なりひさ
DOODLE初夜後の気まずいガンマトはじめての後で「もう起きていたのかね」
背後から声をかけられて、マトリフはびくりと肩を跳ねさせた。まだ夜が明けきっていない海辺に、マトリフは一人で座り込んでいた。
「……おぅ」
マトリフは振り返らなかった。顔を合わせるのが気まずかったからだ。
ガンガディアは屈むとマトリフの背にそっと手を当てた。
「身体は大丈夫かね。昨夜はあなたに無理をさせてしまって……随分と辛そうだったが」
「言うな言うな。夜の話を朝にするのは野暮だぜ」
マトリフはガンガディアの手を避けるように立ち上がった。回復呪文をかけた身体は傷ひとつない。だがガンガディアに触れられた感触は消えていなかった。囁かれた言葉も耳に残っている。眼差し力強さもそこに籠った熱も、全てが目を瞑っても思い出されてしまって、マトリフは羞恥で肌を赤くさせた。
1091背後から声をかけられて、マトリフはびくりと肩を跳ねさせた。まだ夜が明けきっていない海辺に、マトリフは一人で座り込んでいた。
「……おぅ」
マトリフは振り返らなかった。顔を合わせるのが気まずかったからだ。
ガンガディアは屈むとマトリフの背にそっと手を当てた。
「身体は大丈夫かね。昨夜はあなたに無理をさせてしまって……随分と辛そうだったが」
「言うな言うな。夜の話を朝にするのは野暮だぜ」
マトリフはガンガディアの手を避けるように立ち上がった。回復呪文をかけた身体は傷ひとつない。だがガンガディアに触れられた感触は消えていなかった。囁かれた言葉も耳に残っている。眼差し力強さもそこに籠った熱も、全てが目を瞑っても思い出されてしまって、マトリフは羞恥で肌を赤くさせた。
なりひさ
DOODLEマトを元気付けるガンガさん元気の在庫「ガンガディア」
マトリフは言って両手を広げた。ガンガディアはマトリフを見下ろして首を傾げる。
マトリフは突然にやってきたと思えば、ガンガディアの目の前に立った。何やら思い詰めた顔をしており、どうしたのかと思っていたら、突然にガンガディアに向かって両手を広げてみせた。
「……何かね?」
ガンガディアはマトリフの行動が何を意味するのかわからず首を傾げる。ガンガディアを見上げながら両手を広げるマトリフの姿が、おおありくいの威嚇のポーズのように見えた。
はて、私はマトリフを怒らせることをしたのだろうか。ガンガディアは昨日のマトリフの様子を思い返してみたが、特段変わったことは無かったはずだ。
「……ハグだよハグ。抱きしめろ」
899マトリフは言って両手を広げた。ガンガディアはマトリフを見下ろして首を傾げる。
マトリフは突然にやってきたと思えば、ガンガディアの目の前に立った。何やら思い詰めた顔をしており、どうしたのかと思っていたら、突然にガンガディアに向かって両手を広げてみせた。
「……何かね?」
ガンガディアはマトリフの行動が何を意味するのかわからず首を傾げる。ガンガディアを見上げながら両手を広げるマトリフの姿が、おおありくいの威嚇のポーズのように見えた。
はて、私はマトリフを怒らせることをしたのだろうか。ガンガディアは昨日のマトリフの様子を思い返してみたが、特段変わったことは無かったはずだ。
「……ハグだよハグ。抱きしめろ」
なりひさ
DOODLEネガティブなガンガさん愛なんて「少しは片付けたまえ大魔道士」
ガンガディアはマトリフの寝室を見ながら言った。マトリフの寝室は雑然としており、本も酒瓶も散乱している。
「面倒臭え」
マトリフはベッドに寝転んだまま本のページをめくっている。素晴らしい知能を持っているマトリフだが、日常生活における几帳面さは持ち合わせていないようだった。
だがガンガディアは物が散らかっているのは落ち着かない性質だった。ガンガディアは身を屈めると落ちている物を拾い始める。
ガンガディアがこの洞窟に居着いてまだ数日。行く場所がないとマトリフに言ったら、じゃあオレのとこに来いと言われた。少々狭いが身を隠すには適している。
ガンガディアはマトリフと寝起きを共にするようになって気付いたことがある。それはマトリフが日常生活の雑事を疎かにしがちということだ。だが不思議とその事でマトリフに憧れる気持ちが損なわれるということはなかった。
843ガンガディアはマトリフの寝室を見ながら言った。マトリフの寝室は雑然としており、本も酒瓶も散乱している。
「面倒臭え」
マトリフはベッドに寝転んだまま本のページをめくっている。素晴らしい知能を持っているマトリフだが、日常生活における几帳面さは持ち合わせていないようだった。
だがガンガディアは物が散らかっているのは落ち着かない性質だった。ガンガディアは身を屈めると落ちている物を拾い始める。
ガンガディアがこの洞窟に居着いてまだ数日。行く場所がないとマトリフに言ったら、じゃあオレのとこに来いと言われた。少々狭いが身を隠すには適している。
ガンガディアはマトリフと寝起きを共にするようになって気付いたことがある。それはマトリフが日常生活の雑事を疎かにしがちということだ。だが不思議とその事でマトリフに憧れる気持ちが損なわれるということはなかった。
なりひさ
DOODLE片思いガンマト。片思いガンガさんの続きその花弁を頂戴「ったく、しつけーんだよ!!」
マトリフは飛びながら悪態をついていた。マトリフは高速トベルーラで砂漠を飛んでいる。そのマトリフの真後ろをガンガディアが追っていた。
「逃げ場はないぞ大魔道士」
「うるせぇッ!」
ガンガディアは飛びながらもイオなどを撃ってくるので、マトリフはルーラで逃げることも出来なかった。少しでもトベルーラの速度を落とせば捕まってしまう。街と違って遮蔽物のない広い砂漠で逃げ回るのは困難だった。
マトリフは単独行動をしていたため、仲間の助けも望めなかった。このまま追いかけっこをしていても魔法力が減るばかりだ。
マトリフは上空に向けて急上昇した。そのまま宙返りをする。マトリフはガンガディアと向かい合う形になった。ガンガディアは突然の方向転換にもついてきていた。
1013マトリフは飛びながら悪態をついていた。マトリフは高速トベルーラで砂漠を飛んでいる。そのマトリフの真後ろをガンガディアが追っていた。
「逃げ場はないぞ大魔道士」
「うるせぇッ!」
ガンガディアは飛びながらもイオなどを撃ってくるので、マトリフはルーラで逃げることも出来なかった。少しでもトベルーラの速度を落とせば捕まってしまう。街と違って遮蔽物のない広い砂漠で逃げ回るのは困難だった。
マトリフは単独行動をしていたため、仲間の助けも望めなかった。このまま追いかけっこをしていても魔法力が減るばかりだ。
マトリフは上空に向けて急上昇した。そのまま宙返りをする。マトリフはガンガディアと向かい合う形になった。ガンガディアは突然の方向転換にもついてきていた。
なりひさ
DOODLE現パロガンマト今日きみを食べたい「それ何に使うんだ」
マトリフの問いに、ガンガディアは視線を持っていた長ネギからマトリフへと移した。
「今夜は鍋にしようかと」
「じゃあシメは雑炊がいい」
「ではそうしよう」
ガンガディアは長ネギを買い物かごへと入れる。長いからどうしてもかごから飛び出るそれを、どうにか邪魔にならないようにと収めた。
年末のスーパーマーケットはいつもより混雑している。家族連れの買い物客が多く、そんな客向けに用意された大人数用の肉などがずらりと陳列されていた。
ガンガディアとマトリフはいつも通りの二人分の食材をかごへと入れながら、客の合間をぬって移動していく。
「ああそうだ、酒は買っておくのかね?」
家にあった酒はマトリフがクリスマスに飲み尽くした気がして、ガンガディアはマトリフに問いかける。しかし返事は返ってこず、振り向けばそこにマトリフはいなかった。どこだろうとあたりを見ると、先ほどいた場所あたりにマトリフがいるのが見えた。人が多すぎて前に進めないらしい。
892マトリフの問いに、ガンガディアは視線を持っていた長ネギからマトリフへと移した。
「今夜は鍋にしようかと」
「じゃあシメは雑炊がいい」
「ではそうしよう」
ガンガディアは長ネギを買い物かごへと入れる。長いからどうしてもかごから飛び出るそれを、どうにか邪魔にならないようにと収めた。
年末のスーパーマーケットはいつもより混雑している。家族連れの買い物客が多く、そんな客向けに用意された大人数用の肉などがずらりと陳列されていた。
ガンガディアとマトリフはいつも通りの二人分の食材をかごへと入れながら、客の合間をぬって移動していく。
「ああそうだ、酒は買っておくのかね?」
家にあった酒はマトリフがクリスマスに飲み尽くした気がして、ガンガディアはマトリフに問いかける。しかし返事は返ってこず、振り向けばそこにマトリフはいなかった。どこだろうとあたりを見ると、先ほどいた場所あたりにマトリフがいるのが見えた。人が多すぎて前に進めないらしい。
なりひさ
DOODLEガンガさんの恋を応援するキギロ好き嫌い好き好き 大きなため息が聞こえてキギロは足を止めた。地底魔城の奥深く、そこはガンガディアの部屋の前だった。見れば扉は少し開いている。その隙間から見ると、ガンガディアが難しい顔をしていた。
ガンガディアはハドラーからの信頼も厚く、任される仕事も多いのだろう。真面目な性格から、ストレスでも溜め込んでいるのかもしれない。
キギロは扉をノックしてから部屋へと入った。
「どうしたのさ、大きなため息なんてついて」
「キギロか。少し考え事をしていたんだ」
「またハドラー様に無理難題を押し付けられた?」
「いや、ごく個人的な悩み事だ」
そこでキギロはピンときた。ガンガディアの表情が、あまりにもわかりやすかったからだ。
「……もしかして、恋煩いだったりして?」
1510ガンガディアはハドラーからの信頼も厚く、任される仕事も多いのだろう。真面目な性格から、ストレスでも溜め込んでいるのかもしれない。
キギロは扉をノックしてから部屋へと入った。
「どうしたのさ、大きなため息なんてついて」
「キギロか。少し考え事をしていたんだ」
「またハドラー様に無理難題を押し付けられた?」
「いや、ごく個人的な悩み事だ」
そこでキギロはピンときた。ガンガディアの表情が、あまりにもわかりやすかったからだ。
「……もしかして、恋煩いだったりして?」
なりひさ
DOODLEガンマトのクリスマス聖夜の勢い もうすぐクリスマスだとマトリフが気付いたのは、そのクリスマスのたった数日前だった。
普段の暮らしが人里離れた洞窟暮らしで、一緒に暮らしているガンガディアも人間の習慣に疎いものだから、クリスマスなんてイベントの存在はすっかり忘れていた。
マトリフは久しぶりに来た街がきらびやかに飾り付けされているのを見て、そういえばそんな季節だと思い出したのだった。
といってもマトリフも特殊な里の育ちであるから、クリスマスには馴染みがなかった。これまでクリスマスを楽しんだ記憶もない。だが今は恋人になったガンガディアと一緒に暮らしているのだし、少しくらいそれっぽい事をしてもいいかと思い立った。
そして迎えたクリスマス当日。マトリフは上機嫌で数日前に買った酒瓶のコルクを引き抜いた。それをガンガディアが目敏く見つける。
2614普段の暮らしが人里離れた洞窟暮らしで、一緒に暮らしているガンガディアも人間の習慣に疎いものだから、クリスマスなんてイベントの存在はすっかり忘れていた。
マトリフは久しぶりに来た街がきらびやかに飾り付けされているのを見て、そういえばそんな季節だと思い出したのだった。
といってもマトリフも特殊な里の育ちであるから、クリスマスには馴染みがなかった。これまでクリスマスを楽しんだ記憶もない。だが今は恋人になったガンガディアと一緒に暮らしているのだし、少しくらいそれっぽい事をしてもいいかと思い立った。
そして迎えたクリスマス当日。マトリフは上機嫌で数日前に買った酒瓶のコルクを引き抜いた。それをガンガディアが目敏く見つける。
なりひさ
DOODLE現パロ片思いガンマト夢のチケット「八番〜!」
マイクを持った幹事が高らかに言う。マトリフは手に持ったカードを見て、その数字があったので穴を開けた。会場は喜ぶ声や全く関係のない雑談でざわめいている。
忘年会兼クリスマス会と称された飲み会で、余興としてビンゴ大会が催されていた。全員参加ですよとアバンに連れて来られて、食って飲んで程よく酔ったところでビンゴカードを渡された。
「……揃わないものだな」
隣に座った大男が生真面目そうに呟いた。情報システム部のガンガディアだ。ガンガディアは飲み会だというのに正座をしたままでネクタイすら緩めていない。ガンガディアは仕事は出来るが物静かで、マトリフは仕事の話しかしたことがなかった。
マトリフも自分の手のビンゴカードを見る。いくつか穴が空いているものの、てんでバラバラの場所なのでビンゴには程遠かった。
3054マイクを持った幹事が高らかに言う。マトリフは手に持ったカードを見て、その数字があったので穴を開けた。会場は喜ぶ声や全く関係のない雑談でざわめいている。
忘年会兼クリスマス会と称された飲み会で、余興としてビンゴ大会が催されていた。全員参加ですよとアバンに連れて来られて、食って飲んで程よく酔ったところでビンゴカードを渡された。
「……揃わないものだな」
隣に座った大男が生真面目そうに呟いた。情報システム部のガンガディアだ。ガンガディアは飲み会だというのに正座をしたままでネクタイすら緩めていない。ガンガディアは仕事は出来るが物静かで、マトリフは仕事の話しかしたことがなかった。
マトリフも自分の手のビンゴカードを見る。いくつか穴が空いているものの、てんでバラバラの場所なのでビンゴには程遠かった。
なりひさ
DOODLEガンマトとハドアバの惚気大会うちの伴侶が世界一可愛いんだ! 派手なルーラの着地音が響いた。あまりの振動に机に置いてあったカップが揺れ、中に入っていた茶がこぼれる。マトリフは顔を盛大に顰めた。
マトリフにはルーラでやって来た主がわかっていた。そもそもルーラを使える者は稀有であり、その着地音でだいたいの判別がつく。この存在感を誇張させたような着地音はハドラーだ。
「ガンガディアはおるか!」
「いねえよ馬鹿野郎。帰れ」
大声を張り上げながら洞窟へと入ってきたハドラーにマトリフが言い返す。ハドラーは仁王立ちしてマトリフを見下ろしていた。その存在の熱苦しさに、マトリフは鬱陶しく思いながらシッシと追い払うように手を振った。そして反対の手でポットから茶を継ぎ足す。湯気を上げるカップを手にしてハドラーを無視するように茶を啜った。
3302マトリフにはルーラでやって来た主がわかっていた。そもそもルーラを使える者は稀有であり、その着地音でだいたいの判別がつく。この存在感を誇張させたような着地音はハドラーだ。
「ガンガディアはおるか!」
「いねえよ馬鹿野郎。帰れ」
大声を張り上げながら洞窟へと入ってきたハドラーにマトリフが言い返す。ハドラーは仁王立ちしてマトリフを見下ろしていた。その存在の熱苦しさに、マトリフは鬱陶しく思いながらシッシと追い払うように手を振った。そして反対の手でポットから茶を継ぎ足す。湯気を上げるカップを手にしてハドラーを無視するように茶を啜った。
なりひさ
DONEガンマト。マトリフ死亡IF、というつもりで書いたもの。あえて竜殺しの汚名をきて 竜の夢をみる。青い竜が遠い空を飛んでいる夢だ。あまりに高いところを飛ぶので、その姿は豆粒のように小さく見える。マトリフはまるで飛び方を忘れてしまったように、地上から竜を見上げていた。
しかし夢はいつも突然に終わる。誰かが廊下を歩く足音が、夢を壊していくからだ。
城の中で働く者の朝は随分と早いらしい。控えめな小走りの靴音が遠くから聞こえる。寝汚いと言われるほど寝坊をしていたマトリフが、今ではすっかり早起きになってしまった。
靴音が部屋の前を通り過ぎてからマトリフは身体を起こした。しばらくベッドの上でぼうっとしていたが、いずれ動かねばならないのだと己を叱咤してベッドから降りる。その際に手が真っ先に杖を探していた。だがそれは旅へと持っていった輝きの杖ではない。宝玉もなにも埋め込まれていない、ただ歩行を補助するための杖だった。
22872しかし夢はいつも突然に終わる。誰かが廊下を歩く足音が、夢を壊していくからだ。
城の中で働く者の朝は随分と早いらしい。控えめな小走りの靴音が遠くから聞こえる。寝汚いと言われるほど寝坊をしていたマトリフが、今ではすっかり早起きになってしまった。
靴音が部屋の前を通り過ぎてからマトリフは身体を起こした。しばらくベッドの上でぼうっとしていたが、いずれ動かねばならないのだと己を叱咤してベッドから降りる。その際に手が真っ先に杖を探していた。だがそれは旅へと持っていった輝きの杖ではない。宝玉もなにも埋め込まれていない、ただ歩行を補助するための杖だった。
yuma
DONEどちらもおずさんのガンマト小説「かかってこいよ」関連のイラストです。おずさん、お誕生日おめでとうございます🥳拙いですがよければ受け取ってください🙏
1枚目 おずさんのリクエストで「二人に未来があったifで脳イキさせられそうになってるマト師のガンマト」※お別れ前提なのは承知なのですが、私がもし未来があったらきっと賢いガンガさんがいつの間にか脳イキのやり方を覚えてマトに逆襲するのでは?と妄想をお伝えしたので、それを受けてのガンマトください、でした〜🙇♂️(一人残されたマトが見た夢なのかも……)
いきなりやられてヒェッてなってるマトと耐えているマトのつもり……。このあと、「これだから賢い奴は嫌いなんだよ!」って嫌がりつつ、だんだん快楽に耐えられなくなって……のイメージです!
2枚目
1枚目、わりと私の妄想でしかないので💦「かかってこいよ」のワンシーンも描きました!!おずさんのお話、がっつり文章を愉しむ系の作風なので挿絵は余計かも…と思いつつ、映像化したいシーンが山盛りであり迷いましたが、1枚目と対でマトが楽しそうにガンガさんを翻弄している所にしました。
ありがとうございましたー🙏 2
なりひさ
DOODLEポッキーを食べるガンマトポッキーの日「ほれ、あーん」
マトリフは手にした細長い棒状の菓子をガンガディアに向けた。その菓子は羽ペンの軸ほどの細さで、甘く味付けされている。サクサクとした食感で、子供向けの定番の菓子だ。
「私にくれるのかね」
ガンガディアは読んでいた魔導書を閉じると、差し出された菓子の先端に口をつけた。ガンガディアなら一口で全てを食べられるほどだろうが、マトリフが菓子を持ったままだからか、少しずつ食べ進めていく。
ガンガディアが半分ほど食べてから、マトリフは菓子から手を離した。そしてさっきまで持っていた菓子の端に口をつける。棒状の菓子はガンガディアとマトリフの口を繋ぐ線のようになっていた。
ガンガディアは何も言わずにマトリフを見る。マトリフの意図を探ろうとしているようだ。ガンガディアが食べ進めるのを止めてしまったから、今度はマトリフが食べはじめる。そのためガンガディアの口とマトリフの口が少しずつ近づいていった。
1287マトリフは手にした細長い棒状の菓子をガンガディアに向けた。その菓子は羽ペンの軸ほどの細さで、甘く味付けされている。サクサクとした食感で、子供向けの定番の菓子だ。
「私にくれるのかね」
ガンガディアは読んでいた魔導書を閉じると、差し出された菓子の先端に口をつけた。ガンガディアなら一口で全てを食べられるほどだろうが、マトリフが菓子を持ったままだからか、少しずつ食べ進めていく。
ガンガディアが半分ほど食べてから、マトリフは菓子から手を離した。そしてさっきまで持っていた菓子の端に口をつける。棒状の菓子はガンガディアとマトリフの口を繋ぐ線のようになっていた。
ガンガディアは何も言わずにマトリフを見る。マトリフの意図を探ろうとしているようだ。ガンガディアが食べ進めるのを止めてしまったから、今度はマトリフが食べはじめる。そのためガンガディアの口とマトリフの口が少しずつ近づいていった。
なりひさ
DOODLEガンマト。ハロウィンの夜死者の祭「お菓子ちょーだい!」
小さな両手を差し出されて、マトリフはクッキーをその手に乗せた。クッキーを手にした幼子は礼を言って駆けていく。
ちょっと店番を頼みますよ、と言ってどこかへ行ったアバンはまだ帰ってこない。飾り付けられた広場には、マトリフと同じようにお菓子を並べて子供たちを待つ人々がいた。
今日は死者が帰ってくる日らしい。あの世とこの世の境界線が曖昧になり、死者が会いにやってくるという。広場はあちらこちらに火が灯され、子どもたちは仮装をしながらお菓子を貰い歩く。仮装をするのは悪い霊から身を隠すためらしい。
アバンはこの祭りのために朝からせっせとクッキーを焼いていた。マトリフは祭りと聞いて酒が飲めると思っていたが、手伝ってくださいと言われて菓子を渡す役を命じられた。
1193小さな両手を差し出されて、マトリフはクッキーをその手に乗せた。クッキーを手にした幼子は礼を言って駆けていく。
ちょっと店番を頼みますよ、と言ってどこかへ行ったアバンはまだ帰ってこない。飾り付けられた広場には、マトリフと同じようにお菓子を並べて子供たちを待つ人々がいた。
今日は死者が帰ってくる日らしい。あの世とこの世の境界線が曖昧になり、死者が会いにやってくるという。広場はあちらこちらに火が灯され、子どもたちは仮装をしながらお菓子を貰い歩く。仮装をするのは悪い霊から身を隠すためらしい。
アバンはこの祭りのために朝からせっせとクッキーを焼いていた。マトリフは祭りと聞いて酒が飲めると思っていたが、手伝ってくださいと言われて菓子を渡す役を命じられた。
なりひさ
DOODLEガンマト。ガンガさんのこと大好きマトがこっそりお揃いの指輪にしようと企む手「ちょっと手ぇ貸してくれ」
部屋の片付けをしていたマトリフに呼ばれて、ガンガディアは物置き部屋へと向かった。そこはマトリフの魔法道具などが無秩序に放り込まれており、足の踏み場もない。
「マトリフ?」
マトリフは魔法道具に埋もれているように見えた。手招きされたので魔法道具をかき分けながら進む。
「手ぇ出してくれ」
言われてガンガディアは手のひらを上に向けて差し出す。するとマトリフはその手にいくつかの魔法道具を乗せていった。発掘した道具を運び出したかったのだろう。
「もう片方の手もくれ」
「そんなに大荷物なのかね」
空いてる手を差し出すと、その手に乗ったのはマトリフだった。
「よし、いいぜ」
ガンガディアは左手に魔法道具を、右手にはマトリフを乗せて立ち上がる。どちらも大して重くなく、ガンガディアは部屋を出てからマトリフを下ろした。
1853部屋の片付けをしていたマトリフに呼ばれて、ガンガディアは物置き部屋へと向かった。そこはマトリフの魔法道具などが無秩序に放り込まれており、足の踏み場もない。
「マトリフ?」
マトリフは魔法道具に埋もれているように見えた。手招きされたので魔法道具をかき分けながら進む。
「手ぇ出してくれ」
言われてガンガディアは手のひらを上に向けて差し出す。するとマトリフはその手にいくつかの魔法道具を乗せていった。発掘した道具を運び出したかったのだろう。
「もう片方の手もくれ」
「そんなに大荷物なのかね」
空いてる手を差し出すと、その手に乗ったのはマトリフだった。
「よし、いいぜ」
ガンガディアは左手に魔法道具を、右手にはマトリフを乗せて立ち上がる。どちらも大して重くなく、ガンガディアは部屋を出てからマトリフを下ろした。
なりひさ
DOODLEガンマトのホラーティポタ 不思議なダンジョンがある、と聞いて来てみたものの、あまりの平和さにマトリフは大きな欠伸をした。
「気が緩んでいるではないか、大魔道士」
「だってよぉ、随分と深く潜ってんのにスライムとドラキーしか出てこねえんだぜ?」
かといって派手なトラップがあるわけでもない。通路が狭くて少々入り組んでいるものの、迷うほどでもなかった。
このダンジョンをマトリフに教えたのはポップだった。ポップは各地の遺跡を調べており、その中でこのダンジョンを見つけたのだとマトリフに報告した。
ポップの説明ではこのダンジョンは一度入れば抜け出せなくなるのだという。ではなぜお前は帰ってこれたのだと問えば、ポップは運が良かったからだと言った。
16036「気が緩んでいるではないか、大魔道士」
「だってよぉ、随分と深く潜ってんのにスライムとドラキーしか出てこねえんだぜ?」
かといって派手なトラップがあるわけでもない。通路が狭くて少々入り組んでいるものの、迷うほどでもなかった。
このダンジョンをマトリフに教えたのはポップだった。ポップは各地の遺跡を調べており、その中でこのダンジョンを見つけたのだとマトリフに報告した。
ポップの説明ではこのダンジョンは一度入れば抜け出せなくなるのだという。ではなぜお前は帰ってこれたのだと問えば、ポップは運が良かったからだと言った。
なりひさ
DOODLEガンマトとハロウィンハロウィン「トリック・オア・トリートォ?」
マトリフは聞き慣れない言葉に聞き返す。ポップはクッキーを食べながら頷いた。そのクッキーもポップが持ってきたもので、カボチャの形をしている。
「そ。お菓子くれなきゃイタズラするぞって意味」
「そんで?」
「そういうお祭りをするから、アバン先生がクッキー焼いたんで、お裾分け」
そんな祭りがあるとは知らなかった。アバンのことだから、どこからかそんな祭りの知識を仕入れてきたのだろう。
「ってわけで、師匠。トリック・オア・トリート」
両手を差し出してくるポップに、マトリフはクッキーを掴んでポップの口に押し込む。この洞窟に他に菓子なんてあるはずもない。
「菓子をやりゃあイタズラされねぇんだな?」
1933マトリフは聞き慣れない言葉に聞き返す。ポップはクッキーを食べながら頷いた。そのクッキーもポップが持ってきたもので、カボチャの形をしている。
「そ。お菓子くれなきゃイタズラするぞって意味」
「そんで?」
「そういうお祭りをするから、アバン先生がクッキー焼いたんで、お裾分け」
そんな祭りがあるとは知らなかった。アバンのことだから、どこからかそんな祭りの知識を仕入れてきたのだろう。
「ってわけで、師匠。トリック・オア・トリート」
両手を差し出してくるポップに、マトリフはクッキーを掴んでポップの口に押し込む。この洞窟に他に菓子なんてあるはずもない。
「菓子をやりゃあイタズラされねぇんだな?」
なりひさ
DOODLEガンガさんが残した卵を孵して育てているマト孵る 波は穏やかだった。しばらく晴れているから海も濁っていない。しかし垂れた釣り糸は静かなままだった。
マトリフは釣竿をあげる。釣り針に付けた餌は無くなっていた。餌を付け直そうと引き寄せるが、それに手を伸ばす小さな青い手があった。マトリフはその小さな手より先に釣り針を掴む。
「あー」
マトリフの膝の上で声が上がる。小さな青いトロルは短い手をいっぱいに伸ばしていた。小さいといっても、背丈はマトリフの半分ほどある。
「もうちょい待ってな」
餌を付けた釣り針を海に投げ込む。小さなトロルはそれを目で追った。腹を空かせているのか、その口からは涎が垂れていた。それを拭ってやろうと手を伸ばすと、その手を掴まれる。小さなトロルはマトリフの手を口の中へと入れると、まるで乳でも吸うように指をしゃぶりはじめる。
15905マトリフは釣竿をあげる。釣り針に付けた餌は無くなっていた。餌を付け直そうと引き寄せるが、それに手を伸ばす小さな青い手があった。マトリフはその小さな手より先に釣り針を掴む。
「あー」
マトリフの膝の上で声が上がる。小さな青いトロルは短い手をいっぱいに伸ばしていた。小さいといっても、背丈はマトリフの半分ほどある。
「もうちょい待ってな」
餌を付けた釣り針を海に投げ込む。小さなトロルはそれを目で追った。腹を空かせているのか、その口からは涎が垂れていた。それを拭ってやろうと手を伸ばすと、その手を掴まれる。小さなトロルはマトリフの手を口の中へと入れると、まるで乳でも吸うように指をしゃぶりはじめる。
なりひさ
DOODLE現パロガン→マト沈む恋 呼び出された公園にその姿を見つけた。ブランコに腰掛けて俯くマトリフは、街灯にぼんやりと照らされていた。
ガンガディアは無言のままブランコまで歩き、隣の空いている方へと腰を下ろそうとして、子ども用のブランコでは座れないだろうと気付いた。仕方がないので向かいにあった柵へと腰を下ろす。
「それで?」
呼び出された理由は聞いていないが、大体の予想はつく。マトリフは顔を上げた。
「フラれた」
「だと思ったよ」
夜の公園に突然に来いと呼びつけられるのは何度目だろう。マトリフは惚れやすく、そしてモテなかった。フラれたと言っていじけるマトリフを毎度慰めるのはガンガディアの役目だった。
「オレのどこがいけねえんだ」
「下心が表情に出るところかな」
16707ガンガディアは無言のままブランコまで歩き、隣の空いている方へと腰を下ろそうとして、子ども用のブランコでは座れないだろうと気付いた。仕方がないので向かいにあった柵へと腰を下ろす。
「それで?」
呼び出された理由は聞いていないが、大体の予想はつく。マトリフは顔を上げた。
「フラれた」
「だと思ったよ」
夜の公園に突然に来いと呼びつけられるのは何度目だろう。マトリフは惚れやすく、そしてモテなかった。フラれたと言っていじけるマトリフを毎度慰めるのはガンガディアの役目だった。
「オレのどこがいけねえんだ」
「下心が表情に出るところかな」
なりひさ
DOODLE転生現パロガンマト1990、晩夏、再会 静寂を突き破る音がした。それに起こされたものの、正体はわからなかった。
窓から差し込む日の明るさからまだ朝だとわかる。昨夜の残り香を感じて窓を開ければ、違う季節の風が吹いていた。外の世界は自堕落な人間を置き去りにして秋になっていたらしい。小さな庭には夏草がぼうぼうと生えているのに、その隙間には秋の虫が身を隠している。蝉もどこかで腹を見せて死んでいるに違いない。
部屋の中にはまだ先月のカレンダーが捲られもせずにかかっていた。ちょっと手を伸ばして破ればいいのだが、それを億劫に思う気持ちが大きくて、まあ二三日は構わないだろうという気がする。夏になったら書こうと思っていた友人への手紙も、ついぞ手をつけぬまま机の上に放り出してあった。
26870窓から差し込む日の明るさからまだ朝だとわかる。昨夜の残り香を感じて窓を開ければ、違う季節の風が吹いていた。外の世界は自堕落な人間を置き去りにして秋になっていたらしい。小さな庭には夏草がぼうぼうと生えているのに、その隙間には秋の虫が身を隠している。蝉もどこかで腹を見せて死んでいるに違いない。
部屋の中にはまだ先月のカレンダーが捲られもせずにかかっていた。ちょっと手を伸ばして破ればいいのだが、それを億劫に思う気持ちが大きくて、まあ二三日は構わないだろうという気がする。夏になったら書こうと思っていた友人への手紙も、ついぞ手をつけぬまま机の上に放り出してあった。
なりひさ
DOODLEガンマト。金でガンガさんを買ってるマト夜を買う ガンガディアには金が必要だった。大学の学費を払うためだ。マトリフには有り余る金があった。苦労もせずに相続した金で、それは残りの人生で使いきれないほどだった。
それをお互いに知ったことから、この関係が始まった。
ガンガディアに抱かれながらマトリフは天井を見上げる。身体への快楽を楽しむよりも、金の計算をしていた。ガンガディアが必要としている金額と、これまで渡した額を計算して、今日渡す金額を考える。
金を渡すからセックスの相手をしてくれと提案したのはマトリフだった。本当は金だけを渡してもよかったのだが、ガンガディアは何もせずに金を貰うわけにはいかないと言い張った。雑用でもなんでもすると言われて、じゃあ夜の相手をしろと言った。流石に断ると思ったのだが、ガンガディアは逡巡してからわかったと頷いた。
5875それをお互いに知ったことから、この関係が始まった。
ガンガディアに抱かれながらマトリフは天井を見上げる。身体への快楽を楽しむよりも、金の計算をしていた。ガンガディアが必要としている金額と、これまで渡した額を計算して、今日渡す金額を考える。
金を渡すからセックスの相手をしてくれと提案したのはマトリフだった。本当は金だけを渡してもよかったのだが、ガンガディアは何もせずに金を貰うわけにはいかないと言い張った。雑用でもなんでもすると言われて、じゃあ夜の相手をしろと言った。流石に断ると思ったのだが、ガンガディアは逡巡してからわかったと頷いた。
なりひさ
DOODLEガンマトとハドアバ。手違いで一緒の部屋に入るマトとハド。しないと出られない部屋 何事にも間違いはある。それが些細な間違いであれ、大変な間違いであれ、間違いには違いない。特にひとは間違いを犯しやすく、反省すらしない。その挙げ句に同じ間違いを繰り返す。
ここにその間違いに巻き込まれた二人がいた。
一人は魔族で、かつては地上を征服するために魔王を名乗っていた男だ。現在は肉体を改造して超魔生物となっている。名をハドラーといった。
そしてもう一人は自らを大魔道士と名乗った人間で、かつて勇者と一緒に魔王軍に戦いを挑んだ男だ。今は一線を退いたものの、魔法勝負ならまだまだ負けないと自負している。名をマトリフといった。
この二人、元々が敵対した間柄であったために仲が悪い。顔を合わせるたびにお互いを罵り合っていた。もし仮に敵対していなかったとしても、反りが合わないために仲良くはなれないだろう。
10471ここにその間違いに巻き込まれた二人がいた。
一人は魔族で、かつては地上を征服するために魔王を名乗っていた男だ。現在は肉体を改造して超魔生物となっている。名をハドラーといった。
そしてもう一人は自らを大魔道士と名乗った人間で、かつて勇者と一緒に魔王軍に戦いを挑んだ男だ。今は一線を退いたものの、魔法勝負ならまだまだ負けないと自負している。名をマトリフといった。
この二人、元々が敵対した間柄であったために仲が悪い。顔を合わせるたびにお互いを罵り合っていた。もし仮に敵対していなかったとしても、反りが合わないために仲良くはなれないだろう。
なりひさ
DOODLEガンマトと求愛行動愛を求む「それは求愛行動であると理解して行なっているのかね?」
ガンガディアの言葉にマトリフは固まった。寝起きで覚醒しきっていない頭が急激に動き出す。
「きゅう、あい??」
マトリフは知らない言葉のように繰り返す。半端に脱いだ寝衣をそのままにガンガディアを見上げた。
「そのように人前で服を脱ぐのは、我々トロルには求愛行動なのだよ」
マトリフは慌てて脱ぎかけの襟元を合わせた。マトリフは何の気なしに服を着替えようと思っただけだ。
「そ、そうなのかよ。知らなかった」
「そうだと思ったよ。まさかあなたが私に求愛するとは思わなかったからね」
ガンガディアは眼鏡を指で押し上げた。それがどこか寂しそうに見えてマトリフは急に罪悪感のようなものを感じる。知らなかったとはいえガンガディアも良い気分はしなかっただろう。
13261ガンガディアの言葉にマトリフは固まった。寝起きで覚醒しきっていない頭が急激に動き出す。
「きゅう、あい??」
マトリフは知らない言葉のように繰り返す。半端に脱いだ寝衣をそのままにガンガディアを見上げた。
「そのように人前で服を脱ぐのは、我々トロルには求愛行動なのだよ」
マトリフは慌てて脱ぎかけの襟元を合わせた。マトリフは何の気なしに服を着替えようと思っただけだ。
「そ、そうなのかよ。知らなかった」
「そうだと思ったよ。まさかあなたが私に求愛するとは思わなかったからね」
ガンガディアは眼鏡を指で押し上げた。それがどこか寂しそうに見えてマトリフは急に罪悪感のようなものを感じる。知らなかったとはいえガンガディアも良い気分はしなかっただろう。
なりひさ
DOODLE現パロガンマト甘えんぼう ガンガディアが帰ったとき、玄関にもリビングにも電気がついていた。テレビの音声らしいものも聞こえてくる。ガンガディアは今日も終電での帰宅だった。マトリフはまだ起きているのかとガンガディアはリビングの戸を開ける。
リビングダイニングに置かれたテレビは賑やかなバラエティを流していた。マトリフの姿が見えなかったので寝室を覗きに行くが、ベッドは空だった。
「マトリフ?」
ふと見ればテレビとソファの間に置かれたローテブルに酒瓶があった。もしやと思って見てみれば、マトリフはソファに丸まって眠ていた。
おおかた酒を飲みながらテレビを見ていて、そのまま寝落ちたのだろう。見れば酒瓶は空になっている。ガンガディアは瓶をキッチンへと持って行った。
817リビングダイニングに置かれたテレビは賑やかなバラエティを流していた。マトリフの姿が見えなかったので寝室を覗きに行くが、ベッドは空だった。
「マトリフ?」
ふと見ればテレビとソファの間に置かれたローテブルに酒瓶があった。もしやと思って見てみれば、マトリフはソファに丸まって眠ていた。
おおかた酒を飲みながらテレビを見ていて、そのまま寝落ちたのだろう。見れば酒瓶は空になっている。ガンガディアは瓶をキッチンへと持って行った。
なりひさ
DOODLEガンマトと花不滅の愛 マトリフは花になんて興味はなかった。それなのに洞窟には花が飾られている。
この洞窟に花を持って訪れるのはガンガディアだ。ガンガディアは訪れる度に花を持ってきては、せっせと花瓶に入れて飾っていた。おかげで殺風景だった洞窟は華やかになり、空気さえ澄んでいるように思える。
マトリフはその花を指先で触れた。ベッドのすぐそばに置かれたのは昨日持ってきたばかりのもので、微かに甘いような匂いもする。紫色の花だが、マトリフの故郷に咲いていた花とは形が違った。ガンガディアが持って来るのは決まってこの紫の花だった。
マトリフはこの花の名前すら知らない。花に興味なんてないからだ。薬効があるわけでもない植物を、その見た目の美しさだけで側に置きたいと思ったことはない。
1933この洞窟に花を持って訪れるのはガンガディアだ。ガンガディアは訪れる度に花を持ってきては、せっせと花瓶に入れて飾っていた。おかげで殺風景だった洞窟は華やかになり、空気さえ澄んでいるように思える。
マトリフはその花を指先で触れた。ベッドのすぐそばに置かれたのは昨日持ってきたばかりのもので、微かに甘いような匂いもする。紫色の花だが、マトリフの故郷に咲いていた花とは形が違った。ガンガディアが持って来るのは決まってこの紫の花だった。
マトリフはこの花の名前すら知らない。花に興味なんてないからだ。薬効があるわけでもない植物を、その見た目の美しさだけで側に置きたいと思ったことはない。
なりひさ
DOODLE現パロガンマト帰り道 夏の遅い夕暮れに向かって歩いていた。マトリフの手にもガンガディアの手にも紙袋が下げされ、中には何冊もの本が入っている。
たまに重なった休日だからと一緒に出かけ、見つけた古書店で二人して大量に買い込んだ。その古書店はかなり充実しており、お互いにじっくり吟味したら欲しい本がいっぱいになってしまった。ガンガディアは図鑑を多く買ったので紙袋はずしりと重く、マトリフもつい気分が高揚して買い込み、指に食い込む紙袋の重さに後悔の念が募った。
「持とうか?」
ガンガディアの申し出に、素直に頷いて紙袋を渡す。マトリフの手は赤くなっていた。
「すまない。もっと早くに気付くべきだった」
「お前だって重いだろ」
「鍛えているから大丈夫だ。なんならあなたを背負って歩ける」
1199たまに重なった休日だからと一緒に出かけ、見つけた古書店で二人して大量に買い込んだ。その古書店はかなり充実しており、お互いにじっくり吟味したら欲しい本がいっぱいになってしまった。ガンガディアは図鑑を多く買ったので紙袋はずしりと重く、マトリフもつい気分が高揚して買い込み、指に食い込む紙袋の重さに後悔の念が募った。
「持とうか?」
ガンガディアの申し出に、素直に頷いて紙袋を渡す。マトリフの手は赤くなっていた。
「すまない。もっと早くに気付くべきだった」
「お前だって重いだろ」
「鍛えているから大丈夫だ。なんならあなたを背負って歩ける」
なりひさ
DOODLEガンマトのポメガバースポメガバース その白くてふわふわの毛並みはまるで綿毛のようだった。太陽に照らされてきらきらと輝いて見える。
「見たことのない魔物だな」
ガンガディアはその白い毛並みの生き物を見つめて呟いた。場所はマトリフの洞窟のすぐそばだ。その白い毛並みの生き物はガンガディアを見て驚き、逃げ出そうとした。
「待ちたまえ」
ガンガディアは片手でその生き物を捕まえる。四つ足だが足は短く、いくらばたつかせても逃げられはしない。ガンガディアははじめて見た生き物に目を輝かせた。
だがガンガディアが捕まえたその生き物は魔物ではなく犬だった。それもポメラニアンという犬種である。ガンガディアは犬を見るのは初めてだった。
「君を詳しく調べてみたい。もしかしたら何かの亜種だろうか」
7851「見たことのない魔物だな」
ガンガディアはその白い毛並みの生き物を見つめて呟いた。場所はマトリフの洞窟のすぐそばだ。その白い毛並みの生き物はガンガディアを見て驚き、逃げ出そうとした。
「待ちたまえ」
ガンガディアは片手でその生き物を捕まえる。四つ足だが足は短く、いくらばたつかせても逃げられはしない。ガンガディアははじめて見た生き物に目を輝かせた。
だがガンガディアが捕まえたその生き物は魔物ではなく犬だった。それもポメラニアンという犬種である。ガンガディアは犬を見るのは初めてだった。
「君を詳しく調べてみたい。もしかしたら何かの亜種だろうか」
なりひさ
DOODLEガンマトとハグハグの日「あなたを……抱きしめる?」
ガンガディアは虚をつかれたような顔をしてマトリフを見返した。マトリフは腕を組んで踏ん反り返っている。
「おう、ギュッとやれ」
「何故?」
「オレの頼みが聞けねえのか」
マトリフはガンガディアの質問には答えずに不遜な態度で言った。ガンガディアは眼鏡を指で押し上げてマトリフを見下ろす。マトリフは早くしろと言わんばかりな様子だ。
ガンガディアはハグという人間の習慣がよく理解できない。人間は身体を接触させることに意味を持たせるという。それは愛情だったり親愛だったりするが、魔族にはそんな習慣はなかった。
しかし本で読んだ知識によると、そのハグにはストレス軽減の作用もあるという。もしかしたらマトリフはストレスが溜まっており、それの対処としてハグを求めたのかもしれない。そうでなければこんな醜いトロルと抱き合いたいと思うはずがないからだ。
1772ガンガディアは虚をつかれたような顔をしてマトリフを見返した。マトリフは腕を組んで踏ん反り返っている。
「おう、ギュッとやれ」
「何故?」
「オレの頼みが聞けねえのか」
マトリフはガンガディアの質問には答えずに不遜な態度で言った。ガンガディアは眼鏡を指で押し上げてマトリフを見下ろす。マトリフは早くしろと言わんばかりな様子だ。
ガンガディアはハグという人間の習慣がよく理解できない。人間は身体を接触させることに意味を持たせるという。それは愛情だったり親愛だったりするが、魔族にはそんな習慣はなかった。
しかし本で読んだ知識によると、そのハグにはストレス軽減の作用もあるという。もしかしたらマトリフはストレスが溜まっており、それの対処としてハグを求めたのかもしれない。そうでなければこんな醜いトロルと抱き合いたいと思うはずがないからだ。
なりひさ
DOODLE黒マト&ガンガvsロカ マトリフは闘技場の上空に浮かんでいた。身に纏った黒衣が風に揺れている。隣に同じように浮かぶガンガディアは監視するようにマトリフを横目で見た。
闘技場には魔物たちに追い立てられてきた勇者たちがいた。アバン、レイラ、そしてロカ。彼らはまだ戸惑いを残した表情でマトリフを見上げている。もっと怒ってもいいだろうとマトリフは思った。こっちは魔王軍に寝返った裏切り者なのだから。
「アバン、先に行け」
ロカの言葉にアバンは小さく頷く。ここに来るまでに取り決めでもしたのか、アバンとレイラは揃って走り出した。こちらとしてもアバンまで足止めするつもりはない。
「大魔道士」
ガンガディアの声は釘を刺すようだった。それを煩く思いながらマトリフは手に魔法力を高める。
6258闘技場には魔物たちに追い立てられてきた勇者たちがいた。アバン、レイラ、そしてロカ。彼らはまだ戸惑いを残した表情でマトリフを見上げている。もっと怒ってもいいだろうとマトリフは思った。こっちは魔王軍に寝返った裏切り者なのだから。
「アバン、先に行け」
ロカの言葉にアバンは小さく頷く。ここに来るまでに取り決めでもしたのか、アバンとレイラは揃って走り出した。こちらとしてもアバンまで足止めするつもりはない。
「大魔道士」
ガンガディアの声は釘を刺すようだった。それを煩く思いながらマトリフは手に魔法力を高める。
なりひさ
DOODLEポップはマトの洞窟で「誰か」を感じるそこにいる ポップはカゴに入れたパンや果物が濡れていないかと確かめた。マントに包んできたが、少し湿ってしまったかもしれない。
パプニカに珍しく長雨が続いているとレオナがぼやいていた。もちろんそれは彼女の個人的な不快感ではなく、自国の民を案じての言葉であったから、ポップも真面目な返答を心がけた。だがそうしていても、頭の片隅では自分の師のことを考えていた。不摂生を絵に描いたような人であるから、弟子としては心配が尽きない。
そうしてポップは昼の休憩になるとカゴに食料を詰め込んで、ルーラで海沿いの洞窟を訪れた。
ポップは濡れた髪を払いながらいつものように師匠と呼ぼうとして、ふと言いようのない違和感を覚えた。肌に触れる風のようでありながら、もっと頼りない気配のようなものが、体に触れたような気がしたからだ。
1685パプニカに珍しく長雨が続いているとレオナがぼやいていた。もちろんそれは彼女の個人的な不快感ではなく、自国の民を案じての言葉であったから、ポップも真面目な返答を心がけた。だがそうしていても、頭の片隅では自分の師のことを考えていた。不摂生を絵に描いたような人であるから、弟子としては心配が尽きない。
そうしてポップは昼の休憩になるとカゴに食料を詰め込んで、ルーラで海沿いの洞窟を訪れた。
ポップは濡れた髪を払いながらいつものように師匠と呼ぼうとして、ふと言いようのない違和感を覚えた。肌に触れる風のようでありながら、もっと頼りない気配のようなものが、体に触れたような気がしたからだ。
なりひさ
DOODLE現パロガンマト。前世の記憶ありマト七夕 晴れた夏の夜空を、立ち昇った紫煙が横切っていく。マトリフは指に挟んだ煙草が短くなっていくのを見て、もう一本火をつけるかどうか考えていた。
広くて見晴らしのいいベランダで、マトリフは裸足にサンダルを突っ掛けて煙草を吸っていた。
夜空では年に一度の逢瀬をする恋人がいるという。そんな不遇な恋人たちは残りの三百六十四日を、どんな気持ちで過ごすのだろうか。
「マトリフ」
ベランダのガラス戸が空いてガンガディアが姿を見せた。室内の明るい光がガンガディアを照らしている。マトリフは煙草を口元に運んで吸い込んだ。
「風呂へ入らないか?」
「これが終わったらな」
マトリフが煙草を吸い込めば、火が強く灯る。ぎりぎりまで吸おうとしていると、ガンガディアはじっとマトリフを待っていた。
815広くて見晴らしのいいベランダで、マトリフは裸足にサンダルを突っ掛けて煙草を吸っていた。
夜空では年に一度の逢瀬をする恋人がいるという。そんな不遇な恋人たちは残りの三百六十四日を、どんな気持ちで過ごすのだろうか。
「マトリフ」
ベランダのガラス戸が空いてガンガディアが姿を見せた。室内の明るい光がガンガディアを照らしている。マトリフは煙草を口元に運んで吸い込んだ。
「風呂へ入らないか?」
「これが終わったらな」
マトリフが煙草を吸い込めば、火が強く灯る。ぎりぎりまで吸おうとしていると、ガンガディアはじっとマトリフを待っていた。
なりひさ
DOODLE現パロガンマトの花火が怖いマト夏空の大輪 一緒に行こうと誘われた夏祭りに、マトリフは僅かに浮き足立っていた。夜空を灯す色とりどりの提灯に、方々から漂ってくる屋台の匂いに、どうしたって心が弾む。ただそれを、最近恋人になったばかりのガンガディアに悟られるのは格好がつかないように思えて、マトリフはズボンのポケットに手を入れたままゆっくりと歩いた。
少し前を歩くガンガディアは、マトリフの歩調に合わせて歩き、何度も振り返ってはマトリフの存在を確かめているようだった。迷子になる歳でもないのに、生真面目で心配性の恋人はマトリフから目を離してはいけないとでも思っているらしい。
「手、繋ぐか?」
見かねてマトリフが言えば、ガンガディアは控えめな笑みを見せてからマトリフの手をそっと握った。ガンガディアの大きな手に包まれると安心する。ガンガディアに手を引かれて人混みを歩いた。
1025少し前を歩くガンガディアは、マトリフの歩調に合わせて歩き、何度も振り返ってはマトリフの存在を確かめているようだった。迷子になる歳でもないのに、生真面目で心配性の恋人はマトリフから目を離してはいけないとでも思っているらしい。
「手、繋ぐか?」
見かねてマトリフが言えば、ガンガディアは控えめな笑みを見せてからマトリフの手をそっと握った。ガンガディアの大きな手に包まれると安心する。ガンガディアに手を引かれて人混みを歩いた。
なりひさ
DOODLEガンマトと指輪2君から貰ったひとつの指輪「本当に貰っていいのだろうか」
ガンガディアは感激のあまり打ち震えながら手にした指輪を見た。
「ああ、貰っとけ貰っとけ」
マトリフはやや投げやりに言いながらベッドに寝そべっている。昼前になってようやく起きたマトリフに、ガンガディアは指輪のことについて訊ねた。するとマトリフは寝癖のついた頭を掻きながら「お前にやる」とだけ言った。
「私に? 何故?」
「理由なんていいんだよ。それはただの指輪だ。呪いもなければ効果もない」
マトリフは随分と寝たのに、まだ眠たそうに欠伸をしている。ガンガディアは礼を言って指輪を受け取った。思えばそれはマトリフから貰った初めての物だった。
マトリフはまだ起きる気がないらしく、頬杖をついてガンガディアを見ている。そしてガンガディアの持つ指輪を指差した。
2976ガンガディアは感激のあまり打ち震えながら手にした指輪を見た。
「ああ、貰っとけ貰っとけ」
マトリフはやや投げやりに言いながらベッドに寝そべっている。昼前になってようやく起きたマトリフに、ガンガディアは指輪のことについて訊ねた。するとマトリフは寝癖のついた頭を掻きながら「お前にやる」とだけ言った。
「私に? 何故?」
「理由なんていいんだよ。それはただの指輪だ。呪いもなければ効果もない」
マトリフは随分と寝たのに、まだ眠たそうに欠伸をしている。ガンガディアは礼を言って指輪を受け取った。思えばそれはマトリフから貰った初めての物だった。
マトリフはまだ起きる気がないらしく、頬杖をついてガンガディアを見ている。そしてガンガディアの持つ指輪を指差した。
なりひさ
DOODLEガンマトと指輪君に渡すひとつの指輪「師匠〜!」
元気のいい声が外から響いて、ガンガディアは読んでいた魔導書を閉じた。
「いらっしゃいポップ君」
「おじゃましまーすって、あれ、師匠は?」
ポップは洞窟内を見渡してマトリフがいないことに気づいた。ガンガディアは立ち上がるとポップに椅子をすすめる。
「大魔道士は出かけている。だがすぐに帰ってくるだろう。かけたまえ。お茶を淹れる」
「そっかー。あ、これお土産」
ポップは椅子に腰掛けると手土産を机に並べた。それらは焼き菓子で、アバン特製のものだろう。それに合う茶葉があったはずだとガンガディアは棚の中を探した。
「師匠どこ行ってんの?」
「ベンガーナだ。探し物だと言っていたが」
「じゃあ帰ってくんの遅いんじゃねえの?」
8335元気のいい声が外から響いて、ガンガディアは読んでいた魔導書を閉じた。
「いらっしゃいポップ君」
「おじゃましまーすって、あれ、師匠は?」
ポップは洞窟内を見渡してマトリフがいないことに気づいた。ガンガディアは立ち上がるとポップに椅子をすすめる。
「大魔道士は出かけている。だがすぐに帰ってくるだろう。かけたまえ。お茶を淹れる」
「そっかー。あ、これお土産」
ポップは椅子に腰掛けると手土産を机に並べた。それらは焼き菓子で、アバン特製のものだろう。それに合う茶葉があったはずだとガンガディアは棚の中を探した。
「師匠どこ行ってんの?」
「ベンガーナだ。探し物だと言っていたが」
「じゃあ帰ってくんの遅いんじゃねえの?」
なりひさ
DOODLE英霊ガンマト魔導図書館の英霊「大魔道士」
ガンガディアは思わずマトリフに呼びかける。マトリフは多くの兵士に囲まれて、地図を広げながら指示を出していた。
ヨミカイン魔導図書館の泉のすぐそば。パプニカ王家の兵士たちは物々しい警戒をしていた。その中心にマトリフがいる。
ガンガディアは戸惑いながらもマトリフに近付く。沢山いるパプニカの兵士たちは誰一人としてガンガディアに気付かなかった。
ガンガディアは死んで霊となった。あの地底魔城の闘技場で炎に包まれ、そこで意識が途切れたが、次に気がついたときにはヨミカインにいた。
ヨミカインは湖に沈んでいた。水に揺蕩う魔導書を目にしてガンガディアは改めて罪の意識に苛まれた。どうにかできないかと泉の奥深くに沈んだ魔導書を拾おうとしても、ガンガディアの体では物に触れることはできなかった。透き通った手は魔導書を貫通してしまう。魔導書だけでなく、ガンガディアは実在する物に触れられなかった。
1098ガンガディアは思わずマトリフに呼びかける。マトリフは多くの兵士に囲まれて、地図を広げながら指示を出していた。
ヨミカイン魔導図書館の泉のすぐそば。パプニカ王家の兵士たちは物々しい警戒をしていた。その中心にマトリフがいる。
ガンガディアは戸惑いながらもマトリフに近付く。沢山いるパプニカの兵士たちは誰一人としてガンガディアに気付かなかった。
ガンガディアは死んで霊となった。あの地底魔城の闘技場で炎に包まれ、そこで意識が途切れたが、次に気がついたときにはヨミカインにいた。
ヨミカインは湖に沈んでいた。水に揺蕩う魔導書を目にしてガンガディアは改めて罪の意識に苛まれた。どうにかできないかと泉の奥深くに沈んだ魔導書を拾おうとしても、ガンガディアの体では物に触れることはできなかった。透き通った手は魔導書を貫通してしまう。魔導書だけでなく、ガンガディアは実在する物に触れられなかった。
なりひさ
DOODLEマトを鎖で繋ぎたい鎖「勇者の弱点、あるいは拠点の一つでも構わない。何か教えてはくれないかな」
ガンガディアは丁寧な口調ではあったが、それは圧倒的に優位な立場から下される命令に他ならなかった。
マトリフは口を開かないまま、力が抜けていく体が倒れないように耐えていた。しかし体が揺れるせいで手首に繋がれた鎖が音を立てる。その鎖はマトリフの魔法力を吸い取っているので、輝きを放っていた。
マトリフがいるのは地底魔城の闘技場だった。その一角に鎖で繋がれている。魔法力は常に吸い取られているので空が見えてもルーラさえできなかった。
ガンガディアはだんまりを続けるマトリフに溜息一つ吐かずに、部下に目配せをした。ガンガディアはマトリフを捕らえてから毎日のように尋問を繰り返していたが、マトリフは何も喋らなかった。
3703ガンガディアは丁寧な口調ではあったが、それは圧倒的に優位な立場から下される命令に他ならなかった。
マトリフは口を開かないまま、力が抜けていく体が倒れないように耐えていた。しかし体が揺れるせいで手首に繋がれた鎖が音を立てる。その鎖はマトリフの魔法力を吸い取っているので、輝きを放っていた。
マトリフがいるのは地底魔城の闘技場だった。その一角に鎖で繋がれている。魔法力は常に吸い取られているので空が見えてもルーラさえできなかった。
ガンガディアはだんまりを続けるマトリフに溜息一つ吐かずに、部下に目配せをした。ガンガディアはマトリフを捕らえてから毎日のように尋問を繰り返していたが、マトリフは何も喋らなかった。
なりひさ
DOODLEドラゴラムするマト火竜の鱗 マトリフは魔導書を広げた。既に契約は済んでいる。契約出来たということは、不可能ではないのだろう。
ガンガディアから託された火竜変化呪文の魔導書を、マトリフは結局は手放さなかった。目の前で燃え尽きたガンガディアの形見のように思えたからだ。
火竜変化呪文は魔法使いの体力では使いこなせない。それをマトリフは十分にわかっていた。だからこの魔導書を使えなくても、形見として持っていればいい。マトリフは最初こそそう考えていた。だが時間が経つにつれ、マトリフはガンガディアの影を追うようになっていった。
マトリフは常に火竜変化呪文の魔導書を持ち歩くようになった。そして何度もそれを読み返してはガンガディアのことを思った。
1118ガンガディアから託された火竜変化呪文の魔導書を、マトリフは結局は手放さなかった。目の前で燃え尽きたガンガディアの形見のように思えたからだ。
火竜変化呪文は魔法使いの体力では使いこなせない。それをマトリフは十分にわかっていた。だからこの魔導書を使えなくても、形見として持っていればいい。マトリフは最初こそそう考えていた。だが時間が経つにつれ、マトリフはガンガディアの影を追うようになっていった。
マトリフは常に火竜変化呪文の魔導書を持ち歩くようになった。そして何度もそれを読み返してはガンガディアのことを思った。
なりひさ
DOODLEガンマトと復活の灰夏至の夜 マトリフは昼が一番長い日の夜を待っていた。海に沈む夕陽は美しいが、マトリフからすれば今日ばかりは早く沈んでくれと祈る気持ちだった。
やがて複雑な色を残して太陽が沈む。反対側からは夜が始まっていた。
マトリフは月を見上げる。低い位置にいる月は寂しげに光を放っていた。
「ガンガディア」
マトリフの声に応えるように風が吹く。マトリフはその風に託すように瓶の中の灰を手に取った。それは火竜の炎に焼かれて燃え尽きたガンガディアの灰だ。戦いの後でマトリフが掻き集めたものだ。
灰は風に舞い、月光を受けて姿を変える。淡く光ったかと思うと、虚像を作り上げた。それはデストロールの姿だった。
「よお、久しぶり」
マトリフの言葉にガンガディアは無言で頷く。灰からガンガディアを甦らせることが出来るのは夏至の夜だけだった。朝になればガンガディアは消えて、元の灰に戻る。
1087やがて複雑な色を残して太陽が沈む。反対側からは夜が始まっていた。
マトリフは月を見上げる。低い位置にいる月は寂しげに光を放っていた。
「ガンガディア」
マトリフの声に応えるように風が吹く。マトリフはその風に託すように瓶の中の灰を手に取った。それは火竜の炎に焼かれて燃え尽きたガンガディアの灰だ。戦いの後でマトリフが掻き集めたものだ。
灰は風に舞い、月光を受けて姿を変える。淡く光ったかと思うと、虚像を作り上げた。それはデストロールの姿だった。
「よお、久しぶり」
マトリフの言葉にガンガディアは無言で頷く。灰からガンガディアを甦らせることが出来るのは夏至の夜だけだった。朝になればガンガディアは消えて、元の灰に戻る。
なりひさ
DOODLEガンマトと魔導書最後の魔導書 マトリフはベッドに横になったまま咳を繰り返す。引き攣った喉は細く息を吸ったが、それは込み上げる喀血に邪魔されて長くは続かなかった。
気休めの回復呪文も薬草もとうに諦めた。マトリフは手のひらに広がった血を服で拭う。あの戦いから十数年。だが命はまだ終わろうとしない。
マトリフは咳を堪えながら起き上がると枕元の棚に手を伸ばした。そこには一冊の魔叢書が置かれてある。マトリフはそれを迷わずに手に取った。
マトリフはその魔導書を開かずに胸に抱える。中に書かれたことは暗唱できるほどに覚えていた。マトリフは魔導書を胸に抱くと安心したように身体の力を抜く。その身体は前のめりに倒れていった。
「……ガンガディア」
呟いた言葉は響くことなく消えていく。何故よりにもよってこの本を託されたのかとマトリフは思った。
670気休めの回復呪文も薬草もとうに諦めた。マトリフは手のひらに広がった血を服で拭う。あの戦いから十数年。だが命はまだ終わろうとしない。
マトリフは咳を堪えながら起き上がると枕元の棚に手を伸ばした。そこには一冊の魔叢書が置かれてある。マトリフはそれを迷わずに手に取った。
マトリフはその魔導書を開かずに胸に抱える。中に書かれたことは暗唱できるほどに覚えていた。マトリフは魔導書を胸に抱くと安心したように身体の力を抜く。その身体は前のめりに倒れていった。
「……ガンガディア」
呟いた言葉は響くことなく消えていく。何故よりにもよってこの本を託されたのかとマトリフは思った。
なりひさ
DOODLE俳優パロのガンマトエンドロールのあとで マトリフが立ち尽くしている。闘技場には彼しかいなかった。抜けるような青空が広がっているが、マトリフの表情は痛みに耐えるようだった。彼の体は傷つき血を流している。しかし彼の感じる痛みは体のものではなかった。
マトリフは何かを探すように空を見上げてから、胸に手を当てた。やがて力をなくしたように膝をつく。戦いに勝ったはずのマトリフだが、そこに喜びはなかった。
「カット!!」
その声が響いても彼は暫く立ち上がらなかった。どこからか拍手が湧き起こる。私も自然と手を打ち鳴らしていた。迫真の演技に心が引き込まれて、監督の声が無ければこれが演技だということを忘れそうだった。
「お疲れ様です!」
その声と同時にスタッフが彼に花束を持っていく。このシーンがマトリフを演じた彼のクランクアップだった。監督の手を借りて立ち上がった彼は花束を受け取ってにこやかに笑みを浮かべている。多くのスタッフが労いの言葉をかけに彼の元へと行った。
2726マトリフは何かを探すように空を見上げてから、胸に手を当てた。やがて力をなくしたように膝をつく。戦いに勝ったはずのマトリフだが、そこに喜びはなかった。
「カット!!」
その声が響いても彼は暫く立ち上がらなかった。どこからか拍手が湧き起こる。私も自然と手を打ち鳴らしていた。迫真の演技に心が引き込まれて、監督の声が無ければこれが演技だということを忘れそうだった。
「お疲れ様です!」
その声と同時にスタッフが彼に花束を持っていく。このシーンがマトリフを演じた彼のクランクアップだった。監督の手を借りて立ち上がった彼は花束を受け取ってにこやかに笑みを浮かべている。多くのスタッフが労いの言葉をかけに彼の元へと行った。
なりひさ
DOODLEガンマトとドーナツやわらかい「お、うまそう」
そのドーナツを見た途端にマトリフは滅多に見せない純粋な笑みを浮かべた。
ガンガディアは最近発売したというそのドーナツを買ってマトリフの家へと来ていた。ガンガディアがドーナツ屋の袋を持っているのを見たマトリフは、嬉々としてコーヒーを淹れてテーブルへとついた。
「どうぞ」
ガンガディアはドーナツをマトリフの前に置く。マトリフが嬉しいならガンガディアも嬉しい。意外とミーハーというか、新し物好きのマトリフは、新発売と名のつくものを好んでいた。
マトリフはさっそくドーナツを手にする。そのドーナツは随分と柔らかいらしく、マトリフはそっと持ち上げていた。
ガンガディアはマトリフが淹れてくれたコーヒーを飲む。苦味と酸味のバランスが丁度良かった。
1082そのドーナツを見た途端にマトリフは滅多に見せない純粋な笑みを浮かべた。
ガンガディアは最近発売したというそのドーナツを買ってマトリフの家へと来ていた。ガンガディアがドーナツ屋の袋を持っているのを見たマトリフは、嬉々としてコーヒーを淹れてテーブルへとついた。
「どうぞ」
ガンガディアはドーナツをマトリフの前に置く。マトリフが嬉しいならガンガディアも嬉しい。意外とミーハーというか、新し物好きのマトリフは、新発売と名のつくものを好んでいた。
マトリフはさっそくドーナツを手にする。そのドーナツは随分と柔らかいらしく、マトリフはそっと持ち上げていた。
ガンガディアはマトリフが淹れてくれたコーヒーを飲む。苦味と酸味のバランスが丁度良かった。
なりひさ
DOODLEガンマトとプロポーズプロポーズ マトリフは口付けられた手を呆気に取られて見ていた。ガンガディアは恭しく膝をつき、マトリフの手の甲に口付けている。
「おまッ……なにやってんだ」
マトリフは焦ってる手を引くが、ガンガディアの力には敵わないので失敗に終わる。ガンガディアはマトリフの手から唇を離すと顔を上げた。
「あなたに愛を誓っている」
「だからなんで……おまっ、それ、プププ」
「プププ?」
「まさかプロポーズじゃねえだろうな?」
マトリフの声は裏返っていた。ガンガディアは魔王軍の幹部であり、マトリフにとっては敵だ。地底魔城の闘技場で戦っていた二人だが、先ほど勝敗が決まった。勝ったのはマトリフだ。するとガンガディアは負けを認めた上で、マトリフの前に跪き、手を取って口付けた。
7136「おまッ……なにやってんだ」
マトリフは焦ってる手を引くが、ガンガディアの力には敵わないので失敗に終わる。ガンガディアはマトリフの手から唇を離すと顔を上げた。
「あなたに愛を誓っている」
「だからなんで……おまっ、それ、プププ」
「プププ?」
「まさかプロポーズじゃねえだろうな?」
マトリフの声は裏返っていた。ガンガディアは魔王軍の幹部であり、マトリフにとっては敵だ。地底魔城の闘技場で戦っていた二人だが、先ほど勝敗が決まった。勝ったのはマトリフだ。するとガンガディアは負けを認めた上で、マトリフの前に跪き、手を取って口付けた。
なりひさ
DOODLEガンマトと惚気お前だよ ガンガディアは釣った魚を見て満足げに笑みを浮かべた。丁寧に針を魚の口から外す。それはガンガディアが初めて釣った魚だった。
ガンガディアがマトリフから魚釣りを教わったのは数日前のことだ。ガンガディアは釣りを効率の悪い行為だと思っていた。釣り糸を垂れて魚を待つより、素手で捕まえたほうが早いし確実だからだ。しかしマトリフはこれも修行の一環だと言った。
ガンガディアは己の短絡的な考えを改めた。そして自分で身を持って体験しようと思い、釣りをはじめた。しかし全く釣れないまま数日が経過した。気持ちが挫けそうになっていたが、さっきようやく最初の一匹が釣れた。
ガンガディアはその魚を早くマトリフに見せたくて、急いで釣具を持って洞窟へと戻った。きっとマトリフは喜んでくれるだろう。
1604ガンガディアがマトリフから魚釣りを教わったのは数日前のことだ。ガンガディアは釣りを効率の悪い行為だと思っていた。釣り糸を垂れて魚を待つより、素手で捕まえたほうが早いし確実だからだ。しかしマトリフはこれも修行の一環だと言った。
ガンガディアは己の短絡的な考えを改めた。そして自分で身を持って体験しようと思い、釣りをはじめた。しかし全く釣れないまま数日が経過した。気持ちが挫けそうになっていたが、さっきようやく最初の一匹が釣れた。
ガンガディアはその魚を早くマトリフに見せたくて、急いで釣具を持って洞窟へと戻った。きっとマトリフは喜んでくれるだろう。
なりひさ
DOODLEガンマトと誕生日君の存在に祝福を「あなたの誕生日を教えてほしい」
ガンガディアにキラキラした顔で言われる。それが答えのない質問だったのでマトリフはすぐに視線を読んでいた本へと戻した。
「わからねえ」
「わからない?」
「知らねえんだよ。誕生日だとかを大事にするような場所で育ってねえからな」
もし仮にあの里で誕生日を祝う習慣があったとしても、マトリフには祝いのケーキひとつなかっただろう。マトリフはどこで誰から生まれたかすらわからないのだ。
「そうなのかね。人間の面白い風習なのでやってみたかったのだが」
「残念だったな」
本当に残念そうな顔をするガンガディアに、マトリフは読んでいた本から顔を上げた。
「そういやお前の誕生日はいつなんだよ」
「私が生まれた日かね。我々には生まれた日を祝う習慣などないから、いちいち日付を記憶したりしない」
891ガンガディアにキラキラした顔で言われる。それが答えのない質問だったのでマトリフはすぐに視線を読んでいた本へと戻した。
「わからねえ」
「わからない?」
「知らねえんだよ。誕生日だとかを大事にするような場所で育ってねえからな」
もし仮にあの里で誕生日を祝う習慣があったとしても、マトリフには祝いのケーキひとつなかっただろう。マトリフはどこで誰から生まれたかすらわからないのだ。
「そうなのかね。人間の面白い風習なのでやってみたかったのだが」
「残念だったな」
本当に残念そうな顔をするガンガディアに、マトリフは読んでいた本から顔を上げた。
「そういやお前の誕生日はいつなんだよ」
「私が生まれた日かね。我々には生まれた日を祝う習慣などないから、いちいち日付を記憶したりしない」
なりひさ
DOODLEガンマトと嫉妬オレだけの青い龍「じゃあなぁ師匠!」
元気なポップの声にガンガディアは洞窟を出た。マトリフは既に見送りのために洞窟の外まで出ている。
見上げればルーラで飛び上がった少年の姿が太陽に重なって眩しい。ガンガディアは手をかざして目を細めた。
ガンガディアはそっと横に立つマトリフを見やる。あの戦いが終わってからは顰めっ面が定着してしまった顔が、ポップを見るときは和らいでいた。そのことにガンガディアは自分の感情が揺らぐのを感じる。
ポップがマトリフにとって可愛い存在であることはわかっている。ポップのその性格も、またその見た目も愛くるしい。それ以外にも彼が愛される理由はたくさんあるだろう。
それに引き換え、とガンガディアは自分の手を見る。可愛らしさ、愛らしさとはかけ離れた肉体だ。そして性格も愛嬌があるとは到底いえない。じわりと劣等感が高まる。
1693元気なポップの声にガンガディアは洞窟を出た。マトリフは既に見送りのために洞窟の外まで出ている。
見上げればルーラで飛び上がった少年の姿が太陽に重なって眩しい。ガンガディアは手をかざして目を細めた。
ガンガディアはそっと横に立つマトリフを見やる。あの戦いが終わってからは顰めっ面が定着してしまった顔が、ポップを見るときは和らいでいた。そのことにガンガディアは自分の感情が揺らぐのを感じる。
ポップがマトリフにとって可愛い存在であることはわかっている。ポップのその性格も、またその見た目も愛くるしい。それ以外にも彼が愛される理由はたくさんあるだろう。
それに引き換え、とガンガディアは自分の手を見る。可愛らしさ、愛らしさとはかけ離れた肉体だ。そして性格も愛嬌があるとは到底いえない。じわりと劣等感が高まる。