ポケットにはひとつだけ 普段は入らない雑貨屋に寄った。無意識だったけれど、もしかしたら近づいてきたアイツの誕生日が関係しているのかもしれない。
店内のめまぐるしさは、慣れない。圧、とでも言うのだろうか。俺の背より高くに詰まれた商品はそれぞれが主張しあっていて、譲らないぞとでも言うように色彩を撒き散らしている。BGMは騒がしくて、なんだか不思議な、正体のわからない匂いがする。
忙しい場所だな、と思う。雑貨屋で働いてたという、年上の後輩を思い出す。この喧噪の中で働いていたということか。純粋に、すごいと思った。
賑やかさの渦の中、ここにアイツが欲しがるものはないのかもしれないと、そう思った矢先にそれを見つけた。
灰色の手触りのよいまんまる。ボタンが二つと三角の皮。口と鼻こそないが、それは猫の形を模したがま口だった。
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