はるち
DOODLEドクターとリー先生が自分たちが手をかけたサンクタを看取る話。今際の際、聞きたい言葉はありますか。
主よ、人の望みの喜びよ 鉱石病に罹患したサンクタは、もう聖地に戻ることを許されない。
「最後に何か、言い残すことは?」
だから男もそうやって、楽園を追われた天使の一人なのだろう。頭上に輝く光輪とは対象的に、光を全て吸い込むような黒の結晶が男の肌に析出していた。
アンブリエルの狙撃で高所から転落した男は、それでも自身の守護銃、長距離狙撃用のライフルを手放さなかった。折れた肋骨が肺に刺さったのだろうか、血の泡と共に咳き込む男は、無感情に自身を見下ろすドクターを、敵意と諦念が混ざった瞳で見上げる。震える指が、引き金にかかることはない。落下の衝撃で腕が折れたのだろう。子どもが好き勝手に振り回した人形のように、腕があらぬ方を向いていた。サンクタ特有の光輪と翼は、血と土埃に濡れてもまだその輝きを失わず、それが地に落ちてもなお、男がまだ天使であることを証明していた。
2047「最後に何か、言い残すことは?」
だから男もそうやって、楽園を追われた天使の一人なのだろう。頭上に輝く光輪とは対象的に、光を全て吸い込むような黒の結晶が男の肌に析出していた。
アンブリエルの狙撃で高所から転落した男は、それでも自身の守護銃、長距離狙撃用のライフルを手放さなかった。折れた肋骨が肺に刺さったのだろうか、血の泡と共に咳き込む男は、無感情に自身を見下ろすドクターを、敵意と諦念が混ざった瞳で見上げる。震える指が、引き金にかかることはない。落下の衝撃で腕が折れたのだろう。子どもが好き勝手に振り回した人形のように、腕があらぬ方を向いていた。サンクタ特有の光輪と翼は、血と土埃に濡れてもまだその輝きを失わず、それが地に落ちてもなお、男がまだ天使であることを証明していた。
はるち
DOODLEロドスの薬が横流しされていると聞いたリーとドクターがカジミエーシュに向かうお話。そこに信頼はありますか?
砂糖細工は食事にならない 殲滅作戦を終え、立ち寄ったカジミエーシュの辺境の街は美しかった。長閑な田園風景という言葉が似合う。グラニが以前任務のために訪れた村もこのような場所だったのだろうか、とドクターは窓の外を眺めた。
「他のオペレーターはまだ来ませんか?」
「もうしばらくかかるだろうね。それまではここで待機だ」
リーとドクターが訪れたのは、その辺境の街にあるロドスの駐在所だ。突然の来訪に常駐しているオペレーターは酷く驚いたようだったが、しかしクランタの青年もザラックの少女も親切だった。こんなものしか用意出来ませんがと差し出されたパウンドケーキが二切れ、テーブルの上に置かれている。少女の手作りだそうだ。
「食べないでくださいよ」
4276「他のオペレーターはまだ来ませんか?」
「もうしばらくかかるだろうね。それまではここで待機だ」
リーとドクターが訪れたのは、その辺境の街にあるロドスの駐在所だ。突然の来訪に常駐しているオペレーターは酷く驚いたようだったが、しかしクランタの青年もザラックの少女も親切だった。こんなものしか用意出来ませんがと差し出されたパウンドケーキが二切れ、テーブルの上に置かれている。少女の手作りだそうだ。
「食べないでくださいよ」
はるち
DONEリー先生の不在時における寂しさのお話。詩及び日本語訳はwiki(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%95%B7%E6%81%A8%E6%AD%8C)より引用しました。
比翼連理の貴方 在天願作比翼鳥 在地願為連理枝
天長地久有時尽 此恨綿綿無絶期
それはちょっと、と筆を手にしたウユウの視線が泳ぐ。
「扇子を拵えてくれるって言ったのはウユウだろう」
執務室でのうたた寝から覚めると、ウユウは筆に無地の扇を広げて私を見ていた。面に好きな言葉を書きましょう、と言って。座右の銘でも好きな漢詩の一節でも、ドクターの望むものを書きましょうと彼が言うものだから、答えたのだけれど。
私は、先程の言葉を繰り返す。
「比翼連理、良い言葉だろう?」
比翼とは、左右一つずつの翼しか持たず、それを共有する事でようやく一対となる羽獣。連理は、別々の根をもつ二本の木の枝がつながった枝。炎国の古い詩に由来する、離れ難い関係性の比喩表現だ。
2037天長地久有時尽 此恨綿綿無絶期
それはちょっと、と筆を手にしたウユウの視線が泳ぐ。
「扇子を拵えてくれるって言ったのはウユウだろう」
執務室でのうたた寝から覚めると、ウユウは筆に無地の扇を広げて私を見ていた。面に好きな言葉を書きましょう、と言って。座右の銘でも好きな漢詩の一節でも、ドクターの望むものを書きましょうと彼が言うものだから、答えたのだけれど。
私は、先程の言葉を繰り返す。
「比翼連理、良い言葉だろう?」
比翼とは、左右一つずつの翼しか持たず、それを共有する事でようやく一対となる羽獣。連理は、別々の根をもつ二本の木の枝がつながった枝。炎国の古い詩に由来する、離れ難い関係性の比喩表現だ。
dokuitu
DONEようやく書けたフォロワーさんとのリプで生まれた添い寝鯉博SS相変わらず博の性別が迷子&捏造だらけだぞ!!
揺籃はシングルベッド「……ドクター」
「待って、あとすこし」
このやり取りも既に五回目。
時計の針はとっくに一周して、新しい日付けを刻んでいる。
しかし未だにドクターの頭脳は働く事を止めないようで、何度も目覚めては枕元にある端末に思い付いた事や戦略をメモしたり、果てには先の仕事の確認までしていた。
ディスプレイの光に照らされ闇に浮かぶドクターの横顔を眺めながら、リーは心中で嘆息する。
ドクターとリーの交際が始まってから幾月か。
翌日が休日で、なおかつ互いに予定がない時にという条件付きでならば、共寝を許されるくらいには心を開いてもらえた。
……はずなのだが、先程からこの有様である。
一度二度ならば寝た振りで見過ごせたが、流石に寝息より端末を睨みながらの唸り声の方が多くなってくると、声のひとつでもかけたくなる。
1518「待って、あとすこし」
このやり取りも既に五回目。
時計の針はとっくに一周して、新しい日付けを刻んでいる。
しかし未だにドクターの頭脳は働く事を止めないようで、何度も目覚めては枕元にある端末に思い付いた事や戦略をメモしたり、果てには先の仕事の確認までしていた。
ディスプレイの光に照らされ闇に浮かぶドクターの横顔を眺めながら、リーは心中で嘆息する。
ドクターとリーの交際が始まってから幾月か。
翌日が休日で、なおかつ互いに予定がない時にという条件付きでならば、共寝を許されるくらいには心を開いてもらえた。
……はずなのだが、先程からこの有様である。
一度二度ならば寝た振りで見過ごせたが、流石に寝息より端末を睨みながらの唸り声の方が多くなってくると、声のひとつでもかけたくなる。
はるち
DONEリーと昔関係があったらしい女性が目の前に現れて動揺するドクターのお話。美しい薔薇には棘があり、鮮やかな生物に毒があるように。
物事には裏表があるというお話。
たったひとつの冴えない願い「リーに聞いてくれないかしら? 次はいつ来てくれるの、って」
美しい人だった。雑然とした居酒屋の中でも燦然として存在感を放っている。この距離でも、鼻先まで纏う香水の甘い匂いがした。これは百合であろう。清純の象徴でありながら、橙の雄しべと芳香が時として淫靡だと忌避される、毀誉褒貶定まらない花。あの香りも美しさも、蝶を誘うためにあるのだから、それは当然であろうに。そして目の前にいる女性もまた、彼の花と同じ美しさを纏っている。輝くプラチナブロンドはゆるやかに巻かれ、首元と耳には真珠のアクセサリー。艶を消した黒のドレスこそ大人しいが、それは彼女自身が宝石だということの証左であり、身に纏う全てはそれを引き立てるために存在していた。
3002美しい人だった。雑然とした居酒屋の中でも燦然として存在感を放っている。この距離でも、鼻先まで纏う香水の甘い匂いがした。これは百合であろう。清純の象徴でありながら、橙の雄しべと芳香が時として淫靡だと忌避される、毀誉褒貶定まらない花。あの香りも美しさも、蝶を誘うためにあるのだから、それは当然であろうに。そして目の前にいる女性もまた、彼の花と同じ美しさを纏っている。輝くプラチナブロンドはゆるやかに巻かれ、首元と耳には真珠のアクセサリー。艶を消した黒のドレスこそ大人しいが、それは彼女自身が宝石だということの証左であり、身に纏う全てはそれを引き立てるために存在していた。
はるち
DONEやり方は三つしかない。正しいやり方。間違ったやり方。俺のやり方だ。――引用 カジノ健康で文化的な最低限度の退廃「抱いてくれないか」
その人が、ソファに座る自分の膝の上に跨る。スプリングの軋む音は、二人きりの静寂の中では雷鳴のように鮮烈だった。こうしていると、この人の方が自分よりも視線が上にある。天井からぶら下がる白熱灯のせいで逆光となり、この人の表情を見失う。
どうしてか、この世界の生物は良いものだけを、光の差す方だけを目指して生きていくことができない。酒がもたらす酩酊で理性を溶かし、紫煙が血液に乗せる毒で緩やかに自死するように、自らを損なうことには危険な快楽があった。例えばこの人が、自らの身体をただの物質として、肉の塊として扱われることを望むように。この人が自分に初めてそれを求めた日のことを、今でも良く覚えている。酔いの覚めぬドクターを、自室まで送り届けた時のこと。あの時に、ベッドに仰向けに横たわり、そうすることを自分に求めたのだ。まるで奈落の底から手招くようだった。嫌だと言って手を離せば、その人は冗談だと言って、きっともう自分の手を引くことはないのだろう。そうして奈落の底へと引き込まれた人間が自分の他にどれほどいるのかはわからない。知りたくもない。自分がロドスにいない間に、この人がどうしているのかも。
1606その人が、ソファに座る自分の膝の上に跨る。スプリングの軋む音は、二人きりの静寂の中では雷鳴のように鮮烈だった。こうしていると、この人の方が自分よりも視線が上にある。天井からぶら下がる白熱灯のせいで逆光となり、この人の表情を見失う。
どうしてか、この世界の生物は良いものだけを、光の差す方だけを目指して生きていくことができない。酒がもたらす酩酊で理性を溶かし、紫煙が血液に乗せる毒で緩やかに自死するように、自らを損なうことには危険な快楽があった。例えばこの人が、自らの身体をただの物質として、肉の塊として扱われることを望むように。この人が自分に初めてそれを求めた日のことを、今でも良く覚えている。酔いの覚めぬドクターを、自室まで送り届けた時のこと。あの時に、ベッドに仰向けに横たわり、そうすることを自分に求めたのだ。まるで奈落の底から手招くようだった。嫌だと言って手を離せば、その人は冗談だと言って、きっともう自分の手を引くことはないのだろう。そうして奈落の底へと引き込まれた人間が自分の他にどれほどいるのかはわからない。知りたくもない。自分がロドスにいない間に、この人がどうしているのかも。
はるち
DONEマジシャンリー先生に翻弄されるドクターのすこしふしぎなお話。意味を求めたってはじまらないよ。人生は欲望だ。意味などどうでもいい。――引用 ライムライト
Down trip, showdown「紅茶はいかがですか?それとも腹が減りましたか、クッキーでも?」
「……いや、やめておくよ。せっかくの空腹を台無しにしたくない」
そりゃ残念、とテーブルを挟んで自分の正面に座る男は肩をすくめた。どうにも芝居がかった動作だ。嘘の気配しかしない。あれを芝居だとするのなら、この状況も悪夢めいている、と霞みがかった意識の中で思考する。
前後の文脈が抜け落ちたように記憶が曖昧だ。ロドスで仕事をしていた。それは覚えている。近日中に艦内で開かれる、witch feastに向けた演劇、そのリハーサルに呼ばれていたことを。おれも出るから来てくださいよ、と彼に言われていたことも。だから仕事を途中で切り上げて、呼ばれた場所へと向かった、はずだ。少なくとも、日差しもうららかな屋外で茶をしばくために執務室を出た訳ではない。
3959「……いや、やめておくよ。せっかくの空腹を台無しにしたくない」
そりゃ残念、とテーブルを挟んで自分の正面に座る男は肩をすくめた。どうにも芝居がかった動作だ。嘘の気配しかしない。あれを芝居だとするのなら、この状況も悪夢めいている、と霞みがかった意識の中で思考する。
前後の文脈が抜け落ちたように記憶が曖昧だ。ロドスで仕事をしていた。それは覚えている。近日中に艦内で開かれる、witch feastに向けた演劇、そのリハーサルに呼ばれていたことを。おれも出るから来てくださいよ、と彼に言われていたことも。だから仕事を途中で切り上げて、呼ばれた場所へと向かった、はずだ。少なくとも、日差しもうららかな屋外で茶をしばくために執務室を出た訳ではない。
はるち
DONEドクターがリーと一緒にラブホから出てきたところを目撃するモブオペレーターの話です。モブオペレーターの視点で話が進みます。ドクターが男と一緒にラブホから出てきた件について 龍門の朝は気怠い。
きらびやかなネオンがその極彩色で腐臭と汚物を隠してくれるのは夜だけのことで、朝日が差し込めば残るのは二日酔いの痛みと瀉物で汚れたアスファルトだ。それでも感染者のために薬品を届けたり面倒事に巻き込まれていないかを確認したりするために朝から見回りにでなければならないのが下っ端の辛いところである。本当だったらもう一人、ぼくと同じように龍門の駐屯所に配属されている相棒が今日の当番だけれども。体調が悪いと泣きつかれれば仕方がない。女子会の二日酔いで朝が辛いから体よく利用されているという感は否めないが。全く、お前はペッローなんだから朝早いのには強いだろうと言われるのは言いがかりではなかろうか。
5817きらびやかなネオンがその極彩色で腐臭と汚物を隠してくれるのは夜だけのことで、朝日が差し込めば残るのは二日酔いの痛みと瀉物で汚れたアスファルトだ。それでも感染者のために薬品を届けたり面倒事に巻き込まれていないかを確認したりするために朝から見回りにでなければならないのが下っ端の辛いところである。本当だったらもう一人、ぼくと同じように龍門の駐屯所に配属されている相棒が今日の当番だけれども。体調が悪いと泣きつかれれば仕方がない。女子会の二日酔いで朝が辛いから体よく利用されているという感は否めないが。全く、お前はペッローなんだから朝早いのには強いだろうと言われるのは言いがかりではなかろうか。
totorotomoro
MOURNING暗いです。閲覧注意。ドクターが倒れてます。忙しくて前が見えないのと、今の落ち込み気味な気持ちを外に向けるとこうなります。
これ読んで引きずられそうな人は、温かいもの飲んで休んだ方がいいです。ひとつのバロメータ。
「もっと頑張らなければ、私は」 流れ弾に脇腹をかすめとられ、意識を失ってかつぎこまれたドクターの病室へ交代でみんなで詰めている。どうしたってどうにもならないのだが、誰もが何かをせずにはいられないのだ。
手を握り、声をかけ、起きてと願い、快復を祈る。
花を枕元に飾り、おまじないのアイテムを置き、色々と毎日の様子を話しかける。そして話している人物は段々と口を引き結び、背中を丸めて俯き、ドクターに聞かれないように嗚咽をこぼす。リーは戸口でその気配を感じ取り、持ってきた花束の外側を見つめてただ俯いていた。
そうしてたまらなくなったのか、中にいる誰かが外に出ようとする気配を察して、リーはそっと空いている隣の部屋へ体を移した。野暮なことはしたくない。
1629手を握り、声をかけ、起きてと願い、快復を祈る。
花を枕元に飾り、おまじないのアイテムを置き、色々と毎日の様子を話しかける。そして話している人物は段々と口を引き結び、背中を丸めて俯き、ドクターに聞かれないように嗚咽をこぼす。リーは戸口でその気配を感じ取り、持ってきた花束の外側を見つめてただ俯いていた。
そうしてたまらなくなったのか、中にいる誰かが外に出ようとする気配を察して、リーはそっと空いている隣の部屋へ体を移した。野暮なことはしたくない。
はるち
DONEエンカクの影を感じてやきもきする先生が書きたかった散華日和 僕には、花一輪をさえ、ほどよく愛することができません。ほのかな匂いを愛ずるだけでは、とても、がまんができません。突風の如く手折って、掌にのせて、花びらむしって、それから、もみくちゃにして、たまらなくなって泣いて、唇のあいだに押し込んで、ぐしゃぐしゃに噛んで、吐き出して、下駄でもって踏みにじって、それから、自分で自分をもて余します。――引用:秋風記 太宰治
「綺麗だろう?」
花束を抱えたドクターは、春風に揺れる蕾のようにその表情を綻ばせた。クリーム色のネリネにピンク色のカーネーション、秋を迎えた花々がドクターに彩りを添える。花瓶はどこにしまっただろうかと、ドクターは戸棚に向かう。目当ての物を引っ張り出し、どこに飾ろうかと自室を見渡す。リーは初めてここに通された時は、必要最低限のものしか置かれていなかったこの場所は、今では人間の生活する空間になっていた。そしてそれは少なからず自分の功績だった。
1372「綺麗だろう?」
花束を抱えたドクターは、春風に揺れる蕾のようにその表情を綻ばせた。クリーム色のネリネにピンク色のカーネーション、秋を迎えた花々がドクターに彩りを添える。花瓶はどこにしまっただろうかと、ドクターは戸棚に向かう。目当ての物を引っ張り出し、どこに飾ろうかと自室を見渡す。リーは初めてここに通された時は、必要最低限のものしか置かれていなかったこの場所は、今では人間の生活する空間になっていた。そしてそれは少なからず自分の功績だった。
はるち
DONEケーキバースパロ(ざっくりいうと味覚がない代わりに特定の人間を美味しそうにかんじてしまう人)ですあなたの舌の上にはおれが足りない「ぼくのことをよく知っていただいていて光栄ですよ、教授。だが、好奇心が執着に変わる一線があり、あなたはその線にとても近づいているのではと心配だ」――引用:シャーロック・ホームズとシャドウウェルの影 ジェイムズ・ラヴクローヴ
ドクターが味覚を喪失していることを自覚したのはチェルノボーグから帰還した数日後だった。
初めはいわゆるPTSDだと思っていた。硝煙や血の焦げる鉄錆に似た匂い、果てには人体も初戦は蛋白質から出来ているのだと訴えかける匂いを嗅いで、食欲が湧く方がどうかしている。かつての自分であればいざ知らず、記憶をなくした今の自分は戦場に有り様にショックを受け、それで一時的に食欲をなくしているのだと。そう解釈していた。
4852ドクターが味覚を喪失していることを自覚したのはチェルノボーグから帰還した数日後だった。
初めはいわゆるPTSDだと思っていた。硝煙や血の焦げる鉄錆に似た匂い、果てには人体も初戦は蛋白質から出来ているのだと訴えかける匂いを嗅いで、食欲が湧く方がどうかしている。かつての自分であればいざ知らず、記憶をなくした今の自分は戦場に有り様にショックを受け、それで一時的に食欲をなくしているのだと。そう解釈していた。
はるち
DONEスペクターとリーがドクターを取り合うお話Hunter’s dream 「私達は顔見知りだし、くだらない初めましてなんていらないわよね」
扉を開けて執務室に入ってきた彼女は、もうかつての彼女ではなかった。朽ちた教会の、あの虚ろな美しさは既になく。
「でも、まだ互いに理解し合っているわけじゃないわ」
ハイヒールの足音を響かせながらこちらに歩いてくる姿には、自身の生を謳歌する狩人の力強さがあった。煌々と輝く紅玉の瞳は、廃墟の美学ではなく強者の論理を宿している。
スペクターと呼ばれた彼女は、遠いイベリアの地で、本来の自分自身を取り戻したのだ。彼女の友人として、指揮官として。私はそれを言祝ぐべきなのだろう。
しかし。
「私の記憶が確かなら、陸の人たちが理解を深め合う方法はそれほど複雑なものじゃないはず」
1769扉を開けて執務室に入ってきた彼女は、もうかつての彼女ではなかった。朽ちた教会の、あの虚ろな美しさは既になく。
「でも、まだ互いに理解し合っているわけじゃないわ」
ハイヒールの足音を響かせながらこちらに歩いてくる姿には、自身の生を謳歌する狩人の力強さがあった。煌々と輝く紅玉の瞳は、廃墟の美学ではなく強者の論理を宿している。
スペクターと呼ばれた彼女は、遠いイベリアの地で、本来の自分自身を取り戻したのだ。彼女の友人として、指揮官として。私はそれを言祝ぐべきなのだろう。
しかし。
「私の記憶が確かなら、陸の人たちが理解を深め合う方法はそれほど複雑なものじゃないはず」
はるち
DONEドクターがロドスを辞めた後に龍門で二人暮らしをするお話Utopia,or the loss of sanity 大昔いつの代には、神様の眷属にするつもりで、神様の祭りの日に人を殺す風習があった。おそらくは最初は逃げてもすぐに捉まるように、その候補者の片目を潰し足を一本折っておいた。そうして非常にその人を優遇しかつ尊敬した。――引用:一つ目小僧その他 柳田国男
「その人に触らないでくれますか?」
龍門の街角にあるベンチ、そこに座っている人影は、精巧にできた人形のようだった。白磁の肌にひと目で上等とわかる炎国伝統の衣装、伸びた前髪が顔の半分を覆っており、目蓋は閉ざされている。たまたまベンチの前を通りかかった男は、惹かれるようにそれへと手を伸ばした。これは人形なのだろうか、それとも。
けれども指先が届くより前、背後から聞こえた声に肩を震わせる。三歩で男と並んだその声の主は、焦りとも怯えともつかない表情で固まっている男ににこりと微笑みかけた。しかしその鬱金色の瞳は欠片も笑っておらず、無慈悲に夜を統べる月を連想させる。男よりもずっと上背のある、龍族の男だった。
3254「その人に触らないでくれますか?」
龍門の街角にあるベンチ、そこに座っている人影は、精巧にできた人形のようだった。白磁の肌にひと目で上等とわかる炎国伝統の衣装、伸びた前髪が顔の半分を覆っており、目蓋は閉ざされている。たまたまベンチの前を通りかかった男は、惹かれるようにそれへと手を伸ばした。これは人形なのだろうか、それとも。
けれども指先が届くより前、背後から聞こえた声に肩を震わせる。三歩で男と並んだその声の主は、焦りとも怯えともつかない表情で固まっている男ににこりと微笑みかけた。しかしその鬱金色の瞳は欠片も笑っておらず、無慈悲に夜を統べる月を連想させる。男よりもずっと上背のある、龍族の男だった。
はるち
DONEそれは、雪が全てを寝沈めた夜に。in a silent snowy night 決まりの良い理由なんて無いんだ、と彼は言った。誰にだって、理由もなく好きなことはあるだろう、と。
「こんな時間までどこをほっつき歩いてたんです」
甲板から艦内へと戻ったドクターを出迎えたのはリーだった。廊下の壁に背中を預けていた彼は、その姿を見て紫煙を吐き出す。艦の外で深々と降り積もる雪に言葉を吸い込まれでもしたかのように、二人の間に言葉はなかった。ドクターが黙っていた理由は一つで、ここは禁煙だ、と注意すれば、ますます彼の機嫌を損ねてしまうだろうからだった。
当て擦るような言葉は夜風に似て、頬を冷たく掠めた。だというのに白熱灯の元で見る金の瞳は気遣わしげに揺れているのだから、思わず表情を緩めてしまいそうになるのをなんとか堪える。
1950「こんな時間までどこをほっつき歩いてたんです」
甲板から艦内へと戻ったドクターを出迎えたのはリーだった。廊下の壁に背中を預けていた彼は、その姿を見て紫煙を吐き出す。艦の外で深々と降り積もる雪に言葉を吸い込まれでもしたかのように、二人の間に言葉はなかった。ドクターが黙っていた理由は一つで、ここは禁煙だ、と注意すれば、ますます彼の機嫌を損ねてしまうだろうからだった。
当て擦るような言葉は夜風に似て、頬を冷たく掠めた。だというのに白熱灯の元で見る金の瞳は気遣わしげに揺れているのだから、思わず表情を緩めてしまいそうになるのをなんとか堪える。
dokuitu
DONE先生お誕生日おめでとうございますな鯉博SSいつもにも増して捏造マシマシでしてよ もちろん博の性別は固定してないです
From me to you執務室のドアを開けるなり、山盛りの荷物を抱えたリーが入ってきてドクターは思わず「ほう」と呟いた。
『山盛り』と言うのは誇張でも何でもなく、かなりの長身であるはずのリーの顔が半分しか見えない。
ドクターの体を抱きしめてなお余るような(これはドクターの体躯が細いせいでもあるが)腕で抱えてそうなっているのだから、その総量は推して知るべしだろう。
荷物の正体は、ロドスのオペレーター……主に後方支援部の者達や、ロドス艦内で保護された子供達からの誕生日プレゼントである。そう、今日はリーの誕生日なのだ。
「随分と慕われているようだね、リー」
「ええ、まあ……。流石にこの数は、おれとしても予想外でしたがね、っと」
リーはプレゼントの山をそっとソファへと降ろし、隣に腰を据える。
2333『山盛り』と言うのは誇張でも何でもなく、かなりの長身であるはずのリーの顔が半分しか見えない。
ドクターの体を抱きしめてなお余るような(これはドクターの体躯が細いせいでもあるが)腕で抱えてそうなっているのだから、その総量は推して知るべしだろう。
荷物の正体は、ロドスのオペレーター……主に後方支援部の者達や、ロドス艦内で保護された子供達からの誕生日プレゼントである。そう、今日はリーの誕生日なのだ。
「随分と慕われているようだね、リー」
「ええ、まあ……。流石にこの数は、おれとしても予想外でしたがね、っと」
リーはプレゼントの山をそっとソファへと降ろし、隣に腰を据える。
totorotomoro
TRAINING載せるの忘れてたので、5と6の順が逆ですが、これで終わってるのでそのまま読めます。初期案は鯉先生が「この人の恋人はおれですよ」って周りにアピールする大人気ないところを入れる予定でした。散文5「あたしね、あたしはね、けっこんするならリーさんがいい! だって料理がおじょうずだもの!」
「あたしはエンカクさん!しょくぶつをそだてるのがとてもじょうずなのよ」
「わたしはウンさんがすき!」
ドクターはその言葉を耳にしてふと足を止めた。
見ればロドスで面倒を見ている子たちが休憩スペースで四、五人で固まって楽しそうにおしゃべりをしていた。
種族としてはわかりやすい子だとペッロー、アナティ、クランタといったところだろうか。どの子もまだ十にも満たないかもしれない。
前後の会話から、オペレーターの中で結婚相手とするなら誰がいいかみたいな話だろうか。微笑ましさについニコニコと眺めていると、一人の女の子が気がついて手を振ってくる。
1700「あたしはエンカクさん!しょくぶつをそだてるのがとてもじょうずなのよ」
「わたしはウンさんがすき!」
ドクターはその言葉を耳にしてふと足を止めた。
見ればロドスで面倒を見ている子たちが休憩スペースで四、五人で固まって楽しそうにおしゃべりをしていた。
種族としてはわかりやすい子だとペッロー、アナティ、クランタといったところだろうか。どの子もまだ十にも満たないかもしれない。
前後の会話から、オペレーターの中で結婚相手とするなら誰がいいかみたいな話だろうか。微笑ましさについニコニコと眺めていると、一人の女の子が気がついて手を振ってくる。
totorotomoro
TRAINING上掛けをとられるドクター。初期案は攻防するとかケンカする?みたいなメモがついてたり、レポート風に書こうかと思案していましたが、大体鯉先生が譲歩するだろうな、というかドクターのことだからうまく交わしそうでこうなりました。散文6 誰かと一緒に寝るときには枕だけではなくて上掛けの寝具も二つ以上はマストだろうとドクターは思っている。
蜜月ならそりゃあ一枚を分け合って足らない分を体温で温め合うのもよいだろう。逆に付き合ってからずっと一枚で寝ているパートナー同士を否定するつもりも勿論ない。
だが、ドクターとしては誰かと付き合いだしたなら寝具は二つ以上は早急に用意しろと言いたい。
なぜ二つ”以上”かというと、夜具から抜け出して戻った際に上掛けを相手に取られた場合にはもうひとつ必要になるからだ。
今日も今日とて深夜に喉の渇きを覚えて覚醒したドクターがベッドを抜け出す。隣の部屋に置いた小型冷蔵庫からペットボトルを二本持って戻ってくると、上掛けが消えていた。
3484蜜月ならそりゃあ一枚を分け合って足らない分を体温で温め合うのもよいだろう。逆に付き合ってからずっと一枚で寝ているパートナー同士を否定するつもりも勿論ない。
だが、ドクターとしては誰かと付き合いだしたなら寝具は二つ以上は早急に用意しろと言いたい。
なぜ二つ”以上”かというと、夜具から抜け出して戻った際に上掛けを相手に取られた場合にはもうひとつ必要になるからだ。
今日も今日とて深夜に喉の渇きを覚えて覚醒したドクターがベッドを抜け出す。隣の部屋に置いた小型冷蔵庫からペットボトルを二本持って戻ってくると、上掛けが消えていた。
はるち
DONE枯れない花はなくとも咲かない花はある。世界とは根本的に不平等なものだ。
*花吐き病パロです
花の中で私を殺して 嘔吐中枢花被性疾患、通称花吐き病という疾患がある。
口から花弁を吐き出すというのが唯一の症状だ。初めて聞いたときは何を馬鹿な、とドクターも思ったのだが、人間が石になる疾患もあるテラの大地だ。それくらいの奇病はあって然るべきなのかもしれない。感染経路は感染者の吐いた花。これに触れることにより感染する。
そして、一番の問題は。
「……ええと。ケルシー。悪いんだけどもう一度言ってくれないか」
ドクターの言葉に、ケルシーは首を振った。聞こえていなかったのか、というように、先程の言葉を復唱する。
「この疾患の治療法はただ一つ。意中の相手と両思いになることだ」
「……」
ドクターは俯いて唇を噛んだ。ケルシーの口から出る「意中の相手」「両思い」という言葉の重みたるや、推して知るべしだろう。
6679口から花弁を吐き出すというのが唯一の症状だ。初めて聞いたときは何を馬鹿な、とドクターも思ったのだが、人間が石になる疾患もあるテラの大地だ。それくらいの奇病はあって然るべきなのかもしれない。感染経路は感染者の吐いた花。これに触れることにより感染する。
そして、一番の問題は。
「……ええと。ケルシー。悪いんだけどもう一度言ってくれないか」
ドクターの言葉に、ケルシーは首を振った。聞こえていなかったのか、というように、先程の言葉を復唱する。
「この疾患の治療法はただ一つ。意中の相手と両思いになることだ」
「……」
ドクターは俯いて唇を噛んだ。ケルシーの口から出る「意中の相手」「両思い」という言葉の重みたるや、推して知るべしだろう。
魔王今年三岁半
DOODLE本篇直连:https://poipiku.com/3382518/7666320.html关于魔术师鲤博大型脑洞部分情节的解释【关于博士前后性格变化】
可能有的人觉得博士的性格在重新遇到老鲤以后的结局和后续和之前的全部相比大相径庭,所以觉得我自己给自己ooc了,但实际上是跟博士当时的“身份感”有很大关系。
这个背景里的博士不是什么失忆的长生种老妖怪,他很年轻,大概二十几三十几岁左右,而在这个年纪就能成为“博士”、成为“罗德岛制药公司的主要负责人”,当然最大的要素是“才华”和“能力”,同时还有“罗德岛制药公司的初期成员”这个身份带来的优势,然而这个身份也自然给尚且年轻的他带来可怕的压力。
其实后来有提到,他在成为“博士”、“罗德岛制药公司的主要负责人”以后一直被称作“博士”,从此以后很少被称呼本名,即使必须带个名字,那也是“罗夏克博士”。这也是凯尔希这个上级给他带来的施压措施,让他逐渐成为“博士”,让他将自己的“本性”抹杀,让他逐渐忘却“本来的自己”,让他成为……“大家所希望所理想的博士”。
2957可能有的人觉得博士的性格在重新遇到老鲤以后的结局和后续和之前的全部相比大相径庭,所以觉得我自己给自己ooc了,但实际上是跟博士当时的“身份感”有很大关系。
这个背景里的博士不是什么失忆的长生种老妖怪,他很年轻,大概二十几三十几岁左右,而在这个年纪就能成为“博士”、成为“罗德岛制药公司的主要负责人”,当然最大的要素是“才华”和“能力”,同时还有“罗德岛制药公司的初期成员”这个身份带来的优势,然而这个身份也自然给尚且年轻的他带来可怕的压力。
其实后来有提到,他在成为“博士”、“罗德岛制药公司的主要负责人”以后一直被称作“博士”,从此以后很少被称呼本名,即使必须带个名字,那也是“罗夏克博士”。这也是凯尔希这个上级给他带来的施压措施,让他逐渐成为“博士”,让他将自己的“本性”抹杀,让他逐渐忘却“本来的自己”,让他成为……“大家所希望所理想的博士”。
魔王今年三岁半
DONE【鲤博】冰淇淋很难说今天到底是不是来执行任务的,原本博士来龙门是准备来跟鲤氏侦探事务所面谈最近在龙门的工作事宜的,但是现在……
“博士,这家店的老冰棍可是龙门一绝啊,好吃又便宜,即使过了那么些年月,还是那个价。”老鲤伸手指向了博士身旁的一家小店,博士也顺着他的手指看过去,那的确是一家看上去有点年头的冰棍店,装修的跟周围的大店铺比显得朴实无华,甚至招牌看上去也已经很老旧了。
博士其实很疑惑自己为什么谈任务谈着谈着就走到街上了,但根据他对老鲤的了解来看,很难不让人猜测老鲤是不是为了逃避工作主动带着他跑到街上闲逛的。但博士仔细想想,这次任务还有好几天的时间,也不需要这么急着去执行,倒不如趁这个时候多了解一下龙门当地环境,也不是一件坏事。
4019“博士,这家店的老冰棍可是龙门一绝啊,好吃又便宜,即使过了那么些年月,还是那个价。”老鲤伸手指向了博士身旁的一家小店,博士也顺着他的手指看过去,那的确是一家看上去有点年头的冰棍店,装修的跟周围的大店铺比显得朴实无华,甚至招牌看上去也已经很老旧了。
博士其实很疑惑自己为什么谈任务谈着谈着就走到街上了,但根据他对老鲤的了解来看,很难不让人猜测老鲤是不是为了逃避工作主动带着他跑到街上闲逛的。但博士仔细想想,这次任务还有好几天的时间,也不需要这么急着去执行,倒不如趁这个时候多了解一下龙门当地环境,也不是一件坏事。
魔王今年三岁半
DONE魔术师鯉博打牌,无脑肉后续鲤博打牌脑洞
某种意义上,承接那个魔术师鲤博无脑肉
大概是第二天,浑身腰酸背痛的博士好不容易结束了半天无人帮忙(虽然平时也)的工作,然后开始愤怒地四处寻找翘班的助理的踪影
结果找到人的时候,人还在娱乐室里乐呵呵地收拾刚刚“魔术表演”的道具,看得博士简直火冒三丈
“……哟,这不博士吗?”老鲤抬头看到博士气势汹汹地走进来,却装作一副若无其事的样子向他打招呼,“您早啊,今天不工作吗?怎么还有闲心来娱乐室?”
博士:?
“……您以为我是因为什么原因才不去工作来娱乐室的。”博士都有点气笑了,直接大步流星朝人走来,“你为什么翘班了,给你三秒钟时间解释。”
“哎、这可不是鲤某的错。”老鲤的手借着魔术道具撑着脸,脸上依旧是笑呵呵的模样,“不是活动快到了吗?我也得赶紧地去练习啊,毕竟我这老人家、可不擅长这种年轻人的花活。”
5454某种意义上,承接那个魔术师鲤博无脑肉
大概是第二天,浑身腰酸背痛的博士好不容易结束了半天无人帮忙(虽然平时也)的工作,然后开始愤怒地四处寻找翘班的助理的踪影
结果找到人的时候,人还在娱乐室里乐呵呵地收拾刚刚“魔术表演”的道具,看得博士简直火冒三丈
“……哟,这不博士吗?”老鲤抬头看到博士气势汹汹地走进来,却装作一副若无其事的样子向他打招呼,“您早啊,今天不工作吗?怎么还有闲心来娱乐室?”
博士:?
“……您以为我是因为什么原因才不去工作来娱乐室的。”博士都有点气笑了,直接大步流星朝人走来,“你为什么翘班了,给你三秒钟时间解释。”
“哎、这可不是鲤某的错。”老鲤的手借着魔术道具撑着脸,脸上依旧是笑呵呵的模样,“不是活动快到了吗?我也得赶紧地去练习啊,毕竟我这老人家、可不擅长这种年轻人的花活。”
はるち
DONEハロウィンの少し不思議なお話。リー先生のハロウィンコーデに脳を焼かれています。魔術師兼大泥棒ってなに?
A night of all hallows 祭りの嫌いな民族などいない。ここロドスには実に多種多様な国からオペレーターが集まっており、各自がそれぞれの故郷から持ち込んだ文化に基づく祝祭が開かれていた。十月の末に行われるハロウィンもその一つで、オペレーター達は思い思いの仮装に身を包み、菓子をねだったり悪戯をしたりと、好き好きに今日という日を楽しんでいた。ドクターもその一人だった。普段のように白衣でオペレーター達の輪の中へと入り、徹夜三日目の仮装だと言って笑いを取るつもりだったのだが、それは流石に笑えないと引きつった表情のロベルタに止められた。代わりに彼女から受け取ったのはいつかに遊園地へと遊びに行った時に買った兎耳のカチューシャだ。アーミヤと本当の親子になったみたいだ、と。そう思って、彼女と顔を見合わせて微笑んだことを思い出す。
4340はるち
DONE解けない謎を振りまく奇術師と。解けない謎を解き明かす探偵は。
対極に位置しているその二つは、だからこそ彼に相応しい。
謎は解けないほうが魅力的「マジックの三原則をご存知で?」
知らない、とドクターは答える。律儀な観客に向かって、彼は被っていたシルクハットを外した。中に何も入っていることを見せ、帽子のつばの部分が上になるように持つ。来る祝祭に向けて、彼はマジシャンの仮装をすることにしたようだった。タキシードもシルクハットもステッキも、いかにもマジシャン然としているが、どうにも胡散臭さが鼻につく。しかしステージ映えを意識した、ともすると装飾過多な服を着ていても、服に着られているという感はないのだから、やはり流石というべきだろう。
「今からウサギを取り出します」
リーが三、二、一とカウントしながら手元のステッキで帽子のつばを叩く。
ステッキを腕にかけ、中に片手を入れる。宣言通り、彼は中から耳を掴んで一羽の白ウサギを取り出した。けれどもそれは奇術というよりも作業に似ていた。たった一人の観客であるドクターは拍手をしたが、しかし驚きがそこにあるかは疑わしい。
2392知らない、とドクターは答える。律儀な観客に向かって、彼は被っていたシルクハットを外した。中に何も入っていることを見せ、帽子のつばの部分が上になるように持つ。来る祝祭に向けて、彼はマジシャンの仮装をすることにしたようだった。タキシードもシルクハットもステッキも、いかにもマジシャン然としているが、どうにも胡散臭さが鼻につく。しかしステージ映えを意識した、ともすると装飾過多な服を着ていても、服に着られているという感はないのだから、やはり流石というべきだろう。
「今からウサギを取り出します」
リーが三、二、一とカウントしながら手元のステッキで帽子のつばを叩く。
ステッキを腕にかけ、中に片手を入れる。宣言通り、彼は中から耳を掴んで一羽の白ウサギを取り出した。けれどもそれは奇術というよりも作業に似ていた。たった一人の観客であるドクターは拍手をしたが、しかし驚きがそこにあるかは疑わしい。
totorotomoro
DONE2022/10/4 それは大陸版の衣装発表の記念日…。リー先生の衣装にたぎった我々は、それをぶつけるため各地に創作部隊を放ったのであった…(与太話)
Trick or Treat? ───あっ、ドクター!? おれです、リーです! 忙しいとこすみません、助け、助けてくださいっ。ちょっ、男のそんなとこ触るのナシでしょうが。ちょっと! 何か話してくださいよ! やめっ、落ち着いてっ……ドクター聞こえてますか!? ドクターお願いです、助け……うわっ。来ないで〜!
ガタガタンゴツン、ゴッ───ゴトゴトッ……ピッ、ブツッ。
え、なにこれ。新手のAV?
沈黙した携帯端末を見下ろして、ドクターはたぷたぷと画面に触れた。直前に連絡してきたのはさっき名乗ったリーの携帯端末からで、最後の物音は端末を床に落としたか何かだろう。かけ直そうかと思ったが、通話の状況的に相手が出るわけもない。
リーの声音から直接命に関わることはなさそうなのだが、なりふり構わずヘルプを求める姿にドクターは端末をポケットにしまうと執務室にあるコンソールからリーの今日の公開されている予定を呼び出した。朝から順番に斜め読みをして、直前のスケジュールを見て居場所がわかったドクターは席を立った。
2786ガタガタンゴツン、ゴッ───ゴトゴトッ……ピッ、ブツッ。
え、なにこれ。新手のAV?
沈黙した携帯端末を見下ろして、ドクターはたぷたぷと画面に触れた。直前に連絡してきたのはさっき名乗ったリーの携帯端末からで、最後の物音は端末を床に落としたか何かだろう。かけ直そうかと思ったが、通話の状況的に相手が出るわけもない。
リーの声音から直接命に関わることはなさそうなのだが、なりふり構わずヘルプを求める姿にドクターは端末をポケットにしまうと執務室にあるコンソールからリーの今日の公開されている予定を呼び出した。朝から順番に斜め読みをして、直前のスケジュールを見て居場所がわかったドクターは席を立った。
totorotomoro
TRAINING「@Chickentabetai7」(とりさん)のツイートネタをお借りして書きました。ご本人にはアップロードの許可をいただきました。下げる必要があれば下げます。よかったらお楽しみください。ドクターが風呂で溺れかけた話 研究にハマって寝ずに何かしていたアですら、もうちょっとはマシだった気がする。リーは後にそう独白した。
ドクターの執務室のドアを開けると、椅子に腰掛けて上を向いてピクリともしない部屋主が居た。リーが近寄って見れば、どうも瞬間寝落ちていたらしい。声をかけるとびくりと体を揺らしてドクターは声がした方にフェイスシールドをしたままの顔を向けた。
「ああ、おはよう」
「おはようございます、ドクター」
「……あ、リーか。そうか、リーが今日の秘書係だっけ。よろしくね」
寝ぼけ声でそう言いつつ、机の上にあるクリップどめの資料に手を伸ばそうとするのでリーはそれを押しとどめた。
「一体どれくらい寝てないんですか」
「寝てたよ、今」
3927ドクターの執務室のドアを開けると、椅子に腰掛けて上を向いてピクリともしない部屋主が居た。リーが近寄って見れば、どうも瞬間寝落ちていたらしい。声をかけるとびくりと体を揺らしてドクターは声がした方にフェイスシールドをしたままの顔を向けた。
「ああ、おはよう」
「おはようございます、ドクター」
「……あ、リーか。そうか、リーが今日の秘書係だっけ。よろしくね」
寝ぼけ声でそう言いつつ、机の上にあるクリップどめの資料に手を伸ばそうとするのでリーはそれを押しとどめた。
「一体どれくらい寝てないんですか」
「寝てたよ、今」
totorotomoro
TRAINING純粋なイチャイチャです散文4 リーがベッドの端に腰掛け、新聞を広げて文字を追っているとドクターがマグカップをサイドボードに二つ置いた。
「お茶をきらしているからコーヒーでよかったかな」
「ああ、ありがとうございます」
額の上に乗せたサングラスをチェーンごと外してサイドボードに乗せると、新聞をばさりと一旦閉じてから縦半分のサイズにしてコーヒーマグを手に取った。そのままこくりこくりと口にしつつ、新聞の続きを読んでいく。
ドクターはそんな彼の姿を見て、隣に腰掛けると横から覗き込む。
「何か気になる記事はあったか?」
「特に何もないですね。ちょいと西の方がキナくさそうですが、まあこの時期はいつもそんなもんでしょう。あとなんか聞いたことのない製薬会社が鉱石病の特効薬の治験を始めるらしいです」
1459「お茶をきらしているからコーヒーでよかったかな」
「ああ、ありがとうございます」
額の上に乗せたサングラスをチェーンごと外してサイドボードに乗せると、新聞をばさりと一旦閉じてから縦半分のサイズにしてコーヒーマグを手に取った。そのままこくりこくりと口にしつつ、新聞の続きを読んでいく。
ドクターはそんな彼の姿を見て、隣に腰掛けると横から覗き込む。
「何か気になる記事はあったか?」
「特に何もないですね。ちょいと西の方がキナくさそうですが、まあこの時期はいつもそんなもんでしょう。あとなんか聞いたことのない製薬会社が鉱石病の特効薬の治験を始めるらしいです」
uruuri06
DONE廃盤になった今は亡き某銘柄をイメージして書きました…字書き初心者です…分かる人には分かるあのすごい甘さ、そしてマジでカラーがリー先生なんです………
気になった人は検索してください。
煙草のような君喫煙所にて"理性尽きかけドクター"と2人きりで煙を喫んでいるとき、唐突にドクターの口からポロリと出た言葉に、露骨に眉をしかめてしまった
「リー、君ってば、煙草みたいだよね」
こちらを上目で窺いながらいたずらっ子のように話すドクターの口からは、濃く青白い煙が漏れ出ている。肺まで深くは吸い込んでいないようだ
「煙草みたい、ですか?あまりいい気はしませんが、ちなみにどのようなところがおれみたいなんです?」
息を深く吸い込み、まだ長い煙草を一気に燃やす。焼けた巻き紙は一瞬赤々と輝くが先から次第に灰となっていく
葉が多く残っているため、幾分か刺激は弱い
肺まで送り届けた煙をドクターがいる方向とは反対に吐き出す
2327「リー、君ってば、煙草みたいだよね」
こちらを上目で窺いながらいたずらっ子のように話すドクターの口からは、濃く青白い煙が漏れ出ている。肺まで深くは吸い込んでいないようだ
「煙草みたい、ですか?あまりいい気はしませんが、ちなみにどのようなところがおれみたいなんです?」
息を深く吸い込み、まだ長い煙草を一気に燃やす。焼けた巻き紙は一瞬赤々と輝くが先から次第に灰となっていく
葉が多く残っているため、幾分か刺激は弱い
肺まで送り届けた煙をドクターがいる方向とは反対に吐き出す
はるち
DONE楽園への旅路、自由への出発。差し出されたその手に、その人は何を思うのか。
楽園行最終列車 日も落ちた後では、吹きさらしの駅のホームはただ寒くて暗い場所だった。時計を忘れてきたので、日が落ちた以上の時間をドクターは見失う。駅に到着しては出発していく列車は秒針のように正確なので、そこまで困りはしないけれど。今ホームに停まっている列車が本日の最終便であると、無機質なアナウンスが告げていた。
ベンチにぼんやりと腰掛け、ドクターは列車に乗り込む人、降りる人を眺めていた。あれは家族や恋人に別れを告げているのだろうか。惜しむように互いを抱きしめる人々、出発した列車が見えなくなるまで手を振り続ける人。あるいは大きな荷物を持って希望に目をきらめかせた人間が降りてくることもある。
けれどもそんな感動的な一幕を演じる人間はごく少数で、大体の人間は日常の延長線として列車に乗り込み、そして降りて、ホームを離れていく。
3171ベンチにぼんやりと腰掛け、ドクターは列車に乗り込む人、降りる人を眺めていた。あれは家族や恋人に別れを告げているのだろうか。惜しむように互いを抱きしめる人々、出発した列車が見えなくなるまで手を振り続ける人。あるいは大きな荷物を持って希望に目をきらめかせた人間が降りてくることもある。
けれどもそんな感動的な一幕を演じる人間はごく少数で、大体の人間は日常の延長線として列車に乗り込み、そして降りて、ホームを離れていく。
uruuri06
MEMO石棺から目覚めたドクターに成り代わってしまった現代人の話メモ孤独な鯨と私軍事機関に勤めていた現代人が石棺から目覚めたドクターに成り代わってしまう話
ここでの自分の存在意義はこの頭脳であることにいち早く気づいた元現代人は、この世界では当たり前(光学迷彩とか)の戦術を身に付けるために身を削り作戦記録やオペレーターの記録、アーツの特性から種族の個性など様々なことを暗記し、どうにかこうにかドクターとしての生活を始める。
記憶喪失として扱われているため幸い石棺に納められる前のドクターと人格が変わっても不審に思われることはなかった。しかし、慣れない環境、身近すぎる死、目まぐるしい人の入れ替わり、指揮者としての重圧でだんだん心が病んでいく。
ドクターはある朝、目覚めても体が動かず、秘書に連絡をするための端末に触れることもできずにただ自室のベッドの上で天井を見上げていた。特に焦りなどの感情は沸かなかったが、体、精神が限界を越えたことだけは理解できた。
2220ここでの自分の存在意義はこの頭脳であることにいち早く気づいた元現代人は、この世界では当たり前(光学迷彩とか)の戦術を身に付けるために身を削り作戦記録やオペレーターの記録、アーツの特性から種族の個性など様々なことを暗記し、どうにかこうにかドクターとしての生活を始める。
記憶喪失として扱われているため幸い石棺に納められる前のドクターと人格が変わっても不審に思われることはなかった。しかし、慣れない環境、身近すぎる死、目まぐるしい人の入れ替わり、指揮者としての重圧でだんだん心が病んでいく。
ドクターはある朝、目覚めても体が動かず、秘書に連絡をするための端末に触れることもできずにただ自室のベッドの上で天井を見上げていた。特に焦りなどの感情は沸かなかったが、体、精神が限界を越えたことだけは理解できた。
はるち
DONEAiSの無配です。当日手に取ってくださった方はありがとうございました!デザートだって毎日食べたい 美人は三日で飽きる、というけれど。
別段美人でもないこの身であれば、どれくらいで飽きられてしまうのだろう。
「リー。あの、あのですね」
「はい?どうしたんです、そんなに他人行儀で」
「いや、ちょっと距離が近いんじゃないかなーと思うんですが」
そうですか?と明らかにこちらの心情をわかっている癖にすっとぼけた反応を返すこの探偵の膝でも蹴り飛ばしてやりたくなる。パーソナルスペースなんてものはおれとあなたの間にはありませんよねと言わんばかりの距離感で、彼は私の隣に座り、首筋に顔を埋めた。鼻先や唇が、皮膚の薄いところを掠める。背筋を伝う感情が声を鳴って喉から溢れるのを防ぐために唇を噛むと、彼はくつりと喉を震わせたのを感じた。駄目だ。ここで流されてはいけない。まだ今日の内に片付けておきたい仕事があるのだ。努めて彼のことを意識しないよう、手元にある書類に目を落とす。だから不意に言葉が溢れたのは、肌を掠める吐息があまりにもくすぐったいからだ。
1131別段美人でもないこの身であれば、どれくらいで飽きられてしまうのだろう。
「リー。あの、あのですね」
「はい?どうしたんです、そんなに他人行儀で」
「いや、ちょっと距離が近いんじゃないかなーと思うんですが」
そうですか?と明らかにこちらの心情をわかっている癖にすっとぼけた反応を返すこの探偵の膝でも蹴り飛ばしてやりたくなる。パーソナルスペースなんてものはおれとあなたの間にはありませんよねと言わんばかりの距離感で、彼は私の隣に座り、首筋に顔を埋めた。鼻先や唇が、皮膚の薄いところを掠める。背筋を伝う感情が声を鳴って喉から溢れるのを防ぐために唇を噛むと、彼はくつりと喉を震わせたのを感じた。駄目だ。ここで流されてはいけない。まだ今日の内に片付けておきたい仕事があるのだ。努めて彼のことを意識しないよう、手元にある書類に目を落とす。だから不意に言葉が溢れたのは、肌を掠める吐息があまりにもくすぐったいからだ。
はるち
DONEAiSの無配です。当日手に取ってくださった方はありがとうございました!ステーキだって毎日食べたい「君の手料理が恋しくなるよ」
目の前の皿を悩ましげに見つめる仕草に、恋しいのは料理だけかと反駁したくなる。とはいえそう言ったところで、肝心の相手はどういうことかと首を傾げるだけだろう。いや、そこまで計算尽くでやっているとしたら恐ろしいことこの上ないが、こと戦術においては天才的なドクターも、情緒的な面、特に色事に関しては未だに無邪気な子どものようだった。だからこそいつも、こちらばかりが翻弄される。
もう龍門に帰っちゃうんだろう、と。拗ねた子どものような眼をしてドクターはこちらを見つける。おれにも龍門で仕事がありますもんでねぇ、と答えれば、溜息をついてドクターは箸を手に取った。
「じゃあ最後の夕食を心して食べないと」
1065目の前の皿を悩ましげに見つめる仕草に、恋しいのは料理だけかと反駁したくなる。とはいえそう言ったところで、肝心の相手はどういうことかと首を傾げるだけだろう。いや、そこまで計算尽くでやっているとしたら恐ろしいことこの上ないが、こと戦術においては天才的なドクターも、情緒的な面、特に色事に関しては未だに無邪気な子どものようだった。だからこそいつも、こちらばかりが翻弄される。
もう龍門に帰っちゃうんだろう、と。拗ねた子どものような眼をしてドクターはこちらを見つける。おれにも龍門で仕事がありますもんでねぇ、と答えれば、溜息をついてドクターは箸を手に取った。
「じゃあ最後の夕食を心して食べないと」
はるち
DONEカゼマルの折った動物たちと二人のお話。only a paper moon これは兎、これは猫、これは犬、これは虎。
では、このうねうねと動いているものは。
「……蛇ですか?」
「龍だよ。どこからどう見ても龍だろ」
およそ一ヶ月ぶりにロドスを訪れたリーは、執務室の一角に置かれているクッキー缶に目を留めた。前回の訪問時にはなかったものだ。蓋はされておらず、まさか食べかけのまま放置しているのかと中を覗けば、しかしそこに入っていたのは焼き菓子ではなく紙細工だった。
折り紙である。しかしただの折り紙ではない。実際の生き物さながらに、ちよちよと動いている。クッキー缶の中は、小さな動物園のようになっていた。
「最近本艦にやってきたオペレーターが面白いアーツの使い手でね。紙を動かすことができるんだ」
2561では、このうねうねと動いているものは。
「……蛇ですか?」
「龍だよ。どこからどう見ても龍だろ」
およそ一ヶ月ぶりにロドスを訪れたリーは、執務室の一角に置かれているクッキー缶に目を留めた。前回の訪問時にはなかったものだ。蓋はされておらず、まさか食べかけのまま放置しているのかと中を覗けば、しかしそこに入っていたのは焼き菓子ではなく紙細工だった。
折り紙である。しかしただの折り紙ではない。実際の生き物さながらに、ちよちよと動いている。クッキー缶の中は、小さな動物園のようになっていた。
「最近本艦にやってきたオペレーターが面白いアーツの使い手でね。紙を動かすことができるんだ」
totorotomoro
TRAINING数日前から書いては消してしてた超短い話。待てよ? これでもう完成としてもいいのでは?となったので、手のひらサイズですぐ読めるお話として完成扱いにしました。
せんせいこうげき「リー」
「はい」
呼べばすぐに気づいてくれる彼にちょっとした悪戯がしたくて手招きした。
「なんですか」
椅子に座っている自分に対して、もう少し寄るように手振りする。
「ちっと……この体勢だときついんで」
長駆を折り曲げるようにしていたのをしゃがみ込み、下から見上げるその優しい瞳の中に自分が映っている。
「内緒話ですか。なんです?」
「ありがとう」
そっとリーの顔に手を添えて触れるだけのキスをした。
「───あの……じゃれたいんなら、言葉で先にお願いできますかね!」
そういって帽子で顔を隠した彼の頬は普段よりも赤みを帯びていた。
272「はい」
呼べばすぐに気づいてくれる彼にちょっとした悪戯がしたくて手招きした。
「なんですか」
椅子に座っている自分に対して、もう少し寄るように手振りする。
「ちっと……この体勢だときついんで」
長駆を折り曲げるようにしていたのをしゃがみ込み、下から見上げるその優しい瞳の中に自分が映っている。
「内緒話ですか。なんです?」
「ありがとう」
そっとリーの顔に手を添えて触れるだけのキスをした。
「───あの……じゃれたいんなら、言葉で先にお願いできますかね!」
そういって帽子で顔を隠した彼の頬は普段よりも赤みを帯びていた。
totorotomoro
TRAINING工口ではないですが、ちょっと恥ずかしいのでパスつけました。先頭大文字で3文字。リー先生の名前の綴りです。手のひらサイズで読める文章もいいなと。思いついたので書いてみました。長くなっちゃったので、こっちに。いい加減みなさん気づかれていると思いますが、うちのドクターはあほのこです。 641
はるち
DONEどうして人間は、愛情と所有欲を区別できないのだろう?月が降りてくる 例えば愛情と性欲を区別して考えるべきであるように、何かをうつくしいと思うことと、それを自分のものにしたいという欲求は本来は分離して存在するべきなのだろう。美術館で美しいと思った絵画や彫刻を家に持って帰ろうとはしないだろう。そういうことだ。
つまりは。
「ドクター、酔ってます?」
「たしょうは」
困ったものですねえ、とリーは呆れたような表情になったが、しかし自らの頬に添えられた手を振り払うつもりはないようだった。ドクターはリーの両頬に手を添えて、自らの方へを顔を向けさせていた。酔っている、という自己申告の通りに、ドクターの手のひらは随分と熱い。じい、と。瞳を逸らすことを許さないというように、自らの顔を覗き込むドクターに、彼はただ穏やかに苦笑して答えた。
1359つまりは。
「ドクター、酔ってます?」
「たしょうは」
困ったものですねえ、とリーは呆れたような表情になったが、しかし自らの頬に添えられた手を振り払うつもりはないようだった。ドクターはリーの両頬に手を添えて、自らの方へを顔を向けさせていた。酔っている、という自己申告の通りに、ドクターの手のひらは随分と熱い。じい、と。瞳を逸らすことを許さないというように、自らの顔を覗き込むドクターに、彼はただ穏やかに苦笑して答えた。
はるち
DONEお気をつけなさい、嫉妬というものに。 それはひとの心をなぶりものにして、餌食にする怪物なのです。月色の目の怪物「お前が抱えている問題を解決できるのは、この私のほかにはいないのだからな――そうだろう」
エンシオディス・シルバーアッシュといえば、このロドスで知らない人間はいないだろう。イェラ区の領主、シルバーアッシュ家の当主であり、カランド貿易のトップ。権謀術数に長けていることは勿論、戦闘能力も他の追随を許さない。彼の剣から放たれる白銀の光は、吹雪よりも苛烈に敵の命を奪う。その一方でカランド貿易にとっては不利だとわかっている条約をロドスと締結するなどの度量の広さも合わせ持ち、つまるところ欠点を上げることの方が難しい傑物だった。
リー自身も、彼を戦場で、そしてロドス内で見かけたことは一度や二度ではない。上に立つものらしい尊大さがあり、立ち振舞には高貴さが滲んでいる。肉食獣の優美さと獰猛さを併せ持つその人物が、ドクターの傍らに立っている姿を。
1917エンシオディス・シルバーアッシュといえば、このロドスで知らない人間はいないだろう。イェラ区の領主、シルバーアッシュ家の当主であり、カランド貿易のトップ。権謀術数に長けていることは勿論、戦闘能力も他の追随を許さない。彼の剣から放たれる白銀の光は、吹雪よりも苛烈に敵の命を奪う。その一方でカランド貿易にとっては不利だとわかっている条約をロドスと締結するなどの度量の広さも合わせ持ち、つまるところ欠点を上げることの方が難しい傑物だった。
リー自身も、彼を戦場で、そしてロドス内で見かけたことは一度や二度ではない。上に立つものらしい尊大さがあり、立ち振舞には高貴さが滲んでいる。肉食獣の優美さと獰猛さを併せ持つその人物が、ドクターの傍らに立っている姿を。
totorotomoro
REHABILI鯉博です。え、別に朝まで一緒に居て、寝てただけですとも。 え? 何か見える?不思議ですね、私も前夜に何かあったように見えますが、そこはそれ。みなさまの想像にてお楽しみいただければと存じます。
(これ皆様の解釈とかけ離れている気はするので、大丈夫かなとは思ってはいます。でも書いてて楽しかった。)
珍しく遅く起きた日に。 ───ぽつ、ぽつ。ぽつ。
ふわりと意識がゆるやかに浮き上がり、薄く開いた視界にはぼんやりとシーツの波が目に入る。
音に向けて視界をこらせば、寝台の側に下げられたロールスクリーン越しの影がちらついて、天気が雨で、曇っているということをリーに知らせていた。
吸い込む空気は少し冷めていて、寒気を感じた肩に上掛けをかけ直し、もう少し眠ろうと目を閉じて、腕を伸ばしてシーツの波を掻き分けて温もりを探す。───何を?
リーはぱちりと目を開けて、ベッドの上を見渡す。そこには何もなく、シーツも冷えていて、でもそこには自分以外の───ドクターが身に纏っている───香りが確かに残っていた。
うつ伏せになって、首を上げてきょろきょろと視線を動かすと、部屋の薄暗さの先に簡易机で明かりをつけて資料に目を落としているドクターが見えた。
1290ふわりと意識がゆるやかに浮き上がり、薄く開いた視界にはぼんやりとシーツの波が目に入る。
音に向けて視界をこらせば、寝台の側に下げられたロールスクリーン越しの影がちらついて、天気が雨で、曇っているということをリーに知らせていた。
吸い込む空気は少し冷めていて、寒気を感じた肩に上掛けをかけ直し、もう少し眠ろうと目を閉じて、腕を伸ばしてシーツの波を掻き分けて温もりを探す。───何を?
リーはぱちりと目を開けて、ベッドの上を見渡す。そこには何もなく、シーツも冷えていて、でもそこには自分以外の───ドクターが身に纏っている───香りが確かに残っていた。
うつ伏せになって、首を上げてきょろきょろと視線を動かすと、部屋の薄暗さの先に簡易机で明かりをつけて資料に目を落としているドクターが見えた。
dokuitu
REHABILIしばらくまともな文を書いてなかったのでリハビリがてら&やっぱり自分が見たいものは自分で書くっきゃねえよなあ!?な鯉博直では書いてないけど明確に事後なので注意 ドクターの性別はご想像にお任せします 1638
はるち
DONE甘いものの過剰供給に限界を感じる博のお話。囁くあなたの甘い舌 ラテラーノは確かに楽園だった。滞在三日目までは。
「もう向こう半世紀は甘いものを見たくない」
ソファに崩れ落ちるように座り込んだドクターの台詞に、リーは苦笑した。
ラテラーノ人の甘いもの好きについては知っていたが、まさかここまでとは。路地には甘味を販売する露店が立ち並び、三歩と行かない内に別の甘いものに行き当たり、アイスクリームを売り歩くワゴンとすれ違う。極めつけはジェラート供給所だ。何故あんなものが街中に常設されているのだ。
「ドクターだって甘いものは好きでしょう」
「限度があるよ、限度が」
確かに仕事で疲れている時は自分だって甘いものが恋しくなる。しかし連日のようにそれを口に来続ければ話は別だ。朝食にフレンチトースト、昼食と夕食にはデザートがつき、任務の合間に街へ行こうとせがむオペレーター達を連れて三時のおやつを食べに行く。それだけならまだやりようもあったのかもしれないが、甘いものに合わせる飲み物さえも甘いのだ。一体何が悲しくてザッハトルテと一緒に蜂蜜がたっぷり使われたカフェラテを飲まなければならないのか。無闇矢鱈と砂糖を使った暴力的な甘さではなく、繊細な味わいのする上品なスイーツだからこそ今日まで耐えられたが、しかしそれもそろそろ限界だ。ニェンが振る舞う火鍋が恋しい。
1785「もう向こう半世紀は甘いものを見たくない」
ソファに崩れ落ちるように座り込んだドクターの台詞に、リーは苦笑した。
ラテラーノ人の甘いもの好きについては知っていたが、まさかここまでとは。路地には甘味を販売する露店が立ち並び、三歩と行かない内に別の甘いものに行き当たり、アイスクリームを売り歩くワゴンとすれ違う。極めつけはジェラート供給所だ。何故あんなものが街中に常設されているのだ。
「ドクターだって甘いものは好きでしょう」
「限度があるよ、限度が」
確かに仕事で疲れている時は自分だって甘いものが恋しくなる。しかし連日のようにそれを口に来続ければ話は別だ。朝食にフレンチトースト、昼食と夕食にはデザートがつき、任務の合間に街へ行こうとせがむオペレーター達を連れて三時のおやつを食べに行く。それだけならまだやりようもあったのかもしれないが、甘いものに合わせる飲み物さえも甘いのだ。一体何が悲しくてザッハトルテと一緒に蜂蜜がたっぷり使われたカフェラテを飲まなければならないのか。無闇矢鱈と砂糖を使った暴力的な甘さではなく、繊細な味わいのする上品なスイーツだからこそ今日まで耐えられたが、しかしそれもそろそろ限界だ。ニェンが振る舞う火鍋が恋しい。
はるち
DONE二人で飲茶を食べるお話いつだってあなたと晩餐を アルコールは舌を殺す。
酒の肴を考えてみれば良い。大抵が塩辛く、味付けが濃い。それは酒で鈍くなった味覚でも感じ取れるようにするためだ。煙草も同様だ。喫煙者は食に興味を示さなくなることが多いと聞くが、それは煙が舌を盲目にするからだ。彼らにとっては、食事よりも煙草のほうが味わい深く感じられるのだろう。
だから。
酒も煙草も嗜む彼が、こんなにも繊細な味付けで料理をすることが、不思議でならない。
「今日のは口に合いませんでした?」
「……いや、おいしいよ」
考え事をしている内に手が止まっていたのだろう。問いかけに頷き返すと、そりゃ良かった、とテーブルの向かいで彼が微笑む。
飲茶に興味がある、と言ったのはつい先日、彼が秘書として業務に入った時のこと。それから話は早かった。なら次の休みは是非龍門へ、と彼が言うものだから、てっきりおすすめのお店にでも案内してくれるのかと思ったのだが。彼に連れられてやって来たのは探偵事務所で、私がテーブルにつくと次から次へと料理が運ばれてきた。蒸籠の中に入っている料理を、一つ一つ彼が説明する。これは焼売、海老焼売、春巻き、小籠包、食事と一緒に茉莉花茶をどうぞ、等々。おっかなびっくり箸をつけてみれば、そのどれもがここは三ツ星レストランかと錯覚するほどに美味しいのだから。
1791酒の肴を考えてみれば良い。大抵が塩辛く、味付けが濃い。それは酒で鈍くなった味覚でも感じ取れるようにするためだ。煙草も同様だ。喫煙者は食に興味を示さなくなることが多いと聞くが、それは煙が舌を盲目にするからだ。彼らにとっては、食事よりも煙草のほうが味わい深く感じられるのだろう。
だから。
酒も煙草も嗜む彼が、こんなにも繊細な味付けで料理をすることが、不思議でならない。
「今日のは口に合いませんでした?」
「……いや、おいしいよ」
考え事をしている内に手が止まっていたのだろう。問いかけに頷き返すと、そりゃ良かった、とテーブルの向かいで彼が微笑む。
飲茶に興味がある、と言ったのはつい先日、彼が秘書として業務に入った時のこと。それから話は早かった。なら次の休みは是非龍門へ、と彼が言うものだから、てっきりおすすめのお店にでも案内してくれるのかと思ったのだが。彼に連れられてやって来たのは探偵事務所で、私がテーブルにつくと次から次へと料理が運ばれてきた。蒸籠の中に入っている料理を、一つ一つ彼が説明する。これは焼売、海老焼売、春巻き、小籠包、食事と一緒に茉莉花茶をどうぞ、等々。おっかなびっくり箸をつけてみれば、そのどれもがここは三ツ星レストランかと錯覚するほどに美味しいのだから。
totorotomoro
DOODLEかっこいい鯉先生を他の方が書いてくださるので、自分に書ける範囲の鯉先生を提供したかったと供述しており───。月曜日 さて困った。
ドクターの膝の上には現在進行形で、でかい龍の顎が乗っている。寝息はゆっくりと深い。数日ぶりの深い眠りに落ちているらしい。龍門に来るのも久しぶりで長いこと会っていなかった恋人の様子を見に来ただけなのだが、ちょうどリーの方も長く関わりあっていたらしい大きな仕事を片付けてきたところだったようだ。
───仔細について、時を巻き戻そう。
事務所をノックしようとしたドクターと下からふらふらと上がってきたリーとが相対したのがついさっきのこと。
「あれ、ドクター。来てたんですかい」
目がしょぼしょぼとしていたリーはへらりと笑ってみせたが、目の下の疲労が隠せていない。
「お待たせして申し訳ありません。リー探偵事務所へようこそ」
2880ドクターの膝の上には現在進行形で、でかい龍の顎が乗っている。寝息はゆっくりと深い。数日ぶりの深い眠りに落ちているらしい。龍門に来るのも久しぶりで長いこと会っていなかった恋人の様子を見に来ただけなのだが、ちょうどリーの方も長く関わりあっていたらしい大きな仕事を片付けてきたところだったようだ。
───仔細について、時を巻き戻そう。
事務所をノックしようとしたドクターと下からふらふらと上がってきたリーとが相対したのがついさっきのこと。
「あれ、ドクター。来てたんですかい」
目がしょぼしょぼとしていたリーはへらりと笑ってみせたが、目の下の疲労が隠せていない。
「お待たせして申し訳ありません。リー探偵事務所へようこそ」
totorotomoro
TRAINING2作目。シンプルながら個人的に結構好き散文2うつ伏せに寝るらしいと聞いて。
書類の確認者欄にサインが足りないことを気づいたドクターがロドスに訪問中のリーの部屋を訪れると、かの人はどうやら寝台を使って昼寝の最中らしかった。
体格も大きいが流水のように長くうねる尻尾が備わっていると横向きに寝るのはどうにも塩梅が良くないらしい。
うつ伏せになり、枕を抱いて頭を預けて寝息を立てているのが聞こえた。
少し斜めになって体に沿うようにだらりとした尻尾は尾鰭のところが空調の風にかすかに揺らいで、下げたブラインドの隙間から漏れる光をきらきらと揺らめかせている。
起こすべきか、去るべきかで迷ったドクターはとりあえず近寄ろうとリーの側に近寄ってみた。
そうするとぱかりとリーの金色の目が開いて、横目でドクターの姿を認めたようだった。
617書類の確認者欄にサインが足りないことを気づいたドクターがロドスに訪問中のリーの部屋を訪れると、かの人はどうやら寝台を使って昼寝の最中らしかった。
体格も大きいが流水のように長くうねる尻尾が備わっていると横向きに寝るのはどうにも塩梅が良くないらしい。
うつ伏せになり、枕を抱いて頭を預けて寝息を立てているのが聞こえた。
少し斜めになって体に沿うようにだらりとした尻尾は尾鰭のところが空調の風にかすかに揺らいで、下げたブラインドの隙間から漏れる光をきらきらと揺らめかせている。
起こすべきか、去るべきかで迷ったドクターはとりあえず近寄ろうとリーの側に近寄ってみた。
そうするとぱかりとリーの金色の目が開いて、横目でドクターの姿を認めたようだった。
totorotomoro
TRAINING私が鯉博二次創作した時の最初の話です。散文1 目の前に広がっているのは炎と煙。
感じるのは温い空気に灰の臭い、燃える油の臭い。
周りには瓦礫と燃えて崩れていく建物。
逃げ惑う人、銃の音、足音、叫び、悲しみ、痛みを訴える声、声、声。
フェイスシールドとフードによっていくらか遮られているそれをコートの袖で拭おうとして、どろりとした感触が腕にまといついているのに気づく。
それが何かなど考えるまでもない。思考が一瞬白くなり、たたらを踏んで気づく。
この足元のぬめりはなんだろうか。
足を上げて振り払おうとしてよろめき膝をつく。
足元がずぶずぶと崩れていく。
そして浮かぶ、白い、
この、人形の山は───。
───ドクター。
ずるりと足元から伸びる腕、絡みつかれて跪いている下へと引き摺られる。
1768感じるのは温い空気に灰の臭い、燃える油の臭い。
周りには瓦礫と燃えて崩れていく建物。
逃げ惑う人、銃の音、足音、叫び、悲しみ、痛みを訴える声、声、声。
フェイスシールドとフードによっていくらか遮られているそれをコートの袖で拭おうとして、どろりとした感触が腕にまといついているのに気づく。
それが何かなど考えるまでもない。思考が一瞬白くなり、たたらを踏んで気づく。
この足元のぬめりはなんだろうか。
足を上げて振り払おうとしてよろめき膝をつく。
足元がずぶずぶと崩れていく。
そして浮かぶ、白い、
この、人形の山は───。
───ドクター。
ずるりと足元から伸びる腕、絡みつかれて跪いている下へと引き摺られる。
totorotomoro
TRAINING壁ドン顎クイ、上から圧かける。全部これ絵で表現が出来たら…!
※理性剤について独自の設定をいれてます
龍の逆鱗にうっすら触れた リーが読みかけの本から視線を上げると、日付は変わっていなかったがもうだいぶ遅い時間になっていた。
目を瞼の上からそっと揉み、寝る前に少し酒を飲みたいと思い立った。自室としてあてがわれた部屋に置いたままだった封の切っていない黄酒をあけて、グラスなどの備え付けの備品を取り出してごそごそと準備をする。あとはと最後のつまみを隠してある棚を開けた時に昼間購買部で買い置いたはずのナッツが見当たらないことに気づいた。
あれと思ったのも束の間。夕方顔を見せにきたアが「うまい」とポリポリ何か食べていたことに思い至る。やられた。
飲むだけなら酒だけでもいいが、つまみも一緒に食べたい口になっている。購買は夜勤者のためにも開いているだろうが、今からまた着替えて、また戻って着替えるのはとても面倒くさいことのように感じられた。
3357目を瞼の上からそっと揉み、寝る前に少し酒を飲みたいと思い立った。自室としてあてがわれた部屋に置いたままだった封の切っていない黄酒をあけて、グラスなどの備え付けの備品を取り出してごそごそと準備をする。あとはと最後のつまみを隠してある棚を開けた時に昼間購買部で買い置いたはずのナッツが見当たらないことに気づいた。
あれと思ったのも束の間。夕方顔を見せにきたアが「うまい」とポリポリ何か食べていたことに思い至る。やられた。
飲むだけなら酒だけでもいいが、つまみも一緒に食べたい口になっている。購買は夜勤者のためにも開いているだろうが、今からまた着替えて、また戻って着替えるのはとても面倒くさいことのように感じられた。
はるち
DONE夢と知りせば覚めざらましを。吐き気がするほど甘い夢 その人を夢に見るようになったのは、いつの頃からだろう。
「リー」
幾度目かの夢だ。療養庭園に佇むその人が、こちらを見て頬を緩める。白衣も上着も着ておらず、表情を見られることを頑なに拒むようなフェイスシールドもなかった。そのかんばせに木漏れ日がやわらかな陰影を作っている。その人がこんな風に笑顔を浮かべるところを、自分は今までに何度見たことがあるだろうか。きっと数えるほどしかなく、自分に向けられたことは一度もない。
行こうか、と差し出されるその手を取る。想像していた通りに細く、薄く、力を込めれば立ち所に折れてしまいそうだった。何度か力を入れて、緩めてということを繰り返せば、その人はくすぐったそうな笑い声を零す。それでも繋いだ手は解けない。
2146「リー」
幾度目かの夢だ。療養庭園に佇むその人が、こちらを見て頬を緩める。白衣も上着も着ておらず、表情を見られることを頑なに拒むようなフェイスシールドもなかった。そのかんばせに木漏れ日がやわらかな陰影を作っている。その人がこんな風に笑顔を浮かべるところを、自分は今までに何度見たことがあるだろうか。きっと数えるほどしかなく、自分に向けられたことは一度もない。
行こうか、と差し出されるその手を取る。想像していた通りに細く、薄く、力を込めれば立ち所に折れてしまいそうだった。何度か力を入れて、緩めてということを繰り返せば、その人はくすぐったそうな笑い声を零す。それでも繋いだ手は解けない。