みんなの前の顔、あなたの前の顔 四月後半のある日。
牙隊の新人と若手を連れ、私、アミィ・アザミは魔関署の隅の道場へ向かった。
道場では爪隊が訓練中で、中央には汗ひとつかいていないキマリスが微笑んでいる。
「あ、アミィくん。そろそろ時間?」
「いや、まだいい。ちょうどいいから見学させてもらう」
「わかった。あとちょっとで終わるよ」
キマリスの周囲には、爪隊の隊員が倒れて散らばっていた。
その内の一人の女悪魔――私の幼馴染が新人の面倒を見ている。
「キマリス様相手によく粘ったねー」
「でも全然敵いませんでした……」
「そりゃそうだ。爪隊大佐は伊達じゃないよ」
彼女はニコニコと新人の怪我を治している。
言いたいことは山ほどあるが、すべてを飲み込み、目を逸らす。
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