっき散々プロデューサー相手に騒いでいたから、言いたいことはもうないらしい。それでも気が済んでいるかといえばそうではなく、俺のことをじっと見つめている瞳は不満げだ。 「……なんだ?」 「チビだけかよ」 「オマエはゲーム好きじゃないだろ」 俺の手元には、まだ販売されていないゲームがある。俺が何度かインタビューやトークで「好きなんだ」と話していたゲームの続編、そのテストプレイをなんと俺が担当することになったのだ。 4855 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ97「嘘」(2021/04/02)例えば別れの言葉とか「なんで嘘なんざつくんだよ」 コイツは『できない』とは言わなかったが、演技をする対象のことがわからないというのは『演技ができない』と言っているのと同じことだろう。いつだって当て書きの役がもらえるわけじゃない。コイツの演じる青年は嘘吐きではなかったが、最後、ひとつだけ最初で最後の嘘を吐く。たったひとり、愛する人間のために。 「それは……相手のことが好きで、大切だからだろ」 かと言って俺は嘘は吐かないし、吐けない。嘘を吐こうと思ったことはないが、考えただけで喉の奥に重さのあるモヤのようなものがまとわりついて気分が重くなる。コイツが同じことを思っているかはわからないが、嘘が吐けるタイプではないのはわかる。円城寺さんはどうなんだろう。あのひとは優しいから、優しさから嘘を吐く人間の気持ちがわかるかもしれない。 1429 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ95「見」ダニレナ(2021/03/19)通り雨のあとに「見世物じゃないぞ」 レナートの言葉が自分自身に向けられたものだと認識するのに少し時間がかかった。だってレナートはおれと会話するときは必ずおれの名前を呼ぶからだ。 だから謝罪も反論も出来ずにただ「ああ、」とだけ答えてしまった。向けられた先がわからなかっただけでその言葉が示す意味はわかっていたのに、目線を逸らしもせずにそう答えた。「見るな」って、言われたようなものなのに。 まだ注がれたままの視線にレナートは不満げな顔をする。それでもおれが目を逸らすよりも自分が服を着た方が早いと践んだのだろう。突然の大雨でびしょびしょになったからだをろくに乾かさないままシャツに袖を通してしまった。 これで何も見るものはないだろう。そう告げるレナートの視線とレナートを見つめたままのおれの視線が絡む。レナートの目は不満ではなく困惑に染まっていくから、おれは少し困ってしまう。レナートはエディと会話するときはこんな顔をしないのに。 2076 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ94「花」(2021/03/12)桜が散ったら会いましょう 花冷え、という言葉は円城寺さんに教えてもらった。 桜の花が咲くころに、たまに寒くなることをそう呼ぶらしい。陽の光など忘れたように寒くなる様子や、憎めない裏切りのような寒さをそう呼ぶのだと。 だとしたら、アイツは花冷えのころにやってくると言える。なんだか、ずいぶんとアイツっぽくない。花冷えという言葉から感じる、たとえば翔真さんのような背筋の伸びた美しさがアイツにはどうも当てはまらない。 コイツの美しさは違うだろう。そう考えて、俺は初めてアイツの美しさについて考える。 まず、銀色であることは揺るぎない。ステージの上でしか見られないものだと思うのだが、ふとした拍子に意識を通り過ぎていくような、そういう俺が当たり前に見過ごしている部分にも潜んでいる気もしていてもやもやとする。もやもや、というか、ざわざわ、だろうか──俺がアイツに『美しさがある』と当たり前に思っている。おかしな話だ。まるでゲームのバグみたいだ。 1570 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ90「甘」(2021/2/12)猫が胡桃を回すよう 猫の牙とライオンの牙は本数なんかは一緒らしい。大きさが違うから別物に見えるけど、本数はおんなじで三十本なんだって。 人間の歯は親知らずを入れたらそれよりもちょっと多くて、入れなかったらちょっと少ない。まぁ差がちょっとだから口の中には収まるもんなんだろう。三十本の歯がいま、コイツの口の中に収まっている。 あんぐりと大きくあけた口の中には立派な牙。人間のそれじゃない、猫科の牙だ。 大抵の物事には意味と理由があるって思ってたけど、成長するにつれ──こうやって大人に混じって仕事なんかをしているうちに知った。世の中には意味の無いものがあって、理由を気にしても仕方が無いことがある。だからコイツの歯が猫科のそれになってしまったことについて、俺や円城寺さんの困惑をしれっとした笑顔で流してプロデューサーは「しかたないね」と笑ってその場を締めくくった。 2462 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ83「クリスマス」(2020/12/25)愛してるのやりかた 同業者の中には『クリスマス』が希薄な人間がいるかもしれない。 散々クリスマスの特番に呼ばれて、まだきていないクリスマスを祝う。なんなら正月も。そんな生活をしてても俺たちがクリスマスを見失わないのは、事務所のみんなでこうやってクリスマスを祝う機会があるからだろう。 たくさん笑って、いっぱい食べた。片付けをして、円城寺さんの家に三人で帰った。 ケーキはたくさん食べたから、こたつでアイスでも食べようって笑いあった。一通りくつろいだらアイスの前に風呂だ。実は一番風呂が好きなアイツに順番を譲って俺と円城寺さんはテレビをぼんやりと見る。きっとずっと前に撮ったんだろう映像はクリスマスを祝っていて、俺はぼんやりと楽しかったクリスマス会を思い出していた。 4351 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ79「止」ふわふわのカイレ(2020/11/28)恋じゃなくていいや 運命の女神は気まぐれだ。不運はどこにだって転がっている。世の中は不条理だ。不条理の使い方があっている自信はない。兎にも角にも俺は途方に暮れていた。いや、俺の落ち度はかなり大きい。でも、そもそも雨が降ったのがいけないだけなんだ。 くるりと見回した俺の部屋にもずいぶんと物が増えた。仕事道具だけじゃない、少年兵の頃には考えもしなかった、昔だったら『無駄なもの』と評していただろうものも増えた。同じだけ仲間も増えて、いろんなことをするようになった。 たとえば、ピクニックとか。 さて、先程見回した部屋にある俺のベッド。そこに不機嫌そうに腰掛けているのがレッカという青年だ。同僚で、仲間。切磋琢磨しあういい相手。ずっと一緒にいるから、ふとした瞬間に弟のようにも兄のようにも見える不思議な存在だ。 3025 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ76「寒」(2020/11/06)野良猫は懐かない 最近の寒暖差はなんだと言うのだ。 今月に入ってから少し寒いが、羽毛布団を出すのは億劫で厚着をして眠っていた。そんなことをしていたら一週間前にポカポカ陽気がやってきて、慢心していたらその三日後には凍えていたような気がする。で、羽毛布団を出したら翌日の陽気は九月。ふわふわした熱の塊をベッドの端に押しやって眠れば朝には凍えていて、アイツが床からベッドに移動して俺で暖を取っていた。そんな距離も昨日は遠のいて、今日は寒いのにアイツはいない。寒くなければ来ないアイツも、今日は暖かいと読み違えたんだろう。 アイツは雨の日だとか、寒い日とかにやってくる。今月は来るタイミングを間違えっぱなしだ。ふらりと来た夜が暖かいと、なんだか妙にいたたまれない顔をして、床で転がって静かにしている。俺はそんなアイツを見るのがなんだか嫌だ。 2761 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ75「ハロウィン」(2010/10/30)ハッピー罰ゲーム 玄関の扉を開けば、台風がそこにいた。 「トリック・オア・トリート! チビ、持ってる菓子全部よこしな!」 仮装も何もせずに、コイツはそう言い放って手のひらを差し出した。 俺はと言えば、呼吸や思考が止まるほどではないが、ちょっと驚いた。 「……ハロウィンは知ってるんだな」 「あ? 常識だろ」 常識ではない。まぁ菓子がもらえる祭ってのは記憶してるんだろう。それでもやはり気になってしまうのだ。部屋にコイツを招き入れながら問いかける。 「……いつ知ったんだ?」 コイツの人生の転機はふたつある。俺に殴られた瞬間と、アイドルになった瞬間。出会いから俺はずっとコイツと一緒にいるけれど、知らないことは山ほどある。 「んー……ああ、旅してたときにヤギのいる村でなんかそれっぽいことをやった気がすんだよな。そんときゃ意識してなかったが……あれがハロウィンだろ。なんか言うと菓子がもらえるってのはこっち来て知った」 1914 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ73「奪」(2021/02/05)余生は二人で旅に出ようか 少し寄りたいところがある。そう言ったのは道流だった。 タケルはじゃんけんで負けたので重たい缶詰の詰まったエコバッグを持っていたが、文句を言うことはしない。数歩先を歩いていた漣が面白くなさそうに歩調を緩め、道流の数歩後ろに移動した。 立ち寄ったのはクリーニング屋だった。普段は利用しない店だ。彼らの衣装はいつも他人の手によって整えられているし、クリーニングが必要な衣類には出番があまりない。そもそも、タケルと漣は手入れが必要な衣類自体を持っていない。漣に至っては、ここがどういう店なのかすら理解していなかった。 道流が引き取ったのは真っ黒な服だった。タケルは少しだけ心当たりがある。礼服か、喪服だろう。どちらなのか、それを聞くことはしなかった。 3985 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ52「あか」捏造しかないクロファンです。(2020/07/26)あしたにはさよなら クローがナンバー持ちになるそうだ。アイツとしては念願が叶うということなのだが、オレは複雑な気分でもある。実のところ、アイツの願いはオレと一緒にいることであって、ナンバー持ちというのは手段だからだ。 まあ、ナンバー持ちには条件がある。誰もがみんな通る道だ。単純に、目を弄る。それだけ。 弄られた目は赤くなって、みんなで仲良くお揃いって寸法だ。これを『家族』の証と言うから笑わせる。まっとうな家族があるやつはこんな仕事してねえよ。寄せ集めのガラクタでもう意味なんてなくなる単語に縋っているのは滑稽を通り越して哀れだ。まあ、ここにマトモなやつはいねえから、オレが憐れむ男は一人しかいない。 で、クローも目を弄くられてオレとおそろいになるわけだが、それはナンバー持ちになる最終試験と言ってもいいだろう。オレも経験したくだらねえ試験──目を弄られると、数日は世界が真っ赤に見えるって言うくだらねえ現象だ。ここで発狂なんてしようものなら人生単位の落第だが、ここまで残るやつで気の触れたやつは見たことがない。だって、どうせもう狂ってるんだ。いまさら狂いようもない。 3154 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ116「ライブ」恋愛感情じゃないけど、将来的にタケ漣なのでタケ漣です。(2021/08/20)ワンサイドゲーム『ライブ中継』の文字が左上にへばりついている午後三時。画面の中には大河タケルがいる。 「タケル、頑張ってるなぁ」 道流の言葉を肯定も否定もせずに漣はひとつあくびをした。タケルの緊張は道流の部屋を満たすほどではないが、真剣な目つきからはそれなりの緊張が伺える。 タケルはいま、生放送で新作ゲームをプレイしている。ノーミスでステージ3までをクリアできるか、というかがこの番組の趣旨らしい。この企画には事務所のゲーム好きたち数名が参加していて、いまのところ成功者は恭二ひとりだった。くじ引きで決まったことだが、タケルの順番は最後だった。 漣は不思議な気持ちだった。画面のなかのチビは見たことがある。いっそ見慣れたと言ってもいいだろう。個別の仕事が増えてから、自分のいない画面に彼がいるのは当たり前のことで、でもそれは過去の大河タケルなのだ。この状況は初めてだ。 1688 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ114「遊」(2021/08/06)不公平ゲーム「シユー?」 「試遊、な」 「ふーん」 俺の手元を覗きこんでいたコイツは頬に触れそうなほどの距離をあっけなく離す。シユーの意味を聞かなかったのは興味がなかったわけではなく、単純に面白くないという気持ちが勝ったのだろう。 さっき散々プロデューサー相手に騒いでいたから、言いたいことはもうないらしい。それでも気が済んでいるかといえばそうではなく、俺のことをじっと見つめている瞳は不満げだ。 「……なんだ?」 「チビだけかよ」 「オマエはゲーム好きじゃないだろ」 俺の手元には、まだ販売されていないゲームがある。俺が何度かインタビューやトークで「好きなんだ」と話していたゲームの続編、そのテストプレイをなんと俺が担当することになったのだ。 4855 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ50「名前」(2020/05/02)眠りの浅瀬で会いましょう 最近、予知夢を見る。 * 予知夢って単語は最近知った。らーめん屋が漫画の話かと笑ってた。漫画じゃなくてオレ様の話だっての。 オレ様には未来が見える。なんというか、オレ様としてはつまらない。オレ様にやましいことなんて一個もないのに、なんだかズルしてるような気分になる。 夢は断片的なもので、見える未来もたいしたもんじゃねえから放っておいているが、見なくて済むなら見たくない。そんなことを思いながらオレ様は一度見たはずの光景を見る。厳密には、少しだけズレた現在に触れる。 「おい、オマエ。聞いてるのか」 チビの表情も、疑問も、感情も、全部見た。でも、本当にどうでもいいことが決定的に違う。現実のほうがいいはずなのに、頭にこびりついているのは夢に響く声。 3322 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ49「上」(2020/04/24)楽園ではすべてがうまくいく 夏が好きだった。昔からずっと。 小学生にとって、夏ってのは楽園の象徴みたいなものだろう。蝉時雨に後押しされた大きい笑い声。焼けるような日差しから逃れるように飛び込んだプールに満ちた塩素の匂い。学校の授業なんかなくて、一日中遊んでいられたあの日々は姿が見えないほどごちゃごちゃにこんがらがって、幸せの形に固まっている。中身なんかはわからない、漠然とした光だ。 高校生になると、夏に対しての意識は変わる。夏の好きなところ、問われたとして俺は言葉が出てくるんだろうか。 楽園はおしまい。蝉時雨はただうるさいだけだし、日差しはランニングのじゃまになる。手に届かない積乱雲と、一滴一滴に嵐を内包した激しい雨。そして、幼い頃はただ美しかったはずの、切なさを引き連れてくる花火。 2024 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ48「ひ」(2020/04/24)ハートに火をつけて エディと一緒にスラムから抜け出て、初めて知ったものがたくさんある。その中で記憶に強く印象づいたのは、レナートのつけているロザリオだ。 あれはきれいでいい。レナートを見ているときっとあれには特別な意味があるんだと思うけれど、人を殺した時にロザリオを握るつらく悲しそうな顔を見ていると、あれが本当によいものなのかと少し考えてしまう。 あれの意義をレナートに聞くのは憚られた。ミハイルは高尚な遊びだとうそぶいていた。リーダーは支えで、キールは枷だと言っていた。きっとどれもが真実なんだろう。 ともあれ、きれいなものはきれいだ。朝日を反射する様だとか、闇から瞳のように光る様だとか、真夏に焦がれる様だとか、そういう輝きが好きだった。ロザリオの変化はどれも、レナートの銀色の髪によく似合っていた。レナートの着るどんな服よりもレナートにぴったりだったから、ロザリオは彼の首にぶらさがってるのが一番間違いがなくていい。 3941 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ47「靴」(2020年頃のはず)ガラスの靴は二年後に「なんだこれ……ヒールの置物か?」 「酒だってよ。ったく、食えるもんよこしやがれってんだ」 今日は撮影だと言っていたから、てっきり円城寺さんのところに行くんだと思ってた。だってここにはあったかい飯も客用の布団もない。 コイツが俺の家にくる理由って本当にない。それでもたまに、本当にたまにこうやってうちにやってくる。そこに意味なんてなくて、そこに理由なんてなくて、何かをするために来た試しがなかったもんだから、何かを片手にこうやってやってきたってのはわりかし非日常的だ。 「そのへん置いとけ」 「は?」 マヌケな声がでたから、きっとマヌケな表情をしていた。コイツはそんな俺を面白がることもせずにあがりこむ。俺んちにはたいしたもんはないってわかってるだろうに。 1970 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ45「普通」(2020/03/27)小さな恋の歌 僕らの中で一番『普通』に近いのは、セブン。と見せかけて、実はファングだったりする。 でもそれは僕らの関わらない世界の『普通』だから、ファングはこの世界じゃちょっとした異端者だ。別にファングは人を殺すから圧倒的に世間の言う『普通』ではないんだけど、その他大勢と同じ神様を信じてる。キリシタン、ってやつだ。 僕は神様を信じたことはないけど、宗教をバカにしたりしない。ただ、散々汚いことやってきておいて最後の最後で神様にすがる人間をバカにしてるだけ。だからファングがどんなに宗教に傾倒してても変わらずに大好きだし、ファングが大好きな神様なら好きになってもいいかなって思ったりしてる。 でも神様なんかより、僕は聖歌が好き。正確に言えば僕はファングの歌が好きなんだけど、親も学び舎もないファングが知ってる歌はこれしかない。 2672 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ43「しろ」(2020/03/26)恋愛はシロウトです 五年近く付き合ってるうちの、チビが酒を飲み始めてからはいつも横にいる。ずっと見ててわかったんだが、チビの酔い方は面白え。いや、めんどくせー時のが多いんだが、今日のこれは、まあ笑える部類だ。 「だから……これは……浮気じゃない……わかるだろ……?」 チビがこの広い家に引っ越して二年。倍くらい大きくなったテレビには、真剣な顔をしたチビが大きく映っている。そんで、オレ様の真横には、テーブルに突っ伏してぶつくさ呟いてる、チビに磨きがかかったチビ。耳の赤さは酒のせいだろう。額をテーブルにこすりつけてなお手放さない缶チューハイは何本目だろうか。なんつーか、チビは安っぽい酒を好んで飲んでいる。 「見るなよ……バカ……何見てんだよ……」 3177 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ41「ふく」(2020/02/29)麗しドレスアップドール 正直に言う。俺に服のセンスはない。 同年代の人と比べたら、俺の服はあまりにも機能性に傾いている。私服とランニングウェアが一緒くたになってるときもあった。服は増えたがデザインは似通うし、同系色の服を好む。服を選ぶポイントは機能性、通気性、それと、ポケットがあるかどうか、だ。 それでもアイドルをやるぶんには問題がなかった。服は用意してもらえるから。私服コーディネートみたいな企画だって、呼ばれるのは俺たちじゃなくて華やかな人たちだ。四季さんとか。 そういうわけで、俺のクローゼットは見栄えしない。そんな状態が二年くらい続いただろうか。今、俺の目の前には色とりどりの洋服が並べられている。 「おら、オレ様が選んでやったんだ。ありがたく受け取りやがれ!」 2392 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ36「差」 Dosの立ち絵だけで書いた幻覚です。(2020/02/04)もう一回! 羨ましいって気持ちよりも、惨めだって気持ちが勝った。 部屋に来い、だなんて言葉、無視してやればよかったんだ。のこのこと足を運んだ俺がバカだった。ほんの少し、期待なんかしてしまって、ああ、とんでもない大バカだ。 ノックもなしに開けた扉。最初に目に入ったのはここの主である銀の蛇ではなく、現在真っ向から対立中の、できることなら会いたくない同期だった。蛇と、さながら大型犬。見慣れた二人は、見慣れない服装をしている。 出会う予定のなかった男は普段のチンピラじみた格好をしておらず、仕立ての良いスーツを身にまとっている。品の良いブルーのスーツは俺が持たない身長と見合ったガタイによく映えた。表情を隠すというよりは相手を威圧することを目的としているであろうサングラスは外され、見慣れない柔らかな瞳が笑っている。そう、明らかにコイツは今の状況を楽しんでいる。 4504 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ34「知識」(2020/01/11)向上心は猫をも絆す 知識なんて最低限でいいと思ってた。それがとんだ思い上がりだったことにこの歳で気がつけたのはよかったことなんだろう。何事も、遅すぎるということはない。 「知識は必ず君たちを助ける」と言われた時、「知識がないと困るよな」って言うことしかわからなかった。困ったことはこの仕事になってから度々あって、その筆頭は台本の漢字が読めないってこと。その都度人に聞くもんじゃない。ちゃんと覚えなきゃ。それってのは必要に迫ってのことだった。 だから「知識があると楽しめる」と知った時はなんだか不意をつかれた感じだったし、その瞬間はピンとこなかった。だって、俺は台本が読めて、買い物をするときに単純な足し算ができればいい。正直、二割引とか言われたって、「安くなるんだな」って程度しか思わない。だから、俺は自分に最低限だけを課し、それ以上を見つめることをしなかった。視野が狭かったんだ。 2559 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ28「変」 Dosの立ち絵だけで書いたデカめの幻覚です(2018/11/19)ハッピーバースデー!「オマエ、変だよ。うん。人間じゃねえな」 目の前の男は確か初対面のはずだ。遠慮のない蜂蜜色の双眸で、頭のてっぺんから爪先までを値踏みするように眺めてからのこのセリフ。ましてや出会い頭、銀髪が揺れる程度に会釈をした男に同じく返した会釈、そうして僅かな世間話をしてからのこれだ。意味などわかるわけもなく、暴言だとわかったとしても反応ができなかった。 俺の反応はどうでもいいらしい。新しく雇われたらしいネゴシエーターの噂に風貌が完全に一致した男が偉そうに御高説を垂れる。 「あのな、人には欲ってのがあるんだ。ああ、三大欲求なんてつまんねえもんじゃねえぞ? あんなのは猿でも持ってるからな。わかりやすいのは地位とか名誉とか……まあこの辺は猿以下に教えてもわかんねえから言わねえけど」 3101 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ27「ごちそう」(2019/11/22)月夜の晩餐 コイツの意識がなくなるまで抱き潰さないと、って焦燥感がこの肺を焼くようになったのはいつからだろう。それは加虐心とか征服欲とか劣情や、ましては愛情なんかじゃなくて、純然たる恐怖だ。力の及ばない生き物がむやみやたらに暴力を振るうような幼稚な手段だ。大型犬を前に獰猛になる小型犬のように、噴き上がる衝動を押さえつけていられない。 そのことに気がついたときの俺の心は俺にしかわからない。絶望なんて二文字じゃ計り知れなくて、呼吸の浅さだけが手がかりになるような、むりやり言葉にするなら靄の中でうろたえるだけの迷子のような心境だ。それほどまでに、今俺の下で真っ白な胸を動かしている、全てを暴いたはずの存在が得体のしれないものに見えて仕方がない。内側を暴いたはずなのに。心臓を飲み込んだはずなのに。 2146 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ24「イタズラ」(2019/11/02)十八歳友の会・八年目 時刻はすでに午前様。でもでもここは勝手知ったるれんの家。 あたしとロールが設立した『十八歳の会』も今や『二十六歳の会』。数年前から定番の開催場所になったれんの家に、都合のついた飲んだくれたちは集結していた。 もう八年。長いような、短いような。仕事に熱中して、環境も変わって、恋する人はしたりなんかして。深く関わったこと預かり知らぬこと、多々大小あれどあたしたちはそれなりの心情を共有しているわけで。 今日の話題、その中心はれんだった。いや、たけるだったって言ってもいいかも。恋バナ、って言ったら少しちがうかもしれないけど、あたしたちはれんがとってもたけるを大切に想ってて、同じくらいたけるに想われているのを知っていたから。 1750 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ20「歌」(2019/10/04)遠くから聞こえる 聞いたことのある歌が聞こえる。夕暮れの足音が近づく窓の外から、子供の声が聞こえてくる。 穏やかなソプラノとアルト。淀みない旋律。本と本の隙間から見つけた絵葉書みたいに、その二重奏は俺の記憶を遠い秋風の向こうから連れてきた。合唱曲なんて、久しぶりに聞いた。 学校行事のコンクールとか、そういうのが近いのだろうか。そういえば、昔はそういう行事に積極的じゃあなかったっけ。あのときの自分が間違ってるだなんて思わないけれど、別の道もあったのかとは思う。横にいるコイツがついさっき耳にした音律をなぞる。ところどころ、キーが違うそれは記憶にある歌よりもずっと愛おしい。 俺はコイツが俺と同じような人生を歩んでいるとは思わなくなっていたから、当然知らないだろうという決めつけのようなものでもって合唱曲の題名を口にした。コイツはふうん、と言ったっきり、またたどたどしく歌い出す。気に入ったんだろうか。ソプラノパートとアルトパートをいったりきたりするコイツは、そういえばハモリパートを歌うのが下手だった。そんなことを思い出して口にする。 2539 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ19「みず」(2019/10/02)足下に星屑 別に隠していたわけじゃないけど、知られるのは気恥ずかしい。それこそ、プロデューサーにしか言えないし、言ってなかった。こんな、幼稚な夢。 雲に突っ込んで視界不良になるのすら愉快だ。星の間をくぐり抜け、真下にある町並みの灯す光を眺めている。こんなに間近にある月に照らされて、俺のシルエットが大地に降りる。風を裂く音を置き去りにして俺はスイスイと夜空を泳ぐ。 みんなは少ししたら飽きてしまったゲームだが、俺にとってはすごく楽しくてわくわくするゲームだった。内容は空を飛ぶだけ。朝、昼、晩。雨の日、雪の日、曇りの日。様々な日の空を渡り歩くゲーム。 勝敗はない。スコアアタックはできるが、飾りみたいなものだ。少しプレイしてお蔵入りになりそうだったのを、借りてきて、なんだかんだでずっと遊んでいる。 4276 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ18「ふく」(2019/09/20)フクワウチ 二人分の体重を受け止めた安っちいマットレスのスプリングはいつもどおり不満げだ。 腰掛けたオレ様が差し出した豆を受け取ったチビは、不思議そうな顔をしていた。 それはオレ様が何かをチビに差し出したってことを驚いてるんじゃなくて、単純に、今日と豆が結びついてないんだってのが、聞いてもいないのにわかった気になっちまった。 セツブン、って呟けば、チビはああ、って声を出す。流れに任せていたら正解に辿り着いた人間の、ちょっとぽかんとしたマヌケな声。チビのマヌケヅラってのはもう少し面白かったはずなのに、オレ様は全然笑えなかった。 「なんでだ?」 問いかけに含まれた意味の全てを理解したとは思えないから、いくつかの答えを投げてよこす。 2507 12