これから出掛ける、と告げたファウストに、じゃあ俺も行こうかなと返す。ほんとうに同行してほしくない時にはなにも言わず、風のように姿を消すひとだ。わざわざネロに宣言した本心をそっとスプーンですくいとると、ファウストはほんのりと眦を緩めた。勝手にすればとも、すまないとも言われる前に、勝手知ったる場所に掛けられていた彼の上着をぽいと投げ渡す。外出する旨と、すこし考えた末に夕食のしたくはカナリアに頼む旨も認めたメモ書きを魔法で賢者の元へと送ったネロは、それでとファウストに問いかけた。
「どこに行くんだ?」
「中央の国からは出ないよ。国境まではいかない南部の方へ」
「そうか。なら、もう出発した方がいいだろ」
午睡の頃合いを過ぎ、太陽は既に傾いている。今から出発したとて、場所次第では夜になるだろう。
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