浬-かいり-
DOODLEかおみさクレジットまで離さないで「ふふ……。じゃあ美咲、ほら」
ソファに座った薫が、足を開いてその間をぽんぽんと叩く。座れ、ということらしい。それは美咲を安心させたいが故なのか、それとも薫自身が怖くて一人では耐えられそうにないからなのか。まあきっと両方なんだろうな、と思いながら美咲は素直にそこへと座った。きゅ、と腰に腕が回り抱き留められる。
事の発端は一本のDVD。りみから借りてきたというそれは、彼女のセレクトにしては珍しい邦画ホラーだった。一人で観るのはちょっと怖い。でも薫が観るのは無理だろう。それでも、薫は美咲の為ならと顔色を悪くしながらソファに腰掛けたのだった。そうだ、彼女はそういう人だった。
「……っ、」
不協和音のBGMと共に、徐々に物語は佳境に入っていく。何故邦画ホラーってこんなにじわじわと展開を勿体振らせるんだと、美咲は息を呑む。手頃にあったクッションを掴み寄せるとぎゅっと両腕で抱き締めた。ぎゅ、と薫も倣うように美咲をより強く抱き締める。
1115ソファに座った薫が、足を開いてその間をぽんぽんと叩く。座れ、ということらしい。それは美咲を安心させたいが故なのか、それとも薫自身が怖くて一人では耐えられそうにないからなのか。まあきっと両方なんだろうな、と思いながら美咲は素直にそこへと座った。きゅ、と腰に腕が回り抱き留められる。
事の発端は一本のDVD。りみから借りてきたというそれは、彼女のセレクトにしては珍しい邦画ホラーだった。一人で観るのはちょっと怖い。でも薫が観るのは無理だろう。それでも、薫は美咲の為ならと顔色を悪くしながらソファに腰掛けたのだった。そうだ、彼女はそういう人だった。
「……っ、」
不協和音のBGMと共に、徐々に物語は佳境に入っていく。何故邦画ホラーってこんなにじわじわと展開を勿体振らせるんだと、美咲は息を呑む。手頃にあったクッションを掴み寄せるとぎゅっと両腕で抱き締めた。ぎゅ、と薫も倣うように美咲をより強く抱き締める。
浬-かいり-
DOODLEハロハピ君を撫で回したい 何これ。
弦巻邸の一室。姿見の鏡の前で、奥沢美咲は眉間にこれでもかと皺を寄せている。そんな彼女を囲むように、他のハロー、ハッピーワールド! メンバーが目を輝かせていた。
「とーーーっても可愛いわよ、美咲!」
「うんうん! みーくんすっごく似合ってるよ!」
「嬉しくなーーーーいっっ!!」
はしゃぐ弦巻こころと北沢はぐみを跳ね除けて、美咲が叫ぶ。その叫びとリンクするかのように、彼女の洋服の裾、正しくはショートパンツからはみ出た黒くて長いフサフサのシッポが、毛を逆立てさせピンと伸びた。更に黒髪から覗くのは、シッポや髪と同じく黒い毛並みの三角の耳だ。
「美咲は本当に子猫ちゃんになってしまったんだね……。儚い……」
2591弦巻邸の一室。姿見の鏡の前で、奥沢美咲は眉間にこれでもかと皺を寄せている。そんな彼女を囲むように、他のハロー、ハッピーワールド! メンバーが目を輝かせていた。
「とーーーっても可愛いわよ、美咲!」
「うんうん! みーくんすっごく似合ってるよ!」
「嬉しくなーーーーいっっ!!」
はしゃぐ弦巻こころと北沢はぐみを跳ね除けて、美咲が叫ぶ。その叫びとリンクするかのように、彼女の洋服の裾、正しくはショートパンツからはみ出た黒くて長いフサフサのシッポが、毛を逆立てさせピンと伸びた。更に黒髪から覗くのは、シッポや髪と同じく黒い毛並みの三角の耳だ。
「美咲は本当に子猫ちゃんになってしまったんだね……。儚い……」
浬-かいり-
DOODLEかおみささて合計いくつでしょう 夏休み中真っ只中のこの日はバンド練習日であり、ハロー、ハッピーワールド! はCiRCLEにて集合していた。
前日、美咲が薫の家に泊まっていた為、そのまま二人は一緒にやって来た。ハロハピ内では二人が付き合っているのは周知の事実の為、特に他のメンバーが疑問に思うこともない。
ただ全員がCiRCLEのカウンター前に集合した時、薫がソワソワと落ち着かないことに美咲が気付く。
「薫さん? どうしたの?」
「えっ!?」
薫の視線の先は、美咲の首筋にある赤い痣のようなものだった。黒髪の間から辛うじて覗くそれは、見る人が見れば分かるであろうキスマークと呼ばれるものであった。
美咲は気付いていない。当然だ。これは、美咲が寝ている間に付けられたものだった。
2989前日、美咲が薫の家に泊まっていた為、そのまま二人は一緒にやって来た。ハロハピ内では二人が付き合っているのは周知の事実の為、特に他のメンバーが疑問に思うこともない。
ただ全員がCiRCLEのカウンター前に集合した時、薫がソワソワと落ち着かないことに美咲が気付く。
「薫さん? どうしたの?」
「えっ!?」
薫の視線の先は、美咲の首筋にある赤い痣のようなものだった。黒髪の間から辛うじて覗くそれは、見る人が見れば分かるであろうキスマークと呼ばれるものであった。
美咲は気付いていない。当然だ。これは、美咲が寝ている間に付けられたものだった。
浬-かいり-
DOODLEかおみさ「焼くは嫉妬、焦がすは想い」の瀬田視点
身を焼き、胸を焦がす 気象予報士が暫く猛暑続きだと、今日も熱中症には注意してください、と確か言っていた。そんな炎天下の中を歩いていれば、隣の美咲が溜息を零した。額には汗が滲み、顔も少し赤くなっている。
「……あっついね」
「今日は猛暑日だと言っていたね」
「その割には薫さん、涼しい顔してるけど」
「そう見えるだけさ。こんな日に付き合わせてすまなかったね」
美咲は首を振る。今日は夕方からバンド練習の予定だ。ところが午前の自主練中に弦が切れてしまい、不幸なことに予備も無い。その為、楽器店に向かっていた。
一人で行っても何ら問題もないのに美咲を誘ったのは、彼女と少しでも多く居たかった……という理由が一番大きい。バンドしか接点が無い中、一緒に居るには積極的に誘うしかない。そんな邪な気持ちを正直に美咲に白状したら、彼女はなんて言うだろうか。
2702「……あっついね」
「今日は猛暑日だと言っていたね」
「その割には薫さん、涼しい顔してるけど」
「そう見えるだけさ。こんな日に付き合わせてすまなかったね」
美咲は首を振る。今日は夕方からバンド練習の予定だ。ところが午前の自主練中に弦が切れてしまい、不幸なことに予備も無い。その為、楽器店に向かっていた。
一人で行っても何ら問題もないのに美咲を誘ったのは、彼女と少しでも多く居たかった……という理由が一番大きい。バンドしか接点が無い中、一緒に居るには積極的に誘うしかない。そんな邪な気持ちを正直に美咲に白状したら、彼女はなんて言うだろうか。
浬-かいり-
DOODLEかおみさ※擬獣化注意弦巻さんちのふわゆめサンドイッチ「はぐみ、花音! いらっしゃい!」
久々にこころちゃんの家を訪れる。笑顔で迎えてくれるこころちゃんと一緒に出迎えてくれたのは、この家で飼われている大型犬のカオルさんだ。身体は大きいけれどとても優しくて賢くて、犬がちょっと苦手な私にも懐いてくれている。
「わーい! カオルくん久しぶりー!」
はぐみちゃんがわしゃわしゃと撫でてから、家のエントランスへと通される。すると、ちりん、と鈴の音がした。
「あらミサキ、おかえりなさい。お散歩楽しかった?」
こころちゃんが嬉しそうに鈴の音の方へと駆け寄る。部屋に現れたのは真っ黒な猫さんだった。鈴の付いた青い首輪を着けたその子は、こころちゃんの顔を見上げるとにゃあって鳴いた。
1930久々にこころちゃんの家を訪れる。笑顔で迎えてくれるこころちゃんと一緒に出迎えてくれたのは、この家で飼われている大型犬のカオルさんだ。身体は大きいけれどとても優しくて賢くて、犬がちょっと苦手な私にも懐いてくれている。
「わーい! カオルくん久しぶりー!」
はぐみちゃんがわしゃわしゃと撫でてから、家のエントランスへと通される。すると、ちりん、と鈴の音がした。
「あらミサキ、おかえりなさい。お散歩楽しかった?」
こころちゃんが嬉しそうに鈴の音の方へと駆け寄る。部屋に現れたのは真っ黒な猫さんだった。鈴の付いた青い首輪を着けたその子は、こころちゃんの顔を見上げるとにゃあって鳴いた。
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DOODLEかおみさ焼くは嫉妬、焦がすは想い 蝉の声が煩くて、日差しが痛い。炎天下の中を薫さんと二人で歩きながら、あたしは溜息を吐いた。その溜息すらも熱い気がして嫌になる。暑いっていうか熱い、もう。
「……あっついね」
「今日は猛暑日だと言っていたね」
「その割には薫さん、涼しい顔してるけど」
「そう見えるだけさ。こんな日に付き合わせてすまなかったね」
大丈夫ですよ、とあたしは首を振る。夏休みの真っ只中、弦を買いたいと言う薫さんに誘われて一緒に楽器店へ向かっている途中だった。夕方からはバンド練習があるので、その前に行っておきたいらしい。
「薫さんに結構難しいパート当てちゃったからね……。昨日の時点で結構形になってたから、沢山練習したでしょ」
「ふふ、美咲が私のことを信用してあのパートを任せてくれたのだと思うと、嬉しいよ」
2604「……あっついね」
「今日は猛暑日だと言っていたね」
「その割には薫さん、涼しい顔してるけど」
「そう見えるだけさ。こんな日に付き合わせてすまなかったね」
大丈夫ですよ、とあたしは首を振る。夏休みの真っ只中、弦を買いたいと言う薫さんに誘われて一緒に楽器店へ向かっている途中だった。夕方からはバンド練習があるので、その前に行っておきたいらしい。
「薫さんに結構難しいパート当てちゃったからね……。昨日の時点で結構形になってたから、沢山練習したでしょ」
「ふふ、美咲が私のことを信用してあのパートを任せてくれたのだと思うと、嬉しいよ」
浬-かいり-
DOODLEかおみさ温泉旅行に行くはなし「薫さんって、何着ても様になるよね」
旅館の廊下をタオル抱えて二人で並んで歩きながら、薫さんを見上げた。旅館のメインである温泉へと向かうあたしたちは、今は備え付けの浴衣を着ている。派手な模様がある訳でもない、単色のシンプルな浴衣だ。それでも似合ってしまっているのは、流石というかなんというか。この人ほんとになんでも似合うな。
「ふふ、やはり私は何を着ても似合ってしまうからね……。美咲もよく似合っているよ」
お揃いの浴衣なんて、なんて儚いのだろう。部屋でこれを着た時に、薫さんがそんなようなことを言っていた。旅館の備え付けである以上、他の宿泊客も当然同じものを着ている訳なんだけど、薫さん的には嬉しいらしい。というか、旅館に着いてからめちゃくちゃテンションが上がっている。はしゃいでるとも言うのかな。
1392旅館の廊下をタオル抱えて二人で並んで歩きながら、薫さんを見上げた。旅館のメインである温泉へと向かうあたしたちは、今は備え付けの浴衣を着ている。派手な模様がある訳でもない、単色のシンプルな浴衣だ。それでも似合ってしまっているのは、流石というかなんというか。この人ほんとになんでも似合うな。
「ふふ、やはり私は何を着ても似合ってしまうからね……。美咲もよく似合っているよ」
お揃いの浴衣なんて、なんて儚いのだろう。部屋でこれを着た時に、薫さんがそんなようなことを言っていた。旅館の備え付けである以上、他の宿泊客も当然同じものを着ている訳なんだけど、薫さん的には嬉しいらしい。というか、旅館に着いてからめちゃくちゃテンションが上がっている。はしゃいでるとも言うのかな。
浬-かいり-
DOODLEかおみさ⇒写真をアルバムに追加「あ、美咲ちゃん発見!ちょっとこっち来て!」
バンド練習の為CiRCLEへ来ると、ラウンジに居た上原さんに手招きされて名前を呼ばれた。早く着きすぎちゃって別に急いでる訳じゃないし、挨拶もそこそこに近付く。上原さんの方も、周りに他のAfterglowのメンバーは居ないみたいだった。
「なに? どうしたの?」
「ふっふっふっ、これ見て見てー!」
「ん?」
じゃーん、と効果音付きでスマホの画面を見せられる。
興奮気味の上原さんに乗せられるまま画面を見れば、映っていたのは恐らく羽丘の中に貼ってあるのだろう演劇部のポスター。公演の日時が大々的に記されているそのポスターは、日時と同じくらい薫さんの写真がデカデカと載っている。衣装を着た薫さんの写真。それはいつもの演劇部のポスターとなんら変わらないのだけど、いつもと決定的に違う部分がある。
2340バンド練習の為CiRCLEへ来ると、ラウンジに居た上原さんに手招きされて名前を呼ばれた。早く着きすぎちゃって別に急いでる訳じゃないし、挨拶もそこそこに近付く。上原さんの方も、周りに他のAfterglowのメンバーは居ないみたいだった。
「なに? どうしたの?」
「ふっふっふっ、これ見て見てー!」
「ん?」
じゃーん、と効果音付きでスマホの画面を見せられる。
興奮気味の上原さんに乗せられるまま画面を見れば、映っていたのは恐らく羽丘の中に貼ってあるのだろう演劇部のポスター。公演の日時が大々的に記されているそのポスターは、日時と同じくらい薫さんの写真がデカデカと載っている。衣装を着た薫さんの写真。それはいつもの演劇部のポスターとなんら変わらないのだけど、いつもと決定的に違う部分がある。
浬-かいり-
DOODLEかおみさ嫉妬色の視線 熱気が冷めきらないライブ会場から外へ出て、カフェテラスで一息吐く。冷たい飲み物片手に火照った身体を冷やしながら、話題は先程まで観ていたライブのことだ。
曲が最高にテンションが上がった。パフォーマンスが派手だった。ギターの人がカッコ良かった。クマが可愛かった。
部活の先輩である奥沢先輩に誘われて初めて“ハロー、ハッピーワールド!”のライブに来た同級生達は、部活での奥沢先輩からは想像できないようなはちゃめちゃなバンドに、驚きつつも興奮を抑えられないようだった。
(当然、でしょ)
私はそんな中、一人優越感にも似た感情を抱く。奥沢先輩はこの日のライブの為に、寝る時間も部活の時間も削って頑張っていた。ライブの質が良いのは当然だ。
2245曲が最高にテンションが上がった。パフォーマンスが派手だった。ギターの人がカッコ良かった。クマが可愛かった。
部活の先輩である奥沢先輩に誘われて初めて“ハロー、ハッピーワールド!”のライブに来た同級生達は、部活での奥沢先輩からは想像できないようなはちゃめちゃなバンドに、驚きつつも興奮を抑えられないようだった。
(当然、でしょ)
私はそんな中、一人優越感にも似た感情を抱く。奥沢先輩はこの日のライブの為に、寝る時間も部活の時間も削って頑張っていた。ライブの質が良いのは当然だ。
浬-かいり-
DOODLEかおみさ遊び過ぎは程々にしましょう CiRCLEのラウンジにて。ソファに座る奥沢美咲は一人ノートを開いて、新曲の歌詞について頭を悩ませていた。その姿を見つけたのは氷川日菜だ。美咲の姿を見つけるやいなや、床を蹴って走り出す。
「あっ、いたいた!! 美咲ちゃーーーーん!!」
「え? わあっっ!?」
そのダッシュのまま、美咲に横から飛び付く。集中していた為走ってくる日菜に気付けず、そのまま素っ頓狂な悲鳴を上げて二人でソファへと沈んだ。
「……なんですか日菜さん」
押し倒された体勢のまま、静かに問い掛ける。この手の人の場合はあんまり過剰にリアクションをすると更に来るんだ。あくまで冷静に。あくまでなんでもない風を装って。
案の定、美咲がなんにもリアクションを取らなければ、日菜も大して気にしていないように話し出す。その体勢のままで。
2629「あっ、いたいた!! 美咲ちゃーーーーん!!」
「え? わあっっ!?」
そのダッシュのまま、美咲に横から飛び付く。集中していた為走ってくる日菜に気付けず、そのまま素っ頓狂な悲鳴を上げて二人でソファへと沈んだ。
「……なんですか日菜さん」
押し倒された体勢のまま、静かに問い掛ける。この手の人の場合はあんまり過剰にリアクションをすると更に来るんだ。あくまで冷静に。あくまでなんでもない風を装って。
案の定、美咲がなんにもリアクションを取らなければ、日菜も大して気にしていないように話し出す。その体勢のままで。
浬-かいり-
DOODLEかおみさ炎天の下、遠回り 公園のベンチに腰掛ける。日は傾き始めたけれどやっぱりまだ暑くて、セミの声がけたたましくて、座っているだけなのにタオルでいくら拭っても汗は流れるばかり。
セミの声に混じって、元気に遊びまわる子供の声やお喋りする女子高生の声が聞こえて来る。楽しそうなそれらに耳を傾けながら、フェイスタオルを開いて頭に乗せる。夕方なんだからもう少しだけ手加減してくれたっていいのに、真夏の日差しは強過ぎてタオル如きじゃ日除けにもなりゃしない。
「美咲」
知った声が名前を呼んだので、視界の端を隠していたタオルを手で暖簾のように退けてみる。見上げれば、缶ジュース片手に立つ薫さんがあたしへと微笑んでいた。
暑さで溶け切った顔をしているであろうあたしとは対照的に、薫さんは涼しい顔をしている。ただ、どうやらそう見えるだけで、額や首筋に汗が伝っているのが見えた。真夏の太陽は、美人に対してだろうが容赦ない。
2766セミの声に混じって、元気に遊びまわる子供の声やお喋りする女子高生の声が聞こえて来る。楽しそうなそれらに耳を傾けながら、フェイスタオルを開いて頭に乗せる。夕方なんだからもう少しだけ手加減してくれたっていいのに、真夏の日差しは強過ぎてタオル如きじゃ日除けにもなりゃしない。
「美咲」
知った声が名前を呼んだので、視界の端を隠していたタオルを手で暖簾のように退けてみる。見上げれば、缶ジュース片手に立つ薫さんがあたしへと微笑んでいた。
暑さで溶け切った顔をしているであろうあたしとは対照的に、薫さんは涼しい顔をしている。ただ、どうやらそう見えるだけで、額や首筋に汗が伝っているのが見えた。真夏の太陽は、美人に対してだろうが容赦ない。
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DOODLEかおみさ君を誘う百鬼夜行 からんころん。下駄の音を鳴らせながら、藍色の浴衣を着た少女は歩く。太鼓の音と人の喧騒の声に、下駄の音を止めた。石段の上の鳥居を見上げる。いつもは静まり返っている真っ暗な神社の中から、今夜は祭囃子が聞こえた。提灯の暖かな光は、少女を誘うようにゆらゆらと揺れる。
からんころん。石段を登った少女が、下駄を鳴らして鳥居をくぐる。少女の空色の瞳に飛び込んできたのは、色とりどりの縁日の屋台。金魚が泳ぐ水面が揺れ、色とりどりの水風船がひしめき、真っ赤なりんご飴が煌めく。
「ようこそ。可愛らしい浴衣だね、美咲」
からんころん。同じような下駄の音に振り返れば、椿が咲く浴衣を着た女性が少女へと微笑んでいた。頭に着けられた狐面と目が合ったような気がして、少女は息を呑む。今しがた鳥居を潜ってきた自分の真後ろに、この狐面は居ただろうか。
2149からんころん。石段を登った少女が、下駄を鳴らして鳥居をくぐる。少女の空色の瞳に飛び込んできたのは、色とりどりの縁日の屋台。金魚が泳ぐ水面が揺れ、色とりどりの水風船がひしめき、真っ赤なりんご飴が煌めく。
「ようこそ。可愛らしい浴衣だね、美咲」
からんころん。同じような下駄の音に振り返れば、椿が咲く浴衣を着た女性が少女へと微笑んでいた。頭に着けられた狐面と目が合ったような気がして、少女は息を呑む。今しがた鳥居を潜ってきた自分の真後ろに、この狐面は居ただろうか。
浬-かいり-
DOODLEはぐみさスタートライン「はぐみね、みーくんと一緒にいると、この辺がポカポカーってして、すごくあったかい気持ちになるんだよ。これがきっと恋って言うんだよね」
いつになく真剣な眼差しから、目を逸らせない。頰を赤く染めたはぐみが、彼女以上に顔を真っ赤にしている美咲へと。一歩、詰め寄って。
「みーくん、大好き。はぐみと恋人になってくれますか?」
はぐみの一世一代の告白に美咲が頷いたのが、一ヶ月ほど前のことである。
◆
その日はバンド練習日だった。放課後に集まった為あまり時間は長くとれず、あっという間にスタジオの使用時間は終わりを迎えた。こころはまだ元気が有り余っているようで、片付けが終了しても動き回っている。
「まだまだ物足りないわ! 今からみんなで楽しいことを探しに行かない?」
2433いつになく真剣な眼差しから、目を逸らせない。頰を赤く染めたはぐみが、彼女以上に顔を真っ赤にしている美咲へと。一歩、詰め寄って。
「みーくん、大好き。はぐみと恋人になってくれますか?」
はぐみの一世一代の告白に美咲が頷いたのが、一ヶ月ほど前のことである。
◆
その日はバンド練習日だった。放課後に集まった為あまり時間は長くとれず、あっという間にスタジオの使用時間は終わりを迎えた。こころはまだ元気が有り余っているようで、片付けが終了しても動き回っている。
「まだまだ物足りないわ! 今からみんなで楽しいことを探しに行かない?」
浬-かいり-
DOODLEかおみさ甘くて甘い「おはよう、美咲。よく眠れたかい?」
目を覚ますと、目の前の薫さんが微笑んで頭を撫でてきた。大きな手の感触が心地良くて、また目を閉じてしまいそうになる。
「ああ、いけないよ。お風呂に入るんだろう?」
「うん……、」
そんな風に嗜めるみたいに言う薫さんも、駄々を捏ねるみたいにまだ半分夢の世界のあたしも、今は何も服を着ていない。
そもそもあたしが今こんなに疲れてて眠いのだって、元はと言えば薫さんが昨晩頑張り過ぎたせいだ。腰が痛いし瞼が重い。
薫さんは仕方ないと言うように笑うと、あたしに上着を掛けてそのまま抱き上げた。目を閉じながら、階段を降りる音を聞く。
◆
いや、いくらなんでも甘え過ぎじゃないかな。
お風呂に入ってやっと目の冴えたあたしは、薫さんに髪を乾かしてもらいながらやっとそんなことを自覚した。
2509目を覚ますと、目の前の薫さんが微笑んで頭を撫でてきた。大きな手の感触が心地良くて、また目を閉じてしまいそうになる。
「ああ、いけないよ。お風呂に入るんだろう?」
「うん……、」
そんな風に嗜めるみたいに言う薫さんも、駄々を捏ねるみたいにまだ半分夢の世界のあたしも、今は何も服を着ていない。
そもそもあたしが今こんなに疲れてて眠いのだって、元はと言えば薫さんが昨晩頑張り過ぎたせいだ。腰が痛いし瞼が重い。
薫さんは仕方ないと言うように笑うと、あたしに上着を掛けてそのまま抱き上げた。目を閉じながら、階段を降りる音を聞く。
◆
いや、いくらなんでも甘え過ぎじゃないかな。
お風呂に入ってやっと目の冴えたあたしは、薫さんに髪を乾かしてもらいながらやっとそんなことを自覚した。
浬-かいり-
DOODLEハロハピ笑顔で待ってる ベッドに腰掛けたままカッターの刃をゆっくりと出すと、ちきちきちき、という特徴的な音が耳に届いた。いつもはなんとも思わない音なのに、今日に限ってはいやに不快で、耳を刺すように響いてくる。頭が痛いのは、きっと音が不快だからってだけじゃない。
頭が痛い。ガンガンと低い音が鳴り響くように感じるのに、夕陽が射し込む部屋の中はあたし一人しか居なくて静まり返っている。それが余計に、あたしの中の思考をぐるぐると掻き回していた。
言われた言葉が、経験した出来事が、まるで今さっきの出来事だったかのように反芻しているような気さえして吐き気がする。気分が悪い。中学生にもなって、油断すると大声を上げて暴れて泣いてしまいそうだった。悲哀にも、焦燥にも、苛立ちにも、どれに部類するのか自分でもよく分からない、ぐちゃぐちゃとした感情がせめぎ合って胸の奥をのたうち回る。
1943頭が痛い。ガンガンと低い音が鳴り響くように感じるのに、夕陽が射し込む部屋の中はあたし一人しか居なくて静まり返っている。それが余計に、あたしの中の思考をぐるぐると掻き回していた。
言われた言葉が、経験した出来事が、まるで今さっきの出来事だったかのように反芻しているような気さえして吐き気がする。気分が悪い。中学生にもなって、油断すると大声を上げて暴れて泣いてしまいそうだった。悲哀にも、焦燥にも、苛立ちにも、どれに部類するのか自分でもよく分からない、ぐちゃぐちゃとした感情がせめぎ合って胸の奥をのたうち回る。
浬-かいり-
DOODLEハロハピハロハピ年少組がアリの行列を眺めてるだけ「あらっ、」
昼休み、花咲川の中庭で弦巻こころはそんな拍子抜けした声を挙げた。弁当の入った巾着袋を片手に駆けていた足を止めて、中庭の隅で蹲る。
日の当たらない木陰の中は心地よく風が吹いている。今日は日射しはそれ程強くなく、爽やかな陽気だ。連日の暑さにより冷房の効いた教室で食べていた生徒も、今日はちらほらと中庭に出てきているようだった。
そんな久々に賑わいを見せている中庭の隅。視線の先には、
「アリさんだわ!」
アリの行列があった。中庭の隅に巣でもあるのだろう。何処からか続いている黒い点の集まりは、何処かへと向かって進んでゆく。
こころの大きな金色の瞳がそれを映し込んでも、顔を地面に近付けて思い切り覗き込んでも、アリの行列がその列を乱れさせることはない。こころは真顔で、無言で行列を見つめ続ける。その小さな後ろ姿に気付いたのは、北沢はぐみだった。
2334昼休み、花咲川の中庭で弦巻こころはそんな拍子抜けした声を挙げた。弁当の入った巾着袋を片手に駆けていた足を止めて、中庭の隅で蹲る。
日の当たらない木陰の中は心地よく風が吹いている。今日は日射しはそれ程強くなく、爽やかな陽気だ。連日の暑さにより冷房の効いた教室で食べていた生徒も、今日はちらほらと中庭に出てきているようだった。
そんな久々に賑わいを見せている中庭の隅。視線の先には、
「アリさんだわ!」
アリの行列があった。中庭の隅に巣でもあるのだろう。何処からか続いている黒い点の集まりは、何処かへと向かって進んでゆく。
こころの大きな金色の瞳がそれを映し込んでも、顔を地面に近付けて思い切り覗き込んでも、アリの行列がその列を乱れさせることはない。こころは真顔で、無言で行列を見つめ続ける。その小さな後ろ姿に気付いたのは、北沢はぐみだった。
浬-かいり-
DOODLEここみさおひさまキラキラいい天気 窓から入ってくるお日様の光で、目を覚ます。
光は温かくて、キラキラしていて、今日がとっても素敵な一日になることを教えてくれているみたい。
早く外に出たい。今日はきっとよく晴れるはず。
すぐにでもベッドから飛び出したい気持ちだったけど、隣で眠る美咲のことを思い出してぐっと堪えた。
まだよく眠っている美咲は、昨日からお泊りに来てくれて、一緒に新しい曲を作っていた。それも昨日で完成したから、今日は沢山一緒に遊べるわね。
美咲はとってもお寝坊さん。ほっぺたをつついても、髪を梳くように撫でてもちっとも起きない。
このまま可愛らしい寝顔をずっと眺めてても良いけれど、今日はそれだけじゃ勿体ない。
早くしないと、今日が終わってしまうもの!
2476光は温かくて、キラキラしていて、今日がとっても素敵な一日になることを教えてくれているみたい。
早く外に出たい。今日はきっとよく晴れるはず。
すぐにでもベッドから飛び出したい気持ちだったけど、隣で眠る美咲のことを思い出してぐっと堪えた。
まだよく眠っている美咲は、昨日からお泊りに来てくれて、一緒に新しい曲を作っていた。それも昨日で完成したから、今日は沢山一緒に遊べるわね。
美咲はとってもお寝坊さん。ほっぺたをつついても、髪を梳くように撫でてもちっとも起きない。
このまま可愛らしい寝顔をずっと眺めてても良いけれど、今日はそれだけじゃ勿体ない。
早くしないと、今日が終わってしまうもの!
浬-かいり-
DOODLEはぐみさ(はぐみ誕2020)おめでとう、だいすき「わぁい、みんなありがとー!」
両手いっぱいにプレゼントを抱えた浴衣姿のはぐみちゃんが、嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
こころちゃん宅で行われた誕生日パーティは大成功で、はぐみちゃんも大満足してくれたみたいだ。笑顔を見ると、私まで嬉しくなってしまう。
「ミッシェルも来てくれてありがとー! はぐみ、すっごく嬉しいよ!」
パーティ用の三角帽子を被ったミッシェルをはぐみちゃんが見上げれば、美咲ちゃ……ミッシェルはゆるゆると首を振る。
「当然だよ〜。はぐみちゃんが喜んでくれて、ミッシェルも嬉しいよ」
ミッシェルの大きな手がはぐみちゃんの頭を撫でる。えへへ、と笑うはぐみちゃんはとっても幸せそうで、今日美咲ちゃんにミッシェルをお願いして良かったなぁって思う。……美咲ちゃんは、大変だろうけど。
1900両手いっぱいにプレゼントを抱えた浴衣姿のはぐみちゃんが、嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
こころちゃん宅で行われた誕生日パーティは大成功で、はぐみちゃんも大満足してくれたみたいだ。笑顔を見ると、私まで嬉しくなってしまう。
「ミッシェルも来てくれてありがとー! はぐみ、すっごく嬉しいよ!」
パーティ用の三角帽子を被ったミッシェルをはぐみちゃんが見上げれば、美咲ちゃ……ミッシェルはゆるゆると首を振る。
「当然だよ〜。はぐみちゃんが喜んでくれて、ミッシェルも嬉しいよ」
ミッシェルの大きな手がはぐみちゃんの頭を撫でる。えへへ、と笑うはぐみちゃんはとっても幸せそうで、今日美咲ちゃんにミッシェルをお願いして良かったなぁって思う。……美咲ちゃんは、大変だろうけど。
浬-かいり-
DOODLEかおみさ(オメガバース)例えば、番から始まる恋があったとして まずった。バッグの中を漁りながら、あたしは大いに焦っていた。
その日はバンドの練習日だったが、ヒートと被ってしまった。予定日よりも随分早く来たヒートにただでさえ動揺していたのに、そんな日に限って薬を家に置いてきてしまったらしい。パニックになりながらバッグをひっくり返して中身をぶちまける。薬のケースが見当たらない。身体も吐く息もみんな熱い。思考が茹る。
「……美咲ちゃん?」
控え室のドアをノックする音がして、次いで控えめにドアが開けられる音がした。心配の色を含んだ花音さんの声。きっとなかなか練習に来ないあたしを心配して来たんだ。
床に蹲ったままの姿勢から動けないあたしに駆け寄って、背中に手が添えられる。
2909その日はバンドの練習日だったが、ヒートと被ってしまった。予定日よりも随分早く来たヒートにただでさえ動揺していたのに、そんな日に限って薬を家に置いてきてしまったらしい。パニックになりながらバッグをひっくり返して中身をぶちまける。薬のケースが見当たらない。身体も吐く息もみんな熱い。思考が茹る。
「……美咲ちゃん?」
控え室のドアをノックする音がして、次いで控えめにドアが開けられる音がした。心配の色を含んだ花音さんの声。きっとなかなか練習に来ないあたしを心配して来たんだ。
床に蹲ったままの姿勢から動けないあたしに駆け寄って、背中に手が添えられる。
浬-かいり-
DOODLEかおみさおやすみ、ストレイシープ お日さまが沈んで夜が更けてくると、お月様とお星様がきらきら輝き出します。
こんなに月と星が綺麗な夜は、きっとよく眠れるはず。けれど今夜は、寝たいはずなのになかなか眠れない子が居たのでした。
次の日は大事な大事な用事がありました。自分が入っているバンドのライブがあるのです。けれどそのことを考えれば考えるほど頭の中はぐるぐるして、なかなか眠気が来ません。眠れぬ子は、ますます焦ってしまいます。
「やあ、こんばんは。眠れないのかい?」
しっかり閉めていた筈の窓から声がして、眠れぬ子はびっくりして窓を見ました。風でなびくカーテンに、人影が写っています。
「警戒しないでおくれ、子猫ちゃん。……いや、今は眠れない迷える“仔羊ちゃん”とでも言うべきかな?」
2482こんなに月と星が綺麗な夜は、きっとよく眠れるはず。けれど今夜は、寝たいはずなのになかなか眠れない子が居たのでした。
次の日は大事な大事な用事がありました。自分が入っているバンドのライブがあるのです。けれどそのことを考えれば考えるほど頭の中はぐるぐるして、なかなか眠気が来ません。眠れぬ子は、ますます焦ってしまいます。
「やあ、こんばんは。眠れないのかい?」
しっかり閉めていた筈の窓から声がして、眠れぬ子はびっくりして窓を見ました。風でなびくカーテンに、人影が写っています。
「警戒しないでおくれ、子猫ちゃん。……いや、今は眠れない迷える“仔羊ちゃん”とでも言うべきかな?」
浬-かいり-
DOODLEハロハピお前らのとこのDJだろ、なんとかしろよ この日はガールズバンドパーティが主催する、大規模なライブの打ち上げだった。成人した今でも、こうしてみんなとバンド活動を続けていられるのは有難いし嬉しい。……表で言うことは、恥ずかしいからなかなか無いけど。
弦巻さんの敷地内に何故か建っている居酒屋で行われる打ち上げには、総勢30名超が集結していた。
「有咲〜! 次何飲む〜?」
隣に座る程よくほろ酔いの香澄に、ウーロン茶を頼んでおく。彼女は悪酔いすると非常に面倒なので見張っておきたいところだが、今回は中心になってみんなを引っ張ってくれたので、今日くらいは大目に見てあげたい。
それよりも、そう。もっと面倒見なくちゃいけない相手が私の隣に居るのだ。
「えへへへ、いちがゃさーーん!! これおかわり〜〜!!」
2902弦巻さんの敷地内に何故か建っている居酒屋で行われる打ち上げには、総勢30名超が集結していた。
「有咲〜! 次何飲む〜?」
隣に座る程よくほろ酔いの香澄に、ウーロン茶を頼んでおく。彼女は悪酔いすると非常に面倒なので見張っておきたいところだが、今回は中心になってみんなを引っ張ってくれたので、今日くらいは大目に見てあげたい。
それよりも、そう。もっと面倒見なくちゃいけない相手が私の隣に居るのだ。
「えへへへ、いちがゃさーーん!! これおかわり〜〜!!」
浬-かいり-
DOODLEかおみさ(怪盗ハロハッピー×大学生美咲)月夜にまた会おう 疲れた。
今日のバイトはなかなかハードで、人手不足なのもあって全然作業が進まず、終わるのが遅くなってしまった。
徒歩で帰れる距離なものの、一人で深夜の道を歩くのはなかなか怖い。重たい足を引きずって早歩きで帰路につく。今日はやけに月明かりが眩しくて、パトカーのサイレンが煩い。
「うわっ!?」
「おっと、すまないね」
角を曲がるところで急に現れた人影にぶつかり、バランスを崩す。素っ頓狂な声を上げながらそのまま後ろへ倒れそうだったのを、腕一本で止められた。
肩を抱くように引き寄せられ、驚愕で一瞬息が止まる。
「いや、こちらこそすみませ、……?」
謝りながら見上げてみれば、そこに居たのは仮面にシルクハット、マントを着けた背の高い女性だった。ルビーに似た深紅の瞳があたしを見下ろす。
2407今日のバイトはなかなかハードで、人手不足なのもあって全然作業が進まず、終わるのが遅くなってしまった。
徒歩で帰れる距離なものの、一人で深夜の道を歩くのはなかなか怖い。重たい足を引きずって早歩きで帰路につく。今日はやけに月明かりが眩しくて、パトカーのサイレンが煩い。
「うわっ!?」
「おっと、すまないね」
角を曲がるところで急に現れた人影にぶつかり、バランスを崩す。素っ頓狂な声を上げながらそのまま後ろへ倒れそうだったのを、腕一本で止められた。
肩を抱くように引き寄せられ、驚愕で一瞬息が止まる。
「いや、こちらこそすみませ、……?」
謝りながら見上げてみれば、そこに居たのは仮面にシルクハット、マントを着けた背の高い女性だった。ルビーに似た深紅の瞳があたしを見下ろす。
浬-かいり-
DOODLEここみさ聞いて聞いて「ミッシェル〜〜〜〜!!」
久々のミッシェルとしての練習日。休憩に入ったので控え室に一人向かおうとしたところで、後ろから抱き着かれた。犯人は、振り返らなくったって分かりきってる。
「なにかな〜? こころ?」
予想通り、振り向けば満面の笑みのこころが居た。嬉しそうな引っ付いてくる彼女は、何か用があるらしい。取り敢えず引き剥がしてから話を聞く。
「どうしたの? 何か用があるのかな?」
「ええ! あたしね、ミッシェルにとても大事な話があるの!」
話? 話ってなんだろう。他のメンバーにはそんなこと言ってなかった。ミッシェルだけにする、大事な話?
首を傾げれば手を引かれ、入ろうと思ってた控え室へそのまま誘導される。
2871久々のミッシェルとしての練習日。休憩に入ったので控え室に一人向かおうとしたところで、後ろから抱き着かれた。犯人は、振り返らなくったって分かりきってる。
「なにかな〜? こころ?」
予想通り、振り向けば満面の笑みのこころが居た。嬉しそうな引っ付いてくる彼女は、何か用があるらしい。取り敢えず引き剥がしてから話を聞く。
「どうしたの? 何か用があるのかな?」
「ええ! あたしね、ミッシェルにとても大事な話があるの!」
話? 話ってなんだろう。他のメンバーにはそんなこと言ってなかった。ミッシェルだけにする、大事な話?
首を傾げれば手を引かれ、入ろうと思ってた控え室へそのまま誘導される。
浬-かいり-
DOODLEハロハピ末っ子を可愛がって甘やかしたいの会「今日一日、美咲はあたし達の妹になればいいんだわ!」
「は?」
◆
今日はハロハピの練習日。昼食を食べてから練習の予定なので、お昼前にCiRCLEへ。車で送ってくれた親にお礼を言ってから、中へと入った。
「ごめん、お待たせ」
「美咲っ!」
到着したのはあたしが最後。こころが嬉しそうに振り返って、いつも通りあたしに飛びつこうとして……、足を止め立ち尽くす。他の三人も、あたしを見て驚いた顔をしていた。
「美咲、それ……?」
「あー……その……、」
みんなが呆然とするのも無理はない。あたしの身体は傷だらけだった。
顔には頰にガーゼが貼られ、口の端にも絆創膏。手首は捻挫。足は打撲。ともに包帯が巻かれている。
一番目立つのは、左手でついている松葉杖だろう。
3005「は?」
◆
今日はハロハピの練習日。昼食を食べてから練習の予定なので、お昼前にCiRCLEへ。車で送ってくれた親にお礼を言ってから、中へと入った。
「ごめん、お待たせ」
「美咲っ!」
到着したのはあたしが最後。こころが嬉しそうに振り返って、いつも通りあたしに飛びつこうとして……、足を止め立ち尽くす。他の三人も、あたしを見て驚いた顔をしていた。
「美咲、それ……?」
「あー……その……、」
みんなが呆然とするのも無理はない。あたしの身体は傷だらけだった。
顔には頰にガーゼが貼られ、口の端にも絆創膏。手首は捻挫。足は打撲。ともに包帯が巻かれている。
一番目立つのは、左手でついている松葉杖だろう。
浬-かいり-
DOODLEかおみさ口下手な彼女の愛情表現「今作、め〜っちゃ良かったね〜!」
映画館のすぐ傍に建つ飲食店で夕食を食べながら、りみは先程観た映画の感想を楽しげに語り出した。
りみとの交流は大学に上がった今でも続いていて、こうしてホラー映画を観たり食事に行ったりしている。大学は別だからなかなか会える訳じゃないけれど、やっぱり気の知れた友達だから会うのは嬉しい。
「迫力あったねー……。戸山さん連れて来なくて良かったかもね」
「そうかもね……。ショッピングモールのシーンなんか、ドキドキしちゃったよ〜」
あたしでも思わず悲鳴を上げそうになったくらいの迫力満点の演出だ。戸山さんが居たら気絶していたに違いない。
「あたしはショッピングモールでのゾンビは、どうしても高校の頃を思い出しちゃうな……」
2417映画館のすぐ傍に建つ飲食店で夕食を食べながら、りみは先程観た映画の感想を楽しげに語り出した。
りみとの交流は大学に上がった今でも続いていて、こうしてホラー映画を観たり食事に行ったりしている。大学は別だからなかなか会える訳じゃないけれど、やっぱり気の知れた友達だから会うのは嬉しい。
「迫力あったねー……。戸山さん連れて来なくて良かったかもね」
「そうかもね……。ショッピングモールのシーンなんか、ドキドキしちゃったよ〜」
あたしでも思わず悲鳴を上げそうになったくらいの迫力満点の演出だ。戸山さんが居たら気絶していたに違いない。
「あたしはショッピングモールでのゾンビは、どうしても高校の頃を思い出しちゃうな……」
浬-かいり-
DOODLEかおみさ(騎士×姫)その二人、主従関係につき。 大陸の首都で年に一度行われる舞踏会は、各王国の国王一族や貴族達が集う大規模なものだ。各国の交流を目的とする、平和と親睦の催しだった。
例に漏れず、一国の姫君である美咲も参加しているが、今は挨拶回りを終えて隅でぐったりとしていた。
「もう……今日は誰とも話したくない……」
「お疲れ様、美咲! 大変そうね!」
「いや、あんたの方が忙しいのに元気だね……」
隅で目立たないようにしていたのに、目敏く見つけたこころが飛んでくる。こころは首都王国の姫であり、この舞踏会の主催側だ。客人の美咲と違って、色々気を回さなければいけないことも多いだろう。
「美咲様、水を」
「ん、ありがと。……薫さん、今ここ隅っこで誰も聞いてないし、居るのもこころだけだから口調崩していいよ」
3040例に漏れず、一国の姫君である美咲も参加しているが、今は挨拶回りを終えて隅でぐったりとしていた。
「もう……今日は誰とも話したくない……」
「お疲れ様、美咲! 大変そうね!」
「いや、あんたの方が忙しいのに元気だね……」
隅で目立たないようにしていたのに、目敏く見つけたこころが飛んでくる。こころは首都王国の姫であり、この舞踏会の主催側だ。客人の美咲と違って、色々気を回さなければいけないことも多いだろう。
「美咲様、水を」
「ん、ありがと。……薫さん、今ここ隅っこで誰も聞いてないし、居るのもこころだけだから口調崩していいよ」
浬-かいり-
DOODLEかおみさ(怪盗×スマイルポリス)逃走劇、共闘にて なんでこんなことになってるんだっけな。
スマイルポリスの制服に身を包む美咲は、鉄格子の中で頭を抱える。
「フフ……この状況、実に」
「儚くないから! ああもうどうすりゃいいのさ……」
笑みを浮かべる怪盗ハロハッピーに、美咲はぴしゃりと言葉を遮った。
ビルの一画に何故かあるこの鉄格子の中に、宿敵である筈の二人が仲良く一緒に閉じ込められていた。
このビルに訪れていたのは、それぞれ違う目的の筈だった。美咲はこのビルを拠点としている悪の組織の調査、怪盗はその組織が不当に所持する宝を盗む為だった。
けれど組織の方が二人が思うよりも上手だったようで。こうして二人捕まり、狭い牢獄へと押し込められている現状である。
3017スマイルポリスの制服に身を包む美咲は、鉄格子の中で頭を抱える。
「フフ……この状況、実に」
「儚くないから! ああもうどうすりゃいいのさ……」
笑みを浮かべる怪盗ハロハッピーに、美咲はぴしゃりと言葉を遮った。
ビルの一画に何故かあるこの鉄格子の中に、宿敵である筈の二人が仲良く一緒に閉じ込められていた。
このビルに訪れていたのは、それぞれ違う目的の筈だった。美咲はこのビルを拠点としている悪の組織の調査、怪盗はその組織が不当に所持する宝を盗む為だった。
けれど組織の方が二人が思うよりも上手だったようで。こうして二人捕まり、狭い牢獄へと押し込められている現状である。
浬-かいり-
DOODLEかおみさ美味しいのはケーキと紅茶と、人の恋路「花音、最近薫はどうかしら?」
「どうって?」
先週オープンしたばかりのカフェの一画、一番端のテーブル。ティーカップ片手に千聖が尋ねたので、向かいに座る花音がフォーク片手に首を傾げた。
一瞬だけ考えて、すぐに合点がいったようで頷く。今千聖が名前を出したバンド仲間の同級生の顔と共に頭に浮かんだのは、同じバンド仲間の後輩だ。
「順調みたいだよ。練習後は薫さんが美咲ちゃんを家まで送ってあげてるみたい。よく一緒に帰ってるよ」
千聖と花音の話題に挙がったのは、数ヶ月前に付き合いを始めた二人についてだった。
付き合いに行くまでお互いそれぞれ相談を受けたり、紆余曲折を見たりしてきたので、話題に上がるのは自然のことであった。
2727「どうって?」
先週オープンしたばかりのカフェの一画、一番端のテーブル。ティーカップ片手に千聖が尋ねたので、向かいに座る花音がフォーク片手に首を傾げた。
一瞬だけ考えて、すぐに合点がいったようで頷く。今千聖が名前を出したバンド仲間の同級生の顔と共に頭に浮かんだのは、同じバンド仲間の後輩だ。
「順調みたいだよ。練習後は薫さんが美咲ちゃんを家まで送ってあげてるみたい。よく一緒に帰ってるよ」
千聖と花音の話題に挙がったのは、数ヶ月前に付き合いを始めた二人についてだった。
付き合いに行くまでお互いそれぞれ相談を受けたり、紆余曲折を見たりしてきたので、話題に上がるのは自然のことであった。
浬-かいり-
DOODLE咲咲次からはもうファミレスでいいです「……市ヶ谷さん、飲み過ぎじゃない?」
「いやいや、全然まだまだだろ」
オレンジジュースの入ったグラス片手に苦笑いする奥沢さんに、私は首を振ってからカシスオレンジのグラスを傾けた。
先日、ポピパとハロハピでの合同ライブがあった。この2バンドが揃って何も起こらない訳がなく、まあ賑やかでハプニングだらけで、でも盛り上がって大成功に収まった。
ライブ直後で合同の打ち上げはあったけれど、私と奥沢さんはそれぞれ、はしゃいでいる香澄や弦巻さんの世話に追われて終わってしまった。
なので、後日にこうして二人だけで細やかな打ち上げを行なっているのであった。打ち上げの打ち上げとも言う。
大学は別々となってしまった今でも、奥沢さんは気の合う話し相手であり、身近な相談役であり、そして事情の分かっている愚痴相手だ。
2835「いやいや、全然まだまだだろ」
オレンジジュースの入ったグラス片手に苦笑いする奥沢さんに、私は首を振ってからカシスオレンジのグラスを傾けた。
先日、ポピパとハロハピでの合同ライブがあった。この2バンドが揃って何も起こらない訳がなく、まあ賑やかでハプニングだらけで、でも盛り上がって大成功に収まった。
ライブ直後で合同の打ち上げはあったけれど、私と奥沢さんはそれぞれ、はしゃいでいる香澄や弦巻さんの世話に追われて終わってしまった。
なので、後日にこうして二人だけで細やかな打ち上げを行なっているのであった。打ち上げの打ち上げとも言う。
大学は別々となってしまった今でも、奥沢さんは気の合う話し相手であり、身近な相談役であり、そして事情の分かっている愚痴相手だ。
浬-かいり-
DOODLEかおみさ(ケモ化パロ)にゃんことの楽しい共同生活〜かみなりの日編〜 ざあざあ、と雨が激しく窓を叩く。何気なくずぶ濡れの窓に視線をやったら、外が激しく光って一瞬明るくなる。遅れて、ごろごろと低い音が響いた。
「…………、」
ベッドの隅に座っていた美咲が猫の耳をぴくぴくと動かした。落ち着かない様子で、ちらちらと窓の外を見ている。
また空が光る。数拍後、今度はがしゃんと大きな音。どこかに落ちたかもしれない。
「!」
美咲に目をやれば、驚いたようにしっぽの毛を太く逆立たせていた。耳がしょぼんと垂れているのが、可哀想なのだが可愛らしい。
「美咲」
声を掛ければ、またぴくりと耳が立つ。
此方を向いた顔が引きつっている。
「……なに」
「夕立だから、すぐに収まるそうだよ」
「あたし、何も言ってませんけど」
1088「…………、」
ベッドの隅に座っていた美咲が猫の耳をぴくぴくと動かした。落ち着かない様子で、ちらちらと窓の外を見ている。
また空が光る。数拍後、今度はがしゃんと大きな音。どこかに落ちたかもしれない。
「!」
美咲に目をやれば、驚いたようにしっぽの毛を太く逆立たせていた。耳がしょぼんと垂れているのが、可哀想なのだが可愛らしい。
「美咲」
声を掛ければ、またぴくりと耳が立つ。
此方を向いた顔が引きつっている。
「……なに」
「夕立だから、すぐに収まるそうだよ」
「あたし、何も言ってませんけど」
浬-かいり-
DOODLEかおみさ(怪盗×スマイルポリス)今宵、照らすのは、「怪盗ハロハッピー?」
スマイルポリス本部、ハッピー課。先輩ポリスである花音から新しい仕事について聞いた美咲は、首を傾げた。
「うん、近頃この辺で有名になってるみたい」
「……名前、ダサくないですか?」
怪盗ハロハッピー。最近世間を賑わせている怪盗もどきだ。
宝物を盗むという予告状を送りつけて警備に当たった者たちを弄ぶように翻弄した挙句に盗みを働き、しかし数日後には盗んだものを元の場所に戻していく、というなんとも人騒がせで意味不明な怪盗だった。
「また予告状が届いたんだって。この近くに出るみたい」
「なるほど、それであたし達に出動命令が来たんだ」
「こころちゃんもはぐみちゃんも、すっごく気合い入ってたよ。嬉しそうにしてたよ」
2909スマイルポリス本部、ハッピー課。先輩ポリスである花音から新しい仕事について聞いた美咲は、首を傾げた。
「うん、近頃この辺で有名になってるみたい」
「……名前、ダサくないですか?」
怪盗ハロハッピー。最近世間を賑わせている怪盗もどきだ。
宝物を盗むという予告状を送りつけて警備に当たった者たちを弄ぶように翻弄した挙句に盗みを働き、しかし数日後には盗んだものを元の場所に戻していく、というなんとも人騒がせで意味不明な怪盗だった。
「また予告状が届いたんだって。この近くに出るみたい」
「なるほど、それであたし達に出動命令が来たんだ」
「こころちゃんもはぐみちゃんも、すっごく気合い入ってたよ。嬉しそうにしてたよ」
浬-かいり-
DOODLEここみさ・かおみさ世界一のお姫様になれるキミへ「ライブお疲れ様、みんな! とっても楽しかったわね!」
ライブ後の控え室で、満足げにこころは笑った。今回大成功に終わったスマイル号での船上ライブは、いつもと趣旨を変えてそれぞれがドレスアップしてのライブとなった。
正装し華やかで上品な雰囲気となったものの、結局曲が始まってしまえばいつもと変わらぬド派手なパフォーマンスで、いつものハロハピのライブと変わらなかったが。
「じゃあ、この後のパーティーも楽しみましょう!」
この後は、ライブの観客を交えて船内でパーティーが行われる。こころ達は、このドレスのまま参加予定だった。彼女自身も今は、真っ赤なドレスに身を包んでいる。いつものものよりも装飾が施された派手なものだ。
2355ライブ後の控え室で、満足げにこころは笑った。今回大成功に終わったスマイル号での船上ライブは、いつもと趣旨を変えてそれぞれがドレスアップしてのライブとなった。
正装し華やかで上品な雰囲気となったものの、結局曲が始まってしまえばいつもと変わらぬド派手なパフォーマンスで、いつものハロハピのライブと変わらなかったが。
「じゃあ、この後のパーティーも楽しみましょう!」
この後は、ライブの観客を交えて船内でパーティーが行われる。こころ達は、このドレスのまま参加予定だった。彼女自身も今は、真っ赤なドレスに身を包んでいる。いつものものよりも装飾が施された派手なものだ。
浬-かいり-
DOODLEかおみさ早く来て、エンドロール「映画?」
金曜の夜、DVD片手に映画観賞を提案したのは美咲の方だった。レンタル店の店名が記されたケースに入れられたDVDのタイトルを見る。薫の記憶では、半年前に話題を呼んだ映画だったと思う。
「美咲が映画を観たいだなんて珍しいね。どうしたんだい?」
「あ、いや……、なんていうか、花音さんと白鷺先輩に勧められて」
「花音と千聖?」
舞台女優と作曲家。曜日に関係なく忙しい二人だが、金曜の夜は二人でゆっくり過ごすのが習慣となっていた。それは決めた訳ではなく、学生時代からの名残であった。
映画を観て過ごすこともあるが、いつもそれを提案してくるのは薫の方だ。美咲の方から提案してくるのは珍しい。
「あたし、今映画のBGMを作曲してるって言ったじゃないですか」
2869金曜の夜、DVD片手に映画観賞を提案したのは美咲の方だった。レンタル店の店名が記されたケースに入れられたDVDのタイトルを見る。薫の記憶では、半年前に話題を呼んだ映画だったと思う。
「美咲が映画を観たいだなんて珍しいね。どうしたんだい?」
「あ、いや……、なんていうか、花音さんと白鷺先輩に勧められて」
「花音と千聖?」
舞台女優と作曲家。曜日に関係なく忙しい二人だが、金曜の夜は二人でゆっくり過ごすのが習慣となっていた。それは決めた訳ではなく、学生時代からの名残であった。
映画を観て過ごすこともあるが、いつもそれを提案してくるのは薫の方だ。美咲の方から提案してくるのは珍しい。
「あたし、今映画のBGMを作曲してるって言ったじゃないですか」
浬-かいり-
DOODLEハロハピはっぴー☆しゃっふるっ!「えっとさぁ……、」
“瀬田薫”が困惑顔で溜息を吐くと、頭を乱暴に掻こうとして、……今は髪をまとめていることに気付いて、所在なさげにその手を下ろした。
その前では、楽しげに微笑んでいる“奥沢美咲”が薫を見上げていた。手を顎に当て、目を閉じる。
「この状況……、実に儚いね」
「あたしの顔でそれ言うのやめてもらえます?」
美咲の周りにキラリと輝く真っ赤な薔薇が現れ(※幻覚)、それをじっとりとした視線の薫がばっさりと切り捨てた。
◆
事の始まりは数十分前。
ライブハウスに先に到着した薫と美咲は、他の三人を待つ間先にスタジオの準備を進めていた。
その時コードに足を躓かせた美咲が転倒しかけ、それを庇った薫と共に床に倒れ込んだ。
2823“瀬田薫”が困惑顔で溜息を吐くと、頭を乱暴に掻こうとして、……今は髪をまとめていることに気付いて、所在なさげにその手を下ろした。
その前では、楽しげに微笑んでいる“奥沢美咲”が薫を見上げていた。手を顎に当て、目を閉じる。
「この状況……、実に儚いね」
「あたしの顔でそれ言うのやめてもらえます?」
美咲の周りにキラリと輝く真っ赤な薔薇が現れ(※幻覚)、それをじっとりとした視線の薫がばっさりと切り捨てた。
◆
事の始まりは数十分前。
ライブハウスに先に到着した薫と美咲は、他の三人を待つ間先にスタジオの準備を進めていた。
その時コードに足を躓かせた美咲が転倒しかけ、それを庇った薫と共に床に倒れ込んだ。
浬-かいり-
DOODLEかおみさEPILOGU「やあ美咲、おかえり。向こうは楽しめたかい?」
10年前の薫の実家でシャワーを浴びて、その後同じくシャワーへ向かった高校生の薫を見送って。そして気付けば美咲は自分の家に帰ってきていた。薫と同棲している、自分の時代へ。
10年前の世界へ行った時、自分は弦巻家に居たはずだが。……また高校生の美咲と入れ替わったということは、高校生の美咲を自宅まで連れて帰ったのだろう。
いくら10年前の姿の恋人とはいえ、どうして弦巻家にそのまま泊めさせなかったのか。何故か不満のような感情が渦巻く。が、それは押さえ込んで。
「いや、ほんとどうなることかと思ったけど……。まあ、でも、悪くはなかったかな。高校生の薫さんにも会えたし。そっちは? 高校生のあたしが来たんでしょ?」
213210年前の薫の実家でシャワーを浴びて、その後同じくシャワーへ向かった高校生の薫を見送って。そして気付けば美咲は自分の家に帰ってきていた。薫と同棲している、自分の時代へ。
10年前の世界へ行った時、自分は弦巻家に居たはずだが。……また高校生の美咲と入れ替わったということは、高校生の美咲を自宅まで連れて帰ったのだろう。
いくら10年前の姿の恋人とはいえ、どうして弦巻家にそのまま泊めさせなかったのか。何故か不満のような感情が渦巻く。が、それは押さえ込んで。
「いや、ほんとどうなることかと思ったけど……。まあ、でも、悪くはなかったかな。高校生の薫さんにも会えたし。そっちは? 高校生のあたしが来たんでしょ?」
浬-かいり-
DOODLEかおみさまだコップ一杯にも満たない 人集りを遠くから眺めながら、美咲はベンチの上で重い溜息を吐いた。これで何度目になるだろうか。
視線の先には薫が居た。久々に二人で出掛けたいと、誘ってきてくれたのは薫の方だった。
だから今日は一緒にお茶をして、買い物して……。そんな細やかな計画を脳内に立てて、柄にもなく楽しみに思っていたりしたのだが。
(……まあ、こうなるとは分かってたけどね……)
薫の周りは現在、所謂“子猫ちゃん”達が取り囲んでいた。その勢いに押し退けられるような形で、こうしてベンチで一人待ちぼうけを食らっていた。
恨めしげに視線を向けても、薫と視線が交わることは無い。そのことが、今の美咲にはひどく心細かった。無意識に手の甲へと爪を立てる。
2746視線の先には薫が居た。久々に二人で出掛けたいと、誘ってきてくれたのは薫の方だった。
だから今日は一緒にお茶をして、買い物して……。そんな細やかな計画を脳内に立てて、柄にもなく楽しみに思っていたりしたのだが。
(……まあ、こうなるとは分かってたけどね……)
薫の周りは現在、所謂“子猫ちゃん”達が取り囲んでいた。その勢いに押し退けられるような形で、こうしてベンチで一人待ちぼうけを食らっていた。
恨めしげに視線を向けても、薫と視線が交わることは無い。そのことが、今の美咲にはひどく心細かった。無意識に手の甲へと爪を立てる。
浬-かいり-
DOODLEかのみさ勇気がないなら 何度ライブの回数を重ねても、直前の緊張感にはやっぱり慣れることがなくて、いつも心臓がドキドキしてしまう。
こころちゃんやはぐみちゃん、薫さんの三人はそんな緊張感さえも楽しい“ドキドキ”に変わってしまうようで、先程からはしゃいでいる。
私は鏡の前で着替えたステージ衣装の最終チェックを行うと、そっと控室から出て行った。
向かう先は、美咲ちゃんの控室。彼女はもう、ミッシェルに着替えているだろうか。
「美咲ちゃん、準備できた?」
ドアをノックして呼ぶが、返事は無い。
首を傾げてから一言断りを入れて、ゆっくりとドアを開けた。
「失礼します……?」
控室の中に入っても反応はない。けどその理由はすぐに分かった。
2709こころちゃんやはぐみちゃん、薫さんの三人はそんな緊張感さえも楽しい“ドキドキ”に変わってしまうようで、先程からはしゃいでいる。
私は鏡の前で着替えたステージ衣装の最終チェックを行うと、そっと控室から出て行った。
向かう先は、美咲ちゃんの控室。彼女はもう、ミッシェルに着替えているだろうか。
「美咲ちゃん、準備できた?」
ドアをノックして呼ぶが、返事は無い。
首を傾げてから一言断りを入れて、ゆっくりとドアを開けた。
「失礼します……?」
控室の中に入っても反応はない。けどその理由はすぐに分かった。
浬-かいり-
DOODLEかおみさ儚き幸せ家族計画 とある土曜日。その日はこころの家でハロハピ会議の予定だった。
ところが当日の朝になって、美咲から『家から離れられなくなったので行けなくなった』という旨の連絡が来て。心配したものの、家から離れなければOKとのことだったので、本日のハロハピ会議は美咲の家で行うことになった。四人で彼女の家を訪れ、インターホンを鳴らす。
「はいはーい。ごめんね急に」
聞き慣れた声と共にドアが開かれる。その瞬間、思考が停止した。
「えっ、美咲ちゃん、その子は……?」
花音が驚いた声で尋ねた。
美咲の腕の中で、小さな赤ん坊が抱かれていた。真っ白でぷくっとした小さな手が、彼女の服をぎゅっと握っている。美咲には確かに妹と弟が居るが、こんなに小さくはない。
2463ところが当日の朝になって、美咲から『家から離れられなくなったので行けなくなった』という旨の連絡が来て。心配したものの、家から離れなければOKとのことだったので、本日のハロハピ会議は美咲の家で行うことになった。四人で彼女の家を訪れ、インターホンを鳴らす。
「はいはーい。ごめんね急に」
聞き慣れた声と共にドアが開かれる。その瞬間、思考が停止した。
「えっ、美咲ちゃん、その子は……?」
花音が驚いた声で尋ねた。
美咲の腕の中で、小さな赤ん坊が抱かれていた。真っ白でぷくっとした小さな手が、彼女の服をぎゅっと握っている。美咲には確かに妹と弟が居るが、こんなに小さくはない。
浬-かいり-
DOODLEかおみさ特効薬 頭が痛い。
これは今現在弦巻邸で行われてるハロハピ会議にて飛び出してくる、突拍子ない意見達が原因ではない気がした。
ライブを控え、毎日曲作りや演出の組み立て等に追われていて寝不足だったかな。最低限の睡眠は確保しているつもりだったけど。ノートと睨めっこしながら、眉間に皺を寄せた。
「……っていう感じはどうかしら、美咲!」
「うん……」
「? みーくんさっきから返事おかしくない? 大丈夫?」
「えっ、」
頭痛を堪えるあまり空返事になってしまっていたらしい。
取り繕おうと慌てて顔を上げると、目が合った薫さんと花音さんがぎょっと驚いたような顔をした。
「み、美咲!? 大丈夫かい!?」
「え、何が……?」
「美咲ちゃん、顔真っ青だよ……?」
2210これは今現在弦巻邸で行われてるハロハピ会議にて飛び出してくる、突拍子ない意見達が原因ではない気がした。
ライブを控え、毎日曲作りや演出の組み立て等に追われていて寝不足だったかな。最低限の睡眠は確保しているつもりだったけど。ノートと睨めっこしながら、眉間に皺を寄せた。
「……っていう感じはどうかしら、美咲!」
「うん……」
「? みーくんさっきから返事おかしくない? 大丈夫?」
「えっ、」
頭痛を堪えるあまり空返事になってしまっていたらしい。
取り繕おうと慌てて顔を上げると、目が合った薫さんと花音さんがぎょっと驚いたような顔をした。
「み、美咲!? 大丈夫かい!?」
「え、何が……?」
「美咲ちゃん、顔真っ青だよ……?」
浬-かいり-
DOODLE昨夜のことは忘れて一生思い出さないで/美咲総受け昨夜のことは忘れて一生思い出さないで/美咲総受け「美咲!」
「美咲」
「みーくん!」
「美咲ちゃん」
「「お誕生日おめでとう〜〜〜〜!!」」
「ありがとう……」
鳴らされるクラッカーに、あたしは照れながらもお礼の言葉を口にした。
今日は、あたしの20歳の誕生日。あたし自身があんまり大勢で祝ってもらうのは気恥ずかしくて慣れてないっていうことで、こうしてハロハピのメンバーだけで祝ってもらっている訳なのだが。
「ねえ、こころ」
「何かしら?」
「ここどこ?」
「居酒屋よ!」
良質な畳が敷かれた座敷の個室に、大きなテーブルの上に並べられた料理。種類豊富なドリンクメニュー。至って普通の居酒屋だ。……客が、あたし達以外居ないことを除けば。
「あたしの誕生日に居酒屋に行った時、美咲がとーってもお腹の痛そうな顔をして、一人だけ飲めないのは寂しいって言っていたでしょう?」
2621「美咲」
「みーくん!」
「美咲ちゃん」
「「お誕生日おめでとう〜〜〜〜!!」」
「ありがとう……」
鳴らされるクラッカーに、あたしは照れながらもお礼の言葉を口にした。
今日は、あたしの20歳の誕生日。あたし自身があんまり大勢で祝ってもらうのは気恥ずかしくて慣れてないっていうことで、こうしてハロハピのメンバーだけで祝ってもらっている訳なのだが。
「ねえ、こころ」
「何かしら?」
「ここどこ?」
「居酒屋よ!」
良質な畳が敷かれた座敷の個室に、大きなテーブルの上に並べられた料理。種類豊富なドリンクメニュー。至って普通の居酒屋だ。……客が、あたし達以外居ないことを除けば。
「あたしの誕生日に居酒屋に行った時、美咲がとーってもお腹の痛そうな顔をして、一人だけ飲めないのは寂しいって言っていたでしょう?」
浬-かいり-
DOODLEかのみさ花弁は愛の証 “それ”に最初に気付いたのは、花音のクラスメイトであり親友でもある白鷺千聖であった。
5限目の体育に備え更衣室で着替えていた彼女は、同じく隣で制服を脱ぐ花音が視界に入った時に、それに気付いてしまった。
それは、花音の首筋にある痕であった。
鬱血痕のようなピンク色のそれは、白い肌の中だとよく目立って見えた。
「花音、首のそれ、」
思わず指摘してから、しまったと千聖は後悔した。
虫刺されにしては時期が早過ぎるそれだったが、なんならいっそ虫刺されと言い張ってくれた方が平和に終わると。それか寧ろ、何を指摘されたのか気付かずにいて欲しいと。自分で聞いておいて、そんな願望めいた思いを花音に向けた。
「……ああ、これ?」
21425限目の体育に備え更衣室で着替えていた彼女は、同じく隣で制服を脱ぐ花音が視界に入った時に、それに気付いてしまった。
それは、花音の首筋にある痕であった。
鬱血痕のようなピンク色のそれは、白い肌の中だとよく目立って見えた。
「花音、首のそれ、」
思わず指摘してから、しまったと千聖は後悔した。
虫刺されにしては時期が早過ぎるそれだったが、なんならいっそ虫刺されと言い張ってくれた方が平和に終わると。それか寧ろ、何を指摘されたのか気付かずにいて欲しいと。自分で聞いておいて、そんな願望めいた思いを花音に向けた。
「……ああ、これ?」
浬-かいり-
DOODLEここみさしあわせわけっこ 春先とは言え、まだ冷える日も多い。空気も乾燥している。その上部活で寒空の下に晒された日には、手のひらはカサカサに乾燥しきっていた。
スクールバッグを漁って、ハンドクリームを取り出す。薬用と書かれたシンプルなデザインのハンドクリームは、薬局で安く売られていたものだ。……女子高生が持つにしては、あまりにも飾りっ気が無いけれど。
「美咲ーーーーー!!」
蓋を開けたところで、遠くからよく知った声。振り向いて身構えれば、こころが勢いよく抱き着いてきた。ほぼ突進のそれをなんとか抱き留めると、ハンドクリームの蓋が地面に落ちた。
「美咲、部活お疲れ様!」
「ありがと、こころ。もしかして待っててくれてた?」
「美咲と一緒に帰ろうと思って待ってたの!」
1654スクールバッグを漁って、ハンドクリームを取り出す。薬用と書かれたシンプルなデザインのハンドクリームは、薬局で安く売られていたものだ。……女子高生が持つにしては、あまりにも飾りっ気が無いけれど。
「美咲ーーーーー!!」
蓋を開けたところで、遠くからよく知った声。振り向いて身構えれば、こころが勢いよく抱き着いてきた。ほぼ突進のそれをなんとか抱き留めると、ハンドクリームの蓋が地面に落ちた。
「美咲、部活お疲れ様!」
「ありがと、こころ。もしかして待っててくれてた?」
「美咲と一緒に帰ろうと思って待ってたの!」
浬-かいり-
DOODLEかおみさ(大学1年×高校3年)そして一緒に寝坊する 意識が浮上する。開けた視界は、家具の位置が視認出来るくらいには明るいけれど、まだ日は昇ってはいないようで、薫はまだ自分が起きるべき時間ではないということを理解する。
それでも今は何時だろう、あとどれくらい寝れるだろう。そう思って枕元で充電中のスマートフォンに手を伸ばした。表示されたロック画面が眩しくて目を細めながら確認する。
AM5:00。今日は土曜日。予定は午後のバンド練習のみなので、まだ十分眠れる時間帯だ。
水でも飲んでもう一度寝ようと上体を起こしたところで、スマホの明るい光が隣で眠る恋人を起こしはしなかったかと気付いて、隣に目をやった。けれど、その心配は杞憂であった。そこに美咲は居なかった。
2669それでも今は何時だろう、あとどれくらい寝れるだろう。そう思って枕元で充電中のスマートフォンに手を伸ばした。表示されたロック画面が眩しくて目を細めながら確認する。
AM5:00。今日は土曜日。予定は午後のバンド練習のみなので、まだ十分眠れる時間帯だ。
水でも飲んでもう一度寝ようと上体を起こしたところで、スマホの明るい光が隣で眠る恋人を起こしはしなかったかと気付いて、隣に目をやった。けれど、その心配は杞憂であった。そこに美咲は居なかった。
浬-かいり-
DOODLEかおみさよく分からないけど一応薫くんお誕生日おめでとうに部類される小説はぐみ「さあ始まりました第一回、“薫くんにお誕生日プレゼントを渡そう選手権”〜!! 実況の北沢はぐみだよ!」
花音「解説の松原花音です。……あの、はぐみちゃん?」
はぐみ「なぁに、かのちゃん先輩?」
花音「これ、どういう状況なのかな?」
はぐみ「わかんない!!」
花音「だよね……?」
はぐみ「これはね、みーくん選手が本日お誕生日の薫くんに、ちゃんとプレゼントをあげられるかを実況中継するんだよ!」
花音「それでCiRCLEのラウンジの映像を観せられてるんだね……」
はぐみ「そのプレゼントのあげ方を“ハッピー”、“スマイル”、“儚さ”の三つの分野で得点を出すよ!」
花音「その三つ、意味ほぼ同じじゃないかな……?」
◆
はぐみ「今ラウンジには薫くんがいるね!」
2293花音「解説の松原花音です。……あの、はぐみちゃん?」
はぐみ「なぁに、かのちゃん先輩?」
花音「これ、どういう状況なのかな?」
はぐみ「わかんない!!」
花音「だよね……?」
はぐみ「これはね、みーくん選手が本日お誕生日の薫くんに、ちゃんとプレゼントをあげられるかを実況中継するんだよ!」
花音「それでCiRCLEのラウンジの映像を観せられてるんだね……」
はぐみ「そのプレゼントのあげ方を“ハッピー”、“スマイル”、“儚さ”の三つの分野で得点を出すよ!」
花音「その三つ、意味ほぼ同じじゃないかな……?」
◆
はぐみ「今ラウンジには薫くんがいるね!」
浬-かいり-
DOODLEかおみさ(大学1年×高校3年)においから分かる二人の関係性について 私と花音が大学へ進学してしまってから、頻度は減ったもののまだハロハピとしての活動は続けている。
大学の講義が終わった後、そのままこころの家へと直行すれば、既にこころと花音が待っていた。他の二人はどうしたかと問えば、はぐみは忘れていた宿題を居残りでやっていて、同じクラスの美咲はそれに付き合ってやっているらしい。こころも同じクラスではあるが、大学へ花音を迎えに行く為に別行動だったようだ。
「あはは……。はぐみちゃん大丈夫かな」
「受験生の自覚がーって、美咲が怒ってたわ」
苦笑いの花音に、こころが楽しそうに答える。
「そう言えば、はぐみと美咲は今日うちで一緒に夕食を摂るの。花音と薫もどうかしら?」
「わぁ、嬉しいな。じゃあご馳走になろうかな。薫さんは?」
2166大学の講義が終わった後、そのままこころの家へと直行すれば、既にこころと花音が待っていた。他の二人はどうしたかと問えば、はぐみは忘れていた宿題を居残りでやっていて、同じクラスの美咲はそれに付き合ってやっているらしい。こころも同じクラスではあるが、大学へ花音を迎えに行く為に別行動だったようだ。
「あはは……。はぐみちゃん大丈夫かな」
「受験生の自覚がーって、美咲が怒ってたわ」
苦笑いの花音に、こころが楽しそうに答える。
「そう言えば、はぐみと美咲は今日うちで一緒に夕食を摂るの。花音と薫もどうかしら?」
「わぁ、嬉しいな。じゃあご馳走になろうかな。薫さんは?」
浬-かいり-
DOODLEかおみさ雨の日に微睡んで「ん……」
意識が浮上する。真っ白いベッドの中にあたしは居た。仄かな消毒液のにおい。窓を叩く雨の音。未だに治まる気配の無い、ズキズキと痛む頭。
雨のせいで頭が痛くて、午前の授業は頑張ったけど午後はどうしようもなくなって、市ヶ谷さんに連れられてフラフラと保健室のベッドに倒れ込んだのを思い出す。
「……いっ……た、」
頭が痛い。今は何時なんだろう。結構寝たような気はするけれど、止まない雨の中では勿論太陽なんて見えない。
スマホを探すのすら億劫で、寝たのに寧ろ酷くなっている頭痛に固く目を瞑って蹲った。薬も飲んだと思うんだけど、効いてないなこれ。雨の音がやけに煩く聞こえて鬱陶しい。
下校時間になったらきっと保健室の先生が起こしてくれるだろうから、今はまだ寝ていて大丈夫なはず。そう結論付けて、楽な体勢を探して布団の中をもぞもぞと動いて、
1337意識が浮上する。真っ白いベッドの中にあたしは居た。仄かな消毒液のにおい。窓を叩く雨の音。未だに治まる気配の無い、ズキズキと痛む頭。
雨のせいで頭が痛くて、午前の授業は頑張ったけど午後はどうしようもなくなって、市ヶ谷さんに連れられてフラフラと保健室のベッドに倒れ込んだのを思い出す。
「……いっ……た、」
頭が痛い。今は何時なんだろう。結構寝たような気はするけれど、止まない雨の中では勿論太陽なんて見えない。
スマホを探すのすら億劫で、寝たのに寧ろ酷くなっている頭痛に固く目を瞑って蹲った。薬も飲んだと思うんだけど、効いてないなこれ。雨の音がやけに煩く聞こえて鬱陶しい。
下校時間になったらきっと保健室の先生が起こしてくれるだろうから、今はまだ寝ていて大丈夫なはず。そう結論付けて、楽な体勢を探して布団の中をもぞもぞと動いて、
浬-かいり-
DOODLEかおみさ鈍感な君にはストレートな告白を「あの、薫さん。今ちょっといい?」
眉を下げた表情の美咲に呼び止められたのは、CiRCLEでの練習後のことだった。その声音や表情から、どうやら落ち着いた場所で話した方が良いだろうと判断し、外のカフェに腰を据えて話をすることにした。
期間限定で販売していたホットチョコレートを二つ買ってテーブルに置くと、「すみません」って申し訳なさそうな美咲が頭を下げた。気にすることはないと微笑んで、彼女の向かいの席に座る。
「……えっと、相談っていうか、なんというか」
歯切れ悪く切り出した美咲は、小さな箱を取り出してテーブルに置いた。ピンク色にラッピングされ、赤いリボンが付けられた可愛らしい箱だった。
本日は2月14日、バレンタインデー。つまりこれは、チョコレートの類であると容易に想像がつく。
2069眉を下げた表情の美咲に呼び止められたのは、CiRCLEでの練習後のことだった。その声音や表情から、どうやら落ち着いた場所で話した方が良いだろうと判断し、外のカフェに腰を据えて話をすることにした。
期間限定で販売していたホットチョコレートを二つ買ってテーブルに置くと、「すみません」って申し訳なさそうな美咲が頭を下げた。気にすることはないと微笑んで、彼女の向かいの席に座る。
「……えっと、相談っていうか、なんというか」
歯切れ悪く切り出した美咲は、小さな箱を取り出してテーブルに置いた。ピンク色にラッピングされ、赤いリボンが付けられた可愛らしい箱だった。
本日は2月14日、バレンタインデー。つまりこれは、チョコレートの類であると容易に想像がつく。
浬-かいり-
DOODLEかおみさハッピーラッキーバレンタイン「あ、薫さんもう来てたんだね」
CiRCLEのラウンジへ行けば、既に薫さんがソファに座っていた。私達に気付くと、片手を挙げて微笑む。
「やあ花音、はぐみ、こころ。おや、今日は美咲は居ないのかい?」
「美咲ちゃんは少し部活に顔出してからこっち来るって。すぐに追い付くって言ってたよ」
事情を話せばそうなんだねって頷く薫さんは少し寂しそうだ。この二人が付き合ってるってことは、直接は聞いていないけど二人の持つ態度や雰囲気でなんとなく察している。こころちゃんも、よく周りを見ているから気付いているんじゃないかなぁ。
美咲ちゃんが言いたがらない感じだから、黙ってはいるんだけど。
「薫くん、その紙袋なに!? すんごいたくさんあるね!」
2372CiRCLEのラウンジへ行けば、既に薫さんがソファに座っていた。私達に気付くと、片手を挙げて微笑む。
「やあ花音、はぐみ、こころ。おや、今日は美咲は居ないのかい?」
「美咲ちゃんは少し部活に顔出してからこっち来るって。すぐに追い付くって言ってたよ」
事情を話せばそうなんだねって頷く薫さんは少し寂しそうだ。この二人が付き合ってるってことは、直接は聞いていないけど二人の持つ態度や雰囲気でなんとなく察している。こころちゃんも、よく周りを見ているから気付いているんじゃないかなぁ。
美咲ちゃんが言いたがらない感じだから、黙ってはいるんだけど。
「薫くん、その紙袋なに!? すんごいたくさんあるね!」