ファウストとねこと祈りのはなし 「……猫が好きな理由?」
ファウストが、ゆっくりと顔を上げてネロを見やる。
西の国から戻って以降、ネロとファウストは少しずつ過去を打ち明け始めた。酒の力が必要になるほどのものはまだ難しくとも、眠りに見放された真夜中や、静けさにさみしくなった午睡の頃合いに、ひっそりと大人のないしょ話をする。二度と戻らないのだと固く封をした過去の話をすることは、かさぶたを自分で剥がして傷口をさらし合う行為でもある。それは穏やかなようでいて、その実、ひどく無防備な行為だ。だからネロは、今日もファウストを太陽から庇うように立った。さらした傷口が日光に焼かれないように。吹雪で凍えた傷口には、昼下がりの陽光は生ぬるいものだ。
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