運命なんてクソ食らえ 抱けるもんだな、ってのが正直な感想だった。同僚でも、男でも、大嫌いな人間でも。
大嫌いな男はたいそう賢いバカだった。仕事はできて指示は的確で発言は理路整然。そのうえ他人の表情も感情だって読めるくせに、勝手に懐に入れた人間にはどうにも頭が回らない男。それがレナートという男だった。
俺はレナートが大嫌いだった。エリートなんてみんな嫌いだと思っていたが、どうやらコイツは特別みたいだ。特別に嫌いだった。大嫌いだ。
うんと嫌いだったから、とびきりに優しくする必要があった。糖衣のような甘さで何重にも本心を覆い隠して、出会い頭にぶん殴らないように笑顔を張り付けて、要望はなるべく叶えて、なんならついでにコーヒーだって淹れてやった。全部、特別だったからだ。特別に大嫌いだから、特別に扱わなくちゃ会話どころか同じ空間にいることだってできなかったから、おれはいつだってアイツを大切に扱った。
1206