第五本目 剣持刀也 「兄」 前にあったことで、今でも時々思い出すことなんですけど。
実家で一緒に住んでる兄は仕事をしているんで、まあ一緒に住んでても時々顔を合わせないことがあるんですよね。生活ルーティンが違うんで仕方の無い事なんですけど、ある日兄がふと自宅の廊下で歩いていたのを見掛けたんです。
いや、当たり前の光景ですよ。勿論僕だってその瞬間は疑問なんて何も持ちませんでした。ああ兄帰ってきてるんだなと思って、廊下の奥に行く兄を横目で見送ってから、僕は別の部屋に入ろうとしてました。そうしたら、目の前の扉を開けた先に兄が座ってたんですよ。
流石には? みたいな声が出かけて、さっき見た背中をもう一度見ようと思って廊下の方に目をやったんですが、いるわけなくて。で、目の前の兄はいつものように他の家族と話していて、聞けばずっとそこに居たって言うんですよね。じゃあ僕が見たのは夢か幻覚か、なんか疲れてんのかなと思ってその時は気にしないことにしました。
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