85_yako_p カプ入り乱れの雑多です。昔の話は解釈違いも記念にあげてます。作品全部に捏造があると思ってください。 ☆quiet follow Yell with Emoji Tap the Emoji to send POIPOI 434
ALL タケ漣 鋭百 カプなし 天峰秀 大河タケル 100本チャレンジ モブ 牙崎漣 花園百々人 想雨 カイレ クロファン C.FIRST 眉見鋭心 天道輝 ミハレナ ダニレナ 既刊 伊瀬谷四季 蒼井享介 蒼井悠介 W 若里春名 華村翔真 Altessimo 神楽麗 都築圭 古論クリス 葛之葉雨彦 レジェンダーズ 北村想楽 百鋭 秀百 薫輝 THE虎牙道 タケ漣ワンドロ web再録 誕生日 くろそら 途中 秀鋭 卒業 ケタザザ 短歌 プロデューサー 円城寺道流 叶納望海 御田真練 超常事変 渡辺みのり 癒残 堅真 ウォリアサ R18 街角探偵 わからん 九十九一希 四季漣 親友 輝薫 書きかけ 黒紅 道漣 DoS幻覚 ドラスタ 桜庭薫 BoH 春隼 サイバネ 山下次郎 寸劇 左右わからん しのかみしの 東雲壮一郎 ハイジョ レナート ミハイル S.E.M じろてる 旬四季 北冬 東雲荘一郎 秋山隼人 悠信 神谷幸広 アスラン そらつくそら 四季隼 140SS 黒野玄武 冬美旬 冬春 ゲーム部 ジュピター 卯月巻緒 四季秋四季 85_yako_pDONE鋭百アンソロジーに参加するために『花言葉・何をしても可愛らしい』をお題に書きました。主催者様から掲載の許可を得たのでアップします。(2024/7/23)勝者不在「僕ってカッコいいかも」 ソファーで伸びている百々人が隣に座る俺に聞こえるような音量で呟いた。視線こそこちらを捉えてはいないが、何も写していないスクリーンを見つめている春の紫陽花のような瞳は俺の言葉を待っている。 「そうだな。端正な顔立ちだと思う」 「それでね、すごく可愛い」 視線は相変わらず絡まないが、眺める横顔は『カッコよく』て『可愛い』。百々人がそれを認識しているのならなによりだ。 「ああ。顔立ちはもとより、雰囲気が柔らかくて愛嬌がある」 「なにそれ」 百々人がゆっくりと俺を見る。うっすらとした笑みを浮かべた顔は『キレイ』だった。その顔を歪めることなく薄桃色の唇が開かれた。 「じゃあ僕が醜くなっても好き?」 2361 85_yako_pDONE鋭百ワンスアウィーク第94回『鍵』シアタールームの二人です。あと一歩で鍵を取り逃す鋭百。(2024/8/25)暗がりに栞を挟んで あ、という声が重なった。真っ暗になった空間で、百々人と鋭心はお互いを探すように手を彷徨わせた。こつりと手が触れて、二人は肩を撫で下ろす。 先程までミステリ映画を映していたスクリーンは何の光も得ることはなく、緊迫したBGMを流していたスピーカーは完全に沈黙していた。シアタールームの照明はもともと消していたが、一応スイッチを入れても電気が点くことはない。 「この辺り全部がダメみたい。雷のせいかな?」 スマホを見ながら百々人が言う。そうか、と呟いた鋭心は百々人と同じように困惑しつつも苦く笑うしかない。どうやらこの付近一帯が停電しているようだ。 「すごいタイミングで停電したね」 「ああ、映画のようなタイミングだな……」 2194 85_yako_pDONE鋭百ワンスアウィーク第91回『冷たい』信愛度があがったゆえにかわいいワガママを言う百々人くんです。(2024/8/4)キャンディハウスで待ちぼうけ「えーしんくんは冷たいって言われたことある?」 百々人の問いは唐突だった。事務所の、小さな会議室。秀とプロデューサーはまだ来ない。 「……ないな。意外か?」 お互いにしたいことをしている空間でいきなり投げられた問いだが、不愉快ではなかったし邪険にするものでもない。ただ事実だけを伝えればよかったのに、なぜか余計な言葉をつけて返してしまう。百々人が、少しだけにこりとした。 「全然。……あのね、僕はあるよ」 「百々人が?」 「意外なことにね」 カチ、と一度だけ時計の針が動く音が聞こえた。ずっと鳴っていた音が気になったのはその一瞬だけで、あとはここに百々人がいるだけだ。こんなに人当たりが良くて温和な人間がそんなことを言われるとは信じられないが、俺は百々人の全てを知っているわけではない。不理解を理解している。ただ、うまく納得ができない。 1363 85_yako_pDONE数年後同棲鋭百。三題噺『小説・クラフト・冷蔵庫』 100本チャレンジその50(2024/4/4)クラフトコーラの香る夜 クラフトコーラを作ってみたい。 熱心にねだったのは僕だけど、初めにクラフトコーラに興味を持ったのはえーしんくんだ。 きっかけはえーしんくんが読んでいた小説にクラフトコーラが出てきたからで、僕はえーしんくんが映画がきっかけじゃなくて小説から興味を持つこともあるんだなぁってなんだか感心したことを覚えてる。ちなみにえーしんくんが映画をきっかけにいろんなものが気になってしまうことはたくさんあって、それはきっとしゅーくんが言っていた『聖地巡礼』みたいなものだろう。 僕たちは通販でクラフトコーラのキットを買った。スパイスを追加してもおいしいらしいから、少しオシャレな店に買い物に行って唯一知っているスパイスであるシナモンを買い足した。一緒にずっしりと重たい砂糖を買って、これを半分近くも使うのかと驚いたりしたっけ。 1231 85_yako_pDONE鋭百。フォロワーの呟き【https://twitter.com/mimei_m_m/status/1704582817630601459?t=L28ZT_VSmiY5zkdFNtJ5hg&s=19】に触発されて書きました。(2023/11/09)砂漠の砂はダイヤにならない『特技・人に愛されること』 特技、と問われて一瞬だけ手が止まった。大体のことは問題なくこなせるから何を書いても嘘にはならないが、それでは『アイドル、眉見鋭心』のプロフィールには相応しくないだろう。きっと華やかなほうがいい。珍しいもののほうが会話が広がる。少し考えて、その空欄に『水上オートバイの操縦』と書いた。嘘を吐くことがなくてよかった。水上オートバイは正しく、うまくこなせることだったから。 残りの空欄も埋めて、なんともまぁ話題に事欠かない特技や趣味だと思う。俺は嘘を美徳とは思わないが、芸能人の両親を持つ人間として夢を見せることの必要さも知っている。嘘について俺が思うことは『必要ならば』というところだろうか。進んで吐きたいものではないが、そこに俺の主義主張や好みが入ることはない。 2920 85_yako_pDONE鋭百のラブコメ。ロマンチック片思い百々人くんだけど、このあとすぐカップルになります。100本チャレンジその44(2023/09/18)取扱注意 芸術は爆発だ! 美しいものは須く爆発なんだろう。 ならばこの世でもっとも美しいとされる『愛』とはなんだ? その答えも同じく『爆発』だったものだから、僕は途方に暮れている。 小説家が夢想した果実のように、僕が齧ったリンゴは30分以上放置すると爆弾に変わる。いや、リンゴである必要はないのかもしれない。ようは僕が愛しい人のことを考えながら口にした果実は放置すると爆弾になってしまうのだ。 発見したのは終わりかけた春の夜だった。マユミくんにもらったリンゴを面倒だからとそのまま齧っていたら、マユミくんが電話をくれたんだ。浮かれた僕はリンゴをテーブルに置きっぱなしにしてベランダに移動して、楽しくおしゃべりなんかして。そんなこんなをしていたら、爆発音が突如僕の耳を裂く。びっくりして急いでリビングに向かったら、そこには半壊したテーブルがあったというわけ。 1498 85_yako_pDONE鋭百ワンスアウィーク第52回「後ろ」肉体関係だけがある鋭百です。(2023/9/10)フライデーナイト・プール 喉が渇いていた。ぬくもりはあったがそれは肌の触れている部分が熱を持っているだけにすぎず、わずかな接触すら解いて起こしたからだは当たり前のように冷えていく。せめて下着くらいは身につけるべきだろうかとも思うが、どうせ風呂にはいるだろうと怠惰な部分が囁いてきてよくない。肉体に依存する欲を満たしたあとは、気怠い。 この行為はスポーツのようなものだと情緒のない取り決めに従うようにベッドサイドに用意された水を煽れば少しだけ思考がクリアになった気がした。電気をつければ目の奥がチカチカと痛い。抱き合うと、俺たちは夜の生き物になってしまうんだろう。 情事を終えたばかりで性の匂いが色濃く残る夜を虚しく思うのは間違っているのにからっぽが抜けきらない。続けるたびに不毛になって、かといって終えられる気がしない。愚行とはこのようなことを言うだろうに、共犯者がいるだけでこれほど身動きが取れなくなるとは驚いた。 5247 85_yako_pDONE数年後同棲鋭百。すれ違いながらイチャイチャしてます。(2023/8/31)夜食の作法 夜更かしをしすぎたな、と思い視線を向けた時計の針は24時を越えていた。 最近増えすぎた映画のパンフレットを整理しようと積んでいたものや棚に並べていたものを広げた結果、まんまとふたりして読み耽ってしまったのだ。パンフレットは規則ではなく、読んだものと読んでいないものがそれぞれ山になっている。典型的な、片付けの失敗例だろう。 時計を見つめた目を手元のパンフレットに移し、パンフレットをそっと退ける。そうすると俺の膝にからだを預けてパンフレットを読んでいる百々人の、柔らかい色の髪に埋もれたつむじが見えた。先ほどの俺もきっとこれくらい夢中だったに違いない。百々人は俺の視線に気がつくことなく、ゆっくりとページを捲っている。 2946 85_yako_pDONE無自覚な鋭心先輩とそんな先輩が少し好きになりかけてる百々人くんの鋭百。相合い傘する二人です。(2023/8/9)雨とカラクリ 人の顔色を伺うのは得意なほうだと思う。きっとマユミくんだってそうだ。 ただ、目の前で緋色の髪を揺らしながらレッスンしているこの人と僕のそれは何かが決定的に違っているような気がしてる。なんとなく、本質が違う気がするんだ。 僕が顔色を伺うのは半ば無意識で、それが処世術なのか癖なのかは正直自分でもわからない。マユミくんはどうだろうって考えた時、それは愛にも正しさにも、機械のようなオートマチックな反応にも見える。出会ったばかりの僕にとってマユミくんは期待を飲み込んで自分以外の誰かが望むものを吐き出すカラクリのように思えていたけれど、時間と言葉を交わすうちにわからなくなっていった。 誰かの望む言葉を探してしまう。それがマユミくんと僕の共通点なんだろう。いや、そう思っていたいだけかもしれない。僕はマユミくんと僕に似ているところを見つけると、とても白けてしまうくせにちょっと嬉しい。こんなに正しい人間とやりとりをしているくせに矛盾が生まれていくのはなんだか馬鹿馬鹿しかった。 2178 85_yako_pDONEなっぱっぱさんとの鋭百合同誌の再録です。(2022/7月)お題になった頭文字はXです。X『主演:花園百々人』 もらってきたポスターには白抜きの文字でそう書かれている。舞台に立っている百々人を後ろから映したポスターの彩度は低く、たったひとつのスポットライトを当てられた百々人の周りだけが異質なもののように浮かび上がっていた。 自分が大きく映っているポスターは無理のない範囲でもらってくる。ポスターがもらえたら、ふたりで暮らすこの家のリビングに飾る。それが鋭心と百々人の共同生活で自然と生まれた、いくつかの取り決めのうちのひとつだった。飾ったポスターの代わりに剥がしたポスターはくるくるとまるめて、ふたりの台本やトロフィーが置いてある共有部屋に収めていく。その習慣に従って貼られたポスターを眺めながら、百々人が困ったように苦笑した。 6834 85_yako_pDONEなっぱっぱさんとの鋭百合同誌の再録です。(2022/7月)お題になった頭文字はWです。ラスト気に入ってます。Watercolor 潮騒が未だに鳴り止まない。歓声のような満ち引きは海から離れても心のどこかで続いていて、プロデューサーの運転する車の窓から見える海は夕日で茜に染まっていた。夏空に沈む夕焼けは柔らかく、昼間のような暴力めいた輝きを潜めて眠たそうにしている。 助手席には秀がいて俺の隣には百々人がいる。百々人はプロデューサーのことが好きなはずなのに、こういうときは必ず後部座席に座っていた。秀は助手席を希望することが多く俺は座席にこだわりはない。なので、いつの間にかこれが俺たちの『お決まりの座席』になっていた。 海が見えるのは百々人が座っているほうの窓なので、俺は百々人越しに夕日が水平線に沈む様を見ていた。百々人の色素が薄い髪にもうっすらとオレンジが灯っていた。百々人も、窓を見ていた。 11836 85_yako_pDONEなっぱっぱさんとの鋭百合同誌の再録です。(2022/7月)お題になった頭文字はVです。Video『見せたいものがある』 マユミくんがそう言うとき、僕は少しだけドキドキする。それは出会ってから二年経った今も変わらない。 最初は不安が大きかった。胸がぎゅってなるようなドキドキだ。なんで僕なんだろう。せっかく見せてくれたのに、望むリアクションを取れなかったらどうしよう。そういう不安を隠しながら、精一杯笑ったのを覚えてる。 一回目、アマミネくんのいないマユミくんの家で見せてくれたのはチェス盤だった。遊具というよりはアンティークと言うのが正しいその佇まいは僕を萎縮させるには充分で、そのときの僕は疑問で頭がいっぱいになってしまったんだ。 『マユミくん、』 どうして、と言う前にマユミくんが口を開いた。 『百々人の、次の役作りの参考になるかと思って』 6660 85_yako_pDONE鋭百ワンスアウィーク第45回「ふわふわ」バカップルの話なのでなにも考えずに読んでください。(2023/7/23)お高いところのポテチはうまい「すごい、ふわふわだ」 百々人が手に取ったパジャマは柔らかなレモンイエローをした手触りのよいものだった。飼ったこともない愛玩動物を想起させるような温かみのある生地はふわふわとしていて、顔を埋めると気持ちがいい。 以前秀が仕事でパジャマパーティをしたことがあるのだがそれが思いの外好評だったらしく、プロデューサーから新たに選ばれたメンバーでまたパジャマパーティをすることが決まっていた。百々人はまた年の近い、さらに言えば高校生のメンバーが選ばれると思っていたのだが、メンバーには輝もいるらしい。夜更かしをするなら、と彼がコーヒーを淹れてくれる約束をしたので百々人は楽しみにしているが、苦笑いをする春名と興味のなさそうな漣には輝がひいきにしているセレクトショップでコーラを買ってきてくるそうだ。俺が好きでやることだからと言い張る天道さんにぴぃちゃんが必死に経費で落とすように説得していたっけ。そんなやりとりを思い出しながら、そういえば自分もお菓子を買うなら経費で落とすように言われていたことを百々人は思い出す。若里くんがドーナツを買うなら自分はしょっぱいものがいいか、と自然に決まった役割の中で何もしないつもりの漣のことを考えると何も思わないわけではないが、彼の性格上しっかりと領収書をもらってちゃんと手続きをするとは考えにくいので、ぴぃちゃんや周りの人間の手間暇を考えたらいまのままでいいとも思う。 3762 85_yako_pDONEなっぱっぱさんとの鋭百合同誌の再録です。(2022/4月)お題になった頭文字はRです。すげー脱字があったので訂正してます。Ramen 百々人と暮らし始めてよかった。横で寝転びならが台本を読んでいる百々人を見ると、心からそう思う。 俺は高校を卒業してすぐに家を出て、半ば強引にあの家から百々人を連れ出して共に暮らし始めた。家族の在り方は人それぞれだし、俺は正しさや間違いを説けるほど成熟してはいない。それでも、一度話を聞いてしまった以上、あの家に百々人を住まわせておくのは一分一秒だって嫌だった。俺は百々人のことが好きで、百々人を取り巻く環境が嫌いだった。 百々人は俺の手を振り払わずにただ笑ってついてきた。一度捨てられているから二度目は傷つかないようにと、自らを守るような、そういう類の笑顔だった。それでも、半年以上経ってそういう笑みは減っていったように思える。ただ無邪気に笑うことが増えて、口を大きく開いて笑うことが増えて、無理をして笑うことがなくなった。 6922 85_yako_pDONEなっぱっぱさんとの鋭百合同誌の再録です。(2022/3月)お題になった頭文字はQです。好きな曲のオマージュあります。ハッピーではないですがお気に入りです。Quiz 気がついたら見知らぬ廊下に立っていた。 廊下と言うよりも一本道と言った方が正しいのかも知れない。真っ黒な壁か、あるいは暗闇に切り取られた通路を僕はまっすぐに歩く。不安も、迷いもなかった。歩くたびに材質のわからない床がスニーカーの靴底をすり減らして、ぎゅむ、と鳴る。 あまり長時間歩いた感覚は無かったが、唐突にそれは現れた。うっすらとした青紫の磨りガラスがはめ込まれた重厚な扉が僕の目の前にあった。扉は何かしらのロマンを得たいときに使用される舞台装置のような装飾が絡みついていて、ドアノブには木札がぶら下がっている。僕はニスの光沢の下に閉じ込められた文字を、誰に聞かせるでもなく読み上げた。 「……『正解すれば幸せになれる部屋』……?』 6769 85_yako_pDONEなっぱっぱさんとの鋭百合同誌の再録です。(2022/5月)お題になった頭文字はPです。ファンタジーPlethora 世界にはたったひとつ、目に見える愛がある。 *** 「牙崎くんの髪って、地毛?」 「……あ?」 事務所には髪の色素が薄い人が何人かいるけれど、もしも僕とおなじ人がいるとしたらそれは牙崎くんだけだと思ったからこんな質問をした。よく考えたら失礼な質問だったけど、怒られてもいいって思ってた。 僕の言葉を聞いた牙崎くんは、猫のように周囲を見渡してつまらなそうに口をへの字に結ぶ。ここにはアマミネくんもマユミくんもぴぃちゃんもいないし、僕は牙崎くんにいくつかの和菓子を差し出して、こうして事務所のソファで向かい合っている。それに名前まで呼んでいるんだから、この言葉の向かう先は牙崎くん以外にはないってことは理解してもらえているはずだ。 10618 85_yako_pDONE鋭百ワンスアウィーク第44回「涙」ちょっと喧嘩したり年を取ったりしています。(2023/7/16)悲しみだけでも独り占め マユミくんには秘密がある。違う、秘密があった。 僕だけが知っていた秘密は呆気なくバレてしまった。とは言ってもそれはマユミくんにとっては『秘密』ではなく『言っていないこと』だったから、マユミくん本人は傷ついている様子はない。ただマユミくんは「俺の体質のせいでプロデューサーに迷惑をかける」ことだけを気にしてたっけ。そんなマユミくんを僕らは心配していた。 マユミくんの涙は宝石になる。知っていたのは僕だけだったのに、いまではみんなが知っている。マユミくんは秘密を守り通せるつもりだったんだろうけど、僕は「それはどうだろうなぁ」だなんて思ってた。マユミくんは涙脆いわけではないけれどどうしようもなく優しいから、いつかは人前で泣くんじゃないかなって思ってた。 4252 85_yako_pDONEなっぱっぱさんとの鋭百合同誌の再録です。(2022/4月)お題になった頭文字はLです。Limit マユミくんと付き合いだして──そういうことをするようになってから、わかったことがある。 「んっ……マユミくん、しつこい……!」 ぺち、とうなじを叩けば、ようやくマユミくんの唇が僕のからだから離れた。見えやしないからと許可した胸元とお腹はキスマークだらけだし、ずっと優しく触れられていた脇腹は未だにぞくぞくと背骨を震わせるし、繋ぎっぱなしだった手から溶け合う感覚でどこまでが僕なのかわからない。そう、マユミくんは前戯が長い。寝転んだ僕はしばらくからだを起こしていないから、マットレスにくっつきやしないかと心配になる。 「……すまない、百々人」 「……別に、いいけどさぁ……」 そういえば始めて叱ったかも。マユミくんはしゅんとしていたけど、僕の二の句を受けたら嬉しそうな顔になって僕の唇に柔らかく噛み付いて舌をいれてくる。マユミくんが目を閉じて幸せそうに舌を絡めてくると、僕だって目を開いている気分ではなくなってしまうから視界を閉ざした。そうなるともう感じるのはマユミくんの舌の柔らかさと温度しかなくて、ひとつ感覚を遮断したことで耳が余計に音を拾う。 2971 85_yako_pDONEなっぱっぱさんとの鋭百合同誌の再録です。(2022/5月)お題になった頭文字はKです。流血・刺殺注意。幸せにはならないです。Knife リンゴにナイフを突き立てる。駄菓子屋で買ったオモチャのナイフは果実を傷つけることもなく、その紛い物の刃を引っ込ませて大人しく僕の手のひらに収まった。 牛丼よりも安いオモチャのナイフだ。試しに手のひらに当てて少しだけ押し込んでみるけれど、刃は引っ込んで何も起きない。こんなの、ボールペンで刺した方がずっと痛い。 そんな無意味なナイフもどきだが、これは今現在東京都内に潜伏する三六体のマユミくんには覿面に効く。この三六体のマユミくんというのはマユミくんの偽物で、腹立たしいことに彼らは偽物のくせに本物のように背筋を伸ばしてあっちこっちを闊歩している。そんな偽物どもはこのナイフでつつかれると、風船のようにパァン! と破裂していなくなる。 4342 85_yako_pDONEなっぱっぱさんとの鋭百合同誌の再録です。(2022/4月)お題になった頭文字はJです。首を絞める描写(殺人描写)があります。Jealousy 人を殺すのは初めてだ。 ぐ、と力を入れれば、俺の手は百々人の首を締め上げる。ベッドに仰向けになった百々人に覆い被さるようにして、俺は体重をかけて百々人の首を絞める。 シーツがゆっくりと沈んでいき、俺の手で百々人の呼吸が阻害される。手のひらに訴えるように、抵抗のように、血液が脈打っている。そのとき俺が感じていたのは愛ではなく、根源的な恐怖だった。 *** 最近の人間は命を軽く見ていると大人は口にする。 大人──おおよそ三十代以上の人間だろうか、彼らにとって命はかけがえのないもので、一度失ったら取り返しのつかない唯一のものだった。 ところが二十年ほど前だろうか。宇宙からの怪電波と新興宗教の過激派がばらまいたウイルスと数十カ国の神々の怒りが重なった年があり、それがたまたま『ゲーム』の世界を現実に引きずり出してしまう事件が起きた。教科書にも載っているその現象は未だに俺たちの世界にはびこっている。 8467 85_yako_pDONE鋭百ワンスアウィーク第43回「星」星の話。(2023-7-9)きみはきれい 都会には星がないと言っていたのは誰だろう。少なくとも僕らの中にはそんなことを言う人はいない。だって、僕らはみんな都内に住んでるし。 空なんて、まして夜空なんて見る機会がなかったから星がないと言われれば昔の僕は信じただろう。でも今は違う。星がないのなら、珍しく遅くなった帰り道から眺めるあの頼りない光はなんなんだろう。 崩れかけたクッキーのような脆い光だ。頼りなくたって、光が弱くたって、完璧ではない成り損ないだって、確かにそこにいるのに。 とはいえ、理解はしてる。価値がなければ存在していたってないのと同じだ。誰の視界にも入らなくなって、はいさようなら。そんなこと、僕が一番わかってるのに。 「本物の星って、なんだろう」 3197 85_yako_pDONEなっぱっぱさんとの鋭百合同誌の再録です。(2022/4月)お題になった頭文字はFです。Funeral まず、蝉の羽音がした。真夜中に開いた冷蔵庫の音のように断続的に脳にこびりつくノイズから逃れるべく、俺は目を開く。 見えたのは人間の後頭部。そして、視線を少し上に向ければどこまでも高い夏の青空があった。冗談みたいな入道雲を彼方に従え、暴力的な視線で地上を焼いている。 陽炎が立ち上るアスファルトの上に俺たちはいた。俺と、見知らぬたくさんの人間は誰も彼もが真っ黒な服を着て、一列に並んでいる。音は蝉時雨以外には存在せず、列は一向に進まない。 喪服、なのだろう。ここにいる全員が着ている黒い服は、きっと喪服だ。俺は自分の姿を確認する。同じような喪服を着て、手には切り分けられたスイカを持っていた。 列はどこに通じているのだろう。視線をやれば、遠くのほうに時代劇で見るような建物が見えた。名前は知らないが時代劇で罪人を裁くのは決まってあの手の建物だ。葬式には似つかわしくない場所を目指して、葬式の参列者としか思えない人間が並んでいる。 6023 85_yako_pDONEなっぱっぱさんとの鋭百合同誌の再録です。(2022/4/10)お題になった頭文字はEです。地味に2ページぴったりに収めるために頑張りましたEarth さらば地球! 僕とマユミくんは火星へと旅立った。 情報規制とは恐ろしく、僕の与り知らぬところで火星への移住計画はずいぶんと進んでいたらしい。科学の技術は日々進化しているのだ。 しかし残念なことに日本という国はなーんにも進んでいなかった。たとえば、同性婚に関わるあれやそれ、とか。なので恋人同士である僕とマユミくんはパートナーとしての関係を結ぶに留まっている。僕は『眉見』にはなっていないので、今もマユミくんをマユミくんと呼ぶ日々だ。はじめましてから八年間変わらない呼び名は手垢がついた年月だけ味わい深くなっていったが、そろそろ新しい風が欲しい。 そんなところに火星移住計画だ。興味本位で取り寄せたパンフレットを眺めるに、人間がいじくりまわした火星はたいそう居心地がよさそうだった。名産品になる予定の果物はおいしそうな見た目をしているし、東京までは爆速スーパージェットスペースシャトルで二時間弱。四季こそないものの気候は温暖で大きな災害もないらしい。家賃はアイドルとして上り詰めた僕たちのお給料なら無理なく払えるし、抽選要項を僕らは満たしている。なにより、火星の法律では同性婚が認められているそうだ。きっとこのパンフレットを作った人間は日本人に違いない。特定の諸外国では当たり前に認められている権利をこれ見よがしにパンフレットに、先進的なアピールとして書いてしまうなんて。 1970 85_yako_pDONEなっぱっぱさんとの鋭百合同誌の再録です。(2022/4/10)お題になった頭文字はDです。Dance ざらざらとした薄暗闇の中にいる。ぽっかりと空いたクレーターみたいに広いシアタールームで、僕とマユミくんはたったのふたりきりだ。 光源は目の前のモニターだけで、そこには華美な衣装に身を包んだマユミくんと、同じくらい華やかなドレスをまとった知らない女性が映っていた。見つめ合い、手を取り合って、音のない世界で優雅に踊る。ブルーレイを読み取るプレイヤーの音だけが、開きっぱなしの冷蔵庫みたいに鳴っている。 踊るのに音楽はない。そういう趣旨のプロモーションビデオだ。実際にはリズムを取るためのメトロノームが健気に働いていたらしいが、セピアの効果をつけられた映像にその響きは存在しない。役割のあったもの、必要とされた音、ワルツを指揮していたリズム。そういうものが全て、呆けた飴色に覆われてしまっている。 4241 85_yako_pDONE鋭百まんなかバースデーで書いた鋭百です。お祝いだから花をテーマにしたのに明るくなりませんでした。お祝いなのに!!ごめんなさい!!!好きか嫌いなら絶対に好き!って距離感です。(2023/6/11)花の行方 花なんて別に好きじゃなかった。嫌いでも、なかったけど。 *** 僕の家にはいつも花が飾ってあった。僕じゃなくて、お父さんでもなくて、お母さんがいつだって玄関に花を飾っていた。 どんな花だったかなんてたいして覚えていないけど、僕がはっきり覚えていないんだから決まった花を生けていたわけじゃないんだと思う。失って初めて気がつくなんて言葉でこの気持ちは片付けられなくて、それはなんだか月を見た時に似ていた。 華やか、無力で、雄弁で、美しくて、不在ですら存在を強く意識させるもの。 失っている、と不在が語る。それでもこんなメランコリーは気がついてしまってから数分もしないうちに忘れてしまうから、忘れるまでの数分間で僕は日常から花が消えたという事実について考える。つまり、いなくなったお母さんのことを考える。 14747 85_yako_pDONE鋭百ワンスアウィーク第37回「特別」三年後に飲酒してる二人です。(2023/5/21)弱くはないのにね マユミくんとふたりきりになるのは珍しいことじゃない。でもそういうのは例えば仕事なんかでアマミネくんが『いないとき』に僕らの意思に関係なく起こる偶発的な事象みたいなもので、僕らが示し合わせてふたりきりになるということはなかった。 でもそれは過去の話で、僕らは自らの意思でふたりきりになることが増えた。理由はとても単純で、僕らはお酒が飲みたかったけれどアマミネくんがまだ二十歳ではないってだけの理由だった。僕らはたまにふたりきりで、僕の家でお酒を飲む。 あと一年の関係なんだろう。アマミネくんが二十歳になればきっと僕らは三人でお酒を飲む。今のうちに特別な約束をしない限り、僕らが明確な意思でふたりきりになることはきっとない。顔色ひとつ変えずに普段では考えられないほど酔っ払うマユミくんを知っているのは僕ひとりだけど、あと一年もしないうちにアマミネくんだって知ってしまう。 4004 85_yako_pDONE鋭百ワンスアウィーク第32回「耳」かわいらしい嫉妬の話。(2023-04-23)ジェリィ・サファイア 二十歳になるとお酒が飲める。タバコも吸えるけど、昨今の喫煙者は肩身が狭いようで二十歳を越えて勧められるのは大抵がお酒だった。 僕はもうお酒が飲める。アマミネくんは飲めない。マユミくんは一足先に飲んでいるけど、酒に溺れることはできていない。そんなマユミくんは定期的に大量のアルコールを浴びて帰ってくる。 なんでも懇意にしている映画監督がたいそうな酒好きらしい。それが単なるアルコールを用いたハラスメントならばぴぃちゃんが黙っていないだろうけど、マユミくんはその監督とだけはどうしても飲みたいと言って譲らない。彼の語る映画論に惚れ込んでいるマユミくんはアルコールで彼が饒舌になることを望んでいる。別に一緒になって飲む必要はないだろうに、それはマユミくんの性格が良しとしないんだろう。 2903 85_yako_pDONE鋭百ワンスアウィーク第25回「夜更かし」夜更かしするふたりです。(2023-02-18)ミッドナイトシアター 発端は現在公開中の映画だ。友人と観に行ったんだけど、これがすっごく面白かった。映画を見た夜、興奮の醒めなかった僕は一緒に行った友人にではなくマユミくんにLINKをした。まずはこの映画を知っているかと聞いた。観たと言うからどうだったかを聞いた。面白かったと返ってきたので、僕もそうだと返して続ける。 『本当に面白かったんだ。いくらでも感想が言えそう』 だからよかったら明日、少しでいいから話を聞いてほしいな。 そういうメッセージを送るつもりだったんだけど、半分も打ち終わらないうちに通話をリクエストする通知音が鳴った。 「え? ええ?」 マユミくんが電話をしてくること自体は珍しくない。だけどそれは仕事の話か僕が落ち込んでいたりするときだ。あわあわとボタンを押せば、僕やアマミネくんだけがわかるくらいの僅かな高揚を覗かせながらマユミくんは言う。 5585 85_yako_pDONE鋭百。花吐き病にかかる百々人です。(2023-02-03)終わりの前に手を引いて げほ、とむせて真っ赤な花を吐いた時、僕の脳裏によぎったのはこの恋を終わらせられるかもしれないという希望にも似た絶望だった。 なんだか難しい名前のついている、俗称で呼ばれる方がよっぽど多いこの病は「花吐き病」と言われていた。片思いをしている人間が、花を吐くっていう病気。 花吐き病を治すにはその恋を成就させるしかない。それを知った時、僕は叶わぬ恋を持て余しながら際限なく花を吐き続ける老婆を想像した。水分を失った唇から溢れるみずみずしい花を受け止める皺だらけの指先を想像して、そのイメージを打ち消す。そんな一生涯の恋、存在するわけがない。 恋には終わりがあると思っている。ただ、それを選べるのは自分自身のはずだ。そういう、祈りにも似た心を奪うのが、最近流行りだした花吐き病の変異株だった。 6553 85_yako_pDONE鋭百(堅真)超常の幻覚です。真練が形だけモブと付き合ってた描写が少しあるけど、形だけの恋人なので何もしてません。(2023-01-15)ホラー映画を見に行こう 頼まれると断れないと言うのは考えものだ。校舎裏のコンクリートに並んで腰掛けて、眼の前で困ったようにハートのシールで封をされた手紙の裏表をくるくると見つめながら困った顔をする真練を見て、そう思う。 「……見てしまって悪かった」 「ううん。堅輔くんはたまたま下駄箱にいただけだし……むしろ、いきなり変なこと打ち明けちゃってごめんね?」 ついさっき真練から打ち明けられた『僕の欠点』は『頼まれると断れない』というものだった。それが真練の手にしたラブレターとどう繋がるのかはなんとなく察しがついたし、友人がその心の優しさ故に誰かにつけこまれかねない欠点を持っていることが悲しかった。そして、それを本人が自覚していることも。 4085 85_yako_pDONE鋭百ワンスアウイーク第16回「我慢」いちゃいちゃしとる。(22/12/18)我慢ができない。 マユミくんとの付き合いも長くなって、なんとなく彼のことがわかってきた気がする。マユミくんの言いたいことがわかるわけじゃないけれど、ああ、いまマユミくんは言ってないことがあるなって思うことが増えた。 そういう気持ちは恋愛的な付き合いが始まってさらに強くなっていった。言いたいことがありそうなときは聞くようにしているけれど、ちょっと聞きにくいときもある。たとえば恋人同士でしか言えないようなこと、とか。少なくとも僕は恋人がそういう気分であることを察しても「えっちしたい?」とか聞けない。聞いちゃうときもあるけど、基本的には聞けないに決まってるじゃん。 マユミくんは別にいじわるで言わないわけじゃない。むしろ遠慮とか、我慢とか、そういう僕を気遣う感情がマユミくんの口を塞いでいるんだろう。それでも寂しいときはあるし、僕から言い出すのは恥ずかしいときもある。こういうのはバランスが大事だと思うんだけど、マユミくんはそういうのが上手じゃない。 2814 85_yako_pDONEルミネセンスのウォリアサ(鋭百)です。シューターが年下の上官。名前はアイドルと同じ。暴力と血の描写があります。(22/11/17)恋愛フラグ・戦場にて「モモヒトさんは友達いませんよね?」 「はぁ?」 シュウの言葉にモモヒトは不機嫌とも無気力とも取れる声を返す。モモヒトに友人がいないことは本人も他人も知っていることだからそれ自体に怒りはないのだが、断定的な物言いが彼の機嫌を少しだけ悪くした。 「だからなに? キミが友達にでもなってくれるの?」 友人など不要なくせにモモヒトはつまらなそうに笑って吐き捨てた。その言葉のひとつも意に介さずにシュウは続ける。 「モモヒトさんに友達がいないと都合がいいんですよ。……そしてアンタは天涯孤独。そんで恋人もいない。ここまで間違いはないですね?」 「……その通りだし隠すことでもないけどさ。キミに都合がいいのは面白くない」 5060 85_yako_pDONE鋭百ワンスアウイーク第12回「寂しい」(22/11/13)星屑の灯る部屋で「寂しい」 そう言った百々人の表情はうっすらとした逆光で少しだけ不鮮明だった。暮れかけた陽の茜を背に、うっすらとした色の髪がきらきらと輝いている。 「寂しいの」 百々人は困ったようにへらりと笑ったあと、小さな声で「ごめんね」と言った。そうして駅までの道をまた歩き出そうと、俺に背を向ける。 言葉こそ同じではないが、百々人の言葉は先程まで見ていた映画のセリフと同じ温度をしていた。それは恋人の時間が終わろうとしている今この瞬間のためにあるような言葉で、別れの時間にぽつりと落ちる。 俺の家から駅までの帰り道だ。閑静な住宅街には夕刻だというのに誰もいない。猫も、カラスも、神様が脚本通りに消したみたいだ。 百々人の「寂しい」という言葉を引き出したのは俺だ。道すがらふと物憂げな表情を見せた百々人になにか心配事があるのかと伝えたら、百々人は一瞬だけためらうように息を吸って、「寂しい」という言葉を吐き出したんだ。 3557 85_yako_pDONE鋭百ワンスアウィーク第10回『いたずら』いちゃつく鋭百です。(22/10/30)あめだませんそう「マユミくん、なんで僕には飴くれないの?」 駄々をこねるような、あるいは非難するような百々人の声が事務所にぽつりと落ちる。しかし当の鋭心は当たり前の顔をして秀に飴を渡していた。それを見て百々人はますます口を尖らせる。 「なんでアマミネくんには飴を渡すの。僕のが先に頂戴って言ったのに」 「百々人が言ったのはトリック・オア・トリート、だろう。百々人にはイタズラをしていいと伝えたはずだが……」 「だから、なんで僕だけトリートなのって聞いてるの。アマミネくんは飴もらってるじゃん」 その言葉に百々人が鋭心ではなく秀を見る。秀は首をぶんぶんと振り、「知りませんよ」と逃れるような声を出した。 「……マユミくん、まだ飴あるよね?」 3059 85_yako_pDONE鋭百。あやとりをする二人(22/10/13)勘違い、もつれて絡まって「マユミくんって、頼んだら抱いてくれそう」 ぴた、と止まった思考を目の前に座った百々人に向ければ、百々人はあやとりのために輪にした毛糸を指先で弄んでいた。事務所の壁と同じ色をした毛糸は秀が持ってきたもので、もふもふえんの子供たちとあやとりで遊ぶためのものだ。先ほどは百々人がもふもふえんと一緒に秀にあやとりを教わっているのをぼんやりと見つめながら、もしも彼らがこちらに来たときに、そして百々人が何かを喋り出したときに、あやとりを知らなかった十七の子供にかける言葉を考えていた。 あやとりで盛り上がる談笑の中に、俺は意図的に入ろうとしなかった。理由もあやふやなくせに百々人のことがどうしても気になってしまっていたし、俺はきっと小さい頃にあやとりで遊んでくれた祖母のことを思いだしてしまう。それではうまく、きっと、『眉見鋭心』をこなせない。それはおそらく最適な対応ではないだろう。 4004 85_yako_pDONE鋭百ワンスアウィーク第二回「Tシャツ」(22/8/28)入道雲とコバルトブルー 背後に迫った入道雲は、すぐに僕らに追いついて激しい雨を降らせた。 デートが台無しだ。そう言ってマユミくんは笑う。僕は中途半端に笑う。通り雨は一時間もしないうちに止むだろうけど、僕らはどこにも入れないほどずぶ濡れだった。雨が止むまでは逃げ込んだ軒先で雨宿りする必要があるだろう。 予約をしていた店にマユミくんがキャンセルの電話をしている、その声をぼんやりと聞いていた。夏限定のパフェをマユミくんは楽しみにしていたみたいだけど、ずぶ濡れでお店に入るのは気が引けるんだろう。別に濡れてたってパフェの味は変わらないけれど、僕は人に迷惑をかけるのが怖いし、マユミくんは『眉見鋭心』に相応しい行いしかできない。 電話を終えたマユミくんが、品のいいハンカチで僕の頬を拭く。これは絶対に雨水を拭いていいハンカチじゃない。僕なんかに施していいものじゃない。 4655 85_yako_pDONEウォリアサ(鋭百)100本チャレンジその31(22/8/4)シナモン・アップル・生クリーム 殺人。と一言。疑問を挟む間もなく、モモヒトは「殺人鬼とデートしたいの?」と聞いてきた。 そうだ、とも言えず、ただモモヒトと出かけたいことだけを告げる。モモヒトは考える素振りも見せず、いいよ、と笑いもせずに言う。 そのかわり、と提示された条件は三回の模擬戦を行うことだった。なんでデートに誘いたいほど好意を持った相手を戦闘不能に追い込まなければならないのかと頭痛がする。 殺人鬼、というのはもっともで、モモヒトは人殺しだ。しかしそれを言うのであれば俺だって人を殺したことがある。望む望まないに関わらず、ここはそういった人間で溢れている。 モモヒトは戦いを楽しむ節はあるが相手の生き死にに興味はないので、殺人に執着しているわけではない。それなのに組織の中の評価は悪く、モモヒトは悪辣と人を嬲る快楽殺人者だと思われることが少なくない。 1285 85_yako_pDONE絵に文章つけさせてもらったやつです!最高ピクチャ【https://twitter.com/nappapa_sram315/status/1544364544147210240?t=ZFtzeuA0_oYNfF-WuKFc4Q&s=19】戦うウォリアサ(鋭百)です。ケガします。捏造です。(22/7/6) 4439 85_yako_pDONEFes鋭百(ウォリアサ)ぜーんぶ幻覚!手癖!両思い!呼称も捏造してます(22/7/5)転職活動「僕ね、転職活動しようかと思ってさぁ」 「はぁ……」 モモヒトさんが俺に口を開くのは珍しいことで、大抵そういうときはロクなことがない。独り言として聞き流してもよかったが、経験則からして無視するほうが面倒そうだ。 俺たちは報告に向かったエイシンさんを待っているところで、モモヒトさんは飲んでいたバイタルドリンクの瓶をその辺りに投げ捨てて言葉を紡ぐ。コロコロと転がっていく瓶を拾う人間はここにいなかったが、俺はモモヒトさんの言葉を拾うのに手一杯だから見逃してほしい。 「僕はマユミくんと一度、本気で戦ってみたいんだよね」 「はぁ」 知っている。と言うか、この組織に属している以上、知らない人間のほうが少ないはずだ。ここまでは知っている話だったが、流石に続きは知りもせず、見当もつかないことだった。 3056 85_yako_pDONEFesの鋭百(ウォーリア×アサシン)です。全部幻覚!(22/7/1)ビショップは奪われてしまった 一息に飲み干した液体が喉を焼く。吐いた息からアルコールが香って酩酊を加速させていく。酒には疎いから味などわからない。ただ、ダイスで選ばれたのがこの無味無臭の毒だっただけだ。 6が出たらアルコールそのものみたいな酒、2が出たら赤ワイン。残りがなんだったかは覚えていないが、5が出たことだけは覚えている。だからウォッカ、のはずだ。ウォッカが、脳をぐちゃぐちゃにかき回している。 「マユミくんと戦いたい」 それはモモヒトの口癖だった。ことあるごとに、それこそ挨拶のようにモモヒトはその言葉を口にする。俺の返事は大抵NOだが、それではフラストレーションも溜まるだろう。だから定期的に模擬戦で相手をしているのだが、最近はその頻度がやたらと増えてきて困っているのだ。 4249 85_yako_pDONE鋭百。塩対応。100本チャレンジその28(22/6/7)水曜日よりの使者「マユミくんのラジオ、毎週聴いてるよ」 俺の大学進学と同時に、俺にラジオの仕事がきた。百々人はそれを受験勉強中の息抜きに聴いてると言っていた。 「マユミくんのラジオ、毎週の楽しみなんだ。マユミくんの声、すっごく落ち着くから好きだなぁ」 百々人は大学に入学してもラジオを聴き続けてくれた。その頃には俺たちは恋仲になっていて、百々人は俺のどこが好きかをよく教えてくれるようになった。 「マユミくんのラジオ聴かなくちゃ。マユミくんも紅茶、飲む?」 百々人の習慣は俺たちが同棲するようになっても続いていた。毎週金曜日の深夜二十五時になると百々人はいそいそとラジオをつける。インテリアにもなるだろうとプレゼントしたラジオを百々人は気に入ってくれたようで、慣れた手付きでレトロなダイヤルをくるくると回してチャンネルを合わせていた。 1528 85_yako_pDONE鋭百。実在する万物とはなんの関係もありません。(22/5/17)世界に言葉は多くない マユミくんが虫喰いになった。 確か脳のなんとかっていう機能のなんとか中枢のなんとかって器官の出すなんとかという物質がどうにかなっちゃうらしくって、まぁ症状だけ言うと『言葉が喋れなくなる』病気だ。どうやら思考を言語化できなくなるらしく、脳を喰い潰されていくようだから、通称、虫喰い。 言語化ができない。ようは言葉が出てこないってことだから、その場で聞いた言葉なら復唱できる。とは言っても問題は思考と言語の紐付けだから、思ってもいないことは言えないというなんとも不便なものだった。 たとえば、ファンへの「ありがとう」なんかは僕やアマミネくんが言えば繰り返せる。マユミくんだって、おんなじことを思っているからだ。 2077 85_yako_pDONE鋭百のラブコメ。照れる眉見。(22/4/29)不完全犯罪「High×Jokerのみんなと、ゲーム?」 「はい。隼人がよかったらって」 High×Jokerのみんなと僕たち三人、それと、アマミネくんがよくゲームをするっていう大河くん。九人もいると多すぎないかと思ったけれど、これくらいがちょうどいい人数らしい。 「どんなゲームなんだ?」 「ええと、ウインクキラーって名前のゲームなんですけど……」 まずはランダムで犯人と共犯者が決まる。残りの人は市民と呼ばれ、犯人を特定すれば市民の勝ちだ。ゲームを開始したら全員で輪になって談笑をするのだが、その時に犯人や共犯者にウインクされた人間は数秒後に死んでいまい、脱落。全員が脱落するまえに犯人を見つけなければならないが、犯人の告発にもルールがあって──。 1659 85_yako_pDONE鋭百R18。18才以上ならyes。(22/3/2) 5803 85_yako_pDONE鋭百動物園デート。私だけのあなた的なやつです。(22/2/12)埋葬「マユミくんとデートがしたいな」 百々人がうっそりと呟いた言葉は俺に向けられたものではなかった。もちろんそれは秀やプロデューサーに向けられたものでもなく、たったふたりしかいないレッスン室の生ぬるい空気に霧散してく。俺はその言葉を拾い損ねていて、百々人はスマートフォンを手に持ったまま画面の中で踊るトレーナーの足下を見続けていた。 百々人の願いを叶えるなら、そのタイミングはいましかないんだろう。あと数十分ほどで秀が合流し、一時間もしないうちにレッスンが始まるのだから、いま、俺が何かを返すべきだ。 百々人がそっと零した言葉はどこか薄氷に似ていて、それを砕かないように、あるいは溶かさないように慎重に拾い上げる。鈍く水滴でてらてらと反射するような危うさに、自分の浅はかさが滲まないように言葉を選ぶ。一瞬の逡巡に浮かんだ言葉はどれも不完全な気がしてしまい、ようやく吐き出した気持ちに舌がもつれた。 9411 85_yako_pDONE鋭百。増える眉見と選ばなければならない百々人くん。100本チャレンジその19(2022/2/7)スイーツパニック マユミくんが二人になってしまった!曰く、二人のマユミくんのうちの片方はパラレルワールドからきたマユミくんだそうだ。 彼らが言うにパラレルワールドに至る分岐点を作ってしまったのは他ならぬ僕で、なんでも僕が何の気なしにチョコレートとビスケットを取り出して「どっちのお菓子、食べる?」とマユミくんに問いかけたのが原因らしい。そこでマユミくんがどちらのお菓子を選ぶかで世界は分岐するのだと、彼らは言う。それってマユミくんのせいな気がするけど、分岐点の発生が悪いんだって。 とりあえず便宜上二人は『チョコのマユミくん』と『ビスケットのマユミくん』と呼ばれるようになった。アマミネくんが頭を抱えている。 二人に明確な違いはないように見えるが、彼らには大きすぎる違いがあった。なんと、あろうことかチョコのマユミくんは僕に恋をしていると言うのだ。恋するマユミくんがいる世界とそうではないマユミくんがいる世界のどちらがパラレルワールドなのだろう。僕は自分がどちらの世界の花園百々人なのかがわからなくて途方に暮れる。 1138 85_yako_pDONE鋭百に巻き込まれる秀くん100本チャレンジその15(2022/01/14)【急募】犬。 嫌な予感は大抵当たる。これは予感でもなんでもないけど。 「秀……その、百々人は?」 別に鋭心先輩は百々人先輩の現在地点や体調が知りたいわけではない。それでも、ささやかな抵抗として彼が求める返答はしなかった。 「グループトークがきてたでしょ? 打ち合わせですよ。さっきまでいたんですけどね」 ぐ、と鋭心先輩が言葉に詰まる。そうして少しだけ考えるように息を吐いた後、意を決したように声を正して口を開いた。 「その……百々人は、何か変わりなかったか?」 「なにかって、なんですか?」 「その……たとえば……いつもと違うところはなかったか?」 この期に及んで明言を避けるもんだから、ため息ひとつをつけて返してやった。 「百々人先輩は鋭心先輩と喧嘩してたって、俺への態度は変えませんよ」 1247 85_yako_pDONE鋭百。記憶を喰う眉見です。(2022/01/06)ももいろドロップ 頼れる人間を考えたとき、真っ先に浮かんだのは秀の顔だ。一寸遅れてプロデューサーのことも考えたがすぐに考えを打ち消した。結局は誰を選ぼうが変わらないのだが、俺には少しの後ろめたさがあったから秀を選んだのかもしれない。そんなことをぼんやりと考えながら、スマホを取り出して秀に電話をかけた。 コール音がなる。一度、二度、三度。 『はい、もしもし』 「もしもし。秀か? 俺だ、鋭心だ。いま大丈夫だろうか」 『平気ですよ。どうかしましたか?』 「頼みたいことがある。駅に向かえるか?」 『大丈夫ですよ』 よかった。秀がダメだったらプロデューサーや連絡先を交換した事務所の誰かに頼むことになる。思ったよりも自分が安心したことに気がついて、やはり自分にはやましい気持ちがあったのだと知る。 7283 12