85_yako_p カプ入り乱れの雑多です。昔の話は解釈違いも記念にあげてます。作品全部に捏造があると思ってください。 ☆quiet follow Yell with Emoji Tap the Emoji to send POIPOI 437
ALL タケ漣 鋭百 カプなし 天峰秀 大河タケル 100本チャレンジ モブ 牙崎漣 花園百々人 想雨 カイレ クロファン C.FIRST 眉見鋭心 天道輝 ミハレナ ダニレナ 既刊 伊瀬谷四季 蒼井享介 蒼井悠介 W 若里春名 華村翔真 Altessimo 神楽麗 都築圭 古論クリス 葛之葉雨彦 レジェンダーズ 北村想楽 百鋭 秀百 薫輝 THE虎牙道 タケ漣ワンドロ web再録 誕生日 くろそら 途中 秀鋭 卒業 ケタザザ 短歌 プロデューサー 円城寺道流 叶納望海 御田真練 超常事変 渡辺みのり 癒残 堅真 ウォリアサ R18 街角探偵 わからん 九十九一希 四季漣 親友 輝薫 書きかけ 黒紅 道漣 DoS幻覚 ドラスタ 桜庭薫 BoH 春隼 サイバネ 山下次郎 寸劇 左右わからん しのかみしの 東雲壮一郎 ハイジョ レナート ミハイル S.E.M じろてる 旬四季 北冬 東雲荘一郎 秋山隼人 悠信 神谷幸広 アスラン そらつくそら 四季隼 140SS 黒野玄武 冬美旬 冬春 ゲーム部 ジュピター 卯月巻緒 四季秋四季 85_yako_pDONEタケルと漣。ギリギリカプではない 85_yako_pDONEタケルと漣。 85_yako_pDONE漣と月 85_yako_pDONE四季と漣 85_yako_pDONEホラー。漣が酷い目にあう。虫っぽいのが出る。(2019/07/01)鏡の向こう側にはね「今日もオレ様が一番乗りだなぁ!」 ばん、と思い切り鳴った扉の音にかき消えることのなかった声は、漣という青年が発したものだった。続いて、呆れたように扉をくぐった青髪の持ち主はタケル、最後に扉を閉めた男性は道流という。 漣は上機嫌だった。本人にそう言えばきっと否定しただろうが、タケルも道流もそれを知っていたから、いちいち確認するだなんてこと、しなかった。また、漣自身、自分自身が上機嫌であることは無自覚だったのかも知れない。 「今回の振り付けは難しいから……集中しねえと」 「はっ! ダセえの! オレ様にかかれば余裕だぜ!」 「はは、漣は頼もしいな」 今日は新曲の振り付けの初合わせだった。漣の上機嫌の理由は、きっとこれだ。新曲は、振り付けの難易度が高かった。彼はそれこそが、自分に相応しいと感じていた。 6514 85_yako_pDONEタケルと漣。グロ。(2018/07/29)愛しの果実タケルの目がおかしくなった。いや、おかしくなったのは目ではなく脳かもしれない。 タケルの目には時折、食べ物が人のパーツに見える。 誰にも言ったことはなかったから、その秘密はタケルだけが知っていた。今日も人の指にしか見えないメンマを食べた。 その人体のパーツがはたして誰のものなのか。それを認識したのは、よくゲームをやる仲間とゲーム合宿の名目で訪れたロッジでの出来事だった。夏の夜だ、隼人がスイカを持ってきてスイカ割りをしようと笑った。 タケルには、スイカはどう見ても牙崎漣の頭部にしか見えなかった。 スイカ割りの名目で割られた漣の頭部は、派手に脳漿を散らして手のひらサイズまで砕かれた。みんな、うまそうにアイツの頭部にかじりついてる。滴る血が腕に伝えばそれを舐めとっている。みんなが楽しそうだった。自分だけが異常なのはわかっていた。 1651 85_yako_pDONE道漣 リクエスト「手料理」(2019/02/12)看病イベント 任せるんじゃなかった。申し訳ないが、そう思った。 小さな袋麺が一つ、ちょうどよく収まる鍋。その中身は何を使ったんだろうか、緑の絵の具と紫の絵の具を絞り出したような、混ぜても混ぜても混ざり合わない分離した色がマーブル色をなしている。ときおり浮かぶあぶくは限界まで膨れてから弾けていくから、その様から粘度があると触りもしないでわかる。 このめまいは熱のせいではあるまい。三十九度に発熱した頭でそんなことを考える。 「おら、とっとと食え」 「……いや、自分は」 「アァ? 誰のために作ってやったと思ってんだよ」 それは自分のためだろう。それが痛いほどにわかるから、困っているのだ。 恋人が風邪を引いた自分を看病してくれる。憧れるシチュエーションだが、自分には無縁のイベントだと思っていた。だって、相手はあの漣だ。 1782 85_yako_pDONEじろてるエイプリルフール(2018/04/02)嘘吐きは恋泥棒の始まり 山下次郎は油断していた。 さらに踏み込んで言えば、うかれていたのだ。 三十路にもなって、うかれていた。 それはひさしぶりになる、同僚であり恋人関係でもある天道輝と一緒の仕事だった。 もちろん二人の関係は周囲に言いふらしているわけではないので、他の人間と仕事をするときと姿勢が変わったわけではなかったはずだが、気が緩んでなかったかと言われると自信がない。 言い訳をさせてもらうなら、ありがたいことにお互いが多くの仕事を抱える身なので、会えるのが本当に久しぶりだった。だから例え仕事でも顔が見れるのは嬉しかった。本当に、本当にひさしぶりに顔を見た気がした。ひさしぶり、だなんて言えばそうでもないぜ、と返されてしまったが。年を取ると時間の経過が遅くなると言ったのはどこのどいつだ。天道と付き合いだしてからというもの、月日が経つのは本当にあっという間だ。 2397 85_yako_pDONE旬四季。最初の文と最後の文が決まってるお題のやつ。(2018年くらいだと思う)雪葬「僕は雪の日に死にたい」 長いキスが終わり、そのままジュンっちと抱き合ったオレの耳に聞こえてきた呟き。それをオレは平然と受け入れたし、その雪の日に彼の横にいるのは自分だと信じて疑わなかった。ぼんやりと、自分もその日に命を終えるのだと確信していた。 雪の日。ばあちゃんちがある青森じゃあ、雪なんて珍しくない。何でもない日に死にたいのだろうか。それとも、都会に雪が積もるような特別な日に死にたいのだろうか。オレにはよくわからない。そもそも、死にたいって感覚がオレにはあやふや。 「ジュンっちは死にたいんすか?」 ともすれば不躾な質問だろう。そんなオレの品の悪さも、ジュンっちは優雅な笑顔で受け入れてくれた。 「まさか」 802 85_yako_pDONE虎牙道とハイジョ(2018/05/09)口角の上げ方について「いせやー?」「「「しきー!」」」 賑やかな声が聞こえる。今は合同レッスンの休憩中、聞こえた声はトレーニングルームの端っこのほう。ふと目線をやれば、そこには楽しそうに写真を撮るHigh×Jokerの姿があった。 どうやら四季さんを中心にああだこうだとスマートフォンの画面に集まっているようだ。何気なく見てたら隼人さんと目があった。 「……何、してるんだ?」 「自撮り!インスタにあげようと思って」 タケル達は撮らないの?と隼人さんが問いかけてくる。俺たちは、と否定する前に円城寺さんが楽しそうに言う。 「THE虎牙道もたまにはそういうの、したほうがいいかもな。ファンサってやつ」 そうっすよ!と四季さんが楽しそうに同意する。さっき、名前を呼ばれていた人。 1461 85_yako_pDONE北冬。リクエスト品(2018/12/07)傘を変えた日 傘を変えた。 今までお世話になっていた、シックな宵闇色の傘はその大きさが気に入っていた。エンジェルちゃんをいれても、なおスペースが余る大きな傘。エンジェルちゃんを濡らすわけにはいかないからね。でもここしばらく、長年の相棒には傘立てでおやすみしてもらっている。 代わりに、折りたたみ傘を買った。今までの傘とは逆に、小ささで選んだ傘。色は、光の加減で紫に見える黒。色はなんでもよかったけど、この色は気に入っている。 まぁ、この傘は御守りみたいなものなのだけれど。 「冬馬、いれて」 「なんだよ、最近傘忘れすぎじゃねぇか?」 冬馬が傘を開いたら、鞄の中の傘を忘れたふりをしてその中に入る。冬馬はいつも呆れた声で俺を咎めるけど、口調は柔らかいし拒まれたことはない。 897 85_yako_pDONE春隼(2018/05/14)魔が差したのは三度だけ 魔が差したのは二回だけ、だった。 一回目は二度目の留年が決まった日の夜。 バイトでも入ってればまだ考えずに済んだのに、運悪くバイトは休み。いや、バイトで気を紛らわしてなんていないで、ちゃんと向き合わなきゃいけない問題なんだけど、空白の時間に脳内を占める考え事は憂鬱すぎた。 母ちゃんになんて言おうとか、また一からクラスメイトとの関係を築かなければならない煩わしさだとか、そもそも俺はいつか卒業できんのか、とか。挙げ句には卒業ってしなきゃならないのかなぁ、だなんて考え出したりしてしまって。いろんなものが渦を巻いて胸の奥にずーんと溜まる感覚にひさびさに盛大な溜め息をつく。 こんな時はドーナツだ、と思ったが留年が決まった日にドーナツを買って帰ってこれるほど俺の神経は図太くなかった。でも買ってくればよかった。この家には俺の気を紛らわしてくれるものは何一つない。 2335 85_yako_pDONEタケ漣(2018/06/30)無自覚紐なしバンジージャンプ触れた唇は柔らかかった。俺の唇がコイツの唇に触れて、それを偶然と言い切るには難しいだけの時間が流れたあと、我に返った俺はそっと唇を離した。そう、我に返ったのだ。 何をしたんだろう。混乱する脳でめいっぱい考える。目の前にはアイツのマヌケ面。そんなに驚いた顔をしないでほしい。こっちだって充分驚いているんだから。 落ち着いて整理しよう。今は夜で、季節は夏で、ここは俺の部屋で、当たり前みたいにコイツがいた。俺たちは男道ラーメンでラーメンを食べたあとだった。帰り道、コイツが家についてくるから、何のつもりか聞いたら明日雨がふるから、と一言だけ返された。天気予報ではそんなこと言ってなかった。そう言いかけて、ふと空を見上げて、星が見えないことに気がついてそんなもんかと納得した。 4281 85_yako_pDONE道漣(2019/09/21)いらない 居場所なんて、いっこあればじゅーぶん。 色は似てない。大きさがちょうどよくて、なんだか懐かしい感じがした。そんでふかふかで、いい匂いがする。 これはオレ様のもんだって決めた。チビはそっちのを使え。そういえば呆れたようにチビが口にする。「好きにしろ」 蝉の声が聞こえる少し前、らーめん屋が引っ張り出してきたブランケットはオレ様が寮に置きっぱなしにしているブランケットに少し似ていた。よく考えたらそれはふかふかだったから、似てるってのは勘違いだったのかもしれない。オレ様のそれはごわごわで、汚くて、野良猫の毛並みみたいだったはずだから。 この時期に眠るのなんて、布一枚あればじゅーぶん。腹を隠してそれでおしまい。らーめん屋の家は寝心地がよかった。フウリンが何のためにあるのかはわからなかったけど、これを聞くとらーめん屋は涼しくなるって言って、チビが同意した。音で涼しくなるわけねえだろ。変なの。 2598 85_yako_pDONE虎牙道(2019/07/23)魔法のお弁当「らーめん屋。オマエ、『タコサンウインナー』って知ってっか?」 「おお、知ってるぞ」 「それ作りやがれ! 『タコサンウインナー』は弁当に入ってるんだろ? 明日事務所で食うから、弁当用意しろ!」 「わかったわかった。しかしお前さん、タコサンウインナーが食べたいなんて可愛いところがあるじゃないか」 「はぁ? なんで『タコサンウインナー』が食いたいとかわいくなるんだよ。意味わかんねえ」 「そうか? そうだな。漣に失礼だったか」 「わかりゃいいんだよ。しかし、らーめん屋に作れるなんてな」 「いや、まぁ手先は器用なほうだしなあ」 「で、結局タコがウインナーになるのか? ウインナーがタコになるのか?」 「……んん?」 「ま、明日になればわかるか。あとは唐揚げが食いてえ。いれろ」 645 85_yako_pDONEタケ漣(2019/02/15)月には花が咲いていたって 名前も知らないそれを、ただ気に入っていた。 それが『青』という色だということも、それが『地球』という星だということも、全部全部後から知った。 名も知らぬ存在をただ見つめていた。伸ばす手もないまま、美しいという感情も知らぬままに。 それが幸せなのか不幸なのかもわからないままに。 昔の夢をよく見ていた。幼い頃からずっと。 ずっと旅をしていたが、そのどの景色とも違った風景は、きっとこうして生まれる前の景色だろう。こんなに風景がくっきりとイメージなんて出来るほど年を重ねていなかった時から、その景色は頭の中にあった。 思い込みだと無視をするにはあまりにもありありと浮かぶ情景。これは、夢想ではなく記憶だろう。一度だって疑ったことはなかった。 2178 85_yako_pDONEドラスタ。翼の出番少ないけどドラスタ。(2019/01/19)ジャムを煮る いつも通りに事務所の扉を開けると、今日は何かが違っていた。 見える景色に大きな変化はない。ただ、人だかりができている。そして、空間いっぱいに甘ったるい蜜の香りが漂っていた。 「あ! 薫っちー!」 扉の開く音に振り向いた四季が僕の名前を呼ぶ。それにつられて何人かがこちらを見た。そこには見知った脳天気な赤毛の男も見える。 そして、振り向いた人間は皆、その手にりんごを持っていた。 ふわり、視界に赤い果実を認めたことで、より一層蜜の匂いが強くなった気がする。 四季が近づいてくる。両手いっぱいにりんごを抱えている。 「はい! これ、薫っちにもあげるっす!」 そう言って差し出された果実を反射で受け取った。手のひらにずしりと重さを感じる暇もなく、二個、三個と続けて渡されそうになるそれを、片手を上げて制す。 5382 85_yako_pDONEワードパレット「カロケリ」 お題は夕焼け、蛍、水四季漣なのか未満なのか本気でわからん。一応四季漣にしとく。(2019/08/12)カロケリ その日はなんとなく帰りたくなくて、漣っちを半ば引き摺る形でフードコートに立てこもった。本当は麗っちもこれたらよかったって言いながら、門限きっかりに帰っていく友人を見送ったのが先程の話。三人でいたかったな。だけど、心のどっか、すみっこ、ほんのちょっぴりだけ二人っきりを喜んでいる自分もいる。 ずーっとおしゃべりしてたかったから小ぶりのバケツみたいな容器に入ったポテトを買ったのに漣っちはそんなのすぐに食べちゃうもんだから、オレはなんどもポテトを買いに店に向かった。ポテト以外にも、色々。 テーブルの上はちょっとしたパーティみたいになって、オレと漣っちのお腹を満たした。それでもオレはどっかがずっと足りなくて、漣っちの目を見ながら言葉を吐き出した。漣っちはそれに適当な相槌を打ちながら、寄せ集めたチープな軽食の群れをずっと食べていた。 2330 85_yako_pDONE東雲さんと漣。(2018/11/15)最近のお気に入り ふわり、と。 徐々に漂ってくる香りの正体は、小麦粉と砂糖と卵と、たっぷりのバターが焼ける匂いだ。だけど、漣はこの香りの正体を知らない。 それでも、だんだんと様々な屋根の下で眠るようになった漣は、最近、特にこの匂いが気に入っていた。慣れ親しんだ、らーめん屋と呼ぶ人の家の、生命の匂いのような朝食の喧噪とはまた違う、華やかで穏やかな匂い。 この匂いが漂うと、漣の眠りは少し浅くなって、ぼやりとする。この甘い匂いにふかふかの布団はぴったりだ。寝返りをうち、布団をぎゅう、と握りしめる。甘い匂いに包まれて、ふわふわと眠りの浅瀬をたゆたう。 「焼けましたよ。さぁ、起きてください」 そう告げる声も、とびきり甘い。甘やかされるのは悪くない。漣はぼんやりとそう思いながら、大仰に目を開く。 411 85_yako_pDONEタケルと隼人とアイスクリーム(2018/11/13)セブンティーンとアイスクリームもう厚手の上着がないと寒い季節だ。帽子、眼鏡、マスク。いかにも変装をしていますといった風貌で俺たちは歩く。枯れ葉をさくさくと踏みしめて、目当てのゲームセンターにたどり着く。 隼人さんがよくやっている音楽ゲームの新作が入ったらしい。俺もひさしぶりにシューティングゲームがしたかった。最近、忙しくてゲームセンターにくるタイミングがなかったから。 隼人さんの目的は音楽ゲームで、俺の目的はシューティングだ。それでもゲームセンターの入口で別れるようなことはせず、隼人さんは俺がシューティングゲームをしてるときに横で楽しそうに話してくれたし、俺は隼人さんにくっついて新作だというゲームの曲を聞いていた。 そうやって、しばらくゲームセンターにいた。2人で対戦もしたけど、やっぱり音楽ゲームやシューティングゲームはどうやったって得意なほうが勝つ。1対1の勝敗の決着はエアホッケーでつけた。俺だってアイツほどではないけど勝負事は好きだし、隼人さんだって熱くなっていた。 2224 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ10「祭」クロファン(2020/03/19)黒猫のコーラ どうして人を殺してはいけないのですか。明確な答えを返せる人間って、多分暴力的な正義で人を死に追いやれる人間だ。そうじゃない人間には逃げ場が必要。その最たるものが法律だろう。裁きがあるから人は人を殺さない。それが一番無難な答え。 じゃあ僕たちが人を殺すのって、裁きを恐れていないからなんだろうか。そんな気もするし、そうじゃない気もするし、どうでもいい気もしてる。ただそういう生き方をしてるだけであって、正直僕は殺そうが殺すまいがどうでもいい。そう、僕にはどうでもいいことが多すぎる。 でも、どうでもよくないこともある。例えば、今の現状。 なあ、僕ら人殺しなんだ。法律違反で道徳違反。人の道を外れて生きる、犬畜生にも劣るってやつ。それなのに。 2711 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ9「きまぐれ」(2019/07/25)ハニー・スイートハニー「きまぐれだ」とアイツは言った。いつものことだと思ったが、いつもと様子が違っていた。 不服そうな顔。少し染まった耳。手に下げた紙袋。ちぐはぐな要素を拾いきれずにいると、その違和感のひとつが差し出される。見慣れないロゴの入った、茶色い紙袋。 戸惑いつつも受け取ると、早く開けてみろと金色の目が促す。律儀に止められたきれいな柄のテープを破ると、箱の底になにかがある。 取り出したそれはガラス瓶だった。ラベルが貼ってない方を見てみると、それはアイツの瞳とおんなじ色をした液体で満たされている。 「これって」 「……ハチミツ」 なんでハチミツを? 脈絡のない贈り物に困惑してしまう。きまぐれにもほどがあると、そう思った時にアイツは「きまぐれだからな」と前置きして、ぶっきらぼうに口を開いた。 1772 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ8「毛布」(2020/04)驚く顔が目に浮かぶ「オマエと一緒に暮らしたい」 そう言った時、偉そうに受け入れてくれた目の色がとてもきれいだと思った。このきらめきが神様の気まぐれだとしても、今、この瞬間だけは二つの宝石が自分のものになったような気がして嬉しかったんだ。 新居は二人で選んだ。アイツがやったことと言えば、オレが次々に持ち込む新居の間取りを見て「どうでもいい」と呟くことだけだったけど。それでも、二人で選んだ家に俺たちは住むんだ。新しいゲームを始めるよりずっとワクワクした。 部屋は和室が一つ、洋室が一つ。それとキッチンがくっついたリビングが一つで風呂とトイレは別。実際に踏み入れた部屋を見て、アイツは畳の部屋を自分の部屋だと決めた。アイツが家に関して意見を言ったのはこれが最初で最後。 4713 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ7「空」(2019/07/12)空想的絵空事「猫が飼いたい」 どんな状況だろうが判断に迷いのないファングでさえ、この気の抜けきった空間に響いた声、その内容が理解できなかった。 時刻は二時で、先程食べたチキンステーキとロブスターが胃の中から眠気を誘っている。場所はと言えば組織の根城であったから、ここに攻めてくる敵の事は――想定しておけとは言われているが――誰も考えてはいないだろう。ファングとクローも例に漏れず、少しだけ警戒はしつつも、それ以上に油断していた。そんななかでの一言だ。ファングが反応しきれてない以上、その声は音と言っても差し支えない。 「猫が飼いたいんだ」 ファングが言葉の意味を理解していないと感じたクローが、同じセリフを口にした。そこでようやくファングは内容を理解するが、言葉を捉えてもそれはファングの喉元に咀嚼できない疑問になって、二の句を次ぐための空気を濁らせる。 2966 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ6「雨」(2020.1.4)未来で一番美しい声を 俺たちの世界は、雨の止まない世界になってしまった。いや、もしかしたら雨はいずれ止むのかもしれない。だけど現状、止む気配がない以上、ここは雨の止まない世界だ。 そんなもんだから、誰も彼もが傘をさす。空は灰色になったけれど、窓から見下ろす街並みはずいぶんとカラフルになった。傘は個人を表す記号になり、店先には色とりどりの花が咲く。人気モデルが手首にぶらさげた傘は品薄になり、俺は雑誌の特集で真っ青な影からレンズを見つめていた。 人々は傘同士がぶつからない距離感を学んで、今日もスイスイと歩道を泳ぐ。俺は事務所の窓から、咲き誇る円を縫う影を探している。 牙崎漣。 アイツはこんな世界に迷い込んでも傘をさそうとしなかった。小雨だろうが豪雨だろうが、お構いなしだ。雨ばかりの世界が始まって数週間のある日、ずぶ濡れで上がりこんできたアイツに文句を言ったらアイツは家にこなくなった。俺は吐いた言葉を飲み込むことができなくて、アイツに触れる機会のひとつを失った。 2965 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ「手」(2019/06/23)愛しのお猫さま 気が合わない俺たちは当然のようにすれ違う。どちらも悪くない。タイミングと気分の問題だ。 服の下に手を滑り込ませ背筋を撫でても、振り払うように体を捻られそのままシーツへと寝転がられてしまった。絡まない視線に、その行動が決して誘っているわけではないと理解しつつ、駄目元で横に寝そべり腕を絡めても閉じた目は開かず、口づけても唇は閉じたまま。意地になって舌を差し込めば、警告のように歯を立てられる。「なぁ、」続きは言えなかった。「ぜってーやだ」 あの手この手で誘ってみても全部が無駄だった。万策尽きた俺の耳にはいつの間にかコイツの寝息が聞こえていた。 別に、喧嘩をしたわけじゃない。ただ単純に、俺がそういう気分でコイツがそういう気分じゃなかっただけだ。そんな日もある。わかっている。 2101 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ4「ねこ」タケルくんが自慰してます。あと虎牙道がメイド服着てます。(2020/03/28)ジェットコースターは止まらない 本格的にヤバい。このまま進むと戻れない。俺は今、最悪の道を辿っていることがわかる。 多分この道の一歩目はアイツとお付き合いを始めたことだ。紆余曲折、と言うには余りにも短い期間でジェットコースターのように駆け抜けたこの恋は、頬に唇を寄せたあたりで一時停止。相変わらずの関係を続けているが、たまに俺の部屋で手が触れ合って視線が絡む。そんな日常的非日常で俺の脳裏を掠める一つの不安。コイツって、この先を知ってるんだろうか。 たぶん、キスは知っている、はず。ただその認識が俺のそれとは違うってのはわかってる。結婚式のキスであんなに動揺する人間、ましてや俺より年上の男は見たことがない。思い出す、頬にキスしたときの悲鳴のような声と真っ赤な顔。もうわかる。知識でしか知らない大人のキスをコイツにしたら、きっとオーバーヒートしてぶっ倒れる。 1904 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ3「かみ」クロファン(2019/06/19)たいしたもんじゃないよ 聖書を読み上げるファングの声が聞こえる。 どうせターゲットは祝詞のようなそれしか聞いていないだろう。そう確信しクローゼットの扉を少し開ければ、柔らかなオレンジ色の光をまとったファングの声が明瞭になる。 ベッドに腰掛けたファングは、位置の関係で表情だけがうまく見えない。本に目を落とすように少し傾いた首筋を、銀色の髪がさらさらと流れている。ぼやけた灯りに、甘い色を与えるように。 一糸まとわぬ……単刀直入に言えば全裸のファングの膝を割るように、今日のターゲットが座り込んでいた。 ファングは淡々と聖書を読み上げる。ターゲットはひたすらにファングの内太ももに顔を擦り付けている。時折、汚いリップ音が響く。聖なる言葉を、ファングを穢すように。 2036 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ2「宝物」クロファン(2019/10/12)僕らが知っていればいい 花言葉ってのは聞いたことがある。紳士的な初老の微笑みとともに差し出された赤の意味はなんだったか。愛だか欲だかだった気がするが、まあ覚えちゃいない。何の問題もない。 そもそも、誰が言い出したのか。神様がこんなもん決めるわけがないから、決めたのはどこぞの人間だ。勝手に名前をつけて、勝手に意味までつけるなんて。なんともまあ、大層なこって。 で、存在する以上、それを有難がるヤツはいる。オレに贈られてくる花束にはきっと全部に気持ちが込められているはずなんだ。オレが知らない以上、それに意味なんてないんだが。 その意味を囁くやつだって、もう何も言えずに足元に転がってる。じわじわと広がる血がカーペットを侵食して、薄紫の花びらを汚していた。 1816 85_yako_pDONEタケ漣ワンドロ1「初」(2019/06/09)その赤を 見つめ合う、だなんて間柄じゃないけれど、例えばふとした拍子にアイツと目があうことがある。そうなってしまうとお互いが「逸したほうが負け」だなんてつまらない考えに捕らわれてしまうことが多くて、例えば鳩が飛び立つ音だとかクラクションの音だとか円城寺さんの静止だとか、そういうきっかけがないと俺たちは、永遠と見つめ合う羽目になってしまう。 昔、だなんて言えるほど時間は経っていないけど、出会ってからずっとそうだった。向かい合って、その目を見ていた。金色の目がきら、と青色に染まっているのを見るのは、確固たる日常だった。そうやって、アイツの瞳を透かして見る青は、鏡で見慣れた青よりもキラキラしていて、きっと俺の姿は光と一緒に取り込まれているんだろうな、だなんて思ったりしていた。 1735 85_yako_pDONE悠介と信玄さんのBL。リクエストのやつ。(2018/10/16)影踏み鬼その腕はぼふ、と枕を叩いた後、枕元のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。 呼応するように、俺も枕元のぬいぐるみに腕を伸ばし、抱き寄せる。 揃いのぬいぐるみだ。ただ、ネクタイの色が違う。同一のものではないんだ。俺たちと一緒で。 悠介の心は確かにざわめいていて、でもその理由と正しい感情を理解できる人間はこの場にはいなかった。たった二人の寝室で、悠介本人も感情の形を理解していなかった。悠介は持て余した感情を枕にぶつけるほかなかったし、俺は俺で考えることも、感じるものもあった。 「せーじさんと、別れるの?」 「まさか」 短いやりとりだった。俺はぼんやりと、始まりを思い出していた。 *** 俺が、いや、俺たちがせーじさんと出会ったのは事務所の顔合わせが初めてだったと思う。 3573 85_yako_pDONE四季と漣。最初と最後が決まってるお題のやつ。(2018頃だと思う)永久の夏、不変の君へ夏が始まる。 そう楽しそうに四季が言う。「夏休み」になるらしい。 漣にとってそれは馴染みのない言葉だった。夏が始まると言う言葉も、ナツヤスミという単語も。 夏というのは、と言うよりも季節というものは、常に傍らに寄り添いうつろうもので、はい、今日から夏ですよ、だとかそう言うものではないだろうと漣は思う。でも、四季は今日からが夏なのだと言う。 いろいろなところに誘われた。海、プール、サマーセール、カラオケ。どれもわざわざ暑い中、行くようなところではないと漣は思った。そう告げると四季は言う。「夏が終わっちゃうっすよ」 夏の終わりが四季にとって明確に存在することも漣を戸惑わせた。何故、この日から夏が始まりますよ、ここで夏は終わりますよ、と言えるのか。そんなものは、じわりと感じる気温や八百屋の軒先に並ぶ果物の品揃えでなんとなく感じるものだろう。 688 85_yako_pDONE神谷と都築さん。(2019/4/20)星を数えて その日、事務所は賑わっていた。原因は俺たちだ。 東雲の作る菓子は華やかで、好きだ。その色とりどりの宝石たちが、応接室のテーブルに並べられていた。 ピスタチオの緑。ラズベリーの紅。チョコレートの茶。レモンの黄。バニラの白。ごまの黒。数えるならば片手では足りなくなってしまう。思いつく限りの色を、東雲は洋菓子に閉じ込めてみせた。 そんな数々のマカロンを前に、都合のついた事務所のみんなが楽しそうに話している。 「んだこれ」 「マカロンって言ってな、洋菓子の一種だ」 「ヨウガシ……? まぁ、食えるもんなら、全部オレ様のモンだなぁ!」 「人の話を聞いてなかったのか? これは一人一個だ」 「ああ? なんでチビに指図されなきゃなんねーんだ」 5957 85_yako_pDONEタケルと漣。カプ未満だが感情がデカい。(2019/03/30)溢れる、 この感情が理解できたら、何かが変わるのだろうか。 *** テレビ画面の右上。攻撃力、防御力、すばやさ。パラメータの横、冒険を共にする少女の真っ赤に染まったハートマーク。 「よっしゃー! 親愛度マックスになった!」 「これでようやく絆の必殺技が使えるな」 そう言って笑う恭二さんと隼人さん。早速モーションを見ようと兜さんがコントローラーを握る。それをぼんやりと見ながら思う。 こうやって、気持ちが目に見えたらいいのに。 「ん? どうしたんじゃ? タケル」 「……ん、ああ。なんでもない」 絆を結んだ少女との必殺技が、テレビ画面の中でキラキラとした星を散らしていた。 こんなふうに、わかりやすく感情が見えればいいのに。 12447 85_yako_pDONE旬四季。ハイジョで遊園地に行く。(2018/11/18)ぼくらのないしょばなし「ぐるぐるするっす……」 こんな時でもないと感じないようなめまいが少しでもマシになるように、と、園内の固いベンチの背もたれに自分の体を固定するように背を預ける。 しばらくそうして天を仰いでいたが、視線を斜め下にやると、頭が膝にくっつくくらいうなだれたジュンっちの、まんまるな頭が目に入る。オレと同じくらいか、それ以上にぐるぐるしてるんだろう。 その奥で、ナツキっちが心配そうにオレ達を見てる。なんで、ナツキっちは平然としてるんだろう。あんなにぐるぐる回るコーヒーカップにオレ達と乗せられてたとは思えない。きっと、ナントカキカンが強いんだ。 そんなことを考えていると、ハヤトっちとハルナっちが歩いてくるのが見える。童話の世界に出てくるようなかわいらしいコーヒーカップを、地獄の乗り物に変えてしまった元凶だ。 4635 85_yako_pDONEカイレ(2018/08/24)言の葉ただ、純粋に綺麗だと思ったんだ。 俺は、ことあるごとにアイツの髪を綺麗だと思う。 それは例えば差し込む朝日を反射してきらめいている時だとか、動くアイツに合わせてたなびく様子だとか、俺の指をすり抜けていく様や手触りだとか、シーツの海に揺蕩う緩やかな曲線だとか、真っ白な背中を流れる音だとか、うなじから枝垂れ桜のように影を落とす様子だとか、そういったものを幸福な気持ちで美しいと感じていた。 常々ではないが、時折思い返したように心にじわりと広がるその好意を口に出したのは初めてだった。ベッドサイドに腰掛けるアイツの背中をさらさらと流れ、薄暗い照明のオレンジを吸収してぼやりと輝いている銀の髪。気がついたらその髪を指で梳いて、伝えると言うよりは呟くように想いを口にしていた。 4307 85_yako_pDONE四季が漣に片思いしてる。(2018/09/20)恋する悪魔『それ』に気がついてからのオレは、とにかく醜い。 やめよう、やめよう、って思ってるのにやめられなくて、ズルズル続けて、夜、布団の中で自己嫌悪と惨めさで死にたくなる。 でも、きっと、明日も明後日も続けちゃうんだ。ああ、気がつかなきゃよかった。 「タケルっち~!」 スマホを片手にタケルっちに近づくと、タケルっちは笑顔を見せてくれる。四季さん、って柔らかくて低い声で呼んでくれる。ソファに詰めて座ってくれる。オレはその隣に座る。最初は話しかけても仏頂面だったタケルっち。目に見える変化が、とっても嬉しくてとっても苦しい。 「見て見て!メガイケなネコっちの写メっすよ~」 そう言ってスマホをタケルっちの方に向ける。位置は、タケルっちから少しだけ離して。そうすると、タケルっちは無防備に顔をこっちに寄せてくるから、オレとタケルっちの距離が近くなる。それが狙い。 1133 85_yako_pDONE漣の誕生日に書いたやつ。(2019/05/14)ポケットにはひとつだけ。 普段は入らない雑貨屋に寄った。無意識だったけれど、もしかしたら近づいてきたアイツの誕生日が関係しているのかもしれない。 店内のめまぐるしさは、慣れない。圧、とでも言うのだろうか。俺の背より高くに詰まれた商品はそれぞれが主張しあっていて、譲らないぞとでも言うように色彩を撒き散らしている。BGMは騒がしくて、なんだか不思議な、正体のわからない匂いがする。 忙しい場所だな、と思う。雑貨屋で働いてたという、年上の後輩を思い出す。この喧噪の中で働いていたということか。純粋に、すごいと思った。 賑やかさの渦の中、ここにアイツが欲しがるものはないのかもしれないと、そう思った矢先にそれを見つけた。 灰色の手触りのよいまんまる。ボタンが二つと三角の皮。口と鼻こそないが、それは猫の形を模したがま口だった。 2887 85_yako_pMOURNINGカイとレッカなんだがなんもわからん。覚えてない。(2020/07/16)カイとレッカの話。 生きることにしがみついていた人生だが、振り返ってみると器用に生き延びたほうだと思う。生きたかった意味は忘れたが、死にたくないと思っていたことは確かだ。 飯が食えるって聞いたから、兵を見つけたときに真っ先に志願して生活を変えた。銃が使えれば生き残る確率が上がるから銃を覚えた。俺は飲み込みが早かったから弾除けや地雷避けで捨て駒にされる回数が減って、俺の代わりに矢面に立たされたみたいなやつらを見送った。 同じような年の連中が死んでいく中で、俺はずいぶん大きくなったほうだと思う。そういえば、チョコレートだって一番多くもらっていた。その日アンドロイドを一番殺したやつがもらえる甘い菓子。欲しい物だって、手に入れてきたんだ。 2814 85_yako_pDONEアスランと道流と虎牙ちゃん。(2020/02/11)虎牙ちゃんの学習 違うんだ。ふたりとも、違うんだ。口にできない心の声が自らの脳を埋めてしまい、アスランの話が半分くらい入ってこない。 話半分、だなんてアスランに失礼だとわかっている。それでも背後に感じる視線に意識が割かれてしまう。ちら、と盗み見た視線の主であるタケルと漣。遠慮がちなそれと不躾なそれは、同じように期待を滲ませている。 「それならば氷魔の吐息を防ぐ加護を………………ミチル?」 「あ、ああ。すまんアスラン。ええと、生地の話だったな」 がた、と背後で音。タケルが漣を咎める小さな声が耳を掠めた。ああ、きっと『生地』の意味が勘違いされている。ふたりとも、生地ってのはサタンに着せるケープの生地なんだ。決してたいやきとかお好み焼きとかの、そういう生地じゃない。 987 85_yako_pDONE道漣。(2019/10/21)夢に置き去り 円城寺道流は上機嫌だった。牙崎漣は不機嫌だった。恋仲と言っても差し支えない二人は、相反する感情の渦中にあった。 更に言うのなら、道流は酔っていた。三次会が終わった時点で道流が電車を利用できる状態ではないと判断した、彼に師匠と呼ばれる人間がその巨体をタクシーに押し込んだ。師匠――プロデューサーは自分がついていかなくても大丈夫かと何度も問いかけて、道流はその心配を笑い飛ばして一人で帰宅した。それは決してアパートの階段を上るだけなら泥酔した自分にもできると判断しての行動ではなく、ただ全身を支配する多幸感に後押しされた根拠のない自信だった。 そんなもんだから、道流は鍵を持っているにも関わらず玄関の扉をガンガンと叩き、家の中で眠りの浅瀬にいた漣を起こして鍵を開けさせた。そうして開いた扉を背に道流は「れ~ん~」と猫なで声を出し、にへら、と笑いながら漣が逃げ出す前に抱きついて、その米袋八つ分の体重を遠慮なく彼に投げ出した。ぐえ、と。漣の口から漏れた悲鳴に返されてのは謝罪ではなく笑い声で、したたかに打ち付けた背中の痛みとその陽気な声に、ただでさえ募っていた漣の苛立ちは最高潮に達した。 2167 85_yako_pDONEみのりさんと神谷。(2018/07/20)花に笑顔紅茶をカップに注ぐ手が綺麗だと思った。それだけが強い印象として残っている。 残念なことに、仕事で一緒になったことはなかった。だから、一緒に仕事をしたことがある人たちと比べたら、俺と幸広の間には少し距離があったかもしれない。それでも事務所で顔をあわせれば挨拶ついでに益体もない話をする程度には関係は良好だったし、そんな距離感が続くと思っていた。みのりさん、と俺を呼ぶ彼の声は好きだった。 *** だから、輝にダーツバーに誘われたとき、そのメンツに幸広がいたのには驚いた。だって、他に呼んだのは俺と次郎だと言うから、てっきりそんなに若い子は呼ばないと思っていた。雨彦あたりが呼ばれるとばかり思っていた。 幸広と話ができる。唐突に与えられた機会は嬉しいものだった。世界中を旅してきたという彼の話はきっと素敵なものだろう、そう思った。夜を待つ間、一度だけ彼が紅茶を注ぐ指先を思い出していた。 2638 85_yako_pDONEモブが漣を見て「きれいだなー」って思う話です。恋愛感情はないです。(2021/06/01)映画なんていらない「映画なんていらない」 僕には映画が必要だ。 僕は世界に必要とされてないけれど、世界には僕の必要なものがある。 *** 世界には不必要なものがある。あってもいいけどなくてもいいみたいな、そんな存在。 僕の人生はきっとそれだ。たまにそういう考えに指先までが支配されて身動きが取れないとき、そういうときに僕は映画館に来る。 ひとつの人生がエンターテイメントとして消費されていく様子を眺めながら、誰もいない映画館で細々と息を吐く。こうやって消費した人生は作り物に過ぎないけれど、その事実に僕は安堵する。必要とされない人生と娯楽として消費される人生、このふたつはどちらがマシだというんだろう。 きっとこの映画館も世界にとって不必要なものだ。だって僕以外の客はいないし、僕だってここがなければ他所に行く。それでもこの寂れた映画館に僕は通う。制服を着て、学校に行くだなんて馬鹿げた嘘をついて。 11371 85_yako_pDONEそらつくかつくそらかわからん。わりと語感重視で書いたので、口調とかは見逃してほしい。(2019/04/18)ワインとマナー 北村想楽と九十九一希は、二人きりの時だけ酒を飲む。 ふわり、それは口にせずに決まった取り決めだった。 北村想楽、清澄九郎、九十九一希。彼らは北村想楽が成人した日にどこにでもある居酒屋で酒を飲んだ。個室は狭く、バイトであろう店員は彼らの顔を見て、あっ、と言ったけれど、騒ぎになることはなかった。 飲酒。全く変わらない北村想楽、少し赤くなった九十九一希、そして、嗚咽を漏らす清澄九郎。賑わう店内で、その個室だけは空気が薄くなったようだった。 緑茶サワーを二杯飲んだ清澄九郎は、残り二人が飲んでいる酒が緑茶サワーではないことを悲しみ、さめざめと泣いた。ごめんねー、とそれをなだめ、あやすように緑茶サワーを注文しようとした北村想楽の手を、思いの外強い力で清澄九郎が掴んだ。そして、泥のような声で己の鍛錬が足りないから貴方にお茶の魅力が伝わらないのだと泣き、それ故に気を使わせたことを泣き、やがて世界の酒をすべて緑茶サワーにすると誓い、泣いた。その決意の涙を九十九一希はぼんやりと眺め、その真摯な涙を北村想楽は拭ってやっていた。 2032 85_yako_pDONEカイレ。流血してます。(2019/5/25)鎮痛剤 これが物語ならば、きっとここに満ちる匂いは血と硝煙とオイルの匂いとでも表現されるのだろうか。ただ、そんなことを考える余裕はカイとレッカにはなかったし、仮に二人がそんなことを考えたとしても、当然のように戦場に沈んだ五感では、それは取り立てて形容することのない「日常」としか言えないだろう。 油断はできないが、焦燥もなかった。いつも通りにうまくやれば、何事もなく今日という日が終わると二人は確信していた。その証拠に、訓練どおりの精度でカイの銃は次々とアンドロイドの回線を撃ち抜いていったし、その銃の名手に近付こうとするアンドロイドは全てがレッカに阻まれ、数秒後には脳天を撃ち抜かれるか、首を蹴り飛ばされるかの末路を辿った。 3158 85_yako_pDONE隼人に片思いする四季の失恋話。ちょっと春隼匂わせ。(2018/04/21)5番目の季節春。出会いは運命だった。16年間生きてきて、運命以外の言葉が見当たらなかった。近い言葉は、奇跡とか多分そういうの。 退屈ではないけれど少しだけ物足りない日常にほしかった何か。その何かがぴったりと形を得て目の前にいた。多分、中学でつるんでたやつらが見たら「必死すぎてダセぇ」とか言いそうなまっすぐな瞳と声と演奏。彼のそのパフォーマンス全てに、普段なら笑っちゃうような「青春」って言葉にまで、一瞬で焦がれてしまった。味わったことのないような熱が身体の中をぐるぐると駆け巡って、今すぐステージに駆けだして彼の手を取って話がしたかった。もどかしくてどうしようもないような気持ちは、ずっと生きてきて初めての感覚だった。全部、全部がキラキラに見えて、ハヤト、って名乗った名前だけをようやく見つけた宝物みたいに何度も口に出して確認した。 8841 85_yako_pDONE虎牙道とカレー(2018/09/12)日本印度化計画タケルはメモを片手に歩いていた。その横で、メモを覗き込むようにして漣も歩く。彼らの距離の近さは今更だ。兄弟のように並んで2人は歩く。 「にんじん、じゃがいも、たまねぎ、牛肉……小間切れ」 メモを覗き込んでくる漣に聞かせるように、タケルがその内容を読み上げる。 その内容について2人はしばらく考えたあと、期待の滲む声で確認しあう。 「これは……」 「カレーだろ。カレー」 「だよな。カレーだ」 今日は道流の家で夕飯だ。2人はその夕飯の買い出しだった。 「にんじん、じゃがいも、たまねぎ……よし」 野菜売り場でメモに書かれた野菜をカゴに入れ、肉売り場へ。 「……チキンカレーもうまそうだな」 「牛肉って書いてあるだろ」 「でも、小間切れって食いごたえなくねえか?」 906 85_yako_pDONEタケルと漣とケーキの話。(2018/07/18)生クリームと苺の乗った甘いの。その奇妙な習慣が始まった日の空は覚えていないけれど、そのきっかけになったであろう出来事をタケルは鮮明に覚えていた。 もっとも、それはタケルがそう思い込んでいるだけなのかもしれないが、おそらくはこれが原因であろうと大河タケルは自惚れている。 そう自惚れてしまうほど、二人の間には時間が流れていた。牙崎漣は21才になっていたし、大河タケルは次の誕生日で二十歳になる。 半年ほど前に始まった奇妙は非日常は、日常へと形を変えて未だに彼らの間に横たわっていた。 *** きっかけは秋だった。ちょうど、牙崎漣が成人した年だった。 THE虎牙道のメンバーはCafe Paradeにいた。次の仕事が一緒の巻緒と咲にミーティングでも、と誘われたのだ。 10493 678910