幸せに名前なんてなかったから2 数日経って、瘴奸の額の傷は瘡蓋になっていた。瘴奸はまだ気落ちしているようだったが、それもいずれ回復するだろうと新三郎は思っていた。今も貞宗と常興が瘴奸を連れてコンビニへ行っている。新三郎は家に残って夕食後の皿洗いをしていた。
台所の窓の外では、茜色に染まった空がゆっくりと暮れかけていた。少し開けた窓からそっと風が入り込み、薄いカーテンがを揺らしている。近所の公園で遊ぶ子どもの声も聞こえなくなり、どこからか魚を焼く匂いが漂って来ていた。
すると玄関の呼び鈴が鳴った。回覧板でも回ってきたかと、新三郎は濡れた手を拭いて玄関へと出た。
硝子の引き戸を開けると、そこに立っていたのは死蝋だった。
新三郎は驚きのあまり言葉を失った。田舎のヤンキーのような格好の死蝋がじろじろと新三郎を見る。
1853