85_yako_p カプ入り乱れの雑多です。昔の話は解釈違いも記念にあげてます。作品全部に捏造があると思ってください。 ☆quiet follow Yell with Emoji Tap the Emoji to send POIPOI 434
ALL タケ漣 鋭百 カプなし 天峰秀 大河タケル 100本チャレンジ モブ 牙崎漣 花園百々人 想雨 カイレ クロファン C.FIRST 眉見鋭心 天道輝 ミハレナ ダニレナ 既刊 伊瀬谷四季 蒼井享介 蒼井悠介 W 若里春名 華村翔真 Altessimo 神楽麗 都築圭 古論クリス 葛之葉雨彦 レジェンダーズ 北村想楽 百鋭 秀百 薫輝 THE虎牙道 タケ漣ワンドロ web再録 誕生日 くろそら 途中 秀鋭 卒業 ケタザザ 短歌 プロデューサー 円城寺道流 叶納望海 御田真練 超常事変 渡辺みのり 癒残 堅真 ウォリアサ R18 街角探偵 わからん 九十九一希 四季漣 親友 輝薫 書きかけ 黒紅 道漣 DoS幻覚 ドラスタ 桜庭薫 BoH 春隼 サイバネ 山下次郎 寸劇 左右わからん しのかみしの 東雲壮一郎 ハイジョ レナート ミハイル S.E.M じろてる 旬四季 北冬 東雲荘一郎 秋山隼人 悠信 神谷幸広 アスラン そらつくそら 四季隼 140SS 黒野玄武 冬美旬 冬春 ゲーム部 ジュピター 卯月巻緒 四季秋四季 85_yako_pDONEなっぱっぱさんとの鋭百合同誌の再録です。(2022/7月)お題になった頭文字はXです。X『主演:花園百々人』 もらってきたポスターには白抜きの文字でそう書かれている。舞台に立っている百々人を後ろから映したポスターの彩度は低く、たったひとつのスポットライトを当てられた百々人の周りだけが異質なもののように浮かび上がっていた。 自分が大きく映っているポスターは無理のない範囲でもらってくる。ポスターがもらえたら、ふたりで暮らすこの家のリビングに飾る。それが鋭心と百々人の共同生活で自然と生まれた、いくつかの取り決めのうちのひとつだった。飾ったポスターの代わりに剥がしたポスターはくるくるとまるめて、ふたりの台本やトロフィーが置いてある共有部屋に収めていく。その習慣に従って貼られたポスターを眺めながら、百々人が困ったように苦笑した。 6834 85_yako_pDONEなっぱっぱさんとの鋭百合同誌の再録です。(2022/7月)お題になった頭文字はWです。ラスト気に入ってます。Watercolor 潮騒が未だに鳴り止まない。歓声のような満ち引きは海から離れても心のどこかで続いていて、プロデューサーの運転する車の窓から見える海は夕日で茜に染まっていた。夏空に沈む夕焼けは柔らかく、昼間のような暴力めいた輝きを潜めて眠たそうにしている。 助手席には秀がいて俺の隣には百々人がいる。百々人はプロデューサーのことが好きなはずなのに、こういうときは必ず後部座席に座っていた。秀は助手席を希望することが多く俺は座席にこだわりはない。なので、いつの間にかこれが俺たちの『お決まりの座席』になっていた。 海が見えるのは百々人が座っているほうの窓なので、俺は百々人越しに夕日が水平線に沈む様を見ていた。百々人の色素が薄い髪にもうっすらとオレンジが灯っていた。百々人も、窓を見ていた。 11836 85_yako_pDONEなっぱっぱさんとの鋭百合同誌の再録です。(2022/7月)お題になった頭文字はVです。Video『見せたいものがある』 マユミくんがそう言うとき、僕は少しだけドキドキする。それは出会ってから二年経った今も変わらない。 最初は不安が大きかった。胸がぎゅってなるようなドキドキだ。なんで僕なんだろう。せっかく見せてくれたのに、望むリアクションを取れなかったらどうしよう。そういう不安を隠しながら、精一杯笑ったのを覚えてる。 一回目、アマミネくんのいないマユミくんの家で見せてくれたのはチェス盤だった。遊具というよりはアンティークと言うのが正しいその佇まいは僕を萎縮させるには充分で、そのときの僕は疑問で頭がいっぱいになってしまったんだ。 『マユミくん、』 どうして、と言う前にマユミくんが口を開いた。 『百々人の、次の役作りの参考になるかと思って』 6660 85_yako_pDONEなっぱっぱさんとの鋭百合同誌の再録です。(2022/4月)お題になった頭文字はRです。すげー脱字があったので訂正してます。Ramen 百々人と暮らし始めてよかった。横で寝転びならが台本を読んでいる百々人を見ると、心からそう思う。 俺は高校を卒業してすぐに家を出て、半ば強引にあの家から百々人を連れ出して共に暮らし始めた。家族の在り方は人それぞれだし、俺は正しさや間違いを説けるほど成熟してはいない。それでも、一度話を聞いてしまった以上、あの家に百々人を住まわせておくのは一分一秒だって嫌だった。俺は百々人のことが好きで、百々人を取り巻く環境が嫌いだった。 百々人は俺の手を振り払わずにただ笑ってついてきた。一度捨てられているから二度目は傷つかないようにと、自らを守るような、そういう類の笑顔だった。それでも、半年以上経ってそういう笑みは減っていったように思える。ただ無邪気に笑うことが増えて、口を大きく開いて笑うことが増えて、無理をして笑うことがなくなった。 6922 85_yako_pDONEなっぱっぱさんとの鋭百合同誌の再録です。(2022/3月)お題になった頭文字はQです。好きな曲のオマージュあります。ハッピーではないですがお気に入りです。Quiz 気がついたら見知らぬ廊下に立っていた。 廊下と言うよりも一本道と言った方が正しいのかも知れない。真っ黒な壁か、あるいは暗闇に切り取られた通路を僕はまっすぐに歩く。不安も、迷いもなかった。歩くたびに材質のわからない床がスニーカーの靴底をすり減らして、ぎゅむ、と鳴る。 あまり長時間歩いた感覚は無かったが、唐突にそれは現れた。うっすらとした青紫の磨りガラスがはめ込まれた重厚な扉が僕の目の前にあった。扉は何かしらのロマンを得たいときに使用される舞台装置のような装飾が絡みついていて、ドアノブには木札がぶら下がっている。僕はニスの光沢の下に閉じ込められた文字を、誰に聞かせるでもなく読み上げた。 「……『正解すれば幸せになれる部屋』……?』 6769 85_yako_pDONEなっぱっぱさんとの鋭百合同誌の再録です。(2022/5月)お題になった頭文字はPです。ファンタジーPlethora 世界にはたったひとつ、目に見える愛がある。 *** 「牙崎くんの髪って、地毛?」 「……あ?」 事務所には髪の色素が薄い人が何人かいるけれど、もしも僕とおなじ人がいるとしたらそれは牙崎くんだけだと思ったからこんな質問をした。よく考えたら失礼な質問だったけど、怒られてもいいって思ってた。 僕の言葉を聞いた牙崎くんは、猫のように周囲を見渡してつまらなそうに口をへの字に結ぶ。ここにはアマミネくんもマユミくんもぴぃちゃんもいないし、僕は牙崎くんにいくつかの和菓子を差し出して、こうして事務所のソファで向かい合っている。それに名前まで呼んでいるんだから、この言葉の向かう先は牙崎くん以外にはないってことは理解してもらえているはずだ。 10618 85_yako_pDONEなっぱっぱさんとの鋭百合同誌の再録です。(2022/4月)お題になった頭文字はLです。Limit マユミくんと付き合いだして──そういうことをするようになってから、わかったことがある。 「んっ……マユミくん、しつこい……!」 ぺち、とうなじを叩けば、ようやくマユミくんの唇が僕のからだから離れた。見えやしないからと許可した胸元とお腹はキスマークだらけだし、ずっと優しく触れられていた脇腹は未だにぞくぞくと背骨を震わせるし、繋ぎっぱなしだった手から溶け合う感覚でどこまでが僕なのかわからない。そう、マユミくんは前戯が長い。寝転んだ僕はしばらくからだを起こしていないから、マットレスにくっつきやしないかと心配になる。 「……すまない、百々人」 「……別に、いいけどさぁ……」 そういえば始めて叱ったかも。マユミくんはしゅんとしていたけど、僕の二の句を受けたら嬉しそうな顔になって僕の唇に柔らかく噛み付いて舌をいれてくる。マユミくんが目を閉じて幸せそうに舌を絡めてくると、僕だって目を開いている気分ではなくなってしまうから視界を閉ざした。そうなるともう感じるのはマユミくんの舌の柔らかさと温度しかなくて、ひとつ感覚を遮断したことで耳が余計に音を拾う。 2971 85_yako_pDONE2019年の8月に出した同人誌のweb再録です。ダニレナ。Is romantic a fake1 もともと情に近いものはあった。愛情とも、友情ともつかない気持ちが。 僕はチームのメンバーが好きだ。キールは気が合わないだけで嫌いではない。ミハイルとだって仲良くやれていると思いこんでいた。ユーリーだって大切なメンバーだし、リーダーのことは自分がその立場になって改めて尊敬の念を抱いている。当然、ダニーのことだって大切だ。みんなが好きだ。でも、ダニーだけが特別になった。 なぜだろう、と思う。当然だと気づく。必然が手のひらにある。たくさんの理由があって、僕はそのうちのいくつかだけを知っている。 僕はダニーと組むことが多かった。守られることが、多かった。 どうしたって僕の身体能力には限界があって、僕の命には責任がある。状況によっては僕の代わりに危険を引き受ける人間が必要で、そこに僕の意志が介入する余地はない。そして、その役目を背負うのは大抵がダニーだった。 13977 85_yako_pDONEなっぱっぱさんとの鋭百合同誌の再録です。(2022/5月)お題になった頭文字はKです。流血・刺殺注意。幸せにはならないです。Knife リンゴにナイフを突き立てる。駄菓子屋で買ったオモチャのナイフは果実を傷つけることもなく、その紛い物の刃を引っ込ませて大人しく僕の手のひらに収まった。 牛丼よりも安いオモチャのナイフだ。試しに手のひらに当てて少しだけ押し込んでみるけれど、刃は引っ込んで何も起きない。こんなの、ボールペンで刺した方がずっと痛い。 そんな無意味なナイフもどきだが、これは今現在東京都内に潜伏する三六体のマユミくんには覿面に効く。この三六体のマユミくんというのはマユミくんの偽物で、腹立たしいことに彼らは偽物のくせに本物のように背筋を伸ばしてあっちこっちを闊歩している。そんな偽物どもはこのナイフでつつかれると、風船のようにパァン! と破裂していなくなる。 4342 85_yako_pDONESideMで初めて出した同人誌のweb再録です。2018年の6月ですって……そして拙いね……流血表現があります。恋愛要素はないです。名無しモブがでます。牙崎の父親捏造。牙崎くん死なない! オレ様は死なない。何を唐突にと思うだろうが、本当に死なない。例え話なんかじゃない。そのまんま、言葉通りの意味だ。 『死ぬかと思った瞬間』と書かれた台本をテーブルに放り投げソファに身を沈める。事務所は空調が効いていて、ソファはそれなりの固さがあり横になるにはぴったりだ。うるさいチビもらーめん屋もいない。そういえば、最近は別々の仕事が増えた。オレ様は次の仕事まで時間がある。だけど、それまでは正真正銘の一人っきりだ。あっちには眼鏡かけてんだか乗せてんだかわかんねぇやつがいた気もするけど。 死ぬかと思った瞬間。先ほどまで、チビとらーめん屋としていた会話が脳裏を掠める。チビは一番キツかった減量中の話をしていた。らーめん屋がそれを笑って聞いていて、オレ様にもそんな瞬間はあったか聞いてきたから、あるわけないだろ、と答えた。だってオレ様は最強大天才だから。 24855 85_yako_pDONEなっぱっぱさんとの鋭百合同誌の再録です。(2022/4月)お題になった頭文字はJです。首を絞める描写(殺人描写)があります。Jealousy 人を殺すのは初めてだ。 ぐ、と力を入れれば、俺の手は百々人の首を締め上げる。ベッドに仰向けになった百々人に覆い被さるようにして、俺は体重をかけて百々人の首を絞める。 シーツがゆっくりと沈んでいき、俺の手で百々人の呼吸が阻害される。手のひらに訴えるように、抵抗のように、血液が脈打っている。そのとき俺が感じていたのは愛ではなく、根源的な恐怖だった。 *** 最近の人間は命を軽く見ていると大人は口にする。 大人──おおよそ三十代以上の人間だろうか、彼らにとって命はかけがえのないもので、一度失ったら取り返しのつかない唯一のものだった。 ところが二十年ほど前だろうか。宇宙からの怪電波と新興宗教の過激派がばらまいたウイルスと数十カ国の神々の怒りが重なった年があり、それがたまたま『ゲーム』の世界を現実に引きずり出してしまう事件が起きた。教科書にも載っているその現象は未だに俺たちの世界にはびこっている。 8467 85_yako_pDONEなっぱっぱさんとの鋭百合同誌の再録です。(2022/4月)お題になった頭文字はFです。Funeral まず、蝉の羽音がした。真夜中に開いた冷蔵庫の音のように断続的に脳にこびりつくノイズから逃れるべく、俺は目を開く。 見えたのは人間の後頭部。そして、視線を少し上に向ければどこまでも高い夏の青空があった。冗談みたいな入道雲を彼方に従え、暴力的な視線で地上を焼いている。 陽炎が立ち上るアスファルトの上に俺たちはいた。俺と、見知らぬたくさんの人間は誰も彼もが真っ黒な服を着て、一列に並んでいる。音は蝉時雨以外には存在せず、列は一向に進まない。 喪服、なのだろう。ここにいる全員が着ている黒い服は、きっと喪服だ。俺は自分の姿を確認する。同じような喪服を着て、手には切り分けられたスイカを持っていた。 列はどこに通じているのだろう。視線をやれば、遠くのほうに時代劇で見るような建物が見えた。名前は知らないが時代劇で罪人を裁くのは決まってあの手の建物だ。葬式には似つかわしくない場所を目指して、葬式の参列者としか思えない人間が並んでいる。 6023 85_yako_pDONEなっぱっぱさんとの鋭百合同誌の再録です。(2022/4/10)お題になった頭文字はEです。地味に2ページぴったりに収めるために頑張りましたEarth さらば地球! 僕とマユミくんは火星へと旅立った。 情報規制とは恐ろしく、僕の与り知らぬところで火星への移住計画はずいぶんと進んでいたらしい。科学の技術は日々進化しているのだ。 しかし残念なことに日本という国はなーんにも進んでいなかった。たとえば、同性婚に関わるあれやそれ、とか。なので恋人同士である僕とマユミくんはパートナーとしての関係を結ぶに留まっている。僕は『眉見』にはなっていないので、今もマユミくんをマユミくんと呼ぶ日々だ。はじめましてから八年間変わらない呼び名は手垢がついた年月だけ味わい深くなっていったが、そろそろ新しい風が欲しい。 そんなところに火星移住計画だ。興味本位で取り寄せたパンフレットを眺めるに、人間がいじくりまわした火星はたいそう居心地がよさそうだった。名産品になる予定の果物はおいしそうな見た目をしているし、東京までは爆速スーパージェットスペースシャトルで二時間弱。四季こそないものの気候は温暖で大きな災害もないらしい。家賃はアイドルとして上り詰めた僕たちのお給料なら無理なく払えるし、抽選要項を僕らは満たしている。なにより、火星の法律では同性婚が認められているそうだ。きっとこのパンフレットを作った人間は日本人に違いない。特定の諸外国では当たり前に認められている権利をこれ見よがしにパンフレットに、先進的なアピールとして書いてしまうなんて。 1970 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ46「スタート」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。タケ漣。開演ブザー「チビ! 勝負だ! 事務所まで先についたほうが勝ちだからな!」 言うが早いか、アイツはあっという間に駆け出した。いや、オマエはさっきまでたいやきを食べていたはずだろう。少し円城寺さんと話してただけで、すぐこれだ。円城寺さんに視線をやれば、その目は『いってこい』と告げている。別に行く義理なんてないのだが、例え無茶苦茶なオレ様ルールに基づいた判定でも、得意分野で負けるのは癪だ。 距離は空いてしまったが、足なら俺のほうが早い。なびく銀の髪を捉えるべく、俺は思い切り駆け出した。 「チビ! 勝負だ! 先に食い終わったほうが勝ちだからな!」 宣言するときには、もうコイツはチャーシューを頬張っている。俺はと言えば、ラーメンを受け取ったばかりで割り箸すら割ってない。 2261 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ44「!」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。ワンダーランド 大変だ。どうやら俺は漫画の世界に迷い込んだ。 とんでもなくバカげていて、突拍子もないことだとわかっている。夢みたいな世界。でも夢にしてはちょっと長すぎなんだ。 ここは現実に限りなく近い。ただ一点だけがおかしくて、他におかしなところはない。妙にリアルで、でも夢としか思えない世界に俺はいる。流石に一週間もこの世界にいると現実がおかしくなってきたような気分になったので、俺は異世界に迷い込んだことにした。 今日も日が昇る。俺はロードワークに出かける。悩みの種が俺を追いかけてくる。 「おいチビ! 無視すんじゃねえ!」 振り向かなくても誰だかなんて一発でわかる。それでも俺は振り向く。すると、自分で呼んだくせにコイツは少し驚いてみせる。そのちょっとだけキョトンとした表情の横に、小さな『!』マークが浮かんだ。 1707 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ42「挑戦」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。卒業軸の同学年タケ漣。モブくんがたくさんでます。魔法を解いて! 何事も挑戦とは言うが、挑まなくてもいい壁はある。 「じゃ、次の時間に牙崎と大河の一騎打ちだな」 黒板に書かれた『牙崎』と『大河』の文字。正の字が示す票の数は同数。 このままでは、俺は比喩でもなんでもなく、シンデレラになってしまうのだ。 * 「牙崎ってまつげ長いよな」 「はぁ?」 弁当を食いながら俺は言う。ここで同意を得られればいいのだが、学友の反応はイマイチだ。 「髪も長い。色も白い」 「でも大河は顔が可愛い」 「かわいくない」 牙崎は髪が長くて色が白いから。不本意だが、俺は童顔だから。そんな理由で俺たち二人のどちらかは、文化祭でお披露目する『男女逆転シンデレラ』のシンデレラになりそうなのだ。 「いいじゃねーか。白雪姫みたいにキスシーンがあるわけじゃないし」 4950 85_yako_pDONEなっぱっぱさんとの鋭百合同誌の再録です。(2022/4/10)お題になった頭文字はDです。Dance ざらざらとした薄暗闇の中にいる。ぽっかりと空いたクレーターみたいに広いシアタールームで、僕とマユミくんはたったのふたりきりだ。 光源は目の前のモニターだけで、そこには華美な衣装に身を包んだマユミくんと、同じくらい華やかなドレスをまとった知らない女性が映っていた。見つめ合い、手を取り合って、音のない世界で優雅に踊る。ブルーレイを読み取るプレイヤーの音だけが、開きっぱなしの冷蔵庫みたいに鳴っている。 踊るのに音楽はない。そういう趣旨のプロモーションビデオだ。実際にはリズムを取るためのメトロノームが健気に働いていたらしいが、セピアの効果をつけられた映像にその響きは存在しない。役割のあったもの、必要とされた音、ワルツを指揮していたリズム。そういうものが全て、呆けた飴色に覆われてしまっている。 4241 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ40「外」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。ダニレナ。期待の話。月に願いを 全てを知っているわけではない。でも、うつくしい人だと思う。 スラムでは見たことのない銀の髪も、あとからハチミツというものを知ったときにそっくりだと思った瞳の色も、その生地だけで一週間は食っていけそうなスーツを着こなす佇まいも、切れ長の瞳を細めて笑うさまも。好ましいものはいくつもあった。 そして、なにより優しさと生き方が好きだった。本気ですべての人の幸せを願っている、その危うげな精神が。 * 「外面に騙されてんだろ」 エディはレナートのことが嫌いだった。嫌いだと明言こそしなかったが、二人きりになるとエディはとたんにレナートを悪く言う。エディの言う『妥当な評価』はおれの気持ちとはどんどんかけ離れていって、だんだん温度差が生まれるのがわかる。 4802 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ39「愛」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。タケ漣。愛について。シンプルストーリー なんだかアイツが変わった気がする。 なんというか、世話を焼かれている。前から水なんかはくれていたけど、最近は水以外も色々くれる。 最初はたいやきのしっぽ。差し入れのおまんじゅう。ぽっけから出てきた飴玉。一番ビックリしたのが、ラーメンのチャーシュー。俺が凹んでたり、ちょっと迷ってたり、なんだか困っている日にコイツは必ずと言っていいほど何かをくれた。 そういう、ちょっとした積み重ねに俺が返せたものはそんなに多くない。大抵はその時持っていたものを適当に。手持ちがないのは困るけど、アイツのため何かを買うってのが照れくさくて、いつも同じクッキーを持ち歩いていた。俺はコレが好きなんだ、って。それで何かをもらったときとか、なんでもないときとか、そういうときに個包装の一個をかばんから取り出して、これでチャラだというように差し出した。アイツはいったい何枚のチョコチップクッキーを食べたんだろう。たまに粉々に砕けてしまったクッキーを渡されて、何を思ったんだろう。 2016 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ38「例」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。クロファン。大人になりたいクローくん。例えばの最適解【命題】 愛について 【前提】 僕はファングが好き。 僕はファングが大好き。 僕はファングを愛してる。 ファングは僕が好き。多分。 わかんないけど、きっとそれだけ。 だから、全然足りないんだ。 【例題】 僕たちは生き残った腹いせみたく、任務の翌日は一昔前に流行った曲が流れるダイナーで食事をとると決めている。 僕はアメリカンクラブハウスサンド、ファングはワッフルとフライドチキン。そんないつもの光景を見ていると、ファングと結婚したら食事は僕が作ろうという気持ちが強くなる。鶏肉にメイプルシロップをたっぷりとかけてワッフルと一緒に頬張るところも大好きだけど、樹液まみれになった揚げ鶏を愛せるかっていうのはちょっと別の話だ。 4223 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ37「大」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。クロファン。すけべ。そうして僕らは途方に暮れる 子猫に噛み癖があったと知ったのは、転職してしばらくしてからのことだった。 * オレたち三人がおそろいでまとっていた血と硝煙の匂いは、殺しよりも数倍は難しい就職活動を機に各々形を変えた。 オレは配達する新聞から移ったインクの匂い。クローは花家の店先に並んだ色とりどりの匂い。セブンは評判の店が毎朝せっせと焼き上げるパンの匂い。 確か、あの子供は甘い匂いがした。孤児院に預ける時にセブンはもう会えないと自嘲気味に呟いていたが、オレたちの健全な働きっぷりを思えば会いに行くのも悪いことではないだろう。まぁ、あの年だ。オレたちのことなんて覚えていないと思うけれど。 オレはクローがわざわざ買ってきた花を見ながら、インクの黒が滲む手でセブンがもらってきたパンを食べる。オレとクローは人殺しをしていたときと変わらない様子で喋るけど、セブンはなんだか憑き物が落ちたような顔で笑う。 4305 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ35「スマホ」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。ダニレナ。ダニーくんを無垢にしすぎた自覚はあります。雨音と心音 レナートの部屋はいつも雨音がする。 * 最初、雨が降り出したのかと思った。 その日は晴れていて、真昼の空に浮かぶ月が冴えていた。さっきまで物音一つなかったのに、レナートの部屋のドアを開けたら雨が降り出した。きっと星が見える夜だと思っていたから、なんとはなしに残念な気分になってしまう。表情に出てたんだろう。レナートがふわりと笑っていった。 「書類か、ありがとう。……たいしたものはないが、ビスケットがある。ミルクも」 残念な気分と言っても、何に対して残念なのかもわからない薄靄のような感覚だ。それをレナートはどうとったのだろう。おれをあやすように、もう少しだけ扉を開く。強すぎない灯りが揺れる部屋。ざぁざぁ、雨音が強くなる。 2543 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ33「近い」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。暗めのタケ漣。あながち悪くない「バカらし」 甘酒を飲みながら漣は呟く。その声のトーンは呆れを通り越して、侮蔑の色が滲んでいる。 タケルはその言葉を諌めようとした。少しばかり感情が喧嘩腰になっていたから、否定したかったと言っていい。ざわめきの中でその言葉を聞いていたのはタケルと道流だけだったけど、きっとその言葉で傷つく人間がいるとタケルは感じていたからだ。 初詣は人ばかりで駆け出しのアイドルが三人揃って歩いていても誰も気がつくことはない。三人は配られていた甘酒を飲みながら歩いていた。そこかしこで甘酒の匂いと冬の匂いがする、雪のない、星のきれいな夜だった。 がらごろと、鈴が鳴る。道流の手によって、それに倣うタケルの手によって、神様を振り向かせるように鈴が鳴る。おい、という声に急かされてなお、漣の手は鈴を揺すろうとしない。漣はこの場から離れたかったが、すっかりお見通しの二人に両側をガッチリと固められていた。道流が言う。「なあ、何がそんなに嫌なんだ?」 3405 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ32「ひる」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。クロファン。昼夜逆転。大迷惑 最近、昼と夜がひっくり返ってる。おはようと笑うのは三日月で、眠るつもりかと太陽が責め立てる、そんな日々だ。 何も不摂生というわけじゃなく、これはれっきとした任務なのだ。僕とファングは夜に起きて朝に眠る。仕事場が不夜城なので致し方ない。 僕はデキる男なので文句は言わない。ファングも行きつけのハンバーガーが食べれないこと以外は気にしていないようだ。どこかで聞いた通り、配られたカードで勝負するしかないのさ。だから当然、逆転した生活にも楽しみを見いださなければならない。退屈はファングの瞳を殺していくので、定期的に刺激を与えないとならないんだ──死んだ目のファングも、それはそれで色っぽいんだけど。 まず僕たちは起きてすぐに星を見た。僕はそれなりに予習をして星座の名前やロマンチックな逸話とかを仕入れてきたのに、ファングはものの五分で飽きた。ファングが僕の話を聞かないなら僕だって飽きる。あんな遠くの光に価値なんてない。ファングと一緒に笑えないものは総じてガラクタだ。結局星は朝のニュースの代打にもならないと知った。星を見ながら食べるシリアルはちょっとロマンチックだと思っていたのに。 2423 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ31「期待」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。ケタザザ。発情期ネタです。春景色 こんなことになるんだったら、大人になんてなりたくなかった。 子供のうちに好きだって伝えておけばよかった。 * 狩りの群れに混ざるようになってから、三回目の春が来た。春になるといろんな生き物が元気になる。俺は赤い果実と青い羽の鳥がおいしくて好きだ。春はおやつがたくさんあって、秋と同じくらい好きだった。 ザザキだって昔は春がくるとはしゃいでいた。素振りは見せなかったけど、わかる。目を細める回数が増えて、少し明るい声で話す。それを知っているのが俺だけならいいって、よく思ってた。二人で一緒になって、黄色くて小さい花が咲く野原で追いかけあった。負けない、って笑いながら。 ザザキのことが好きだった。でも、どこが好きかと言われると困ってしまう。小さい頃から一緒だから、いなくなったときのことが考えられないって言ったほうが正しいのかもしれない。俺に兄弟はいないけど、ザザキのことは家族だって思ってる。悪友って言葉を聞いたって、親友って言葉を聞いたって、真っ先に浮かぶのはザザキのことだ。好きって単語を口に出す時に考える相手だってザザキだった。 4131 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ30「駆け引き」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。カイレ。嘘と煤けたワンダーランド 目の前の男が腕に抱える粘土のような携帯食料と貴重な水が入ったボトルの数を見てわかったことは、「ああ、このバカはまた騙されやがったな」ということだった。 遠征任務ではバカみたいな量の水を持ち歩くわけにはいかない。その点、人類の英知である現金というものは持ち運びがしやすいことこのうえない。水にも酒にもなるしな。つまり現地調達は理にかなっているのだが、このカイという男は、とにかくそれがヘタクソなのである。 任せなければよかった。という判断ミスを悔いる気持ちと、散々買い物の仕方は教えてやっただろう。という恨み節。うまく両立ができない感情ごとオレ様なりの正論をぶつければ、普段から仏頂面を崩さない整った目元がムスッと歪んだ。 4367 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ29「すぎる」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。クロファン。パブロフの犬的な。りんごとはちみつ「最悪」 ふさいでいた唇が自由になって、まっさきにクローが吐き出した言葉がこれだった。オレはといえば舌にこびりついたどっちのもんだかわからない血の味が心地よい。 「なんだよ。いつもは赤ちゃんみたく口寂しくしてんのに。キスは大好きだろ?」 「……僕は血の味が嫌いなんだよ。そもそも、血って好きじゃない」 血液の詰まったズタ袋がなんか言ってる。さっきまで舐めあっていた箇所は錆びついた味がして、クローが思い切り唇を切ったことがわかる。血の味なら、オレがちょっかいをかけなくても口には鉄の味が広がっていたはずだ。オレのせいじゃないと告げれば、ファングだって口を切っていると返される。お互い様だった。 「そもそも、そんなに血まみれの服で近寄らないで。血の匂いで鼻が曲がりそうだ」 2256 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ26「視線」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。ちょいホラー。あの子がほしい 最近、妙な視線を感じる。 確か小学校でのロケを終えたあたりからだ。あの仕事は楽しかった。子どもたちと追いかけっこをして、肝試しをして、一緒にカレーを食べた。そんな楽しい時間の直後からこの憂鬱だ。少し残念な気持ちになってしまう。 例えば仕事の帰り道。例えばレッスンに向かう途中。ロードワーク中にだって視線は感じていた。ヤバいなって思ったのは、最近は家でも視線を感じること。俺がいるところ全部に見ず知らずの視線があるのだ。 それでも俺は呑気に構えていた。というか、家まで視線がついてきたらお手上げだ。どうしようもない。ある種の諦めと、そのへんのやつになら勝てるという慢心があった。むしろこの視線が熱狂的なファンだった時のほうが問題だって思ってた。だって、殴るわけにもいかないし。いや、強盗とかだって殴っちゃダメなんだけど。 4002 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ25「星」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。カイレの星の話。星の見えない夜に この空には星がないと言うのは大嘘だ。屋上に登れば誰も寄せ付けないとでも言うように冬空が鋭利な視線でこちらを睨みつけてくる。その眼差しは確かに光を内包していない。目を凝らしても、足元に広がった文明という光が邪魔をする。 でも、確かに星はあるのだ。光のないスラムの、最下層の最下層。スクラップで作り上げたアジトから見上げた空の、かすかな光を覚えている。あの時あったんだ。今になって消えちまったって道理はないだろう。オレ様は空にはまだ星があると、むずかゆい言葉で言えば信じている。 冷たい空に星は見えない。否、オレ様が見つけていない。それだけだ。 わかってはいたが寒い。オレ様はこのヤニ臭くてワンサイズ小さいジャケットしか羽織っていないから当たり前だ。さっきまで繋がっていた相手のジャケットはどんどん冷えてオレ様をせっつく。とっとと要件を済ましちまおう。 4037 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ23「かぜ」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。風邪の話。恋と病 隼人さんはモテたいってよく言うけど、モテてどうしたいかって聞くと返答はふわふわしてる。別に俺はイジワルがしたいわけじゃないけれど、彼女という存在にイメージが沸かない以上、やっぱり数回に一回かは疑問を返してしまうわけで。 「例えば、彼女にされたいこととかがあるのか?」 俺の質問に隼人さんは赤くなる。隼人さんはわかりやすくて助かる。俺みたいなやつは、言葉にしてもらうか行動で示してもらわないと何かを取りこぼしてしまうから。 「んんー……例えば、お弁当作ってもらったり……あと風邪ひいたらお粥をふーふーしてもらったり……?」 「お粥……彼女とは一緒に暮らしてるのか」 同棲か。そう呟けば大慌ていた隼人さんが即座に否定してくる。隼人さんのビジョンだと、一人暮らしで風邪を引いてしまった自分のもとにスポーツドリンクを持って現れた彼女が冷蔵庫にあった卵でお粥を作ってくれるのがいいらしい。具体的だ。 3203 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ22「器用」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。ダニレナ。消失トリック エディが死んでからとにかく忙しい。欠員がでたことによる忙しさはもちろんあるだろう。ただ、それ以上に、みんなが誰にも見せないように寂しさだとか悲しさだとかを抱えているように思えた。 願望、なのだろうか。おれはエディが死んで悲しかった。エディは仲間だった。だから、仲間だったはずのみんなにも悲しんでほしかったのかもしれない。数日しか時間を共にしていないユーリーにだって、俺は怒りではなく悲しみを抱いていてほしかった。 「あー……つかれた……」 ユーリーはそう言って机に突っ伏す。ばらばらと落ちた書類はレナートが抱える紙束の半分以下だが、それはユーリーが新人だから能力が劣るというわけではない。単純に、レナートの仕事量が異常なのだ。もともといつも仕事しているようなやつだけど、最近は輪をかけてそれが顕著だ。 3379 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ21「あき」(2020年のどっか)ワンドロ本を作るときの書き下ろしです。アキネーターの話。ないしょのキスはバニラ味 あーイライラする。それもこれも、全部あのくだらねえ企画のせいだ。 この前のバラエティ。えっと、『あき……なんとか』とか言うやつの話だ。ターバンを巻いたおっさんの質問に答えていくと、考えてた人間がバレるってやつ。 質問に答えていって事務所の人間を出したり──四季のことを考えていたら本当に四季のことを当てられた──いろんな話をしたけど、そっからユニットの絆みたいになったのがホントに意味わかんねぇ。なにが『らーめん屋とオレ様、どっちがチビのことを知ってるか』、だ。 まず、チビの身長。そんなの『オレ様よりチビ』で十分だ。それなのにこれじゃハズレなんだと。事務所のコウシキプロフィールとか、知らねえし。らーめん屋は知ってたけど、答えはどうでもよすぎてソッコーで忘れた。 1921 1