魔法の手のひら「癒宇」
「なんだ」
「手、握ってくれよ」
テーブルに突っ伏したまま残が癒宇に投げかける。コーヒーで満たされたマグカップからはとうに湯気が失せており、癒宇がそこに視線をやっても残は意識を向けようとすらしない。
「疲れた、から」
いつものように──いや、いつもよりも相当多くの思念を読み取った残はそのまま癒宇のいる保健室にやってきた。とうに下校時間は過ぎており、きっと、誰も来やしない。
何もかも投げ出すようにだらりとテーブルに横たわった残の腕は伸ばされることはない。ただ、少し広げるように手のひらを癒宇に向けて、残は彼の反応を待っている。
「……残」
「ん?」
癒宇の言葉には諦めにも似た重い吐息が滲んでいた。癒宇は一度だけ自分の手のひらを見つめたあと、残の指先ではなく彼のラズベリー色の瞳をはっきりと見て、言った。
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