2022.02.07
百グラム足りなかった、と、小声が聞こえた。飾りの眼鏡を光らせて神経質に秤を眺めている男を見守る目は、どうしたって呆れがちになる。一騎が何度適当で構わないと告げたところで「適量」の意味を解き始めて蝸牛の歩みだが、今回は勝手が違う。なにせ、行っているのはこいつほどの慎重さが活かされる菓子作りだ。細かなチェックは総士の得意分野だし、適任ではあるはずだ。バターの種類、選ぶ洋服、記載通りの材料量。覚えておくべきことはいくつも紹介されていたらしいが、すべてなぞっていてはきりがない。総士の場合はなおさらひどくなるだろう。
独り言が上がったのは、量と丁寧な工程を第一にしろと言い含めて見守り始めてから、やっと材料を計り終えた時だった。
1601