masasi9991 @masasi9991 妖怪ウォッチとFLOとRMXとSideMなど平和なのと燃えとエロと♡喘ぎとたまにグロとなんかよくわからないもの ☆quiet follow Yell with Emoji Tap the Emoji to send POIPOI 413
ALL 道タケ漣 妖怪ウォッチ 久々綾 デググラ かぶもも レクセル RMX クラテパ ヴァルフェン レオクリ ゼロクス ZXA 創作 ジクイア masasi9991DONE江戸時代の土蜘蛛さんと大ガマさんいざゆめまぼろし そこはまるで昼間よりも煌々として眩しい。夜通し喧騒は続く。朝になれば死ぬ。まったく近頃人の世は怪しからん。コンナ夜には人でなしも隠れやすかろう。 全くどちらで紛れたのだか。ヤンヤヤンヤと茶屋の呼び込み、如来眩しき張見世の甲高き笑い声、テンテツトンの清掻、三味線。昼より眩しく、騒がしく、捜し物にも苦労する。 だから迷わぬように、吾輩の近くを離れるなと散々言い含めておいたのだが。それこそ田舎者らしく昼見世にでも満足しておけば好かろうに。いやそも、客の振りなどせずともいい、吾々は人の目には見えぬ。だがそれこそ巧く人に化けらるるかと唆したのは吾輩であるが。とはいえ人に見えぬとしても巨大な化け蛙なんぞを江戸中に連れ回す訳にもいかぬから……。 1356 masasi9991DONE人間と戦っている大ガマさん(https://poipiku.com/955041/8891578.html)の続き人間を救う土蜘蛛さん穴が開いている 階段を転がり降りている。足はもつれて言うことをきかない。今にも階段を踏み外して転がり落ちそうだ。転がり落ちたら死ぬだろう。階段に全身を打ち付けながら、下の階まで落っこちて、最後は床に頭をぶつけて、首の骨でも負って死ぬだろう。予感が背中を追っかけてくる。だけど一向に、落っこちる気配がない。 階段がいつまでも続いている。踏み外しそうな足元、次の段が現れる。もつれた足元、次の段を踏みしめて、また降りる。どこまでも降りている。 いったいいつになったら一階にたどりつく? 踊り場すらないこの階段は。 踊り場にさえたどりつけば、少しは明るくなるだろう。踊り場に大きな窓がある。窓の外は運動場で、その向こうには住宅街の街灯が見えて、いるはずだ。なのにいつまでも暗い。階段がいつまでも続いている。 1503 masasi9991DONE人間と戦っている大ガマさん部外者 この廊下は、どこに続いているんだ。 真っ暗だ。天井のLEDは強烈な光を放っている。だけどその白色は拡散されにくい性質の光であって、眩しいのはこの細長く四角い廊下だけらしい。 窓の外は真っ暗だ。固く扉の閉まった教室の中も真っ暗だ。東野と宮本が職員室に電気と鍵を確認しに行ったけど、あいつらはもう逃げ帰ったのかもしれない。それが賢明だ。こんな馬鹿馬鹿しい……馬鹿馬鹿しい肝試しなんか……夜の学校に忍び込むなんて……そんな馬鹿らしいことしたって……なんにも意味なんかないのに……あの二人は誘ってもいないのに……ただ邪魔なだけ……。 逃げて家に帰ったんだ。きっとそう。だからいなくなった。そんだけ……。 私は一階にはなにもしてないし。職員室の周りに人が来ることなんか考えていなかったし。勝手についてきた奴らのことなんか、知らない。 1797 masasi9991DONEなんか戦ってる土蜘蛛さんと大ガマさん引き分け 手をかければ、直ぐに折れそうだ。青白くなよやかな、首。嘗てから見慣れた通りに、脈拍と呼気のために微弱に上下する、首。生きたままの、首。故に致命的な急所と成り得る、首。 手をかけようか。伸し掛かったこの身体を跳ね除けもせず酷薄に笑う、首。 「やってみりゃいい」 柔らかく膨らんだ喉仏の揺れる、首。 ゲコゲコ、と蛙の声色で笑いながらも、人の形を保つ、首。 「どうせ今日もあんたにゃ無理さ。明日もな。これまで何百年も、こっから何千年も」 掌を、首へ。ヒヤリと冷たい、濡れたように冷たい、しかし脈拍と呼気の通る、首へ。 力を込めれば、直ぐに折れそうだ。 力を――屍の己の肉体に力を。 果たして吾輩の掌に力が込められたその時を同じくして、組み敷かれた此奴の全身にも力が込められる。 361 masasi9991DONE何かと戦っている土蜘蛛さんと大ガマさん道 蛙の脚なら、一飛びだ。快晴! 雲のない空! 跳ね上がり上昇する。皮膚の焦げるような陽光の熱、息詰まる酸素の淀みを飛び越え、風、風、風、空を横切る風を切り、薄まる熱、大気、まだ俗世の天井に並ぶ程度の、高さ。青黒く光る高層ビルの窓ガラス、最上階、ひと目を避けて打っ遣られた屋上の、砂埃の積もった片隅に社があるのを見つけた。 脚は緩んで、その隣へ降り立った。裸足の爪の先が灰色の砂埃に浸かる。コンナところに隠れていたのか。舞い上がる砂埃。ビル風の一つで社は今にも崩れ落ちそうだ。人の子供ほどの背の高さもない社の屋根が、カタンと傾いた。爪先に絡んだ砂埃が、泥のようにぬるくなる。 脚が汚れちまう。ビルの屋上を踵で蹴って、跳ねた。コンクリートの床は水面のように素直に波打ってくれた。水面だ、足先を水で洗って、跳ねる。何しろオレは蛙だから、身体のどこもかしこも濡れているのだ。 775 masasi9991DONE陸に上がったばっかりの大ガマさんと土蜘蛛さん蛙の食事「つかぬことを聞くが」 男は立派な裃の懐から一分金を無造作に取り出し、床に並べた。それを私が数えているのを待つ間、ふとそのようなことを言い出した。 「珍しい虫を探しておる。このあたりで見ないような虫だ」 「へえ、虫ですか」 この男は案外お喋りで、昼間そこらを歩いているときには町人の子からお武家様とまで平気で話し込んでいる。まるで誰もが旧知の師に遭ったかのようになる。かれが町外れのあばら家に住み着き始めたときには、きっと幽霊に違いないと噂していたことなど皆忘れてしまったのだろうか。 いや男の見目には充分に幽霊めいている。肌の白さはぞっとするような悪を思わせる。だけれども秀でた額に鋭く切れた目尻の涼しさ、薄い唇、また子分をいくらも抱えて毎夜宴を開いている様は、遊びに手慣れた歌舞伎の役者かとも思われた。の割には身のこなしに上品なところがあり、老人めいたところもあり、やはり正体がつかめない。また誰もかれの姿を芝居小屋で見たこともないと言う。 1375 masasi9991DONE人間の街を歩く土蜘蛛さんと大ガマさん夜歩き 随分、眩しい。夜行性の身には堪える。人の世に擬態して歩くには、そんなことも言ってられないが。 この灯りは繁栄の証だから、人にとっては好いことばかりだろう。眩しさに目を細めながら、その豊かな営みにあやかってコンビニの自動ドアをくぐる。これも初めて人の街に現れた頃は、意味もわからずガラス戸に追突する妖怪が多くて往生したな、と古いことを思い出したのは連れの姿が頭にチラついたからで。あれも打つかった妖怪のうちの一人だった。自動ドアというやつをすり抜けるにしろ動かすにしろ、人ではないものがそれをやるにはちょっとしたコツが要るのだ。 陳列棚から目当てのものを手にとって、無人のレジの前で立ち止まる。商品と腕につけた時計をかざすとものの数秒で会計は終わって、ピッという電子音があとに残った。もちろんちゃんと支払いは済ませてある。ムジナじゃないんだから本物の電子マネーだ。とてもじゃないが枯葉じゃ代わりにならない。ムジナの連中こそ昨今往生しているだろう。 916 masasi9991DONEいちゃいちゃしている土ガマ寝言 寝てるときまで顰めっ面だ。こんなに可愛い大ガマ様が隣で添い寝してやってるってのに、一体何が不満なんだか。眉間のシワを指でつつくと、むう。と唸った。いびきか? こいつ、身も心もすっかりお爺ちゃんだからな。にしたってもっと安らいだ寝顔を晒したり出来ねえのかよ。 夜中にふと目覚めて、閉じた窓の外から差し込む月の僅かな灯りで土蜘蛛の顔を覗き込む。つついても顰めっ面に変わりはない。腹が立ってきたからもっとつつく。 「ぐ。お、おおがま」 「お」 いびきに混じって何んだか愉快な寝言が聞こえた。 「はいはい。あんたのかわいい大ガマ様はここにいるぜ」 寝言と会話したって仕方がないが。返事をしながら眉間をまたつつく。寝言の返事の返事の寝言は、またいびきだ。 761 masasi9991DONEすごく未来の土ガマ導線 水面はおれの足を変わらず押し返した。つま先でぴょんと跳ねる。水面は、鏡面、自然の中にぴんと張られた大気と水の境界線。しなって、つま先を跳ね返す。小さな飛沫が後に残る。 水面は透明に揺れている。きれいな水だ。近頃の水は随分ときれいだ。どうやらここ何十年かの最近かな。いっときは、どこもかしこも油に濁って目も当てられない様子だったってのに。 人がいなくなったからだろう。虫や動物もいなくなった。植物も、なくなった。全部形が変わった。いま、この森の中に生い茂っているものは、ほとんど金属製の機械混じりで、随分と質が違う。 最後に目が覚めたときから、世界はかなり様変わりしている。だがまあ、こっちは妖怪だ。長く生きていれば、そういうことはよくある。水の代わりのなさに安心した。変わらないものもある。 605 masasi9991DONE土蜘蛛さんと大ガマさんの出会ったときの話たそかれ「威勢の割にはこの程度か」 全く気に入らない。高いところから見下ろしてるその口ぶりが、ひたすら気に入らない。 おれよりも強いのは、ま、わかった。今の所は認めよう。しかしそれは今だけだ。 「ゲコッ」 大きく一声上げた。悲鳴のような、潰れた鳴き声になった。しかしあっちは見たところ人間に近らしいや。蛙の声色なんて判別付かないのだろう。 おれは完璧に人に化けている。その喉から急に蛙の大きな鳴き声が出た。すると相手は怯んだ。 「その足を退かせ!」 おれの胸の上を踏みにじる足を、払いのける。蛙の声に怯んだそいつは、足元を払われわずかによろめき、後ろへぴょんと飛んだ。 おれも跳ね上がって、起き上がる。這々の体だ。奴は、……ぴょーんと、軽い身のこなし。 1050 masasi9991DONE土蜘蛛さんと大ガマさんが出会ったときの話川のぬし 通りすがりの農民から、不思議そうな目で遠巻きに眺められる。ここらで見ぬ顔だといことであろうから、致し方のないことだ。しかし数日こうしていれば、きっとすぐに見飽きた顔だと思われるようになるに違いない。しばらくの間この付近に館を構えるつもりであるから、こうして顔を売っておきたいのだ。売れるほどの顔はしておらぬが、ともかく。 そういうつもりでしばらくの間、特に真昼のまったく妖怪の類など出そうにもないのどかな時間に、川のほとりに座って釣り糸を垂らしていた。別段魚も好きではなし、となると釣りというのもそう楽しめる質でもないが、先に述べた目的のため、餌も針もろくに付けていないような糸を川面へ。真っ昼間の陽気と相まって、川面は実に清浄である。良い土地だ。 1093 masasi9991DONE平釜合戦のあとの土ガマ戦のあと あいつが喜びそうなものっつうのは、これ以上なくわかりやすい。甘いモンと気取ったような骨董品。質のいい貴金属やら着物にも喜ぶが、なんといっても間違いねえのがこの大ガマ様だ。 オレが持ってきゃ間違いねえんだ。こんな簡単な話もねえ。 「いやそういった話ではなくてですね……」 「いいやそういう話だぜ。あんな単純な野郎のためにお前らがあれこれ気を使う必要もねぇよ」 「そりゃお館様が勝手に一人で個人的にご交流されるというのならそうでしょうけど、あっちとこっちで軍を構えてる手前というもの」 「なァヒライ神、お前その固い頭でよくも今までオレに仕えてくれたよな」 「え」 帳簿やら何やらと睨み合ってウンウン唸っていたヒライ神が、スッと顔を上げて怪訝な顔でオレを見た。 596 masasi9991DONE土ガマいちゃいちゃしてるだけ季節外れの「遊んでくれよ、つれねぇなァ」 ふん、と鼻を鳴らして振り向かない。こいつの朴念仁は今に始まったことじゃあねえから、慣れている。朴念仁……そいつは違うか。おれと長く連れ添うぐらいの好き者だ。しかしとんでもねぇ気分屋だ。 「寒ぃな」 おっとしまった。言わないつもりでいたんだが、ついつい口をついて出ちまった。でも実際寒いんだから仕方がない。広くこざっぱりとした座敷には、小さな火鉢が文机の隣にぽつねんと置いてある。文机に向かって座る土蜘蛛さんと、おれの隣にだ。しかし暖を取るにはあまりに心もとない。おれのような蛙でなくとも、本来人であった身には堪えるんじゃないか。 こいつは弱音を吐かねえ強情なだけで、本当はやせ我慢なんだろうが。なにしろいつもの部屋着の着流しに、分厚い襦袢をかぶっている。その背中におれはどっしりと寄っかかっているわけだが、固く丸くなってぴくりとも動かない。 1159 masasi9991DONE朝の土ガマ日頃の朝の まったく腑抜けた顔をしておる。こやつの顔など見飽きたものだと思うてはおるのだが、見るたびに新しく驚いてしまう。自然と閉じられて開く気配のない目元もそうだ。呼気にあわせてぴくりぴくりと動く小鼻もそうだ。だらしなく開かれた口元もそうだ。覗き込めば唇の奥でどろんとした舌がてらてらと光っているのまでも見えるし、それも呼気や鼓動にあわせて蠢いていることもわかる。そうして口を大きく開いている分、頬は丸く緩んでいる。 吾輩が知る限り、これは本来野山に生きる本性を持つはずなのだが。こうも無防備で眠りこけても良いものか。他人事ながら心配になる。いや、他人どころか敵同士であるはずだ。それが敵地にあってこのようにだらしなく、ぐったりと朝寝をして、いつまでも起きない。 782 masasi9991DONEちょっと昔の土蜘蛛さんと大ガマさん侵入 天井から落っこちてきた。なんだこいつは、と訝しんで覗き込む。がしかし、こいつは罠か、と遅れて気付いた。白い玉のような砂利の床に落ちた小指の先ほどの黒い粒には、足が一、二、三……八本生えている。おれは慌てて後ろに飛び退いた。 そいつはぴょんと飛び跳ねた。蜘蛛は跳ねない。糸をを掴んで、糸を伝って、飛び上がったのだ。だからぶらんぶらんと弧を描いて揺れる。糸の半円よりは飛び出せない。だのにおれは大袈裟に飛び上がっちまった。 やっちまったなァ、と居心地の悪さに舌打ち。随分大袈裟に驚くもんだって、あいつは今頃笑っているだろう。嫌味な含み笑いだ。おれからあっちは見えちゃいないが、見えてなくとも目に浮かぶ。きっといつもの座敷で茶菓子でも齧りながら一人で笑っているに違いない。 623 masasi9991DONE土ガマの朝朝寝 なんだかんだの一晩が明け、眠ったような眠っていないようなわずか一瞬の微睡みから目を覚ます。だがこの時間を一瞬だと思っていたのはおれ一人だけだったようで、日はとっくに真上へと上がっている。縁側から伸びる影の短さでそれがわかる。背を向けて座っている。そんなに面白いものが、その視線の先にあるのだろうか。おにゃ、いつもの通りの庭先しか見えないが。 目覚めてそのまま、身じろぎもせずにその背中と影を観察する。それこそそう面白いものでもない。まったく見慣れただけの背中だ。おれが起きたというのに気付きもしない。気付いていても、振り返らない。そういう薄情な素振りをする野郎だ。おそらくそれが硬派だなんだと思っている、時代遅れの野郎なのだ。 803 masasi9991DONE周囲に迷惑をかける土ガマ面倒な男「よう」 と短い一言で挨拶を済ませた彼は、何気ないフリをして視線を部屋の奥へと向けた。 「大ガマちゃんがあたしに用があるなんて珍しいわね」 「でも無いことでもねぇだろ? いつものように先に使いを出しておいた筈だぜ」 「もちろん頼まれたものはできてるわよ。でもそれこそいつもみたいに使いでも走らせればいいじゃない」 「おれもちょっとここに用があったんだ」 「で、アテが外れた」 頷きはせず、やや拗ねたように口をとがらせた。いつものウルサイ鳴き声は身を潜めているよう。そういう態度は物珍しいわね。そして玄関に立ったまま、帰ろうとしない。 「女郎蜘蛛、さっきおれがここに来るのが珍しいと言ったが、それよりもっと珍しいことがあるだろうよ」 974 masasi9991DONE人間界でなんかしてる土ガマ氷 グラスの肌を水滴が滴り落ちた。中の氷が溶けて崩れ落ち、いかにも涼しげな音を立てる。その向こうに腕組みの人影。生白い肌、生白い額、澄ました目尻、きつく結んだ口元、冷たいアイスコーヒーのグラスの背景としては案外よく似合っている。いささか古風な出で立ちも、まあ、悪くはないものだ。 「飲めねぇのになんで頼んだんだよ」 「知らぬ。横文字ばかりでこれが一体何んなのかもわからぬ。お主が遅れて来たのが悪い」 「へえへえ。ま、そういうことにしてやろうか。勿体ねえからそいつはおれがもらうぜ。代わりにあんたの好きそうなものを注文してやる」 「遊びに来たのではないのだぞ」 「まぁねえ、でも今しばらくは、オレらの出番じゃなさそうだ」 582 masasi9991DONE大やもりと土ガマの普通のバカバカしい日大やもりのとくになにもない日「ああ暇だなァ。これといってやることもねえし、やりたいことはあるが今はその時じゃねえし……だからといってこの今を無駄に過ごすってのも、なあ」 「帰れ」 あ。しまった、返事をしてしまった。今日は絶対にこいつのことは無視しようと心に決めていたのに。延々と話しかけてくるからつい反応してしまう。でもこれはオレの精神力とか決断力とか意思とかそういうのが弱いせいじゃない。近くでなんか喋ってる奴がいるってだけで、無視するのもエネルギーを使うんだ。 こいつそこんとこわかってんのかな。わかってなさそう。何も考えてなさそう。 「なあ、有意義な時間の潰し方ってモンは、ここにはねぇのか?」 無視しよう。もう一度、決意を固める。 2158 masasi9991DONE土蜘蛛さんと大ガマさんの出会ったときの話悪い妖怪 鬱蒼と茂った深い山の奥だ。あまりにか細い獣道を見るにつけ、人も獣もまともに寄り付かぬと見て取れる。 その場所によくない噂があるのは知っていた。それを重々承知でやってきた。根も葉もあるのかどうかは知らないが、噂なんぞは怖くない。むしろこちらが恐れ追い立てられる側なのだ。そこに潜むのが妖怪変化の類ならばはらからだ。話の通じる相手であれば、と断り書きを入れようが。もしも話せぬような相手であれば……まあよい。まずは会って考えてみようではないか。仮にここがだめでも、幸いこの国は広い。まだ彷徨うあてがある。 ……などと考えて歩く折、何かに追われているのを察した。 命を付け狙うといった苛烈な様子ではない。獣道の草を踏む怪しい足音。草木を分け入って、吾輩とそう変わらぬ速さで歩いている。付かず離れず、こちらの様子を伺っているようだ。 2246 masasi9991DONE出会う前の土蜘蛛さんと大ガマさん観察 この大きな生き物は、やたらめったら動き回っていて落ち着きがない。朝日が登る前に突然出てきたかと思えば何もせずにまた巣に戻っていき、何だ何だと思っている間に巣の別な出口からどこかへ出ていった。気配でわかる。うろうろとほっつき回るのは鳥や魚と変わりゃしないが、妙なのは獲物を取っているわけでもないようだ、ということだ。 食うものも食わずにあっちこっちへ動いている。あの大きな生き物は変な奴だ。それは蜘蛛か人かに似た影の形をしているが、獲物も取らずに動き回っている蜘蛛なんか見たことがないし、人というのは確かに一見なんの意味もなく動き回っていることが多いけど、それでも獲物を取るし、食うものを食っている。だからそれは蜘蛛でも人でもないようだ。 1750 masasi9991DONE土蜘蛛さんと大ガマさんとホラーっぽいもの車両内にて ふと気付いたら電車の中だった。ここはどこ? ――学校に行く途中、電車の中。私は誰? ――私は――私だ。別に疑う余地もない。いつもの私だ。名前も経歴も特にこれといっておかしいと感じるところはない。私は私。ここは電車の中。私はまるで今生まれたばかりのようにふと目を開いて、ふとここは一体どこなのか、今はいったいいつなのか、私は誰だったのか、と何もかもが初めてであるかのようなことを考えたけれど、どれもこれも答えは簡単だった。 寝ぼけているみたいだ。きっとそう、お昼寝で熟睡しすぎてママに叩き起こされた夕方に似ている。どうして自分がここにいるのか、わからない。自分が何をしていたのかわからない。結果だけを目の当たりにしている感じ。耳に入れたイヤホンから好きな曲が流れている。この曲を初めて聞いたのはいつ――ずっと昔――今? いつスマホの再生ボタンを押したんだろう? ワイヤレスイヤホン、お小遣いで買うには高かった――どうして手に入れたんだっけ。おばあちゃんが――だったっけ。電車の揺れる音と音楽が混じっている。聞いた、ことがある、電車の音とこの曲の――そんなの考えたこと、あっただろうか。寄りかかった電車のドアのガラス窓に、私が映って、映って、映って、映って、これは誰? 1335 masasi9991DONE雨の日の土ガマ雨の誘い なんとなく、こんな日にはあいつに会いたくなる。おれはすこぶる機嫌がいい。しかしこんな日には、あいつは外に出たがらない。あいつはたいてい機嫌が悪い。だけどおれはこんな天気の中であいつに会いたい。呼んでも来ないから会いに行く。外に出ようぜと何度も誘う。あいつは全然乗ってこない。でも帰れとは言わない。互いに意地っ張りだ。我慢比べになる。 いや、でも……入ってくるな、とは言う。 「畳が濡れる」 「わかってるよ」 と障子越しにおれは答える。そもそも入れてくれとは言っちゃいないのだ。だのにぶつくさとそんなことを言う。これは裏っ返しだ。ほんとうは座敷に上がって欲しいのだ。まあ恐らく、畳が濡れないよう身体を拭って入れと思っているのは、本当だろうが。 1150 masasi9991DONEいつもの土ガマ待ち人…… また騒がしい男がやってきた。ため息一つ思わず出たが、これはもう面と向かってはっきり言わねばならぬだろう。あれが聞いているわけでもない今こうしてため息をこぼすのも、どうにもため息の無駄、というような気もする。あれのためにこぼすものはたといそれがため息なんてものであろうと、勿体ない。 「土蜘蛛どのに来客が……」 「構わん、早う通せ」 と、どこからか響く使いの者の声が終わらぬうちに返事をした。座敷の前に浮かんでいた使いの者の気配が飛ぶように去っていく。 あれはまた妙なことをする。日頃は表から入っては来ぬくせに、こんなときだけ間怠っこしく門を叩くとは。どうせ気配でわかるのだ、勿体ぶるだけ時と手間の無駄である。早う来い早う来いと思っていればなかなか来ない。なんと天の邪鬼であろう。 1528 masasi9991DONE土蜘蛛さんと大ガマさんの出会いの話飴細工 物珍しい蛙が庭の池に入り込んでいた。ちょうど梅雨の時期、蛙なんぞ珍しくもなかったが、それはどうにも目を引いた。天から落ちる雨だれと同じように、その身体は半分透けて、水の色をしていたのである。 手を差し伸べるとまるでこちらを餌だとでも思うたか、指の上に飛びついた。 傘では遮れぬ雨が指の上に降り注ぐ。ひやりと冷たい。その透けた身体の蛙もまたはっきりと冷たい。爪の先のような一粒が。 「まるで飴細工のようだ」 誰に語るでもなしに、思うたことが勝手に口をついて出た。梅雨のあまりの静けさに、どうせその蛙の他には誰にも聞こえはしなかったであろうと思われる。 蛙だって人の言葉などわかるまい。 そう思うたが、案外それは賢い蛙であったのか、まるで吾輩の言葉に驚いたかのようにぴょんと指の上から飛び降りて、雨の庭を遠くへ跳ねて逃げていった。 795 masasi9991DONE理科先と大ガマさん本物の蛙 外から窓を叩く勢いだけは次第に強くなっている。一応やってる方はわきまえてるつもりらしく、そよ風程度の揺れで留まってはいる。だけど鬱陶しい。 こっちは仕事中なんだ。相手にしてる暇なんかないってそこから見てればあのバカにだってわかりそうなものじゃないか。バカはバカだけどそこまでのバカじゃないってこっちとしては信じたいものだけど、こっちが仕事で相手できないことをわかっていながらアレをやってるとしたら余計に腹が立つし、むしろただのバカであってくれたほうがマシかもしれない。 どうせ大した用事でもないくせに。目を合わせたくもない。だけどさっさと帰ってくれたかどうかは気になる。 今日の実験の注意点を板書しながら、横目で素早く窓の方を見る――生徒には怪しまれないように。 1133 masasi9991DONE大ガマさんと大やもりさんのバカバカしい話ラブレター これは絶対にろくでもない内容だという確信がある。予感ではない確信だ。だっておれには何の心当たりもないし、その上それを持ってきたのは大ガマだ。絶対にろくでもない内容だ。このまだ箱に入ったままの新型の次世代据え置き型ゲーム機を賭けてもいい。 「そんな苦い顔すんなよ。とりあえず中身を読んでみようぜ」 「いやだ。こわい。関わりたくないからそのまま持って帰って」 「大丈夫だって。顔は見えなかったが、ま、相手は実在の妖怪だった。もしかしたら人間だったかも知れねえ。おれも知らねえやつだったけど、物好きもいるもんだな」 「いるわけないだろそんなの……いるわけないんだ……だっておれここ数ヶ月は外に出てないし……」 「数ヶ月温めてた気持ちかもしれねえぞ。それかあれだ、てめえだって荷物の受け取りでドア開けたりはするだろ。その時のドアの隙間から見かけて一目惚れした、って可能性はある」 2405 masasi9991DONE何かと戦っている土蜘蛛さんと大ガマさん崖っぷち「げっ」 と漏れた声が今の自分の姿にふさわしいものだったのか、それとも蛙の本性そのままだったのか。彼自身どちらか判断もつかないような、なんとも言えない声だった。 ガラガラ、と岩が転がり落ちてくる。砂煙に轟音、それはまあいいだろう。それより彼が焦燥困惑の声を上げたのは、その落石を生み出した元らしき……しかし岩と一緒くたになって落ちてくる……よく見知った妖怪の姿のためだった。 転がり落ちてくる巨岩と比べても何ら遜色のない巨大で歪な黒い身体。全長は数米ほどはあるだろうか。実際どれほどの巨体であるのかということに関しては彼にはしっかり覚えがあるから、仔細は捨て置くとして。問題は、その巨体が崖の上から彼の脳天真っ直ぐ目指して落ちてくるということだ。 1009 masasi9991DONE土蜘蛛さんと小さい大ガマさん手習い 箪笥の右側に扉がついている。鍵がかかっており、普段は開くことができない。その鍵穴を覗き込んでいる小さな背中がある。つま先立ちで、やけに危なっかしい。 「これ」 「ゲコッ」 足音を殺して背後に近づき、肩をポンと叩くとそのままびっくり仰天、垂直に飛び上がるほどだった。 しかし二足歩行はまだ慣れると見えて、垂直に立ったままではうまく跳ねるこおができなかったようだ。 「そう驚くことはなかろう。盗人が盗みを見咎められたからといって逐一驚くようでは仕事にならぬであろうし」 「盗人じゃねえよ。ただ中身がちょっと気になっただけだ」 「金目のものは入っておらぬ」 「そのくらいは考えりゃわかる。土蜘蛛が鍵をかけてまで隠しているのが財布の中身なんてなら、はっきり言ってがっかりだ。見損なっちまうぜ」 2370 masasi9991DONE江戸時代ぐらいのガマ土相合傘「傘に入る蛙とは異なことだ」 「たまにはね。人の真似事、してみたくなるのさ。こうして人の姿に化けてるからにゃ」 「ふむ」 そう頷いたはいいものの、その奇抜な風采は、人の世に交じるには浮いている。そのくせ黒山が大好きで、いつも街中をぶらついている。会う人会う人、すれ違う人すれ違う人、ぎょっとして振り向き見つめてしまう顔貌。着物も派手だ。妖怪変化の類かと誰が見てもすぐにわかる。しかし形ばかりは人そのものだ。全く妙な化け方だ。変化が巧いのか下手なのか、どうとも断じ得ない。 しかし今日ばかりはその姿も霞のような雨にうまく隠されている。跳ねる雨粒で白む街並み、傘の紙の影は薄い灰、人々は足早に通り過ぎていく。 川にかかった橋を歩けば草履の裏まで氾濫する水流のゴウゴウという揺れが伝わってくる。その流れを橋の欄干から覗き込み悲鳴を上げる人々を横目に、この蛙はやはり良い気分であるらしい。 609 masasi9991DONE大ガマさんがまだ小さかった頃の土ガマ手紙 子蛙に文字を教えている。妙なこととは己でも思うのだが、これも子蛙に文字を教えるついでに書いている。 「子、ゲ、える、とは、おれのことか」 「そうだ、お主の他におるまい」 そう答えると、子蛙は膝の上でプクと頬を膨らませた。 「この、子、という字は、幼いとか小さいとか、そんな意味だろう。おれとはてんで違う。おれは小さくも、幼くもない」 このこどもは、小さな身体の割に大きな声であれこれ騒ぐ。生来の蛙の質であろうけども、それにしても指先ぐらいの小さな身体で騒ぐのならばともかく、人のこどもに似た姿に化け、身体もまったく人のこどもと同じような大きさで、それでいてゲコゲコと騒ぐのだから、まったく騒がしさは庭の池に棲む蛙の比ではない。だというのにどうしてこうも目にかけてしまうのか、自身、不思議に思わないでもない。教えた知識をなんでも丸呑みにしてしまう様が面白いのやもしれぬ。 950 masasi9991DONE大ガマさんが風邪の土ガマ一に看病二に薬 たまにゃ優しいところもあるもんだ。酒でも入ってんだろうか、こいつ確かに、酒が入ると本音が出るもんな。いや待てよ、そうするとこいつは本当のところ心根の優しい奴だということか。違うか? そもそも酒が入ってるのかどうか、わかんねぇか。 「酒」 「は?」 「酒が呑みてえ」 ぼんやり考え事をしていると、思っていたこと、思ってもいなかったことが口をついて出てきた。しかし酒か。そいつも悪くはなさそうだ。 「酒など呑ませるわけにはいかん」 「なにも浴びるように呑みてえと言ってるわけじゃないんだ。酒は百薬の長とも言うだろう。ちょいと一杯をさ、ひっかけたら、寒気もどっか行っちまうんじゃねぇか」 「寒気。ということは、まだ熱も下がっておらぬのだな」 1159 masasi9991DONEいちゃいちゃしてる土ガマいつもの要件 どうも、眩しい。奴と同じ時間に起きてやらなけりゃ、と思ってどうにか両目を開けてやったが、慣れないことはするもんじゃねえ。また狸寝入り、しちまおうかな。 ぼんやり開いている目で、土蜘蛛の背中を眺めている。縁側から差し込む朝日がただただ眩しい。土蜘蛛の姿は人型の影としか見えない。おれを放って外ばかり眺めて、一体何を考えているんだか。まだ目を開けたのにも気付かれちゃいないだろう。 と考えつつ、開けた目を閉じるのも面倒だ。 「大ガマよ、起きておるのだろう」 「おう。てめえのために、珍しく早起きしてやったぜ」 平然と返事をしてやったが、一体どうしてバレたんだ。こいつ背中に目玉でも付いてんのか? もちろんそうではないことはよく知っている。いくら奴が妖怪であっても。 1200 masasi9991DONEスマホと土ガマみえないもの『あ? 聞こえねえな。変なとこ、触ってねえか? ちゃんとおれが教えたとおりそのまま、余計なことはしてねえだろうな』 「何もしておらぬ。だいいちこのような面妖なからくり、好き好んで触ることはない。お主がどうしてもとしつこく言うからわざわざこうして……」 『やっぱりうまく聞こえねえ。てめえは間違いなく土蜘蛛だよな?』 「何を馬鹿げたことを」 そう返しつつ、吾輩はふと訝しく思いその板を耳元から離した。そも、この小さな玻璃と鉄の板の向こうにあれが居るというのは本当か? 電話というものには未だに慣れぬが、今更それそのものを疑いはしない。しかし向こう側の某は、実際目には見えぬのだからそこにまやかしがあるやもしれぬ。あっても何もおかしくはない。 1612 masasi9991DONE※クロスオーバーZXAの滝の遺跡に大ガマさんが居たらいいなと思ったので大ガマさんとグレイくんとモデルAくん 2258 masasi9991DONEなんてことない土ガマピコピコ 横で眺めてると実に面白い。金色の目玉に画面が発する青い光が映り込んでいる。こいつの虹彩の色は、遠目に見れば眩しい金色、近くで見ると複雑で混沌とした金色……いくつもの濃淡に別れた細胞が入り混じった色……濡れた目玉の表面が外の光を跳ね返す色。要するになんともアナログな肉体の色だ。そこに機械の色が映り込んでいる。 チカチカ光る画面に合わせて、まぶたも不機嫌にピコピコ動く。横から眺めててもよくわかる眉間のシワ。への字の口。顰めっ面だ。 「つまらん。こんなものが一体何んの役に立つ」 手に持った端末の画面が勝手に動くと言って、どんどん不機嫌になる。使い方がわからないって助けを求めたのは土蜘蛛さんの方じゃねえか、と思いはするがおれの方は不満はない。どうせこうなるとわかってたし。 395 masasi9991DONE土ガマと女郎蜘蛛さん口先攻防「あら? 大ガマちゃんなのね」 「人の顔見てなんて反応しやがんだ。オレがここに居たってなんにもおかしいことも不都合もありゃしねえだろ」 と言って大ガマは、一度口から出した棒状のアイスを再び口に咥え直した。今どきクーラーすらもないような古めかしい日本家屋のお座敷は、暑い。縁側ではなにかの気まぐれのように風が通ってチリンチリンと風鈴を鳴らしているが、そんなものではこの暑さには追いつかない。 妖怪だって生きているのとさほど変わらず、暑いものは暑い……と言わんばかりに、大ガマは片手にアイス、片手を団扇の代わりでパタパタと扇いでいた。 しかし座敷に現れた女郎蜘蛛の方は襟元正しい裃で白い額に汗一つ浮かべていない。 1800 masasi9991DONEお酒を飲んだ土ガマ先客 己の座敷に戻ってホッと一息、というわけにはいかぬ。まったく騒がしい先客がある。 先客、と。己の巣、塒、縄張、あるいは単に奥の間、その主である吾輩が戻ってきて、そこに先客……というのは、まったくおかしい。しかし座敷に戻って一目見て、これはもはや先客……そう呼ばわざるを得ない。つまり座敷にとっての主と従が有耶無耶になっているのだ。と考えると客ですらないか。こんな我が物顔で畳の上にヒックリ返っている奴は。 まるで大雨で池から地上に押し流されてヒックリ返った蛙のようではないか。いや蛙そのものか。畳の上に、猪口と酒器が転がる。当人と共に倒れ伏したのか。それも中身のあるうちに倒れたらしく、畳の上にも当人の上にも酒が滴り、まだ濡れている。まさに雨をかぶったかのようだ。この様子では、まだ倒れて半刻も過ぎてはおらぬであろう。 1249 masasi9991DONE土蜘蛛さんとまだ子蛙の大ガマさん氷賣 曇りのないまなこでじいっとこちらを見上げている。この蛙もようよう永く生きたものだが、未だに尾の切れたばかりのような顔つきをしている。といって、吾輩には蛙の顔つきの違いなどよくはわからぬが。しかしどうもこの蛙はいつまでも若いように見える。 「今日のような日は、蛙も池にもおられぬようですね」 と言い残し、氷賣は頭を下げて出ていった。かなり軽くなったであろう荷を背負って、土間の上に鎮座する子蛙をひょいと避けた。門を超えるとすぐさま「ひゃっこい、ひゃっこい」と、節を付けて云っているのが聞こえてくる。 「親切な氷賣で助かったな、お主。おとついは蹴飛ばされそうになっていたものな」 蛙を誂うのも人の目から見れば滑稽であろうが、既に屋敷に人はおらぬ。 1032 masasi9991DONE初夏の土ガマ初夏 暑い日が続いている。若い者らはやれ扇風機だくうらあだとすぐに得体のしれない道具に頼りたがるが、暑くはあっても暦の上では未だ初夏。そのようなものがなくともまだ我慢ができるはずではないか。さしあたって伝統的に庭に打ち水、窓には風鈴、団扇を持って、涼むべきであろう。 昨年、遅い夏の終わり、いつまでも縁側の軒先へ吊るしてあった風鈴は、どこへ片付けただろうか。ふと考えてみると思い出せぬ。とはいえそこの戸棚の奥にでも、仕舞ってあるに違いない。 もう昼近くになるというのに灯りも付けぬままでいる寝床がそろそろ蒸し暑くなってくる。縁側の障子越しに入る陽が、暑いのだ。寝床は薄暗いままなのだが。障子を開いて、風鈴を吊るすべきであろう。風がいくらか吹き込めば変わるはずだ。急に思い立って寝床を出る。 這って、出る。出ようとする。しかし、畳の上まで抜け出たところで、もう動けない。「どこへ行くんだよ。このおれを差し置いて」「どこへも行かぬ。ここは吾輩の座敷だ」「嘘をつけ」 と、珍しく……そう、案外これには珍しく、きかん坊のような駄々をこねる。 寝床を出ていこうとした足首を何かに掴まれ、そ 1008 masasi9991DONEなにかと戦っていた土蜘蛛さんと大ガマさん 瞬きほどの間が、あったろうか。息を呑むほどにも長閑な場面でもなかったろう。しかし眼前に影が落ちた刹那に、己は瞬きを繰り返し、息の詰まるほどの焦燥を感じた。 長く、長く感ぜられた刹那の合間、吾輩の前へ躍り出たその身体が引き裂かれ、真っ赤な血の弾け飛ぶまでのその刹那……そして次の瞬間には血なまぐさい匂いを胸いっぱいに吸い込み、腹の内より焔の如く沸き起こった衝動に任せ、己は術を放っていた。血を流し崩れ落ちる彼奴の身体を押しのけつつ。「感謝しろよ。今のは半分、おれの手柄だぜ」 やがて四辺に静寂が訪れて、怒りを以って倒れ伏した顔を覗き込むと、先手を打ってそのようなことを言う。蒼白の顔で軽口を叩く。 頼んだ覚えもない。見縊るな。そも、吾輩の前に出るなど思い上がりも甚だしい。 最後の術を放ったときより胸に昂り続ける炎のままに、いくつか言葉が浮かんだものの、実際は口から出ずに引っ込んだ。 彼奴め、言うだけ言ってスッと両目を閉じている。 文句は引っ込んだというより喉に詰まって行き場をなくした。それより慌てて彼奴の隣へ膝をついた。 切り裂かれ襤褸になった派手な小袖の胸元へ、手を差し伸べ 649 masasi9991DONE世間話と膝枕の土ガマつらつらと 2021-05-26「で、それで見たこともねえ奴らが、ビルの上に居てよ……なんでオレのようなのをこんなとこまで呼び出した、って聞いたら両手合わせて拝み始めるんだよ。こいつは参ったなと、なにか勘違いしてやがると思ってこっちの事情を話してみようにも、ああいう奴らは聞く耳持たねえのなんのって……で面倒になって置いて帰っちまおうかとも思ったけど、まだ足は生えてるつもりらしくて、ほっぽっておいたら延々とここに居座って地縛霊にでもなるのかなとさ……」「ふむ、わからん。お主はいったい何の話をしておるのだ」「土蜘蛛さんが訊ねたんじゃねえか。あの庭に増えた石の話だよ」「持ち帰ったのか? 物好きな」「放っちゃおけないのが、どうもオレの性らしいや。ところがさ、連れ帰ったはいいものの、奴らみんな呪われてたんで……それで蛙にでも縋ろうってんで……まあ奴らオレが蛙とは知らんでいたらしくて……」 話してる途中に眠くなってきて、あくびをひとつ、と寝返りを打とうとした。ところがこの枕があんまり広くもないモンだから、うっかり間に落っこちそうになる。 枕の上に伸びた身体のてっぺんの、堅苦しっく据え 1821 masasi9991DONEいつもの土ガマかくれんぼ どうせそんなところであろうと予測の通りであった。気配が感ぜられたなどといった理屈のあることではなく、予感と言えば聞こえはよかろうが、それすら些か言葉が上等過ぎる。どうせ、だ。呆れを含んだ慣れた感情である。どうせそんなところであろう。して全くその通りであり、その影を薄明るい蔵の中にみつけた瞬間に、一つため息すら漏れた。「あれ? いつ来たんだよ」 地べたにあぐらをかいたそれが、振り返ってノンビリと言う。明るくよく弾む声は薄明るく静かな蔵のあちこちに跳ね回って響き、さながら泉のさざなみのようであった。止まった水面の透明なそこに、ぴょんと小さな蛙が飛び込んで、沸き立たせたような。「吾輩の気配にも気付かぬほど、宝を物色するのに夢中になっておったのか」「いつまで経ってもあんたが来ねえから、今日はどこかにお出かけかと思って油断しちまった。随分遅かったじゃねえか。そっちこそ、おれが来たのに気付かないなんてな」「わざと忍んで来たのではないのか」「それでもあんたはどうせ気付いてくれると思ってさ」「曲者が入り込んだことには気付いてはおったが、どうせお主であろうから急ぐこともな 1400 masasi9991DONE事後の土ガマ仕返し、甘噛 よくある話だが、こういうときにそそくさと寝床を出て身支度を始める野郎というのはまったく薄情だ。寝床に横たわったまま、ぼんやりとその背中を眺めながら考える。見慣れたもんじゃある。だから今更、薄情者めと本気で恨んでいるわけじゃない。がしかし、薄情な野郎だとは思う。おそらく生来の意地っ張りのために、そんな素振りを見せているんだろう。つまり己の未練を見せるのが恥ずかしいってことだ。別に当人がそんなことを白状したわけではないが、おれはちょっと奴には詳しいから、きっとそうだとわかっている。「土蜘蛛」 すっかり身支度を終えちまう前に、着物を羽織ったその背中を何とはなしに呼んでやる。「まだ帰るなよ。寂しいぜ」 引き止めりゃ歓ぶだろう。歓ばせてやるのは、やぶさかではない。引き止められたくて薄情なフリをしているのかと思えば、可愛い野郎だとも思う。面倒な野郎でもあるが。 なんも言われずともそこに寝てりゃいいだろうに。 本音をいえばそうだけど、言えば喧嘩になるし、喧嘩をするほどの余力も残っちゃいない。 ふっと奴は振り返る。もったいぶって、時間をかける。傷跡の浮いた背中は生白い 2165 masasi9991DONE土蜘蛛さんと小さい大ガマさんぼうぜんと 座敷の真ん中に座布団も敷かずに座って、少しも動こうとしなかった。「おおい、つちぐも」 なんだか事情がありそうな雰囲気だが、そんなのおれの知ったことじゃない。おれは土蜘蛛に用がある。だからいつものように、天井裏の梁からその脳天向かって声をかけた。 が、やっぱり動こうともしない。 いんやほんとを言うと、ちょっと動いた。おれに呼ばれたのはちゃんと聞こえたらしく、その瞬間にぴくり、と。しかし返事をしない。腕組んだまま。上から見える白い額に、しかめっ面のシワが浮かんでいるのが見える。 ということは聞こえておきながら無視を決め込んでいるってえことだ。「つちぐも。おい、つちぐもってば」 何度呼んでも腕組みのまま。このやろう。「わかったよ。もういい」 おれは一人でへそを曲げて、梁をつたって屋根の上へ戻る。 と見せかけて。「それっ」 天井の端から勢いよくぴょんと跳んだ。じっとしていて隙だらけの、間抜けな後頭に狙いを付けて。 目にも留まらぬ蛙のするどい飛び蹴りを、そのどたまに食らわせてやる!「やめんか!」 ところがそれも読まれていて、土蜘蛛のやつ、ひょいと首 1782 masasi9991DONE合戦してる頃の土ガマ鍔迫心中論 鮮血の色は人と変わらぬ赫であった。 生白い、そして柔らかい肌を裂くと、夥しくそれは飛び散った。我が身に降り注ぐそれは、夜半の雨のように冷たい。 思いの外、柔らかな手応えだった。手に残る感触に呆気に取られる。血の赫さに目がくらむ。降り注ぐ冷たさに息を呑む。わずかの油断に、足場を失った。 蜘蛛の糸が切れた――油断に、我が妖気が弱まったためか、それとも、糸に切れ目が――いつの間にか入っていたのか――入れられていたのか――蜘蛛の身は縋る足場を失い、宙から落ちた。 真下は水面であった。吾輩が先に水底へ落ちた。その上に追って鮮血が降り注いだ。清冷な湧き水に赫が交じる。波打って、交わる。透明な赫の影が我が身の上に落ちる。息ができぬ。息が詰まる。吐いたものが泡となって水面へ登る。鮮血と入れ違いに。 どうした、まだ、吾輩は息をしているようだ。こんな妖怪となった今でも。そして息を詰め、苦痛を覚えている。 しかし次には、あれが落ちてくるであろう。腹を裂かれ、鮮血を吹き出させた、あれだ……。道連れだ。或いは相討ちだ。思っていたよりも手応えがなかった。あの肌と肉は柔らかだった。 1233 masasi9991DONE土蜘蛛さんと大ガマさんと巻き込まれる大やもりさん血だるまで火だるまで災難 うわ鼻血出てる。 うららかな午後の日差しに大ガマの鼻血は全く心臓に良くない。しかしぎょっとして目を逸らした先にも、血が点々と……いや、そんな生易しい量じゃない。おびただしい量の血を垂れ流し、庭に血痕を引きずりながらこっちに歩いてくる。 咄嗟に目を逸らしたけど、正解は『このまま何事もなかったかのように帰宅』だったかもしれない。「お、大やもり」 声をかけられてからではもう遅い。おれはカモネギだ。「なに、やってんの」「そりゃこっちのセリフだよ」 鼻血を手の甲で擦りながら喋るから何を言ってるのか聞き取りづらい。よく見ると顔もボコボコに腫れてるし、大ガマの声が変なのは鼻血だけのせいじゃないのかも。「いやおれは別に頼まれたもの持ってきただけなんだけど。いや大ガマに頼まれたやつじゃないから。ただの通りすがり」「いや、が多いな。なんでもかんでも否定から入るんじゃねえぞ。どんどんめんどくせえ奴になる」 喋る途中で横を向いたかと思うと庭の池に向かってプッと唾を吐いた。唾というかほとんど血の塊。汚……見たくなくてまた目線を逸らす。こいつ人んちで何やってんだ 2669 masasi9991DONE土ガマ 都々逸そのまんま膝枕させて辺りを見まわし そっと水を含んで口移し 閉じたまぶたを透かして見える、八間行灯の淡いまぶしさに影がかかる。ぼんやりとした輪郭は馴染みの形だ。 影は、近づく。ふわりと花か、蕾か、新緑か、霧の深い野山にでも放たれたかのような香りが微かに漂う。 薄目を開けて驚かせてやろうか。少しばかり悪ふざけが頭に浮かんだものの、枕にした脚があまりに心地がよいので、瞼を持ち上げるのにも一苦労。などと夢うつつの一人相撲をしている間に、唇に柔らかなものが押し当てられる。 少しばかり熱い。生ぬるい。さらにぬるい、ぬるぬる濡れた舌に唇をこじ開けられ、冷たい雫を流し込まれる。飲み込めば熱に浮かされた身体の芯が、スゥーと心地よく冷えた。 で、観念して瞼を開く。「起きたのかい?」 行灯の淡い炎の眩しさよりも眩しい、青白い肌がすぐに目に入る。その瞳は赤い。吾輩に口移しに水を飲ませた唇もまた赤い。膝に乗せた吾輩の顔を見下ろし、静かに笑っている。 遠くに宴席の騒がしさが聞こえている。同じ座敷のことであろうに、寝惚けか酔いか、因はどちらかわからぬけれども、聞こえてくるのはまるで別な世界のことのようだ 711 12